細見美術館 : 展覧会とコレクションの活用
著者 福井 麻純
雑誌名 阡陵 : 関西大学博物館彙報
巻 61
ページ 6‑7
発行年 2010‑09‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00023914
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細見美術館一展覧会とコレクションの活用
1 はじめに
細見美術館は京都市左京区岡峙の地に平成 10年3月に開館した。展覧会の主軸となる細 見コレクションは、初代細見良 (1901‑79)、 二代細見官 (1922‑2007)、三代細見良行 (1954 ー)が三代に渡って蒐集した日本の古美術が 中心となっている。内容は縄文・弥生時代の 考古類から、平安時代の仏教美術、鎌倉・室 町の神仏習合の美術、絵巻、水墨画、根来や 茶の湯釜、桃山から江戸初期にいたる近世初 期風俗画、琳派、若沖ら近世絵画など、さまざ まな時代、分野を網羅する。美術館では、これ らのコレクションを中心に企画展示を行ってい るが、近年では所蔵品にとどまらず、中国、ア ジアといった広い分野の美術を紹介している。
敷居が高いと思われがちな日本芙術の美術 館。細見美術館では、館全体を日本美術に親 しむ場として利用してもらうことをH標とし、
ミュージアムショップやカフェ、茶室を併設 し、 ワークショップや茶会などを開催し、堅 苦しく思われがちな日本美術に一歩近づいて
もらう試みを続けている。
美術館外観
ここでは当館の展覧会企画とコレクション の活用について、小規模美術館という立場か
ら考えてみたい。
2 リクエスト展の開催
細見美術館は、企画展のみの美術館である が、よくある問い合わせが「常設展は何をし ていますか」という質問である。お目当ての 作品があるのか、当館が企画展のみの美術館 で常設展示は設けていないことを伝えると、
がっかりされることがある。これは海外から
福 井 麻 純
の来館者も同じで、ホームページで見たよう な館を代表する作品が見られず残念だと言う人 もいる。企画展の内容に即していない所蔵品に ついては、見てもらうことはできないのである。
一般に個人のコレクションを展示公開して いる美術館では、「名品展」という形でさまざ まな分野の所蔵品を紹介する館が多い。特に 観光で来館する人にとっては、まずは美術館 の概要を知りたい、どんな作品を持っている のか知りたいと望む傾向がある。また個人コ
レクターの蒐集品が基本であるから、その人 ~
がどういう人物であったのか、という点に興 味を抱く人も多い。しかし、 H本美術はその 材質から常に展示することはできない。コレ クションを保管し、いつ展示するかという問 題と、来館者の希望をどのように受けとめるか という難しい課題が横たわっているのである。
このような状況から、コレクションの全体 を紹介し、さまざまなジャンルの作品が見ら れる展覧会として企画したのが「リクエス ト 展」である。これは来館者のアンケートをも
とに展示作品、展示構成を決めていくという もの。館側が名品であると決めて展示するので は、来館者は見るがままにそれを受入れてしま う。そこで来館者にどの作品が好きか、どの作 品を見てみたいかアンケートをとることで、コ レクションヘの興味を持ってもらう機会となれ
ばと考えた。 ‑
あらかじめエントリー作品を70点ほど抽出 し、来館者に好きな作品、見たい作品に投票 してもらう方法をとった。アンケート結果は、
予想どおりであった部分と、意外だった面があ る。予想どおりだったのは伊藤若沖への人気の 集中、また、酒井抱ーら琳派の人気も高かった。
これは美術館の企画でよく扱っている近世絵画 の所蔵品を多くの人に知ってもらえていること を裏付ける。一方で「普賢菩薩像
J
、「愛染明王像J
といった平安時代の仏画への高い関心や、書の 展示希望も多かった。これらはなかなか展示す る機会のない作品であるため、この企画で展示 することが望ましく思われた。
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展覧会では得票数でランキングを発表、展 示するとともに、ランキング外の作品と併せ て4つほどのジャンルやテーマを設けて展示 することで、さまざまな作品が見られる内容
展示室内の様子
とした。自分のお気に入りがどれくらい人気 が あ る の か と い う 興 味 か ら も 見 て も ら え た だ ろ う 。 職 員 も 投 票 に は 参 加 し 、 ま た 館 長 の お薦め作品を鑑賞ポイントとともに紹介する コーナーを設けるなど、コレクションを通じ て 日 本 美 術 に 親 し め る よ う 工 夫 を 行 っ た。作 品の解説を馴染みのある言葉遣いに変えてみた り、縦書のキャプションを横書にしてみるなど、
ちょっとしたことではあるが、堅苦しい日本美 術というイメージを少しでも和らげるように考 えた。名品を並べて見てもらうだけではなく、
来館者の視点から展示を考えることで、展示す る側としても学ぶところが多かった。この展覧 会は毎年夏に実施し、計7回開催することがで きたが、その間に行ったアンケートは、来館者 の好みを知るだけでなく、来館者の声を聞く機 会となり、展覧会作りに生かされている。昨年 と本年に行っている「アートキャンパス展」は、
リクエスト展から発展し、コレクションを通じ てH本美術を学べる企画としてスタートしてい る。
3 定番となった琳派展
また小規模美術館としては、館の得意分野 を示すことも必要であるだろう。細見コレク ションの中核をなす琳派は広く人気があり、
展 示 希 望 も 多 い こ と か ら 、 当 館 で は 毎 年 秋 に
「琳派展」を開催している。本年13回目を迎え る が 、 コ レ ク シ ョ ン の み な ら ず 、 他 所 か ら の 借用も含め、琳派をさまざまな切り 口で 紹 介 し、当館では定番企画となった。画家個人で いえば、 俵屋宗達、酒井抱一、鈴木其ー、中村 芳中、神坂雪佳などを扱ったほか、和歌や古典、 草花などをテーマに琳派展を行ってきた。
そ の 都 度コレクションが展覧会の大部分を 占めるのであるが、同じ作品でも展覧 会のテー マによって新たな視点から捉えることができ るため、学芸員としてはよく接している作品で はあっても、企画によって異なる角度から作品 と向き合うことになり、さまざまな発見がある。
細 見コレクションの琳派の特徴は、琳派を 通 史 で み る こ と が で き る と い う 点 で あ ろ う 。 コレクターというのは、好きな画家の作品を 集中的に集める場合も多く、その集中がコレ クションとしての希少性や価値を高めている といえる。しかし細見 コ レ ク シ ョ ン に お い て は 、 琳 派 の 主 要 作 家 、 例 え ば 本 阿 弥 光 悦 や 俵 屋 宗 達 、 尾 形 光 琳 や 乾 山 、 酒 井 抱 ー や 鈴 木 其 ー の み な ら ず 、 そ の 弟 子 に あ た る 作 品 、 喜 多
Jil相説や「伊年」印、渡辺始興、深江芦舟、「成 乙 」 印 、 江 戸 琳 派 の 画 家 な ど 、 断 続 的 な 琳 派 の流れを繋ぐ作家たちの作品も蒐集している。
琳派の共通項を見出したり、あるいはそれぞれ の個性をコレクション全体から見渡せる利点が ある。私淑関係で築かれた琳派の絵師たちは、
独自の琳派解釈を通して自らの作風を展開して いるため、画系として辿るには曖昧な部分もあ る。従って、琳派展は、細見美術館なりの琳派 像というものを提示できる機会となっており、
琳派というひとつのテーマを館として追求して いこうという姿勢を示す展観となっている。
4 おわりに
個人コレクションを基盤としている美術館 で あ る 限 り 、 コ レ ク シ ョ ン を ど の よ う に 展 示 に 活 用 す る か が 謀 題 と な る 。 コ レ ク シ ョ ン の 全 貌 を 伝 え る 企 画 、 あ る い は 得 意 分 野 を 強 調 し て 行 う 企 画 な ど 、 小 規 模 館 な ら で は の 工 夫 を行うことで、一度行ってみようと思える、
ま た 何 度 も 足 を 運 ん で も ら え る 美 術 館 と な れ ばと考えている。
ま た 今 回 紹 介 し た よ う な 展 覧 会 を 自 館 で 行 う 一 方 で 、 コ レ ク シ ョ ン を 紹 介 す る 企 画 を 他 の 都 市 で も 積 極 的 に 開 催 し て き た。そ れ は 公 立・私立美術館であったり、百貨店であったり、
規 模 も さ ま ざ ま で あ る が 、 美 術 館 を 知 っ て も らう機会としては有効である。
展覧会を企画する立場としては、原点である 気軽にH本美術に親しむ場として機能している かどうかを意識しているが、同時に作品の状態 や安全という点は、配慮すべきである。日本美 術の楽しみを知ってもらう場として、また作品 を後世へ伝える美術館としての役割について、
作 品 を 扱 う 学 芸 員 と し て 将 来 を 見 据 え て 向 き 合っていくべき問題であると考えている。
細見美術館
京都市左京区岡綺最勝寺町6‑3 電 話075‑752‑5555
http://www.emueum.or.jp
財団法人細見美術財団細見美術館 学芸貝
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