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集団歌唱療法による児童養護施設入所児童の自己感の成長

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2019 年度 博士論文

(博士論文全文に代わる論文内容の要約)

集団歌唱療法による児童養護施設入所児童の自己感の成長

The development of sense of self in children placed in children’s homes through group singing therapy

G14921201 植原美智子

指導教員

主査 鶴 光代 先生

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博士論文の要約

本論文の目的

本論文の目的は,集団歌唱療法における情動調律によって,児童養護施設で生活する子ど もたちが自己感を成長させていくことを明らかにすることである。

第Ⅰ部 本論文の背景と問題提起及び論文の構成 1. 本論文の背景

筆者は,平成16年より児童養護施設に入所している子ども(以下,施設児童)を対象に 良好な対人関係の形成を目標にして心理的援助を行ってきた。これらのなかでも自分も相 手も尊重していく対人関係を築いていくために,「アサーション・グループトレーニング」

を実施したものがある。その効果を自己主張性と自己効力感から明らかにした。その結果,

自己評価の児童用主張性尺度における,「権利の防衛」項目の向上は見られたが,他の項目,

そして自己効力感尺度の得点において,介入前・後・一か月後の比較では有意な差は見られ なかった。しかしながら,職員の児童に対する評価では,目標スキルの児童評定尺度得点の 向上が見られ,日常生活でアサーションをしていることが示された(植原ら,2012)。日常生 活でアサーションをしているにもかかわらず,施設児童は実感していないということであ る。さらに,アサーション・グループトレーニング実施後に,対象児童と職員における半構 造化面接を実施して,その内容を,「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M−GTA)」

で分析した結果では,日常生活で仲間たちと,「友だちと一緒」 や「仲良くできてうれしい」

という,「他の人とつながる関わり」を体験したことが明らかになった(植原,2013)。 これらの結果において,アサーション・グループトレーニングの体験で,「友だちと一緒」

や「仲良くできてうれしい」 と施設児童は感じていることから,施設児童は日常生活でア サーションを実行しているが,自分自身がその変化を認識していないことが示唆された。つ まり,スキルは習得したものの,それが自分自身の自信や自己効力感の向上に直結すること は難しいことを示すものである。また,施設児童は日常生活では,「仲間と仲良くできてう れしい」と話していることから,「仲良くできてうれしい体験」が彼らにとって重要な意味 を持つことが示された。

こうしたことから,心理的援助を考える際に現在における他者との関係の中で自分をど う体験しているのかという主観的体験が重要であると考えるようになり,施設児童の情動 や行動の主観的体験である自己感に焦点を当て研究を進めるに至った。

2. 問題提起

(1) 施設児童の情動や行動に関する心理的問題

厚生労働省の平成 25 年調査では,社会的養護の対象児童は約 48,000 人で,そのうちの

約 30,000 人が養護施設で生活している。養護問題発生理由の主なものは,「父又は母の虐

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待・酷使」,「父又は母の放任・怠だ」となっているが,実に養護施設児童の約6 割が,「被 虐待経験あり」の現状がある(厚生労働省,2015)。平成11年度より養護施設へ心理療法担当 職員が配置されたが,導入の目的は,増加している虐待を受けた子どもへの個別心理療法が 期待されてのことであった。

児童養護施設で生活する子どもたちのなかには,家庭生活の経験がほとんどない,保護者 によって一人の人間としての基礎を培う環境が保障されなかった,また虐待を受けた経験 があるなどの生活背景をもっている。施設児童は,虐待の有無にかかわらず,どの子どもも 心理的,発達的に大きな問題を抱えているのである。

こうした子どもたちは,施設生活が続くなかで,自己肯定感や自尊心が低下し,自暴自棄 になったり,無気力になったりする(山縣,2010)。また,奥山(2006)は,アタッチメントや 情動調節の問題が施設児童に共通して生じるとして,この問題を持った子どもは,まとまっ た自己を発達させて連続した自己感をもつことが困難になるとしている。つまり,目的のも とに統合した行動がとれず,自己をコントロールすることが難しい。自己の感情を捉えるこ とができず,間主観性を持ち難いという自己感の成長に問題を抱えることになるのである。

(2) 施設児童の自己感の発達

自己感は,誕生から2ヶ月が「新生自己感(Sence of an emergent self)」,2-6ヶ月が

「中核自己感(Sence of a core self)」,7-15 ヶ月が「間主観的自己感(Sence of a subjective self)」,18-30ヶ月が「言語自己感(Sence of a verbal Self)」,そして,30 ヶ月から「物語る自己感(The narrative self)」という五つの異なる主観的体験の発達段階 が順次現れてくる。それぞれの「自己感」には五つの異なったオーガナイゼーションの質が あり,そのオーガナイゼーションに導かれて自己感は発達していく(Stern,1985a)。Sternは,

これらの形成期を感受性の高い時期として捉えている。

それぞれ異なる自己感の領域が,感受性の高い時期であるが,不可塑的な最初の刻印に対 し,それほど弱みはない。それは自己感の領域は,生涯を通して形成を続けると見なされる からである(Stern,1985b:pp.107)。

しかしながら,それぞれに異なる自己感の形成期における環境的影響が,それ以後の損傷 に比べ,相対的に重い病理,あるいは可塑性の低い病理を生むことを想定している。つまり,

感受性の高い形成期において,自己体験に関する問題が部分的に決定されるのである。

そして,それぞれに異なる自己感の領域には,自己体験のパターンがある。新生自己感は 新生かかわり合い領域,中核自己感は中核かかわり合い領域,間主観的自己感は間主観的か かわり合い領域,言語自己感では言語かかわり合い領域において,独特な臨床問題が示され ている。

問題はあらゆる自己感,あらゆるかかわり合い領域で見られるが,体験のどの領域に問題 があるかによって,治療的アプローチが異なってくる(Stern,1985b:pp.98)。とくに間主観

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的かかわり合いの形成期に問題となってくる臨床問題は,行動として目に見える自己体験 の制御から,主観的体験の自己他者間での共有や,主観的体験に及ぼす相互の影響である。

情動的主観性を交わすことが不可能であれば,無限の孤独がその人を襲うとされている。

施設児童が自己感を成長させていくことができるように,とくに自己感の間主観的かか わり合いの領域に対して,心理的援助を行うことが必要である。他者との関係の中で自分を どう体験するか,具体的には情動交換の体験によって,「共にある体験」をしていくことが 重要になる。これは,他者との関係性に見通しを持てるような体験である。上述した山縣や 奥山が述べているように,施設児童は,怒りと攻撃感情,愛情への激しい飢えを抱えており,

こうした情動が対人関係を困難にしてしまう問題や,自己の感情を捉えることができない 問題につながっていくことが考えられる。

施設児童の情動の調節や連続性の問題,対人関係を困難にしてしまう問題は,間主観的か かわり合いの体験が少ない,或いは体験できなかったことが示唆される。それは,乳児と母 親両方のかかわり合い領域で同時に起こる情動の交換体験の無さと言える。

(3) 施設児童に対する心理的援助の課題

第1章では,児童養護施設で生活している子どもの現状と課題についてまとめた。文献レ ビューにより,施設児童は情動調節や自己制御の問題,また自己統合の問題をもつという特 徴が示された。こうした情動や行動の問題をもった施設児童は,「これが自分だ」といった 自分の感情を実感することは難しい。自己の感情を捉えることが困難になると,対人関係の 形成が難しくなる。こうした状況が続くことにより,施設児童の自己肯定感や自尊心は低下 し,自暴自棄になったり,無気力になったりしていく,という悪循環が作用していることが 明らかになった。

したがって,施設児童が自己感を成長させていくことができるように,自己感の間主観的 かかわり合いの領域に対して,心理的援助を行うことが喫緊の課題である。

第 2 章では,第 1章の文献レビューをまとめた結果,施設児童の自己感を支える要因と して,①情動調節,②自己効力感・自尊感情,③自己統合の領域が考えられることを示した。

第3章では,本研究の目的と論文の構成を提示した。

3. 論文の構成

第1部では,問題と目的を提示する。第Ⅱ部では,Sternの「自己感」の発達理論と集団 歌唱療法について理論的研究を行う。そして,第Ⅲ部および第Ⅳ部では,施設児童の自己感 の成長を目的とした実践的研究を行う。第Ⅴ部第9章の総合考察において,施設児童の自己 感の在り様と集団歌唱療法による自己感の成長を述べる。終章では結論として,本研究の成 果を報告して,今後の課題を述べる。

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4 第Ⅱ部 自己感と集団歌唱療法における理論的検討

第4章では,Stern(1985a.b)の自己感の発達理論と集団歌唱療法について,理論的検討を

行った。本研究では,Sternの自己感の発達理論を基本に据えている。

自己感の成長は,情動の交換の促進によって生じる,「情動調律」における共鳴・共振の 働きが重要な役割を担う。そこで第5章では,集団歌唱療法の治療的効果である共鳴・共振 について論じた。自己感の成長は,他者との情動調律が必要である(Stern)。情動調律は,

他者の感情状態に共鳴して,この共有された情動状態がいかなる性質のものかを他者に対 して表現する行動である。集団歌唱療法で生じる治療効果として,心の中で歌い,身体が歌 う体勢をとっていると,他者の発している歌によって無意識の発生が行われて身体が鳴り 出す。共に歌える歌がそこにあるだけで,身体同士は共鳴・共振を行う(青,2010)。また音 楽による共鳴・共振は,その空間に自分は,「一人ではない」と感じられる一体感を創り出 す。情動の交換によるこうした体験が自己感の成長につながることを論じた。

第Ⅲ部 実践研究1

研究1 集団歌唱療法における施設児童の自己感の成長

―自己感を支える「自己効力感」と「自己の統合」―

1. 目的

研究1の目的は,集団歌唱療法における他者との情動調律によって,施設児童の自己感を 支える,「自己効力感」「自己の統合」が促進することを明らかにすることである。

2. 方法

2.1 集団歌唱療法の実施方法

A養護施設児童の小学1年生から6年生の男女16人を対象として,集団歌唱療法を20回 実施した。なお,1人がセッション終了の三週間後に転園となり,フォローアップテストが 実施できなかったため分析から除外した。

使用した曲は,合唱組曲「とべないホタル」を施設児童用に適宜変更し実施した。

2.2 調査の実施方法

2.2.1 情動調律体験の評価方法

集団歌唱療法に特化した,「情動調律チェックリスト」(自己評価)を作成した。情動調律 体験の評価は「情動調律チェックリスト」を用いる。

2.2.2 自己効力感と自己の統合の評価方法

S-HTPは,子どもの世界認識,自我意識,人とのつながりや社会との関係性,人の心の発

達など,情緒的な発達を拾うことが可能である(三沢,2009)。研究では「S-HTPの評定用紙」

を評価方法として用いた。

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5 3. 結果

3.1 情動調律体験

「情動調律チェックリスト」の質問の合計得点を算出したうえ,セッション終了後,介入 後10回目と最終回の「情動調律体験」の3段階の得点の変化を一元配置の分散分析で確認

した。TukeyのHSD法による多重比較の結果,第1回目のセッション終了後より,介入後10

回目と最終回の「情動調律体験」の得点が有意に向上した(F (2,30)=132.74, p <.001)。 3.2 自己効力感

「安心感」因子にあたる S-HTPの「内的豊かさ」尺度において,PreよりPostの得点が 向上した(F (2,28)=6.09, p <.01)。「社会的能力」因子にあたるS-HTPの「社会性」尺度 では,PostとFollowの段階が両方ともPreより得点が向上した(F (2,28)=5.90, p <.01)。 しかし「積極性」因子にあたるS-HTPの「エネルギー水準」尺度において,有意な差が見ら れなかった

3.3 自己の統合

一元配置分散分析による介入前後の変化を確認した結果,自己の統合にあたる「統合性」

尺度において,Preに比べ,Post,そしてFollowの得点が向上した(F (2,28)=10.51, p

<.001)。

4 考察

4.1 情動調律体験について

第1回目のセッション終了後より,介入後10回目と最終回の「情動調律体験」の得点が 有意に向上したことから,歌うという最も自分を感じうる自己表現において,声が響き合っ たときの体験は,情動調律を体験したと言える。

声の共振・共鳴という体験の情動調律は,自分の気持ちが仲間の感情と交流し合いながら 進んでいく体験である。子どもたちの間に起こる気持ちの高まりのやりとりは,仲間ととも に感じている体験,仲間と共にある体験と言える。こうした仲間と共にある体験は,子ども 個人としても経験されたと考えられる。この体験は,「私は私である」「これが私である」と いう体験的感覚である。

4.2 自己効力感について

施設児童は共振・共鳴によって,情動調律体験,仲間と共にある体験をしたことが確認で きた。さらに自己効力感における安心感と社会的能力が向上した。情動調律体験と安心感の 向上は,田中(2015)が言う,「施設児童は,誰も何もかも,信用していない」状態から,他 者を受け入れることができるようになったと考えられる。他者を受け入れるには,自分の感 情にも気づきが必要である。社会的能力の向上は,自己の感情を捉えることができるように なり,他者と関わりを持てるようになったことを示すものである。奥山(2006)は,「施設児

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童は間主観性を持ち難い」としているが,他者と共にある体験によって,社会との関わりを 持てるようになってきたことを示すものである。

4.3 自己の統合について

自己の統合について,「統合性」尺度において,Preに比べ,Post,Followの得点が向上 したことから,現実検討力,集中力,創造性,自己のまとまりが向上したと言える。子ども が自分の感情を出して,それを受け止めてもらうことによって,自分自身の本来の感情に気 づいたと考えられる。

増沢(2013)は,「施設児童は様々な場面で適応が困難で,叱責を受けることや疎外される 状況が生まれやすく事態を悪化させていく」と述べているが,仲間と共にある体験は,安心 できる空間において気持ちが自由になったことで,自己表現が可能になった。自己の気持を 表現するということは,集中力や創造性,自己のまとまりが向上したことを示すものである。

4.4 研究1の総合考察

研究1は,集団歌唱療法における他者との情動調律の体験によって,自己効力感が高まり 自己の統合が促進していくことを明らかにすることであった。その結果,情動調律体験が促 進されて仲間と「共にある体験」をしたことが示された。また,情動調律が促進したことに よって,自己効力感における安心感と社会的能力が向上したことから,情緒的に安定して,

環境との関りにおいて,柔軟性・社会適応が高まったことが考えられる。さらに自己の統合 においては,現実検討力,課題に取り組む集中力や創造性が向上したことが明らかになった。

したがって,研究1「集団歌唱療法における他者との情動調律によって,施設児童の自己 感を支える「自己効力感」「自己の統合」が促進することを明らかにする」について,一部 を除き達成できたと言える。

情動の共有体験により,他者視点で考えたり,自分の気持に意識が向けられるようになり,

自己を客観視することが可能になった。しかし,自己効力感における「積極性」は変化が見 られなかった。また,Post/Followの描画表現において,「シルエットの人」「後ろ向きの人」

「記号化の人」の特徴的表現が見られたことは,「自分を大切な人間」「かけがえのない人」

と思える自尊感情の低さを反映していることが示唆された。

このことは,仲間の気持に共感できるようになったが,歌詞の主人公の「とべないホタル」

にも共感したと考えられる。自分に向き合うことができるようになったが,同時に「自分と は何者か」という自己の問題に直面したことが推察される。自己が統合されることによって,

自分の問題に向き合うことが可能になったが,自分に向き合うことに動揺したと言える。

5 課題

施設児童にとって集団歌唱療法における他者との情動の共有体験は,自他相互の共同作

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業において他者視点で感じたり考えたり,自己を客観視することを可能にした。この体験は,

「自分は何者か」という自己について考えるきっかけとなった。こうした自分の存在を考え ていく作業は,子どもにとって重要なことである。しかし,自分に向き合うことを余儀なく された施設児童たちは,この心の揺さぶりに動揺したことが示唆される。こうした自分自身 に対する不確実な感情は,自分を大切にする気持ちや自分をかけがえのない人間だと思え る自尊感情の低さを反映していると考えられる。

研究1の結果から,自己感を支える要因は,「自己効力感」「自己の統合」と共に「自尊感 情」が重要な役割を果たすことが示された。したがって,「自分の存在に対する不確実感」

の感情を支えていくために,集団歌唱療法において自分は大切な存在,自分は価値ある存在,

といった自尊感情を高める働きかけが必要であることが課題として示された。

第Ⅲ部 実践研究

研究2 集団歌唱療法による施設児童の自己感の成長

―自己感を支える「自己効力感」「自尊感情」「自己の統合」

1. 目的

研究2の目的は,集団歌唱療法における他者との情動調律の体験によって,施設児童の自 己感を支える「自己効力感」「自尊感情」「自己の統合」が促進することを明らかにすること である。

2. 方法

2.1 集団歌唱療法の実施方法

B養護施設児童の小学1年生から6年生の男女13人を対象として,集団歌唱療法を8 回 実施した。集団歌唱療法で用いた曲は,1.伝説の広場の歌,2.つめくさの歌,3.オペラ『森 は生きている』より 一瞬の「いま」を,4.こげよマイケル,5.○○小学校校歌(対象児童 が通学している小学校)である。

3. 分析方法

3.1 情動調律チェックリスト:自己評価

集団歌唱療法第 1 回セッション終了後,最終回セッション終了後にチェックリスト情動 調律チェックリスト」を実施し,各項目の合計得点変化を統計的分析で評価する。分析には 統計ソフトSPSS Statistics21を用いた。

3.2 児童用一般性セルフ・エフィカシー尺度:自己評価)

「安心感」と「チャレンジ精神」の 2因子から構成されて 18 項目からなる。「安心感」

「チャレンジ精神」の下位尺度があり,総合得点で評価できる。

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8 3.3 自尊感情測定尺度(東京都版):自己評価

児童・生徒用の自己評価シート(小学校1年生~小学校3年生用),小学校4年生~高校 生対象)である。自尊感情の3つの観点に基づいて,子どもの自尊感情の傾向を把握する。

3つの観点は,「A 自己評価・自己受容」(8項目),「B関係の中での自己」(7項目),「C 自 己主張・自己決定」(7項目)の3因子からなり,合計22 項目の質問項目を有する。

3.4 東京都自尊感情尺度(東京都版):他者評価

自尊感情の6つの観点に基づいて,子どもの自尊感情の傾向を把握する。「①人への働き かけ」「②大人との関係」「③友達との関係」「④落着き」「⑤意欲」「⑥場に合わせた行動」

の6因子からなり,24項目の質問項目を有する。対象児童の担当CWが評価した。

3.5 「自己効力感」と「自己の統合」の評価方法

研究1と同様に,「S-HTP評価用紙」を用いて分析を行う。「安心感をもって行動すること ができる」の評価は,「S-HTP評価用紙」の「内的豊かさ」尺度,「積極的に行動することが できる」の評価は,「エネルギー水準」尺度,「社会的能力をもって行動することができる」

の評価は,「社会性」尺度を採用する。「自己の統合」とは,「他者と共にある自己の体験に おいて,自己を統合させて活動しているまとまりをもった自己の感覚」の定義に基づき,「S- HTPの評定用紙」の「統合性」尺度を用いる。

4 結果

4,1 情動調律の体験

第 1 回セッション終了後,最終回セッション終了後の情動調律得点について t 検定を適 用した。その結果,第1回セッション終了後より最終回終了後の情動調律体験の得点が有意 に高かった(t (12)=5.86, p <.001)。

4,2 児童用一般性セルフ・エフィカシー尺度における自己効力感の変化

介入の前後に,児童用一般性セルフ・エフィカシー尺度(福井ら,2009)による質問紙調査 を行った。対象者は7名であった。性別と介入(Pre・Post・Follow)を独立変数,3つの 下位尺度の「安心感」「チャレンジ精神」「総合得点」を従属変数とした2要因の分散分析を 行った。その結果「チャレンジ精神」と「総合得点」において,有意な性別と介入の主効果,

交互作用が認められなかった。また,「安心感」においてのみ,介入の主効果が認められた

(F (2,4)=33.41, p <.01)。これらの結果から性差による有意差がないことが明らかとな っていたので,分析では性別の検討を行わず,一元配置分散分析による介入前後の変化を確 認する。

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Tukey のHSD 法による多重比較の結果,「安心感」において,Preに比べ,Post,そして

Followの得点が高かった(F (2,12)=17.17, p <.001)。また,「統合得点」においても,Pre より,Followの得点が向上した(F (2,12)=9.73, p <.01)。しかし,「チャレンジ精神」で は,有意な得点の変化が見られなかった(F (2,12)=1.73, n.s.)。

4.3 S-HTP指標得点における自己効力感の変化

男女によって,集団歌唱療法による介入の効果に違いがあるかどうかを確認するため,研 究1の対象児童15名と研究2の対象児童12名合わせて27名を対象に,性別と介入(Pre・

Post・Follow)を独立変数,「内的豊かさ」「エネルギー水準」「社会性」「統合性」尺度の得

点を従属変数とした2要因の分散分析を行った。その結果,4つの尺度において,有意な交 互作用及び性別の主効果が認められなかった。したがって,研究 1と研究 2 ともに性別に よる介入効果に差がないと言える。

TukeyのHSD法による多重比較の結果,「エネルギー水準」において,Preに比べ,Post,

Followの得点が向上した(F (2,22)=8.73, p <.01)。「内的豊かさ」において,Preより,

Followの得点が向上した(F (2,22)=9.58, p <.01)。「社会性」尺度において,介入前後の 有意な差が見られなかった(F (2,22)=3.32, n.s.)。

4.4 自尊感情の変化:自己評価

性別と介入(Pre・Post・Follow)を独立変数,自尊感情と他者評価から計9つの下位尺 度得点を従属変数とした2要因の分散分析を行った。前述した自己効力感と同じく,これら の結果から性差による有意差がないことが明らかとなっていたので,以後の分析では性別 の検討を行わず,一元配置分散分析による介入前後の変化を確認することとする。

3つの下位尺度にすべて介入による有意な変化が見られた。TukeyのHSD法による多重比 較の結果,「自己評価自己受容」では,Pre に比べ,Post,Follow の得点が高かった(F (1.31,15.69)=26.17, p <.001)。「関係の中での自己」において,Preに比べ,Post,そし てFollowの得点が向上した(F (2,24)=29.06, p <.001)。「自己主張自己決定」では,Pre に比べ,Post,そしてFollowの得点が向上した(F (2,24)=20.02, p <.001)。

4.5 自尊感情の変化:他者評価

6つの下位尺度の中のうち,2つの下位尺度から集団歌唱療法実施後の有意な変化が見ら れた。「落ち着き」では,Preと比べ,Followの得点が向上した(F (2,24)= 3.55, p <.05)。

「場に合わせた行動」において,Pre より Follow の得点が向上した(F (2,24)=6.05, p

<.01)。しかし,「人への働きかけ」「大人との関係」「友達との関係」「意欲」の4つの下位 尺度において,集団歌唱療法実施後の有意な変化が見られなかった(F (1.33,15.92)=3.25, n.s. ; F (2,24)=1.01, n.s. ; F (1.19,14.28)=.55, n.s. ; F (2,24)=2.25, n.s.)。

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10 4.6 自己の統合の変化

TukeyのHSD法による多重比較の結果,「統合性」尺度の得点において,Preに比べ,Post,

そして,Followの得点が高かった。また,PostよりFollowの得点が高かった(F (2,22)=17.44, p <.001)。

5 考察

5.1 情動調律体験について

情動調律体験について,第 1 回セッション終了後より最終回終了後の情動調律体験の得 点が有意に高まったことから,施設児童は,仲間との情動交換が促進されて,仲間も自分の 気持ちと同じように感じていることを体験したと言える。自分の気持ちが仲間と共有され た情動調律体験である。自己感の成長は,他者との情動調律が必要である(Stern)。

施設児童は仲間の感情状態に共鳴して,この共有された自らの情動状態を仲間に対して 声によって,知らせ合う。歌う行動の背後にある自らの感情は,仲間と共有された感情へと 注意の的が移っていく。セッションの4回目の終了後,振り返りの中で,施設児童の一人が

「自分たちの小学校の校歌を歌ってみたい」と述べた意見に,全員が賛同した。この発言と,

この発言に仲間全員が賛同したことは,共鳴や共振から得られる情動を交換し合う体験が 促進されて,「他者と共にある体験」をしていることを裏付ける施設児童の行動であること が推察される。予定していた曲(「だれがこおりをとかすの?」)を変更して,小学校校歌を 取り入れた。

5.2 自己効力感について

自己効力感の質問紙調査では,集団歌唱療法を実施する前より,「安心感」の得点が有意 に向上した。「チャレンジ精神」には変化が見られなかったが,「総合得点」は向上した。ま た,S-HTP の指標得点の分析では,「エネルギー水準」「内的豊かさ」尺度は,向上したが,

「社会性」尺度には変化が見られなかった。

以上の結果から,安心感が高まり情緒的に安定したものの,社会への働きかけに関しては 力が発揮できていない状況であると言える。エネルギー水準の高まりは,自信,自己効力感,

劣等感の程度などの内面的な部分を測定している。一方,チャレンジ精神と社会性は,社会 への働きかけ行動など,現実場面を測定している。

したがって,自分自身に対する内面的な部分は,高まっているが,現実場面で社会に対す る実際の行動までには,至っていないことが考えられる。

5.3 自尊感情について

自尊感情の自己評価で「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」「自己主張・自己決定」

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の全項目の向上が見られた。他者評価では「落ち着き」「場に合わせた行動」の向上が示さ れた。これらの結果は,施設児童が自分のことを以前より認めることができるようになり,

他者とのやり取りをすることに自信をもてるようになって自己主張が向上したと思われる。

また,CW の質問紙調査においては,子どもたちが生活で落ち着いた行動や場に合わせた 行動ができるように変化したことが示された。したがって,施設児童は,施設や学校で落ち 着いた行動や場に合わせた行動をしていることが明らかになった。しかしながら,子どもの

「人への働きかけ」「大人との関係」「友達との関係」「意欲」については,以前と変わりな いという結果が示された。「人への働きかけ」「大人との関係」「友達との関係」,また「意欲」

については,社会性と関係している。自分に自信が出てきたものの,社会生活において他者 との関係が向上したことを第三者に認識してもらうには,一定程度の時間が必要であるこ とが考えられる。

日常において,CW は施設児童が施設生活や学校生活で,落ち着いた行動や場に合わせた 行動をしていることを認めていることから,子どもの現在の行動が継続されることによっ て,CW や学校の先生から褒め言葉をかけてもらう機会が増加していくことが示唆される。

信頼できる他者に褒め言葉をかけてもらうといった、子どもを取り巻く環境が変化するこ とによって,施設児童は,「人への働きかけ」「大人との関係」「友達との関係」などの対人 関係において,気持ち良い体験と成功体験を重ねることが可能になる。

こうした成功体験を積み重ねることで,CW の認識の変化が起こり,集団歌唱療法介入後 に変化しなかった他者評価が向上していくことが考えられる。

5.4 自己の統合について

自己の統合について,集団歌唱療法介入後,S-HTPの「統合性」尺度の得点は,有意に高 まった。この結果は,現実検討力,集中力,創造性,自己のまとまりが向上したといえる。

得点の変化について,PreよりもPost,そして,PostよりもFollowにおいて高まってい る。得点がPostにて低下する場合でも,Followでは,Preより得点が向上していることが 特徴的であった。Post で得点が低下することは,型にはまらず自由に自分の気持ちを描写 したために,判断基準の評価が低下したことが考えられる。しかし,時間経過とともに内省 が深まった結果,Follow の描画では,まとまりが見られるようになって,統合性の得点が 向上したと言える。

第Ⅳ部 総合考察

1. 集団歌唱療法における自己感の成長

第 9 章では総合考察として,集団歌唱療法の働きかけにおける質問紙調査と描画表現の 変化から得られた自己感の成長について報告した。集団歌唱療法において,施設児童は情動 の交換を促進させ,情動調律を体験したことによって,自分の気持ちに触れたり,確かめた

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りしながら,「これが自分だ」という体験をしたことが明らかになった。

「これが自分だ」という体験は,自己感の成長を意味するものである。したがって、集団 歌唱療法は,施設児童が情動調律を体験できる心理的援助であることが示された。

また,自己感を支える要因である,「自己効力感」「自尊感情」「自己の統合」の自己評価 においては,集団歌唱療法の体験後,施設児童は自己の存在について,考えるようになって,

以前より自分自身を肯定的に認めることができるようになった。また,ありのままの自分を 受け入れることが可能になった。安心して落ち着いた生活を送れるようになったことから,

物事に対する集中力が高まり,自己にまとまりがみられるようになったと言える。

以下に,施設児童の自己感の成長についてまとめる。

(1) 理論的研究から得られた施設児童の自己感の在り様

乳幼児は情動調律によって,内的感情状態を他者と共有可能な体験であることを確認し ていく。しかし,調律されたことのない情動状態は,対人間で共有可能な体験から孤立し,

隔離されたものとして体験される(Stern)。先行研究から明らかになったように,施設児童 は,人との情動の交換に必要な相手を思いやる気持ちが低いため,人に優しく接することが 苦手である。こうした行動は対人関係の中で表出されるため,他者と共にある体験を経験す る機会を失うことになり,「自己効力感」を得ることは難しい。他者から優しく,温かく見 守られた経験が不足していたら,他者を思いやることは難しいだろう。こうした他者との情 動の交換が閉ざされたら,自分の情動は意識下に置き去りにされる。

施設児童にとって,抑圧された彼らの情動は,不安定で統一性を維持することが困難にな る。施設児童の自己感の在り様は,情動交換の体験不足による不安定な情動の世界であるこ とが示唆された。抑圧された情動は,Stern(1985a)が述べている言語自己感において生じる

「体験」と「言葉」のずれとして切り離された「重要な他者との情動」であると考えられた。

発達の移行に伴う諸困難の多くは,Sternが言う「すき間」の問題であり,行為を思いと どまって自らをかえる情動機能が重要な役割を果たす。体験と言葉のずれの断片は,意識下 に抑圧された彼らの真の情動ではないだろうか。彼らの自己感は,意識下に抑圧された重要 な他者との情動に左右された主観的体験として自己を体験していることが示唆された。

このことから,施設児童は他者との情動の交換から得られる自己感が未成熟であり,自己 感が成長していくための心理的援助が課題であることが示された。また,先行研究を検討し た結果,自己感の成長には,情動調律が必要であり,自己感を支える「自己効力感」「自尊 感情」「自己の統合」が重要な役割を担うことを明らかにした。

(2) 集団歌唱療法における情動調律による自己感の育ち

本研究は集団歌唱療法における情動調律の体験によって,自己感の成長を促すことを明 らかにすることであった。自己感の成長は,他者と情動を交換することによって,自己の内

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的感情が他者と共有可能であることを体験する情動調律が必要である。

本研究において,集団歌唱療法は情動の交換を促進し,情動調律を体験できる一つの方法 であることが示された。情動調律チェックリストの質問紙調査では,研究1,及び研究2に おいても,第1回セッション後よりも最終回の得点が有意に向上した。このことは,施設児 童は,自分の声と仲間の声を響かせて,共鳴・共振を体験したといえる。研究2で使用した 曲の歌詞は,「繋がり」を体験できる内容の曲である。共鳴・共振の体験は,友達とつなが っているような体験をしたのではないだろうか。自己効力感尺度における安心感や積極性 の高まりが,彼らの情動調律体験を裏付ける結果といる。

集団歌唱療法において情動の交換が促進し,情動調律を体験したことによって,自分の気 持ちに触れたり,確かめたりしながら「これが自分だ」という体験をしたと考えられる。こ の「これが自分だ」という体験は,自己感の成長を意味するものである。集団歌唱療法の働 きかけは,仲間たちとの情動の共有体験によって,仲間と「共にある体験」として経験した ことが示された。

(3) 自己感の成長を支える「自己効力感」「自尊感情」「自己の統合」

研究2における自己効力感における自己評価では,「チャレンジ精神」では変化が見られ なかったものの,「安心感」と「総合得点」については効果が見られた。「自尊感情」の自己 評価では,「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」「自己主張・自己決定」の全ての下 位尺度の向上が見られた。さらに自己の統合については,現実検討力,集中力,創造性,自 己のまとまりが向上したことが示された。子どもが自分の感情を出して,それを受け止めて もらうことによって,今の自分のままで良いことを体験したと言える。こうした体験によっ て,自分本来の感情に目を向けられるようになり,今ここでの自分の感情に気づいたと言え る。ありのままの自分に気づき,「これが自分だ」と体験したことが示唆された。

他者評価では,自尊感情において,「落ち着き」「場に合わせた行動」の向上が明らかにな った。そして,S-HTPの描画内容の評価においては,PreよりもPostにて,形体が低下する 描画でも,Followでは,Preより表現が豊かになることが特徴的であった。つまり,体験直 後では変化しない,あるいは低下する描画内容であっても,フォローアップ時には安定感や 創造性が高まり,その子らしい物語性,その子ならではの描画表現が見られた。

こうした結果は自己の問題に直面した時に,自己と向き合うことができるようになって きたこと,さらには自己を認め受け入れることが可能になってきたことを示すものである。

安心感が高まり,自己に対する評価や自己を受容する力が向上して,自分自身を肯定的に認 めることができるようになったことが示された。また他者との関係の中,やりとりをうまく やれていると感じられるようになってきたことが明かになった。

集団歌唱療法によって,自らを見つめ直す機会に直面して,受け止めることができるよう になるためには,一時的に葛藤して自己を表現できなくなる。しかしながら,葛藤しながら

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も自分を見つめ直して,受け止めることができるようになり,自分の気持ちを素直に表現で きるようになったと言える。Follow の描画では,その子が今体験しているであろうと思わ れる物語性がある描画表現に変化した。自尊感情における自己評価では,集団歌唱療法体験 前に比べて,体験後とフォローアップ時に下位尺度のすべての項目で向上した。この結果は,

歌唱療法体験前よりも自分に対する自信が向上していることを示すものである。他者評価 では,他者との関りに変化がみられなかったが,自己評価では他者ともうまくやれること,

そして自己の考えを決めたり,他者に意見を伝えたりする力を確信していることが示され た。ここに施設児童に対する集団歌唱療法の大きな意義があると言える。

施設児童の情動や行動の特徴として,自分自身に対して肯定的なイメージを持つことが 難しいことが先行研究で示されているが,これまでの生活経験から,自分に対して自信が持 てないのである。また情動のコントロールができないことから攻撃的な行動が多いことか ら対人関係を形成することが困難になる。しかしながら,場に合わせた行動や落ち着いた行 動ができるようになると,自信を取り戻すことが可能になる。したがって,自分のことを肯 定的に評価できることは,彼らにとって重要なことである。良い面もそうではない面も含め た自分を,認めて受け入れることができるようになったことは,「私は私である」「これが自 分だ」という自己感の成長につながるものである。

2. 結論

(1) 本研究の成果

1 集団歌唱療法における情動の交換によって,施設児童は仲間との情動調律体験をしたこ とを示すことができた。施設児童は,互いの感情を確かめながら合わせていく情動調律体 験において,自分自身の気持に触れる「私」体験をした。この「私」体験の過程において,

仲間と情動を共有する共にある「私たち体験」へと促進したと言える。

2 情動調律体験によって,施設児童が自己効力感,自尊感情,自己の統合を高めたことを 明らかにすることができた。自己感を支えている要因である自己効力感,自尊感情,自己 の統合が向上した結果が示すことは,施設児童が「これで良い」「これが自分だ」といっ た「私」を体験していること裏付けるものであり,自己感の成長を示すものである。

3 上述の施設児童の仲間と共にある「私体験」と「私たち体験」は,集団歌唱療法におけ る情動調律体験から生じた集団歌唱の治療効果であることが示された。この情動調律体 験は,「私たち」という仲間と共にある体験を示すもので,この体験は彼らにとって,心 の居場所となり得る体験である。

4 施設児童が自己感を成長していくためには,仲間たちと心理援助専門家グループにおけ る関係性の中で,施設児童が安心や安全を感じ,その環境において,彼らが感情の発露を 見出し,自由にその感情を表現し,その感情に対して情動調律を呼び起こす働きかけを行 っていくことが重要であることを示すことができた。こうした心理的援助が,施設児童が

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自己感を成長させていくための基礎になることを明示できたことは大きな成果と言える。

5 仲間との情動調律体験できる集団歌唱療法は,施設児童が自己感を成長させていくため の心理的援助法として位置づけることができた。また,そのためには施設児童の自己感を 支える要因である,「自己効力感」「自尊感情」「自己の統合性」に働きかけることが重要 であることを提示できたことである。

以上から,本研究の目的である,「集団歌唱療法における情動調律によって,施設児童の 自己感が成長することを明らかにする」について,一部を除き達成できたと言える。

(2) 今後の課題

1 施設児童の自己感における心理的支援について,「情動調律体験」「共にある体験」の働 きかけを基礎とした心理的援助を提案した。そのための具体的なプログラムを提示する ことである。

2 自己感の心理的援助の効果検討について,自己感に特化した質問紙の考案である。「情動 調律体験」「共にある体験」の働きかけを直接的に評価可能な尺度が必要である。

3 思春期,青年期の子どもにとって「自己感」の成長にとって新たな関係づくり(体験と 言葉のずれに対する心理的援助)は重要である。個別面接が中心となるが,ここでは丁寧 なかかわりが求められる。「呼び起こしの友」の核を根付かせるために必要と考えられる。

4 施設児童の「自己感」の研究を積み重ねることによって実証性の高いものにすることで ある。

5 施設児童の自己感の援助の成果を,一般家庭の子どもの自己感の成長における調査・研 究につなげてくことである。

施設で生活をせざるを得なくなった子どもたちが,自分をどのようにとらえて生活して いくのか,問題を残すところではある。しかしながら,本研究における施設児童に対する集 団歌唱療法が自己感の育ちを支える心理的援助の一方法として提示することができた。

このことは,彼らが自分自身を一人の人間として認め,受け入れていくことが可能になっ たことによって,他者との関係性においても自己調整しつつ,バランスを保つことができる ようになってきたことを示すものである。

こうした体験は,さらに仲間と「共にある体験」として機能するようになり,将来の自立 に向けて大きな自信につながることが期待される。

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16 引用文献

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参照

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