招待論文
テラヘルツ波が拓く計測分析技術とその光源
竹家
啓
†a)岡野
紘世
†トリパティ
サロジ
ラマン
†川瀬
晃道
†,††Development of Measurement and Analysis Techniques Using Terahertz Waves
and Their Sources
Kei TAKEYA
†a), Hiroyo OKANO
†, Saroj R. TRIPATHI
†, and Kodo KAWASE
†,††あらまし 本論文ではテラヘルツ波パルス発生に関連した最近の研究を紹介する.フェムト秒レーザにより発 生するテラヘルツ波パルスを用いた計測方法にはテラヘルツ時間領域分光法やテラヘルツ断層撮像法(トモグラ フィー) などがある.このような計測技術の進歩のためには,テラヘルツ光源の高強度化,広帯域化が必須であ る.テラヘルツ波パルスの高強度化の例として非線形有機光学結晶を用いた光整流によるテラヘルツ波発生,及 び高強度モノパルステラヘルツ波発生の例としてリッジ型非線形導波路によるチェレンコフ位相整合方式を用い たテラヘルツ波発生について紹介する. キーワード テラヘルツ波光源,テラヘルツトモグラフィー,テラヘルツ時間領域分光,非線形導波路
1.
ま え が き
未 開 拓 の 電 磁 波 領 域 と 言 わ れ て き た テ ラ ヘ ル ツ
(THz)
波帯の研究が近年注目を集めている.かつて
は効率的な光源や検出器がなく,電波天文学や分析科
学などの一部の分野においてテラヘルツ波を用いた研
究が限定的に進められていたが,近年のレーザ技術や
半導体技術の進歩に伴って,革新的なテラヘルツ波の
発生,検出方法の開発が日々国内外で進んでいる.こ
の進歩に伴い多様なテラヘルツ技術が展開しており,
様々な産業分野においてテラヘルツ波の応用利用が期
待されている
[1]
∼
[3]
.
テラヘルツ波は波長がおよそ
30
µm
から
3 mm
の
領域,周波数にして
0.1 THz
から
10 THz
の電磁波を
さす.この領域は光波と電波の中間に存在し,電波と
しての透過特性をもつ最短波長域であり,光波として
の取り扱いやすさを有する最長波長域でもある.その
ため物質に対する適度な透過性を利用しながら,物質
†名古屋大学大学院工学研究科,名古屋市Graduate School of Engineering, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya-shi, 464–8603 Japan
††理化学研究所,仙台市
RIKEN, Sendai-shi, 980–0845 Japan a) E-mail: takeya@nuee.nagoya-u.ac.jp
に対して固有の指紋スペクトルを得ることができる.
テラヘルツ波は光子エネルギーに換算すると,数百
µeV
∼数十
meV
に対応する.この領域には分子の回
転スペクトル,巨大分子の振動モードなどの励起モー
ドが存在し,これまで観測が難しかった領域の物性を
見ることができる.更に光子自体のエネルギーが
X
線
などと比べて低いことから人体へのダメージも少なく,
医療やセキュリティの分野においてもその活用が望ま
れている
[1]
∼
[3]
.
近年のレーザ技術の発展に伴って,より実用的なテ
ラヘルツ波光源,検出器が開発され,様々な観測手段
が開拓されている
[4]
∼
[6]
.それらの中でも,テラヘル
ツ時間領域分光法はフェムト秒レーザとともに進歩し
てきた測定法であり,広帯域テラヘルツ波パルスを用
いた計測法である.テラヘルツ波パルスを対象物に透
過若しくは反射させ,時間波形の波形変化から電場の
振幅強度変化と位相変化を計測することができる.強
度と位相の情報を同時に得ることができる為,試料の
複素誘電率や屈折率などの光学特性を複雑な処理をす
ることなく求めることができる
[7]
.テラヘルツ時間領
域分光で得られる情報はテラヘルツ波パルス自体の強
度,帯域に依存しているため,より多くの精密な情報
を得るためには更なる光源の開発が必要である.
このテラヘルツ波パルスを用いた応用例としてテラ
ヘルツ断層撮像法(トモグラフィー)がある
[8]
.これ
はテラヘルツ波パルスを照射し,反射されるエコーパ
ルスの実時間波形を測定することで内部に多層構造を
もつサンプルの断層画像を得ることができる.このテ
ラヘルツトモグラフィーは超短パルスの特性とテラヘ
ルツ波の適度な透過性能を利用することで,
X
線断層
撮像法や光干渉断層撮像法などでは測定の難しい各種
工業製品の塗装膜や服用薬の錠剤コーティングの膜厚
などを測定することが可能である.本論文では,テラ
ヘルツトモグラフィーについての紹介とテラヘルツト
モグラフィーに適した光源開発の最近の状況について
述べる.
2.
超短パルスを用いたテラヘルツ断層診断
テラヘルツ波は適度な透過性と光としての取り回し
やすさの特性から,非破壊検査の分野においても応用
利用の期待が大きい.非破壊検査の手法としては,透
過光イメージングや多変量解析を用いた分析があり,
更にトモグラフィーがある
[8]
∼
[12]
.テラヘルツトモ
グラフィーはテラヘルツ波パルスを測定対象に照射し,
各層で反射するエコーパルスを観測することにより対
象内部の断層画像を得る方法である.図
1
に飛行時間
型トモグラフィーの原理を示す.図に示すような多層
構造をもつ材料にテラヘルツ波パルスを入射させ,反
射波を観測する.屈折率の不連続面を有する各層の境
界においてテラヘルツ波パルスがエコーとして反射す
るため,複数のパルスが連なったパルス列が検出され
る.このとき,試料のテラヘルツ帯での群屈折率が既
知であればエコーパルスの遅延時間から各層の厚みも
求めることができる.
図 1 飛行時間型テラヘルツトモグラフィーの原理Fig. 1 Principle of time-of-flight terahertz tomography.
ここではテラヘルツトモグラフィーの例として,超短
パルスフェムト秒レーザで励起された非線形光学結晶
4-Dimethylamino-N-methyl 4-stilbazolium tosylate
(DAST)
をテラヘルツ波光源としたシステムの研究
結果について紹介する.テラヘルツ波の検出にはガリ
ウム砒素
(GaAs)
光伝導アンテナ
(PCA)
,結晶への
励起光の波長は
1.56
µm
,パルス幅は
17 fs
である.
DAST
結晶を光源とした場合のテラヘルツ波パルスは
モノパルスではなく時間領域で複雑なマルチサイクル
になり,解析的な処理を行う必要があるが,本論文で
は割愛する.詳細は文献を参照されたい
[8], [11], [12]
.
上記システムの奥行分解能は下記の手法で評価して
いる.評価のための試料として数十
µm
程度までの厚
みのテフロン膜を用いて厚みの識別を行っている.テ
フロン膜にテラヘルツ波パルスを照射し,テフロン膜
の表裏両面からの反射波形を観測することで試料の表
面と裏面を判別した.測定対象として
5
,
12
,
20
,
25
,
30
µm
のテフロン膜の厚みを測定したところ,
5
µm
の厚みまで精度良く測定が行えた.なお,この実験に
おけるテフロン膜の群屈折率はテラヘルツ帯において
1.9
であったため,構築した装置の奥行分解能は,サン
プルの群屈折率を
n
とするとおよそ
10
/n µm
以下で
あるといえる.この性能は飛行時間型トモグラフィー
としては世界最高レベルの分解能である
[8]
.
上記システムを用いた性能評価として,他の試料に
対するトモグラフィー実験の結果を以下に記す.図
2
は
90
µm
厚の紙を三枚重ねたものに対して行った三
図 2 3枚の紙に対する 3D トモグラフィーFig. 2 3D terahertz tomography image of three sheets of paper.
次元テラヘルツトモグラフィーの結果である.測定範
囲は
10 mm
× 10 mm
となっている.三枚それぞれ
の紙の表面,裏面からの反射パルスが判別できるだけ
でなく,紙と紙の隙間も明瞭に見て取ることができた.
テラヘルツトモグラフィーを行うにあたって,工業
製品塗装膜や皮膚角質層などの多くは多層膜構造を有
しており,一層の膜厚は薄いもので
10
µm
以下とな
る.したがって,工業,医療,化粧品業界などへの応
用展開を目指すうえでは,更なる奥行分解能の高精度
化が求められており,同時に,より測定範囲を深くす
るためのテラヘルツ波パルスの高強度化も要求されて
いる.測定可能深度を深くするためにはテラヘルツ波
パルスの高強度化が有効な手段である.一方,奥行分
解能の高精度化には,より時間幅の短いパルスを用い
ることが有効である.この短パルス化はテラヘルツ波
パルスの広帯域化のことであり,広帯域化はテラヘル
ツ時間領域分光法における広帯域測定の要求とも一致
する.次節以降ではテラヘルツ波パルスの高強度化,
短パルス化について報告する.
3. DAST
結晶を用いた高強度テラヘルツ
波パルス発生
テラヘルツ波の発生方式として,現在,様々な方法
が報告されている.例を挙げると,テラヘルツパラメ
トリック方式
[4], [13], [14]
,量子カスケードレーザ
[15]
などである.またフェムト秒レーザを用いたテラヘ
ルツ波パルスの発生方式には
PCA
を用いた方法や非
線形光学結晶を用いた方法が良く知られている
[16]
∼
[23]
.
PCA
からのテラヘルツ波発生は光励起による超
高速変調電流により電磁波を発生させる方法で,広く
用いられているが,損傷しきい値が低いことやアンテ
ナ基盤材料にテラヘルツ波の吸収があるため,高強度,
広帯域テラヘルツ波発生に問題点がある.更に
PCA
から発生するテラヘルツ波は光強度が弱いためゴーレ
イセルなどの常温動作検出器では検出が困難である.
一方,非線形光学結晶を用いた発生方法は結晶自体に
テラヘルツ帯の吸収があるという問題はあるが,
PCA
に比べてレーザ耐性が強く,励起光パワーを強くする
ことによる高強度化が期待できる.更に結晶形状も加
工しやすいことからチェレンコフ発生方式を利用した
高強度テラヘルツ波発生に可能性がある.
テラヘルツ波光源としての非線形光学結晶はニオブ
酸リチウム
(LiNbO
3)
,テルル化亜鉛
(ZnTe)
や
DAST
が広く知られている.
LiNbO
3などの無機結晶は加工
図 3 パイロ焦電素子を用いたテラヘルツ波出力測定の実
験系
Fig. 3 Experimental setup used to measure the THz average power using a pyroelectric detector.
性に優れており,導波路形状を利用した高強度テラヘ
ルツ波発生について報告がある
[6]
.導波路形状を用
いた方法は次章で述べる.一方,有機非線形光学結晶
DAST
は高い非線形光学定数をもつことが知られてい
る
[24], [25]
.非線形光学結晶からのテラヘルツ波発生
は差周波発生や光整流を用いた方法などが良く知られ
ている
[26]
∼
[28]
.光整流によるテラヘルツ波発生は入
射光強度の
2
乗に比例するため,高強度テラヘルツ波
発生は強い励起光を用いることで達成できる.
DAST
結晶はレーザ耐性が
PCA
と比べて高いため,高強度
レーザを用いた高強度テラヘルツ波を発生することが
期待できる.本節では高強度レーザを用いて行った高
強度テラヘルツ波発生について紹介する
[5]
.
実験の模式図を図
3
に示す.
DAST
結晶の大きさ
は
5
× 5 mm
2,厚み
0.49 mm
,励起光源に
IMRA
America
社製のフェムト秒レーザ
HFX-400 (
発振可
能波長
805
,
1560
,
1610 nm
,パルス幅
65 fs
,繰り返
し周波数
67.1 MHz
,レーザ強度
300 mW)
を用いて
いる.
DAST
結晶への集光は焦点距離
50.8 mm
のレ
ンズを用い,ビーム径を
60
µm
まで絞ってある.こ
のときのパワー密度は
2.44 GW/cm
2である.結晶か
ら発生したテラヘルツ波は
2
枚の放物面鏡を伝搬し
たのち,検出器に集光される.検出には
PCA
を用い
ての時間波形計測と焦電型検出器を用いての光強度計
測を行った.周波数スペクトルを得るためには時間領
域分光のシステムを構築し,
PCA
で時間波形を計測
し,強度検出には焦電型赤外線センサー(
Gentec
社
製
PI-A-65THz
)を用いている.
得られた時間波形は図
4
のとおりである.
2 THz
付近を最大出力として
7 THz
までの周波数スペクト
ルを得た.
1.1 THz
,
5.2 THz
のあたりに
DAST
結
晶由来の吸収がみられている
[28]
.
7 THz
付近で見
図 4 (a) DAST結晶からのテラヘルツパルス,(b) 周波 数スペクトル
Fig. 4 (a) Time domain THz electric field, (b) its intensity spectrum.
図 5 テラヘルツ波強度の入射レーザ光強度に対する依
存性
Fig. 5 Dependence of THz average power on laser input power.
られる電場強度の減衰は検出に用いた
PCA
の
GaAs
基板のフォノン吸収に起因している
[29], [30]
.これは
EO
サンプリングなどの方法を用いることで解消でき,
7 THz
を越えてテラヘルツ波の検出も可能になると
思われる
[31]
.光強度測定の結果を図
5
に示す.入射
光強度に依存して発生テラヘルツ波の強度が増加す
るのが観測された.テラヘルツ波強度は励起光強度
の
2
乗に比例して増加しており,
280 mW
励起の際に
18
µW
のテラヘルツ波発生を得られた.このときの
変換効率は
6
× 10
−5である.この大きなテラヘルツ
波強度は
DAST
が広い周波数において波長
1.6
µm
の
励起で位相整合条件を満たすからである
[11], [27]
.今
回の実験では発生したテラヘルツ波強度の飽和は観測
されなかった.また,励起光による結晶の損傷も見ら
れなかった.したがって
DAST
結晶を用いたテラヘ
ルツ波発生は,レーザ技術の進歩で得られた高強度励
起光を用いることで更なる高強度テラヘルツ波発生の
可能性がある.なお
DAST
結晶にはアニーリング処
理をすることで,より高い強度の入射光に耐性をもっ
た結晶も報告されている
[32]
.
この
DAST
結晶からのテラヘルツ波放射強度を汎
用的なダイポール型
PCA
からのテラヘルツ波出力と
比較する.
PCA
からの出力は校正済みのインジウム
アンチモン
(InSb)
ボロメータ
(QMC
インスツルメン
ツ社製
)
を用いて測定した.なお
PCA
励起の条件は
バイアス電圧
10 V
,励起光源に波長
805 nm
,繰り返
し周波数
67.1 MHz
,パルス幅
130 fs
,レーザパワー
10 mW
のフェムト秒レーザを用いて,図
3
と同様に
ロックインアンプを用いた実験系で測定した.この
実験から得られた
PCA
からのテラヘルツ波の強度は
70 nW
であった.この結果と
DAST
結晶からのテラ
ヘルツ波放射強度を比較すると,
DAST
結晶からのテ
ラヘルツ波放射強度は
PCA
からの放射と比べて
257
倍大きいことを示している.これらの場合において励
起光からテラヘルツ波への変換効率は
DAST
結晶にお
いて
6
× 10
−5である一方
PCA
においては
7
× 10
−6であった.以上より
DAST
結晶を用いることで
PCA
を用いた場合と比較して一桁高い変換効率を達成でき
る.損傷しきい値の問題から,
PCA
には用いること
のできる励起光強度に限界があるが,一方
DAST
結
晶は更に高耐性の結晶を用いることで,より強い光で
励起することが可能である.したがって更なるテラヘ
ルツ波発生の高強度化が
DAST
結晶においては可能
であることに留意されたい.
図
4 (a)
に見られるように
DAST
結晶から観測され
るテラヘルツ波パルスの時間波形は複雑な形状をして
いる,これは
DAST
結晶自体がもつ吸収特性に由来
している.テラヘルツトモグラフィー計測に関しては
複雑な時間波形でもトモグラフィーを行うのは可能で
あるが,その場合数式的な処理が必要になる
[12]
.ト
モグラフィーを行うために理想的なテラヘルツ波パル
スはモノパルス形状が望ましい
[8]
.次節ではこれらの
問題点を解消したテラヘルツ波発生法について述べる.
4.
導波路結晶を用いたチェレンコフ発生方
式によるテラヘルツ波発生
本節ではリッジ導波路型非線形光学結晶を用いた
チェレンコフ方式によるテラヘルツ波発生方法につい
て述べる.多層膜構造の断層撮像を行う際には複数の
エコーパルスを処理する必要があるため,モノパル
スかつパルス幅の細いテラヘルツパルスがトモグラ
フィー計測には望ましい
[8]
.
結晶を用いたテラヘルツ波発生は非線形光学結晶の
非線形性を利用して行われるが,その一方で,結晶自
身によるテラヘルツ波の吸収や発生したテラヘルツ
波の位相不整合が問題となる.非線形光学結晶の中で
も
LiNbO
3はテラヘルツ波光源として優れており,こ
れまでにテラヘルツ波発生に関して多数の報告があ
る
[33]
.しかしながら
LiNbO
3自体にテラヘルツ波の
吸収があるため,さまざまな方法
[34], [35]
でそれを解
消する方法がこれまでに報告されている.
ここではリッジ導波路形状の
LiNbO
3からチェレン
コフ位相整合方式を用いた広帯域,高出力のテラヘル
ツ波発生法について述べる.チェレンコフ位相整合方
式は,結晶表面から発生するテラヘルツ波のうち同
位相成分で強めあって放射される光を特定の方向で検
出する方法である.表面発生を用いることで,結晶自
体の吸収を抑え,更にプリズム結合チェレンコフ発生
方式は結晶のテラヘルツ帯における分散を無視して,
効率的にテラヘルツ波を発生できる優れた方法であ
る
[6], [36], [37]
.図
6 (a)
に理想的な概念図を示す.原
理的には結晶自体の吸収を抑えることが可能である
が,それでもなお結晶自身によるテラヘルツ波の吸収
と,有限の厚みをもつ結晶による位相不整合が効率的
なテラヘルツ波発生を低減する
(
図
6 (b))
.そこで厚
さ数ミクロンの導波路形状の結晶を光源として用いる
ことで上記問題の改善を図った.結晶が薄くなること
で
LiNbO
3自体の吸収と位相不整合を大幅に解消す
る.更に入射光の光軸に沿って結晶の長さを利用する
ので結晶全体を有効に使うことができ,効率的な発生
が可能になる
[38]
.
実験系の模式図を図
7
に示す.励起光には中心波長
1.56
µm
のフェムト秒レーザを用いている.非球面レ
ンズを用いてリッジ導波路
(5%MgO
添加
LiNbO
3結
晶,厚み
3.8
µm ×
幅
5
µm ×
長さ
10 mm)
にレー
ザ光を結合している.なお,焦点におけるレーザ光の
ビーム幅は
8
µm
,導波路を透過した励起光の光強度
図 6 (a)理想的なチェレンコフ位相整合条件,(b) 有限 のビーム径を考慮した場合の位相不整合Fig. 6 (a) Ideal Cherenkov-type phase matching con-dition, (b) Cherenkov-type phase matching condition when the beam diameter of the ex-citing light is considered. In (b), the phase mismatch is caused by the finite size of the beam diameter.
図 7 導波路からのテラヘルツ波発生実験の概要
Fig. 7 Diagram of the experimental setup for waveguide crystal.
をパワーメータで測定することにより結合効率も求め
ている.導波路から発生するテラヘルツ波を効率的に
集光するために,特注の半円錐シリコンレンズを導波
路に結合している.導波路とシリコンプリズムの間に
は励起光のシリコンへの漏れを防ぐために厚さ
3.5
µm
の
PET
フィルムを挿入してある.
シリコンボロメータ
(Infrared Lab.
社製
)
検出器を
用いてテラヘルツ波の発生強度を測定した.測定結果
を図
8
に示す.なお比較のために光伝導アンテナから
のテラヘルツ波強度も測定した.なお
PCA
発生の条
件は,低温成長
GaAs
基板のダイポール型,
780 nm
励起,入射光強度
15 mW
,バイアス
10 V
である.図
中の赤線より,発生テラヘルツ波は入射光強度の
2
乗
に比例しており,光整流の理論とも一致する結果が得
られている
[34]
.最も変換効率の高い所で,
6
.8×10
−4という結果が得られた.本実験の最大入力においても,
テラヘルツ波出力に飽和がみられることは無く,この
ことは,より強い励起光を用いることで更に強いテラ
ヘルツ波を発生できることを示唆している.
次にポンプ光をビームスプリッターで分けることに
図 8 ボロメータによるテラヘルツ波出力測定結果,PCA
の結果は比較のために×100 の値を表示している
Fig. 8 THz output measured by a Si bolometer. The data for the PCA were multiplied by 100 for clarity.
図 9 (a)導波路からのテラヘルツパルス時間波形,(b) 周
波数スペクトル
Fig. 9 (a) Temporal pulses and (b) spectrum from TDS measurement.
より,時間領域分光の原理で発生したテラヘルツパル
スの時間波形を計測した.なお,検出には
GaAs-PCA
を利用,
PCA
を励起するために周期的分極反転ニオ
ブ酸リチウム
(PPLN)
を用い波長変換を行っている.
得られた時間波形と周波数スペクトルを図
9
に示す.
DAST
などの光学結晶から得られる時間波形はマルチ
スペクトル形状であるためトモグラフィーに用いる際
には数学的な処理が必要になり手順が面倒であるが,
図 10 テラヘルツイメージャを用いた発生テラヘルツ波 形状の観測:(上) 導波路からのテラヘルツ波,(下) PCAを用いた場合Fig. 10 Output image of generated THz waves us-ing THz camera: (upper) ridge waveguide, (lower) PCA.
この導波路から得られた時間波形はモノサイクル形状
(振幅強度の
1
/
√
2
の高さにおけるパルス幅:
127 fs
)
をしており,トモグラフィーに用いるのに適している.
一方,周波数領域においては
0.1 THz
から
7 THz
ま
で,
50 dB
の信号雑音比
(SNR)
でギャップのないス
ペクトルを観測できた.
導波路から発生したテラヘルツ波のビーム形状を観
測するためにテラヘルツイメージャ
(NEC
社製,
IRV-T0831)
を用いて画像を取得した.結果を図
10
に示
す.導波路から及び
PCA
から発生したテラヘルツ波
を,いずれも放物面鏡を伝搬させたのち集光点にカメ
ラを置いて観測した.導波路から発生したテラヘルツ
波ははっきりとした点光源に集光しているのが観測さ
れているのに対し,
PCA
から発生したテラヘルツ波
はテラヘルツイメージャで検出することはできなかっ
た.このことは,導波路から発生したテラヘルツ波は
PCA
と比べて十分な強度をもっており常温動作のテ
ラヘルツイメージャを用いた方法でも見ることが可能
であることが確認された.
5.
む す び
本論文では,テラヘルツ波パルスを用いた計測技術
としてテラヘルツトモグラフィー,またテラヘルツ波
パルス光源における最近の研究である
DAST
を用い
た高強度テラヘルツ波発生とリッジ導波路型非線形光
学結晶を用いた高強度,広帯域テラヘルツ波発生につ
いて紹介した.
DAST
結晶をテラヘルツ波発生光源と
して
17fs
のフェムト秒パルスで励起したテラヘルツ
トモグラフィーシステムでは,測定試料の屈折率を
n
とすると
10
/n µm
の厚みまで識別可能である.この
ようなテラヘルツ波パルスを用いた計測においては,
高強度,広帯域なテラヘルツ波光源が望ましい.高強
度レーザで
DAST
結晶を励起することにより一般的
なテラヘルツ波光源である
PCA
と比べて
257
倍大き
い,且つ変換効率も
1
桁大きいテラヘルツ波の発生を
達成している.リッジ型導波路結晶からチェレンコフ
位相整合方式を用いてテラヘルツ波を発生させること
により,
0.1
∼
7 THz
までの広帯域,
50 dB
の
SNR
を
もつスペクトルフラットなテラヘルツ波パルスを発生
することができた.リッジ導波路からのテラヘルツ波
パルスはモノパルス形状であるため,トモグラフィー
やイメージングなどの光源として適している.このよ
うな非線形光学結晶を用いたテラヘルツ波光源は今後
更に性能が向上してくことが期待される.
謝 辞 本 研 究 は 独 立 行 政 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構
(
JST
)の研究成果展開事業「産学共創基礎基盤研
究プログラム,テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的
基盤技術の創出」の支援,及び
JSPS
科研費,基盤
S
:
25220606
の助成を受けたものです.共同研究者である
水津光司博士,高柳順博士,
Shuzhen Fan
博士,竹内
創氏,瀬戸淳太氏,谷正彦博士,西澤典彦博士に深く
感謝いたします.
文
献
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