序 文
志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli,STEC) のヒトへの感染経路として 食肉製品の喫食が最も多く,欧米では牛肉および その加工品が原因と思われる STEC,特に O157 による食中毒が多発している
1).しかし, 牛肉以外 の食品からヒトへの感染もみられることから,経 路についてはなお不明な点も多い
1).そこでヒト への STEC 感染を明らかにするために,いろいろ な動物からの STEC 分離株について血清型と産
生する志賀毒素型および付着因子を調べ,その成 績をもとに STEC のヒトへの移行を考察した.
材料と方法
供試した STEC は当所で分離した株および血 清型別のために他の機関から依頼のあった株を用 いた.供試株の由来と株数はヒト由来 93 株,ウシ 由来 86 株,ヒツジ由来 9 株,シカ由来 8 株,ブタ 由来 25 株であり,材料はヒト,ヒツジ,シカは糞 便,ウシ,ブタについては糞便,内臓,食肉など である.すべての供試株は Vero 細胞に対する細 胞毒を産生していることを確認した.
血清型別:大腸菌型別用抗血清 O1〜173, H1〜
ヒトおよび動物由来の志賀毒素産生性大腸菌の血清型と毒素型
1)大阪府立公衆衛生研究所,2)大阪府立大学,3)帯広畜産大学,4)実践女子大学
塚本 定三
1)山崎 伸二
2)牧野 壮一
3)朝倉 宏
3)竹田 美文
4)(平成 13 年 10 月 11 日受付)
(平成 13 年 11 月 9 日受理)
ヒトへの STEC 感染を明らかにするために, ヒトおよびいろいろな動物由来 STEC について血清型,
産生する志賀毒素型および付着因子を調べた.ヒト由来で最も多い血清型は O157:H7 で,続いて O 26:H11 であり,その他,O91:H21,O103:H2,O111:NM,O121:H19 などであった.また,
eae
遺伝 子は 93 株のうち 79 株が持っており,O157:H7 についてはすべてeae
遺伝子陽性であった.ウシから分 離される STEC も 157:H7,O26:H11 が多く,その他ヒトから検出されたものと同じ血清型も分離さ れ,eae遺伝子は 87 株のうち 44 株持っていた.ヒトおよびウシ由来 O157:H7(NM を含む)はstx
1,stx
2,
stx2c, stx
1+stx2,stx1+stx2c, stx2+stx
2c の 6 種類の志賀毒素型遺伝子の一つを持っており,それらの検出頻度はヒトとウシの由来株で類似していた.ヒツジ由来株も一部でヒト由来株と同じ血清型がみ られ,それらは
eae
遺伝子を持っていた.シカ由来株については 8 株のうち 7 株がヒトからはあまり検出 されないstx
2d 遺伝子を持つもので,eae
遺伝子はすべての株で検出されなかった.ブタ由来株について は 25 株のうち 15 株はヒトからは検出されない O139:H1 で,その志賀毒素型はstx2e であった.このこ
とから,ヒトへの STEC の感染源はウシ,ヒツジであり,シカ,ブタからヒトへの STEC の移行は可能 性が少ないと思われた.〔感染症誌 76:167〜173,2002〕
要 旨
別刷請求先:(〒537―0025)大阪市東成区中道一丁目3―69
大阪府立公衆衛生研究所 塚本 定三
Key words: STEC, serotype, Shiga toxin type
Table 1 Primers used for typing stx genes and for eae gene of Shiga toxin-producing Escherichia coli
Reference Size of amplified
product Sequence (5 to 3 )
Primer Gene specificity pair
Yamasaki et al. (1996)
5)522 bp GCA GTT CGT GGC AAG AGC G
VT1-u stx 1
GCG TCG CCA GCG CAC TTG VT1-d
Yamasaki et al. (1996)
5)806 bp AAT TTA TAT GTG GCA GGG TTC
VT2-u stx 2
CTT CAC TGT AAA TGT GTC ATC VT2-d
Tyler et al. (1991)
3)285 bp AAG AAG ATG TTT ATG GCG GT
VT2-c stx 2
CAC GAA TCA GGT TAT GCC TC VT2-d
stx 2c (vha, vhb)
Tyler et al. (1991)
3)385 bp CAT TCA GAG TAA AAG TGG CC
VT2v-1 stx 2c (vha, vhb)
GGG TGC CTC CCG GTG AGT TC VT2v-2
stx 2d
This study 298 bp
TGC TTT TCT GAA TCG CAG GG Stx2d-1
stx 2d
TGA ACC TGA CGC ACA GGT AT Stx2d-2
Yamasaki et al. (1996)
5)686 bp AAG CCT TAC GGT TCA GGC AA
VT2vp1-u stx 2e
CAG TTA AAC TTC ACC TGG GC VT2vp1-d
Gannon et al. (1993)
4)924 bp CCC GGC ACA AGC ATA AGC TAA
eae AE11
ATG ACT CAT GCC AGC CGC TCA AE12
Table 2 Stx genotyping of Shiga toxin-producing Escherichia coli isolated from human
Unknown stx 2
stx 1 stx 1
stx 1 stx 2d stx 2c
stx 2 stx 1
STEC
stx 2c stx 2d
stx 2c stx 2
Serotype
1 O7 : H6
8
(8)
O26 : H11
1 O43 : H2
1 1
O91 : H21 1
(1)
O103 : H2
1 O110 : H16
2 (2)
O111 : NM 1
(1)
O111 : H8 1
(1)
O119 : H25
1
(1)
O121 : H19 2 O156 : H7
5
(5)
35 (35)
6
(6)
8
(8)
3
(3)
O157 : H7
2
(2)
1 (1)
2
(2)
O157 : NM
1 O159 : H9
1 O159 : H12
1
(1)
O165 : H25
1 (1)
O165 : NM 1
(1)
ONT : H2
1 ONT : H8
1 ONT : H14
1 ONT : H18
1 ONT : H19
1 ONT : NM
( ) : No. of strains possessed eae gene
Table 3 Stx genotyping of Shiga toxin-producing Escherichia coli isolated from cattle
Unknown stx 1, 2
stx 2 stx 2
stx 1 stx 1
stx 1 stx 2d stx 2c
stx 2 stx 1
STEC
stx 2c stx 2d
stx 2c stx 2d
stx 2c stx 2
Serotype
1 O22 : H8
1 O22 : H16
1 1
O22 : NM 6
(6)
O26 : H11 1
(1)
O26 : NM
1 O28 : H21
2 O82 : H8
5 O88 : HNT
1 O91 : H10
1 O96 : H19
1 O98 : H5
1 (1)
O98 : NM 2
(2)
O103 : H2
1 O104 : H7
1
(1)
O111 : NM
1 O117 : H27
2
(2)
O118 : H16
1 O130 : H11
1 O146 : H19
1 O154 : H7
2
(2)
5
(5)
11 (11)
5
(5)
2
(2)
3
(3)
O157 : H7 1 O159 : H12
1 1
1
(1)
O172 : NM 1 ONT : H2
1 1
ONT : H8
4 1
ONT : H16
2 ONT : H19
1 ONT : H21
1 ONT : H34
1 1
1 3
ONT : HNT
1 1
(1)
2
(1)
ONT : NM
( ) : No. of strains possessed eae gene
56 を用いて常法に従って血清型別を行った
2). 志賀毒素型:志賀毒素型の検出は stx1,stx2,
stx2c,stx2d, stx2e のおのおのの遺伝子について
PCR 法を用いて行った.さらに O157 で stx2c 遺 伝子をもつ株については Tyler ら
3)の報告に従い
stx2vha および stx2vhb に分類した.用いたプラ
イマーは Table 1 に示したとおりである.
供試菌を 100℃,5 分加熱後,常法に従い PCR 用の試薬およびプライマーを加え,denaturation として 94℃ 1 分,annealing として 55℃ 1 分,ex- tension として 72℃ 1 分で 30 サイクル行った.増 幅されたもののサイズの確認は 1.5% アガロース による電気泳動で行った.
付着因子:eae 遺伝子の有無を PCR 法で調 べ た.プライマーについては Table 1 に示したよう に Gannon ら
4)の報告したもののうちの AE11, 12 を用いて行った.
成 績
ヒトから分離された STEC 93 株の血清型と志 賀毒素型,付着因子を Table 2 に示した.最も頻繁 に検出される血清型は O157:H7(NM を含む)62 株で,続いて O26:H11 の 8 株である.その他,
O91:H21,O103:H2,O111:NM,O121:H19 などがある.志賀毒素型遺伝子については stx1,
stx2, stx2c, stx1+stx2, stx2+stx2c がよくみられ,
stx2d は 2 株のみ,stx2e は全くなかった.血清型
Table 4 Stx genotyping of Shiga toxin-producing Escherichia coli O157
stx 2 stx 1
stx 1 stx 2c (vha)
stx 2 stx 1
Origin
stx 2c(vha)
stx 2c(vha)
stx 2
5 2
36 8
8 3
Human
< 8.1 > < 3.2 >
< 58.1 >
< 12.9 >
< 12.9 > < 4.8 >
< % >
2 5
11 5
2 3
Cattle
< 7.1 >
< 17.9 >
< 39.3 >
< 17.9 > < 7.1 >
< 10.7 >
< % >
Table 5 Stx genotyping of Shiga toxin-producing Escherichia coli isolated from sheep, deer and swine
Unknown stx 2c
stx 1 stx 1
stx 2e stx 2d
stx 2c stx 2
stx 1 STEC
Origin
stx 2d stx 2d
stx 2 Serotype
1 O2 : HNT
Sheep
1 O152 : H8
1 O153 : H25
1
(1)
O157 : H7
1
(1)
O165 : NM 1 ONT : H16
1 1
ONT : NM
1
(1)
ORough : H7
1 O8 : H7
Deer
1 O93 : NM
3 O96 : NM
1 O110 : H45
1 ONT : H25
1 ONT : H45
1 O121 : H10
Swine
15 O139 : H1
1 O142 : NM
1 ONT : H9
1 ONT : H21
1 1
ONT : HNT
4 ONT : NM
( ) : No. of strains possessed eae gene
と志賀毒素型の関係では最も検出される O157:
H7(NM を含む)は stx1, stx2, stx2c,stx1+stx2,
stx1+stx2c,stx2+stx2c の志賀毒素型遺伝子を 持っていた.O26:H11 はすべて stx1 遺伝子のみ であった.また, eae 遺伝子は 79 株が持っており,
そのうちの O157:H7(NM を含む)および O26:
H11 についてはすべて eae 遺伝子陽性であった.
ウシから分離される STEC 87 株 を Table 3 に 示した.血清型についてはかなり多岐にわたって いたが,ヒト由来株のそれと同様な検出傾向がみ
られ,O157:H7 は 28 株,O26:H11 (NM を含む)
は 7 株であり,その他ヒト由来と同じ血清型の O 103:H2,O111:NM もみられた.志賀毒素型遺伝 子についても stx1, stx2, stx2c,stx1+stx2, stx1+
stx2c が多く,その他 stx2d も 9 株みられたが, stx 2e 産生株は全くなかった.eae 遺伝子は 44 株が 持っていた.
O157:H7(NM を含む)についてヒトとウシの
由来株の志賀毒素型遺伝子を比較したのが Table
4 である.ヒト由来 62 株は stx1, stx2, stx2c,stx
1+stx2, stx1+stx2c, stx2+stx2c の 6 種類の志賀 毒素型遺伝子の一つを持っており,最も多いのは stx1+stx2 36 株,次に stx2 8 株,stx2c(vha)8 株と続き,stx2+stx2c(vha)5 株,stx1 3 株,stx 1+stx2(cvha)2 株であった.一方,ウシ由来の 28 株 も stx1+stx2 11 株,stx2c(vha)5 株,stx 1+stx2c(vha)5 株,stx 1 3 株,stx2 2 株,stx 2+stx2c(vha)2 株であり,ヒト由来株と全く同 じ 6 種類の志賀毒素型遺伝子で,その割合もほぼ 同様の傾向がみられた.
ヒツジ,シカおよびブタ由来株については Ta- ble 5 に示した.ヒツジ由来の 9 株のうち,ヒト由 来株でみられた血清型と同じ O157:H7, O165:
NM がおのおの 1 株づつあり,それらは eae 遺伝 子を持っていた.シカ由来株については 8 株のう ち 7 株がヒトからはあまり検出されない stx2d 遺 伝子を持つもので,eae 遺伝子はすべての株で陰 性であった.一方,ブタ由来株については 25 株の うち 15 株は O139:H1 で毒素型 は stx2e で あ っ た.しかし O139:H1 以外の血清型についても 10 株のうち 7 株は stx2e であった.また,ブタ由来株 のすべては eae 遺伝子を持っていなかった.
考 察
STEC のヒトへの感染経路として動物を考える に,ウシが感染源になるとする報告が多くみられ る
6)7).厚生労働省の食中毒関連情報『食品等から O157 が検出された事例』 によると,わが国でヒト 以外から検出された STEC O157 の 7 割はウシに 関係がある検体からの分離である.しかし,ウシ 以外の動物からも STEC を分離したとする論文 もみられ
8)〜12),それらからヒトへの感染経路も当 然考えられる.そこでヒトといろいろな動物から の由来株について血清型,志賀毒素型および付着 因子を調べた.
ヒトから分離された STEC の最も頻繁に検出 される血 清 型 は O157:H7, 続 い て O26:H11 で あり,その他,O91:H21,O103:H2,O111:NM,
O121:H19 がある.ウシから分離される STEC もヒト由来株のそれと同様,O26:H11,O103:H 2,O111:NM,O157:H7 などの血清型がみられ,
それらの多くは eae 遺伝子を持っていた.しかも
最も検出頻度の高い O157 についてヒトとウシの 由来株の志賀毒素型を調べると,それらは共に stx 1, stx2, stx2c,stx1+stx2, stx1+stx2c,stx2+stx 2c の 6 種類の志賀毒素型に分類され,かつ,その 割合もほぼ同様な傾向がみられた.そのため,
STEC のウシからヒトへの移行は間違いなく,ヒ トは STEC に汚染された牛肉あるいはそれから 2 次汚染された食品を介して感染するものである.
ヒツジ由来株については検討した株が少ない が,やはりヒト由来株と同じ血清型が分離され,
それらは eae 遺伝子を持っていたことからヒツジ もウシと同じようにヒトへの STEC の感染源と なると想像できる.しかし,オーストラリアにお いてはヒツジから分離した STEC の多くが stx2d 遺伝子をもっているとの報告もあり
13),地域によ り STEC の志賀毒素型に差があるのかもしれな い.
一方,シカ由来株はヒトからはあまり検出され
ない stx2d 遺伝子を持つものがほとんどで,ヒト
由来株に多い血清型も見られず,かつ, eae 遺伝子 を持っていないことからヒトへの感染は少ないと 考えられる.シカから stx1, stx2, stx1+stx2(stx 2 については stx2, stx2c, stx2d, stx2e の分類はな されていない)の志賀毒素型を検出したとする論 文もあるが
11),われわれの成績では stx1 遺伝子 を持っているものはなかった.なお,シカ肉の刺 身の喫食により O157 に感染した例も報告されて いるが
14),極めてまれな事例であると思われる.
また,ブタ由来株については血清型 O139:H1,志
賀毒素型 stx2e が多かったが,これはすべて子豚
の浮腫病から分離した株であり,浮腫病からはこ のような株が多いことはよく知られている
15).し かし,浮腫病あるいは O139:H1 以外の血清型で
も stx2e 遺伝子を持っているものが多くみられ
た. stx2e 保有株は eae 遺伝子を持っておらず,ヒ
トからはほとんど分離されないため,ブタからヒ トへの感染はあまりないものと考えられる.
謝辞:本研究を実施するにあたり貴重な STEC 分離株 を分与していただきました大阪市環境保健局食肉衛生検
査所 前原智史様,木太俊雅様に深謝します.また,大阪
府立公衆衛生研究所 柴田忠良博士,神吉政史研究員の御
協力に感謝します.
文 献
1)伊藤 武,甲斐明美:腸管出血性大腸菌 O157 感 染症と食品.食衛誌 1997;38:275―85.
2)Ewing WH: Edwards and Ewing s Identifica- tion of
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Detection and characterization of the
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15)中澤宗生,末吉益雄:ブタの浮腫病.臨床と微生 物 1996;23:843―9.
The Serotype and Shiga Toxin Type of Shiga Toxin-Producing Escherichia Coli from Humans and Various Animals
Teizo TSUKAMOTO
1), Shinji YAMASAKI
2), Sou-ichi MAKINO
3), Hiroshi ASAKURA
3)& Yoshifumi TAKEDA
4)1)Osaka Prefectural Institute of Public Health
2)Osaka Prefecture University
3)Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
4)Jissen Women s University