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1927 年『京都市明細図』の GIS データベース 矢野桂司・赤石直美・瀬戸寿一・福島幸宏
GIS database of "Large-scale Maps of Kyoto City" in 1927
Keiji YANO, Naomi AKAISHI, Toshikazu SETO and Yukihiro FUKUSHIMA
Abstract: This paper introduces “Large-scale Maps of Kyoto City (Kyoto-shi meisai-zu)” and discusses some research topics using the maps in the context of Historical GIS. The Maps consist of 291 of paper maps, published in 1927 and revised till 1951. The scale of these maps is 1:1200, and the size of map is about 38 cm by 54 cm. Made for fire insurance purposes, these maps contain various kinds of building-related information necessary to prevent fire. For example, the information includes not only buildings’ lot numbers, but also the number of stories and usage of each building. These various kinds of information related to buildings was color-coded and continued to be added to the maps by hand. Such rich information of “Large-scale Maps of Kyoto City” can contribute greatly to the development of historical research of modern Kyoto.
Keywords: 火災保険図 (Fire insurance map),京都市明細図 (Large-scale Maps of Kyoto City),
近代京都 (Modern Kyoto ), 歴史GIS (Historical GIS)
1. はじめに
近年,過去の景観や景観変遷を主な研究対象と する歴史地理学においても,GIS を取り入れた歴 史GISが盛んになりつつある(Gregory and Healey, 2007; Knowles, 2008).また,伝統的な人文科学分 野である歴史学,文学,芸術学などへの情報技術 の導入を意図したデジタル・ヒューマニティーズ の主要な潮流の中にも GIS を用いた空間的視点の 重 要 性 が 指 摘 さ れ つ つ あ る ( 矢 野 ,2009; Bodenhamer et al.,2010).
このような動向を踏まえ,立命館大学では,ア
ート・リサーチセンターが中心となり,文部科学 省21 世紀COEプログラム(2002-06)とグローバ ルCOEプログラム(2007-11)の2つのCOEプロ グラムを展開してきた.その中でも特に,歴史都 市京都を対象とする歴史GISを実践する「バーチャ ル京都」プロジェクトが実施された(矢野ほか,
2007;矢野ほか,2011).
このプロジェクトの基本理念は,京都に関する あらゆる地理・空間情報を収集し,GIS 化するこ とにある.したがって,すでにデジタル化されて いる国や民間から入手可能な地理空間情報は,GIS で即座に利用できるように変換し,紙地図や統計 資料として存在するものについても,スキャナ等 でデジタル化した後,同様に GIS データに変換し た.さらに,京都の歴史的な建築物等に関しては,
矢野桂司 〒603-8577 京都市北区等持院北町 56-1 立命館大学文学部地理学教室
Phone: 075-465-1957
E-mail: [email protected]
― 2 ― 大規模なフィールド調査を京都市等の機関と共に 実施し,収集された情報を GIS で利用可能な形式 に変換した(京都市,2011).
本稿では,バーチャル京都プロジェクトの一環 として行われた,近代京都の大縮尺地図である『京 都市明細図』(京都府立総合資料館所蔵)のGIS化 の過程を紹介し,その活用可能性を検討する.
2. 近代の京都の大縮尺地図『京都市明細図』
2.1 バーチャル京都における近代の地図
近代京都の精確な景観を復原するためには,当 時の大縮尺な地図が不可欠である(小鍛冶,2006).
バーチャル京都では,主に現在の京都市のデジタ ルマップ(2500分1)をベースに,近代測量に基づ く旧版地形図や都市計画図をデジタル化し,それ らをGISで利用可能な形に整備してきた.
精度が高く大縮尺な地図として筆者らが着目し たのは,1919(大正8)年に測図され,1922(大正 11)年に刊行された 3000分1の『京都市都市計画 図』(京都大学所蔵)である.これまで,この都市 計画図が京都で最も古くかつ大縮尺とされていた ため,当時の京都市街の骨格を特定できる地図と して研究に活用されてきた(金田,2011).また,
建物や敷地を 1 つずつ識別できるスケールの地図 としては,大正元年に京都地籍図編纂所から発行
された1200~2000分1の『京都地籍図』(立命館大
学所蔵)がある.バーチャル京都プロジェクトにお いても,この『京都地籍図』をスキャニングして GIS 化し,明治後期における京都の景観復原や地 価分布を明らかにした(矢野ほか,2007).
『京都地籍図』は,土地所有を示す図と土地台帳 から構成されるもので,建物 1 つずつの形状を示 すものではない.また台帳には,1 筆ごとに,町 名・地番・等級・面積・地目・地価・所有者の住 所と氏名がそれぞれ記載されている.しかし,京
都市街の地目は「宅地」と「道」が多く,事業所の 区別などはなされていない.これ以外の大縮尺地 図は確認されておらず,京都市域全域を 1200 分 1 程度で表した地図は,昭和30 年代の住宅地図の出 現を待たなければならなかった.
2.2 1927 年『京都市明細図』の発見
京都府都市計画課から京都府立総合資料館に 1980 年代に持ち込まれ,数箱に収められた紙地図 の存在が2010年秋に明らかになった.この地図は,
1927(昭和2)年に大日本聯合火災保険協会によっ
て作製された『京都市明細図』と称され,表紙の記 述から,牛垣(2005)の指摘する火災保険地図(火 災保険特殊地図・火保図)の一種と考えられる.当 図は戦後(1951 年頃)までの間に,原図上に訂正 や加筆が行なわれていることも特徴である.
1927 年『京都市明細図』の作製範囲は,合併の
あった1918(大正7)年以降の京都市域のうち,市
街化された地域が中心となっている(図-1).当図 は索引図5枚,図面289枚(そのうち3枚は所在不 明)の計294枚で構成される.1枚のサイズは,約
A2版(約38 cm×54 cm)である。昭和2年時点の
地図は,黒1色で,町名・地番などが記載されてい る.その後,図の修正や書き込みが行われ,「事業 所」,「住宅」,「社寺」,「工場」,「官公庁」,「堅牢建 築物」などの色分けや建物階数などが書き込まれ,
「事業所」は,業種や店名も明記された.なお,154 枚の図幅には,大規模な土地利用の変更に伴い上に 紙が貼附され,その上に書き込みがなされている.
2.2 『京都市明細図』の GIS 化
立命館大学アート・リサーチセンターでは,京都 府立総合資料館と連携して,『京都市明細図』のデ ジタル化とGIS化を実施した.まずA2版のフラッ トベッドスキャナを用いて,カラーチャートとスケ
― 3 ― ールバーとともに,TIFF形式でデジタル化した(解
像度は500dpiで,1枚あたりのファイルサイズは約
300MB).これらのデジタル画像は,2011年7月末
から,京都府総合資料館の Web サイト「京の記憶 ラ イ ブ ラ リ 」 に お い て 公 開 さ れ て い る
(http://kyoto-shiryokan.jp/kyoto-memory/index.php).
図- 1 『京都市明細図』の全域図
次に,デジタル画像をGIS上で扱うために,現在 の京都市デジタルマップをベースに,ArcGIS のレ クティファイ機能を用いてジオレファレンスを行 った.また,余白をクリップ機能で除き,全域を一 覧できるように加工し,GIS上で他のさまざまな地 図との重ね合わせが可能となった(図-1).
本プロジェクトでは,図に掲載されている当時の 建物を 1 棟毎にベクタ化する作業を現在行ってお り,将来的には建物用途・階数・業種などの属性に ついても入力される予定である.
3. 『京都市明細図』と他の地図との重ね合わせ 3.1 建物疎開
『京都市明細図』を現在の地図と合わせることに より,戦後から現在までの市街の変容の様子を見 ることができる.特に,京都市内の幹線道路であ る御池通,堀川通,五条通などは,戦時中に空襲 時の延焼を防ぐために強制的に建物を立ち退かせ た建物疎開のために拡幅されたものである.しか し,拡幅前の状態を示す記録は,必ずしも系統的 に把握されているわけではない.そこで『京都市明 細図』を現在の地図と重ねると,拡幅前の町並みの 様子を容易に視覚化することができる(図-2).
図- 2 河原町御池西南部付近のオーバーレイ
3.2 商業地や事業所の変容
これまで,昭和初期の京都の都心部における商店 や事業所の状態は,部分的には明らかにされてきた が,京都市域全体での詳細な状態は明らかにされて いない.しかし『京都市明細図』には,事業所の事 業内容や店名の記入がある.
商業に関しては,当時の主要な商店街であった 寺町,新京極,錦,三条,四条,河原町などの業 種が明らかにされる。事業所に関しても,烏丸通の 銀行や,室町通・新町通の織物関連の織や染の工 場,問屋など,近代京都の都市的土地利用を多様 なスケールで集計し,検討することができる.
― 4 ― 3.3 『京都市明細図』の貼附部分
前述のように『京都市明細図』は1927年のもの に,戦後までに書き込みがされているが,その間に 大規模に市街化された地域では,上から新たに紙を 貼附し書き込みが行われている.しかし,図の下に 何が描かれていたのか,紙を剥がさなければわから ない.そこで,原資料を傷つけずに情報を得るため に,2011年8月に当該図幅の赤外線撮影を行った.
紙が貼附された地図は154枚で,昭和初期から戦 後にかけて,市街地が急速にすすめられた地域を中 心に昭和2年の様子を明らかにできた.例えば,京 都駅南部や下鴨地域では,宅地開発と共に流路を変 えられた河川が浮き彫りとなり,都市計画図等では 描かれていない細密な街区割も確認された.
4. おわりに
本稿では,2010 年秋に京都府立総合資料館で発 見された1927年『京都市明細図』のGIS化と,そ の活用に向けて,土地利用研究の可能性を中心に概 観した.本地図は,昭和初期の京都の景観を復原す るための基本的な資料になることが期待される.
現時点では,本地図の作製や,戦後までの書き込 み経緯などが明確にされていない.また,図幅ごと の書き込みの時期や精度についての調査も必要で ある.さらに,昭和初期当時に大縮尺地図の作製に 際し,だれがどのように測量し,描画したかなど,
作製過程を明らかにすることについても,近代期に おける火災保険図や大縮尺地図を用いた都市図研 究として意義深いものになるであろう.
謝辞
本稿は,文部科学省グローバル COE プログラム「日本文化 デジタル・ヒューマニティーズ拠点」(立命館大学:2007~
2011 年度:赤間亮),平成 22 年度日本学術振興会科学研究 費補助金(基盤研究 B)「GIS を活用した歴史都市京都の『デ ジ タ ル 地 誌学 』」( 研 究代 表 者 : 矢 野 桂司 ; 課 題 番 号 : 21320161)の研究成果の一部である.
また,赤外線カメラによる撮影を実施していただいた,
日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 の土田勝氏に記して感謝する.
参考文献
牛垣雄矢(2005):昭和期における大縮尺地図としての火災 保険特殊地図の特色とその利用,歴史地理学,226,1-16.
京都市(2011):「平成 20・21 年度『京町家まちづくり調査』」
http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000089608.h tml
金田章裕(2011):「歴史地理学と GIS」,矢野桂司・中谷友樹・
河角龍典・田中覚編『京都の歴史 GIS」,ナカニシヤ出版,
1-19.
小鍛冶恵・布施孝志・清水英範・内田弦(2006):都市史研究 への火災保険特殊地図の応用可能性―戦前・戦後の東京の 街並調査に向けて,日本写真測量学会学術講演会発表論文 集,47-50.
矢野桂司・中谷友樹・磯田弦編(2007):「バーチャル京都―
過去・現在・未来への旅」,ナカニシヤ出版.
矢野桂司(2009):「地理情報システムとデジタル・ヒューマ ニティーズ-革命か発展か-」,川嶋將生・赤間亮・矢野桂 司・八村広三郎・稲葉光行編『日本文化デジタル・ヒューマ ニティーズの現在』,ナカニシヤ出版,51-64.
矢野桂司・中谷友樹・河角龍典・田中覚編(2011):『京都の歴 史 GIS』,ナカニシヤ出版.
Bodenhamer, D.J., Corrigan, J. and Harris, T.M. 2010. The spatial humanities: GIS and the future of humanities scholarship. Bloomington IN: Indiana University Press.
Gregory, I. N. and Healey, R. G. 2007. Historical GIS:
structuring, mapping and analyzing geographies of the past. Progress in Human Geography, 31, 638-653.
Knowles, A.K. 2008. Placing history: How GIS is changing historical scholarship. Redlands CA: ESRI Press.