ふるさと納税制度の意義と実態の乖離について
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU15604 尾内 速斗
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1. はじめに1ふるさと納税制度は、希望する自治体(都道府県・市区町 村)へ寄附をすると、寄附金控除の対象となり、寄附額の 2,000 円を超える部分が所得税・個人住民税から全額(上限 あり)が控除される制度である。さらに、自治体から寄附へ の返礼品と称し、地元特産品などが提供されることが注目を 集めている。
制度導入の発端は、「自分を育んでくれた『ふるさと』
に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても 良いのではないか」という問題提起からである。しかし、税 制や寄附金税制など多くの観点から制度上の問題が指摘され ているだけでなく、寄附の返礼品を目当てとする寄附行動 や、寄附金を獲得のための自治体間の返礼品競争など、制度 意義と実態との乖離が懸念されている。
このため、本稿では制度の実態を分析することで制度意義 が達成されているか実証面及び理論面から明らかにする。こ の制度において最新データを用いた実証分析、特に寄附を集 める要因と想定できる返礼品の返礼率などを扱った検証は過 去に行われていないことから、全国自治体のふるさと納税寄 附額、控除額、そして全国自治体アンケートを基に返礼品に 関する要素に加え、寄附金を多く集める自治体と、控除され る自治体と寄付者の寄附行動をパネルデータを用いた固定効 果モデルで分析する。
2. 制度概要 2.1 制度の仕組み
この制度は、2008年
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月30
日成立の「地方税法等の一部 を改正する法律」により導入された、個人住民税の寄附金税制 の拡充のことを指す。寄附金税制の仕組みを活用し、自らの納 める個人住民税の一部について、住所地自治体から他の自治 体へ移す効果を持つ制度であり、都道府県・市区町村に対して 寄附をするとそのうち2
千円を超える部分について、所得税 と併せて全額が控除される。つまり、この制度は寄附をした結 果、地方税である個人住民税と、国税である所得税の双方から 控除される仕組みとなっている(図1)
。2.2 ふるさと納税制度の意義
総務省は、ふるさと納税制度の意義について以下の
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点を 挙げている。⑴ 納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ 方を考えるきっかとなる制度であること。それは、税に対する意識が高 まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会となる。
⑵ 生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地
1本稿は論文の要約であるため、参考文献等は論文を参照されたい。
域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地 方の環境を育む支援になる。
⑶ 自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、
自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域の あり方をあらためて考えるきっかけへとつながる。
この制度の基となった「ふるさと納税研究会報告書」(以下
「研究会報告書」)では、納税の対象となる「ふるさと」につ いては、特定の自治体を定めていない。
しかし、その一方で、「自分が生まれ育った地域や教育を受 けた地域、両親の出身地などで幼少期の自然体験の舞台とな った地域」という、過去に関わりのあった地域のほか、「両親 が現に居住している地域、週末など一定期間滞在していると いういわゆる二地域居住の地域、ボランティア活動などを通 じて度々訪れるようになった地域」といった現在関わりのあ る地域、そして「将来、自分や子どものふるさとにしたいと考 えている地域。」という3つの視点から「ふるさと」の定義を 明示しており、その地域に一定の制約あると解釈できる。
このことを踏まえ制度の意義について整理すると、寄附者 は「(一定の制約上の)『ふるさと』としてお世話になった地 域、応援したい地域となる自治体を選び、寄附を行う」こ と、自治体側は「(一定の制約上の)『ふるさと』として国民 に選んでもらえるよう取組をアピールし、選ばれるに相応し い、地域のあり方を考える」ということが制度の意義である と解釈することができる。
2.3 問題意識について
それでは、実際に制度の意義を達成できていると言えるの だろうか。制度の実態に目を向けると、寄附者の選択は、
「ふるさと」への応援という部分よりも、寄附に対する返礼 品ばかりが注目され、「ふるさと」である自治体へ寄付する のではなく、欲しい返礼品のために買い物感覚で寄附をする ようである。
また自治体も、「地域のあり方」を再考するのではなく、
寄附金獲得のため返礼品の内容ばかりに着目し、豪華な返礼 品という形での自治体間競争の側面が指摘されている。
これらのことを踏まえ、本稿では、ふるさと納税制度の意義 と実態の乖離を問題意識に掲げ、制度の実態を検証してい く。
3. 制度上の問題点
この制度は、寄附金税制の名を借りた自治体間の税の移転 システムといえる。こうした特殊な性質により生じる制度上 の問題点を、問題意識の検証に先立ち示す。
3.1 税の移転についての問題点
(1)租税の定義・性質上の問題
まず、この制度は「行政サービスの提供のため国民の財産を 強制的に国や地方公共団体に移す手段」という租税の権力性 図1 控除のイメージ(出典:総務省)
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に反し個人の意思の尊重や自治体を選択できる任意性を持つ。次に、「特定のサービスに対し直接的な対価関係を持たない。」 という租税の対価性に反し見返り(返礼品)が目的となってい る。以上のことから制度は租税の定義に反する。
(2)住民税の性質上の問題
個人住民税は、地方公共団体から受ける行政サービスに対 して支払われる対価であるという受益者負担の性質があり、
その負担は地域の住民が等しく行うものとされる。しかし、こ の制度は、行政サービスの提供を受けていない自治体へ寄附 することで、住所地自治体での住民税の相当部分を免れるこ とになり、結果として住所地自治体は減収を余儀なくされる 仕組みとなっている。また、寄附者も住所地自治体に納める住 民税を減少させたにもかかわらず、住所地自治体が提供する 行政サービスを今までどおり享受し続けるフリーライダー問 題も存在する。
3.2 寄附金税制としての問題点
寄附は、自発的な意志に基づき実施される経済的利益の「無 償の供与」であり、一定の自己負担が伴うものとされているが、
この制度における返礼品を目的とした寄附は本来の寄附の性 質から反する。また、税額控除が大きいことにより、寄附への 自己負担が少なく「経済的利益の無償の供与」という「寄付」
の性格は希薄なものになっていること、次にふるさと納税制 度に比べ控除幅が小さい民間福祉団体などへの寄附を減少さ せ、寄附の資源配分機能を歪める可能性があることなどが指 摘されている。
3.3 その他の問題点-特産品市場の歪みと非効率性-
返礼として使われる特産品の市場は寄附金獲得競争の効果 として、特産品が過剰に生産・消費され、死荷重が生み出され る可能性もある。また、返礼品に選定された生産者・企業だけ が利益を得ることができ、選定されなかった生産者・企業との 間との格差が生じることで、自治体内の産業構造に歪みが発 生する可能性も指摘できる
以上のことから、この制度は、税制として「税」を分割する 方式を採用できず、寄附金税制を応用した制度設計とした結 果、税制と寄付金税制双方の問題を抱え込む形となっている ことが分かった。また市場の効率性を歪める点も含め、制度上 多くの問題を持った制度であるといえる。
4. 実証分析 4.1 分析の説明
前述のとおり、ふるさと納税制度が制度本来の意義から逸 脱し、寄附者、自治体ともに返礼品につられ行動することを問 題意識とした。このことを検証するため、ふるさと納税制度に よる「寄附を集める自治体の検証」及び、「個人住民税を控除 する自治体と寄附者行動の検証」の
2
点について、全国自治体 の寄附金額、個人住民税控除額、そして全国自治体アンケート から集計した返礼品に関するパネルデータ(2013・2014
年度)を用いて実証分析を行う。
4.2 実証分析1「寄附を集める自治体の検証」
始めにどのような自治体が寄附を集めているか、被説明変 数にふるさと納税寄附額の対数値、寄附件数の対数値をとり、
それぞれ次の
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つのモデルから分析を行った。また、分析に先 立ち、先述の問題意識に照らした仮説を設定する。仮説1:返礼品内容の充実した自治体が寄附を集める。
仮説2:財政力等、「ふるさと」の窮状を応援するような寄 附はみられない。
なお、寄附額と比較して寄附件数の方が、小口の寄附がメイ ンのふるさと納税の影響をより反映することから、本稿では 寄附金額モデルを掲載する。
4.2.1 寄附件数の対数値モデル
(1)寄附件数モデル1
返礼品に関する変数、寄附へのPRや手続の簡便性を示す 変数が寄附額に与える影響を分析した。また、寄附者が寄附金 の使途を選択についての変数も含めた。
(2)寄附件数モデル2
上記モデルに自治体の状況を示す変数を追加し、財政状況 等から、「ふるさと」が困窮するほど応援としての寄附がみら れるかどうか分析した。
(3)寄附件数モデル3
上記モデルに返礼品の返礼率を寄附金額帯別、返礼品の種 別で細分化し、寄附を集める返礼品の設定にはどういう傾向 があるのかを分析した。
【返礼率について】
返礼率は、全国自治体アンケート調査を基に返礼品の市場相当額を寄附 金額で除して算出。そこから、寄附金額帯を4種類(1万円未満、1万 円、1万円超~5万円、5万円超)の価格帯で区分し、さらに返礼品を4 種類(物品、現地利用、PR品、おためし)に区分したものを組み合わ せ16種類の変数を作成した。
【返礼品の種別】
①物品型 … 一般的な特産品
②現地利用型… 現地へ行かないと利用できない返礼品
(例:施設利用券・温泉入湯券など)
③PR型 … 自治体作成のノベルティーグッズを想定
(例:写真集、ゆるキャラグッズなど)
④おためし型… 返礼率が100%を超えるような返礼品 (例:寄附3000円に特産品3000円分を返礼)
○推計結果及び考察
推計モデル1~3の推計結果を、表
1
に示すとおりである。モデル1については、返礼品に関する変数、寄附の簡便性等 を示す変数が
1%水準で有意な結果となった。返礼品を用意す
ると、寄附件数を80%増加させるなど返礼品の有無が寄附額
に大きな影響をもたらすことが示された。また、ポータルサイ トへの掲載、クレジットカード決済も寄附を集めるプロセス においてPR活動や寄附手続きの簡便化は重要な取り組みで あることが示された。モデル2については、財政力指数を始めとする、自治体の状 況を示す変数を追加したが、これらの変数については、ほとん どの変数は有意な結果ではなかったものの、財政力指数だけ は、10%水準で有意な結果となった。なお、このことについて
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※返礼率の変数は1%有意水準の主要な変数のみ掲載。
従属変数:返礼品ダミー
変数名 係数 標準誤差 dy/dx 標準誤差
財政力指数 -0.590 0.163 *** -0.233 0.065 ***
社会増加率 -0.072 0.053 -0.029 0.021
高齢化率 2.807 0.713 *** 1.111 0.282 ***
ln人口 0.070 0.025 *** 0.028 0.010 ***
年次ダミー -0.510 0.061 *** -0.202 0.024 ***
定数項 -0.876 0.380 **
観測数 1802
*** , ** , *はそれぞれ1%、5%。10%水準で統計的に有意であることを示す。
従属変数:ln寄附者数
変数名 係数 標準誤差
ln過去の転入率 0.052 0.166
財政力指数 -0.669 1.355
ln納税義務者1人あたりの課税対象所得 1.052 0.453 **
ln人口 4.473 1.656 ***
年次ダミー -0.159 0.020 ***
定数項 -52.080 16.650 ***
観測数 1,802
決定係数 0.086
*** , ** , *はそれぞれ1%、5%。10%水準で統計的に有意であることを示す。
は補足的な分析を行ったので
4.2.2
にて後述する。モデル3については、寄附額1万円と1万円超~5万円の
物品型が
1%水準で有意となった。この金額帯の特産品が寄附
金をより多く集めている結果から、特産品につられて寄附が 行われている傾向が示された。また、このモデルにのみ寄附使 途選択ダミー10%有意となった。
表 1 寄附件数モデル推計結果
4.2.2 補足モデル
モデル2の分析で財政力指数が
10%水準で有意となったこ
とを示したが、補足モデルの推計で多角的に分析する。モデル は、返礼品の有無を被説明変数、自治体の状況を説明変数に設 定し、返礼品を用意する自治体の傾向を見るため、上記モデル 同様2年間のパネルデータを使ったプロビットモデルを採用 し分析を行った。○推計結果及び考察
分析の結果、財政力指数は1%水準で有意な結果となった
(表 2)。これはモデル2で示された「財政力が低い自治体へ寄
附が集まる」という要素の他に、「財政力が低い自治体ほど 返礼品に力を入れている」という自治体の努力や頑張りとい った要素が隠れていることを示していると考えられる。寄附 件数モデルにあった財政力指数の結果はこうした隠れた要素 を差し引いて考える必要があるため「ふるさと」を応援すると いう要素は低いと考えられる。
以上のことから、前述の仮説1及び仮説2のとおりの結果 が得られたといえる。
表 2 補足モデル推計結果
4.3 実証分析2「控除する自治体と寄附者行動の検証」
続いて、寄附者が多く住む住所地自治体はどういった特徴 があり、寄附者が寄附をする要因はどういったものがあるの か固定効果モデルにより検証する。被説明変数にふるさと納
税分の個人住民税控除額の対数値、寄附者数(住所地自治体ご と)の対数値をとり固定効果モデルで分析を行った。
仮に、住民がかつて居住していたことのある自治体へ寄附 を行う傾向があるとするならば、転入者数が多い自治体ほど 多くの住民が寄附を行っているはずである。また、住民が自治 体の財政状況を考慮した上で寄附行動を行っているのであれ ば、財政力指数が悪い自治体ほど他の自治体へ寄附を行わな い傾向があるはずである。上記の問題意識から、以下のような 仮説を設定する。
仮説1:過去の転入者数と寄附との関連はみられない。
仮説2:寄附者は、現在の住所地自治体の状況は考慮せず自己 の所得に応じて寄附をする。
なお、本項ではよりふるさと納税の影響が見られる寄付者 数モデルを掲載する。
4.3.1 寄附者数(住所地自治体ごと)
○推計結果及び考察
表 3 寄附者数モデル推計結果
結果は表
3
のとおり。過去の転入者の対数値、財政力指数は 有意な値とはならず、納税義務者1人あたりの課税対象所得 だけが、5%水準で有意な結果となった。以上の結果から得られる示唆としては、人々が過去に別の 自治体に居住していた経験があるからといってそれにより寄 附行動が変わるとは言えないこと、住民の寄附行動は現在の 住所地自治体の状況には依存しないことである。また、課税対 象所得が、寄付者数モデルでのみ有意であったことから、小口 の寄付者ほど自身の所得に依存して寄附を行う傾向があると いう示唆が得られた。よって、前述の仮説1及び仮説2のとお りの結果が得られたといえる。
4.4 実証分析の整理
ここまでの実証分析の結果、下記の結果が得られた。
①返礼品が充実している自治体に寄附金が集まる。
②寄附の簡便性が高く、PRに注力し認識されやすい自治体に寄附金が集 まる。
③自治体の寄附はあまり見られない。
④使途を選択させる要素が寄附金を集める効果は若干あり。
5. 自治体間の返礼品競争理に関する理論的考察
返礼品額の上昇が寄付金集めに有効であるという前提のも と、自治体がどのように返礼品率を選択するのか、自治体間
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でどのような競争が生じるのか、多くの自治体が返礼品を提 供し始めるとどのような帰結に至るのか、といった点につい て理論分析を行う。5.1 モデルの設定
人々は一口𝑥円の寄附を行うとする。ある自治体が集める ことができる寄附件数を以下のように仮定する。
a + r − bn if a + r − bn > 0 0 if a + r − bn ≦ 0
ここで、aはパラメータで正の定数、r≧0はこの自治体 が提供する返礼品の市場価値(以下、返礼額と呼ぶ。返礼率 はr/xで表せる)、bは自治体間での返礼品の差別化程度で 正の定数、nはふるさと納税に参加している(返礼品を出し ている)他の自治体の数を表す。
寄付金の収益とPR効果の和(以下、総収益とよぶ)は以下 のように表せる。
(a + r − bn)(𝑥-(1-s)r)
ここで、sはPRのメリットの大きさを表すパラメータで 正の定数である。
自治体の問題は、目的関数は総収益を最大にするような返 礼品額
r
を定めることである。これより、最適な返礼品額は以下のようになる。
r∗ = 2(1−s)𝑥 - 𝑎2+bn
2 を得る( ただし、 𝑥
2(1−s) - 𝑎2+bn
2 < 0の場合はr∗ = 0 )。 ここからわかることは、参入自治体数が多くなるほど最適な 返礼額は大きくなる、およびPR効果が大きいほど最適な返 礼額は大きくなるということである。均衡における自治体の 寄附収益とPR効果の和は以下のように表せる。
(𝑥+(1 − s)(a − bn))2 4(1 − s)
総収益は参入自治体数が多くなるほど減少していくことが 分かる。また、返礼品を提供し始めるために必要な職員配置 等のコストが総収益を下回る限り、自治体の参入が起き続け ると考えられる。以上のことから、時間の経過とともに自治 体の総収益も減少していくことが予想される。
図 2 寄付金収支が赤字になる場合
5.2 2つの分析のまとめ
問題提起の研究として、前章の実証分析及び、本章の理論的 考察を行った結果、以下のことが導き出された。
1 寄附者は、お世話になった地域、応援したい地域となる自治体を寄附先 には選ばず、返礼品の多寡で寄附先を決定している傾向がある。
2 自治体は、「ふるさと」として選んでもらえるよう取組をアピールし、
選ばれるに相応しい、地域のあり方を考えるのではなく、自治体は返礼 品をめぐる自治体間競争を行っており、競争が激化することで自治体収 入は低下していく。
総務省の掲げる制度意義(1)に関しては、問題提起のとおり 解釈した「ふるさと」の定義と照らし合わせれば、現在のよう に住民が返礼品の多寡で寄附先を決定している状況は制度の 意義に則したものであると解釈することは難しい。また、制度 意義(2)に関しては、実証分析の結果から寄附使途の選択可否 が寄附行動に微少ながら影響を与えていることから、制度の 意義が一定程度は実現していると言える。制度意義(3)に関し ては、実際には自治体の状況とは無関係の寄附が多く、また自 治体間では寄附金をめぐる返礼品競争が起きており、地域の 取り組みをアピールすることで寄附金を集めるという制度意 義は実現されていないと考えられる。
6. まとめ
この制度を実施するうえでの問題点を先に述べた。これら 制度上の問題点は、決して看過できるものではないが、この制 度の意義を実現する上での代償と捉えることでこの制度を正 当化せしめるものである。しかし、今回の検証からは、制度の 意義そのものが実現できていない結果が導き出された。
返礼品につられて意義を達成できていない状況を改善し、
制度の問題点も制御するために、住民税控除(特例分)の廃止 を提言する。このことにより、寄附者の自己負担を増やし、他 の寄附金税制と同列にした中立的な制度とすることで意義の 達成と問題点を解消させることができると考える。まず、返礼 品に関しては、寄附者の自己負担が増えることで、安易な返礼 品の買い物にはならず、寄附金の使われ方を考えるようにな り、応援したい「ふるさと」への寄附が可能となる。自治体も、
寄附者の変化に対応することで返礼品をめぐる自治体間競争 が減少し、制度の意義どおり「ふるさと」として選んでもらう ような競争へと移行する。 また、税の移転要素がなくなるこ とで租税の問題も解消され他の寄附金税制とイコールフッテ ィングとなることで寄附金税制上の問題も解消される。
この改善により、ふるさと納税制度の規模が縮小すること は否めない。しかし、制度の意義、そして寄附税制としての性 質を考慮するならば、この方法が多くの問題点をクリアにす る方法であると考える。