新
田
和
男*
Present
Status
and
Prospect
of Cancer
Chemotherapy
Kazuo NITTA*
At present, more than 50 kinds of cancer chemotherapeutics are used in Japan . Combination therapy with a few most suitable drugs has made some cases of malignant diseases curable . Most cancers are, however , not cured by chemotherapy alone, and therefore , new anticancer drugs which have stronger anticancer activity and far less toxicity are earnestly desired to be obtained. It is not the castle on the sands but a realizablegoal to find such ideal drugs as cure many kinds of cancers with the lowest toxicity .
Key words : Cancer chemotherapy ; Anticancer drugs ; Alkylating agents ; Antimetabolites ; Antibiotics ; Plant
products ; Hormones ; Side effects ; Drug resistance ; Heterogeneity .
1. は じめ に 癌 化 学 療 法 の現 況 を語 る に は先 ず 癌 化 学 療 法 剤(抗 癌 剤,制 癌 剤)の 現 況 を述 べ ね ば な ら な い。 癌 治 療 薬 は大 別 して2種 あ る。 一 つ は癌 細 胞 を直 接 障 害 す る抗 癌 剤 で あ り,他 の 一 つ は宿 主 の 癌 に対 す る反 応 を変 化 させ て 主 と して 宿 主 の 力 で 癌 を 治 そ う とす る BRM (Biological Re-sponse Modifiers)で あ る。 こ こで は抗 癌 剤 に つ い て 述 べ る 。 近 代 科 学 的 な抗 癌 剤 の は し りは,狭 義 の ナ イ トロ ジ ェ ン マ ス ター ド,一 般 名 メ ク ロル エ タ ミ ンが 最 初 で あ る (図1)。 偶 然 の 事 故 に よ りサ ル フ ァーマ ス タ ー ドに 白血 球 減 少 作 用 が あ る こ とが分 り,よ り毒 性 の弱 い既 知 物 質 の メ ク ロ ルエ タ ミンが 白血 病 の治 療 に用 い られ る よ う に な った 。 そ れ 以 来 多 数 の抗 癌 剤 が 出 て お り,わ が 国 で は 60種 類 近 い 抗 癌 剤 が 認 可 さ れて い る。 抗 癌 剤 の 分 類 の 仕 方 に はい ろい ろあ るが 表1の よ うな 分 類 が 最 も広 く採 用 され て い る。 この 分 類 は分 類 の 規 準 が一 定 で な く必 ず し も適 切 とは い え ない が,記 述 に便 利 な の で よ く用 い られ る 。 2. 抗 癌 剤 と そ の 作 用 2.1. アル キル 化 剤 抗 癌 剤 と して の ア ル キ ル化 剤 と は生 理 的 温 度,生 理 的pHと い っ た 生 理 的 条 件 にお い て
Table 1 Classification of antitumor drugs
1. ア ル キ ル 化 剤 (Alkylating agents) 1) Nitrogen mustard系 物 質
Nitrogen mustard, Mechlorethamine, Chlor-methine, Mustargen®, HN,
Nitrogen mustard N-oxide, Chlormethine N-oxide, Nitromin®, HN20, NMO
Phenylalanine mustard, Melphalan(L体), Sarcolysin (DL体), AlkeranR, MPL, L-PAM
Chlorambucil, Leukeran®, CHL Uracil mustard, UramustineR
Mannitol mustard, Mannomustine, Degra-nolR, BCM
Cyclophosphamide, Endoxan® , Cytoxan® , CPM, CY, EX, CPA
Ifosfamide, HoloxanR, Z-4942 40497-S
2) Ethyleneimine (Aziridine)系 物 質
Triethylene
thiophosphoramide,
Thiotepa,
TespaminR,
TESPA,
TSPA
Triethylene
melamine,
TretamineR,
TEM
Inproquone,
InprochonR,
E-39
Triaziquinone,
Triaziquone,
TrenimonR
Carbazilquinone,
Carboquone,
EsquinonR ,
CQ
3) Epoxide 系 物 質
Diepoxybutane
Etoglucid, Ethoglucid, EpodylR Epipropidine, EponateR
4) Sulfonate 系 物 質
Busulfan, MyleranR, MablinR, BUS Improsulfan tosilate, ProtectonR, 864 T
* 微生物化 学研 究所
* Institute of Microbial Chemistry
Piposulfan, AncyteR
5) Nitrosourea系 物 質
Carmustine, BCNU Lomustine, CCNU
Semustine, Methyl-CCNU, Me-CCNU Nimustine, NidranR, ACNU
Streptozotocin(抗 生 物 質),STZ 6) そ の 他
Pipobroman, AmedelR, VercyteR
Dibromomannitol, Mitobronitol, Myelo-bromolR, MyebrolR, DBM
2. 代 謝 拮 抗 物 質(Antimetabolites)
1)葉 酸 拮 抗 物 質
Methotrexate, Methylaminopterin, Ametho-pterin, MTX
Aminopterin
2)Purine拮 抗 物 質
6-Mercaptopurine,
LeukerinR,
ProR, 6-MP
6-Mercaptopurine
riboside,
Thioinosine,Thi-oinosieR, 6-MPR
6-Thioguanine,
6—TG
6-ChloropUrine,
6—CP
8-Azaguanine,Pathocidin(抗 生 物 質),AzanR, 8-AzG 3)Pyrimidine拮 抗 物 質 5-Fluorouracil, 5-FU, FU 5-Fluorodeoxyuridine, FUDRTegafur, Ftorafur, Futrafule, FT-207, FT Carmofur, MifurolR, HCFU
Bromodeoxyuridine, BUDR 5-Fluorocytosine, 5-FC 6-Azauridine, 6-AzUR
Cytarabine, Cytosine arabinoside, Cylo-cideR, CytosarR, Ara-C, CA
Enocitabin, SunrabinR, BHAC
Ancitabine, Cyclocytidine, Cyclo-C, CC 5-Azacytidine, 5-AzCR, 5-AZC
Doxifluridine, 5' -Deoxy-5-fluorouridine, 5' -DFUR, Furtulon© 4)Glutamine拮 抗 物 質 Azaserine(抗 生 物 質) DON(6-Diazo-5-oxo-L-norleucine)(抗 生 物 質) 3. 抗 癌 抗 生 物 質(Antibiotics)
Actinomycin D, Dactinomycin, CosmegenR , ACT-D, ACM-D
Mitomycin C, MitomycinR , Mitomycin SR , MMC
Chromomycin A3, ToyomycinR , CHRM, TY
Mithramycin, MithracinR, MTH
Daunorubicin,
Rubidomycin,
Daunomy-cie,
DNR, DM
Doxorubicin,
Adriamycin,
AdriacinR ,
ADM, ADR
Epirubicin,
4' -Epiadriamycin,
4' -EpiADM
Pirarubicin,
THP-adriamycin,
THP
Aclarubicin,
Aclacinomycin
A, AclacinonR,
ACL, ACR, ACM
Bleomycin,
BleoR, BLM
Peplomycin,
Pepleomycin,
PepleoR, PEP
Neocarzinostatin,
NCS
4. 植 物 由 来 抗 癌 物 質(Plantproducts)
1)Vincaア ル カ ロ イ ド
Vinblastine, Exale, Velban© , VLB, VBL, EXL
Vincristine, OncovinR, VCR, ONC
Vindesine(半 合 成),VDS 2)Podophyllotoxin誘 導 体 Etoposide, VP-16, VP-16-213 Teniposide, VM-26 3) 三 尖 杉 属 の ア ル カ ロイ ド Harringtonine Homoharringtonine Hainanolide 4)そ の 他 Camptothecin誘 導 体 Maytansine Ellipticine
2- Methyl- 9 - hydroxyelli pticinium
5. 酵 素(Enzyme)
L- Asparaginase, LeunaseR, L-ASP 6. ホ ル モ ン 類 (Hormones)
Prednisolone Prednisone
Epitiostanol, ThiodrolR Mepitiostane, ThioderonR
Dromostanolone propionate, MastisolR , Drolb anR , Masterilo
Fosfestrol, Stilbestrol diphosphate, Hon-vanR, BlenkinsopR
抗 エ ス トロ ゲ ン剤 と して
Tamoxifen citrate, Tamoxifen, NolvadexR
7. そ の 他 (Miscellaneous)
Procarbazine, NatulanR, PCB Dacarbazine, DTIC, DIC
Hydroxyurea, Hydroxycarbamide, Hyd-reaR, LitalirR, HYD
Cis-diamminedichloroplatinum, Cisplatin, BriplatinR, CDDP, DDP
Aceglatone, GlucaronR
を つ けて な い。 1行1物 質 と し,一 般 名,商 品 名,略 号 の 順 に 記 した 。 生 体 の受 容 体 に ア ル キ ル基 を導 入 す る薬 を い う。 受 容 体 と して は水 酸 基,ス ル フ ヒ ドリル基,ア ミ ン,異 項 環 な どい ろい ろあ る が,特 に核 酸 や蛋 白 質 の ア ル キ ル 化 が 起 こ る と細 胞 増 殖 に重 大 な影 響 を及 ぼ し,細 胞 に致 死 的 な 変 化 を生 ず る。DNAで は 通 常,グ ア ニ ンの7位 が ア ル キ ル化 さ れ るが,濃 度 が 大 に な る と そ れ以 外 の 部 の アル キ ル化 も生 ず る。 2.1.1. ナ イ トロ ジ ェ ン マ ス ター ド系(図1)こ の 系 統 の 中で は シ ク ロホ ス フ ァ ミ ド,ク ロ ラ ンブ シル,フ ェ ニ ル ア ラ ニ ンマ ス タ ー ド(メ ル フ ァ ラ ン)が よ く用 い ら れ る。 シ ク ロ ホ ス フ ァ ミ ドは マ ス ク 型 化 合 物 とか プ ロ ド ラ ッグ とか 呼 ば れ,そ の もの 自体 で は 活 性 が な く,体 内 に入 る と肝 ミク ロ ゾ ー ム の 薬 物 代 謝 酵 素P-450に よ っ て4位 に水 酸 基 が つ き,あ と は非 酵 素 的 に切 れ て ホ ス フ ァラ ミ ドマ ス ター ドに な り活性 をあ らわ す 。 シ ク ロ ホ ス フ ァ ミ ドは体 内 で 徐 々 に活 性 化 され るの で 毒 性 は弱 い が 副 作 用 と して 骨 髄 抑 制 の ほ か に 出 血 性 膀 胱 炎 が 起 き る。 出 血 性 膀 胱 炎 を起 こ す こ との 少 い 薬 と して イ ボ ス フ ァ ミ ド(図2)が 開 発 され た。 こ れ もマ ス ク型 物 質 で あ る。 こ れ らナ イ トロ ジ ェ ンマ ス タ ー ド系 の薬 は 固型 癌, 悪 性 リ ンパ 腫,急 性 白血 病,多 発 性 骨 髄 腫 の治 療 に用 い られ る。 2.1.2. エ チ レ ン イ ミン 系(図3)テ ム と呼 ば れ る ト リ エ チ レ ン メ ラ ミンが 外 国 で は用 い られ る こ とが あ るが 日 本 で は 認 可 さ れ て お らず チ オ テ パ(ト リエ チ レ ンチ オ ホ ス ホ ラ ミ ド)が使 わ れ て い る 。 カ ル ボ コ ン(図4)も よ く 用 い られ る ア ル キ ル化 剤 で,一 つ の分 子 中 に ア ジ リジ ン (エ チ レ ンイ ミ ン),ウ レ タ ン,キ ノ ン と活 性 基 が3種 類 も入 って い る。 マ イ トマ イ シ ンCが 同 様 に3種 類 の 活性 基 を持 って お り,カ ル ボ コ ン はマ イ トマ イ シ ンCを 真似 て 作 っ た と いわ れ て い るが,実 際 は イ ン プ ロ コ ンが 元 に な って 作 ら れ,さ ら にそ の元 はエ チ レ ン イ ミノベ ン ゾキ ノ ンが ル ー ツで あ る。 2.1.3. ス ル ホ ン 酸 系 ブ ス ル フ ァ ン(図5)が 用 い ら れ て い る 。 2.1.4. ニ トロ ソ ウ レア 系 こ の群 に は 図6に 示 す よ う な カ ル ム ス チ ン(BCNU),ロ ム ス チ ン(CCNU),ニ ム ス チ ン(ACNU),ラ ニ ム スチ ン(MCNU)な どが あ る。 ニ ト ロ ソウ レア 系物 質 の作 用 は ア ル キ ル化 とカ ルバ モ イ ル化 で あ る。 一 般 に 遅 延 性 骨 髄 抑 制 を強 く起 こす の で連 投 し に くい もの が 多 い 。 消 化 器 癌,肺 癌,悪 性 リ ンパ 腫,慢 性 白血 病 に 用 い られ る ほ か,血 液脳 関 門 を よ く通 過 す る の で脳 腫 瘍 の 治療 に も用 い られ る 。 ニ トロ ソウ レア抗 生 物 質 で あ る ス トレプ トゾ トシ ンは膵 臓 の ラ ンゲ ルハ ン ス 島 とい わ れ る組 織 に あ る イ ンシ ュ リ ンを作 る細 胞 で あ る ベ ー タ細 胞 に非 常 に 親和 性 が あ っ て,こ の細 胞 が 癌 化 し Fig. 1 Sulfur and nitrogen mustards
Fig. 2 Cyclophosphamide and ifosfamide .
Fig. 3 TEM and THIOTEPA .
Fig. 4 Carboquone .
た イ ン シ ュ リ ノ ーマ に特 異 的 に よ く効 く。 ス トレプ トゾ トシ ン を まね て ク ロ ロ ゾ トシ ン,GANU,MCNUが 合 成 され た が,GANUは 治 験 途 中 で 中止 され た 。 2.2. 代 謝 拮 抗 剤 代 謝 拮 抗 剤 は酵 素 反応 の 正常 の基 質 や 補 酵 素 に似 た 構 造 を持 ち,代 謝 酵 素 反 応 に 際 して正 常 基 質 等 と競 合 し,その 酵 素 に よ る代 謝 反 応 を阻 害 す る。 ま た 時 に は,薬 剤 がDNAやRNAに 組 み 込 まれ 異 常 な 核 酸 を作 って 細 胞 を障 害 す る。 2.2.1. 葉 酸 拮 抗 物 質 図7の メ ト トレキ セ イ トが 急性 白血 病 や 絨 毛 性 腫 瘍 や 骨 肉腫 の 治 療 に盛 ん に使 わ れ る。 こ の物 質 は プ リ ン ヌ ク レオ チ ドのde novo生 合 成 の 阻 害 とdUMPか らdTMPへ の 変 換 の 阻 害 を す る。 リ ボ ー スー5一ホ ス フ ェ イ トか らい くつ か の 過 程 を経 て 最 後 に IMPと な り,そ れ がGMPとAMPと に な って い くが, そ の 過 程 でGARか ら ホ ル ミルGARに な る 時 に テ トラ ヒ ドロ葉 酸 を必 要 とす る 。 厳 密 に はN5・Nloメ テ ニ ル テ トラ ヒ ドロ 葉 酸 が 必 要 な の だ 。 ま た,AICARか らホ ル ミルAICARに な る 時 にNloホ ル ミル テ トラ ヒ ドロ 葉 酸 を必 要 とす る。 ま た,ピ リ ミジ ンヌ ク レオチ ドの 合 成 に 際 してdUMPか らdTMPに い く時 に 炭 素 が 一 つ トラ ン ス フ ァー さ れ るが,こ の 時 にN5・Nloメ チ レ ン テ トラ ヒ ドロ葉 酸 か ら渡 さ れ る。 テ トラ ヒ ドロ葉 酸 は葉 酸 か ら作 られ るが こ の際,還 元 酵 素,殊 に ジ ヒ ドロ葉 酸 還 元 酵 素 の作 用 を メ ト トレキ セ イ トが 強 く抑 制 して テ トラ ヒ ドロ 葉 酸 の生 成 を妨 げ る こ とに よ っ て プ リ ンヌ ク レ オチ ドの de novo合 成 と ピ リ ミジ ン ヌ ク レ オ チ ドの サ ル ベ ー ジ合 成 の両 方 を抑 え,核 酸 の生 合 成 が 阻害 さ れ る。 メ ト トレ キ セ イ ト大量 療 法 とい う方 法 が あ り,メ ト トレキ セ イ ト を大 量 に投 与 後3時 間後 か ら頻 回 に テ トラ ヒ ドロ 葉 酸 カ ル シ ウム(ロ イ コ ボ リ ンカ ル シ ウ ム,シ トロ ボ ー ル ム フ ァ ク タ ー)を 投 与 して 中和 す る療 法 で あ る。 この 大 量 投 与 療 法 に よ って昔 は 治 らな か っ た 骨 肉 腫 な ど も今 は 手 術 と の 併 用 で 根 治 し得 る よ うに な っ た 。 2.2.2. プ リン 拮 抗 物 質6一 メ ル カ プ トプ リ ン(6-MP, 図8)は リボ チ ド とな りIMP-AMP,IMP-GMPの 反 応 を抑 制 す る。 2.2.3. ピ リ ミ ジ ン 拮 抗 物 質5一 フ ル オ ロ ウ ラ シ ル (5-FU)お よ び そ の 誘 導 体 は重 要 な 抗 癌 剤 で あ る(図9)。 5-FUは 固 形 癌 に よ く効 い て よい 薬 で あ り,し ば しば用 い ら れ る 。5-FUは 体 内 で2つ の 方 向 の 作 用 を 示 す(図 10)。1つ は生 体 内 に 取 り込 まれ た後,FdUMPに 転 換 さ れ,チ ミジル 酸 合 成 酵 素 の不 可 逆 的 阻 害 を示 しDMA合
成 阻 害 を きた す 。 第2はFUMPか らFUTPを 経 てRNA
中 に 組 み 込 ま れ 正 常 なRNA合 成 を 阻 害 す る 。5-FUに は 多 数 の 近 縁 物 質 が 作 られ て い る(図9)。 テ ガ フー ル (FT-207),カ ル モ フ ー ル(HCFU),ド キ シ フ ル リ ジ ン (5ノーDFUR)な どの マ ス ク 型 誘 導 体 が 臨 床 で 使 わ れ て い る 。 テ ガ フー ル は体 内 で 肝 臓 のP450薬 物 代 謝 酵 素 に よ っ て5-FUと な って 作 用 す る 。作 用 自体 は5-FUだ が Fig. 6 Nitrosoureas . Fig. 7 Methotrexate . Fig. 8 6-Mercaptopurine .
徐 々 に放 出 され るの で副 作 用 が 弱 い。 ウ ラ シ ル は5-FU の 分 解 を抑 制 す るの で,テ ガ フ ール と ウ ラ シル をモ ル比 で1対4の 割 に 混 ぜ た 合 剤 はUFTと 呼 ば れ5-FUの 副 作 用 を軽 減 す る と して 臨 床 で よ く用 い られ て い る。ド キ シ フ ル リ ジ ン は体 内 で5'一デ オ キ シ リボ ー ス 部 分 が 切 れ て5-FUに な るの は テ ガ フ ー ル と似 て い る が テ ガ フ ー ル は 肝 臓 のP450薬 物 代 謝 酵 素 で 切 れ るの に,ド キ シ フ ル リ ジ ン は ピ リ ミジ ン ヌ ク レ オ シ ドホ ス フ ォ リラ ー ゼ に よっ て切 れ て5-FUと な る。 この 酵 素 は腫 瘍 組 織 に特 に 多 い の で,腫 瘍 の 中 に特 異 的 に5-FUの 濃 度 が 高 くなる 。 BOF-A2(図11)が 臨 床 治 験 中 で あ る。5-FUと そ れ を 安 定 化 す る もの を 一 つ の 分 子 中 に 一 緒 に組 み こ ん だ ら UFTの よ う な合 剤 で な くて もよ い の で は な い か との 発 想 で 作 ら れ た 。FO-152(図12)は5一 フ ル オ ロ ウ リ ジ ン (FUR)の 誘 導 体 で あ る。FURは 活 性 が 強 い が 毒 性 も強 い の で マ ス ク型 に し て副 作 用 を 減 らす た め に5'の 位 置 にバ リ ン をつ け た もの で 臨床 治 験 中 で あ る 。 効 き方 が 強 く,毒 性 は 少 な い 。 シ タ ラ ビ ン(ア ラーC,図13)は 生 体 内 で ア ラ ーCTPと な りDNAポ リ メ ラー ゼ に作 用 して 正 常dCTPのDNA へ の 取 り込 み を競 合 的 に抑 制 す る 。急性骨髄性 白血病や 慢 性 骨 髄 性 白血 病 の 急 性 転 化 した もの に効 くが,生 体 内 で シチ ジ ンデ ア ミナ ー ゼ に よ って4位 の ア ミノが 脱 ア ミ ノ さ れ る と ア ラーuに な っ て 失 活 す る 。 この 脱 ア ミノ化 に よ る失 活 を防 ぐた め に ア ン シ タ ビ ン(サ イ クロC),エ ノ シ タ ビ ン(BH一AC),PL-ACが 合 成 さ れ て(図13)臨 床 で ア ラーCに代 って 白血 病 の 治 療 に 用 い られ て い る 。 dFdC(図14)は ア ラーCの 誘 導 体 と も シ チ ジ ンの 誘 導 体 と もみ る こ とが で きる が2'の 位 置 に フ ッ素 を2つ 入 れ た もの で,臨 床 治験 され て い る 。 2.3. 抗 癌 抗 生 物 質 抗 癌 抗 生 物 質 は 日本 で は11種 類 が 認 可 さ れ使 わ れ て い る。 抗 癌 抗 生 物 質 の 中で 最 も重 要 な の はマ イ トマ イ シ ンC,ア ン トラサ イ ク リン群,ブ レ オマ イ シ ン群 で あ る。 2.3.1. ア クチ ノマ イ シ ン群 抗 生 物 質 ア クチ ノマ イ シ ン群 抗 生 物 質 は多 数 あ るが 日本 で 実 用 され て い る の は ア クチ ノマ イ シ ンD(ダ クチ ノマ イ シ ン,図15)で あ る 。 構 造 は ク ロモ ホ ア に2つ の 環 状 ペ プ チ ドが つ い て い る。 主 と してRNA合 成 を阻 害 す る。 主 に ウ ィル ム ス腫 瘍, 絨 毛 上 皮腫,破 壊 性 胞 状 奇胎 な どに用 い られ る。 2.3.2. マ イ トマ イ シ ン 群 抗 生 物 質 マ イ トマ イ シ ン A,B,C,ポ ル フ ィロ マ イ シ ンな ど が あ る が,も っ ぱ ら Fig. 10 The action of 5-FU.
Fig. 11 BOF-A 2.
Fig. 12 FUR and FO-152.
Fig. 13 Cytarabine and its derivatives not affected by deaminase.
Cが 使 わ れ て い る。 マ イ トマ イ シ ンC(MMC ,図16)は 一分 子 中 に キ ノ ン,ウ レ タ ン,ア ジ リジ ン と,活 性 基 が 3つ もあ る。 一 本 鎖DNAを 切 断 し,ま たDNAの2本 鎖 をが っち り と結 合 し,DNAお よ びRNAの 合 成 阻害 を 起 こす 。 消 化 器 癌 や 肺 癌 に用 い られ る。 骨 髄 抑 制 が か な り強 い ので 副 作 用 を軽 減 す べ く約500種 の 誘 導体 が作 ら れ たが,現 在 まで の と こ ろ母 物 質 以 上 の もの は 出 て い な い。 2.3.3. オ ー レ オ リ ック ア シ ド群 抗 生 物 質 この 群(図 17)に は ク ロモ マ イ シ ンA3,ミ ス ラマ イ シ ン,オ リボマ イ シ ン な どが あ るが,日 本 で は ク ロモ マ イ シ ンA3の み が 認 可 され て い る。 ク ロモ マ イ シ ンA3はRNA合 成 阻 害 を す る 。 固形 癌 や悪 性 リ ンパ 腫 に効 くが毒 性 も強 い。 ミス ラ マ イ シ ンは 末期 癌 患 者 の高 カ ル シ ウ ム血 症 の治 療 に奏 効 す る 。 2.3.4. ア ン トラサ イ ク リン群 抗 生 物 質 』この 群 の 代 表 者 は ア ドリア マ イ シ ン(ド キ ソル ビ シ ン,ADM,DXR, 図18)で あ る。ADMと ダ ウ ノ ル ビ シ ン(DNR)と は構 造 が ほ ん の僅 か 違 う だ け だ が 作 用 は 非 常 に 異 な り,DNR は 白血 病 と リ ンパ 腫 に しか効 か な い が,ADMは そ れ 以 外 に 各 種 の 固 形 癌 に よ く効 き,作 用 も強 い。ADMも
DNRもDNA依 存 性DNA合 成 お よ びRNA合 成 を 阻 害
す るがDNA合 成 阻 害 の 方 が 強 い。 両 者 と も副 作 用 と し
て悪 心,嘔 吐,食 欲 不振 な どの 消化 器 症状,骨 髄 抑 制,
脱 毛 な どの ほ か に心 毒 性 が あ る 。心 毒 性 と脱 毛 の少 な い ア ン トラサ イ ク リ ンが 多 数得 られ て い る 。 ア ク ラ ル ビ シ
ン(ACR,図18c)はADMと 構 造 が 似 て い るが 糖 が3つ
つ い て い てDNA依 存 性DNA合 成 お よ びRNA合 成 を 阻
a C
b
Fig. 15 Actinomycin D. (Dactinomycin)
Fig. 16 Mitomycin C.
Fig. 18 Anthracycline antibiotics .
害 す る がRNA合 成 阻害 の方 が 強 い 。ADNと 同様,白 血 病,リ ンパ腫 の ほ か各 種 の 固形 癌 に奏 効 す るが,切 れ 味 はADMよ り甘 い 。 しか し,ADMよ り毒 性 が 弱 く,殊 に脱 毛 と心 毒 性 が 非 常 にす くな い 。 ま た,ADM耐 性 の 癌 に も効 く。 ピ ラ ル ビ シ ン(THP一 ア ドリ アマ イ シ ン,THP)は4'一 テ トラ ヒ ドロ ピ ラ ニ ルADMで あ る。DNR培 養 液 中 の 微 量 産物 の 中 にバ ウ マ イ シ ンA1と 名 づ け た ア ン トラサ イ ク リ ンが あ り,こ れ が 抗 癌 活 性 が 強 い の に毒 性 が弱 く, こ の もの の 構 造 を真 似 て,ADMの4'位 に テ トラ ヒ ドロ ピ ラニ ル をつ け た の が こ のTHP-ADMで あ る(図19)。 急 性 白血 病 や リ ンパ 腫 以 外 に卵 巣 癌,子 宮 癌 に高 い奏 効 率 を示 し,そ の 他 の 固 形 癌 に も効 力 を示 して い る。 脱 毛 や心 毒 性 が 弱 い 。 エ ピル ビ シ ン(図18b)はADMの 構 造 中,4'のOHがADMと 異 な りエ ク ァ ト リア ル につ い た もの で あ る。 心 毒 性 がADMよ り弱 い。 イ ダ ル ビ シ ン (図20)は4一 デ メ トキ シDNRで 抗 腫 瘍 活 性 がDNRに 比 べ て 倍 強 く,心 毒 性 が 弱 い 。ME2303,KRN8602,SM 5887と い っ た ア ン ト ラ サ イ ク リ ン(図21)が 臨 床 治 験 中 で あ る 。 ち ょ っ と 変 っ た 構 造 の ア ン トラ サ イ ク リ ン で あ る メ ノ ガ リ ー ル(図22)も 治 験 中 で あ る 。 2.3.5. ブ レ オ マ イ シ ン 群 抗 生 物 質 市 販 の ブ レ オ マ イ シ ン(BLM)はBLMA,が 主 成 分 で,こ れ に 少 量 のBLM B2が 入 っ て い る 。 そ の 構 造 は 図23の よ う で あ る 。BLM は 扁 平 上 皮 癌,ポ ジ キ ン 病,リ ン パ 腫 に よ く効 く。 食 道 癌 に も奏 効 す る。BLMは 骨 髄 抑 制 が な く,患 者 の 免 疫 能 を低 下 させ な い が 長 期 投 与 す る と肺 に繊 維 症 を お こ す 。 肺 繊 維 症 をお こす と呼 吸 面 積 が 減 り肺 静 脈 血 の酸 素 Fig. 19 Resemblance of pirarubicin and baumycin Al in
structure .
Fig. 20 Idarubicin
Fig. 21 Anthracyclines under clinical study .
Fig. 22 Menogaril .
分 圧 が 低 くな り,患 者 の病 態 が悪 化 す る。 この 副 作 用 を 減 らす た め に 多 数 の 同 族体 が作 られ,そ の 中 の ペ プ ロマ イ シ ン(PEP)が 肺 の 繊 維 症 の 生 じ方 が少 な い とい う こ と で 臨 床 で 使 わ れ て い る 。 しか し実 際 に はPEPもBLM程 で は な い け れ ど肺 繊 維 症 を生 じ る よ うで あ る。BLMの 作 用 機 序 はDNAの 切 断 で あ る。 BLMの 同族 体 の リ ブ ロマ イ シ ン(LBM,図23)は マ ウ ス のP388白 血 病 に対 す る 抗 腫 瘍 活 性 がBLMやPEPよ りか な り強 く,動物 実 験 で 肺 繊 維 症 を全 然 お こ さ な い が, BLMと 異 な り骨 髄 抑 制 を お こ し,脱 毛 も強 く生 じ, BLM群 物 質 で は あ っ て も全 然 別 の 新 抗 生 物 質 とみ な し て もい い程 に性 質 が 変 って い る。 2.3.6. その 他 の 抗 癌 抗 生 物 質 ネ オ カ ルチ ノ ス タ チ ン (NCS)は 分 子 量 約1万 の ペ プ チ ドに ク ロモ ホ アが つ い た 物 質 で,固 形 癌 に も効 くが 毒 性 が 非 常 に 強 い 。ぜNCSに ス チ レ ン とマ レイ ン酸 の コ ポ リマ ー をつ け た もの を ス マ ンク ス(SMANCS)と い い,こ れ を リピ オ ドー ル に溶 か し て肝 動 脈 か ら注 入 す る と,リ ピ オ ドー ル は肝 臓 の 癌 に特 異 的 に蓄 積 さ れ て長 く残 る性 質 が あ る の で,こ れ に溶 け て い たSMANCSが リ ピ オ ドー ル と共 に長 く肝 臓 の 癌 に と ど ま っ てNCSが 徐 々 に 放 出 さ れ る の で 長 期 に わ た っ て 効 く。NCSは 古 くか ら認 可 さ れ て い る がSMANCSは 現 在 治験 中 で あ る。 ス パ ガ リ ン(図24)は グ ア ニ ジ ン と ス ペ ル ミジ ン が 両 端 に あ る簡 単 な構 造 の抗 生 物 質 で あ る。15位 のOHを はず した15一 デ オキ シ スパ ガ リ ンが安 定 で,こ れ が 治験 中で あ る。 動 物 実 験 で 比 較 的 低 用 量 で は癌 を抑 え,し か も治 っ た後 に は そ の癌 に対 す る特 異 的 免 疫 が で き る。 大 量 使 う と逆 に免 疫 能 を お とす 。 FK973(図25)は 半 合 成 抗 生 物 質 で 動 物 実 験 で 優 れ た 抗 腫 瘍 活 性 を示 し,MMCやADMに 交 叉 耐 性 を示 さず, 毒 性 もMMCよ り弱 い 。 治験 中 で あ る。 2.4. 植 物 由 来 抗 癌 物 質 2.4.1. ビ ン カ ア ル カ ロ イ ド ビ ン ブ ラ ス チ ン(VLB), ビ ン ク リ ス チ ン(VCR)お よ びVLB誘 導 体 ビ ン デ シ ン (VDS)(図26)は 微 小 管 の サ ブユ ニ ッ トで あ る チ ュ ブ リ ン と結 合 し,そ の結 果,紡 錘 糸 装 置 の破 壊 と分 裂 中 期 に お け る 細 胞 分 裂 阻止 をす る。 ま た,TRNA,訳NA産 生 抑 制 もす る と い う。VCRは 急 性 白血 病,悪 性 リ ンパ 腫, 小 児 癌 に,VLBは 悪 性 リ ンパ 腫,。絨 毛癌 に,VDSは そ れ以 外 に肺 癌 の 治療 に も用 い ら れ る。VCRはVLBよ り 抗 腫 瘍 ス ペ ク トル が 広 く活 性 も強 い が,毒 性 も強 い。 VDSは 活 性 はVCRは 近 く,毒 性 はVCRとVLBの 中間 位 で あ る。 フ ラ ンス で 二 酒 石 酸 ビ ノ レル ビ ン(KW2307, 図27)が 半 合 成 さ れ た 。P388マ ウ ス 白血 病 に対 して 抗 腫 瘍 作 用 の 強 さ はVLBと 同様 だ が 毒 性 が 遙 か に 少 ない の で 大 量 に使 え,そ の 結 果VCR,VLBよ り優 れ た 効 果 が 出 て い る 。 臨床 治験 中 で あ る 。 2.4.2. ポ ド フ ィ ロ ト キ シ ン 誘 導 体 エ ト ポ シ ド (VP-16)と テ ニ ポ シ ド(VM-26)が あ る(図28)。DNA合 Fig. 24 Spergualin . Fig. 25 FK 973.
Fig. 26 Vinblastine, Vincristine and Vindesine.
Fig. 27 Vinorelbine.
成 阻 害 作 用,DNA鎖 の 切 断作 用 を示 す 。 わ が 国 で は エ トポ シ ドが認 可 さ れ肺 癌,睾 丸 腫 瘍,膀 胱 癌,絨 毛性 疾 患,悪 性 リ ンパ 腫,急 性 白血 病 に用 い られ て い る 。 2.4.3. カ ン プ トテ シン誘 導 体 カ ンプ トテ シ ンは喜 樹 か ら抽 出 さ れ る ア ル カ ロ イ ドで 固形 癌 に も効 くが毒 性 が 強 く,臨 床 治験 の み で 中止 され た 。 そ の 後,活 性 増 強 と 毒 性 減 弱 を 目指 し て 誘 導 体 が 多 数 作 ら れ,CPT-11(図 29)が 半 合 成 され,固 形 癌 に も有 効 で あ る こ とが 治 験 で 証 明 さ れ た 。毒 性 も弱 い 。 治験 が終 了 し製造 許可 を 申請 中で あ る。 2.4.4. エ リプチ シ ン誘 導 体 キ ョウ チ ク トウ科 の 植 物 成 分 エ リプ チ シ ン も固形 癌 に効 くが 毒 性 と出 血性 膀 胱 炎 を起 こす た め 治験 の み で 中止 さ れ た 。そ の 後 フ ラ ンス で, 9一ヒ ドロ キ シー2一メ チ ル エ リプ チ シ ンで あ る エ リ プ チ ニ ウ ムの アセ テ イ トが市 販 され 主 と して 乳 癌 に用 い られ て い るが,毒 性 が か な り強 い 。 わ が 国 で エ リプ チ シ ンの9 位 に ヒ ドロ キ シ と2位 の 窒 素 に ア ラ ビ ノ ー ス を つ け た SUN4599(図30)が 作 ら れ,毒 性 が 弱 く活 性 が 強 い の で 治 験 され て い る。 2.4.5. そ の 他 の 植 物 由 来 物 質RA700(図31)は ア カ ネ 草 か ら得 られ た環 状 ヘ キ サ ペ プ チ ドで,少 々 毒 性 が あ る よ うだ が 治験 中 で あ る 。 タ ク ソ ー ル(図32)は イチ イ 科 の 植 物 の樹 皮 か ら得 ら れ る 物 質 で 白血 病,固 形 腫 瘍 に 有 効 と して 米 国 国 立 が ん 研 究所(NCI)が 大 変 期待 して い る。 2.5. 酵 素,ホ ル モ ン,ホ ル モ ン 拮 抗 剤 酵 素 で は L一ア ス パ ラ ギ ナ ー ゼ が ア ス パ ラ ギ ン依 存 性 の 白 血 病 に 用 い られ 奏 効 す るが,ペ プチ ドなの で じ きに免 疫 が つ い て 効 か な くな る とい う欠 点 が あ る。 ホ ルモ ン類 で は多 くの 副 腎 皮 質 ホ ルモ ン,男 性 ホ ル モ ン,女 性 ホ ルモ ンお よ びそ れ らの 拮 抗 物 質 が 用 い られ て い るが,し ば しば用 い られ る もの に副 腎 皮 質 ホ ル モ ンの プ レ ドニ ゾ ロ ンや デ キサ メ タ ゾ ンが あ る。 最 近,メ ドロ キ シ プ ロ ゲ ス テ ロ ンア セ テ イ ト(MPA,図33)と い う合 成 黄 体 ホ ルモ ンが 乳 癌 と子 宮 癌 に よ く使 わ れ る。 よい成 績 を あげ て い るが,時 に重 篤 な血 栓 症 を起 こ す。 ベ ス トラ ブ チ ル(図34)が 治 験 中 で あ る 。 こ の物 質 は エ ス トラ ジ オー ル と抗 癌 剤 の ク ロ ラ ン ブ シ ル と の複 合 体 の 安 息 香 酸 エ ス テ ル で,当 初 エ ス トロ ゲ ン受 容 体(ER) Fig. 29 Camptothecin and its derivatives.
Fig. 30 SUN 4599.
Fig. 31 RA-700.
Fig. 32 Taxol .
陽 性 乳 癌 の 治 療 用 に 作 られ た が,そ の 後 の研 究 に よ り ERの 有 無 に関 せ ず 悪 性 腫 瘍 細 胞 に 選 択 的 に と り込 ま れ て 抗 腫 瘍 効 果 を発 揮 す る こ とが 分 っ た。 タ モ キ シ フ ェ ンサ イ トレ イ ト(図35)がER陽 性 の 乳 癌,子 宮 内膜 癌,胃 癌 に用 い ら れ て い る 。最 近,い くつ か の誘 導 体 が 治 験 さ れ て い る。 LH・RHと い う黄 体 ホ ル モ ン遊 離 ホ ル モ ンが あ る 。 こ れ は抗 癌剤 で は な い が デ カ ペ プ チ ドで,こ れ の6番 目 と 10番 目 の グ リ シ ン を他 の ア ミノ酸 や ア ミ ン に変 え た も の が 何 種 類 か 作 られ て お り,前 立 腺 癌 治 療 薬 と して 治 験 中で あ る。 そ の う ち一 つ は認 可 さ れ た。 フ ル タ ミ ド(NK601,図36)は ス テ ロ イ ドと全 く関 係 の ない 抗 ア ン ドロ ゲ ン物 質 で,前 立 腺 癌 に特 異 的 に効 く と して 治験 中 で あ る 。 2.6. 抗 腫 瘍 性 白 金 化 合 物(図37)シ ス プ ラ チ ン (CDDP)が 合 成 さ れ た の は1845年 で あ るが,20年 程 前 に米 国 のB.Rosenbergが 大 腸 菌 に対 す る 電 場 の 影 響 を し らべ る 実験 中 に観 察 さ れ た現 象 に 基 づ い て,CDDPの 抗 腫 瘍 性 を発 見 した。CDDPの 抗 腫 瘍 活 性 は大 変 強 く, 臨床 治験 の結 果,従 来 薬 が 効 か な か った癌,例 え ば小 細 胞 癌 以 外 の肺 癌,睾 丸 腫 瘍,卵 巣 癌 な ど に も効 力 を示 し, 時 に は 胃癌 もあ る程 度 反応 す る こ と もあ って 画 期 的 な抗 癌 剤 と して 俄 然 脚 光 を浴 び る に至 っ た 。 日本 で は1983 年 に認 可 され 臨 床 で 盛 ん に用 い られ て い るが,腎 臓 障 害, 骨髄 抑 制 の ほ か に非 常 に激 しい悪 心 ・嘔 吐 を起 こす 。 副 作 用 の 少 な い 白金 化 合 物 が 多 数 作 られ,カ ル ボ プ ラチ ン (CBDCA,図37)が 認 可 さ れ た。 254S, DWA2114R, NK121な とが 治 験 中 で あ る。 2.7. その 他 の 主 な抗 癌 剤 ミ トザ ン トロ ン(図38) と い う ア ン トラ キ ノ ン誘 導 体 が 合 成 さ れ認 可 さ れ て い る。 作 用 や副 作 用 はADMと 似 て お り,急 性 白血 病,悪 性 リンパ 腫,乳 癌 に用 い られ て い る。 MST-16(図39)は 日本 と中 国 との 共 同 で 開 発 した物 質 で あ る 。 化 学 構 造 の 中 心 部 はICRF-154と い って 英 国で こ の系 統 の化 合 物 を大 分 以前 か ら研 究 して お り,メ チ ル の 入 ったICRF-159が 一 番 良 さそ う だ と い う こ とに な っ た 。上 海 の繭 物 研 究 所 で 沢 山 の 誘 導体 を合 成 した 中 か ら MST-16が 選 択 さ れ た 。 日本 で も治 験 中で あ るが,毒 性 が極 め て 少 な い 。 Fig. 34 Bestrabucil.
Fig. 35 Tamoxifen citrate.
Fig. 36 Flutamide (NK 601) .
Fig. 37 Platinum compounds.
Fig. 38 Mitoxantrone.
3. 癌 化 学 療 法 の 進 歩 と 問 題 点 わ が 国 で 認 可 され て い る抗 癌 剤 は60種 近 くもあ るが, 当然 の こ とな が ら よ く用 い られ る 薬 と余 り用 い られ な い 薬 とあ る 。 また,用 い 方 もそ れ ぞ れ に よ って 異 な る 。一 般 的 に い っ て,代 謝 拮 抗 剤 は細 胞 周 期 の あ る 時期 に しか 効 か な い。 従 っ てす べ て の癌 細 胞 の発 育 周 期 がす くな く と も一 回転 す る 間 は有 効 濃 度 が保 た れ な け れ ば十 分 効 果 を発揮 で きな い 。 一般 的 に 時 間依 存 性 で あ る。 アル キ ル 化 剤 は概 して 細 胞 周 期 と関 係 な く,濃 度 依 存 性 で あ る。 癌 化 学 療 法 を困 難 に して い る点 が 幾 つ か あ る。 一 つ は 薬 物 耐 性 で,こ れ に は 自然 耐 性 と獲 得 耐 性 とが あ るが, 後 者 で は抗 癌 剤 に よ って 耐 性 が 誘 導 さ れ る場 合 と,も と も と耐 性 だ っ た細 胞 の み が 残 る場 合 と あ るで あ ろ うが, い ず れ に して も以 後 薬 が 効 か な くな る。 もう一 つ は転 移 で あ る。 癌 は進 行 す れ ば勿 論 の こ と,か な り早 期 か ら も 転 移 をす る。 転 移 巣 の 薬 剤 感 受 性 は原 発 巣 の それ と は必 ず し も一致 せ ず,原 発 巣 に は薬 が 効 い て も転 移 巣 に は効 か な い こ と も しば しばあ る。 薬 剤 耐 性 と転 移 との 二 つ の 不 都 合 な こ と に 関 連 し て 癌 の 多 様 性(不 均 一 性, heterogeneity)と い う こ と が あ る。 癌 は あ る 程 度 大 き く な る と構 成 す る癌 細 胞 が 性 質 的 に均 一 で は な くな る とい う現 象 で あ る。 そ れ は,細 胞 は増 殖 に伴 って 突 然 変 異 を す る こ と に よ る。 変 異 率 は10-6と い わ れ て い る。 癌 に よっ て は も っ と高 い と も い わ れ る 。 癌 細 胞 が 増 殖 して 106個,容 積 に して1mm3に な る と,そ の 中 の1個 の 癌 細 胞 は変 異 して い る。 変 異 した癌 細 胞 は必 ず し も一 層 悪 性 度 を増 す とか薬 剤 感 受 性 が 変 る とか転 移 しや す くな る とは 限 らず,中 に は致 死 的 に な る細 胞 もあ る か も しれ な い。 しか し,臨 床 で 比 較 的 早 期 に発 見 で きる癌 の 大 き さ を1cm3と す る と,既 に この 時 期 に は103個 の 細 胞 が 変 異 して お り,そ の 中 に は薬 剤 耐 性 細 胞 や転 移 しや す い細 胞 もで て くる。 一 つ の 細 胞 か らで た 一 つ の癌 で あ っ て も 構 成 す る癌 細 胞 に不 均 一 性 の 生 ず る ゆ え ん で あ る 。 癌 を根 治 させ る には 原 則 的 にtotalcellkillを 目標 とす る。 そ れ は癌 細 胞 が1個 で も生 き残 って い る と,理 論 的 に は早 晩 再 発 す る か らで あ る。 従 って 抗 癌 剤 は単 独 で用 い られ る こ とは ほ とん どな く,数 剤 に よ る併 用 療 法 が な さ れ る の が 普 通 で あ る。 そ の 際,1)そ れ ぞ れ 単 剤 で も 有 効 性 が あ る もの,2)作 用 機 序 の 異 な る もの,3)で き る だ け 副作 用 の異 る もの を組 み 合 わせ る。 強 力 な化 学 療 法 は副 作 用 も強 く現 れ る の で,そ れ を克 服 す るた め に い ろ い ろ 補 助 療 法 や 補 助 的 手 段 が 工 夫 さ れ る。 例 え ば BRM療 法,温 熱 療 法 ,骨 髄 移 植,高 栄 養 輸 液 な どの 併 用 や,剤 型 と かDDS(drugdeliverysystem)の 工 夫 な ど で あ る 。薬 自体 の進 歩 に加 え て,臨 床 医 の 苦心 と努 力 の 集 積 に よ っ て今 まで 治 らな か っ た癌 が 治 る よ うに な った し,全 然 反 応 しな か っ た 癌 も少 しず つ 反 応 す る よ うに な っ て きた。例 えば,ウ ィル ム ス腫 瘍,ユ ー イ ング腫 瘍, 子 供 の急 性 リ ンパ 性 白血 病,バ ー キ ッ トリ ンパ 腫,絨 毛 性 悪 性 腫 瘍,ポ ジキ ン病,睾 丸 腫 瘍,皮 膚 癌 な どは あ る 場 合 に は化 学 療 法 だ けで 治 りう る よ う に な っ た し,外 科 的 に 根 治 手 術 をや っ た後 に補 助 的 化 学 療 法 を や っ た 方 が,そ れ をや らな い よ りはず っ と治 る率 が 高 い と い う症 例 も どん どん ふ え て きて い る。 4. 将 来 の 展 望 な ら び に む す び 上 述 の よ うに癌 化 学療 法 は大 変 進 歩 して は き たが,化 学 療 法 だ け で 治 し うる癌 は まだ 限 られ て い る し,ま た, 少 し進 行 した癌 は ど うに もな らな い こ と も多 い 。 もっ と 切 れ 味 の い い新 抗 癌 剤 が 早 く出 て くれ な い か と は癌 専 門 医 の 共 通 した切 実 な望 み で あ る。 す べ て の癌 を化 学 療 法 で 治 し得 る 時 代 が くるか ど うか は 分 らな い が,優 れ た新 薬 を探 す 努 力 は続 け られ て い る。 昔 に 比べ れ ば既 知 の もの よ り一層 優 れ た 新 薬 の 出 る率 は ず っ とす くな くな っ て い る こ と は 事 実 だ が,ま だ砂 に 埋 った ダイ ヤ モ ン ドは あ る に違 い な い と思 わ れ る 。 た と え ば,5FUの 誘 導 体 は 非 常 に沢 山 作 ら れ た が そ の ほ と ん ど は 臨 床 で 無 効 とか,既 知 の5FU誘 導 体 に比 し特 徴 な し とい う理 由で 捨 て られ,こ れ 以 上5FU誘 導 体 は望 み な し と い う声 も聞 か れ た が,私 はRoO9-1390と い う 開 発 中 の 新 規 誘 導 体 に 期 待 して い る 。 こ の物 質 は 図40 の よ う な 構 造 を 有 し,ア シ ル ア ミ ダー ゼ に よ っ て 5ノーDFCRと な り さ ら に 腫 瘍 組 織 中 や 肝 臓 に あ る シ チ ジ ンデ ア ミナ ー ゼ に よ って5'-DFURと な り,腫 瘍 組 織 中 の ピ リ ミジ ンヌ ク レオ シ ドホ ス フ ォ リラ ー ゼ に よ っ て5 FUが 遊 離 さ れ て効 力 を発 揮 す る。 人癌 を植 え た ヌ ー ド マ ウ ス の 治 療 実 験 で み る限 り,RoO9-1390は5'一DFUR (ド キ シ フ ル リジ ン)よ り も よ く効 き,毒 性 は一 層 少 い。 ま た,こ の物 質 は5ノーDFURと 同様 に 癌 悪 液 質 を改 善 す る作 用 を示 す 。こ ん な す ご い物 質が 探 せ ば まだ あ る の だ。 Fig. 40 Ro 09-1390.
天 然 物 由来 や 合 成 ま た は 半 合 成 物 質 中 に全 く新 規 な 物 質,あ るい は誘 導 体 と して 優 れ た抗 癌 剤 が も っ と存 在 す る に違 い ない 。 抗 癌 剤 で は な いが,抗 癌 剤 の副 作 用 を軽 減 す る薬 の 開 発 も大 切 で あ る 。例 え ば,グ ラ ニ セ トロ ン(図41)と か オ ンダ ンセ トロ ン とい う新 しい制 吐 剤 は,従 来 の制 吐 剤 で は ほ とん ど抑 え る こ とが で きな いCDDPに よ る 激 し い悪 心 ・嘔 吐 を予 防 的 に も治療 的 に も抑 制 で きる。 こ の 物 質 は セ ロ トニ ン受 容 体 の 一 つ5HT3Rを 選 択 的 に 拮 抗 す る作 用 を持 ち,そ れ に よ って 悪 心 ・嘔 吐 を予 防 あ るい は速 やか に抑 制 す る。 こ うい っ た副 作 用 防 止 対 策 等,抗 癌 剤 周 辺 の 開発 研 究 も重 要 な研 究 課 題 で あ る。 (平成3年7月25日 受 理) 文 献 1)新 田和 男,病 体 生 理 誌,56,2(1989) 2)新 田和 男,昭 和62年 度 日本化 学 会 中 国 四 国支 部 広 島 地 区化 学講 演 会 講 演 要 旨 集,1988,6 3)新 田和 男,塚 越 茂,編 著,"抗 癌 剤 デ ー タ集", リ ア ライ ズ社,東 京,1984