厚生労働科学研究費補助金
循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業
循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究
(H21-心筋-一般-001 )
(研究代表者 丸川 征四郎)
平成 21-23 年度研究報告
分担研究報告
日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン 2010 に基づく救急救命士等の 救急業務活動に関する検討
研究分担者 谷川 攻一 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 病態薬物治療学講座(救急医学)教授
平成 24(2012)年 3 月
目 次
1.研究者名簿 ··· 2 2.分担研究報告書
研究要旨 ··· 3 A.研究目的 ··· 3 B.研究方法 ··· 3 C.研究結果 ··· 4 D.考察 ··· 4 E.結論 ··· 4 F.健康危険情報 ··· 4 G.研究発表 ··· 4 H.知的財産権の出願、登録情報 ··· 4
研究者名簿
研究分担者 谷川 攻一 広島大学 研究協力者 長谷 敦子 長崎大学 黒田 泰弘 香川大学
郡山 一明 救急救命九州研修所
清水 直樹 東京都立小児総合医療センター 田邉 晴山 救急救命東京研修所
花田 裕之 弘前大学 松本 尚 日本医科大学 三宅 康史 昭和大学 坂本 哲也 帝京大学
畑中 哲生 救急救命九州研修所
丸川 征四郎 医療法人医誠会 医誠会病院
日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン 2010 に基づく救急救命士等の救急業務活動に関する検討
谷川攻一
*1、長谷 敦子
*2、黒田泰弘
*3、郡山一明
*4、清水直樹
*5、田邊晴山
*6、花田裕之
*7、 松本 尚
*8、三宅康史
*9、坂本 哲也
*10、畑中 哲生
*4、丸川 征四郎
*11*1広島大学、*2長崎大学、*3香川大学、*4救急救命九州研修所、*5東京都立小児総合医療センター、
*6救急救命東京研修所、*7弘前大学、*8日本医科大学、*9昭和大学、*10帝京大学、*11医療法人医 誠会 医誠会病院
研究要旨:救急隊員・消防職員が行う一次および二次救命処置について、現行のガイドライン2005 に基づいた救急隊現場活動基準をガイドライン2010と救急業務との整合性を勘案し、ガイドライ ン2010に準拠したものに改訂することを目的に検討委員会(委員長 谷川攻一)を設置した。検 討委員会が作成した救急隊現場活動基準検討報告書を作成し、厚生労働省に政策提言した。
A.研究目的
平成22年10月に日本版(JRC)救急蘇生ガイ ドライン2010(以下 ガイドライン2010)1) が発表され、新たな救急蘇生活動の基本的方向 性が示されることとなった。これを受けて、本 研究班はガイドライン2010に基づく救急隊現 場活動基準案の作成を目的とした。
なお、本基準案は、既に、先進的な地域にお いてガイドライン2010に準拠して作成された プロトコルを制限するものではない。ただし、
著しい違いがある場合は本基準に関わる検討 報告書に準拠するよう修正を望むものである。
B.研究方法
救急隊員・消防職員が行う一次および二次救 命処置について、現行のガイドライン2005に 基づいた救急隊現場活動基準 2)をガイドライ ン2010と救急業務との整合性を勘案し、ガイ ドライン2010に準拠したものに改訂すること を目的に検討委員会(委員長 谷川攻一)を設 置した。
本研究班において検討された課題は以下の 通りである。
Ⅰ 救急隊員・消防職員が行う一次救命処置に ついて
1)新しい救命の連鎖 2)通信指令課員の役割
3)心肺蘇生における主要な変更 4)小児および乳児に対する心肺蘇生 5)AEDの使用
6)気道異物への対応
Ⅱ 救急隊員が行う救命処置(特定行為を含 む)について
1、ガイドライン2010 の要点と救急隊の業務 1)救命の連鎖
2)急性冠症候群への対応 3)脳卒中への対応
4)成人の救命処置について
① CPRにおける留意点
② 包括指示下での電気ショック
③ ALSにおける留意点
ⅰ)器具を用いた気道確保
ⅱ)気管チューブ位置確認
ⅲ)薬剤投与
5)小児の救命処置について
① 小児(乳児含む)の定義
② 小児に対するCPRにおける留意点
③ 小児に対する包括指示下での電気シ ョック
④ 小児に対するALSにおける留意点
ⅰ)小児に対する器具を用いた気道 確保(気管チューブ)
ⅱ)小児に対する器具を用いた気道 確保(声門上気道デバイス)
ⅲ)薬剤投与
2,ガイドライン2010に基づいた救急隊業務 の実施要領
1)心肺機能停止傷病者に対する業務プロト コル
① 心肺機能停止対応業務プロトコル
② 包括的指示下除細動プロトコル
③ 特定行為プロトコル
ⅰ)気道確保プロトコル
ⅱ)薬剤投与プロトコル
④ 心停止リズムによる対応要領 1.VF/無脈性VT
2.PEA/心静止 2)小児に対する救命処置
① 小児の心停止に対する対応要領
② 小児の心肺機能停止対応業務プロト コル
③ 小児の気道確保プロトコル
④ 気道異物除去プロトコル 3)急性冠症候群
4)脳卒中
C.研究結果
検討委員会の研究結果は「日本版(JRC)救 急蘇生ガイドライン2010に基づく救急隊現場 活動基準に関する検討報告書」として別紙に示 した。
D.考察
2010年10月に発表された国際蘇生連絡委員 会(ILCOR)の「心肺蘇生に関する科学的根拠 と治療勧告コンセンサス(CoSTR)」に基づき、
2011 年秋、日本蘇生協議会(Japan Resusci- tation Council:JRC)及び日本救急医療財団 からなる合同委員会より、「JRC 蘇生ガイドラ
イン 2010」が示された。また、今般、財団法
人日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会にお いて「救急蘇生法の指針2010(医療従事者用)」 がとりまとめられた。
この委員会のメンバーは病院前救護活動と の関わりが深く、またその大半はガイドライン
2010の作成委員として参加している。 従って、
報告書は、ガイドライン2010の背景を十分に 理解した委員が作成していることから、我が国 の標準となり得るレベルが維持されていると 断言して良い。全国のメディカルコントロール 協議会において採用されることを望むところ である。なお、協議会によっては独自に活動基 準を修正し実施に用いていることも考えられ る。これについては、著しく異なる内容でなけ れば、その使用を妨げるものではない。
全国の活動基準が標準化されることは、病院 前救護の質的な地域格差の是正、活動成績の地 域比較にとって不可欠の要素である。標準化さ れた活動基準に支えられた実績から、ガイドラ イン2015作成に役立つデータがもたらされる ことを期待したい。
E.結語
日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン2010
に基づく救急隊現場活動基準に関する検討報 告書を作成し、厚生労働省に政策提言した。全 国のメディカルコントロール協議会において 取り入れられることが望まれる。
F.健康危険情報 特になし
G.研究発表 特になし
H.知的財産権の出願、登録情報 特になし
文献
1) 日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン2010 http://www.qqzaidan.jp/jrc2010.html 2) 谷川攻一ら:日本版救急組成ガイドライン
に基づき救急救命士等が行う救急業務活 動に関する研究
http://kouroukaken-kyukyusosei.info/wpm /archivepdf/18/2_1_h.pdf
参考資料
『脳卒中へのこれまでの取り組みと今後の方 向性
三宅康史(昭和大学)
JRC 蘇生ガイドライン 2010では、初めて第 6 章神経蘇生(NR)の項が設けられた(5つ目の 救命の連鎖としてガイドライン2010で登場し た心拍再開後の脳蘇生については二次救命処 置(ALS)として 2 章に示されている)1)。頭 部外傷、急性脳症、中枢神経感染症などととも に、意識障害、麻痺、めまい、けいれん、頭痛 などを主症状とする脳卒中についても、新たに 多くの知見が得られている。ガイドライン 2010 では、脳卒中初期診療における 7 つの D に1つ追加され(SCUまたはICUへの迅速な入 院を図る Disposition )、8 つの D となった (Detection:発見・通報、Dispatch:救急隊の出 動、Delivery:適切な病院への連絡・搬送、Door:
救急外来入室、Data:情報収集・検査(CTを含 めた評価)、Decision:治療方針決定、Drug:薬 剤選択、Disposition:SCUや ICUへの迅速な 入院)。しかし、これまでの調査で脳卒中にお ける8つの重要なDのうち、最初のD、すなわ ち 家 庭 や 職 場 に お け る 脳 卒 中 の 認 識
(Detection)が以前に比べ徐々に改善されて いるとはいえ、最も大きな要因であることは変 わっていない2)。本邦でもテレビなどのメディ アを通じて脳卒中協会による注意喚起が行わ れているが、182の研究からのメタアナリシス では、片麻痺、意識障害などの確認を含む市民 教育による知識向上は、実際には治療開始まで の時間に影響を与えず、脳卒中による症状の重 篤さの方が、結果として治療開始までの時間を 短縮していることがわかった3)。東京都の報告 でも、発症から119番覚知までの時間(中央値) は脳梗塞で46分、脳出血で38分、くも膜下出 血で30分となっており、見た目の重篤感の強 さが 119 番への電話につながっていると推測
される4)。それを考えると、治療により後遺症 なく回復できる軽症~中等症の脳梗塞例での t-PA治療の遅れが特に懸念される。
救急隊が現場で使用する病院前脳卒中スケー ル(Prehospital Stroke Scale)には、CPSS
(シンシナティ)、LAPSS(ロサンジェルス)、 KPSS(倉敷)、MASS(メルボルン)、Face Arm Speech Test、MPDS(サンディエゴ)など多く が開発され、実際の現場で使用されている。そ れらの比較研究もなされており、組み合わせる ことにより感度、特異度の改善が見られること がわかっているが5)、脳卒中の正確な判別と現 場での時間短縮との相反をどのように埋める かが特に重要であり、そのためには、より的確 な病院前脳卒中スケールの開発を進めること よりも、病院前における脳卒中患者の搬送シス テムの改善により、現場到着~病院到着までの 時間短縮を図るほうが得策と考えられる。その 点では、脳卒中に特化したトリアージプロトコ ルの開発、その教育と普及によって、t-PA 使 用率の向上に直接つながる可能性がある6)。加 えて、脳卒中の疑いのある傷病者が発生した場 合に、必要とされる治療内容別に受け入れ可能 医療機関が常に準備されているように、医療機 関側の受け入れ体制を構築しておくことが必 要と思われる。
脳卒中に特化したトリアージプロトコルに関 しては、平成23年度から総務省が主導して病 院前における緊急度判定プロトコルの作成が 進行している。これには家庭から始まり、電話 相談、199番指令センターそして現場における 救急隊員による緊急度判定プロトコルの 4 つ が含まれる。4番目の救急隊員による緊急度判 定プロトコルは、看護師による院内緊急度判定 プロトコルであるCTAS(Canadian Triage and Acuity System)7)の現場救急隊版である CPAS
(Canadian Prehospital Acuity System)をベ ースに運用される予定で、まず重症感とバイタ ルサインから重症度・緊急度を判定し、重症、
重篤でない場合には 109 ある症候選択画面の 中にある神経系の症状リストから、「脳血管障 害の症状」、「意識障害」、「感覚障害」、「頭痛」、
「歩行障害」などを選択しながら脳卒中の緊急 度を判別していくことになる。
脳卒中では緊急度とは別に、専門的治療の必要 性を判別するという意味で、すでに本邦で広く 受け入れられている PCEC(Prehospital Coma Evaluation and Care)6)とPSLS(Prehospital Stroke Life Support)8)がある。それぞれ病 院前の意識障害、脳卒中に特化した救急隊員向 けの観察、処置の標準化教育コースである。日 本臨床救急医学会の HP9)にある各種研修コー スというバナーに示されているPCEC、PSLSの 開催回数は、それぞれ平成19年0回と21回、
平成20年4回と134回、平成21年43回と144 回、平成 22年49回と111回、平成 23年51 回と73回に達しており、意識障害や脳卒中の 病院前救護を学びたい全国の救急隊員にとっ て病院前救護のコースとしてすでに定着した 感がある。PCEC では広く意識障害を呈する多 様な原因(呼吸、循環、外傷、中毒、他)を確 認した上で、重症度・緊急度と専門的治療の必 要性から適切な搬送先を選定する(図2)。CPSS が 3 つとも陰性ならば脳血管障害以外の疾病 を考慮しつつ、いくつか特徴的な症状を呈する 意識障害について症例の提示を通じて学ぶ。脳 血管障害が疑われれば、そこからはPSLSとな り、病院前脳卒中スケールから、典型的な脳卒 中である脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の症例 を供覧しつつ観察項目と必要な処置、搬送先選 定について学び、t-PA の作用やその適応につ いても学習する。
脳卒中の可能性が高いと判断されても重症の 場合には、三次救急医療機関への搬送が基本と なるが、より軽い場合には、専門的治療が必要 と判断されそれに応じた脳卒中の専門医療機 関に搬送する必要がある。CPAS では緊急度・
重症度の判別は可能であるが、最終的な搬送先
選定には、別途、各消防機関とMC協議会など によるそれぞれの搬送先選定基準を含む適切 な脳卒中搬送システムの構築が必要となる。そ してもうひとつ、専門的治療が24時間可能な 医療機関を選定し搬送できるようにする必要 がある。たとえば東京都では、t-PA の静脈内 投与や血管内手術など専門的治療が可能な脳 卒中急性期医療機関を都が認定(平成23年度3 月1日現在 東京都脳卒中急性期医療機関159 機関、うちt-PA治療実施可能109機関)した上 で、シフトを組んで平成21年3月から脳卒中 救急搬送体制の運用を開始している。また脳卒 中救急搬送体制実態調査報告書 4)を踏まえて 脳卒中の評価にCPSSに加え、「突然発症の激し い頭痛」と「突然発症の意識障害」を加えて、
活動基準の一部改正を行っている。
t-PAに関する新たな知見としては、4つの大規 模試験の結果を統合して解析した研究から開 始までのタイムウィンドウが 4.5 時間までは 転帰を改善することが示され 10)、病院前での 脳梗塞患者の選別によって後遺症を減らすこ とのできる傷病者のさらなる増加が見込まれ る 。 ま た 本 邦 で は t-PA 投 与 量 が 欧 米 (0.9mg/kg)と比較し2/3に留まっており、今後 投与量についての再検討も必要と考えられる。
今後、脳卒中の病院前救護に関しては、意識障 害患者の中から脳卒中患者を的確に選別し、特 に非典型例を遅延なく専門的な治療の行える 医療機関に搬送することができること、そして 受け入れ医療機関の十分な確保のためのシス テム構築が重要と考えられる。
文献
1)神経蘇生.JRC蘇生ガイドライン2010JRC(日 本 版)ガ イ ド ラ イ ン 作 成 合 同 委 員 会 編 、 PP283-330、へるす出版、東京2011.
2)Evenson KR, Foraker RE, Morris DL,
et al: A comprehensive review of prehospital and in-hospital delay
times in acute stroke care. Int J Stroke.
2009;4:187-199.
3)Teuschl Y, Brainin M, :Stroke education:
drscrepancies among factors influencing prehospital delay and stroke knowledge. Int J Stroke. 2010;5:187-208.
4)東京都脳卒中救急搬送体制実態調査報告書.
東京都福祉保健局、平成23年3月.
5)Bergs J, Sabbe M, Moons P, et al:Prehospital stroke scales in a Belgian prehospital setting: a pilot study. Eur J Emerg Med. 2010;17:2-6.
6)Brice JH, Evenson KR, Lellis JC, et al:
Emergency medical services education, community outreach, and protocols for stroke and chest pain in North Carolina.
Prehosp Emerg Care. 2008;12:366-371.
6)緊急度判定支援システム CTAS2008 日本語 版/JTASプロトタイプ.日本救急医学会他監修、
へるす出版、東京、2011.
7)救急隊員による意識障害の観察・処置の標準 化 PCEC コースガイドブック.意識障害に関 する病院前救護の標準化委員会編、へるす出版、
東京、2008.
8)救急隊員による脳卒中の観察・処置の標準化 PSLS コースガイドブック.脳卒中病院前救護 ガイドライン検討委員会編、へるす出版、東京、
2006.
9)ttp://jsem.umin.ac.jp/training/psls_rec ord.html10)LeesKR, et al: Time to treatment with intravenous alteplase and outcome in stroke; an updated pooled analysis of ECASS, ATLANTIS, NINDS, and EPITHET trial. Lancet 2010;375:1695-1703.
別紙
日本版(JRC)救急蘇生ガイドライン 2010 に 基づき救急救命士等が行う救急隊現場活動に 関する検討 報告書
Ⅰ 救急隊員・消防職員が行う一次救命処置に ついて
1.ガイドライン2010の要点
心肺危機の迫った傷病者に対する最も重要な 処置は一次救命処置(Basic Life Support:
BLS)である。ガイドライン2010のBLSは、さ まざまな背景をもつ市民が、あらゆる年齢層の 傷病者へ対応する場合を想定して作成された 共通のアプローチである。したがって、成人だ けでなく小児を含む心肺危機に陥った傷病者 を対象とした共通のアルゴリズムが採用され ている。通報と心肺蘇生開始のタイミング
(phone first)、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)の開始手順および胸骨圧 迫と人工呼吸の比などを統一することにより、
すべての救助者による CPR の実行性を高める ことが期待される。
一方、救急隊が行うBLSは、日常業務を行う者 が実施するものとして医療環境の整った中で 二次救命処置との融合を計りながら実施する ものであり、「成人の二次救命処置(Advanced Life Support: ALS)」 お よ び 「 小 児 の 蘇 生
(Pediatric Basic Life Support: PBLS、 Pediatric Advanced Life Support: PALS)」の 一環として位置づけられる。
日常業務として蘇生を行う者が心停止の患者 に行う処置の手順の流れをまとめたものが心 停止アルゴリズムである。アルゴリズムは、ガ イドラインにより示されている処置や治療の 手順を整理したものであり、蘇生に従事する者 が現場で蘇生を実践することを助けるもので ある。蘇生は連携のとれたチームで行うことに より最大の効果を得ることができるので、チー
ムの全員が手順についての認識を共有する目 的でもアルゴリズムは重要となる。アルゴリズ ムは心停止の認識から電気ショックまでの一 次救命処置 (BLS)、BLSのみでは心拍再開が得 られないときの二次救命処置 (ALS)、心拍再開 後のモニタリングと管理の 3 つの部分に大別 される。
日常業務として医療従事者や救急隊員などが 蘇生を行う場合は、ALSの端緒としてBLSが開 始される。このような状況下では、市民を含む 共通のBLS アルゴリズムを基本としているが、
救助者の熟練度、資格、準備された資器材など が異なっていることを考慮して最適化された BLSアルゴリズムを使用する。2010ガイドライ ンで改訂された BLS のもっとも重要なポイン トを示す。
・訓練を受けていない救助者は、119番通報を して通信指令課員の指示を仰ぐべきである。一 方、通信指令課員は訓練を受けていない救助者 に対して電話で胸骨圧迫のみの CPR を指導す るべきである。
・救助者は、反応がみられず、呼吸をしていな い、あるいは死戦期呼吸のある傷病者に対して はただちにCPRを開始するべきである。死戦期 呼吸とは心停止を示唆する異常な呼吸である。
死戦期呼吸を認める場合もCPRの開始を遅ら せるべきではない。
・心肺停止と判断した場合、救助者は気道確保 や人工呼吸より先に胸骨圧迫から CPR を開始 する。
・すべての救助者は、訓練の有無にかかわらず、
心停止の傷病者に対して胸骨圧迫を実施する べきである。
・質の高い胸骨圧迫を行うことの重要性がさら に強調された。救助者は少なくとも5cmの深さ で、1分間あたり少なくとも100回のテンポで 胸骨圧迫を行い、胸骨圧迫解除時には完全に胸 郭を元に戻す。胸骨圧迫の中断を最小にすべき である。
・訓練を受けた救助者は、胸骨圧迫と人工呼吸 を30:2の比で行うことが推奨される。
2. 救急システム a. 新しい救命の連鎖
心停止や窒息という生命の危機的状況に陥っ た傷病者や、これらが切迫している傷病者を救 命し、社会復帰に導くためには、「救命の連鎖」
と呼ばれる4つの要素が必要となる。4つの要 素は、
①心肺停止の予防
②早期認識と通報
③一次救命処置(CPRとAED)
④二次救命処置と心拍再開後の集中治療によ って構成されている。
心肺停止の予防は、心停止や呼吸停止となる可 能性のある傷病を未然に防ぐことである。例え ば、小児では交通事故、窒息や溺水などによる 不慮の事故を防ぐことが重要となり、成人では 急性冠症候群や脳卒中発症時の初期症状の気 づきが重要であり、それによって心肺停止に至 る前に医療機関で治療を開始することが可能 になる。
早期認識は、突然倒れた人や、反応のない人を みたら、ただちに心停止を疑うことで始まる。
心停止の可能性を認識したら、大声で叫んで応 援を呼び、救急通報(119 番通報)を行って、
AED と蘇生器材を持った専門家や救急隊が少 しでも早く到着するように努める。
一次救命処置(basic life support:BLS)は、
呼吸と循環をサポートする一連の処置である。
BLSには胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生 とAEDが含まれ、誰もがすぐに行える処置であ るが、心停止患者の社会復帰においてはきわめ て大きな役割を果たす。
二次救命処置(advanced life support:ALS)
は、BLSのみでは心拍が再開しない傷病者に対 して、医師や救急救命士などが薬剤や医療機器 を用いて行うものである。心拍再開後は、必要
に応じて専門の医療機関で集中治療を行うこ とで社会復帰の可能性を高めることができる。
b.通信指令課の役割 1) 電話での心肺停止確認
効果的な救急蘇生を行うためには、できるだけ 早く十分な強さと回数の胸骨圧迫が絶え間な く行われることが重要である。そのためには、
救急隊が到着する以前において救助者が正確 な心肺蘇生法等を行えるよう、通信指令課にお ける救急要請受信時の口頭指導が極めて重要 であることを認識しなければならない。通信指 令課員が心肺停止状態を識別するさいには、傷 病者の意識がないことと呼吸の質(正常か異常 か)について質問するべきである。電話のやり とりの中で、通報者が死戦期呼吸(いわゆるあ えぎ呼吸)を「呼吸あり」と誤認する可能性が あることに十分注意し、死戦期呼吸を正常な呼 吸と混同しないよう、確実な呼吸の確認方法を 伝える。通信指令課員は、傷病者が心肺停止ま たは心肺停止に移行する可能性があることを 119番受信時段階で把握するとともに、適切 でわかりやすい口頭指導プロトコルの作成と その指導技術を身につける必要がある。
2) CPR口頭指導と質の管理
突然の心肺停止が疑われる場合、通信指令課員 は訓練されていない救助者に対して、胸骨圧迫 のみの口頭指導を遅滞なく行うべきである。通 信指令課員が窒息による心停止を疑う場合に は、訓練を受けた救助者に対して人工呼吸と引 き続いて胸骨圧迫の指導を行うことは理にか なっている。
病院前救護体制の質の向上には、通信指令課員 による心肺停止の識別と CPR 指導の精度と迅 速さを評価し、事後検証することが推奨される。
口頭指導を実施した場合は、実施した年月日、
時刻、口頭指導実施者名、応急手当実施者、指 導項目及び指導内容等の記録を行うとともに、
事例研究会等を通じて該当救急隊から口頭指 導の結果応急手当実施者が実施していた応急
手当、救急隊引継ぎ時のバイタルサイン及び傷 病者の予後等について確認し、指導項目の改正、
プロトコルの改善、指導方法の研究等を行い、
常に効果的な口頭指導プロトコルの見直しに 努め、検証における質の管理の維持、向上を図 ることが重要である。
3) 口頭指導のあり方
口頭指導を実施するにあたり、救急車の出場指 令が遅延することのないよう、通信指令課員の 役割分担を事前に定めるなどの対策を講じて おく必要があり、指令業務に就き口頭指導を実 施する者は、救急救命士等の救急技術資格者を 充てることが望ましい。
しかし、受信時の口頭指導に時間をとられそう な場合や困難な場合には、救急要請を受け出場 途上の救急隊からの車両電話等を活用した口 頭指導の実施についても体制を整える必要が ある。
口頭指導の指導項目は、心肺蘇生法以外にも、
気道異物除去法、止血法、熱傷手当、指趾切断 手当等、口頭指導実施者が救急要請内容から応 急手当が必要であると判断した場合は、各プロ トコルに従って速やかに指導を行う。ただし、
バイスタンダーが極度に焦燥し、冷静さを失っ ていることなどにより対応できない場合や、口 頭指導を行うことにより症状の悪化を生じさ せると判断される場合は、実施を考慮する必要 がある。
また、口頭指導を実施する場合は、感染防止に ついても配意する必要がある。実際にバイスタ ンダーが感染防護具を使用せず、口唇部に血液 等がある傷病者に口対口の人工呼吸を実施し た事例や、ハンカチ等により止血処置をしたと きに滲み出した血液に触れてしまった事例な どが報告されている。
なお、救急現場において口頭指導に基づき応急 手当を実施したバイスタンダーが受傷したと きは、消防法第36条の3に規定する災害補償 の対象となる。
3. 救急隊の行う一次救命処置(BLS)
a. 年齢区分
成人の定義としては思春期以後を言う。1歳未 満を乳児とし、1歳から思春期以前(目安とし てはおよそ中学生までを含む)を小児とする。
ただし、AEDの使用に際して現場の便宜を図る ため、小児用パッドの使用年齢の上限を未就学 児(およそ6歳)までとする。出生28日以内 は新生児とされ、新生児の救急蘇生法が用いら れるが、病院前救護においては、生後28日ま での新生児の対応についても乳児と同様に扱 う。
b. 成人の心肺蘇生(CPR)
119 番通報の内容から心肺停止が疑われる場 合、あるいは、傷病者に接近する段階で、傷病 者に自発的な体動が認められず、見るからに生 気がない場合などには、直ちに心肺蘇生(CPR)
を開始する心構えが必要である。以下の手順に 沿って、反応および呼吸・循環をすばやく確認 し、心肺停止と判断した場合、あるいはその可 能性が高いと考えられた場合には、一刻も早く CPRを開始しなければならない。
通常、3人構成で活動する救急隊が行うCPRで は、各隊員の役割分担が重要である。常日頃の 訓練によって、必要な処置が速やかに行われる ように備えておかなければならない。一般的に は以下のような役割分担および手順で行うこ とになろう。たたし、CPRが速やかに行われる 限り、この分担や手順は一例に過ぎない。
先着の隊員(通常、救急隊長)が傷病者の反応 および呼吸・循環状態を確認する一方、他の隊 員は傷病者がCPAであった場合に備えて、人工 呼吸のためのバッグ・バルブ・マスク(BVM)
の準備(リザーバーや酸素ラインの接続、酸素 の流量調整)やAED装着の装着を行う。ただし、
心肺停止であることが確認された場合には誰 か一人が直ちに胸骨圧迫を開始しなければな らない。3番員(通常、機関員)の到着が遅れ
ているなど、十分な人員が確保できない時には、
BVMやAEDの準備よりも胸骨圧迫を開始する準 備(胸をはだける、圧迫位置を確認する、圧迫 の姿勢をとるなど)を優先させる。
1) 反応、気道、呼吸、循環(脈)の確認 a)反応の確認
反応の有無は、大声で呼びかける、肩を叩く、
などのその刺激に対する傷病者の動きで判断 する。開眼する、首を振る、手足を動かすなど、
呼びかけや肩を叩くなどに応じた目的のある 仕草が認められない場合には反応がないもの として取り扱う。
眼前発症の心停止では、痙攣様の動き(これは 刺激に対する目的のある仕草とはいえない)を 認めることがある。このような動きを「反応が ある」と判断してはならない。
b)気道の確保
呼吸の確認に先だって用手気道確保を行う。気 道確保法としては、頭部後屈−あご先挙上法を 用いる。訓練を受けた者は必要に応じて下顎挙 上法を試みてもよい。頸椎損傷が疑われる傷病 者に対応する場合には下顎挙上法を第一選択 とする。下顎挙上法で気道確保ができなければ 頭部後屈−あご先挙上法を用いる。ただし、以 下述べるように、気道確保と同時に頸動脈に触 れるためには、気道確保を片手で行わなければ ならない。しかしながら、気道確保に手間取っ て呼吸の確認がおろそかになったり、CPRの開 始が遅れないようにするべきである。
c)呼吸・脈の確認
傷病者の呼吸を観察しながら、同時に脈拍の有 無を確認する。評価者(通常、救急隊長)は傷 病者の気道を確保し、呼吸の有無を「見て、聴 いて、感じる」。このとき、まずは傷病者が「正 常な呼吸」をしているかどうかという点に着目 し、「正常な呼吸」ではないと感じた場合には、
さらに無呼吸または死戦期呼吸かどうかを確 認する。死戦期呼吸とは、心停止直後にときお り認められる、しゃくりあげるような不規則な
呼吸をいう。無呼吸あるいは死戦期呼吸の場合 には心停止である可能性が高い。
評価者は呼吸の評価を行いながら、同時に頸動 脈の脈拍を確認する。無呼吸または死戦期呼吸 で、かつ、頸動脈の脈拍を触知できない、また は脈拍の有無に自信が持てない場合には、心停 止と判断する。呼吸と脈拍の確認は10秒以内 に行う。ただし、脈拍の確認のために迅速な CPRの開始を遅らせてはならない。脈拍の触知 に自身がない者が心停止か否かを判断しなけ ればならない場合には、脈拍の評価は行わず、
無呼吸である、あるいは死戦期呼吸があること をもって心肺停止と判断する。
呼吸は感じられないが脈を確実に触れること ができる場合には、胸骨圧迫を行う必要はない。
約10回/分の呼吸数で人工呼吸のみを行う。お よそ 2 分おきに確実な脈が維持されているか どうかを確認する。
2) 胸骨圧迫と実施上の注意事項 a)心肺停止の判断とCPRの開始
反応および呼吸・循環の状態から傷病者がCPA であると判断した場合には、ただちにCPRを開 始する。心原性心肺停止(昏倒が目撃されてい る、窒息・溺水による心肺停止ではない場合)
を疑う場合は、胸骨圧迫からCPRを開始し、胸 骨圧迫 30 回に対して人工呼吸(2 回)を組み 合わせたCPRを実施する。一方、窒息が目撃さ れていたり、溺水によるCPA傷病者には、直ち に胸骨圧迫を開始しながら、人工呼吸デバイス
(バッグ・バルブ・マスク、BVM)の準備がで きしだい人工呼吸を加える。
b)胸骨圧迫の実施要領と注意事項
胸骨圧迫は、適切な位置を、適切な深さ、適切 な速さで、絶え間なく行うことが重要である。
(1)圧迫の位置
圧迫すべき場所は、胸骨の下半分で剣状突起に 圧迫が加わらない位置である。この位置を探す 方法として、従来は剣状突起に指2本を当てる 方法が用いられている。ただし、剣状突起の位
置を確認するために胸骨圧迫の開始が遅れる ような場合には、「胸の真ん中」を目安にして、
位置の正確さよりも直ちに圧迫を開始するこ とを優先させる。CPR中にタイミングをはかり、
従来どおりの方法で剣状突起の位置を確かめ る。なお、「両側乳頭を結ぶ線上の胸骨」を指 標とする方法は、約半数の傷病者において救助 者の手掌が剣状突起に及ぶなど、圧迫位置が下 方すぎる危険性のあることが報告されている。
(2)圧迫の深さ
圧迫の深さは少なくとも5cmである。また、毎 回の胸骨圧迫の後で完全に胸壁が元の位置に 戻るように圧迫を解除する。ただし、力を抜い た際に手が胸壁から離れないように注意する と同時に、次の胸骨圧迫の深さが浅くならない ように注意する。
(3)圧迫の速さ(テンポ)
胸骨圧迫は1分間に少なくとも100回のテンポ で行う。特に、胸骨圧迫のテンポは特に遅すぎ に注意すべきである。
(4)胸骨圧迫の中断時間
効果的なCPRを行うには、胸骨圧迫の中断時間 をできるだけ短くすることが重要である。やむ をえない状況を除いて、胸骨圧迫の中断はでき るだけ10 秒以内に留める。なお、胸骨圧迫を やむを得ず中断する場合でも 1 分間の胸骨圧 迫回数が少なくとも60回以上となるようにす る。
(5)圧迫者の交代
交代要員がいる場合には、圧迫担当者が疲れを 自覚しているかいないかに関わらず、2分間を 目安に胸骨圧迫の担当を交代する。ただし、胸 骨圧迫交代時にはその中断を最小限とし、また 交代直後の胸骨圧迫が浅くならないように注 意する。
(6)胸骨圧迫の評価
胸骨圧迫が適切に行われているかどうかは、隊 長(或いは人工呼吸担当者)が圧迫位置や深さ、
テンポを相互的に評価して判断すべきである。
また、リアルタイムに胸骨圧迫を感知しフィー ドバックをする装置を CPR 中に使用してもよ い。
3) 人工呼吸とCPR実施上の注意事項
BVMの準備ができしだい、胸骨圧迫と人工呼吸 を30:2で胸骨圧迫に人工呼吸を加える。BVM を用いることによって、高濃度の酸素投与が可 能になるだけでなく、傷病者から救助者への感 染の可能性も減少する。従って、救急隊員は BVMを用いた人工呼吸に習熟しておき、必要時 には迅速に人工呼吸が開始できるように BVM を準備しておくべきである。
人工呼吸を実施する場合には当然ながら気道 確保が必要となる。気道確保は頭部後屈あご先 挙上法を用いるが、必要に応じて下顎挙上法を 試みてもよい。気道の開通はマスクを保持する 方の手で下顎を挙上することによって維持さ れる。
何らかの理由で人工呼吸ができない状況では、
胸骨圧迫のみのCPRを行うべきである。しかし ながら、速やかに人工呼吸ができるよう、資機 材の準備と隊員間におけるスムースなチーム ワークを構築しておくことが重要である。
a) 酸素濃度
CPRにおける人工呼吸では、吸入気酸素濃度を 最大限(すなわち 100%)とするべきである。
BVMのリザーバーはCPR開始後、できるだけ早 期に装着し、酸素流量はおよそ 10 リットル/
分でリザーバーを常に膨らんだ状態に維持で きるだけの量が必要である。
b)送気時間と1回換気量
胸骨圧迫と人工呼吸を交互に(同期して)行う 場合、BVMによる人工呼吸の送気時間は1回に つき約1秒とする。送気時間を約1秒としてい るのは人工呼吸に伴う胸骨圧迫の中断時間を 最小限とし、かつ、送気量が過大になることを 防ぐことが目的である。1回換気量は「胸が上 がるのが見てわかる」程度の換気量を目安とす る。送気量が過剰になると、胃膨満が起こりや
すくなるだけでなく、胸骨圧迫の効果が低くな るので注意が必要である。
c)非同期CPRにおける人工呼吸回数
気管挿管が行われている場合のCPRは、胸骨圧 迫と人工呼吸を非同期で行う。この場合の人工 呼吸回数は約10回/分とする。送気にかける時 間(1回約1秒)と送気量(胸の上がりが見え るまで)の目安はBVMを用いた場合の人工呼吸 と同様である。非同期で行う実際のCPRでは、
人工呼吸回数や 1 回換気量が多すぎる傾向が 指摘されている。気管挿管後に非同期で CPR を行う場合でも、呼吸回数や1回換気量が多す ぎにならないよう注意が必要である。
d)両手法のBVM
BVM による人工呼吸でマスクの密着がうまく いかない場合には、両手を用いてマスクを保持 することにより適切な密着が得られる。傷病者 の頭側に位置した隊員が両手でマスクを保持 し、もう一人の隊員(たとえば胸骨圧迫を担当 する者)がバッグを押す方法や、傷病者の側方 に位置した隊員が両手でマスクを保持する方 法などがある。
e)頚椎損傷が疑われる傷病者
外傷の傷病者で、頸椎損傷が疑われる場合、気 道確保の方法としては下顎挙上法を第一選択 とする。ただし、下顎挙上法で気道が確保でき ない場合には、さらに頭部後屈を加える、ある いは頭部後屈・あご先挙上法を用いるなど、あ らゆる方法を試みる。頸椎損傷が疑われる場合 でも気道確保は最優先事項である。
f)送気できない場合
CPR時の人工呼吸において、2回の人工呼吸の 試みによる胸骨圧迫の中断は最小限に止める べきである。十分な送気を行うことができなか った場合も、続く30回の胸骨圧迫の間に、再 気道確保(あるいは、エアウェイの挿入など)
を行う。この場合、人工呼吸を担当する者は次 のサイクルの人工呼吸までの間に、口腔、咽頭、
喉頭などに異物がないかどうかを観察し、異物
が発見された場合には異物を除去する。吸引や 喉頭鏡を用いて咽頭などを観察する場合も胸 骨圧迫はできるだけ中断しない。異物が動揺し て取り除くのが困難な場合には、胸骨圧迫を一 時中断せざるを得ないが、この場合でも中断時 間は最小限とすべきである。
4) 一次救命処置と患者搬送
一次救命処置では質の高いCPRとAEDによる心 電図解析・電気ショックとを繰り返すが、いず れかの時点において傷病者の搬送を開始しな ければならない。特にVFまたは無脈性VTが認 められる傷病者では、CPRと電気ショックによ って一刻も早く心拍再開を得ることが傷病者 の社会復帰に大きな影響を与える。ただし、電 気ショックを何度まで現場で試みるかについ て明確な目安を示すのは困難である。各地域の プロトコルに従う、あるいは傷病者の状況を医 師に報告した上で、救急救命士の特定行為も含 めて指示医師からのオンライン指示に従う。心 電図解析にて除細動の適応外と判断された場 合(心静止や無脈性電気活動)は、気道が開通 していること(窒息が解除されていること)を 確認した時点で、できるだけ速やかに傷病者の 搬送を開始するのが原則である。
5) CPR・ファーストとショック・ファースト VFまたは無脈性VTを呈する傷病者ではできる だけ速やかに電気ショックを行うのが原則で ある。しかし、通報から救急隊の現場到着まで に4~5分以上が経過している場合には、電気 ショックを試みるまえに短時間(たとえば 2 分間)のCPRを試みた方が好ましいこともある。
このように電気ショックを後回しにして CPR を優先させる手順が「CPR・ファースト」であ り、原則どおりに電気ショックを最優先させる 手順「ショック・ファースト」と対比している。
それぞれの地域プロトコルに従って活動する が、いずれも場合も電気ショック前後の胸骨圧 迫の中断時間を短くするように努める。
6)CPR開始の判断について
救急隊員は現場で傷病者の死の判定を下すこ とができない。したがって、特殊な状況を除け ば、心肺機能が停止した傷病者に対しては救命 処置を開始することが大原則である。上述のよ うに、呼吸および脈拍が感じられない傷病者
(脈拍の触知に自信がない救助者が対応する 場合には、呼吸が感じられない傷病者)に対し ては、直ちに救命処置を開始しなければならな い。
心肺停止状態であるにも関わらず救命処置を 行わない特殊な状況として、社会一般の通念に 照らし合わせて、死亡していることが明らかな 傷病者の場合がある。死斑や死後硬直の出現が 明らかである、頭部や体幹が離断している、腐 敗兆候が認められる傷病者に対しては救命処 置を行わない。
c.小児・乳児の心肺蘇生
小児・乳児の心肺停止の原因としては、心停止 が一次的な原因になる(心原性心肺停止)こと は少なく、呼吸停止に引き続いて心肺停止とな る(呼吸原性心肺停止)ことが多い。いったん 心肺停止になった小児・乳児の転帰は不良であ るが、呼吸停止だけの状態で発見され、心停止 に至る前に治療が開始された場合の救命率は 高い。すなわち、小児・乳児の心肺停止に直結 する呼吸障害とショックを早期に気づいて、す みやかに対応することが救命率改善に欠かせ ない。
不幸にして心肺停止状態となった場合は、成人 と同様にCPRは胸骨圧迫から開始する。しかし ながら、小児の心肺停止では、窒息など低酸素 症が原因となっていることが多く、早急に人工 呼吸を実施することが重要である。したがって、
心肺停止が疑われる小児傷病者においては、迅 速な人工呼吸が開始できる準備を整えて現場 出動する。
1)反応、気道、呼吸、循環(脈)の確認 a)反応の確認
肩を軽くたたきながら大声で呼びかけても、何 らかの反応や目的をもった仕草が認められな ければ、「反応なし」とみなす。乳児の場合には、
足底を刺激して顔をしかめたり泣いたりする かで評価する。
b)気道の確保
呼吸の確認に先だって用手気道確保を行う。気 道確保法としては、頭部後屈−あご先挙上法を 用いる。訓練を受けた者は必要に応じて下顎挙 上法を試みてもよい。頸椎損傷が疑われる傷病 者に対応する場合には下顎挙上法を第一選択 とする。下顎挙上法で気道確保ができなければ 頭部後屈−あご先挙上法を用いる。ただし、気 道確保に手間取って呼吸の確認がおろそかに なったり、CPRの開始が遅れないようにするべ きである。
c)呼吸・脈の確認
傷病者の呼吸を観察しながら、同時に脈拍の有 無を確認する。評価者(通常、救急隊長)は傷 病者の気道を確保し、その状態を維持したまま、
自分の顔を傷病者の口元に近づけて胸を見な がら、呼吸の有無を「見て、聴いて、感じる」。 このとき、まずは傷病者が「正常な呼吸」をし ているかどうかという点に着目し、「正常な呼 吸」ではないと感じた場合には、さらに無呼吸 または死戦期呼吸かどうかに注意する。
評価者は呼吸の評価を行いながら、同時に頸動 脈または大腿動脈の脈拍を確認する。乳児では 首が短く頸動脈の確認が困難であるため、上腕 動脈の脈拍を確認する。無呼吸または死戦期呼 吸で、かつ、脈拍を触知できない、または脈拍 の有無に自信が持てない場合には、心肺停止と 判断する。呼吸と脈拍の確認は10秒以内に行 う。ただし、脈拍の確認のために迅速な CPR の開始を遅らせてはならない。脈拍の触知に自 身がない者が心肺停止か否かを判断しなけれ ばならない場合には、脈拍の評価は行わず、無 呼吸である、あるいは死戦期呼吸があることを もって心肺停止と判断する。
脈が触れる場合、心拍数が60/分未満で、循環 不全(チアノーゼや末梢冷感など)を認める場 合は、適切な酸素投与と換気を施行する。適切 な酸素投与と換気を施行しても、依然として心
拍数が 60/分未満で呼吸循環不全を認める場
合は、ただちに胸骨圧迫を開始する。
脈拍数が 60 回/分以上で自発呼吸がないか呼
吸が不十分である場合は、自発呼吸が再開する まで 1 分間に 12~20 回の回数で人工呼吸を 行う(3~5 秒に 1 回)。
2) 胸骨圧迫と実施上の注意事項 a)心肺停止の判断とCPRの開始
反応および呼吸・循環の状態から傷病者が心肺 停止であると判断した場合には、ただちにCPR を開始する。成人傷病者と同様に胸骨圧迫から CPRを開始するが、BVMの準備ができしだい、
人工呼吸を加える。
b)胸骨圧迫の実施要領と注意事項
胸骨圧迫は、適切な位置を、適切な深さ、適切 な速さで、絶え間なく行うことが重要である。
(1)圧迫の位置
圧迫すべき場所は、胸骨の下半分で剣状突起に 圧迫が加わらない位置である。剣状突起の位置 を確認するために胸骨圧迫の開始が遅れるよ うな場合には、「胸の真ん中」を目安にして、
位置の正確さよりも直ちに圧迫を開始するこ とを優先させるべきである。CPR中にタイミン グをはかり、従来どおりの方法で剣状突起の位 置を確かめる。圧迫位置に不安がある場合には、
圧迫中に他の隊員が剣状突起と圧迫部位の位 置関係を確認する。なお、「両側乳頭を結ぶ線 上の胸骨」を指標とする方法は、成人傷病者と 同じく、乳児においても圧迫位置が下方すぎる 危険性のあることが報告されている。
(2)圧迫の深さと圧迫方法
小児・乳児に対する胸骨圧迫の深さは、胸の厚 さの約1/3とする。小児に対して胸骨圧迫を 実行する場合には、片手か両手の手技のどちら を使用してもよい。乳児においては二本指圧迫
法または胸郭包み込み両母指圧迫法を用いる。
毎回の胸骨圧迫の後で完全に胸壁が元の位置 に戻るように圧迫を解除する。ただし、力を抜 いた際に手が胸壁から離れないように注意す ると同時に、次の胸骨圧迫の深さが浅くならな いように注意する。
(3)圧迫の速さ(テンポ)
胸骨圧迫は1分間に少なくとも100回のテンポ で行う。とくに胸骨圧迫のテンポは遅すぎに注 意すべきである。
(4)胸骨圧迫の中断時間
胸骨圧迫の中断時間をできるだけ短くする。や むをえない状況を除いて、胸骨圧迫の中断はで きるだけ10秒以内に留める。なお、胸骨圧迫 をやむを得ず中断する場合でも 1 分間の胸骨 圧迫回数が少なくとも60回以上となるように する。
(5)圧迫者の交代
交代要員がいる場合には、圧迫担当者が疲れを 自覚しているかいないかに関わらず、1-2分間 を目安に胸骨圧迫の担当を交代する。ただし、
胸骨圧迫交代時にはその中断を最小限とし、ま た交代直後の胸骨圧迫が浅くならないように 注意する。
(6)胸骨圧迫の評価
胸骨圧迫が適切に行われているかどうかは、圧 迫位置や深さ、テンポを相互的に評価して判断 すべきである。また、リアルタイムに胸骨圧迫 を感知しフィードバックをする装置を CPR 中 に使用してもよい。
3)人工呼吸とCPR実施上の注意事項
ただちに胸骨圧迫からCPRを開始し、準備がで きしだい、気道確保ののち2回の人工呼吸を行 う。人工呼吸は約1秒かけて行う。送気する量
(1回換気量)の目安は傷病者の胸が上がるこ とが確認できる程度とする。二人の救助者が CPRを行う場合は、胸骨圧迫と人工呼吸の比は 15:2とする。救助者が一人の場合は、成人と
同様に、胸骨圧迫と人工呼吸の比を30:2とす る。
小児・乳児のBVMでは傷病者に適したサイズを 選び、その使用に際しては気道確保しながらマ スクと顔面の密着を維持する。
何らかの理由で人工呼吸ができない状況では、
胸骨圧迫のみのCPRを行うべきである。ただし、
小児心肺停止では呼吸原性のものが多いこと を念頭において、一刻も早く人工呼吸を加える ように努力すべきである。
a) 酸素濃度
CPRにおける人工呼吸では、吸入気酸素濃度を 最大限(すなわち 100%)とするべきである。
BVMのリザーバーはCPR開始後、できるだけ早 期に装着し、酸素流量はおよそリザーバーを常 に膨らんだ状態に維持できるだけの量が必要 である。
b) 送気時間と1回換気量
胸骨圧迫と人工呼吸を交互に(同期して)行う 場合、BVMによる人工呼吸の送気時間は1回に つき約1秒とする。1回換気量は「胸が上がる のが見てわかる」程度の換気量を目安とする。
送気量が過剰になると、胃膨満が起こりやすく なるだけでなく、胸骨圧迫の効果が低くなるの で注意が必要である。
c)非同期CPRにおける人工呼吸回数
気管挿管が行われている場合のCPRは、胸骨圧 迫と人工呼吸を非同期で行う。この場合の人工 呼吸回数は約10回/分とする。送気にかける時 間(1回約1秒)と送気量(胸の上がりが見え るまで)の目安はBVMを用いた場合の人工呼吸 と同様である。気管挿管後に非同期でCPRを行 う場合でも、呼吸回数や1回換気量が多すぎに ならないよう注意が必要である。
なお、ラリンゲアルマスクや食道閉鎖式エアウ エイを挿入した場合、適切な換気が可能であれ ばCPRを非同期で行う。
d) 両手法のBVM
BVM による人工呼吸でマスクの密着がうまく いかない場合には、両手を用いてマスクを保持 することにより適切な密着が得られる。
d. AEDによる除細動
ショック・ファーストまたはCPR・ファースト の選択については地域プロトコルに従って活 動する。どのようなプロトコルを用いるにせよ、
電気ショック前後の胸骨圧迫の中断時間が短 ければ短いほど心筋への血液灌流量が維持さ れ、心拍再開率も高くなることを理解しておく。
CPRが開始され、AEDの装着が完了したら、AED の音声メッセージに従って心電図解析を行う。
この時、心電図解析が始まる直前まで胸骨圧迫 を続ける。解析の結果、除細動メッセージが出 された場合はショックボタンを押し電気ショ ックを行い、脈の確認やリズムの解析を行うこ となく、すぐに胸骨圧迫を再開する。
1)パッドの貼付
右前胸部と左側胸部にパッドを貼付する。容認 できる他の位置としては、乳房の大きい傷病者 では左のパッドを側胸部か左の乳房の下に装 着して乳房組織を避ける。胸毛が濃い場合には、
パッドを装着する前に除去することを考慮す べきであるが、それによる電気ショックの遅れ は最小にすべきである。
就学前の小児に対しては、小児用パッドを用い る。小児用パッドがないなどやむを得ない場合、
成人用パッドで代用する。パッドは成人用パッ ドと同様の位置、あるいは胸部前面と背面に貼 付する。やむを得ず成人用パッドを使用するさ いには、パッド同士が重なり合わないように注 意する。なお、小児用パッドはおよそ 6歳ま での未就学児に対して使用可能である。
パッドの貼付位置に貼付薬が貼られている場 合はそれを剥がしておく。また、胸部が水や 汗・吐物などで濡れている場合は乾いた布で拭 き取ってからパッドを貼付する。
永久ペースメーカーもしくは ICD を使用して いる成人患者においては、除細動パッドがペー
スメーカーや ICD 本体に直接あたらないよう に離して貼付する。
2)電気エネルギーの設定
半自動式AEDにおいては、除細動エネルギーの 調節が必要なタイプのものがある。初回電気シ ョックに抵抗するVF或いは無脈性VTに対して は、2回目やそれ以降にも初回と同じエネルギ ー量を用いるのか、或いはエネルギー量を増加 させるのかについては地域プロトコルに従う。
3)電気ショックとCPRの再開
AEDによるリズム解析が開始されたら、傷病者 に触れないようにする。除細動を実施する場合 には、充電中に周囲の安全確認を行い、充電完 了後、直ぐに除細動ボタンを押せるように準備 しておく。充電完了に伴い除細動ボタンが点滅 するが、ボタンの点滅を確認したら間髪を入れ ずにボタンを押す。電気ショック後は脈の確認 やリズムの解析を行うことなく、すぐに胸骨圧 迫を再開する。
AEDを用いて除細動を試みた後、或いは解析の 結果除細動の適応外と判断された場合は、直ち に胸骨圧迫からCPRを2分間行う。以後2分お きに、AEDによる心電図解析と電気ショックを 繰り返す。
2分間のCPRを行っている間、隊長(或いは人 工呼吸担当隊員)は隊員による胸骨圧迫が適切 に行われているか否か、すなわち、圧迫のテン ポ、深さ、胸壁の戻り、圧迫する腕の角度など に注意し、必要 に応じて胸骨圧迫者の交代を 行う。
e. 気道異物除去
気道異物は、窒息により心肺停止になる可能性 がある状況であると同時に、迅速な処置により 救命できる可能性のある状況である。このため、
救急隊員・消防職員は的確な判断と,適切な処 置によって心肺停止に陥る前に気道異物の除 去ができるようにすることと,万が一心肺停止 に陥っていても,気道異物の除去の手技をふま えた心肺蘇生を行うことが求められる。
1)成人・小児の気道異物除去 a) 気道異物の認識
気道異物の処置の第一歩は,気道異物の可能性 を認識することである。完全閉塞では,顔色が 悪くなり,声を出せなくなり,短時間で意識を 失う。不完全閉塞では,突然の呼吸困難感,喘 鳴,発声困難となる。気道異物の多くは食物や 玩具であり,とくに食事中や子どもが遊んでい るときに突然上記のような症状が起こった場 合には,気道異物を念頭に置かなければならな い。
目撃もなく,意識のない傷病者では,気道異物 を認識することは困難なことも多いが,状況や 気道確保をしても解除できない気道閉塞を疑 わせるような陥没呼吸,または呼吸停止に対し て人工呼吸をしても胸が持ち上がらないとき には,気道異物を念頭に置く必要がある。
b)気道異物の処置
意識のある傷病者に対しては、気道異物に対す るもっとも有効な処置は,傷病者自身の咳であ る。そのため,まず咳ができる状態か,そうで ない状態かを判断することが必要である。傷病 者自身の咳で異物を喀出できるようであれば それを促す。救助者はそばに付き添い、状態の 変化がないかを注意深く観察する。
しかし,声が出せずにうなずくだけであったり,
咳をしようとしているのに音が聞こえなかっ たり,息を吸うことができないようであれば,
直ちに気道異物除去のための処置が必要であ ると判断する。異物除去法としては、腹部突き 上げ法と背部叩打法を併用する。妊婦や肥満者 の場合は,腹部突き上げ法は行わず,代わりに 胸部突き上げ法を行う。1歳以上の小児の場合 にも原則的には同じ方法であるが、肝臓等内臓 を傷つける可能性が成人よりも強いことを認 識して、注意深く施行する。
意識(反応)がなくなってきた場合には、直ち にCPRを開始する。CPRの胸骨圧迫により異物 除去効果も期待される。したがって、異物によ
る窒息で意識を失った場合は、たとえ脈を触れ たとしても、胸骨圧迫を行わなければならない。
30:2または15:2(小児に対する二人法 の場合)で心肺蘇生法を行いつつ、呼吸のため に気道確保を行うたびにロの中を覗き、異物が 見えれば取り除くようにする。見えなければ、
盲目的に異物をとるような操作をしてはなら ない。また異物を見つけるために時間を費やし てはならない。
喉頭鏡の使用ができる救急隊員の場合には、人 工呼吸を担当する者が次のサイクルの人工呼 吸までの間に喉頭鏡を用いて異物の有無を確 認し、異物除去を試みる。異物が視認できる場 合はマギール鉗子を使用して異物除去を試み る。これらの操作のために胸骨圧迫をやむを得 ず中断する場合も、必要最小限にとどめる。
2) 乳児の気道異物除去 a) 気道異物の認識
小児・乳児の異物誤飲・誤嚥による死亡者の約 60%が1歳未満の乳児であり、5歳未満が90%
以上を占める。目安としてトイレットペーパー の芯を通過する大きさのものすべてが、小児・
乳児の異物誤飲・誤嚥の原因となり得る。乳児
(1歳未満)は何でも口の中に入れようとする 時期でもあり,高齢者と同じく気道異物による 窒息を起こす危険年齢である。まず,気道異物 を疑うことから始まる。特に元来元気な乳児が 遊んでいた状況から突然,声を上げずに呼吸困 難と思われる症状がみられた場合には,気道異 物を強く疑うべきである。
b)気道異物の処置
乳児が強い咳をしている場合には、原因となっ た液体を吐き出しやすいように側臥位にして 咳を介助する。咳ができない場合や弱い場合,
弱くなってきた場合には,反応があれば,背部 叩打法と胸部突き上げ法を行う。乳児の場合、
液体による閉塞が多いことから頭部を下げて 行うようにする。
乳児の反応がなくなってきたら,直ちに CPR を行う。BVMの準備ができている場合は人工呼 吸からCPRを開始する。CPRを行いながら,呼 吸のために気道確保を行うたびに,口の中を確 認し異物が見えれば除去する。また,喉頭鏡を 使用できる救急隊員の場合は,喉頭鏡を使用し て可能であれば異物を除去する。盲目的に指で 異物を掻きだすような操作は行わない。
f. 回復体位について
反応はないが、呼吸および確実な脈があり、嘔 吐の可能性が高いと判断される場合は、回復体 位での搬送を考慮する。なお、外傷傷病者で脊 椎損傷の疑われる場合や、救急隊員の監視が行 き届く状況で、気道確保や吸引処置が迅速に行 える場合は必ずしも回復体位とする必要はな い。
Ⅱ 救急隊員が行う救命処置(特定行為を含 む)について
1、ガイドライン2010 の要点と救急隊の業務 1)救命の連鎖
今回のガイドラインにおける救命の連鎖の変 更点は心停止の予防と心拍再開後の治療が追 加されていることである。
これまでも、小児では外傷、溺水、窒息などの 不慮の事故による心停止の予防が強調されて きた。しかし、成人においても急性冠症候群や 脳卒中の初期対応の遅れが、突然死や予後の悪 化の原因になっていることは少なくない。また、
医療機関における突然死の多くは、低血圧や低 酸素血症などに引き続いて発生することが知 られている。これらの事実から、成人でも、心 停止に至る前に治療を開始し心停止を予防す ることが重要であるとして、小児と共通で「心 停止の予防」が、第一の輪として位置づけられ た。
また、救急救命士の資格を有する救急隊員には、
一次救命処置(Basic Life Support: BLS)と 並行して、薬剤や気道確保器具などを利用した 二次救命処置(Advanced Life Support: ALS)
を行い、より多くの患者において心拍再開を目 指すことが求められる。こうした努力により心 拍が再開した患者を社会復帰できるようにす るためには、その後の治療が重要であることが 報告されている。そこでガイドライン2010で は「心拍再開後の集中治療」が、第4の輪とし て位置づけられた。心拍再開後には集中治療で の呼吸・循環管理に加えて、低体温療法をはじ めとする体温管理、急性冠症候群に対する再灌 流療法などが含まれる。
このように、心停止あるいは心停止が切迫して いる者を救命し、社会復帰に導くためには、① 心停止の予防、②心停止の早期認識と通報、③ BLS(CPRと AED)、④ALSと心拍再開後の集中 治療の4つの要素が早期に行われることが必 要であり、これらの要素を円滑に連携させる概 念が「救命の連鎖」とされた。
救急隊員においては、傷病者の容態悪化に備え た迅速な初期活動によって心停止への進展を 予防すべく最大限の努力が必要であり、心停止 傷病者の搬送先決定にあたっては、こうした集 学的治療が提供できる施設を優先的に考慮す べきである。
なお、傷病者の搬送及び医療機関による受入れ をより適切かつ円滑に行うため、「消防法の一 部を改正する法律(平成21年法律第34号)」 が平成21 年に施行されているところではある が、ガイドライン2010を受けて、今一度体制 強化への努力が望まれる。
2)急性冠症候群への対応
急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)
は予期せぬ心停止の原因となる疾患の代表で ある。ACS とは急性心筋梗塞、不安定狭心症、
虚血性の心臓突然死が包括された症候群であ り、この3病型は同一の成因により生じる。わ が国では毎年約10 万人が病院外で突然死する
とされる。その最大の原因がACSであり、ACS による死亡の半数は病院前で発生し、そのほと んどが心室細動といわれている。また、発症か ら治療(再潅流療法)までの時間がその予後へ 大きな影響を与えると言われ、特に発症後 3 時間以内のST上昇型心筋梗塞は,再灌流まで の時間を短縮することにより治療効果が顕著 に増大することも報告されている。ACSに対し ては胸痛発症から初期診療の 1 時間における 対応が極めて重要である所以である。従って救 急隊員には、傷病者のACSの可能性を的確に判 断し、迅速な一次救命処置が実施できる準備を しておくとともに、速やかに専門医療機関に搬 送することが求められる。
一方、ACSの早期判断に12 誘導心電図は極め て有効な手段である。心電図トレーニングによ りST上昇型の心筋梗塞を的確に判定すること ができ、再灌流までの時間短縮に結びつくこと が期待されている。わが国でも病院前での救急 救命士による12誘導心電図の記録の有用性が 報告されており、今後は病院前救護への12誘 導心電図記録装置の導入に向けた検討が求め られる。
救急車内に搭載された心電図記録装置や医療 機関側の受け入れ体制などは地域ごとに事情 が異なるため、地域のMCによってACSに対す る対応方針を立てておく必要がある。ACSが疑 われる傷病者を専門的な治療が可能な施設へ 速やかに搬送し、適切な治療が迅速に提供され るように、地域の医療行政部門、消防組織、医 師会、専門医療機関の協力体制の構築が望まれ る。
3)脳卒中への対応
脳卒中(脳血管障害)は国民病といわれるほど 高頻度であり、神経救急のもっとも重要な対象 疾患であり、死亡率、発症率は単一臓器疾患と してもっとも高い。死亡率は心筋梗塞の約 2 倍、発症数では 3〜5 倍に達し、最近はheart attackになぞらえてbrain attackとも呼ばれ