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2010/9/2( 現代語 現代文化フォーラム / 於筑波大学 ) 日英語の擬態語について 長谷部郁子 ( 筑波大学非常勤講師 0. はじめに 擬態語について : 音や様態をそのまま言葉にしたもの 他の名詞や動詞とは違う (Kita (1997, 2001

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2010/9/2(現代語・現代文化フォーラム / 於筑波大学) 日英語の擬態語について 長谷部郁子(筑波大学非常勤講師)ikukolcs@yahoo.co.jp 0.はじめに †擬態語について:音や様態をそのまま言葉にしたもの。他の名詞や動詞とは違う(Kita (1997, 2001)) (1) a. ぐらぐらする、あっさりする、トゲトゲする、あくせくする、わくわくする (目が)うるうるする (擬態語+補助動詞「する」) b. {ぐらっ/ぐらり}とする、{ぬるっ/ぬるり}とする、ほっとする(擬態語+助詞「と」) c. ぐらぐら揺れる、あくせく働く、目がうるうる潤む(擬態語(様態副詞)+動詞) d. (椅子の脚の)ぐらぐら(が酷い)、(味が)あっさり(だ)、(顔にできた)ブツブツ (擬態語の名詞的な用法) e. (『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』三条陸・稲田浩司 集英社) (2) a. bow-wow, meow, caw, croak, pitter-patter, rub-a-dub, (泣き声を表わす名詞)

b. buzz, totter, glitter, splash, trot, toil, bang, be agog, sting, throb (動詞)

c. with a roar, with a scream, with a thump(様態を表わす with a ~(擬態語名詞)) (英語の例は一部田守(2010)を参考にした) †ここでの日本語の「擬態語」の定義:軽動詞(補助動詞)「する」を伴うことができるかどうか あくせく{働く / する}、ぐらぐら{動く / する} ぬるぬるする(擬態語)

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†「擬態語+~する」:Kita (1997, 2001), Tsujimura(2001)、影山(2005)など しかし、たとえば(1d)のような名詞用法などについてはそれほど議論されていない。 †本論の目的 (3) a. 日英語の擬態語・擬音語についての経験的な事例・事実についてより広く考察する。 b. 日英語の擬態語・擬音語を比較し、日本語は英語に比べて擬態語の表現が豊かであり、形態 的なふるまいなどが得意であることを指摘し、なぜそのようになるのかを議論する。 †本論の構成 1 節:日英語の擬態語・擬音語の概観 2 節:日英語の擬態語・擬音語の比較 3 節:日本語の擬態語・擬音語の豊さと特異性について 4 節:結論 1.日英語の擬態語・擬音語の概観 1.1.日本語の擬態語・擬音語 †日本語の擬態語にはどのようなものがあるか?:影山(2005:11-14)の語彙意味論的な分類 (4) a. 行為・活動の様態を表わすもの あくせくする、(家で)ぶらぶらする、がつがつする、のんびりする、いそいそする b. 働きかけを表わすもの どんどんする、つんつんする、とんとんする、くちゃくちゃする、ふうふうする c. 場所移動を表わすもの うろうろする、(外を)ぶらぶらする、ちょろちょろする、きょろきょろする d. 心理を表わすもの がっかりする、びっくりする、しょんぼりする、ひやひやする、いらいらする (5) a. 生理的な感覚を表わすもの(主語は話者自身(の体の部位)) ずきずきする、がんがんする、(頭が)ふらふらする、わくわくする、どきどきする b. 話者の感覚がとらえたものを表わすもの(主語は話者自身(の体の部位)以外のもの) (椅子が)ぐらぐらする、がたがたする、じめじめする、べとべとする、ヌルヌルする c. 話者の感覚がとらえたもので、主語の恒常的な性質を表わすもの あっさりしている、ぎすぎすしている、ふんわりしている、おっとり(のんびり)している *通常「~している」を伴い、個体レベル述語となる。 なお、同じ音形を持つ擬態語が複数のカテゴリーにまたがることもある(「ぶらぶら」など) †擬態語の意味について ・Tsujimura (2001) 擬態語そのものは明確な意味を持たず、擬態語の意味は文の他の要素に依存する。

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・影山(2005) 擬態語も通常の動詞と同じように項を持ち、項に意味制限や格制限を課すことから、擬態語も文の 他の要素と同じように独自の意味を持つ。 (6) a. ネズミが台所をチョロチョロ走っている。 → ネズミが台所をチョロチョロしている。 b. 雨水が溝をチョロチョロ流れている。 → *雨水が溝をチョロチョロしている。 (7) a. 彼は上司{に / *と / *を}ペコペコする。(cf. ~におじぎをする) b. 彼はガールフレンド{と / *を}いちゃいちゃしていた。(cf. ~いちゃつく) (影山(2005:10)) ← 本論では擬態語については影山(2005)と同じ立場をとり、Tsujimura (2001)で述べられている 「文の残りの要素に意味的に依存し、それ自体では意味を持たない擬態語」には擬音語が当てはまる。 (長谷部(2010)) †擬態語・擬音語の統語 ・擬態語の統語範疇は? 「あくせくする」の形式は「VN(動名詞(Verbal Noun):動詞のような意味を持つ名詞(Martin (1975)))+する」表現と似ている? → 「あくせく」のような擬態語はVN? ・擬態語+「する」とVN+「する」の類似点 (8) 勉強する、寄付する、到着する、凍結する、微笑する、走行する (9) a. 路面{が / *を}凍結した / 資産{*が / を}凍結する b. 花子は教会に多額の金を寄付した。 擬態語の(6)、(7)の場合と同じように、VN も(9a)のように項に意味制限を課し、(9b)のように格を 与えることができる。 ・擬態語+「する」とVN+「する」の統語的な違い Ⅰ.「を」格の有無 (10) a. 彼は英語を勉強した。/ 彼は英語の勉強をした。 b. 列車が到着する。 / ただいま列車が到着をいたしております。(駅構内のアナウンス) (11) a. 花子は扉をドンドンした。/ *花子は扉のドンドンをした。 b. 花子の胸はドキドキした。/ *花子の胸はドキドキをした。

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Ⅱ.名詞用法の許容度(長谷部(2010)) (12) 英語を勉強する(動詞用法)/ 英語の勉強(名詞用法)多額の金を寄付する / 多額の金の寄付 資産を凍結する / 資産の凍結 花子が微笑する / 花子の微笑 荷物が到着する / 荷物の到着 右側を走行する / 右側走行 (13) a. (椅子の脚の)ぐらぐら(が酷い)、(味が)あっさり(だ)、(顔にできた)ブツブツ (= (1d)) b. *仕事が忙しすぎて毎日があくせくだ。 / *(扉の)ドンドンがうるさい。 *銀座{(で)の / を}ぶらぶらが好きだ。 Ⅲ.「する」の性質の違い

VN+「する」:「する」の項構造はない。意味的にも空。(Grimshaw and Mester (1988), 影山(1993)) → 項構造や意味を持つのは VN のみ 擬態語+「する」:擬態語と「する」が個々の独立した意味構造(=語彙概念構造:LCS、 クオリア構造)や項構造を持つ(影山(2005))(*擬態語の名詞化、LCS や クオリア構造については2 節で概観する) → このように考えることで、(13a, b)のような擬態語における名詞用法の許容度の差が説明される。 (詳しくは長谷部(2010)) ・擬態語の統語範疇 (14) S NP VP (外項) V’ Mimetic P V (内項) Mimetic する ぶらぶら LCS 意味構造(λ) *擬態語+「する」全体の意味は、擬態語の意味構造(α)を「する」のLCS 鋳型に組み込むこ とによって得られる。 (影山(2005:10)cf. 影山(2004a, b)) 統語範疇Mimetic:擬態語・擬音語を表わす統語カテゴリー。VN と同じように項構造を持つが、[+N] の素性を持つVN と異なり、[±V]や[±N]のような統語範疇を決める素性が未指定の為、「を」などの 格助詞で格表示されることができない。 意味編入:擬態語の意味構造が「する」に編入される一方、統語上では擬態語が「する」に(15)のよ うに主要部付加される。

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(15) V Mimetic V ・擬音語の統語範疇について 副詞を選択する助詞「と」を伴うことができる。 (16) ほっとする。 / 犬が通行人にわんわんと吠えかかる。/ りんりんと鐘を鳴らす。 → 擬音語は副詞的である。(17)のように、Mimetic P は純粋な付加詞として機能する。 (17) VP Mimetic P V’ りんりんと NP(内項) V 鐘を 鳴らす *ちなみに、擬態語+「する」の場合も、「味があっさりとしている」のように「と」が入る場合が あるが、これは LCS レベルでイベントタイプを状態から出来事へ変える為に挿入されたものであ る(影山(2005:14)) ・擬態語・擬音語とその名詞用法 (18) a. 胸がどきどきする。 Mimetic P b. 胸のどきどきが止まらない。 NP (19) a. 犬がわんわん吠える。 Mimetic P b. ほら、わんわん(=幼児語で犬)が歩いているよ。 NP *(18b), (19b)のような名詞用法の場合は、多くの場合、状態(e.g., どきどきしている状態)や個 体(e.g., 犬)を表わし、「が」格などを伴って現れることができ、動詞の項となり、θ役割を与えら れることが可能なので、本論ではNP とみなす。 1.2.英語の擬態語・擬音語 †英語の場合、日本語において擬態語で表わされる表現は個別の動詞に対応する。(cf. (2b)) (20) あくせくする / toil ちょこちょこする・せかせかする / trot わくわくする / be agog ブンブンうなる・がやがやする / buzz よちよちする・ぐらぐらする / totter

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どきどきする / throb ずきずきする / sting ぴかぴかする / glitter バタンと閉める / bang 雨がパラパラする splash → これらの場合、統語範疇は Mimetic ではなく通常の V(erb)である。 それぞれの動詞が表わす動作や移動などに独特の様態が付与されており、それが日本語の擬態 語・擬音語表現に相当する。 *これらのV を(1e)のように純粋に擬音として使う場合、V から Mimetic に転換する。 (2c)の名詞用法の多くはこれらの動詞が転換によって名詞化したものであり統語範疇は N となる。 (2)c. with a roar, with a scream, with a thump

†日本語のMimetic に相当する英語の表現 = (2a):日本語の擬音語の多く (2) a. bow-wow, meow, caw, croak, pitter-patter, rub-a-dub

品詞は名詞となっているが、擬音・擬態そのものを表わす場合はMimetic、個体を表わす場合は N (21) a. bow-wow (犬のほえ声そのものを表わす:Mimetic) b. bow-wow (日本語の「わんわん」と同じ、幼児で犬そのもの:N) → 日本語の擬態語・擬音語:Mimetic 英語の擬態語・擬音語:大半がV もしくは V 派生の N、日本語の擬音語に当たる一部のもの のみがMimetic → 英語の方が、日本語よりもMimetic に相当する語彙数が少ない。 なぜそのようになるのか?次節で更に日英語の擬態語・擬音語の比較を行う。 2.日英語の擬態語の比較 †共通点 ・擬音語の一部に名詞化が可能なものがあり、名詞は擬音を発する個体を表わすことが多い。 (22) a. わんわん (Mimetic) (吠え声)/ わんわん (N)(幼児語で犬)

b. bow-wow (Mimetic) (吠え声)/ bow-wow (N)(幼児語で犬)

(23) a. がらがら (Mimetic) (何かを鳴らす音)/ がらがら (N)(がらがら鳴らして遊ぶおもちゃ) b. rattle (Mimetic) (何かを鳴らす音)/ rattle (N)(がらがら鳴らして遊ぶおもちゃ)

・Mimetic の名詞化(長谷部(2010)):「椅子の脚がぐらぐらする」→「椅子の脚のぐらぐらが酷い」 (24) Kageyama (2001)に従い、動詞は、基体動詞の LCS をクオリア構造(Pustejovsky(1995)) の主体役割に埋めこみ、その構造の中から任意のEVENT や STATE を表わす要素(もし

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くは項)を形式役割に埋め込むことによって名詞化されると仮定し、この考え方を擬態語 の名詞化にも適用する。

・(語彙)概念構造((Lexical) Conceptual Structure)影山(1996)、他 Jackendoff(1990)も: あるできごとや状態を「ACT」などの意味述語に分解し、形式的に表わしたもの。

(25) 使役事象(「壊す」「動かす」のように行為者が何かに働きかけ状態変化や移動が起こる場合)

[EVENT [EVENT x ACT (ON y)] CAUSE [EVENT y BECOME [STATE y BE AT z]/ [EVENT y MOVE]]]

上位事象 下位事象

*[EVENT EXPERIENCE]は下位事象であり、BECOME の前に位置するとここでは仮定する。

(26) a. 死ぬ:[y BECOME [y BE AT DEAD]] (状態変化の下位事象のみ) b. (葉などが)落ちる:[y MOVE (TO)] (移動の下位事象のみ) c. 笑う:[x ACT] (行為の上位事象のみ)

d. 叩く:[x ACT ON y] (行為の上位事象のみ・目的語あり)

e. 壊す:[x ACT ON y] CAUSE [y BECOME [y BE AT DEAD]](上位事象・下位事象あり) ・クオリア構造(Pustejovsky(1995)):各語彙の百科事典的知識 名詞のクオリア構造(Pustejovsky (1995)) (27) a. 構成役割:物の構成素など b. 形式役割:外観や機能など c. 目的役割:物が用いられる目的 d. 主体役割:物の起源 (28) book:

構成役割:paper, contents, cover, etc.

形式役割:hold (information, physical object) 目的役割:read

主体役割:write

・名詞化について Kageyama (2001): event nominalization と entity nominalization 1.event nominalization (construct / construction)

(29) イベント名詞の派生 基体動詞の LCS を派生する名詞のクオリア構造の主体役割に埋め込み、その LCS の中から 任意の EVENT / STATE 要素を取り出し、派生する名詞の形式役割にセットせよ。 (Kageyama (2001: 37)) *イベント名詞=「作る(v)→作り(n)」のように、基になる動詞が表わすイベントを表わす名詞。 (30) a. 基体動詞 construct の LCS:

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b. event noun constructionのクオリア構造 (Kageyama (2001: 38)): 形式役割:Event / State (α)

主体役割:[EVENT [EVENT x ACT (ON y)] CAUSE [EVENT y BECOME [STATE y BE AT z]]] (= 30a) (31) a. The construction of the building took two years. ((30a)の使役イベント全体)

b. The construction was arduous and tedious. (Pustejovsky 1995: 94) ((30a)の ACT event) c. The construction was very slow. ((30a)の BECOME event)

d. a building of sturdy construction ((30a)の STATE = BE AT)

(Kageyama (2001: 38)) 2.entity nominalization (arrive / arrival)

(32) 事物名詞の派生 基体動詞の LCS を派生する名詞のクオリア構造の主体役割に埋め込み、その LCS の中から 任意の項を取り出し、派生する名詞の形式役割にセットせよ。 (Kageyama (2001: 40)) *事物名詞=「arrive(v)→arrival(n:着いたもの)」のように動詞が表わすイベント一部に含まれる 項(例えば到着した人や物などの個体)を表わす名詞。

(33) a. 基体動詞 arrive の LCS:[EVENT BECOME [STATE [α] BE AT z]]

b. entity noun arrivalのクオリア構造: 形式役割:Entity (α)

主体役割:[EVENT BECOME [STATE [α] BE AT z]] (= 24a)

(Kageyama (2001: 39)) *ちなみにconstruction は事物名詞化も可能であるし、arrive はイベント名詞化も可能である。 *(29)と(32)の操作は語彙特有の意味に左右されることが少なく日英語において非常に生産的。 ・擬態語の名詞化 (34) a. 椅子の脚がぐらぐらする。 (ぐらぐら=Mimetic P) b. 椅子の脚のぐらぐらが酷い。 (ぐらぐら=NP) (35) a. 顔の一部がブツブツして痒い。(ブツブツ=Mimetic P) b. 顔にできたブツブツが痒い。 (ブツブツ=NP) 擬態語のLCS(影山 (2005))Spk = 話者

(36) a. 「ぐらぐら」:[x MOVE <manner: ぐらぐら>] する:[Spk EXPERIENCE ] b. 「ブツブツする」:λx [x BECOME [x’s y BE AT <manner: ブツブツ>]]

(λ=λ演算子:以下は項x に関する叙述である)

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1 節で議論したように、日本語の Mimetic+「する」は Mimetic と「する」がそれぞれ独立し た意味構造(LCS など)を持つ。 「する」の LCS が分けて表記されている場合は、「する」の LCS は書きこまない。 ・擬態語派生名詞(event nominalization) (37) 「ぐらぐら」(ぐらぐらしている状態):(椅子の脚の)ぐらぐら(が酷い) 形式役割:[x MOVE <manner: ぐらぐら>]

主体役割:[x MOVE <manner: ぐらぐら>] (= (36a))

・擬態語派生名詞(entity nominalization) (38) 「ブツブツ」(ブツブツした部分・事物):顔にできたブツブツが痒い 形式役割:y 主体役割:λx [x BECOME [x’s y BE AT <manner: ブツブツ>]] (= (36b)) ・日本語のMimetic+「する」に相当する英語の動詞の名詞化: sting(ずきずきする)→sting(ずきずきする痛み)など 通常の動詞派生名詞(construction や arrival)と同じように(29)や(32)の操作で名詞化される。 (40) sting (v): [Spk EXPERIENCE [Spk’s x MOVE <manner: sting>]]

(41) sting (n): ずきずきして痛い状態 形式役割:[Spk’s x MOVE <manner: sting>]

主体役割:[Spk’s x MOVE <manner: sting>]

・日本語の副詞的な Mimetic(わんわんなどの擬音語)と英語の Mimetic(bow-wow)等の名詞化 基本的にこうした擬音語は音をそのまま言葉に置き換えているので(Kita (1997, 2001))、それ自 体がLCS やクオリア構造をもたない。これらの擬音語は、擬音を発する個体(犬など)のクオリ ア構造に記載されており名詞化においては、擬音を発する個体のクオリア構造と擬音と共に用いら れる動詞(吠える、など)のクオリア構造の情報が用いられる。 *擬音語そのものはLCS やクオリア構造を持たず、主語として現れる名詞と動詞のクオリア構 造に意味的に依存する。Tsujimura (2001)で述べられている「文の残りの要素に意味的に依存 し、それ自体では意味を持たない擬態語」にはこれらの擬音語が当てはまる。 (42) 犬がわんわん吠える。 具体的には、主語名詞(例えば(42)の「犬」)と動詞(例えば(42)の「吠える」)のクオリア構造の 共合成 (Pusutejovsky (1995))による名詞化(なお、動詞のクオリア構造の表記は影山(2005)な

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どに従い、一部LCS で記述する)

*共合成:複数のクオリア構造が互いに合成されることにより新たな構造を生み出す。 e.g., bake = 作成動詞 / 状態変化動詞 (Pustejovsky(1995))

曖昧性を解消するには、bake と bake の目的語のクオリアの共合成が必要となる。 (43) a. 「犬」

[項構造 項1=x: 動物]

構成役割:have a tail, four legs, and so on (x) 形式役割:bark <manner: ワンワン> (x)

b. 「吠える」(「犬」のクオリア内の形式役割に記載されている) [項構造 項1=x: 動物]

形式役割:指定なし

主体役割:x CAUSE [x’s voice BE AT]

→ (43a)の形式役割の bark <manner: ワンワン> (x)を(43b)の形式役割に書きこんで共合成→(44) (44) 形式役割:bark <manner: ワンワン> (x) (共合成の結果) → (44)の LCS を新たに作成される名詞のクオリア構造の主体役割に書きこむ。 → (44)の x を取り立て、主体役割に書き込み、(45)の entity nominal(わんわん=犬)を形成。 (45) 「ワンワン」 形式役割:x 主体役割:bark <manner: ワンワン> (x) 英語の bow-wow などの名詞化も同じ。 →擬態語の名詞化は通常の動詞の名詞化と全く同じプロセスで行われる、一見特殊に見え、日英語 で形態的にまったく異なる性質を持つ擬態語や擬音語の名詞化が、LCS やクオリア構造に働く普遍 的な制約に基づいて説明される。 †相違点 ・擬態語・擬音語のアスペクトの区別をする表現も日英語で異なる(田守(2010)) (46) a. ぴかっと光る。/ flash(1 回) ぴかぴか光る。/ glitter(複数回)

b. ぶるっと震える。/ give a brief shiver(1 回)ぶるぶる震える。/ shiver(複数回) c. ぽきっと折る。/ snap(1 回) ぽきぽきと折る。/ (英語に該当表現なし)(複数回)

→ 日本語の擬態語は語の反復でアスペクトの生産的に区別をすることができるが、英語は該当す る動詞の語彙がなければ区別することが出来ない。もしくは、(46b)の shiver のように一度名詞化 するという手段が選ばれる。

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(47) ぽきっ / ぽきり / ぽきん / ぽきぽき

これらの擬音語の微妙なニュアンスを英訳することは極めて困難。(田守(2010)) ← 1 節で観察したように、日本語の方が Mimetic に相当する語彙が多い。 ・日本語のMimetic+「する」表現と英語の擬態語に相当する動詞の LCS の違い

(48) a. 「あくせく」:<manner:あくせく> 「する」:[x ACT] b. toil: [x ACT <manner: toil>]

(49) a. *仕事が忙しすぎて毎日があくせくだ。(= (13b)) b. toil (v) → toil (n)

(48a)の「あくせく」の<manner>:LCS レベルでは常に ACT や MOVE 等と共に現れ、単独で 使用不可。 → 名詞化されるのは「あくせく」のみ。「する」の[ACT]を一緒に名詞化することはできない。 → 「あくせく」の LCS<manner>だけを単独でクオリア構造の主体役割に書きこむ事はできない。 こうした LCS を書きこむためには、ACT や MOVE などと一緒に書きこまなければならない。 → 名詞化が阻まれる。 英語の場合、日本語の(48a)と異なり、(48b)のように<manner>が既に ACT に組み込まれている のでこの問題は起こらない。(29)の操作が(48b)の構造全体に適用され、(49b)の名詞化が起こる。 (50) a.「ぶらぶら」:[x MOVE <manner: ぶらぶら> [ROUTE ]] 「する」:[x CONTROL]

b.「ドンドン」:[ON <manner: ドンドン> y] 「する」:[x ACT]

(51) *銀座{(で)の / を}ぶらぶらが好きだ。/ *(扉の)ドンドンがうるさい。(= (13b)) (50a)の LCS:述語 MOVE のみから成る → この要素のみがクオリア構造に埋め込まれると「主語が自分の意思で移動をコントロールす る」という本来の意味が損なわれる(この意味は「する」のLCS 内の CONTROL が表す)。 → 名詞化が阻まれる。 (50b)の「ドンドン」の ON:LCS レベルでは常に ACT と共に現れ、単独で使用不可。 上で見たように、日本語の擬態語・擬音語の方が英語よりも名詞化が自由でない場合がある。 →なぜこのようになるのか? ←日本語はMimetic と「する」の2つで初めて1つのまとまった意味を表わし、Mimetic の LCS だけでは意味が不完全な事がある(動作や移動そのものを表わさず<manner>だけを表したり、ACT ON の意味だけ表したりする)のに対し、英語の場合は、擬態語が Mimetic という独立したカテゴ リーで実現されず、代わりに、それだけで完結した意味を持つ単独のV に擬態語の意味が組み込ま れているため、(29)や(33)の操作が生産的に適用される。

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→それでは、そもそもなぜ日本語ではMimetic という統語範疇がこれだけ豊かなのか? 3.日本語の擬態語の豊さと特異性について †日本語は擬態語・擬音語を用いた名詞化や造語が非常に豊かである。 (52) がっかり感、はらはら(感)、どきどき(感)ヌメヌメ(感)、あっさり味、びっくり箱 (53) a. ごろ寝(ごろごろ寝ること cf. ふて寝)、銀ブラ、がぶ飲み、どか食い、ぽい捨て、チラ見 ガン無視(若者言葉)、ガン見(若者言葉) 2モーラの擬態語を用いた名詞化など b. ガリガリ君(ある製菓会社のアイスキャンディー(とその商品を食べるキャラクター)の名 称)、パチパチ君(静電気の愛称) また、既に観察したように同じ擬態語のモーラ数の違いでアスペクトの差異を表現したり、促音化 などで微妙なニュアンスの違いを表現する。(47)を再掲する。 (47) ぽきっ / ぽきり / ぽきん / ぽきぽき (cf. (46c)) †日本語の動詞は英語の動詞ほどLCS の ACT の<manner>の部分の意味が豊かでない。 (54) a. {ぶらぶら / ちょこちょこ} 歩く / loiter, trot (田守(2010:12)) b. 歩く:[x ACT <manner:未指定>] CAUSE [y MOVE <slowly> ]

ぶらぶら / ちょこちょこ

c. loiter: [x ACT <manner: loiter>] CAUSE [y MOVE <slowly> ]

trot: [x ACT <manner: trot>] CAUSE [y MOVE <slowly> ]

→ 未指定となっている<manner>を補うために、様態や音をそのまま語に置き換えた Mimetic が 副詞的に用いられる。 *なぜ、日本語の動詞は英語の動詞ほどACT の<manner>の部分の意味が豊かでないのか。 ← 日本語は「なる」言語 / 英語は「する」言語 (池上(1981)) ←「なる」言語である日本語では(25)の使役事象の下位事象の BECOME や MOVE に話者の視点 が置かれるのに対し、「する」言語である英語ではACT に話者の視点が置かれる。(影山 (1996)) (25) 使役事象(「壊す」「動かす」のように行為者が何かに働きかけ状態変化や移動が起こる場合)

[EVENT [EVENT x ACT (ON y)] CAUSE [EVENT y BECOME [STATE y BE AT z]/ [EVENT y MOVE]]]

上位事象 下位事象

← 英語に比べACT に話者の視点が置かれない日本語では ACT の様態が英語に比べ意味的に乏し くなる。

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→ それではなぜ、日本語では、副詞用法のMimetic 以外に、Mimetic+「する」表現がこれほど 生産的であるのか。

†日本語では VN+「する」のような形式が生産的である。韓国語にも(55)のような類例がある。 (55) Inho-ka hakkyo-eyse yenge-lul kongpu-lul yelsimhi ha-n-ta

Inho-Nom school-at Enligh-Acc study-Acc hard do-Pres-Declarative ‘Inho studies English hard at school.’

(Jackendoff (2002:258)) *VN は項構造や LCS を有するが、VN は[-V]であり、独立した発話文となるためには動詞が統語 構造上に現れなければならない。例えば、(56b)や(57b)は意味的に(56a)や(57a)と等価であるにも関 わらず、(56a)や(57a)に比べ独立した発話文と感じられにくい。それは、(56b)や(57b)に VP が含ま れていないからである(Jackendoff (2002))そのために、項構造や LCS をもたない意味的に空虚 な補助動詞の「する」がV に現れる。

(56) a. Fred perused a book yesterday. b. Fred’s perusal of a book yesterday (57) a. There was a storm last night. b. a storm last night

1 節で VN と Mimetic には項への意味制限や格の付与など共通点があることをみたが、擬態語を表 わす多くのMimetic も項構造や LCS を持ちながら[±V]の値が未指定なため、独立した発話文を形 成するためには補助動詞「する」を伴わなければならない。さらに、本来、イベントや状態を表わ すVN 様態や音そのもののみを表わす Mimetic は、ある行為のうち行為の<manner>しか表わさな いなどVN に比べると意味的に乏しいので、項構造や LCS をもつ「する」が意味を補っている。 4.結論 日英語の擬態語・擬音語の共通点・相違点や日本語のMimetic の特異性は、LCS やクオリア構造 における普遍的な制約や日英語の話者の視点の違いに還元されることを議論した。 日本語のMimetic の統語的なステータスの詳細などについては、今後のさらなる課題としたい。 ☆参照文献

Grimshaw, J. and A. Mester. (1988) “Light Verbs and θ-Marking”, Linguistic Inquiry 19:205-232. 長谷部郁子 (2010) 「日本語の擬態語と名詞化について」、MLF2010 における口頭発表(於国立国語

研究所)

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参照

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