1/4 野津 誠
消費行動を目的とした鉄道利用モデルの構築
Traffic Model in Public Railway Network for Consumer Behavior
情報工学専攻 野津 誠
Makoto Nodu1 はじめに
鉄道会社にとって,鉄道がどのような目的で利用 されているかを把握することは,今後の経営に役立 てるために必要不可欠なことである.そこで,
JR東 日本は,消費者が実際に駅をどのように利用し,ど のような消費行動をしているかを把握するために,
東京
70km圏に住む約
1万人を対象に,移動行動と 消費行動に関するアンケート調査を行った.
本研究では,上記のアンケート調査データ(以下,
JR
データ)を用いて,買い物,外食,娯楽・観光を 目的とする外出行動に鉄道がどのように利用されて いるかという点に着目し,鉄道利用者の行動の特徴 を分析する.そして,買い物,外食,娯楽・観光を 目的とした鉄道利用モデルを構築し,鉄道利用者の 特徴を調べることを目的とする.
2 JR
データ概要
調査対象は,東京
70km圏在住の
12歳(中学生)
から
69歳までの男女
10,013人,調査期間は,2002 年
7月
5日(金) ,6 日(土) ,7 日(日) ,8 日(月)
の
4日間である.調査期間内における個人の外出行 動(移動目的,利用した交通手段,所要時間,鉄道 利用の有無) ,消費行動(購入品目,消費金額,店舗 の場所)などが詳細に記載されている.
3
鉄道利用者の行動分析
3.1消費行動の分析
本節では,消費行動を
1回の消費行動における合 計消費金額によって以下の
3つに分類する.そして,
それぞれの行動における平日,休日の消費の違いに ついて分析を行う.
低額消費行動:消費金額が
1000円未満
中額消費行動:消費金額が
1000円以上
10000円未満
高額消費行動:消費金額が
10000円以上
分析結果のまとめ
消費行動の目的の違いをまとめると,低額消費行 動では主に通勤,中額消費行動では主に買い物と外 食, 高額消費行動では主に買い物を目的としている.
中額消費行動,高額消費行動では女性の行動回数が 多いことが特徴である.
平日と休日の違いについてまとめると,休日にお いて,鉄道を利用した消費行動は,鉄道を利用して いない消費行動と比べてかなり少なく,平日と比べ て買い物や外食を目的とした消費行動が増えている.
3.2
一日の行動の流れの分析
本節では,一日の行動の中で,鉄道を一度でも利 用した人を鉄道利用者,鉄道を一度も利用していな い人を鉄道非利用者と定義し,一日の行動の流れ(通 勤→買い物→帰宅,買い物→外食→帰宅,等)が曜 日によってどのように異なるかを分析する.ここで は通勤,買い物,外食,帰宅の
4つの外出行動に着 目する.
3.2.1
曜日別の行動の流れ
鉄道利用者と鉄道非利用者について,5 日(金) ,
6日(土) ,7 日(日) ,8 日(月)の通勤,買い物,
外食,帰宅の行動の移り変わりの様子を分析する.
行動の流れは矢印で表しており,例えば,自宅か
ら通勤をした行動ならば自宅→通勤となる.それぞ
れの矢印に付加されている数字が行動の数になって
いる.鉄道利用者の行動は,鉄道を利用した行動と
鉄道を利用していない行動に分類されるため,鉄道
を利用した行動は上の数字で,鉄道を利用していな
い行動は下の数字でそれぞれ表す.
2/4 野津 誠
ここでは
5日(金)の行動の移り変わりの様子を 図
1,図2に示す.
5日鉄道利用
人数:
4,216行動:11,890 通勤
外食 買い物
5 33 10
21
55 49 1,347
73
7 24 11 32
上 鉄道利用 下 非利用 自宅
自宅 自宅
2,450 86
77 141 100
283
274 153
339 79 156
144 36 72
図
1 金曜日に鉄道を利用した人の行動の流れ通勤
外食 買い物
1,563
75 19
230 191
23
209 1,119
1,384 46
40 1,058
自宅
自宅 自宅
5日鉄道利用無し
人数:
4,372行動:12,286
217
図
2 金曜日に鉄道を利用していない人の行動の流れ鉄道利用者の行動のまとめ
鉄道利用者の行動を見ると,通勤の行動が多いこ とがわかる.また,通勤の後に買い物,外食をし,
その後帰宅するという行動の流れを見ることができ る.特に金曜日は, “花の金曜日”と言われるように,
金曜日の特徴が顕著に表れている.また,通勤から 買い物,外食への行動の流れでは,鉄道を利用しな い行動のほうが多い.
鉄道非利用者の行動のまとめ
鉄道非利用者の行動を見ると,通勤と買い物の行 動数が多いことがわかる.鉄道利用者の行動と比較 すると,買い物の行動数が多いが,このうち,パー ト・アルバイト,主婦による買い物が大半を占めて おり,主婦層による近所のスーパーなどでの買い物
の影響だと考えられる.
3.2.2
鉄道利用者と鉄道非利用者の比較と考察
曜日ごとに,通勤の行動数,通勤の後に買い物,
外食,娯楽・観光の行動をした行動数とその割合を 算出する.ここでは,5 日(金) ,7 日(日)の場合 を表
1に示す.
表
1 通勤の後に買い物,外食等の行動をした割合鉄道利用者
5日(金)
7日(日)
通勤
2,743回
228回 通勤→買,外,娯
660回
44回
割合
24.1% 19.3%鉄道非利用者
5日(金)
7日(日)
通勤
1,678回
375回 通勤→買,外,娯
299回
67回
割合
17.8% 17.9%5
日(金)は,鉄道利用者においては,通勤の後 に買い物,外食,娯楽・観光の行動をした割合が約
24%であり,7
日(日)と比べ約
5ポイント高い.
一方,鉄道非利用者においては,
5日(金) ,
7日(日)
の割合に違いはない.
また,5 日(金) ,7 日(日)ともに,鉄道利用者 は,鉄道非利用者に比べて,通勤の後に買い物,外 食,娯楽・観光の行動に流れる割合が高いことがわ かる.
一連の行動を見ると,鉄道を利用して目的の駅へ 移動し,目的の行動を終えた後に,その駅周辺で別 の行動をする傾向がある.そのため,鉄道利用者の 行動は,鉄道非利用者の行動と比べて,買い物,外 食,娯楽・観光の行動に流れやすいと考えられる.
4
3 駅間の競合を表すモデル
4.1鉄道ネットワークの構築
大都市交通センサスデータから得られる路線単位
の駅の隣接関係と,国土地理院数値地図
2500(空間データ基盤)から得られる駅座標を組み合わせるこ
とで,本研究で用いる鉄道ネットワークを構築する.
3/4 野津 誠
4.2
モデルの概要
競合が考えられる異なる
3つの駅 がある.
ここで,ある出発駅から駅 に向かう最短経路上に 他の駅 がある場合に,駅 に向かっている鉄 道利用者が駅 で降車してしまうという競合を 考える.駅 に向かう場合も同様に考える.
3 2 1,L ,L L L1
3 2,L
L L1
3 2,L L
3 2,L L
鉄道利用者の移動はグラビティモデルによって表 せるものとする.ここでは距離を出発駅から目的駅 への所要時間で考える.グラビティモデルを用いる と,目的駅 が互いに影響を及ぼし合わない としたとき,各出発駅 から目的駅 に向か う鉄道利用者の総数 は,出発駅 で乗車し た 人 数 , 目 的 駅 ま で の 所 要 時 間
,距離抵抗を表すパラメータ
3 2 1,L ,L L
ki L1,L2,L3
3 2 1,I ,I
I ki
Pi L1,L2,L3
3 , 2 , 1 , , i , i
i t t
t λ
,目的駅
の魅力
x1,x2,x3によって,
( )
( (
,3)
3 3
2 , 2
2
1 , 1
1
exp exp exp
i i
i
i i
i
i i
i
t P
cx I
t P
cx I
t P
cx I
λ λ λ
−
=
−
=
−
=
∑
∑
∑
)
と表される. は鉄道利用者数の総数を合わせるた めの係数である.
c
距離抵抗を表すパラメータ
λは,買い物,外食,
娯楽・観光を目的とした鉄道利用者のトリップ数と 移動時間の関係から指数関数 で近似 して以下のように定める[3].
( )
t( )
tP =exp−λ
<30
t
のとき
λ =0≥30
t
のとき
λ =0.027本モデルでは,鉄道利用者は最短経路を移動する と仮定する.そのため,各出発駅から駅 へ の最短経路上に駅 がどのように現れるか で出発駅を分類する必要がある.
3 2 1,L ,L L
3 2 1,L ,L L
例えば,駅 への経路上に駅 が存在する場合,
駅 に向かう鉄道利用者のうち割合
L1 L2
L1 α
が駅 で吸
収され,割合
L2
α
−
1
だけが駅 に到着すると考え,駅 に到着する人数 は以下のように表され
る.
L1 2
1,L
L I1,I2
( ) ( )
( ) (
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧ − + −
=
−
−
=
∑
∑ )
∑
1 , 1
2 , 2
2
1 , 1
1
exp exp
exp 1
i i
i i
i i
i i
i
t P x t P
x c I
t P
x c I
λ α
λ λ α
(2)
式(2)のように,途中に競合駅がある場合,競合 駅である割合だけ鉄道利用者が吸収される.この吸 収の大きさを比べることで,駅の競合関係を調べる.
4.3
池袋駅,新宿駅,渋谷駅を対象とした結果 池袋駅,新宿駅,渋谷駅を対象とすると,鉄道ネ ットワークおよび,3 駅の位置関係から出発駅のパ ターンを以下の
6パターンに絞ることができる.
A: どの駅も経由せずに池袋駅,新宿駅,渋谷駅
に到着する.
B: 池袋駅,新宿駅にはどの駅も経由せずに到着
し,渋谷駅には新宿駅を経由して到着する.
C: 新宿駅,渋谷駅にはどの駅も経由せずに到着
し,池袋駅には新宿駅を経由して到着する.
(1)
D: 新宿駅を経由してそれぞれ池袋駅,渋谷駅に
到着する.
E: 池袋駅,新宿駅を順に経由して渋谷駅に到着
する.
F: 渋谷駅,新宿駅を順に経由して池袋駅に到着
する.
表
2に各パターンにおける池袋駅,新宿駅,渋谷 駅の降車人数を示す.
表
2 池袋駅,新宿駅,渋谷駅の降車人数池袋駅(人) 新宿駅(人) 渋谷駅(人)
A 12 6 9
B 14 15 4
C 17 92 32
D 22 79 29
E 107 40 23
F 13 38 84
4/4 野津 誠
ここで,パターン
Cを例にしてモデル式を示す.
池袋駅に向かう鉄道利用者のうち割合
αが新宿駅で 吸収され,割合
1−αだけが池袋駅に到着する.渋谷 駅は影響を受けない.
( )
( )
( ) ( )
(
渋)
渋 渋
池 池
新 新
新
池 池
池
,
, ,
,
exp
exp exp
exp 1
i i
i
i i
i i
i i
i i
i
t P cx I
t P x t P x c I
t P x c I
λ
λ α
λ λ α
−
=
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧ − + −
=
−
−
=
∑
∑
∑
∑
図
3 パターンCにおける概念図
目的駅の魅力 は,全てのパターンにお け る 各 目 的 駅 の 合 計 の 降 車 人 数 を 用 い て ,
とする.
新 渋 池 x x x , ,
181 ,
270 ,
185 = =
= 新 渋
池 x x
x
表
2より,C において,
となる.モデル式(3)より割合
32 ,
92 ,
17 = =
= 新 渋
池 I I
I
α
を求めると,
59 .
=0
α
を得る.すなわち,池袋駅に向かう鉄道利 用者のうち約
6割が新宿駅で吸収され,残りの約
4割だけが池袋駅に到着する.
以下にパターン
D,E,Fにおける結果を示す.
図
4 パターンDの結果(α,βは吸収割合)
図
5パターン
Eの結果(α,βは吸収割合)
図
6 パターンFの結果(α,βは吸収割合)
渋谷駅に向かう鉄道利用者が新宿駅で吸収され る割合は,
Dでは
0.19,Eでは
0.07であり,池袋駅 に向かう鉄道利用者が新宿駅で吸収される割合は
Cでは
0.59,Fでは
0.51である.このことから,新宿 駅を経由して池袋駅,渋谷駅に到着する地域では,
渋谷駅は池袋駅よりも優位性が高いといえる.
新宿駅と渋谷駅の競合関係
F
の結果から池袋駅に向かう鉄道利用者を除外し て考え,新宿駅に向かい渋谷駅で吸収される割合を 求めると
0.47となる.渋谷駅に向かい新宿駅で吸収 される割合は,D では
0.19,Eでは
0.07である.す なわち,新宿駅に向かう鉄道利用者が渋谷駅で吸収 される割合は,渋谷駅に向かう鉄道利用者が新宿駅 で吸収される割合と比べて高い.この結果から,渋 谷駅は新宿駅に対して優位性があるといえる.
5
まとめ
本研究では,JR データを用いて,買い物,外食,
娯楽・観光を目的として鉄道を利用した行動につい て分析した.また,グラビティモデルを用いて,3 駅間の競合を表すモデルを構築し,池袋駅,新宿駅,
渋谷駅を対象に
3駅間の競合を調べた.その結果,
渋谷駅は他の
2駅に対して優位性があることがわか った.
参考文献
[1] 大山
達雄,最適化モデル分析,日科技連,東京,
1993.5.
[2]
神頭 広好,駅の空間経済分析
-3大都市圏の主要
鉄道を対象にして
-,古今書院,東京,2000.9.
[3] 田口
東,東京圏生活者の消費行動と電車ネットワ
ークによる移動,日本オペレーションズ・リサーチ学 会 第
53回シンポジウム論文集,pp.45-83,2005.
出 発
池 袋
新 宿
渋 谷 パターン
F33 .
=0 α
51 .
=0 β
(3)
出 発
池 袋
新 宿
渋 谷 パターン
E54 .
=0 α
07 .
=0 β
池 袋
新 宿
渋 谷 パターン
D41 .
=0 α
19 .
=0
出 発
β出 発
池 袋
新 宿
渋 谷
渋 ,
ti 新 ,
ti
池 ,
ti
x新
x渋
Pi
x池