システム開発 18-F-9
気候モデルと結合した3次元化学輸送モデルによる 予測計算の開発に関するフィージビリティスタディ
報 告 書
平成19年3月
財 団 法 人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会 委託先 財団法人 航空機国際共同開発促進基金
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://keirin.jp
目 次
序
はじめに
1 スタディの目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 スタディの実施体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3 スタディの内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第1章 物質輸送モデルの試作・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1.1 モデル作成の考え方類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1.2 物質輸送モデルの仕様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 1.3 作業内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 1.4 気象データの収集・整理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 1.5 物質輸送モデルの検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
第2章 境界条件選択機能の試作・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 2.1 試作の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 2.2 機能の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4 スタディの今後の課題及び展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 4.1 スタディ結果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 4.2 今後の課題と展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
[資料編]
参考資料―1 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 参考資料―2 用語集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 参考資料―3 利用マニュアル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 参考資料―4 設計書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
序
わ が 国 経 済 の 安 定 成 長 へ の 推 進 に あ た り 、 機 械 情 報 産 業 を め ぐ る 経 済 的 、 社 会 的 諸 条 件 は 急 速 な 変 化 を 見 せ て お り 、 社 会 生 活 に お け る 環 境 、 都 市 、 防 災 、 住 宅 、 福 祉 、 教 育 等 、 直 面 す る 問 題 の 解 決 を 図 る た め に は 技 術 開 発 力 の 強 化 に 加 え て 、 多 様 化 、 高 度 化 す る 社 会 的 ニ ー ズ に 適 応 す る 機 械 情 報 シ ス テ ム の 研 究 開 発 が 必 要 で あ り ま す 。
こ の よ う な 社 会 情 勢 の 変 化 に 対 応 す る た め 、 財 団 法 人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会 で は 、 日 本 自 転 車 振 興 会 か ら 機 械 工 業 振 興 資 金 の 交 付 を 受 け て 、 シ ス テ ム 技 術 開 発 調 査 研 究 事 業 、 シ ス テ ム 開 発 事 業 、 新 機 械 シ ス テ ム 普 及 促 進 事 業 を 実 施 し て お り ま す 。
こ の う ち 、 シ ス テ ム 技 術 開 発 調 査 研 究 事 業 及 び シ ス テ ム 開 発 事 業 に つ い て は 、 当 協 会 に 総 合 シ ス テ ム 調 査 開 発 委 員 会 (委 員 長 : 政 策 研 究 院 リ サ ー チ フ ェ ロ ー 藤 正 巖 氏 ) を 設 置 し 、 同 委 員 会 の ご 指 導 の も と に 推 進 し て お り ま す 。
本 「 気 候 モ デ ル と 結 合 し た 3 次 元 化 学 輸 送 モ デ ル に よ る 予 測 計 算 の 開 発 に 関 す る フ ィ ー ジ ビ リ テ ィ ス タ デ ィ 」 は 、 上 記 事 業 の 一 環 と し て 、 当 協 会 が 財 団 法 人 航 空 機 国 際 共 同 開 発 促 進 基 金 に 委 託 し 、 実 施 し た 成 果 を ま と め た も の で 、 関 係 諸 分 野 の 皆 様 方 の お 役 に 立 て れ ば 幸 い で あ り ま す 。
平 成 1 9 年 3 月
財 団 法 人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会
はじめに
財団法人航空機国際共同開発促進基金は、平成18年度研究開発の一つとして、日本自 転車振興会の機械工業振興資金の交付を受けた、財団法人機械システム振興協会からの受 託事業「気候モデルと結合した 3 次元化学輸送モデルによる予測計算の開発に関するフィ ージビリティスタディ」を実施した。本報告書は、その研究開発報告書である。
人間の社会経済活動に伴う大気組成の変動が気候に影響を与える、いわゆる地球温暖化 の問題に対して、京都議定書が発効し、世界規模で地球温暖化防止に取り組む枠組みが作 られ、その活動が本格化している。
地球温暖化の問題とは、大気中の微量化学成分のうち、二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)、
メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、オゾン(O3)等のいわゆる温室効果気体が地表およ び大気からの赤外線放射を吸収するため、その増加に伴って地表付近の気温が上昇するこ とである。
大型精密機器システムにはこのような問題が内在し、特に、その代表である航空機のエ ンジン排気には、二酸化炭素、水蒸気が含まれているので、これらは地球温暖化に影響す る。また、エンジン排気に含まれる窒素酸化物(NOx)は、亜音速機が飛行する高度10 km 程度の対流圏では、大気中の光化学反応によって温室効果気体であるオゾンを生成し、
温暖化を促進させる。
一方、次世代の超高速輸送機と期待される超音速航空機は、高空を飛行する際、エンジ ン排気を直接成層圏(高度20kmほどの高高度)に排出するため、その中の窒素酸化物が オゾン層に著しい影響を与えることが指摘されている。このときの最大の問題点は、成層 圏における窒素酸化物はオゾンを減少させ、太陽からの有害な紫外光に対する防禦が弱ま り、人体に悪影響を与えることである。
このため本スタディでは、これまでの次世代航空機等開発調査(超音速輸送機開発調査)
に係わる環境影響調査、「大型精密機器システムが地球温暖化に及ぼす影響予測の化学輸送 モデル開発に関する調査研究」及び「気候モデルと結合した 3 次元化学輸送モデルによる 予測計算の高精度・高次元化に関する調査研究」において実施してきた技術をベースに、
特に機械システムと深い関係を有する航空機産業が、地球温暖化問題に適確に対応するこ とにより、航空機の国際共同開発の促進に寄与するとともに、機械システムの振興に寄与 することを目的とし、「気候モデルと結合した3次元化学輸送モデルによる予測計算の開発 に関するフィージビリティスタディ」を実施した。
実施に際しては、当基金内に「化学輸送モデル開発調査委員会」を設け、その委員会に おいて開発方針・内容等を確認しつつ、研究開発を実施した。
この研究開発にあたっては、事業の実現と推進にご尽力を賜った経済産業省および日本 自転車振興会ならびに財団法人機械システム振興協会の関係者各位に厚く御礼申し上げま す。
平成19年3月
財団法人 航空機国際共同開発促進基金
1.スタディの目的
人間の社会経済活動に伴う大気組成の変動が気候に影響を与える、いわゆる地球温暖化の 問題に対して、世界的な取り組みが本格化している。地球温暖化の問題とは、大気中の微量 化学成分のうち、二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、
オゾン(O3)等のいわゆる温室効果気体が地表及び大気からの赤外線放射を吸収するため、
その増加に伴って地表付近の気温が上昇することである。近年、この問題の重要性が指摘さ れ、社会的な関心が高まっている。
機械システムの一つである航空機のエンジン排気には二酸化炭素が含まれており、地球温 暖化に影響する。また、エンジン排気に含まれる窒素酸化物(NOx)は、亜音速機が飛行 する高度10km程度の対流圏では、大気中の光化学反応によって温室効果気体であるオゾン を生成し、温暖化を促進させる。
航空機のエンジン排気が環境に与える影響は小さくない。空港周辺の大気質への影響を抑 えるための排出ガスの規制は、1998年に開催された国際民間航空機構(ICAO)の第4回航空 機環境保全委員会(CAEP4)で排出基準が16%強化された後、2004年のCAEP6においても さらに規制が強化された。
また、巡航時の排出ガスについても、大気微量成分や雲の生成を通じて気候変動に影響を 与えることが懸念されることから、規制を設けることがCAEPで検討されている。
(注)ICAO(International Civil Aviation Organization):国際民間航空機構
CAEP(Committee on Aviation Environmental Protection):航空機環境保全委員会
一方、次世代の超高速輸送機と期待される超音速航空機は、高空を飛行する際、エンジン 排気を直接成層圏(高度20kmほどの高い高度)に排出するため、その中の窒素酸化物がオ ゾン層に著しい影響を与えることが指摘されている。このときの最大の問題点は、成層圏に おける窒素酸化物はオゾンを減少させ、太陽からの有害な紫外光に対する防禦が弱まり、人 体に悪影響を与えることである。
このような状況下にあって、エンジン排気が環境に与える影響を正確に予測することが必 須である。現在では、民間航空機の開発・生産は国際共同事業が趨勢であり、今後我が国が 国際共同事業において主体的立場を確保し、戦略的産業である航空機産業の振興、ひいては 機械システムの振興に資するには、航空機の技術開発とともに、航空機が地球温暖化に及ぼ す影響を予測するための世界と対等以上の技術を保有することが必要である。その一つは、
上記問題に対処し得る化学輸送モデルの完成である。
地球温暖化の程度を評価するためには、気候モデル(いわゆる気象予報の数値計算モデル)
が用いられる。気候モデルでは、これら温室効果気体の濃度は既知なものとして外部から与 えるのが普通である。しかし、現実の大気中では、オゾンやメタンなどは光化学反応によっ て生成・消滅し、その反応速度は気温によって変わるため、温暖化が進んだ状態ではその時 の気温によって反応速度を計算し、生成気体成分の濃度を計算する必要がある。
また、これらの温室効果気体の多くは反応時定数が長いため、気候が変わるとそれによっ て濃度分布が変わる可能性もある。これらの効果も含めて温暖化予測を行うためには、大気 中の光化学反応と風による物質輸送を模擬し、各成分ごとの連続の式を解く化学輸送モデル を用いて、気候モデルと結合させた計算を行うことが不可欠である。
ンの緯度・高度分布を予測するモデル)や、公開されているマックス・プランク気象研究所 のMOZART等があるが、成層圏・対流圏の両方を対象とする3次元化学輸送モデルは、世界 的にみて未だ研究段階で、実用化にいたっていない。
以上のような背景に基づき、本スタディの目的と効果は次のとおりである。
(1)対流圏及び成層圏における亜音速航空機と超音速航空機(超高速機)による温室効果気 体の影響を調査し得る化学輸送モデルの開発調査を行う。すなわち、航空機エンジン排気 による対流圏オゾンの増加は、二酸化炭素の増加とは違って、地球上の場所と時間で著し く異なる(航空機が頻繁に飛ぶ高度と経路でオゾンの増加が大きい)ので、それらを正確 に把握できる化学輸送モデルを開発し、オゾン増加量の全地球的分布を計算することが必 要である。
(2)化学輸送モデルの開発調査は、亜音速機の開発に対して次の効果を有する。
・当該モデルにより、航空機が排出する各種物質の環境への具体的影響度を明らかにす ることにより、今後、航空機エンジン排気、及び航空機運用方法に対する環境基準の 設定・改訂にあたって、主導的な役割を果たすことができること。
・現在行われている「環境適応型小型航空機用エンジン開発」を始め、今後開発される エンジン並びに航空機の設計に際して、環境影響度の事前検証に当該モデルによる解 析が有効に活用されること。
(3)将来、超音速航空機(超高速機)の国際共同開発にあたっても、亜音速機とは異なった 高度、運用形態で飛行するため、さらなる評価、環境基準制定が必要となり、本「化学 輸送モデル開発調査」の成果を有効に活用した影響評価が必須である。
(4)化学輸送モデル開発調査では、窒素酸化物等の温室効果気体を含む数10種類の物質の 濃度を精度良く計算できる数値モデルを検討するので、航空機のみならず、機械全般が 排出する物質の影響をも予測可能であり、機械システムの性能向上にも寄与し得る。
以上のことから、本スタディにおける成果は、航空機の国際共同開発において、国際的に 先導的な日本の能力を与え得るものである。
2.スタディの実施体制
財団法人機械システム振興協会に「総合システム調査開発委員会」を、財団法人航 空機国際共同開発促進基金に「化学輸送モデル開発調査委員会」を設置し、その委員 会において研究開発方針・内容等を確認しつつ、スタディを実施した。
2.1 委員会の構成
委員会のメンバーは、大学2名、国立研究所等3名、航空機関連業界7名の合計1 2名の専門家で構成した。委員長には学会の第1人者である公立大学法人首都大学東 京システムデザイン学部久保田客員教授にご就任頂き、委員会の運営全般にわたり多 大のご教示を賜った。
2.2 調査委員会の実施
計4回の委員会を実施した。
○第1回委員会 平成18年7月5日
1.本スタディの主旨および計画概要の紹介と意見交換 2.委員会の活動計画について
○第2回委員会
平成18年10月3日
1.本スタディに関する情報交換
○第3回委員会
平成18年12月18日
1.本スタディに関する中間報告
〇第4回委員会
平成19年2月13日
1.平成18年度の報告書について 総合システム調査開発委員会
(委員会の編成は4頁に掲載)
化学輸送モデル開発調査委員会
(委員会の編成は5頁に掲載)
財団法人機械システム振興協会 財団法人航空機国際共同開発促進基金 委託
総合システム調査開発委員会委員名簿
( 順 不 同 ・ 敬 称 略 )
委 員 長 政 策 研 究 院 藤 正 巖 リ サ ー チ フ ェ ロ ー
委 員 埼 玉 大 学 太 田 公 廣 地 域 共 同 研 究 セ ン タ ー
教 授
委 員 独 立 行 政 法 人 産 業 技 術 総 合 研 究 所 金 丸 正 剛 エ レ ク ト ロ ニ ク ス 研 究 部 門
副 研 究 部 門 長
委 員 独 立 行 政 法 人 産 業 技 術 総 合 研 究 所 志 村 洋 文 産 学 官 連 携 部 門
コ ー デ ィ ネ ー タ
委 員 東 北 大 学 中 島 一 郎 未 来 科 学 技 術 共 同 研 究 セ ン タ ー
セ ン タ ー 長
委 員 東 京 工 業 大 学 大 学 院 廣 田 薫 総 合 理 工 学 研 究 科
教 授
委 員 東 京 大 学 大 学 院 藤 岡 健 彦 工 学 系 研 究 科
助 教 授
委 員 東 京 大 学 大 学 院 大 和 裕 幸 新 領 域 創 成 科 学 研 究 科
教 授
「化学輸送モデル開発調査委員会」
平成18年度委員名簿
No. 区 分 氏名(敬称略) 所 属・役 職 備考
1 委員長 久保田 弘敏 公立大学法人首都大学東京システムデザイン学部客員教授
(東京大学名誉教授)
2 小川 利紘 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 主幹研究員
(東京大学名誉教授)
3 田丸 卓 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 主任研究員 4 林 茂 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
航空プログラムグループ 環境適応エンジンチーム長 5 津江 光洋 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 助教授 6 加茂 圭介 富士重工業(株) 航空宇宙カンパニー
企画管理部 主管
7 高見 光 三菱重工業(株) 名古屋航空宇宙システム製作所 民間機技術部 基礎設計課 主席
8 嶋 英志 川崎重工業(株) 航空宇宙カンパニー 技術本部 研究部 参事
9 廣光 永兆 石川島播磨重工業(株) 航空宇宙事業本部 技術開発センター 要素技術部 燃焼グループ 主査
10 杉浦 重泰 全日本空輸(株) 整備本部 部品計画部 部長
11 末永 民樹 JALアビエーションコンサルタント(株) 主席コンサルタント 12
委 員
吉田 修 (株)日本航空インターナショナル地球環境部 部長 13 和爾 俊樹 経済産業省 製造産業局
航空機武器宇宙産業課 課長補佐 14 柳田 晃 (社) 日本航空宇宙工業会
技術部部長 15
オ ブ ザ ーバー
津田 直士 (財) 日本航空機開発協会
第二企画室 超高速機グループリーダー 16 高岡 武司 (財) 航空機国際共同開発促進基金 常務理事
17 松﨑 博樹 (財) 航空機国際共同開発促進基金 企画調査部長 18 中西 俊仁 (財) 航空機国際共同開発促進基金 企画調査部 部長代理 19
事務局
松園 正 (財) 航空機国際共同開発促進基金 企画調査部 部付
2.3 海外調査
(1)調査目的
本スタディの一環として、米国国立大気研究所並びに、カリフォルニア大学アー ヴァイン校を訪問し、化学輸送モデルの研究者と意見交換を行うことにより、高層 大気研究に関する最新の国際動向や最先端技術の情報を収集し、その成果を本スタ ディに反映させる。
(2)訪問先
米国国立大気研究所:Ko博士
米国カリフォルニア大学アーヴァイン校:Prather教授
(3)期間
平成19年1月29日~2月3日
3.スタディの内容
これまでの調査研究において、航空機エンジン排気による地球温暖化への影響予測のため に、オゾン等の温室効果気体への変動を予測する3次元化学輸送モデルが満たすべき仕様が、
その一連の手順を含めて明確になり、実際のモデル開発が可能となった。
一方、航空機排出物の環境影響を予測するために、既存の3次元化学輸送モデルでは、高 度領域や対象化学種、あるいはモデル内で扱うプロセスの点で、不十分であることが明らか になった。
化学輸送モデルでは、約50種類の化学種の濃度を計算するため、太陽放射による光解離や、
気体成分どうしの気相反応、エァロソルと呼ばれる固体もしくは液体の微粒子の表面で起き る異相反応等、全部で100種類以上の反応を扱うことになる。
このような複雑な数値モデルの開発を一度に開発することは大きなリスクを伴う。このリ スクを軽減するため、風による物質の移動を模擬する物質輸送モデルの部分と、太陽放射に よる光解離や化学反応(全部で100種類以上の反応を扱うことになる)を模擬する化学反応 モデルの部分のそれぞれを試作し、問題がないか確認しながら、段階的に開発を進めること が必要である。
初年度の本スタディでは、この3次元化学輸送モデルの物質輸送モデルのプロトタイプを 試作し、又、境界条件選択機能の試作を実施する。
3-1.物質輸送モデルの試作
気象データを読み込んで物質の移動だけを模擬し、化学反応を含まない化学種の分布を算 出する3次元物質輸送モデルを、海外の最新情報を取り込みつつ作成する。
この3次元物質輸送モデルは、化学種の連続の式(但し生成・消滅項を0とする)を数値的 に時間積分し、対象化学種の緯度・経度・高度の3次元分布を求めるものである。
対象領域は、
緯度:北極~南極
経度:西経180°~東経180° 高度:地表~10hPa面(約30km)
とし、水平(緯度・経度)解像度は2.5°、鉛直解像度は約2kmとする。
数値解法には、気象モデルの座標格子系になるべく依存しないことと、並列計算機への適 用における困難が少ないことを考慮し、セミラグランジュ法を用いる。
入力するデータとしては、気象データ(気温、三次元風速)のほか、初期条件(対象化学 種の3次元分布)及び境界条件(地表、大気上端)を読み込めるようにする。
作成したモデルを用いて、化学反応の無視できる化学種(例えばSF6、CO2等)について 計算を実施し、計算が発散したり、数値拡散を起こしたり、不自然な分布になったりしない かどうか確認する。また、実用的な速度で計算できるかどうかを検証する。さらに、NASA のモデルと観測ワークショップⅡの輸送過程のテストと同じ条件で計算を行い、その計算精 度を他のモデルと比較する。
3-2.境界条件選択機能の試作
3次元化学輸送モデルによる化学物質濃度の予測を行う場合、境界条件を設定しなければ
西経180°は連続)、緯度方向にはフラックスが0(90°を超える緯度は存在しない)とす ればよいが、地表及び大気上端における境界条件については、化学種ごとにどのような境界 条件が適しているかを検討し設定する必要がある。境界条件としては下記のものが考えられ る。
z 濃度の緯度・経度分布を指定
地表での観測値が十分に得られる化学種の場合、その観測値を面的な分布として与 える。また、地表や大気上端で濃度がほとんど 0 になることがわかっている化学種 について、0あるいは計算機で表現できる最小の正の値を設定する。
z 数密度フラックスの緯度・経度分布を指定
地表からの放出量がわかっている化学種の場合、その放出量を面的な分布として与 える。また、大気上端での物質の出入りはないと仮定してフラックス=0を設定する こともある。
z 沈着速度の緯度・経度分布を指定(地表のみ)
化学種によっては地表との接触によって消滅したり吸着されたりする(乾性沈着)
ものがある。このような化学種では、沈着速度というパラメータを設定し、地表面 から除去されるフラックスを求める。
前項で試作する物質輸送モデルに、上記の境界条件の中から選択し設定できる機能を追加 する。機能追加したモデルで境界条件を変えて試計算を行い、機能が正常に実装されている か確認する。
第1章 物質輸送モデルの試作
1.1 モデル作成の考え方
3次元化学輸送モデル作成の考え方について検討を行い、開発の方向性をまとめた。
航空機は上部対流圏から下部成層圏を飛行するため、そのエンジン排出物は対流圏・成 層圏の両方に拡散する。このエンジン排出物の影響を調査するためには、対流圏(地表か ら高度約10kmまで)及び成層圏(高度約10kmから約50kmまで)の両方を模擬できる モデルでなければならない。
このためには、超音速輸送機開発調査の一環として開発した 2 次元化学輸送モデル(成 層圏モデル)を対流圏に拡張する方法と、公開モデルである対流圏 3 次元化学輸送モデル MOZARTを成層圏に拡張する方法が考えられる。
2次元の成層圏モデルを対流圏に拡張するためには、モデルを3次元化するとともに、対 流圏内の以下の諸過程をモデル内で表現する必要がある。
z 境界層内の鉛直拡散 z 対流による鉛直輸送 z 乾性沈着(地表での消滅)
z 湿性沈着(雲や雨による洗浄効果)
z 地表からの自然/人為的放出量 z 大気中でのNOx発生
一方、MOZARTのような対流圏化学輸送モデルを成層圏に拡張する際に、追加すべきプ ロセスには以下のようなものがある。
z 光解離係数の計算
z 硫酸エァロソル及び極域成層圏雲(PSC)表面での異相反応 z 対流圏・成層圏交換過程
3次元化学輸送モデルの開発にあたっては、これら既存の化学輸送モデルに足りない部分 を、その必要性を見極めながら補いつつ、両者の特徴を取り込んでいくように開発を進め ていく必要がある。
2 次元成層圏モデルをベースにした場合と、3 次元対流圏モデル(MOZART)をベース にした場合について、これらの課題の対処法について検討した(表1.1-1参照)。
2次元成層圏モデルをベースとした場合、現状では実装されていない機能を追加していく
ことは、MOZARTのコードを参考にするなどしてプログラムを拡張すれば可能である。
しかし、MOZARTをベースとした場合、光解離を含めた化学反応の計算コードを自動生 成してしまうため、光解離係数の計算方法を改変することは著しく困難である。MOZART における光解離係数は、データテーブル(気圧、オゾンのコラム密度、太陽天頂角等の関 数)を参照し、補間することによって求めているので、オゾン密度が大きく変動する成層 圏に適用すると外挿によって計算するケースが発生してしまい、精度の良い計算ができな くなってしまう。
以上のことから、今回開発する 3 次元化学輸送モデルの開発にあたっては、超音速輸送 機開発調査で用いた2 次元化学輸送モデルに対し、対流圏モデルであるMOZART の長所 を取り込む形で開発することとした。
次に、2次元成層圏モデルをベースに3次元化学輸送モデルを開発するにあたっての課題 を抽出し、その困難度と優先度を表1.1-2にまとめた。
これらのうち、以下の項目は優先度が最も高く、困難度も高いことから、初年度(平成 18年度)にフィージビリティスタディを実施した。
z モデルの3次元化
z セミラグランジュ法の導入 z 並列計算への対応
z 気象データの収集・整理 z 境界条件の設定機能
これに次いで優先度の高い以下の項目を平成19年度に実施する。
z 対流圏化学反応の追加 z 初期値データの収集・整理 z 境界値データの収集・整理
今年度及び来年度開発するプロトタイプと、本格開発時の 3 次元化学輸送モデルの位置 付けを表1.1-3にまとめた。
表1.1-1 モデル作成の方法と課題の困難度
ベースモデル 2次元成層圏モデル MOZART
境界層内の鉛直拡散 ○ -
対流による鉛直輸送 ○ -
乾性沈着 ○ -
湿性沈着 ○ -
地表からの放出量 ○ -
大気中でのNOx発生 ○ -
光解離係数の計算 - ×コードを自動生成するた
め改変が困難
成層圏異相反応の追加 - ○
対流圏・成層圏交換過程 - ○
(-:実装済み、○:可能、×:困難)
表1.1-2 3次元化学輸送開発にあたっての課題と困難度及び優先度
項目 困難度 優先度 関連性
モデルの3次元化 中 高
セミラグランジュ法の導入 高 高 輸送過程
並列計算への対応 高 中 輸送過程
対流圏化学反応の追加 中 中 化学反応
境界条件の設定機能 中 中 輸送過程
気象データの収集・整理 低 高 輸送過程
化学反応
初期値データの収集・整理 低 中 化学反応
境界値データの収集・整理 低 中 化学反応
雲の放射影響 中 低 化学反応
乾性沈着過程 中 低 化学反応
湿性沈着過程 中 低 化学反応
積雲対流過程 中 低 輸送過程
境界層過程 中 低 輸送過程
表1.1-3 3次元化学輸送モデル開発計画
IADF 2次元成層圏モデル H18年度プロトタイプ H19年度プロトタイプ 完成モデル 計算領域 緯度:90°N~90°S
高度:0~50km
経度:180°E~180°W 緯度:90°N~90°S 高度:0~50km
経度:180°E~180°W 緯度:90°N~90°S 高度:0~50km
経度:180°E~180°W 緯度:90°N~90°S 高度:0~50km
化学種数 55 1 約80 約80
化学反応 150(成層圏化学中心) なし 約250(成層圏+対流圏) 約250(成層圏+対流圏)
光解離係数 ◎太陽放射強度から直接計算 なし ◎太陽放射強度から直接計算 ◎太陽放射強度から直接計算
積雲対流 × × × ○
境界層 × × × ○
乾性沈着 × ○ ○ ○
雲放射 × × × ○
湿性沈着 × × × ○
気象データ 気候値(残差循環) ECMWF解析データ ECMWF解析データ 任意(前処理により NetCDF 化)
数値解法 反復風上差分 セミラグランジュ法 セミラグランジュ法 セミラグランジュ法
並列化対応 × ○(MPI) ○(MPI) ○(MPI)
初期化 × × × ○
データ同化 × × × ○
(注)下線箇所が当該年度に開発する部分
12
1.2 物質輸送モデルの仕様
(1) プログラムの仕様
3次元物質輸送モデルは、大気中の輸送過程を模擬した計算を行うことで、微量成分の濃 度(体積混合比または数密度)を緯度・経度・気圧(高度に相当)の 3 次元的な分布とし て算出する計算機プログラムである。
① 基本方程式
全球大気中の微量成分の濃度を計算するため、球面座標系における物質の「連続の 式」を用いる。鉛直座標については対数気圧座標系とし、鉛直風速も気圧単位で表示 されたものを用いる。
( ) (
cos) ( )
0cos 1 cos
1 + + =
+ ζ −ζ
∂ζ ϕ ∂
∂ϕ
∂ ϕ
∂λ
∂ ϕ
∂
∂
fv e fwefu a a
t
f (1.2-1)
(λ,ϕ,ζ):経度・緯度・対数気圧(ζ=Hlog10(p0/p),p0=1000hPa,H=16km)
(u,v,w):風速(
p H dt
w d
ζ ω
10
−log
=
= 。ここでωは気圧座標における鉛直風速で
dt
= dp
ω
)a:地球の半径
f:対象化学種の体積混合比〔未知変数〕
② 気象データ
ECMWFの全球気象解析データを用いる。
z 水平解像度:2.5゚格子
z 鉛直解像度:15層(1000, 925, 850, 700, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100, 70, 50, 30, 10hPa)
z 時間間隔:12時間ごと
z 気象要素:気温T・水平風速(u, v)・鉛直風速ω
③ 数値解法 数値解法:
z 移流項:セミラグランジュ法 計算格子:
z 経度方向:144個(Δλ=2.5°)
z 緯度方向:72個(Δϕ=2.5°)
z 鉛直方向:15個(地表から30kmまで、Δζ=2km)
z 鉛直座標:対数気圧座標系 z 定義点:レギュラー格子 時間積分:
z 時間増分:30分(実行時に変更可)
z 計算対象期間:気象データがある範囲内で実行時に指定
④ 入力データ
3次元物質輸送モデルの入力データは以下のとおり。
z 初期値ファイル(初期時刻における対象化学種の体積混合比)
z 地表境界値ファイル(地表における対象化学種の体積混合比またはフラック スまたは沈着速度)
z 上端境界値ファイル(大気上端における対象化学種の体積混合比またはフラ ックス)
z パラメータファイル
このうち、パラメータファイルに含まれるデータは以下のとおり。
z 初期時刻・終了時刻・時間増分 z 初期値ファイル名
z 地表境界条件、地表境界値ファイル名 z 上端境界条件、上端境界値ファイル名 z 出力時間間隔
z 出力スイッチ、出力ファイル名
⑤ 出力データ
パラメータファイル中で指定された化学種の体積混合比または数密度(出力スイッ チにより選択)
⑥ 言語
Fortran90を使用する。MPIによる並列化を行う。
今後の拡張性を考慮し、ソースコードを読みやすくする(コメントをつける等)。
(2) 処理アルゴリズム
① 格子点の取り方
緯度、経度ともに2.5°刻みのレギュラー格子とする。但し体積混合比fはセルの中 心で定義する(図1.2-1参照)。
対象化学種の体積混合比fの定義点:
経 度 方 向 :1.25°, 3.75°, 6.25°, … 178.75°, 181.25°, … 356.25°, 358.75°の144個(Δλ=2.5°)
緯度方向:-88.75°, -86.25°, … -1.25°, 1.25°, … 86.25°, 88.75°の 72個(Δϕ=2.5°)
鉛直方向:1km, 3km, 5km, … 27km, 29kmの15個
② 物質輸送の計算方法
セミラグランジュ法を用いる。
セミラグランジュ法とは、ある時刻における全格子点上の流体粒子が、それぞれ時 間Δt だけ前にどこにいたかをバックワード・トラジェクトリー(流跡線)解析によっ て算出し、その位置における化学種の濃度を補間によって求めた後、それが当該格子 点に来るまでの光化学反応による濃度の時間変化を求めるやり方であり、この手法を 用いた化学輸送モデルが開発されるようになってきている。今回開発する物質輸送モ デルでは化学反応を考慮しないので、時間Δt だけ前の時刻における位置で補間された 化学種の濃度が、そのまま現在の格子点上における濃度の値となる。
1次元の場合のセミラグランジュ法は次のようになる(図 1.2-2 参照)。時刻 tn+Δt に地点 xm(点C)にたどり着く流体粒子が実線の経路をたどるとする。これを破線で 近似する。すなわち、時刻 tn−Δt にA’にいた粒子が Cにたどり着くとする。F(x, t) という量が移流過程でとる値は次の式を解いて求める。
F(xm, tn+Δt)=F(xm-2am, tn−Δt) (1.2-2)
am=Δt U(xm−am, tn) (1.2-3)
但し
( )
x t dt Udx = , (1.2-4)
式(1.2-3)を満たす amを反復法で探し、その粒子は時刻 tn−Δt には位置xm−2amにい た(A)として、新しい時刻tn+Δtにおける物理量F(xm, tn+Δt)をF(xm−2am, tn−Δt)(これ は内挿によって求める)で評価するのである。ここで U(x−a,t)は必ずしも格子点上の 速度にはならないが、適当な内挿法によって求める。
③ 境界条件 a) 経度方向
周期境界条件とする。
b) 緯度方向
セミラグランジュ法で極点付近の移流を取り扱う。
c) 高度方向
地表境界、及び上端境界として
z 体積混合比の分布を与える。
z フラックスの分布を与える。
z 沈着速度の分布を与える。
のいずれかを選択できるようにする。
(3) 性能
① 計算速度
ヒューレット・パッカード社製ES45にて、対象化学種(1種)の1日分(Δt=20分)
の濃度計算が、CPU時間2分以内に完了すること。
これは、化学輸送モデルに発展させた時のことを考慮し、80 種近い化学種について の5年分の予測計算を、8個のCPUを持つ並列計算機で1ヶ月以内に行うために必要 な計算速度である。
② 精度
全球で初期濃度一定、境界条件も初期状態と同じ濃度で一定の条件における計算で、
誤差1%以下であること。
現実の気体では観測値と比べて妥当な結果が出力されること(計算誤差が観測誤差 の範囲程度であること)。
(4) その他
① 拡張性
今後、大気中の光化学反応を追加して化学輸送モデルに発展させること、積雲対流 による拡散や湿性沈着過程などの諸過程を追加していくこと等を考慮し、拡張性のあ る設計とすること。
② 文書化
ユーザが使用するための利用マニュアル、モデルの拡張・修正時に参照できる設計 書を添付すること。
1 2 Ny
1 2 3 Nx
j
i
90゚S 87.5゚S 85゚S 90゚N 87.5゚N 0゚ 2.5゚E 5゚E 7.5゚E 2.5゚W 0゚
体積混合比fの定義点
図1.2-1 レギュラー格子における体積混合比の定義点
t
x C
B
A'
xm xm-2am
A tn
tn+Δt
tn-Δt
am
2am
図1.2-2 1次元の場合のセミラグランジュ法
時刻tn+ΔtにCにたどり着く流体粒子が実線の経路をたどるとき、これ を破線で近似し、amを反復法により求める。
1.3 作業内容
(1) 3次元物質輸送モデルの基礎作成
気象データを読み込んで物質の移動だけを模擬し、化学反応を含まない化学種の分布を 算出する3次元物質輸送モデルを作成する。
この3次元物質輸送モデルは、化学種の連続の式(但し生成・消滅項を 0とする)を数 値的に時間積分し、対象化学種の数密度の緯度・経度・高度の 3 次元分布を求めるもので ある。
( ) (
cos) ( )
0cos 1 cos
1 + + =
+ ζ −ζ
∂ζ ϕ ∂
∂ϕ
∂ ϕ
∂λ
∂ ϕ
∂
∂
fv e fwefu a a
t
f (1.3-1)
(λ,ϕ,ζ):経度・緯度・対数気圧(ζ=Hlog10(p0/p),p0=1000hPa,H=16km)
(u,v,w):風速(
p H dt
w d
ζ ω
10
−log
=
= 。ここでωは気圧座標における鉛直風速で
dt
= dp
ω
)a:地球の半径
f:対象化学種の体積混合比〔未知変数〕
対象領域は、
緯度:北極~南極
経度:西経180°~東経180°
高度:地表~10hPa面(約30km)
とし、水平(緯度・経度)解像度は2.5°、鉛直解像度は約2kmとする。
入力する気象データとしては、欧州中期気象予報センター(ECMWF)の全球解析デー タを使用することとした。
(2) セミラグランジュ法の導入
(1)節で作成した物質輸送モデルに、セミラグランジュ法を導入した。
セミラグランジュ法は、ある時刻における全格子点上の流体粒子が、それぞれ時間Δt だ け前にどこにいたかをバックワード・トラジェクトリー(流跡線)解析によって算出し、
その位置における化学種の濃度を補間によって求め、それが現時刻の当該格子点に来るま での光化学反応による濃度の時間変化を求めるやり方である。今回開発する物質輸送モデ ルでは化学反応を考慮しないので、時間Δt だけ前の時刻における位置で補間された化学種 の濃度が、そのまま現在の格子点上における濃度の値となる。
トラジェクトリー解析とは、基本的には初期位置(λ0, ϕ0, p0)を通過した気塊の時刻 t における位置を、次の方程式
ϕ λ
cos a
u dt
d =
,
d dt
v a
ϕ
=,
dp dt =
ω
(1.3-2) に風速データ(u, v, ω)を与えて時間積分を行うことにより追跡するものである(図1.3-1)。
ここで、λ, ϕはそれぞれ経度及び緯度(rad)、pは気圧(hPa)、またu, vはそれぞれ風速 の東西成分及び南北成分(m/s)、ωは気圧座標における鉛直風速(hPa/s)、aは地球の半径
(m)である。
① 線型補間
計算に必要な風速データは外部の気象データから読み込む。ここで用いる気象デー タは緯度、経度、気圧の 3 次元格子点上での値が与えられているので、対象とする気 塊位置での風速は適当な補間(内挿)によって求める。ここでは以下に示す線型補間 を用いる。
気象データの定義されている格子点の番号について、経度方向を i、緯度方向を j、 気圧(高度)方向をkで表すことにする。いま気塊が位置(λ, ϕ, p)にあるとき、まず
λ
i ≤ <λ λ
i+1,ϕ
j ≤ <ϕ ϕ
j+1, pk ≥ >p pk+1を満たすi, j, kを求める(図1.3-2、気 圧は降順に並んでいることに注意)。各方向の内分比は、α λ λ
λ λ
1 1
= −
+ −
i
i i ,
α λ λ
λ λ α
2
1 1
1 1
= −
− = −
+ + i
i i (1.3-3)
β ϕ ϕ
ϕ ϕ
1
1
= −
+ −
j
j j ,
β ϕ ϕ
ϕ ϕ β
2
1 1
1 1
= −
− = −
+ + j
j j (1.3-4)
γ
11
= −
+ − ln ln
ln ln
p p
p p
k
k k ,
γ
2 1γ
1
1 1
= −
− = −
+ +
ln ln
ln ln
p p
p p
k
k k (1.3-5)
となる。ここで気圧(高度)方向については、気圧が高度に対して指数関数的に減 少していることから、気圧の対数について内分比を求めている。
これを用いて気塊位置Pでの風速vは次のようになる。
1 , 1 , 1 1 1 1 1 , 1 , 1 1 2 1 , , 1 1 2 1 1 , , 1 2 2
, 1 , 1 2 1 1 , , 1 , 2 1 2 , , 1 2 2 1 , , 2 2
) 2
(
+ + + +
+ +
+ +
+ + +
+
+ +
+ +
+ +
+
=
k j i k
j i k
j i k
j i
k j i k
j i k
j i k
j
P i
v v
v v
v v
v v
v
γ β α γ
β α γ
β α γ
β α
γ β α γ
β α γ
β α γ
β α
(1.3-6)
② 時間積分
常微分方程式(1.3-2)の時間積分には 2 次のルンゲ・クッタ法を用いる。これは、独 立変数tの関数x(この場合は気塊位置(λ, ϕ, p))についてt=t0のときの初期値x=x0
が与えられたとき、次の形の漸化式によってxの数値解を逐次求める方法である。
1
1 x k
xn+ = n + (n=0 1 2 3, , , , )⋅⋅⋅ (1.3-7)
但し、
(
xn)
v
k0 =Δt⋅ tn, (1.3-8)
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛ +Δ +
⋅ Δ
= , 2
2
0 1
x k v
k t n
t
t n
(1.3-9) 誤差は(Δt)2のオーダーとなる。
③ 高度決定法
ECMWFの全球気象解析データには、風速の水平成分(u, v)だけでなく鉛直成分ω も含まれているため、これを(1.3-2)式に適用して鉛直位置pを計算する。
④ 極点付近の取り扱い
高緯度では経線が密集してくるので経度方向の時間積分の精度が悪化する。また極 点をよぎる南北風によって緯度の値が計算上90°を越えることも考えられる。これらの 問題を避けるため、気塊が極点に近づいた場合にはいったん座標変換を行い、極中心 の直交座標で水平位置の計算を行う(図1.3-3参照)。
時刻 t=tnのとき緯度の絶対値がある閾値(ここでは 88°)を越えていた場合、気塊 の水平位置(λn, ϕn)を次式により極を原点とし経度0度の子午線をx軸とする直交座 標(xn, yn)に変換し、
x a
y a
n n n
n n n
=
=
⎧⎨
⎩
cos cos cos sin
ϕ λ
ϕ λ
(1.3-10)この直交座標による位置(xn, yn)について次式をルンゲ・クッタ法により時間積分 する。
dx dt =U
,
dy dt =V
(1.3-11) ここで(U, V)は、補間によって求めた水平風速(u, v)を直交座標に変換したもの
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
⎟⎟ ±
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
−
−
= −
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
v u V
U
λ λ
λ λ
sin cos
cos sin
(複号は北半球のとき+、南半球のとき-)
(1.3-12) である。
時間積分の結果、次の時刻t=tn+1における位置(xn+1, yn+1)が得られたのち、(1.3-10)
式の逆変換
⎪⎪
⎩
⎪⎪
⎨
⎧
=
± +
=
+
− + +
+ +
− +
1 1 1 1
2 1 2 1 1 1
tan
cos
n n n
n n
n
x y
a y x
λ
ϕ
(複号は北半球のとき+、南半球のとき-)( 1.3-13)
により緯度・経度に戻す。
(3) 並列計算機への対応
3次元化学輸送モデルを現実的な速度で実行させるため、並列計算機に対応できるようモ デルの改訂作業を行った。並列計算手法として、複数のCPUがメモリを共有して処理を並 行実行させる共有メモリ型並列計算機であるHP社製ES45を使用し、OpenMPによる並 列化チューニングを行った。
共有メモリ型並列計算は、分散メモリ型並列計算に比べソースコードの変更が少なく、
メモリの配分などの考慮をしなくてもすむが、多数のCPUによる並列計算には向いていな い。今回は並列化による加速効果を見極めるための試作品として共有メモリ型を選択した。
並列化の検証のため、CO2の濃度について1日分の計算を実施した(時間刻みは20分とし た。その結果、計算時間は以下のようになった。
Real User System
非並列 98.7 97.6 0.8
並列 (NP=1) 118.3 115.9 0.9 並列 (NP=2) 58.7 116.2 0.9 並列 (NP=4) 30.9 117.7 1.3
(単位:秒)
上記の表のうち、Realは計算の開始から終了までにかかったターンアラウンド時間、User がコンピュータの CPU時間であり、並列計算の場合は、使用した CPU それぞれの CPU 時間の合計である(NPはノード数)。これを見ると、並列化した場合のCPU時間の総和は ほとんど変わらないが、ノードを増やすにつれてターンアラウンド時間がほぼ反比例して 減少する結果となった。
180°
90°S Eq.
90°N
180°
90°W
90°E 0°
10
100
1000
緯度
経度
気圧 (hPa) v = (u,v,ω)
図1.3-1 気塊トラジェクトリーのイメージ
A
D
C B
α1 α2 β1 β2
γ1 γ2
vi,j,k
P
vi+1,j+1,k+1
vi,j+1,k+1
vi+1,j,k+1
vi,j,k+1
vi,j+1,k
vi+1,j+1,k
vi+1,j,k
i
j
k
図1.3-2 気塊位置での風速の補間
u
λ v a cosϕ
x y
0°
90°E
90°W 180°
u v λ
a cosϕ
x 0°
90°W
90°E 180°
y
図1.3-3 極付近の座標変換(左:北極点上空から見た図、右:南極点上 空から見た図)
1.4 気象データの収集・整理
3次元物質輸送モデルの入力として用いる気象データとして、欧州中期気象予報センター
(ECMWF) が 解 析 し 発 表 し て い る 全 球 気 象 解 析 デ ー タ Basic Level III-A Global Atmospheric Data Archive(以下、ECMWF全球気象解析データ)を使用した。
ECMWF全球気象解析データの仕様は以下のとおりである。
水平解像度: 2.5°格子(格子数144×73)
鉛直解像度: 地上+15層 (1000, 925, 850, 700, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100, 70, 50, 30, 10hPa)
気象要素: ジオポテンシャル高度、気温、風速(東西成分、南北成分、鉛直成 分)、相対湿度
時間間隔: 12時間ごと(世界標準時00時、12時)
データ量: 1時刻あたり約2.1Mbyte
データの期間: 1994年1月1日~1994年12月31日
ECMWF 全球気象解析データ及びそのソフトウェアの利用にあたっては、以下の利用条 件がある。
1. 本ソフトウェアの所有権及び著作権は ECMWF が保有する。本ソフトウェアは ECMWF データの利用目的に限り提供されるものであり、他の目的のために利用 してはならない。
2. ECMWF の許可なく、提供されたデータならびにソフトウェアの全部あるいは一 部を、第三者に提供してはならない。
3. データ及びソフトウェアを商用目的で利用してはならない。
4. ECMWF の提供したデータの全部あるいは一部に基づいた記事、論文、ならびに 科学研究の成果を公表する場合は、ECMWF提供データである旨を次の例のよう に 明 示 し な け れ ば な ら な い :”ECMWF 1996. The Description of the ECMWF/WCRP Level III-A Global Atmospheric Data Archive”
5. データならびにソフトウェアの準備及びテストには万全を期しているが、どのよ うな状況の下でもデータが正しいこと、あるいはどのような状況でもソフトウェ アが正しく動作することをECMWFが保証するものではない。本データ及びソフ トウェアの誤りないし欠損、ならびにその利用に基づくいかなる損害や損失に関 しても、ECMWFはその責を負わない。
6. 本データ及びソフトウェアの利用は、データの提供を受けた組織の科学者が同一 のコンピュータにインストールする場合に限る。
7. 本データ及びソフトウェアの提供を受けたものは、すべてのデータ利用者に対し、
この利用条件を知らせる責任がある。
データは18トラックのIBM3480カートリッジテープにラベルなし(NL)、ブロック長 10560バイトで記録されている。但し、レコード長を示すワード等は含まれていないので、
直接(Direct)アクセスで読み込んだ。1つの論理レコード(21108バイト)は2つのテー プブロックから構成されている。
オリジナルのデータファイルでは 1ケ月分のデータを 1ファイルに収容していたが、そ のままでは扱いにくいので1時刻1ファイルに分割した(フォーマットは変更していない)。
1時刻分のファイルは99のレコード(2,089,692バイト)からなり、1つのレコードには、
1つの気圧面、1つの気象要素のデータが全球分格納されている。
1つの論理レコード(21108バイト)は、世界気象機関(WMO)が各国の気象機関間の データ交換のために定めた書式FM-92 GRIB(GRIdded Binary)に従って構成されている。
GRIB は各種のデータを表現することができるようさまざまなパラメータが指定できるよ うになっている。ECMWF気象解析データの場合、次の5つのセクションから構成されて いる(セクション3(ビットマップセクション)は存在しない)。
z セクション0(8バイト):表示セクション z セクション1(28バイト):製品定義セクション z セクション2(32バイト):格子記述セクション
z セクション4(21036バイト):バイナリデータセクション z セクション5(4バイト):終端セクション
各部分の内容は表1.4-1のとおり。
ECMWF 全球気象解析データは圧縮されて保存されているので、読み出す際には復元す る必要がある。そのためには、セクション1の10進スケール値D、セクション4の2進ス ケール値E、基準値 R、及び各格子点の値X(i,j) (1≦i≦144, 1≦j≦73)を用いると、元 のデータQ(i,j)は、
Q(i,j)=(R+X(i,j)×2E)×10-D (1.4-1)
によって得ることができる。なお、基準値RはIBM浮動小数点表現となっているため、プ ログラム内で変換する必要がある。
以上のデータの読み出し・変換等については、ECMWF から送付されてきたテープに FORTRAN(一部はC)のプログラムGRIBEXが付属していたので、これを利用した。
ECMWF気象解析データのグリッドは、第1添字が経度(東向き)、第2添字が緯度(南 向き)を表す。データ点は(1,1)から順に東回りにならび、(144,1)は(1,1)の西隣となってお り、2列目はその南隣の列になる。また1列目のデータはすべて北極点の値、73列目のデ
ータはすべて南極点の値である(スカラー値は同じ値が入っている。ベクトル値について は各子午線を基準軸に取った値に変換されている)。
上記の方法で読み取ったECMWF気象解析データのサンプルを図1.4-1~図1.4-7に示す。
表1.4-1 ECMWF全球気象解析データのレコードフォーマット 記録:書式なし(バイナリ)
論理レコードの形式:固定長
論理レコード長:21108バイト/レコード
セクション0(8バイト)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
1-4 開始文字列(ASCIIコード) "GRIB"
5-7 GRIBレコードの長さ[バイト] 21108 ksec0(1)
8 GRIBの版数 1 ksec0(2)
セクション1(28バイト)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
1-3 セクション1の長さ[バイト] 28
4 気象要素表(WMOマニュアル表2)
のバージョン
128 ksec1(1)
5 作成したセンターのID 98(ECMWF) ksec1(2)
6 作成したプログラムのID 122 ksec1(3)
7 グリッドID 255(セクション2で記述) ksec1(4) 8 セクション2及び3の有無 128(セクション2のみ存
在)
ksec1(5)
9 データの種類 129: ジ オ ポ テ ン シ ャ ル
[m2・s-2] 130:気温[K]
131:東西風[m・s-1] 132:南北風[m・s-1] 134:地表気圧[Pa]
135:鉛直風速[Pa・s-1] 139:地表面温度[K]
151:海面気圧[Pa]
157:相対湿度[%]
165:地上10m東西風[m・
s-1]
ksec1(6)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数 166:地上10m南北風[m・
s-1]
167:地上2m気温[K]
168:地上2m露点[K]
172:海陸マスク
10 面の種類 1:地表
100:気圧面[hPa]
112:地中の層[cm]
ksec1(7)
11-12 面の値 ksec1(8),
ksec1(9)
13 年(西暦の下2桁) ksec1(10)
14 月 ksec1(11)
15 日 ksec1(12)
16 時 ksec1(13)
17 分 ksec1(14)
18 予報時間の単位 1 ksec1(15)
19 予報時間1 0 ksec1(16)
20 予報時間2 0 ksec1(17)
21 時問範囲フラグ 0(非初期化) ksec1(18)
22-23 平均・積算したデータの個数 0 ksec1(19)
24 平均・積算できなかった欠測データ の個数
0 ksec1(20)
25 世紀 20 ksec1(21)
26 予約領域 0 ksec1(22)
27-28 10進スケール値D ksec1(23)
セクション2(32バイト)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
1-3 セクション2の長さ[バイト] 32
4 鉛直座標の個数 0 ksec2(12)
5 予約領域 127
6 グリッドの種類 0(緯度・経度格子) ksec2(1)
7-8 緯度方向の格子点数 144 ksec2(2)
9-10 経度方向の格子点数 73 ksec2(3)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
11-13 最初の格子点の緯度[10-3°] 90000 ksec2(4) 14-16 最初の格子点の経度[10-3°] 0 ksec2(5)
17 精度・成分フラグ 128 ksec2(6),
ksec2(18), ksec2(19)
18-20 最後の格子点の緯度[10-3°] -90000 ksec2(7) 21-23 最後の格子点の経度[10-3°] 357500 ksec2(8) 24-25 経度増分[10-3°] 2500 ksec2(9) 26-27 緯度増分[10-3°] 2500 ksec2(10)
28 スキャンモード 0 ksec2(11)
29-32 予約領域 0
セクション4(21036バイト)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
1-3 セクション4の長さ[バイト] 21036 4 データならび順・圧縮方法等のフラ
グセクション4の最後の使われてい ないビット数
8 ksec4(3) ~
ksec4(6)
5-6 2進スケール値E 7-10 基準値R
(IBM浮動小数点表現)
11 1点あたりの圧縮データのビット数 16 ksec4(2) 12 -
21035
各格子点のデータ(各2バイト)
((X(i,j), i=1,144),j=1,73)
psec4(展 開 済 みの値) 21036 未使用領域
セクション5(4バイト)
バイト 内容[単位] 値 GRIBEX引数
1-4 終端文字列(ASCIIコード) "7777"
図1.4-1 1994年3月21日0時の250hPa面におけるジオポテンシャル高度[単位:m]
図1.4-2 1994年3月21日0時の250hPa面における気温[単位:K]
図1.4-3 1994年3月21日0時の250hPa面における東西風速[単位:m・s-1]
図1.4-4 1994年3月21日0時の250hPa面における南北風速[単位:m・s-1]
図1.4-5 1994年3月21日0時の250hPa面における風速ベクトル[単位:m・s-1]
図1.4-6 1994年3月21日0時の250hPa面における鉛直風速[単位:m・s-1]
図1.4-7 1994年3月21日0時の250hPa面における相対湿度[単位:%]