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既存研究の概況と今後の研究の方向性

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(1)

撤退の意思決定に関する理論的検討 (1):

既存研究の概況と今後の研究の方向性

The determinants of business exit decisions (1):

An overview of existing research and future directions

渡辺 周

東京外国語大学大学院総合国際学研究院

WATANABE Shu

Institute of Global Studies, Tokyo University of Foreign Studies

1. はじめに

2. コミットメント・エスカレーションの既存研究   2.1. コミットメント・エスカレーションとは何か   2.2. エスカレーション研究の理論的進展と残された課題   2.3. エスカレーション研究の実証的進展と残された課題   2.4. 本節のまとめ

3. 望ましい意思決定をもたらす仕組みとしてのコーポレート・ガバナンス   3.1. コーポレート・ガバナンスの全体像

  3.2. 経営者交代   3.3. 外部取締役   3.4. 本節のまとめ

4. 暫定的な結論:今後の研究における課題

キーワード:撤退,意思決定,コミットメント・エスカレーション,経営者交代,外部取締役 Key Words: business exit decision, escation of commitment, executive turnover, outside director

ᮏ✏䛾ⴭసᶒ䛿ⴭ⪅䛜ᡤᣢ䛧䚸 䜽䝸䜶䜲䝔䜱䝤䞉 䝁䝰䞁䝈⾲♧㻠㻚㻜ᅜ㝿䝷䜲䝉䞁䝇䠄㻯㻯㻙㻮㼅㻕ୗ䛻ᥦ౪䛧䜎䛩䚹 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

(2)

要旨

本稿の目的は

撤退の意思決定に関する既存研究を収集

整理することで

今後の研究課題を示 し

さらに

それにどのような視座を持って取り組むべきかを理論的に明らかにすることにある

具体的 には

まずコミットメント

エスカレーションの研究を概観し

ほとんどの研究は実験研究であり

実社会 のデータを用いた研究が少ないため

企業で撤退の意思決定が適切な時期になされないのはなぜか

とりわけ組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進し

逆に阻害するのか

といった問題が残されて

いることを指摘する

その上で

今後の研究においては

組織の仕組みとして

コーポレート

ガバナ ンス

その中でも特に

経営者交代と外部取締役の影響を検討するのが有望であると考えられることを

議論する

Summary

The purpose of this paper is to review the existing research on the determinants of business exit decisions, to present future research directions, and to theoretically clarify what perspective we should take on it. Specifi cally, we begin with an overview of the research on the escalation of commitment and point out that most of the research use experimental method and therefore there are few studies using real-world data, so questions remain as to why withdrawal decisions are not made at the appropriate time in companies, and in particular, what kind of organizational mechanisms promote and inhibit withdrawal decisions. We then argue that in future research it would be promising to examine corporate governance as a mechanism of corporate control and, in particular, the effects of managerial turnover and outside directors.

1.  はじめに

本稿は

撤退の意思決定に関する一連の研究の第一部を記したものである

一連の研究とは

撤 退の意思決定に関してこれまでに為されてきた研究を収集の上

整理することで

今後の研究課題を 示し

さらに

それにどのような視座を持って取り組むべきかを理論的に明らかにすることを目指す研究 である

本稿はこの一連の研究の第一部であるから

個々の研究の細かな内容に立ち入り検討するよ りも

既存研究の概況と今後の研究の方向性をおおまかに確認することを目的としている

具体的には

本稿では

大きく2つの既存研究群を以下の順番で検討していく

まず第

2

節では

コミットメント

エスカレーションの研究を概観する

コミットメント

エスカレーション

以下ではエスカレーシ ョンと略す

とは

損失の生じている案件であっても

そこからの撤退ではなく維持を選ぶことである1)

つまり

本論文と同じように

撤退の意思決定に注目し

その要因を明らかにしようとしている研究群で

(3)

ある

当該研究は

プロジェクト要因から

個人の心理的要因

対人

社会的要因までエスカレーシ ョンを引き起こす様々な要因を明らかにしており

その知見は

撤退を促進ないしは阻害する要因を明 らかにする上で

中心的に参照すべき研究であることをここでは議論する

しかし

ほとんどの研究は 実験研究であり

実社会のデータを用いた研究が少ないため

企業で撤退の意思決定が適切な時期 になされないのはなぜか

とりわけ組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進し

逆に阻害するのか

といった問題は直接的には分析されていないことを指摘する

続く第

3

節では

コーポレート

ガバナンスに関する議論を概観する

コーポレート

ガバナンスとは

企業の意思決定を実質的に担う経営者を制御し

時には交代されることでそれを規律付ける仕組みで ある

つまり

先の第

2

節で検討したコミットメント

エスカレーションのような問題が起こらないようにする 仕組みが

コーポレート

ガバナンスなのである

ここでは

既存研究の検討を通じて

経営者交代 と外部取締役が経営者を規律付ける中核的な仕組みだと考えられることを明らかにする

しかしながら

その上で

外部取締役の影響に関しては

望ましい結果をもたらすとする研究もあれば

そうでないと する研究もあり

分析結果は一貫していないことを指摘する

以上の議論をもとに

4

節では

今後の研究の方向性に関して

暫定的な結論をまとめる

具 体的には

撤退の意思決定に関して

経営者交代と外部取締役の影響を検討することが今後の研究 において必要であること

しかし

それがどのような影響を与えるかは

他の研究群の知見を参照しな がら

別途検討する必要があることを述べる

2.  コミットメント・エスカレーションの既存研究

本節では

撤退の意思決定に注目した研究として

コミットメント

エスカレーション研究を概観する

撤退の意思決定という本研究と同じ現象に注目した既存研究を概観することで

残された課題を確認す ると共に

それを克服するための指針を獲得することが本節の目的である

2. 1.  コミットメント・エスカレーションとは何か

コミットメント

エスカレーション

もしくは単にエスカレーションとは

期待通りの結果を生み出していない か損失の生じている投資に関して

そこからの撤退ではなく維持することと定義されている

(Staw, 1976,

1997). Staw (1976) は ,

この概念を提唱すると共に

その要因の

1

つは個人的責任にあることを実験

研究によって示した

具体的には

失敗した投資に対して個人的な責任を持っている意思決定者と

個人的な責任を持たない意思決定者を作り出し

前者の方が

その投資に対してより多額の追加的金 銭投入を行う傾向にあることを示した

個人的責任によってエスカレーションが起こりやすくなるのは

認 知的不協和が生じ

投資を自己正当化しようとする傾向が出てくるためである

それゆえ

それ以降の 研究も併せて考えると

失敗したという情報が与えられると

次のような心理的プロセスが生じると考えら

(4)

れる

すなわち

個人的な責任がある意思決定者は

①そもそもその情報を認めようとせず

(Caldwell and O’ Reilly III, 1982; Conlon and Parks, 1987),

②投資案件の状況が好転すると信じ (Rubin and

Brockner, 1975),

③損失が生じたことで

よりリスク

テイクする傾向が出てくる

(Whyte, 1986).

それ ゆえ

さらなる追加的投資をするようになるのである

Staw (1976)

の先駆的実験では

追加的投資をすることをエスカレーションを呼んでいた

しかし

近年の研究では

維持か撤退かの選択を確認し

維持が選ばれれば

エスカレーションだとすること が多い

例えば

, Staw, Barsade and Koput (1997)

問題のある融資の額に対して積まれる貸倒 引当金や直接償却される額が少ないことをエスカレーションだとしている

. Guler (2007) も ,

乏しい成果 の投資を維持することをエスカレーションだと定義し

, Staw and Hoang (1995) も成果の低い NBA

選手 を使い続けることをエスカレーションだとしている

これらの研究における意思決定者は

追加的な投資 はしていないものの

以前に行った意思決定に固執している

それゆえ

追加的投資をしなくとも

撤 退ではなく維持を選択すれば

エスカレーションだと呼ばれているのである

そのため本稿でも

維持を 選択することをコミットメント

エスカレーションとして定義し

逆に撤退を選ぶことを脱エスカレーションと呼 ぶこととする

2. 2.  エスカレーション研究の理論的進展と残された課題

Staw (1976) の研究以降 ,

彼が明らかにした個人的な責任の影響以外にも

様々なエスカレーショ

ンを引き起こす要因が議論され

実験研究により確認されてきた

それらの要因には

多種多様なも のがあるものの

その包括的なレビューを行った Staw and Ross (1987) 及びメタ

アナリシスを行った

Sleesman et al. (2012) は ,

大きく4つに分類出来るとしている

. 4

つとは

①プロジェクト要因

②個 人の心理的要因

③対人

社会要因

④構造要因である

以下では

この

4

つの要因として

具 体的にはどのようなものが含まれるのかを確認した上で

どのような要因の検討が不足しているのかを検 討する

プロジェクト要因には

低い成果が一過性の現象なのか根本的なものなのかが比較的判別がつきに くい場合 (Leatherwood and Conlon, 1987) や

追加的投資と撤退のどちらを選ぼうとも多額の費用が

かかること

(Northcraft and Wolf, 1984)

などが含まれる

個人レベルの心理的要因としては

サンクコストの影響 (Arkes and Blumer, 1985) なども含まれるもの の

中心的に研究されているのは

上述の個人的な責任による影響である

損失の生じている投資 に対して個人的な責任を感じている意思決定者ほど

認知的不協和が起こり

自己正当化のため投 資を維持する傾向は

数々の実験研究で示されている

(Brockner, 1992).

対人

社会的要因としては

外的正当化が挙げられる

(Fox and Staw, 1979) .

先に検討した自己 正当化が

当初の計画通り進捗しない案件を自分自身の中で正当化するものであったのに対し

ここで

(5)

の外的正当化とは

メンツを保つ (face saving) ために

他者に対して投資を正当化しようとするが故に エスカレーションは起こる

とするものである

最後に

構造要因

ないしは組織的要因のカテゴリーには

例えば

次のような議論が含まれてい る

それは

組織のコミュニケーションシステムが不完全であれば

情報が意思決定者に伝わらず

情報が伝わったとしても

組織の各部門が連動していなければ

反応が遅くなるため

エスカレーショ ンは起こる

といった議論である

(Staw and Ross, 1987).

しかしこうした議論がなされ

カテゴリーと しても作成されているのだが

これらを明示的にとりあげた実証研究はほとんど存在しないとされている

(Sleesman et al., 2012).

以上の既存研究のまとめからは

今後の研究で取り組むべき課題として

次のことが言えるであろう

すなわち

①プロジェクト要因と

②個人の心理的要因

③対人

社会的要因は既に十分研究され ているため

④構造要因

組織的要因を明らかにしていくことが今後の研究課題となる

ただし

エ スカレーションが起こるのは

撤退の決断を意思決定者が行わない

という最終的に個人の意思決定 の問題である

そのため

これまでの研究成果と切り離して構造的

組織的要因を検討するのは望ま しい方策ではない

むしろ理論構築の面では

それらの研究知見を生かす形で

組織要因が

個 人の心理的要因と対人

社会的要因にどのように影響し

エスカレーションを引き起こすのか

という問 題に今後の研究は取り組むべきであるといえるだろう

2. 3.  エスカレーション研究の実証的進展と残された課題

以上で確認してきた通り

エスカレーション研究では

それを引き起こす多様な要因が指摘されている ものの

組織の構造的要因については未だ十分な検討がなされていない

これは

エスカレーション 研究のこれまでの研究方法とも密接にかかわる問題である

それは

これまでの実証研究のほとんどが 実験研究だということである

逆にいえば

極端なエスカレーションが実際に起こった事例に関する定性 研究や

実際のデータを利用した定量研究が数えるほどしかない

ということである

前項で挙げたほぼすべての研究は

実験研究である

もちろん実験研究には

様々な要因を出 来る限り統制し

関心のある特定の要因のみを何らかの操作によって変化させることで

当該要因が 与える影響を相対的には明瞭に観察出来る

という利点がある

(Singleton and Straits, 2010;

佐藤

,

2015).

しかしながら

それには制約もある

それは

原理的に不可能ではないものの

実際には

組織の構造的な要因を実験において作り出すのは難易度が極めて高いという点

もしくは

そのように 仮設的に作り出された構造が外的妥当性を満たすのかには批判が懸念される点である

それゆえに

これまでに行われた多くの実験研究は

その強みを活かす形で

個人の心理的要因と

対人

社会

要因がエスカレーションに与える影響を検討してきたのであろう

しかし

実験以外の手法がエスカレーション研究で全く用いられていないわけではない

数は少ない

(6)

ものの

実験以外の手法を用いた実証研究が行われている

定性的研究としては

, Ross and Staw (1986) や Ross and Staw (1993) がある .

前者はバンクーバー国際交通博覧会 (Expo 86), 後者はシ ョアハム原子力発電所というエスカレーションが起こった特定の事例に注目した研究である

前者の研 究では

実際に始まるまでいくらコストがかかるか分からないことが

後者の研究では

追加的投資を しようとも撤退を選ぼうともコストがかかることが

それぞれがエスカレーションを引き起こした中心的要因 であることが明らかにされている

つまり

これらの研究は

実験室実験で確認されたのと同様の要因が

実際の事例でも起こることを示しているのである

もちろん

これらの研究では他の要因も指摘されている

しかし

中心的な命題のみに注目し単純化して言えば

これらの研究の貢献は

実験研究の外的妥

当性を実際の状況で確認したことにあるといえるだろう

定性研究だけでなく

実際のデータを用いた定量研究も同様の状況である

例えば

, Staw and

Hoang (1995) はバスケットボールにおけるデータを用いて定量分析を行ったが ,

そこで検討している仮

説は

, Arkes and Blumer (1985)

による実験で既に確認されている埋没費用の影響である

銀行業

界のデータを用いた分析である

Staw et al. (1997) が確認したのも , Staw (1976) など多数の実験研究

で示されてきた個人的責任の影響である

すなわち

定性研究だけでなく定量研究もまた

実験で示 された要因が

現実の状況においても観察されるのかの分析に注力しているのである

2. 4.  本節のまとめ

以上で議論されてきた通り

エスカレーション研究には残された課題が存在する

すなわち

エスカ レーション研究はこれまで実験研究を中心に発展してきた

それゆえ

実験研究で比較的分析しやす いプロジェクト要因や個人の心理的要因

対人

社会的要因については十分な蓄積があるものの

そ うでない組織要因についてはほとんど研究がなされていない

言いかえれば

企業で撤退の意思決定 が適切な時期になされないのはなぜか

とりわけ組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進し

逆に 阻害するのか

といった問題は直接的には考察されておらず

残されたままとなっている

ただし

このような組織要因がエスカレーションにどのような影響を与えるのかを理論的に検討する上で は

既存研究を参照すべきである

なぜならコミットメント

エスカレーションが起こるのは

撤退の意思 決定をなすべき人がなさない

という最終的には個人の問題であるからである

組織のどのような仕組 みが撤退の決断を促進し

逆に阻害するのかを検討する上では

個人の心理的要因や

対人

社 会的要因に関する先行研究と結びつけながら

理論的な予想を導出する必要があるといえるだろう

3.  望ましい意思決定をもたらす仕組みとしてのコーポレート・ガバナンス

前節では

組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進し

逆に阻害するのかについて既存研究 は検討が不足していることを指摘した

すなわち

今後の研究で明らかにすべき課題の

1

つは

エス カレーションに影響を与える組織レベルの要因にあるいうことである

それでは

組織レベルの要因として

どのような要因に注目すべきであるのか

それを明らかにするため

コーポレート

ガバナンス研究を参

照する

(7)

ここで取り上げるコーポレート

ガバナンスとは

事業に関する意思決定を実質的に担っている経 営者を規律付ける仕組みのことである

田中

, 2014;

伊丹

, 2000)

2)

より本論文の目的に即した形で 言いかえれば

コミットメント

エスカレーションのような問題のある意思決定がなされないようにチェックす る仕組み

もしくは

そのような問題が起こった際に制御する仕組みとして

ここでは

コーポレート

ガバナンスをとらえることにする

以下では

こうしたコーポレート

ガバナンスとして具体的にはどのような仕組みがあるのかを提示した 後

その中でも経営者交代と外部取締役が代表的な仕組みとして研究の関心を集めていることを議論 する

その上で

それぞれの影響を分析した実証研究を確認する

その結果

経営者交代はこれま で明確な影響が観察されているものの

外部取締役の影響に関する分析結果は

必ずしも一貫してい ないことを指摘する

3. 1.  コーポレート・ガバナンスの全体像

先述の通り

コーポレート

ガバナンスとは

端的にいえば

経営者を規律付ける仕組みのことであ る

このように経営者を規律付ける仕組みが必要とされる発端としては

所有と経営の分離に求められ ることが多い

標準的なエージェンシー理論にもとづけば

企業の法的な所有者である株主の利益

ないしはそれ以外のステイクホルダーの利益と

実際に企業の経営に携わる経営者の利益は

一致し ないことがある

経営者は

企業全体ではなく自己の利益を追求したり

努力や注意を十分に払わな かったり

自身の地位を守るために都合の悪い情報を隠したりすることがある

と仮定されているのであ る

(Eisenhardt, 1989; Jensen and Meckling, 1976; Nyberg et al., 2010).

それゆえ

経営者とそれ以 外の間に情報の非対称性がある中で

いかに経営者の利益を企業の利益と一致させ

経営者が高 い努力を払い

より良い経営を行うように規律付けるのかというコーポレート

ガバナンスが重要となってき たのである

(Tirole, 2006).

このような経営者像にもとづき

, 「

望ましい

とされるコーポレート

ガバナンスの様々な仕組みが提唱さ れてきた

それを予めまとめたのが

1

である

表 1 経営者を統制するコーポレート・ガバナンスの仕組み

内部統制

直接統制

株主総会 取締役会

株主代表訴訟制度

間接統制

経営者交代(の脅威)

選抜制度

経営者への報酬契約とストックオプション

外部統制 敵対的企業買収

債権者や大株主による罷免・経営への介入

出典:小佐野 (2001)をもとに加護野・砂川・吉村 (2010)によって補う形で筆者作成

(8)

この表に示されている通り

経営者を規律付ける仕組みには

様々なものが存在する

企業の内部に おいて直接的に経営者の取り組みを監視

監督する取締役会から

敵対的企業買収によって立場を 追われることの脅威が経営者を規律付けるといった企業の外部に焦点を当てた間接的な規律付けの議 論もある

これらのいずれもが一定の機能を果たしていると考えられるものの

その中で最も影響が大き いと考えられ

研究上も注目を集めてきたのは

取締役会と経営者交代である

以下では

なぜその

2

つの影響が大きいと考えられるのか

また学術的にどのような知見が得られているのかを確認する

3. 2.  経営者交代

コーポレート

ガバナンス研究において

最も注目を集めているものの

1

つは

経営者ないしは経営 陣の交代

以下

これを特に断りがない限り経営者交代と略し

経営者として社長や

CEO

といった個 人を指す場合

そのように記すこととする

である

実際に

加護野

砂川

吉村 (2010) は

コー ポレート

ガバナンスについて次のように定義している

「 『

誰が会長社長

CEO

最高経営責任者),

COO

最高執行責任者 などの最高責任 者を選びそのパフォーマンスを誰が評価してどういう咎でそしてどういう手続きで追 い出せるか に関わるよりよい企業経営が執行させるようにするための方法制度と慣 行加護野他

,

2010

:

3)

すなわち

個々の意思決定に関するチェック機能というよりは

それを司る経営者として誰を選び

どの ような場合に交代させるかがコーポレート

ガバナンスの中核だと考えていることが読み取れる

このように経営者交代が注目を集めるのは

それが

2

つの意味を持っているからだと考えられる

1

経営者交代は

コーポレート

ガバナンスの究極的な機能の発揮だからである

コーポレート

ガ バナンスで

望ましい

とされる仕組みにおいては

個々の意思決定においてチェックを入れるための取 締役会の制度や

それを望ましい方向へ結びつけるための報酬制度などが提唱されている

しかし

これらによっても

適切な方向付けがなされないか

経営者の努力水準が適切なレベルに引き上げられ ないなどにより

業績が低迷しているのであれば

取りうる最終的な手段は

経営者を交代させる

と いうことになる

それゆえに

経営者交代はコーポレート

ガバナンスの最終的な手段であり

業績と経 営者交代の間に関係があるかについて多数の実証分析が行われてきたのだと考えられる久保

, 2010;

Shleifer and Vishny, 1997).

2

コーポレート

ガバナンスに意義がある前提として

経営者交代が何らかの影響を持ってい る必要があるからである

経営者が交代したところで

何ら影響がないのであれば

経営者を交代さ せる意義がなくなってしまう

さらにいえば

経営者が誰であろうと何ら影響はない

という可能性につ ながった場合は

経営者を規律付ける意義もなくなってしまう

それゆえに

コーポレート

ガバナンス が必要とされる前提として

経営者交代が

企業の意思決定や業績に何らかの影響を与えるか否か が分析されてきたのであろう

(9)

それぞれの実証分析が必ずしも明示しているわけではないものの

以上のような理由から

経営者 交代については

多数の実証研究が行われている

以下ではこうした分析のうち

経営者交代の要 因ではなく

影響を明らかにした研究を確認する

経営者交代の要因についても多数の実証研究が日 本でも行われているものの

(Kang and Shivdasani, 1995; Kaplan, 1994;

齋藤

宮島

小川

, 2017),

本節はエスカレーションの要因を明らかにすることを目的としているからである

つまり

コーポレート

ガ バナンスの仕組みのうち

経営者交代がエスカレーションに影響を与えると推察されることと

それがど のような影響であるのかを先行研究から確認する

経営者交代が与える影響に関して

現在の研究にもつながる先駆的な研究の

1

つに

Lieberson and

O’ Connor (1972) がある .

彼らは

執行役員交代が企業の売上高

利益額

収益性に与える影響

を検討し

有意な関係を見いだした

とりわけ収益性のバラツキにおいては

執行役員の交代が大き な影響を与えることを明らかにしている 3)

その後も

数多くの実証研究が行われており

アメリカ企業を対象にした研究のみならず

日本のデ ータを用いた研究でもいくつかの研究で経営者交代の影響は確認されてきた

たとえば

, Lieberman,

Lau and Williams (1990) は ,

日米の自動車会社における生産性に経営者個人が与える影響を検討し

ている

そこでは

日米ともに

, CEO・

社長によって生産性の向上度合いに差があること

すなわち

社長交代が生産性の変化に影響することが明らかにされている

日本企業を対象にした研究としては他に

社長交代によって戦略変更は起こるのかを検討した研究が ある

このうち

, Sakano and Lewin (1999)

では社長交代の有意な影響が見られなかったのに対し

, Nakauchi and Wiersema (2015) は ,

有意な関係を見いだしている4)

なぜこのように異なった結果が 得られたのかについてさらなる検討が必要であるものの 5)

既存研究においては

社長の交代が意思 決定に対して何らかの影響を与えることがおおよそ確認されてきたといえる

しかしながら

どのような影響を与えるのか

という点は

既存研究において必ずしも明確ではない

なぜならば

上述の通り

既存研究が示しているのは

経営者が交代すると

生産性が上昇したり

低下したり

もしくは

戦略に変更が起こる

ということだからである

もちろん

これらの先行研究は

先に議論した通り

経営者交代によって

企業の意思決定や業績に何らかの違いが生じるのかを明ら かにしようとして行われているため

その点において十分な貢献はある

しかし

撤退の意思決定にど のような影響を与えるのかは

稿を改めて後に具体的な検討を行うこととする

以上で議論した本項の結論をまとめれば

次の通りである

既存研究では

経営者交代が企業の 意思決定に影響を与え

その結果

業績にも影響すると考えられ

それを確認する多数の実証研究 が行われてきた

実証研究において

撤退の意思決定には注目が集まっていないものの 6)

経営者交 代が生産性に関する意思決定や

戦略変更などの意思決定

さらにその結果である企業業績に影響 を与えることは示されている

そのため

経営者交代は

撤退の意思決定にも何らかの影響を与える ということは予想出来る

(10)

3. 3.  外部取締役

コーポレート

ガバナンスの仕組みとして

もう1つ注目され

盛んにその影響が分析されてきた のは

取締役会の構成である

法律上

株式会社における最高機関

支配機関

株主総会

である

小松

, 2006).

しかし株主総会は

日本の場合

同一日に開かれることが多くその開催時間も

短いことから

内田

, 2016),

形骸化が指摘されている7)

そこで株主総会と並ぶもう1つの必置機関 である取締役会が

経営者を監視

評価する中核的なコーポレート

ガバナンスの仕組みとして注目を 集めてきた

取締役会の構成としては様々な側面が考えられるものの

これまでの実証分析はほとんどの場 合

取締役に占める外部者の割合に注目している8)

外部取締役が注目を集めるのは

それが 特にアメリカにおける取締役会において中核的な存在だからである

以下では

なぜそのように考えられ るのかを明らかにするため

既に良く知られていることではあるものの

アメリカ型の取締役会について

簡潔に記述する

取締役会の特徴は

日本とアメリカで大きく異なる

アメリカの企業においては

業務の執行役

オフ ィサー

その戦略の承認や評価を担う取締役会は

形式上

分離している

オフィサーは

経営陣

経営幹部と呼ばれ

企業の経営の中枢を担う存在である

しかし

最終的な意思決定権限を保持し ているわけではない

(女)

らは

下の図

1

に示されている通り

取締役会に対して戦略を提案し

取締役会がそれを承認し

その成果を評価するという関係にある

 

図 1 米国の主要企業における取締役とオフィサーの関係

出典:加護野他 (2010),pp. 75-79 より筆者作成

(ただし近年の制度改正に合わせて,取締役会に設置される委員会については記述を修正した).

(11)

この取締役会のうち

, 1

数人は

, CEO ( Chief Executive Offi cer )

などの執行役が含まれる

しかし残りの過半数は

業務執行役

社内取締役

ではなく

外部者

外部取締役

を占めるのが

望ましい

とされ9)

実際に多くの企業でそのようになっている

加護野他

, 2010: 78).

さらに近年では

より

望ましい

施策として

社内取締役は

CEO

1

人のみとして

他の取締役はすべて外部者で

構成することが提唱されている

以上で議論してきた通り

米国型のコーポレート

ガバナンスにおいては

経営と執行の分離が

望 ましい

姿とされ

実態も少なくとも見た目はそのようになっている

すなわち

内部の執行役が

外部 者で構成される取締役会に対して

戦略を提案し

監督され

評価される

という仕組みになってい るのである

このような米国型の

望ましい

とされる仕組みは

日本にも導入され

多くの企業で社

外取締役は増加している

しかし

これらの仕組みは

実際に期待された結果をもたらすのかといえば

必ずしもそれは明らか ではない

これまでに多数の既存研究が

外部取締役の人数や比率と企業の業績に有意な関係が 見られるか否かを分析してきたが

その結果は一貫していないのである

つまり

外部取締役が業績 に正で有意な影響をもたらすとする研究もあれば (Rosenstein and Wyatt, 1990; Choi, Park and Yoo,

2007;

齋藤

, 2011),

有意な関係は観察されなかったとする研究もあり

(Hermalin and Weisbach, 1991;

Agrawal and Knoeber, 1996; Core, Holthausen and Larcker, 1999; Bhagat and Black, 2002),

サン プルとする企業や年代によって一貫しない結果を示している

ここまでの議論で明らかなように

外部取締役比率の影響に注目した研究は

業績を結果変数とし て用いることが多く

, Byrd and Hickman (1992) のようなごく一部の例外を除くと ,

意思決定に注目した ものは少ない

しかしながら

意思決定と関係ない研究なのかといえば

全くそのようなことはない

そ れは図

1

に示されている通り

外部取締役は意思決定の質を上げて

業績に貢献すると想定されてい るからである

言いかえれば

実証上は

外部取締役比率と業績という2つの変数間の関係を観察 しているものの

その間に媒介変数として意思決定の質という変数が想定されているのである

それゆ え

外部取締役が有意な影響を与えるとする立場をとるならば

それは撤退の意思決定にも影響を良 い影響を与えると推察出来るであろう

もちろん上述の通り

経験的には

外部取締役が与える影響 について一貫した結果が得られていないため

撤退の意思決定に与える影響についても

さらなる議 論が必要である

以上で議論してきた本項の結論をまとめれば

次の通りである

取締役会やそこにおける外部取締役 は

コーポレート

ガバナンスの仕組みとして最も注目を集めている

1

つである

そこでは

外部者の比 率が高いことが

望ましい

姿として考えられ

外部取締役比率が上がるほど

意思決定の質が上がり

その結果

高い業績を得られることが想定されている

(12)

しかしながら

実証的には

必ずしも一貫した結果が得られてはいない

海外で行われた研究も

日本のデータを用いた研究も

外部取締役が有意な影響をもたらすとする研究もあれば

そうではない

とする研究もあるのである

それゆえ

撤退の意思決定の要因として

外部取締役には注目すべきだ と結論付けられるものの

それが

なぜ

どのように影響するのかについては不透明である

この点

ついては

理論的にさらなる検討が必要であり

今後の研究課題である

3. 4.  本節のまとめ

本節では

組織におけるどのような仕組みが

撤退の意思決定を促進したり

阻害したりするのかを 明らかにするため

コーポレート

ガバナンスの研究を確認してきた

コーポレート

ガバナンスとは

企 業の意思決定を実質的に担う経営者をチェックし

必要に応じて交代されることでそれを規律付ける仕 組みだからである

具体的には

そうした仕組みの中でも

経営者交代と

取締役会における外部者比率が中核的な 仕組みであることを議論した

さらに

経営者交代は企業の意思決定に対して影響を与えることと

し かし

外部取締役が影響を与えるかについては一貫した結果が得られていないことを確認した

つまり

外部取締役が有意な結果をもたらすとする研究もあれば

そうでないとする研究もあり

分析結果は一 貫していないということである

4.  暫定的な結論:今後の研究における課題

本稿では

撤退の意思決定に関して

既存研究の概況を確認した上で

今後の研究課題を明ら かにするべく

大きく2つの研究群を検討してきた

まず第2節では

エスカレーション研究を参照した

そこでは

個人の心理的要因や

対人

社会的要因

プロジェクト要因については

多数の研究蓄 積があるものの

組織的要因についてはそれほど多くの研究が為されていないことを確認した

またこ れには

エスカレーション研究の多くは

実験手法を用いているのが原因の

1

つだと考えられることを指 摘した

それゆえ

今後の研究においては

実際のデータを用いて

企業で撤退の意思決定が適切 な時期になされないのはなぜか

とりわけ組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進もしくは阻害する のか

という問題が有望な研究領域であることを主張した

それを受けて第3節では

撤退の決断の先送りのように問題のある意思決定を制御する仕組みとして

コーポレート

ガバナンスに関する既存研究を概観した

そこでは

経営者交代と外部取締役が

そ の中心的な仕組みであることを確認した

しかしそれと同時に

特に

外部取締役のもたらす影響に ついては

既存研究では必ずしも明らかではないことも指摘した

以上の理論的な検討結果からは

経営者交代や外部取締役が撤退の意思決定に与える影響を検討していくことが今後

必要であるもの の

それがどのように影響を与えるのかについては

さらなる検討が必要である

という暫定的な結論

(13)

が得られた

具体的にどのような影響を与えるのかについては

紙幅の都合上

また稿を改めて今後

他の研究群の知見を参照しながら

検討していくこととする

1) 2節で確認するように初期の研究では追加的な投資を繰り返してしまうことをコミットメントエスカレーションと 呼んでいたしかし近年の研究では追加的な投資がなくとも損失が生じている案件で維持を選択するのはコミッ トメントが継続しているということであるからエスカレーションだとする広い定義が採用されることが多い

2) コーポレートガバナンスには論者によって多様な定義の仕方がある定義の仕方の違いは, 2つの側面にお いて見られる1経営者を規律付けるにしても何に向けて規律付けるのかという側面についてであるこれについては株主のため小佐野, 2001)といった狭い定義から株主と従業員伊丹, 2000),ステイクホ ルダー全体の経済的厚生の増進 (青木, 2017) というように幅がある. 2上述の定義のみならず企業は 誰のために存在するのか企業を支配するのは誰かといった議論を含むことがある海道, 2009). 後者の点は本稿と無関係ではないもののここでの目的はコーポレートガバナンス研究の全体像を包括的にレビューするこ とではないそれはエスカレーションに影響を与える組織の仕組みとして注目すべき要因を明らかにすることにあるそれゆえ上述のような簡潔な定義を採用しコーポレートガバナンスが与える影響を中心に確認していくこととする. 3) ただし彼らはとりわけ売上高や利益額においては産業要因や企業規模要因の影響が大きくこの3つの変数

はいずれも執行役員の直接的影響が及ばない要因によって左右されていると結論付けている

4) Sakano and Lewin (1999) は, 有意な結果が得られなかった理由の1つとして日本においては定期的な交代と いう経営慣行があるためではないか指摘しているこれを受けて Nakauchi and Wiersema (2015) は, 経営者交 代を非定期的な交代に絞り有意な影響を確認しているしかし, Nakauchi and Wiersema (2015) の分析は, 定期的な経営者交代の影響と非定期的なそれを比較出来るように分析しているわけではないそれゆえ, 2 の論文で異なった結果となったのはたとえば分析対象期間が異なるからであるなど別の可能性も残されており 2つの研究だけでは必ずしもその結果の違いがなぜ生じたのかを解釈することは出来ない

5) ここでこの後の展開を予め先取りするならばこれは日本企業の経営者として社長個人を想定するのが妥 当ではないからではないかと考えられるしかし仮にそうであったとするならこれはアメリカで行われてきた経営 者交代に関する研究を日本企業を対象に行う場合にどのように応用すべきかという実証上の問題である逆に言えば先行研究の理論的な議論に根本的な修正を迫る問題ではないと考えているそれゆえここでは これ以上の議論を行わずその点については後に改めて検討することとする繰り返しになるが本節の目的はエスカレーションの要因として注目すべきものを明らかにすることだからである

6) 日本企業を対象にした実証研究として経営者交代と撤退の意思決定の関係を分析した研究は筆者の知る限り存 在しないものの撤退の意思決定と関係のある損失処理費用計上に関する会計学の研究は存在するそれにつ いては後に具体的に検討する

7) アメリカ企業の株主総会はそうではないとするイメージが一部にはあるようだが日本と同様実質的な議論は行 われていないとされている (加護野他, 2010).

8) 取締役会の構成として外部取締役比率以外に注目する研究がないわけではないしかしここではエスカレー ションの要因としてとりわけ注目すべきものを明らかにすることを目的としているためそうした研究については に別途検討することとする

9) その上取締役会の中に設けられる監査委員会業務執行を監督と報酬委員会取締役やオフィサーの報酬 の妥当性を審査),指名委員会取締役候補者を人選3つの委員会を取締役会の中に設け各委員会は社外取締役のみで構成されなければならないすることが望ましいとされているニューヨーク証券取引所の上場会社 マニュアルのセクション303Aによる).

(14)

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参照

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