座屈拘束部材を用いた方杖架構の開発
著者 石川 達郎
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 10
ページ 1‑8
発行年 2021‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00023784
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol. 10(2021年3月) 法政大学
座屈拘束部材を用いた方杖架構の開発
DEVELOPMENT OF A KNEE STRUCTURE WITH BUCKKING RESTRAINING MEMBERS
石川達郎 Tatsuro ISHIKAWA
主査 宮田雄二郎 副査 浜田英明・吉田長行
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
In this paper, buckling restraint braces are used as a device to absorb seismic energy. The scale of the buildings covered in this paper is from residential to medium and large scale wooden structures. The buckling- restrained brace is used in the buckling-restrained frame to prevent the buckling of the Knee or the bending failure of the column and beam at the end of the life of the cane. The buckling restraint brace is used for the Knee frame.
Key Words : buckling restraint brace, Cane Structure, Historical absorption damper
1. はじめに
1987年の建築基準法改正により準防火地域での木造 3 階建ての建築が可能となり、さらに2010年に公共建築物 等における木材の利用の促進に関する法律が施行される と低層系の公共建築は原則として木造化を検討すること が義務付けられたことにより中大規模木造の関心が高ま りつつある。最近では集成材を用いた木質ラーメン構造 の採用が増えつつあり、公益財団法人日本住宅・木材技術 センターや中大規模木造研究会Kiなどにより木造ラーメ ン構造の構造設計セミナーが開催されている。
木質ラーメン構造は鉄筋コンクリート構造や鉄骨構造 と比較し地震時の変形量は大きくなる。木造建築は、接 合部のめり込みやすべり挙動により地震力のような繰り 返しの応力を受けた時に、スリップ型と呼ばれる履歴面 積が小さく強い非線形性の復元力や、急激な剛性・耐力 の低下を起こすという特徴がある。建物の損傷を防ぎ、
その機能と価値を維持させる性能の重要性が再認識され つつある。
大地震を経験した際に機能維持、人命保護を保証する ために住宅規模から中大規模木造建築を対象とし、本論 文では、地震エネルギーを吸収させる装置として座屈拘 束ブレースを方杖ラーメン架構にもちいた。方杖にダン パー部材を用いた先行研究1-2)があるがいずれも住宅規 模を対象としたものである。方杖フレームは終局時に方 杖の座屈、または柱梁の曲げ破壊が生じるため、方杖を 取り付けることによる十分な変形性能を確保すること、
また方杖に用いている鋼材が降伏するまで接合部を適切 に設計することにより地震エネルギーを座屈拘束ブレー スによって吸収させることを目的とし、試験体の設計か
ら解析を行い座屈拘束ブレースを方杖フレームに用いた 際の性能の評価を行う。
2. 試験体設計
(1)方杖の設計
座屈拘束された方杖の概要を図 1,2,3 に示す。
芯材は厚さ t=4.5mm,幅 b=70mm,座屈長さ lk=522mm(=
鋼板フィレット端間距離),材種は SM400A とした。鋼 材ミルシートより,降伏強さσy=293N/mm2,引張強さσ u=430N/mm2である。座屈拘束材は,べいまつの無等級材 150×70 を 2 つ使用する。この座屈拘束材で芯材の平鋼 を挟みこみビスで固定した。基準強度は Fb=28.2N/mm2,
ヤング係数は Ew=10,000N/mm2である。
図1 方杖の概要
図2 芯材と座屈拘束材
図3 方杖(芯材と座屈拘束材の合体)
座屈拘束ブレースが全体座屈を生じさせない条件とし て座屈拘束材に生じる最大曲げモーメント𝑀̅と座屈拘束 材の曲げ降伏モーメントを𝑀𝐵𝑦とすると以下のように表 される。
𝑀𝐵𝑦> 𝑀̅ (1)
𝑀̅ =𝑁𝑦(𝑎 + 𝑠 + 𝑒) 1 − 𝑁𝑦
𝑁𝐵𝑐𝑟
(2)
ここで𝑎:芯材の初期たわみ(mm)、𝑠:芯材と拘束材間のク リアランス(mm)、𝑒:加力点の偏心距離(mm)、𝑁𝑦:芯材の降 伏荷重(kN)、𝑁𝐵𝑐𝑟:拘束材のオイラー座屈荷重(kN)。
芯材と座屈拘束材は密接させた状態でビス止めしてい るためクリアランスはほぼ0であるが試算時はs=1.0(mm) とした。全体座屈拘束条件は𝑀̅/𝑀𝐵𝑦=0.09となり全体座屈 を起こさない条件式を満たしていることを確認した。
芯材の基準強度は235 N/mm2とし,耐力上昇率dα=1.9 を考慮している。また,芯材面内方向の座屈防止として,
芯材両側面に2箇所,芯材とほぼ同厚の木板を設置した。
この木板を固定するために座屈拘束材の側面に幅 50mm の鉄板を設置している。
(2)方杖ラーメン架構の設計
柱と梁に中断面集成材 120×360(E105-F300,オウシュウアカマツ) を用い、方杖部材が降伏するまでに柱梁が先行破壊しな いように図4のような応力条件のもと設計をした。
図4 想定応力状態
まずフレームの降伏耐力を方杖部材に用いている鋼材 4.5×70mm(SN400B)から算出する。
降伏強さより降伏強さ𝜎𝑦= 240(𝑁/𝑚𝑚2)より降伏耐力 𝑃𝒚= 4.5 × 70 × 240/1000 = 75.6(𝑘𝑁)となる。梁芯-柱脚 間 距 離 h=3060mm,方 杖 接 合 位 置 a=1,010mm,ス パ ン
l=1900mmとしたとき柱頭に加わる水平荷重Pは
𝑃 = 𝑃𝑦× 𝑎/(√2ℎ) = 17.6(𝑘𝑁)となる。座屈拘束材軸部が 降伏後に強度が上昇することを想定し、Pを割増率α=1.9 倍した値をフレームの終局耐力Puとしその時点の応力に 対して接合部および柱、梁の終局耐力が上回り破壊しな いことを確認する。𝑃𝑈= 𝛼 × 𝑃 = 1.9 × 17.6 = 33.44(𝑘𝑁) となり、柱に生じる曲げモーメントM柱は
𝑀柱= 𝑃𝑈× (ℎ − 𝑎)/1000 = 68.55(𝑘𝑁・𝑚)となる。
これに対して柱の終局曲げ耐力MU柱は、
𝑀𝑈柱= 𝑍𝑒× 𝐹 = (120 × 3602)/6 × 30 = 77.8(𝑘𝑁・𝑚) と なり柱の曲げ耐力が柱に生じる終局曲げモーメント M柱
を上回ることを確認した。
方杖接合部は鋼板添え板ボルト一面せん断接合としボ ルト本数は6本とした。
試験体図を図5に示す。
図5 方杖試験体図 l
a
a
h
l Ph P(h-a) (l-a)
l Ph -
- l
Ph a Ph
a Ph
-
l Ph
a -Ph P
P
P -
Ph Pa -
2 Pha P
l Ph
l Ph
l Ph l
Ph
3. 載荷試験
(1)試験計画と試験方法
加力は正負交番繰り返し加力とし,繰り返し回数は見 かけの変形角で1/450,1/300,1/200,1/150,1/100,1/75,1/50 時 にそれぞれ3 回,1/30rad 時を1 回とした。その後一方 向に荷重が低下するまで加力した。変位計位置図を図 4 に示す。柱接合部のボルト軸力を計測するためのロード セル3 か所,および方杖軸力を計測するためひずみゲー ジを6 か所設置した。
図6に変位計位置図を示す。
図6 変位計位置図
(2)試験結果
a)全体挙動 図7に荷重-変形角曲線を示す。方杖に加わる軸力が圧縮 の時(せん断変形角が正方向)は引張軸力が加わると木よ りも2割ほど応力が高くなっている。考えられる要因と しては方杖圧縮時に芯材と座屈拘束材間に摩擦力が働い たことが原因であると考えた。
また層間変形角が1/50rad押しの時に図8のように梁下 端が積層方向にせん断破壊していることが確認された。
計算ではせん断耐力による検討をしたが試験では柱頭接 合部が回転することにより梁下端の切り欠き部に柱の回 転による摩擦力が働き割裂破壊が生じたものと考えられ る。
図 7 荷重-変形角曲線
図 8 梁下端の割裂破壊
図 9 柱の曲げ破壊
梁端部を補強した後載荷試験を再開した。図 9 に柱の曲 げ破壊の様子を示す。層間変形角が 1/27rad 時に方杖接 合部で柱の曲げ破壊が確認された。
柱が曲げ破壊した理由は,ボルトの断面欠損を考慮して いなかったためと考えられる。また図 10 の方杖応力度- ひずみ曲線から明確な降伏点を持たず応力が上がりきっ てしまったことも母材の曲げ破壊が生じた要因と考えら れる。応力が上がりきった原因として使用した鋼材の材 種が SM400B 材を用いたことが考えられる。鋼材ダンパー に用いられる鋼材として LY225 材といった明確な降伏点 の規定がされている材を用いなかったことにより応力が 安定せず上がりきってしまった。
図 10 方杖応力度-ひずみ曲線
図 11 に層間変形角が 1/50rad 時までの方杖フレームの 層せん断力-変位曲線とダンパーの応力-変位曲線を示し、
図 12 に層間変形角が 1/50rad から終局までの方杖フレー ムの層せん断力-層間変位とダンパーの応力-変位曲線を 示す。
-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40
-40 -20 0 20 40 60
荷重(KN)
せん断変形角(×10-3rad.) 見かけのせん断変形角 真のせん断変形角
-500 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500
-1.1 -0.6 -0.1 0.4 0.9 1.4
応力度(N/㎟)
ひずみ(%)
方杖 応力度-ひずみ曲線
図 11 θ=0~1/50rad まで
図 12 θ=1/50rad~1/27rad(終局)
図 11 からダンパーの応力-変位曲線はほぼダンパーで 変形しておらずダンパーの履歴曲線も小さい。このこと から層間変形角が 1/50rad まではダンパーは降伏してお らず接合部の変形や柱-梁の曲げ変形によるものが支配 的であることがわかる。図 12 からフレームの履歴曲線の ふくらみとダンパーの履歴曲線のふくらみが大きくなっ ていることから芯材の降伏した変形角は 1/50rad から 1/30rad までの間で降伏したと考えられる。
b)変形分担
筒井、坂田ら3)による研究を参考に本試験で得られた層 間変形に対する各部の変形寄与を算出し変形分担による ダンパーの制振効率を述べる。図13に層間変形に対する 各接合部の変形に示す寄与と変形比を示す。ダンパーの 変形量𝑢̂𝑑は幾何学的関係から𝑢̂𝑑= 0.17uとなる。またダ ンパー接合部の層間変形に対する寄与を𝑢𝑑= 𝑢̂𝑑⁄0.17と して算出した。また𝑢𝑝=ダンパー接合部による滑り・めり 込み変形の寄与、𝑢𝑎=柱頭、柱脚部における軸変形量の寄 与とし、架構の曲げせん断変形の寄与𝑢𝑚を、𝑢𝑚= 𝑢 − (𝑢𝑑+ 𝑢𝑎+ 𝑢𝑝)として計算し算出した。これらは変形角が 1/100rad~1/30rad時の正負1回目の各変形の平均値で定 義し評価する。
図13 変形寄与と変形比
図14 変形分担(左:θ=1/50rad) (右:θ=1/30rad)
図14の変形分担からθ=1/50rad時までは架構の曲げ 変形の寄与がおよそ67%を占めておりダンパーの変形の 寄与はわずか 16%であるのにたいしてθ=1/30rad 時に はダンパーの変形寄与が48%とおよそ半分を占めている ことがわかる。このことから層間変形角が 1/30rad 時に は芯材が降伏していることがうかがえる。より制振効率 を高めるためには接合部の変形を小さくする高剛性な接 合部の開発が課題となった。
c)耐力壁特性値一覧
表1に耐力壁特性値、表2に短期基準耐力,図15に骨 格 曲 線 を 示 す 。 間 変 形 角 1/27(rad)時 に 最 大 耐 力 Pmax=32.4(kN)を迎えすぐに終局耐力に達した。これは 方杖接合部で曲げ破壊が生じたことが原因である。塑性 率はμ=2.15 で構造特性係数 Ds=0.551 に決定し方杖フ レームが強度型の耐力特性を示した。
短期基準せん断耐力 PaはP150=11.15(kN)となった。
初期剛性の値が低いことから層間変形角1/150rad時での 応力が最小となって決定した。方杖の降伏耐力から計算 した降伏耐力は Py=17.4(kN)に対して、実験値の結果は P=21.4(kN)となり概ね予測可能な結果となった。壁倍率 は5.7倍となった。
表1 耐力壁特性値
表2 短期基準耐力
図15 骨格曲線
-150 0 150
-2 0 2
ダンパー応力(kN)
変形(㎜) ダンパー
-30 -15 0 15 30
-80 -40 0 40 80
荷重(KN)
変形(mm) フレーム
-200 -100 0 100 200
-6 0 6 12
ダンパー応力(kN)
変形(mm) ダンパー
-40 -20 0 20 40
-200 -100 0 100 200
荷重(KN)
変形(mm) フレーム
u=1
u^d=0.17
軸変形寄与 軸変形寄与 滑り変形寄与
軸変形寄与 滑り変形寄与
滑り変形寄与 軸変形寄与
軸変形寄与 滑り変形寄与 軸変形寄与
最大耐力 終局耐力 剛性 塑性率 降伏点変形角 終局変形角 構造特性
(kN) (kN) (103kN/rad) (10-3rad) (10-3rad)
方杖 32.4 31.2 1.50 2.15 20.8 44.6 0.551
試験体名 𝑃𝑚𝑎 𝑃 𝑠
壁倍率 方杖 21.4 11.31 21.58 11.15 5.7 試験体名
試験特性値 (kN)
0.2𝑃 2 − 1 (2 3⁄ )𝑃𝑚𝑎 𝑃150 𝑃𝑦
0 5 10 15 20 25 30 35
0 10 20 30 40 50 60
荷重(kN)
変形角(×10-3rad)
真のせん断変形角 完全弾塑性
4. 増分解析
(1)接合部のモデル化
図 16 単軸ばねモデル図
フレーム解析のモデル化する際,接合部の剛性を入力 する必要がある(図16)。接合部の剛性には,①引張ボ ルトの座金のめりこみ,②ボルトの伸び,③ホールダウン 金物のせん断変形,④鋼板添え板ボルト1面せん断接合 のせん断変形,⑤圧縮を負担する金物,柱が接合する桁ま たは土台側のめりこみ変形,⑥柱側面の支圧によるめり こみを考慮する。文献4)から各接合部剛性を算出した理論 式は以下のようになる。
𝑐=𝑥0𝑦0𝐶 2𝑚𝐶𝑦2𝐸⊥
𝑍0 (𝑘𝑁/𝑚𝑚) (3)
𝑠= 1
2𝐿1′ (kN/mm) (4)
𝑡=𝐸𝑡𝐴𝑡
𝑙 (𝑘𝑁/𝑚𝑚) (5)
ここで式(3)はめり込み基準式から算出されるもので 𝑥0,𝑦0はめり込み幅、𝑍0はめり込みせい、𝐶 2𝑚, 𝐶𝑦2はめり 込み部と余長に関する定数、𝐸⊥は繊維直行方向のヤング 係数である。式(4)は方杖接合部のせん断剛性を求めるた めに用いた。弾性床上の梁理論式より算出され𝐿′1はボル トの単位長さ当たりのめり込み剛性とボルトの断面二次 モーメントから導き出される値である。なお試験時には ボルト径に対してクリアランス孔の大きさが 2mm ほど 大きいためクリアランスを考慮したせん断剛性を用いた。
式(5)はボルトの軸剛性を現すもので𝐸𝑡はボルトのヤング 係数、𝐴𝑡はボルトの軸断面積、𝑙はボルト長さである。
(2)復元力特性
鋼材が降伏ひずみに達したのちにひずみが 1%まで明 確な降伏棚を持ち、ひずみが 5%に達したのちに最大耐力 に達する挙動を表現すること、鋼材の履歴曲線をより高 精度にモデル化するため、曲線で履歴を表現すること
以 上 を 踏 ま え て 、 復 元 力 特 性 に は 改 良 型 Ramberg- Osgoodモデルを用いた。以下表3に各パラメータを、図 17にramberg-osgoodモデル図を示す
表 3 パラメータ
図 17 ramberg-osgood モデル
(3)解析結果 a)全体挙動
図18にフレームの荷重-変形角曲線とダンパーの応力- 変形曲線を示す。フレームの荷重-変形角曲線から試験結 果と解析結果を比較すると最大耐力に差があり試験結果 のおよそ 8割の値となっている。復元力特性を試験時に 用いた鋼材ミルシートから降伏耐力、最大耐力を算出し たがダンパーの応力-変形曲線から鋼材の降伏応力に差が あることがわかる。方杖が圧縮時の応力が解析モデルと 一致していないことから方杖芯材と拘束材間の摩擦によ る圧縮応力時に応力が上がったことが原因であると考え た。
図 18 (荷重-変形角曲線(左:フレーム、右:ダンパー)
b)接合部のせん断剛性
図19に方杖接合部のせん断応力—変位曲線を示す。図 から荷重が 20(kN)までは変形が進まず応力が上がり、
その後は変形がおよそ 2mm を超えるまでは応力の上 昇が緩やかになっている。初期剛性が高い原因として 施工の際にボルト締め付けによる初期張力によって摩 擦力が働いたのではないかと考えた。
P1 P2 P3 P4 P5 α β Fy Fc
0 3 1 35.75 35.75 7.15 0.05 92.3 135.4
3Ks
1Kt,1Kc,1Ks,1Kθ
2Kt,2Kc,2Ks
4Kt,4Kc,4Ks,4Kθ
6Kt,6Kc
5Kt,5Kc
3Kt,3Kc,3Kθ
-40 -20 0 20 40
-60 -30 0 30 60
荷重(kN)
せん断変形角(×10-3rad.) フレーム
見かけのせん断変形角
解析結果 -200
-100 0 100 200
-10 -5 0 5 10 15
荷重(kN)
変位(mm) ダンパー
解析結果 試験結果
図 19 方杖接合部 せん断応力-変位曲線
5. 座屈拘束ブレースの引張圧縮試験
(1)試験体概要
試験結果をもとに改良した座屈拘束ブレースの引張圧 縮試験を行った。試験体NO1~3は座屈拘束材に米松KD 材を用い、試験体NO4~NO11はLVL材を用いた。弱軸 拘束として試験体NO5までは径8mmのパネリードXを 用い、試験体NO6~NO12は径6mmのパネリードⅡを用
いた。NO1~NO10までは強軸補剛としてラワン合板を表
4 に示すピッチで配置し、タッピンねじで止付けた。
NO11,NO12 は強軸方向の補剛として一枚の木板に変更
したものを用いた。図20にNO7の試験体図を示す。
以下に使用材料を示す。
表4 試験体特徴
図20 試験体図(NO7)
(2)試験計画
以下に使用材料を示す。
芯材形状:塑性化領域の幅b:30mm、厚さt:6mm、長さ l:940mm、芯材材種:LY225(ミルシートより、
降伏強さ𝜎𝑦: 227𝑁/𝑚𝑚2、引張強さ𝜎𝑦: 321𝑁/𝑚𝑚2) 座屈拘束材:120×60、国産カラマツLVL、1級140E-
450F 60V-51H (NO4~NO12)
加力サイクルは TYPE1~TYPE9,TYPE11,TYPE12が 正負漸増繰り返し載荷とし、TYPE10では軸歪±1%での 繰り返し載荷とした。
(3)試験結果
図21に試験体NO1,NO6,NO12の応力度-ひずみ曲線を
示す。
図21 応力度-ひずみ曲
試験体NO1では圧縮ひずみが1.5%で弱軸方向に座屈 した。座屈拘束材をLVLに変更した試験体NO4からは 圧縮ひずみが2.5%まで耐力低下せず安定した応力度-ひ ずみ曲線を描いた。NO4とNO6を比較するとNO6は圧 縮ひずみが3.5%まで耐力低下せず、性能が向上してい ることが確認された。強軸補剛を一枚の木板に変更した
試験体NO11,NO12は圧縮ひずみ2.5%まで耐力低下を遅
さないことを確認した。図22,23に試験写真を示す。
図22 試験体NO7載荷前
図23 試験体NO7 局部座屈 試験体 座屈拘束
材
弱軸拘束 (ビス)
強軸拘束 (木板)
くびれ 角度(度)
NO1~3
米松
KD材 パネリード X PX8-110
@160~170 26.6
NO4
国産カラ マツLVL
@85
45
NO5 @120
NO6~10 パネリード
Ⅱ P6X110- 2+
@85
NO11 PL22@120
NO12 PL16@170
6. 4 層木質ラーメン構造の効果検証
(1)モデルプランの概要
載荷試験結果、増分解析の結果を踏まえて中層木質構 造の建物に方杖フレームを組み込んだ際のエネルギー吸 収効果を検証する。用いる建物のモデルは中大規模木造 研究会Kiが一般公開している4層木質ラーメンフレーム (以後Ki試設計と呼ぶ)をもちいた。Ki試設計と同様の層 せん断力を方杖フレームに与え層間変形角が1/200rad 以 下であることの確認を行う。変形角の条件を満たしてい ることが確認されたらKi試設計の立体フレームモデルに 方杖を取り付けた場合の増分解析から保有水平耐力を確 認、引きボルトラーメン接合から方杖フレームに変更す ることによっても必要保有水平耐力を上回ることを確認 する。また、増分解析から得られた荷重-変形曲線を用い て質点系モデルに置換し時刻歴応答解析を行い応答性状 を確認する。以下図24,25に伏せ図、ダンパー設置図を示 す。表5に検討モデルを示す。
図24 伏せ図
図25 ダンパー設置図
表5 検討モデル
(2)静的応力解析結果
静的応力解析結果を表6に示す。Ki試設計から柱-梁断 面を小さくした TYPE1のモデルでは層間変形角が1/200 を超えてしまうことが確認された。TYPE3は層間変形角
は1/200以下より条件を満足しているが同じ柱-梁断面の
Kiモデルより2層で変形が大きくなることが確認された。
クリアランスの影響をなくしたTYPE2,TYPE4ではどち らも層間変形角が1/200以下になることが確認された。
必要方杖フレーム数はTYPE2,TYPE3の場合は層間変 形角がKi試設計とほぼ同じため13フレーム必要となり、
TYPE4の場合は1/247÷1/359=1.45より13÷1.45=8.96 より13フレームから10フレームに減らせることが確認 された。
表6 層間変形角
(3)増分解析
立体フレームモデルを作成し増分解析を行い、4層方杖 ラーメンフレームの保有水平耐力を確認した。保有水平 耐力Q は層間変形角が1/50rad時のせん断力とし、構造特 性係数Ds算定に用いる終局変位𝛿uを層間変形角が1/30rad 時の変位とした図26にTYPE2における層せん断力-層間 変位曲線を示す。表7にTYPE2の保有水平耐力を示す。
表から2層、3層の構造特性係数Dsが0.5を超えており 必要保有水平耐力が大きくなっている。塑性率を大きく するには柱-梁断面を大きくする必要がある。
階 Ki TYPE1 TYPE2 TYPE3 TYPE4
4F 1/345 1/273 1/507 1/571 1/969
3F 1/344 1/179 1/298 1/313 1/500
2F 1/247 1/147 1/233 1/237 1/359
1F 1/257 1/222 1/346 1/435 1/622
検討 モデル
柱-梁
接合部 柱-梁断面
鋼板添え板 ボルト 一面せん断
接合部
芯材 LY225
KI 試設計
引き ボルト
接合 (半剛)
梁幅B:210,
梁せいD:600 ― ―
TYPE1
ピン接合
梁幅B:180, 梁せD:450
クリアランス
考慮 幅b:60(mm)
厚さt:9(mm) TYPE2
クリアランス 非考慮
TYPE3
梁幅B:210, 梁せいD:600
クリアランス
考慮 幅b:70(mm)
厚さt:15(mm) TYPE4
クリアランス 非考慮
G75 G60
FG1 G60 G60
WC1WC1WC1WC1 WC1WC1WC1WC1
4003200320032003200
表7保有水平耐力
図26 TYPE2 層せん断力-層間変位曲線
(4)応答解析
Ki試設計と層間変形角が 1/200以下になることを確認 できたTYPE2~TYPE4を質点系モデルに置換し、時刻歴 応答解析を行った。Ki試設計と方杖ラーメンフレームの 各層の質量とせん断剛性を表8に示す。Ki試設計の復元 力特性は、スリップ挙動や剛性低下といった木質構造の 接合部の力学挙動を再現するため、Wayne-Stewartモデ ル(以下WSモデル)を採用した。方杖フレームの復元力特 性 は エ ネ ル ギ ー 吸 収 部 材 の 効 果 を 考 慮 し 、ramberg- osgoodモデルを用いた。
解析方法はNewmark-β法の増分法(β=0.25)を用いた。
入 力 地 震 波 は El Centro1940NS、Taft1952NS、 Hacinohe1968NSの3波であり、それぞれレベル2の地 震動を想定し、50Kineで基準化した。
表8 節点質量とせん断剛性
図27 層間変形角(左:Ki,右:TYPE3)
図27にKi 試設計とTYPE3の最大層間変形角図を示
す。Ki 試設計では3層で層間変形角が1/31radまで変形 していたのに対して、変形角が1/65と層間変位を半分以 下に抑えられることを確認できた。
7. まとめ
本論文では中大規模木質構造を対象とした座屈拘束ブ レースを開発し、方杖ラーメンフレームの試験体設計か ら載荷試験、解析モデルとの比較、座屈拘束ブレースの要 素試験、4層木質ラーメンフレームを想定した方杖架構の 座屈拘束ブレースの性状を確認した。使用した鋼材が
SM400 材であることから応力が上がりきってしまい安定
した応力度-ひずみ曲線を描かなかった。変形分担から層
間変形角 1/50~1/30rad 時に鋼材の降伏が確認された。方
杖フレームの短期基準耐力は層間変形角が 1/150rad 時の 耐力で決まり、壁倍率は5.7倍となった。計算では降伏耐 力で決まると仮定し、壁倍率は8.8倍であったが、試験結 果は特定変形角時の耐力で決まった。変形分担から柱-梁 の曲げ変形の寄与がおよそ70%を占めていることから、
柱-梁断面の性能に大きく依存することが分かった。解析 モデルの最大耐力は試験結果の最大耐力の 8割の値とな った。試験結果では方杖に圧縮応力が加わるときの層せ ん断力が高くなることから芯材の復元力特性のモデル化 が正確に再現できていないことが確認できた。ボルト接 合部のモデル化は試験結果では応力が 20(kN)まで初期剛 性が高くその後変位が2mmを超えるまでは変位が進む傾 向がみられた。クリアランス、摩擦の影響が考えられるた め今後要素試験を実施し性状を把握する必要がある。座 屈拘束ブレースの要素試験では圧縮ひずみが 3.5%まで 座屈しないことが確認された。4層木質ラーメンフレーム 解析では方杖接合部の剛性にフレームの性能が大きく左 右されるため、接合部剛性を高める設計法が課題となっ た。方杖を組み込むことにより層間変形角を小さくする ことができることが確認された。
謝辞: 本研究を遂行する機会を与えてくださったすべて の 方々に感謝致します
参考文献
1)笠井和彦,山崎義弘他:方杖型ダンパーを持つ木質架構 の動的挙動と簡易評価法,日本建築学会構造系論文集,
Vol664,pp.1109-1118,2011.6
2)宮津裕次,曽田五月也:方杖型圧効きオイルダンパを設 置した木造軸組の力学モデルの構築,日本建築学会構 造系論文集,Vol.660,pp.363-370,2011.2
3)笹井和彦、和田章他:K型ブレースによるシアリンク 制振機構を用いた木質架構の動的挙動、日本建築学会 構造系論文集、Vol.598p51-60、2005
4)一般社団法人日本建築学会:木質構造設計基準・同解説
-許容応力度・許容耐力設計法-, 2006年12月
層 質量 (t)
せん断 剛性(Ki) (kN/mm)
せん断 剛性 (TYPE2) (kN/mm)
せん断 剛性 (TYPE3) (kN/mm)
せん断 剛性 (TYPE4) (kN/mm)
4層 38.08 12.65 12.56 14.93 26.85
3層 50.78 18.12 16.42 21.99 35.88
2層 51.22 22.05 18.80 26.34 40.15
1層 51.98 34.12 36.44 44.46 64.70
層 Ds Fes Qud Qun Qu Qu/Qun 判定
4層 0.445 1.00 688 306 423 1.38 OK
3層 0.525 1.00 1220 640 714 1.11 OK
2層 0.551 1.00 1620 892 911 1.02 OK
1層 0.453 1.00 1908 865 1100 1.27 OK