1.緒言 近年、IT関連や自動車産業などの電子機器の発展に. より、パソコンや携帯情報端末、電力用電子デバイスの 小 型 化、 高 集 積 化、 高 出 力 化 が 進 ん で い る. 更 に、 GaAs、SiC、ダイヤモンド等、従来よりも、広い温度範 囲で作動する半導体の開発、実用化が進んでいる.この 傾向は、今後、更に加速されると予想され、効率的で広 い温度領域での放熱技術や熱交換技術への期待が高まっ ている.しかし、放熱フィンの高密度化や大規模な集積 回路の高集積化などの設計による熱伝導性及び熱伝達性. の向上には限界があり、これまでの熱伝達方法の改良だ けでは、電子デバイスの発熱を解消し、その性能向上を 図ることは困難となってきている.. 従来、ヒートシンク材料としては銅やアルミニウムな どの純金属や合金が用いられてきた.しかし、これらの 材料は高温域での強度や剛性の低下が著しく、熱伝導率 に関しても純アルミニウムでは、237 W/m・K、純銅でも 401 W/m・Kの熱伝導率が限界である1).更に、このよう な金属単体では電子基板との熱膨張係数(CTE)差も大 きい.電子基板に用いる放熱板は、半導体あるいはセラ ミックス基板と同程度の熱膨張係数(およそ2〜5 ppm) に抑える必要があるとされるが、純Alおよび純銅は、そ れぞれ室温において23.1 ppmおよび16.5 ppmと大きい.. [ 論 文 ]. 鱗片状グラファイトの配向性が銅基複合材料の 熱伝導性に与える影響. 広島大学大学院 先進理工系科学研究科 博士課程後期学生 楊 路 広島大学大学院 先進理工系科学研究科 博士課程前期学生 三 好 輝司郎. 広島大学大学院 先進理工系科学研究科 准教授・博士(工学) 杉 尾 健次郎 広島大学大学院 先進理工系科学研究科 教授・工学博士 佐々木 元. Effect of Graphite Orientation on Thermal Properties for Flake–like Graphite Dispersed Copper Composites. Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University, Doctoral Student Yang Lu Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University, Master Student Kojirou Miyoshi Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University, Associate Professor, Dr. Eng. Kenjiro Sugio Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University, Professor, Dr. Eng. Gen Sasaki. (Received April 3, 2020 ; Accepted April 30, 2020). Copper matrix composites were prepared from the mixture of flake–like graphite and pure copper pow- der by spark plasma sintering (SPS). As the SPS process is a two–axial compression press machine, flake– like graphite shows a special distribution form, which lay to the vertical direction of two–axial pressure, and we can define this distribution as orientation. In this study, the effect of size, volume fraction of flake–like graphite and cold–rolling rate on the orientation of flake–like graphite and thermal conductivity of the com- posites. As a result, the size did not have a meaningful influence on orientation. But as increasing the vol- ume fraction, orientation to the vertical direction for pressure increased. In addition, the orientation greatly improved by the cold–rolling. Furthermore, by measuring the shape and orientation of the graphite from the photo of composite microstructure with the various volume fraction of graphite, the thermal conductivi- ty of the composites was predicted by computer simulation. The predicted thermal conductivity showed good agreement with experimental values.. Keywords: graphite, pure copper, composites, orientation, spark plasma sintering (SPS), thermal conductivity. *. *〒739-8527 広島県東広島市鏡山1-4-1 Tel:082-424-7545 Fax:082-422-7193 E-mail:gen@hiroshima–u.ac.jp. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −209−. これらの問題を同時に解決する多機能材料として、金 属基複合材料(MMC、Metal Matrix Composites)が期待 される.MMCは軽量化、比強度、比剛性優れた高温下 での機械的特性などが重要視される用途に対して有望な 材料として注目されており、航空・宇宙産業、精密機器、 電子・電気機器、自動車産業などの分野に於いて幅広く 実用化されており、近年では従来の比強度、比剛性に加 えてMMCの高い熱伝導性、電気伝導性も注目されてい る.また、CTEについてもMMCは適した分散材と複合 化することで、アルミナやべリリア、アルミナイトライ ドといった電子基板のCTEと一致させることが可能で あり、電子デバイスに与える熱応力を小さくすることが 期待される2).金属基複合材料を利用した放熱板は、現 在、盛んに研究開発が進んでおり、一部は実用化してい る.一般に、母相である金属側には、アルミニウムや銅 が使われている.また、分散材には、SiC や、AlN、炭 素系材料が用いられる.特に、優れた熱伝導性を得るに は、母相として純銅、分散材として鱗片状黒鉛、ピッチ 系炭素繊維、カーボンナノファイバ、ダイヤモンドなど が用いられる.炭素材料は、一般に熱伝導性に優れ、熱 膨張は小さく、銅に対する反応性はない為、銅系複合材 料の分散材として優れる.しかしながら、これらの分散 材は結晶異方性が大きく、結晶方位面や、結晶構造によ り、その性質は大きく喧嘩する.その為、必要に応じて、 組織制御が必要となる.著者らは、㈱アカネとの共同研 究の中で多軸放電焼結機を用いて、優れた熱伝導性を有 する鱗片状黒鉛およびダイヤモンドと純銅との複合材料 を作製に成功している3).鱗片状黒鉛を用いたものにつ いては、放電焼結の加圧方向に対して垂直な方向で800 W/Km以上の値を、87.5vol.%黒鉛–銅組成で安定的に焼 結することが出来ている.また、60vol.%ダイヤモンド ‐ 銅組成では、422 W/Km、熱膨張率6.5 ppmを達成し ている.更に、カーボンナノファイバの利用については、 繊維が非常に細かい為、繊維方向の制御の難しさ、界面 密度の増加に起因する界面抵抗の影響の増加から、期待 できるほどの熱伝導率の増加が得られない為4)、研究段 階に留まっている.. そこで、本研究では、母相として、純銅を、分散材と して安価で熱伝導性に優れた鱗片状黒鉛を用い、複合材 料を作製した.その際、鱗片状黒鉛の体積率、配向性が、 熱伝導性や熱膨張に与える影響を明らかにすることを目 的とした.また、鱗片状黒鉛の異方性を考慮した熱伝導 シミュレーションを作成し、異方性が黒鉛の傾きによっ て複合材料の熱伝導率に与える影響を算定するとともに 実測値との比較を行った.. 2.実験方法 供試材は、平均粒径180 μmの純銅粉末(高純度化学研. 究所(株))と、平面方向の直径が、63.8 μm、137 μm、 227 μm(直径/厚さ比5〜8)の三種類の鱗片状黒鉛(伊藤 黒鉛工業(株))を用いた.これらをV型混合器に入れ、 回転数50 rpm、時間2 h、エタノール中で湿式混合を行っ た.その際の鱗片状黒鉛の体積率を20、30、35vol.%と. した.湿式混合を行った粉末は、105〜110℃の恒温炉で、 1日間エタノール脱脂を行った.なお、緻密化を促進さ せ、理論密度に近い複合材料を得るため、鱗片状黒鉛上 にあらかじめ、銅の無電解めっきを施した.めっき液は、 奥野工業(株)の低リンタイプ、OPC–750M–A、B、Cを 用いた.めっき厚さは、およそ3 μmで鱗片状黒鉛の表 面に均一に覆うことができた.複合材料は、放電焼結法 により得た.焼結条件は、焼結温度1073 K、保持時間: 0.6 ks、圧力 50〜60 MPa、真空 10−2 Pa 以下とした.得 られた複合材料中、鱗片状黒鉛が20vol.%のものに対し、 鱗片状黒鉛の方向性を制御する為に、圧延率 10、20% の圧延率で冷間圧延を行った.また、アルキメデス法に よる密度測定、光学顕微鏡による配向性の評価、定常法 による熱伝導率の測定、押し棒式熱膨張測定装置により 熱膨張率の測定を行った.. 3.結果と考察 3.1 複合材料の組織と鱗片状黒鉛の方向性評価. Fig. 1は、平面方向の直径が、63.8 μmの鱗片状黒鉛か ら作製した20vol.% 鱗片状黒鉛/銅複合材料の光学顕微 鏡写真と鱗片状黒鉛の方向性を示したものである.放電 焼結では、混合粉末は二軸で加圧されるため、Fig. 1に 示すように鱗片状黒鉛は加圧に対して垂直方向に並ぶよ うな異方的な配向性組織を示す.. 鱗片状黒鉛の配向性を評価する為、加圧に対する垂直 方向を0°、加圧方向を90°とし、得られた組織写真を二 値化し、個々の鱗片状黒鉛を長方形と仮定し、配向性に 対する頻度分布の測定を行った.Fig. 2は、鱗片状黒鉛 の体積率を20%一定とし、平面方向の直径が異なる3種 類(63.8 μm、137 μm、227 μm)の鱗片状黒鉛を用いて作 製した複合材料中の鱗片状黒鉛の配向性を示したもので ある.すべての鱗片状黒鉛でその複合材料中での方向は 焼結時の圧力方向と垂直な方向にある程度一致している が、粒径の違いによる配向性に明確な違いはみられな かった.. Fig. 1 Microstructure of 20 vol.% flake like graphite dispersed Cu com- posites prepared by spark plasma sintering. As–received Gr size is 63.8 μm in average diameter.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −210−. 次に、鱗片状黒鉛の体積率が配向性に与える影響を調 査 し た.Fig. 3 は、 鱗 片 状 黒 鉛 体 積 率 20vol% お よ び 35vol.%の複合材料における角度の頻度分布である.体 積率の増加に伴い、加圧の垂直方向の配向性が大きく上 昇していた.体積率の変化により、配向性が制御できる ことが分かった.. 得られた複合材料を圧延すると鱗片状黒鉛の配向性を 大幅に制御できる可能性がある.そこで、鱗片状黒鉛の 体積率を20、30、35vol.%と変化させた場合に最も配向 性の低い20vol%の複合材料を用い、圧延率が配向性に 与える影響を明らかにした.Fig. 4は、鱗片状黒鉛の直 径が63.8 μmで、体積率が20vol.%の複合材料を圧延しな いもの、20%圧延したものの鱗片状黒鉛の角度分布の比 較である.圧延しないものに比べ、加圧の垂直方向の配. 向性は大幅に向上した.但し、10%圧延と20%圧延では、 配向性にあまり差はなく、20%では、複合材料中に所々 き裂が発生していた.配向性の制御に圧延は有効である が、圧延による組織の破壊が発生する可能性があり、熱 間圧延や、小さな圧下率で繰り返し圧延および歪取り焼 鈍を行うなど慎重に行うことが必要である.. 3.2 配向性と熱伝導予測 鱗片状黒鉛は面方向と厚さ方向で熱伝導性が大きく異. なる.今回、用いた鱗片状黒鉛の熱伝導性は、面方向で 880 W/m・K、垂直方向で 38 W/m・K である.その為、 複合材料化した際の、複合材料の熱伝導性は、放電焼結 の際、圧力引加方向とその垂直方向で大きく異なる.ま た、鱗片状黒鉛の配向も熱伝導性に大きく影響を与える ことが予想される.そこで、本研究で測定した鱗片状黒 鉛の方向性を考慮した熱伝導特性の理論値を求めた.組 織画像を二値化し、鱗片状黒鉛の形状および傾きを定量 的に評価した.本研究で対象とした熱伝導対象方向は、 放電焼結時の加圧に対し垂直とし、以下の式を用いて熱 伝導性を評価した.. λx=λGri[1.0−(1.0− λGrj )]sin2θλGri. Fig. 2 Direction distribution of flake like graphite in 20 vol. % compos- ites prepared by using (a) 63.8 μm, (b) 137 μm and (c) 227 μm in average diameter for plane direction.. Fig. 3 Direction distribution of flake like graphite in (a) 20 vol. % and (b) 35 vol.% Gr/Cu composites prepared by using 63.8 μm in av- erage diameter for plane direction.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −211−. λy=λGri[1.0−(1.0− λGrj )]cos2θλGri λx は放電焼結で得られた複合材料中において、鱗片状. 黒鉛が主直方向の軸から θ傾いた時の鱗片状黒鉛の熱伝 導率であり、λy は放電焼結で得られた複合材料中におい て、圧力方向の軸から θ傾いたときの熱伝導率である. 計算原理は、フーリエの法則から熱伝導の基礎式を用 い、有限体積法を用いてシミュレーションを行った.. Fig. 5 は、20vol.%鱗片状黒鉛分散銅複合材料の組織 写真を二値化したものと定常の温度分布を示したもので ある.Fig. 5(a)は、複合材料の組織写真から鱗片状黒 鉛の位置を明確化させるため画像処理装置を用いて、二 値化処理をし、白黒を反転させた像である.この像を基 に、有限体積法を用いて温度分布シミュレーションを 行った.Fig. 5(b)中の温度分布は、左側が 300℃、右 側を27℃で計算した実際の鱗片状黒鉛分布から得られ たシミュレーション結果である.鱗片状黒鉛の分布によ り、複合材料内部の温度が不均一になっていることが分 かる.. このシミュレーションを用いて焼結により得られた複 合材料の熱伝導率を求めた.Table 1に、鱗片状黒鉛の 含有量を変化させた時の得られた実験結果と組織から求 めた計算値を示す.鱗片状黒鉛の含有量の増加に伴い、. 複合材料の熱伝導率は、上昇した.その値は、計算値と ほぼ同じであった.これより、鱗片状黒鉛添加量による 熱伝導率の向上は、銅に比べ高い鱗片状黒鉛添加量の増 加と鱗片状黒鉛の配向性の向上が起因していると考えら れる.. 研究開発成果等報告書 本研究は、日本銅学会 令和元年度研究助成金および. JSPS科研費18K03840の助成による研究である.. 参考文献 1) 小澤啓太,栄星武,山内壮太郎,和田宏樹:TANSO. 229(2007),223–226. 2) 大谷杉郎:カーボンファイバー入門,オーム社,. (1984),20–24. 3) 平成21年度戦略的基盤技術高度化支援事業報告書. 「表面改質型焼結技術の開発」,(2009). 4) K.Sugio,K.Kono,Y.B.Choi and G.Sasaki:. Materials Science Forum,941(2018),1939–1943.. Fig. 4 Direction of flake like graphite in 20 vol.% composites after cold rolling with (a) as–received and (b) 20% in rolling rate.. Table 1 Experimental and simulation values of as–sintered Gr/Cu com- posite without cold rolling as a function of Gr contents.. Fig. 5 (a) Binarized image of 20vol.% flake like graphite/Cu composites and (b) thermal distribution in composites in steady state, which is simulated by using (a) image. Left and right sides in fig (b) is 300℃ and 27℃.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −212−