全文

(1)

六方晶窒化ホウ素のエピタキシャル成長と その紫外発光特性

小林康之・蔡 俊瓏・赤坂哲也

日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 〠243-0198 神奈川県厚木市森の里若宮3-1

(2009年7月14日受理)

Epitaxial Growth of Hexagonal Boron Nitride and the Ultraviolet Luminescence Properties Yasuyuki K

OBAYASHI

, Chiun-Lung T

SAI

and Tetsuya A

KASAKA

NTT Basic Research Laboratories, NTT Corporation 3-1 Morinosato Wakamiya, Atsugi, Kanagawa 243-0198

(Received July 14, 2009)

Hexagonal BN (h-BN) is graphite-like sp2-bonded crystal phase, which is the most stable among crystalline BN phases, and has a potential for optical device applications in the deep ultraviolet spectral region. Crystalline phase of BN film grown on a foreign substrate is turbostratic BN (t-BN) or mixed phase with t-BN, h-BN and cubic BN due to the large lattice mismatch and its various crystalline BN phases. Therefore, control of the crystalline phase in the BN film is challenging for single-phase BN growth. Here, we demonstrate that single-phase h-BN epitaxial films can be grown on nearly lattice-matched substrates by optimizing growth conditions during metalorganic vapor phase epitaxy and molecular beam epitaxy (MBE). We also investigate the ultraviolet luminescence properties of near band-gap emission in the h-BN epitaxial films grown by MBE.

KEYWORDS : hexagonal BN, MOVPE, MBE, epitaxial growth, ultraviolet luminescence

1.は じ め に

窒化ホウ素は,天然には存在しない化合物であり,

1842年にW.H. Balmainにより1),初めて合成された。

窒化ホウ素(BN)の結晶構造としては,常圧安定相で ある六方晶系グラファイト構造の六方晶窒化ホウ素(h- BN),高圧安定相である立方晶系閃亜鉛鉱型の立方晶窒 化ホウ素(c-BN)と六方晶系ウルツ鉱型構造で準安定 相であるウルツ鉱窒化ホウ素(w-BN)がある。Fig.1 に,h-BN,c-BN,w-BNの結晶構造,空間群,および その格子定数を示す。立方晶BNは,1957年にR.H.

Wentorfにより,ホウ素と窒素から高温高圧合成によ

り,初めて報告されている2)。ウルツ鉱BNは,1963年 にF.P. Bundyらにより,h-BN結晶に高圧を加えること

によって得られることが報告されている3)

Fig. 1に示す結晶構造の中で,h-BNは,近年高温合

成法により単結晶h-BNバルク結晶が得られており,そ の結晶は波長215 nmの強い発光を示し4),遠紫外領域 の発光デバイス用半導体材料として可能性がある。ま た,第一原理計算から,h-BNは大きな励起子結合エネ ルギーを有することが予想されており5),励起子物性の 観点からも興味深い。しかしながら,そのバンド構造,

遠紫外領域の発光特性,伝導性等の基礎物性は,まだ十 分解明されておらず,将来のデバイス応用の観点から も,その単結晶h-BNエピタキシャル成長技術を確立 し,その基礎物性を解明することが求められている。

窒化ホウ素には,上記h-BN,c-BN,w-BNの3つの 単結晶構造以外に,c軸方向の積層構造の乱れた乱層窒 化ホウ素(t-BN)とアモルファス窒化ホウ素(a-BN)

構造がある。現在までのところ,単結晶h-BN基板の結

(2)

晶成長は困難であり,そのためSi,サファイア,SiC 等,窒化物半導体基板として用いられた基板が,BN成 長の基板として報告されている。しかし,上記基板上の BN成長においては,大きな格子不整合が存在するこ と,また単結晶h-BN成長のためには超高温成長(例え ば,1500℃以上)が必要であると予想されていることか ら,t-BNあるいは,a-BN結晶構造が成長しやすく,そ のヘテロ成長における結晶構造制御は非常に困難であっ た。

我々 は,ト リ エ チ ル ボ ロ ン(TEB)と ア ン モ ニ ア

(NH3)を原料とする有機金属気相成長(MOVPE)と,

電子銃とプラズマセルを有するMBEを用いることによ り,格子整合する基板,そして基板表面処理や成長条件 を最適化することにより,BN結晶構造の成長制御を可 能にし,h-BNエピタキシャル成長が再現性良く成長す ることを示す。本研究紹介では,h-BN成長初期の成長 制御と表面構造,構造評価とその紫外発光特性について 報告する。

2.実

h-BNエピタキシャル成長は,MOVPEおよびプラズ

マ支援MBEにより行った。MOVPEにおいて,ホウ素 原料はトリエチルボロン,窒素原料はアンモニアを用 い,水素キャリアガスにより,成長表面に供給した。

BN成長速度は,HeCdレーザーを約70° で成長表面に 照射し,その反射強度を成長中にモニターすることによ り,求めた6)。MBE成長においては,活性窒素は窒素 ガスを窒素純化器により高純度化後,流量0.7 sccmで RFプラズマソース出力300 Wで供給し,ホウ素は固体 ホウ素を電子銃により加熱し供給した。Bの蒸着レート は,膜厚計(Inficon XTC/2)によりその蒸着レートを モニターした。基板は,単結晶(0001)6H-SiC基板と単 結晶(111)Ni基板を用い,MOVPEおよびMBE成長温 度は,それぞれ1020℃と900℃である。

MBE成長中のh-BNエピタキシャル成長過程は,反 射高速電子線回折(RHEED)によりその場観察した。

BN成長の結晶構造は,フィリップスX’PERT X線回折 装置(Cu Ka1=1.5406 Å)と,波長532 nmのレーザー を用いたラマン散乱により評価し,その表面平坦性は,

原子間力顕微鏡(AFM)により評価した。また,断面 電子顕微鏡観察(TEM)によりヘテロ界面におけるBN の結晶構造を観察した。紫外領域の発光特性は,室温か ら10 Kまで温度を変えてArFエキシマレーザー(波長 193 nm)を用いたフォトルミネッセンス測定により,

評価した。

3.結

3.1 (0001)6H-SiC基板上のt-BN成長

Fig.2は,MOVPE法による6H-SiC基板上BN成長速 度のNH3流量依存性である。反応管圧力は,300 Torr である。窒化物半導体のMOVPE成長においては,有機 金属原料とNH3が気相中で反応し,adductを形成する ことが知られている。窒化物半導体のInN,GaN,AlN 成長においては,InN,GaNと比較して,AlN成長時に Fig.1. Structures of BN phases. (a) hexagonal BN (h-BN),

(b) cubic BN (c-BN), (c) wurtzite BN (w-BN).

Fig.2. Growth rate of BN films grown by MOVPE and FME as a function of NH3flow rate.

(3)

気相中での反応が生じやすく,そのため,成長速度の低

下やAlGaN成長におけるAl取り込み効率の低下が生じ

る。Fig. 2に示すように,MOVPE BN成長速度は,NH3 流量の増大とともに急激に低下し,300 sccm以上では その成長速度は極めて小さくなる。このNH3流量の増 大に伴うBN成長速度の減少は,TEBとNH3が気相中 で反応し,adductsを形成するためと考えられる。この 形成されたadductsは安定であり,TEBやNH3の分解温 度より高い分解温度を必要とするため,成長速度の低下 が生じる。MOVPE成長における有機金属とNH3間の 気相反応により生じたadductsの安定性はⅢ族原子とⅤ 族原子の間のボンドの長さに比例し,ボンド長が短けれ ば短いほど安定なadductsが生じる。Harrisonらによる 理論計算から,BNのボンド長は,他の窒化物半導体,

AlN,GaN,InNの中でも最も短いと計算されており7)

そのためB-N結合は極めて強く安定なadductsを形成す るため,分解が生じず成長速度が低下すると考えられ る。この気相中での原料間の反応を抑制するために,

MOVPE成長におけるガスシーケンスを変調した流量変

調エピタキシー(FME)を用いた。Fig. 2に,MOVPE とFMEのガスシーケンスを示す。MOVPEでは,原料 を同時に供給するため基板直上で原料が混じり気相反応 が生じるが,FMEでは原料をパルスで交互に供給する ため,原理的には気相反応が生じない。FMEにおいて,

TEBとNH3は,1秒ごとにパージ時間を挿入せず交互 に成長表面に供給した。その成長速度は,NH3流量の 増大とともに少しずつ低下するが,NH3流量が700 sccmにおいても,300 nm/hの実用的な成長速度が得ら れている。FMEでは原理的には気相反応が生じないこ とが期待されるが,その成長速度はNH3流量の増大と ともに少しずつ低下している。これは,例えばNH3の 供給をリアクタからパージラインへ切り替えた際に遷移 時間が存在するため,パージ時間がない場合には,その 遷移時間においてリアクタ内で原料間のミキシングが生 じることによるものである。このミキシングの大きさ は,NH3流量に依存すると考えられるため,成長速度 がNH3流量の増大と共に減少する。

FMEを用いて,(0001)6H-SiC基板上BN成長を行っ た。Fig.3(a)は,BN薄膜の2q/w XRD,(b)は,そ のヘテロ界面の断面TEM像である。Fig. 3(a)には,

同時にFig. 1で示したh-BN,c-BN,およびw-BNの回 折 角 2q が,点 線 で 示 さ れ て い る。6H-SiC 基 板

(a6H-SiC=3.09 Å)とh-BNの格子不整合は,19% である。

Fig. 3(a)に示すように,h-BN,c-BN,およびw-BN からの回折は観測されず,2q=25.0° にブロードな回折 が観測され,得られたc軸長は,7.0 Åである。これは,

h-BNのc軸格子定数(c=6.66 Å)より大きい。H-BN

は,c軸方向にB-N-B-N…の積層構造を有し,そのc軸

方向の面間隔は,3.33 Åとなるが,乱層BN構造は,そ のh-BN構造のBNシートがランダムに回転するため,

BN面の間の距離が広がり,c軸長が大きくなる8)。しか しながら,完全にランダムなアモルファス構造にはなっ ておらず,弱くc軸配向しているため,Fig. 3(a)に示 す回折が観測される。Fig. 3(b)に示すように,BN薄 膜は,直径数nmのグレインサイズのsp2結合を有する ナノファイバー構造から構成され,それぞれのグレイン はランダムな方向を向いている。6H-SiC/BNヘテロ界 面の制限電子回折パターンは,リングパターンであり,

c軸方向の回折強度が強くなっていることから,この BN薄膜は,c軸方向に弱く配向している乱層BN構造 であることがわかった9)。乱層BNは,6H-SiC/BNのヘ テロ界面初期過程から生じており,h-BNに格子整合す る基板,もしくは,6H-SiC基板表面構造の制御が必要 であることを示している。

我々は,6H-SiC基板上にh-BNを成長するために,

エピタキシャルグラフェン層を用いることを提案してい る。6H-SiC基板を超高真空中でアニールすることによ り,基板表面からSi原子が選択的に脱離し,6H-SiC基 板表面に数原子層のグラフェン層が形成する。このエピ Fig.3. (a) 2q/wX-ray diffraction pattern of BN film grown by FME, (b) Cross-sectional HRTEM image of the BN film.

(4)

タキシャルグラフェン層の層数は,超高真空中のアニー ル温度により制御可能である。エピタキシャルグラフェ ン層形成後の低速電子線回折より,表面a軸方向の格子 定数は,グラファイトのa軸格子定数(a=2.45 Å)で あり,エピタキシャルグラフェン層とh-BNの格子不整 合は,1.9% となる。そのグラファイト化した6H-SiC基

板上にMOVPE成長を行うことにより,BN構造制御が

可能であることを示している10)

3.2 FME法によるNi(111)基板上のh-BNエピタキ シャル成長

Niは,面心立方構造(a=3.52 Å)を有し,その融点 は1450℃である。Ni(111)表面の格子間隔は,2.49 Åで あり,h-BNとの面内の格子不整合は0.4% と極めて小 さい。また,(001)Ni基板の格子定数(a=3.52 Å)は,

Fig. 1に示すc-BNの格子定数(a=3.61 Å)と近く,そ の格子不整合は2.5% であり,(001)Ni基板はc-BN成長 用基板としても可能性がある。現在までに,多結晶Ni 基板上に,高周波プラズマCVD法により,他結晶c- BNが成長することが報告されている11)。3.1で述べた ように,h-BNエピタキシャル成長のために,格子整合 す る 基 板 は 重 要 で あ り,FME法 に よ り,単 結 晶Ni (111)基板上にBN 成長を行った12)。Ni(111)基板を

1020℃,水素キャリアガス中で10分間サーマルクリー

ニングを行い,その後FMEによりBN(膜厚1 µm)を 成長した。TEBとNH3の供給時間は,それぞれ1秒と

3秒である。Fig.4(a)は,その2q/wX線回折であり,

Ni(111)基板からの回折(2q=44.5°)以外に,二つの明 瞭なh-BN(0002)とh-BN(0004)の回折が2q=26.7° と 2q=55.1° に観測される。得られたh-BNのc軸格子定 数は,6.66 Åであり,バルクh-BNの格子定数に一致し ている。Fig. 4(a)に点線で示したc-BNおよびw-BN 対応する回折は,得られておらず,単結晶(0001)h-BN エピタキシャル薄膜が成長したことを示している。Fig.

4(b)は,そのNi(111)基板上にFME成長させたh-

BNのラマンスペクトルである。H-BNの振動モードは,

2E2g+2B1g+2A2u+E1uであり,その内,二つのE2gモー ドは,ラマン活性,A2uとE1uは,赤外活性,E1uモード は,不活性であり,二つのE2gモードは,1366 cm−1と 52 cm−1に現れる13)。一方,c-BNにおいては,TOモー ドとLOモードが各1本ずつ,TO=1056 cm−1,LO=

1304 cm−1に観測されている14)。W-BNのラマンモード は,その結晶成長が困難であるため,十分解明されてい ない。Fig. 4(b)に示すように,h-BNのラマン活性Eg2

モードが,1366 cm−1に明瞭に観測される。ラマン活性 Eg2モードの低波数モードは,その波数がレイリー散乱 に近いため観測することができなかった。C-BNの期待 されるTOモード,LOモード(Fig. 4(b)に点線で示 す)は,観測されない。このラマンスペクトルからも,

Ni(111)基板上に単結晶h-BNエピタキシャル薄膜が成

長し,c-BN相は混在しないことがわかり,この結果は,

Fig. 4(a)で示したX線回折と一致する。

Fig.5は,h-BNエピタキシャル成長薄膜とNi(111)基 板界面付近の断面TEM像である。H-BNエピタキシャ ル薄膜内においては,Ni(111)表面に平行にsp2結合の h-BNの層構造が,明瞭に観察され,そのc軸方向の格

子間隔は6.66 Åであり,X線回折から得られた格子定

数と一致する。ヘテロ界面においては,アモルファス

BN,乱層BN構造は観察されず,急峻かつ平坦なヘテ

ロ界面が形成されていることがわかった。また,ヘテロ

Fig.4. (a) 2q/wX-ray diffraction pattern of h-BN epitaxial film grown by FME on Ni(111) substrate, (b) Raman

spectrum of the h-BN epitaxial film. Fig.5. Cross-sectional TEM image of the h-BN epitaxial film/Ni(111) interface.

(5)

界面における制限視野電子回折パターンから得られた面 内 エ ピ タ キ シ ャ ル 関 係 は,[112¯0]h-BN+[1¯10]Ni

[11¯00]h-BN+[1¯1¯2]Niであった。

3.3 MBE法によるh-BNエピタキシャル成長と紫外 発光特性

MBEは,3.1で述べたようにBN成長における気相反 応が原理的に生じないため,格子整合する基板と成長条 件の最適化により,BN成長制御が可能であると考えら れる。我々は,単結晶h-BNエピタキシャル成長制御を 行う目的で,Ni(111)基板上にMBEにより,BN成長を 行った15)。Fig.6(a)および(b)は,MBEチャンバー でサーマルクリーニングを行う前のNi(111)基板の

RHEEDパターンである。(1×1)ストリークパターン

が観察されるが,Ni(111)基板上に形成された自然酸化 膜のため,そのパターンはぼやけている。900℃で1時 間サーマルクリーニングを行った後のRHEED(Fig. 6

(c),(d))は,明瞭な(1×1)ストリークパターンが観 察され,その表面が原子レベルで平坦なことと表面自然 酸化膜がこのサーマルクリーニングにより効果的に除去 されていることが示唆される。このサーマルクリーニン グ後,BN成長を開始し,膜厚100 nmのh-BN成長後の

RHEEDパターンを,Fig. 6(e)および(f)に示す。

BN成長開始からBN成長後まで,(1×1)ストリーク パターンが連続的に観察された。これは,基板温度

890℃において,単結晶BNが成長したことと,その表

面 は 原 子 レ ベ ル で 平 坦 な こ と を 示 し て い る。上 記

RHEEDパターンから求められた面内格子間隔は,2.50

Åであり,これはh-BNの格子定数に一致している。ま た,RHEEDパターンから得られた面内エピタキシャル 関係は,[112¯0]h-BN+[1¯10]Niと[11¯00]h-BN+[1¯1¯2]Niであ った。求められた面内エピタキシャル関係は,Gamou ら に よ り LEED に よ り 求 め ら れ た 配 向 関 係16)

Muntwilerらにより光電子分光により求められた配向関

17)と一致している。理論計算からは,h-BNの窒素原 子が,最表面Ni原子上に位置し,h-BNのホウ素原子が fccもしくはhcpに位置することが予想されている。こ のホウ素原子配置の違いは,二つの異なる方位を有する 三角形のアイランドを,成長初期過程において形成し,

そのアイランドがコアレッセンスする部分で欠陥が生じ ていると考えられる。h-BN成長中は,(1×1)ストリー クパターンが観察され表面再構成パターンは観測されな かった。これは,Fig. 1に示すように,h-BNは面内は sp2結合で強く結合されているが,面間はファンデアワ ールス力により弱く結合されていることによるものであ る。

膜厚100 nmのh-BNエピタキシャル成長層の2q/w X 線回折は,Ni(111)回折以外に,h-BNの(0002)および (0004)からの回折が明瞭に観察され,h-BN(0001)が,

Ni(111)基板上にエピタキシャル成長していることがわ かった。また,10×10および2×2 µm2の領域のAFM 観察から,得られたRMSラフネスは,9.5,および2.7 Åであった。これから,MBE成長h-BNエピタキシャ ル成長層表面は,RHEEDパターンが示すように,原子 レベルで平坦である。

BNの発光特性は,1956年にS. Larachらにより最初 に報告されているが18),その成長制御が困難であるた め,十分解明されていない。我々は,h-BNの紫外領域 の発光特性を解明する目的で,フォトルミネッセンスの 温度依存性と励起密度依存の評価を行った。Fig.7(a)

は,MBEにより成長制御された単結晶h-BNエピタキ シャル薄膜からのエキシマレーザーを光源に用いた室温 のフォトルミネッセンス発光スペクトルである。h-BN のバンド構造は,第一原理計算によりバンドギャップは 6.0 eVであり,間接遷移と予想されている5)。h-BNエ ピタキシャル薄膜は,室温において主に二つの発光を示 している。観測された発光の一つは,5.39 eV付近のバ ンド端近傍(Near-Band-Gap)の発光であり,もう一つ は,3.54 eV付近のブロードな発光である。3.41 eVピー クは,炭素等不純物関連発光と考えられる。NBG発光

に対する3.41 eV付近の発光ピーク強度の比は,h-BN

成長速度,つまりB供給量に大きく依存し,X線ロッ キングカーブ半値幅が最も小さくなる成長速度におい て,最も大きくなることがわかった。これはh-BNエピ Fig.6. The RHEED patterns taken with the electron beam

directed along the [1¯10] and [1¯1¯2] orientation of the Ni(111) substrate.

(6)

タキシャル薄膜中のホウ素,窒素空孔や欠陥密度と炭素 等の不純物濃度がMBE成長条件により変化し,欠陥密 度あるいは不純物濃度が減少することによりNBG発光

に対する3.41 eV付近の発光ピーク強度の比が大きくな

ったと考えられる。H-BNバルク結晶において,5.7 eV 付近に励起子と考えられる発光が観測されているが4), その発光は観測されていない。

Fig. 7(b)に,10 Kから300 KまでのNBGのPLス ペクトルを示す。5.39 eVのバンド端近傍の発光は,低 温において二つの発光に分離し,5.52 eVの発光と5.38 eVの発光に分離できることがわかった。10 Kにおける ピークフィッティングから,バンド端近傍の発光は,

5.52 eV,5.38 eV,および5.21 eVに分離できることがわ かった。5.21 eVの発光は,バンド端近傍の発光のショ ルダーに現れており,5.38 eVの発光と170 meV離れて おり,このエネルギーはh-BNのLO振動エネルギーに 近いため,5.21 eVの発光は5.38 eVの発光のLOフォノ ンレプリカと考えられる。5.52 eVの発光のフォノンレ プリカも存在すると考えられるが,NBG発光がブロー

ドな発光を示しており,明確に分離することができてい ない。5.52 eVの発光と5.38 eVの発光の発光エネルギ ーは,75 K以上において,明瞭なブルーシフトを示た ことから,電子格子相互作用による二つの局在準位の間 の遷移と考えられる。

10 Kにおけるフォトルミネッセンスの励起密度依存

性をFig.8に示す。NDフィルター等を用いることによ

り,励起密度を変化させ,I0=0.1 MW/cm2/pulseであ る。ドナーアクセプタペア(DAP)遷移の発光エネルギ ーは,hn=Eg−ED−EA+q2/eRで与えられる。ここで,

Egは,バンドギャップエネルギー,EDとEAは,ドナ ーとアクセプタのイオン化エネルギー,eは誘電率,q は電子の電荷,Rはドナーアクセプタ対の間隔である。

最後の項は,イオン化したドナーアクセプタ間のクーロ ン相互作用によるエネルギーである。DAP発光におい ては,励起密度を増加させると,高エネルギー側へスペ クトルがシフトする。これは,距離Rの大きいペアは 遷移確率が小さく励起密度を上げても遷移頻度は増えず 飽和するのに対して,Rの小さいペアは,電子,正孔濃 度の増加と共に遷移頻度を上げる。そのため,励起密度 を上げるとブルーシフトを示す。Fig. 8に示すように,

5.52 eVと5.38 eVの発光は,励起密度を増加するに従 い,単調にブルーシフトする。それぞれの発光に対する フィッティングから,5.38 eV発光の方が,5.52 eV発光 よりも大きなシフトを示しており,5.38 eV発光は空間 的に近いペアからの発光と考えられる。以上の結果か ら,バンド端近傍の5.38 eVおよび5.52 eVの発光は,

ドナーアクセプタペア発光である。このNBG発光の起 源は,まだ十分解明されておらず,不純物濃度,結晶欠 陥等と発光特性の関係を解明することにより,今後詳細 に明らかにすることが必要である。

(a)

(b)

Fig.7. (a) Room temperature photoluminescence spectrum of h-BN epitaxial film grown by MBE, (b) Temperature-dependent near band gap PL spectra of the h-BN epitaxial film.

Fig.8. Peak shifts for the 5.52- and 5.38 eV emissions with the excitation density.

(7)

4.ま

六方晶窒化ホウ素(h-BN)は,遠紫外領域の半導体 材料として可能性を有している。しかし,BNには,h- BN以外に,c-BN,w-BNの二つの結晶構造がある。単 結晶基盤の結晶成長が困難であるため,その異種基板状 のヘテロ成長においては,多結晶構造であるt-BNとア モルファス構造であるa-BN構造が成長しやすく,その 結晶構造制御は困難であった。我々は,h-BNとほぼ面 内で格子整合するNi(111)基板とFMEとMBEを用い ることにより,h-BNエピタキシャル成長を再現性よく 実現した。RHEED,X線回折,ラマン散乱,および TEM観察から,単結晶(0001)h-BNエピタキシャル薄 膜が成長していることを示した。エキシマレーザーを光 源に用いたPL測定から,5.39 eVのバンド端近傍の発 光を観測し,バンド端近傍の5.38 eVと5.52 eVの発光 は,DAP発光であることを示した。h-BNのバンド構 造,発光特性は,まだ十分解明されていないが,本報告 におけるh-BNエピタキシャル成長の高品質化を進める ことにより,その基礎物性の解明が今後進展すると期待 される。

本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金

(基盤A18206004)の援助を受けて行われた。研究内容

に関して,議論していただいているNTT物性科学基礎 研究所嘉数誠リーダ,鳥光慶一部長に深く感謝いたしま す。

1) W.H. Balmain : J. Prakt. Chem.27, 422 (1842).

2) R.H. Wentorf, Jr. : J. Chem. Phys.26, 956(1957).

3) F. P. Bundy and R. H. Wentorf, Jr. : J. Chem. Phys.38, 1144 (1963).

4) Y. Kubota, K. Watanabe, O. Tsuda and T. Taniguchi : Science317, 932 (2007).

5) B. Arnaud, S. Lebegue, P. Rabiller and A. Alounai : Phys.

Rev. Lett.96, 026402 (2006).

6) Y. Kobayashi, T. Akasaka and N. Kobayashi : J. Cryst.

Growth195, 187 (1998).

7) W. A. Harrison :“Electronic Structure and the Properties of Solid”(Dover, New York, 1998).

8) J. Thomas, Jr., N. E. Weston and T. E. Oconnor : J. Am.

Chem. Soc.84, 4619 (1963).

9) Y. Kobayashi and T. Makimoto : Jpn. J. Appl. Phys.45, 3519 (2006).

10) Y. Kobayashi, H. Hibino, T. Nakamura, T. Akasaka, T.

Makimoto and N. Matsumoto : Jpn. J. Appl. Phys. 46, 2554 (2007).

11) F. Zhang, Y. Guo, Z. Song and G. Chen : Appl. Phys.

Lett.65, 971 (1994).

12) Y. Kobayashi, T. Nakamura, T. Akasaka, T. Makimoto and N. Matsumoto : J. Cryst. Growth298, 325 (2007).

13) R. Geick and C. H. Perry : Phys. Rev.146, 543 (1966).

14) O. Brafman, G. Lengyel, S. S. Mitra, P. J. Gielisse, J. N.

Plendl and L. C. Mansur : Solid State Comm. 6, 523 (1968).

15) C. L. Tsai, Y. Kobayashi, T. Akasaka and M. Kasu : J.

Cryst. Growth311, 3054 (2009).

16) Y. Gamou, M. Terai, A. Nagashima and C. Oshima : Rep.

RITUA44, 211 (1997).

17) M. Muntwiler, W. Auwarter, F. Baumberger, M. Hoesch, T. Gerber and J. Osterwalder : Surf. Sci.472, 125 (2001).

18) S. Larach and R. E. Shrader : Phys. Rev.104, 68 (1956).

Updating...

参照

Updating...

関連した話題 :

Scan and read on 1LIB APP