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首都圏の在日フィリピン人の日本人への社会的距離と逆社会的距離に関する考察

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首都圏の在日フィリピン人の日本人への社会的距離と

逆社会的距離に関する考察

伊藤史朗

The Analysis of Social Distance and Reverse Social Distance of Filipino

Migrants toward Japanese in the National Capital Region of Japan

ITO, Shiro

要旨:本研究は、在日フィリピン人のホスト社会に対する社会的距離と逆社会的距離の度合いを分析したもの

である。エモリー・S・ボガーダス(Bogardus 1933)が考案した社会的距離尺度(Social Distance Scale)と リー、サップとレイ(Lee, Sapp and Ray1996)による逆社会的距離尺度(Reverse Social Distance Scale)を 用い、主に首都圏在住の在日フィリピン人71人の当事者意識を分析した。本調査の結果から以下が明らかと なった。1)在日フィリピン人の日本人に対する社会的距離の度合いは総じて低い。在日フィリピン人の日本 人に対する親密度が高いことを意味する。2)9割以上の回答者が、日本社会から概ね受け入れられていると 感じている。3)同国人(フィリピン人)間とのソーシャル・ネットワークが日本人に対するそれよりも強 い。同国人との強靭なソーシャル・ネットワークを形成・維持しつつ、それが反作用することなく、低い社会 的距離の度合いを示した。母国、同国人とのネットワークを堅牢に維持する一方、閉ざされたエンクレーブを 形成していない。「適応すれども同化せず」(広田 2003)の「非同化的適応」の姿勢を維持し、ホスト社会に 対して高い親密性を持っていることを示す調査結果となった。今後、課題になるであろう「構造的統合」に対 しどのような姿勢を持つのかが、ホスト社会の側に問われることになる。

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.社会的距離概念の概念について

拙著「社会的距離と逆社会的距離の分析枠組みに関す る研究」(伊藤 2011)の中で、社会的距離と逆社会的距 離概念について俯瞰・検討した。本節では、上述の論文 (伊藤2011)を叩き台として発展させる形で、あらため て、両概念と尺度を再検討する。 ロバート・パーク(Park 1924)は、「人種的態度と人 種関係の研究に応用された社会的距離の概念について」 (The Concept of Social Distance As Applied to the Study

of Racial Attitudes and Racial Relation)において社会的 距離の概念を呈示した。パークは「空間的距離よりもむ しろ人間の感情に適用される距離」と社会的距離を定義 している。社会的距離概念を用いて、各人種間の「親密 さ」を計測可能にする意図があった。「他人に対して親 密さや距離について自分の感情を表現するのは人々の日 常的行為だ」とパークは述べている。さらに、人々は異 なる「階級」に対して異なる態度を示すように、「人種」 についても、自己と違うものに対して異なる感覚を持 つ、と述べている。「人種意識」とは「階級意識」に似 た心的状態を表出するとし、「我々にとって理解しがた い『階級』から我々を引き離すように、理解しがたい 『人種』も我々を突然引き離す」ような意識が「人種意 識」であるとしている(Park 1924)。当時のアメリカ社 会において、マジョリティ側からすれば、特に東洋から の移民は、言語的、文化的に、また労働規範が大きくア メリカ社会の支配層であるワスプのスタンダートとはそ れと異なり、アジア系(オリエンタル)に距離感を強く 感 じ て い た(Park 1924)。こ の パ ー ク の 論 文(Park 1924)を元に、ボガーダスが社会的距離概念をさらに発 展させ、社会的距離尺度を考案した(Bogardus 1925a, 1925b)。 ボガーダ ス(Bogardus 1925b)は 論 文「社 会 的 距 離 と そ の 起 源」(Social Distance and Its Origin)に お い て、社会的距離を「ある集団に対する、理解と親密さの 段階的度合い」と定義している。さらに、ボガーダスは 「都市における社会的距離(Social Distance in the City)」 (Bogardus 1926)において、エスニシティのみならず 「社会的距離は職業集団、宗教集団、教育集団また大学 の学部間にも存在する」とし、都市的環境における社会 的距離に注目している。すなわち都市において、各集団 は「好戦的(aggressive)」にならざるを得ない。好戦的 でいなければ、それまで勝ち取った地位を維持すること は困難であり、すぐに、他の集団に抜かれてしまうから である。そのため、都市においては地理的な距離が近く なくても、社会的距離の感覚を人々は自然に持つように なるとしている。好戦的であるということは、他集団の 地位を脅かすことでもあり、 藤、軋轢を生み「距離」 を形成するとしている(Bogardus 1926)。 社会的距離尺度を用いた分析は、「社会的距離尺度」 (Social Distance Scale)と題された論文において、1926

年にボガーダスが行った教員、大学院生、学部生から構 成 さ れ る100の サ ン プ ル に 対 す る 試 み を 起 源 と す る (Bogardus 1933)。その論文において社会的距離を「二 者間もしくは個人と職業、宗教のような集団間に存在す る共感的理解の度合い」とし、「社会思想の歴史(A His-tory of Social Thought)」( Bogardus 1929) に お い て 「1926年の研究はアメリカにおける人種間の緊張を反映 していた」と述べている。 その後、ボガーダス(Bogardus 1958)は、異なる国 籍を持つ移民たちにアメリカ人が抱く社会的親密さの認 識に関して1945年に実施された横断的調査研究の結果を 提示した。それは回答者の10%をアフリカ系アメリカ人 が占めるという、アメリカにおける実際の人口割合を反 映したもので、ヨーロッパ系(ドイツ人、ロシア人、イ タリア人、チェコスロバキア人)、アジア系(日本人、 フィリピン人、中国人)、ユダヤ系、そしてメキシコか らの移民に対するアメリカ人の態度が調査対象となっ た。 その流れをくむ本研究でも、同様の比較を行うため、 在日フィリピン人当事者が持つ、日本在住の他の国籍の 人々に対する、社会的距離についても分析の対象として いる。 ボガーダス以後、多くの社会的距離尺度を用いた研究 が多くの国でなされている(e.g. Adewuya and Makanjuola 2005; Coker 2005; Crull and Bruton 1979; Crystal et al.1998; Gentry 1986; Heydari 1988; Lee et al. 2002; Owen et al.1981; Nix 1993; Weinfurt and Moghaddam 2001; Ito and Varona 2009)。エ ス ニ ッ ク・ア イ デ ン ティティが社会的距離に影響を与える主要因であるとさ れるが、エスニック・アイデンティティ以外にも社会的 距離に重大な影響を与える可能性について多くの研究で 指摘されている(Kleg and Yamamoto1998)。

3.逆社会的距離(Reverse Social

Dis-tance)概念について

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述べているが、ここで改めて逆社会的距離概念について 再考し、その概念の意義を確認したい。 ボガーダスの社会的距離尺度は、「道端で話しかけられ る」から「結婚する」まで段階的に抵抗を感じるか否か、 という質問構成になっている。社会的距離を7段階で測 定するものである。しかしながら、移住当事者がホスト 社会の成員と「結婚をする」ことに抵抗を感じなかった としても、ホスト社会からの疎外感や被差別感を持って いる可能性は十分にあり、そのことについての社会的距 離尺度は測定することができない。つまり、社会的距離 尺度において、最も高い「親密さ」を表す項目である 「結婚をすることに抵抗を感じない」と回答し、現に、 日本人と結婚していたとしても、「家族から軽蔑されて いる」と感じ、日本人社会に「なじむことができない」 と思っていると、移住当事者が感じている報告は複数あ る。(Rey 2007; David 1991; Almonte 2001; 佐 竹・ダ アノイ2006)。例えばレイ・ベントゥーラの著作では、 フィリピン人男性が結婚を前提に日本人女性と交際して いたが、日本人女性の家族から拒絶される様子が詳細に 記述されている。ベントゥーラの著作にあてはめて考え ると、当事者の社会的距離は最も低く、ホスト社会に対 し親密さを感じているが、ホスト社会から拒絶されてい ると感じ、現実に拒絶されている例である。 そこで、移住当事者のホスト社会への社会的距離の 計測を補完する尺度として有用なのがリー、サップ、レ イ(Lee, Sapp and Ray,1996)による逆社会的距離尺度 (Reverse Social Distance Scale)である。

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リカ社会に流入する移民はアメリカナイズ(アメリカ 化)させるべき」、つまり、「同化させるべきである」と いう考えが主流にあった(Bogardus 1920)。 ボガーダスは著書『アメリカナイゼーションの本質』 (Essentials of Americanization)の中で、「アメリカナイ ゼーションのための教育はアメリカ生まれの移民と、外 国から来た移民をアメリカの原理の中に組み込む教育の 必要性がある」(Bogardus 1920:13)と主張し、「移住者 はアメリカ化されるべき」であり、「アメリカ人として の行動様式を身に付けるべきだ」としている(Bogardus 1920) 。移民を教育によっていかに同化させる(Assim-late)かが当時の重要な課題であった。 その後、ボガーダスは、1930年出版の論文「人種関係 サイクル」(A Race-Relations Cycle)にて、次のように 述べている。「同化には7段階がある。すなわち、!移 民に対する好奇心、"経済的な歓迎、#競争、$法的敵 対、%公正なやり取り、&静止、'最後に部分的な第二 世代と第三世代の同化の段階がある」とし、同化へのプ ロセスを指摘している。当時のアメリカ社会の状況は、 移住者を同化させるというのが当然視されていることが 『アメリカナイゼーションの本質』において明確に認め られる。 リチャード・アルバとビクター・ニーはアメリカにお けるメインストリームは新しい集団の統合によって絶え ず 再 構 成 さ れ て き た(Alba and Nee2005:64)と し、 著作『アメリカのメインストリームを再構成する――同 化 と 現 代 移 民』(Remaking the American Mainstream : Assimilation and Contemporary Immigration)の 中 で、 現在のアメリカ社会において、「同化」という用語使用 は、マジョリティからマイノリティに対する一方的で高 圧的なイメージがあるので、避けられる傾向だとする。 しかしながら、「同化」概念は、移民とその子孫、そ してそれを受け入れる社会にとって、移民の長期的な影 響を理解するための核心として再び注目されていると述 べている。 アルバとニーによれば、「同化圧力」はマジョリティ のマイノリティに対する「武器」として用いられてきた とする。マジョリティの社会の側がマイノリティ集団に 対し、当該社会の文化的スタンダードに適合させること を強制し、これをいわば「武器」として用い、マイノリ ティが当該社会が提供するものにアクセスさせないよう にし、彼らをメインストリームから締め出してきたとす る(Alba and Nee2005:2)。構造的同化―統合に関して は、インターマリッジによって達成されるとする考え方

を示し、これを「社会経済的同化」とした。また地位達 成研究において「同化」と「社会移動」は密接に関連し ているとみる(Alba and Nee2005:28)。

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人)、技術・人文知識・国際業務(∼5,505人)、企 業 内 転 勤(∼1,359人)、興 行(∼1,232人)、技 能(∼538 人)、技 能 実 習(∼25,768人)、観 光(∼411,519人)、商 用(∼382,201人)、文 化・学 術 活 動(∼2,379人)、親 族 訪 問(∼51,397人)、そ の 他(滞 在)(∼5,908人)、留 学 (∼291,227人)、研修(∼2,763人)、家族滞在(∼157,456 人),特定研究等及び情報処理(本人)(∼0人)、特定 研究等及び情報処理(家族)(∼1人)、家事使用人(∼ 766人)、高度人材(本人 ∼8人)(家族 ∼11人)(家 事使用人 ∼116人)、その他(∼3,688人)、永住者(∼ 126,284人)、日本人の配偶者等(∼26,395人)、永住者の 配偶者等(∼5,070人)、定住者(∼48,406人)、特別永住 者(∼46人)である。 5―2 データ収集について 複数の方法でデータを収集した。調査票を用いた調査 は、以 下 の 要 領 で デ ー タ を 集 め た。対 面 で の イ ン タ ビューと、留め置き調査法を用いた。(1)神奈川県川崎 市川崎区、川崎市中原区、川崎市高津区、東京都大田 区、北 区 を 中 心 に、「レ ス ト ラ ン」、「サ リ サ リ ス ト ア (フィリピン食材や雑貨店)」、「路上」、にて対面で聞き 取りを行い収集した。(2)筆者のフィリピン留学時代の 知人を起点に、そこから人伝えでインフォーマントと接 触した。また、そこから在日フィリピン人の知人を紹介 してもらい、調査票への記入を依頼して、後に調査用紙 を提出してもらう方法をとった。非構造化インタビュー については、調査を通して知り合ったフィリピン出身の 方々から、さらにインフォーマントを紹介してもらい対 面で聞き取りを実施した。 5―3 計測方法 5―3―1 従属変数 従属変数は、社会的距離尺度と逆社会的距離尺度に よって測定される、在日フィリピン人によって知覚され た日本人を含む多国籍者に対する「社会的距離の度合 い」と「逆社会的距離の度合い」である。 5―3―2 従属変数(1):「社会的距離」 他国籍者が本研究に組み込まれた理由は以下の2つで ある。1)ボガーダスに倣い、他の地域、対象で実施さ れている社会的距離調査の結果との比較が可能になる。 2)在日フィリピン人のホスト社会構成員のマジョリ ティである日本人に対する態度と他国籍者に対する態度 との比較を可能にするためである。本研究では、ボガー ダ ス の 研 究 デ ザ イ ン(Bogardus 1933)と 質 問 項 目 に は、在日フィリピン人の文化に適合するように若干の修 正を加えてある。 付与される社会的距離尺度のスコアは、回答者が回答 したそれぞれの質問項目のトータル・スコアを反映して いる。肯定(Yes)、否定(No)の二者のみ可能な回答 な7つの設問があ り、Yes は0ポ イ ン ト、No に は1ポ イントが付与される。ガットマン尺度に従い、設問は次 の通りに配列されている。 「あなたと以下の国籍の方の間に、次のような交流が 生まれたとします。あなたはそれについて抵抗を感じま すか。」(1)道端で話しかけられる。(2)一緒にレスト ランへ食事に行く。(3)あなたの家族と一緒に自宅で食 事をする。(4)ルームメートになる。(5)恋人になる。 (6)あなたの家族の誰かと結婚をする。(7)あなたと結 婚をする。 社会的距離距離尺度のスコアが最大の7に近いほど、 より親密な社会関係を示す。一方、スコアが低いほどよ り大きな社会的距離を示す。 5―3―3 従属変数(2):「逆社会的距離」

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社会−人口学的変数 婚姻の状況 社会的地位変数 言語能力(日本語能力) フィリピン国外での 滞在期間 日本での偏見と不平等の 否定的経験 社会的距離・ 逆社会的距離・親密さ パーソナル・ネットワーク ソーシャル・サポート・ネットワーク 年齢 性別 宗教 エスニシティ 配偶者の国籍 配偶者の職業 教育達成度 職業 上記の項目がガットマン尺度により構成されていると 仮定し、「いいえ」の回答には1ポイントが付与され、 「はい」の回答には0ポイントが付与される。すべての 回答が「いいえ」となった場合は、総計5ポイントで 「最も近い親密さ」を表す。すべてに「はい」と回答し た場合は総計0ポイントで「最も遠い距離感」を表す (Lee, Sapp and Ray,1996)。

すでにホスト社会構成員と結婚している者について は、当然ながらボガーダスの社会的距離尺度における社 会的距離の度合いが低いと予想される一方、逆社会的距 離尺度においてどのような差異が存在するのかについて は未知である(伊藤2011)。 5―4 独立変数 本調査研究で組み込んだ独立変数は次の通りである。 回答者の属性として、「日本での居住地」「性別」、「ジェ ンダー」、「年齢」、「学歴」「職業」、「婚姻の状態」、「配 偶者の国籍」、「配偶者の職業」を変数として挙げた。異 文化への接触度、異文化への親しみ(Familiarity)の度 合いとして、「海外滞在経験」、「日本滞在年数」、「自己 の生活水準に対する知覚」を取り入れ、また言語能力が 大きく距離に影響をしている可能性を加味し、「母語」、 「日本にいる家族で使用している言語」について確認し た。さらに、日本への定住の意思に関する変数として、 「将来の展望」「将来予定している滞在国」を加えた。こ れは日本をいわば、経由して、あるいは「踏み台」 (step-ping stone)として他の先進国を目指しているかどうか についてである。母国とのソーシャル・ネットワークの 強さの指標に「送金の有無」、「母国との家族との連絡頻 度」が変数としてある。 また、日本におけるソーシャル・ネットワークとし て、「日本での交友関係」、「日本での親族の有無」を入 れた。また、日本での差別を受けた経験についても聴い ている。実際に、日本で経験した事は、ホスト社会への 「親密さ」に影響することは容易に想像できる。 以上の質問項目は、社会的距離に関する質問項目はボ ガーダス、逆社会的距離に関する質問項目はリー、サッ プとレイ考案のものに微調整を加えた。独立変数に関す る質問項目は森岡(2000)、松本(2004,2006)、シシッ プ、アシスとルナ(SyCip, Asis and Luna2000)の質問 紙票を参考にして作成した。

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最後に、本調査結果を一般化する意図はないことを付 記しておく。 今 後 の 研 究 の 展 望 と し て、本 研 究 で は、「日 本」と 「フィリピン」のどちらに住みたいか、というような二 者択一の問いをあえて投げかけ、彼らのホスト社会への 距離を明らかにすることを目的とした。しかし、日本に 定住しつつ、フィリピンに頻繁に戻って、また日本に 戻ってくる、トランスナショナルな実践を日常とする 人々が多数である。「『定住』しつつも、移動によって成 立し、支えられている世界をいきる人々の諸実践をどう 考えるか」(藤原 2008:3)を明らかにしていく視点が 求められる。

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