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濃縮操作の定容に用いる目盛り付きガラス製器具(「濃縮管」)の不確かさと測定精度への影響

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(1)

環境化学 Vol.25, No.2(2015) 

1.はじめに

 水質試験等の定量分析では,「試料採取」から「機器分析」の各 操作段階で,ばらつきが生じる。そのため,分析では測定精度に対 する信頼性の確保が求められている。そうした中,1993年,ISO等 の国際機関からGUM(計測における不確かさの表現のガイド)の 中で「不確かさ」という新しい概念が提唱された1, 2, 10)。「不確かさ」

とは標準偏差や平均値から算出される値で,「測定結果に付随した 合理的に測定量に結び付けられる値のばらつきを示すパラメータ」

と定義1, 2)されている。その後,この手法を用いることで「測定の

不確かさ」は最良推定値の信頼の程度として定量化2, 10)できるよう になった。最近では,分析分野でも測定の不確かさを評価すること が求められ始め,水道水質関係では報告3)がなされている。

 ところで,測定精度の信頼性確保を目指しては,工場排水試験法 では化学分析方法通則4)で規格を提示し,水道水質試験法では標準 作業手順書の作成,妥当性評価の実施で精度管理が求められている。

しかし,濃縮管に関しては規格5)による精度上の規定がないために,

精度管理は製造者に委ねられ,規格外の器具を使用することにより 生じる調整誤差には何ら対処されてない状況にある。

 一方,外因性内分泌かく乱化学物質調査暫定マニュアル6)のベン ゾ(a)ピレン(B(a)P)分析法が指定する定容量(0.3 mL)のように,

環境分析や水道法の公定法が指定する定容量(Table1 )は,ほと んどが測定感度を確保するために少容量に設定されている。しかし,

小和田7)らは,メスフラスコなどを用いた少容量定容では個人の器 具の使用方法だけで差が生じ,許容誤差の範囲を超える場合もある など,精度上の問題が生じ易い点を指摘している。従って,少容量 定容する濃縮管においても同様の精度上の問題が付随する可能性が 考えられる。

 今回,少容量定容に注目し,濃縮管の精度について検証した。さ らに,0.3 mL定容を指定するB(a)P定量分析をモデルにして,不 確かさによる評価法で,試料分取から機器分析までの不確かさを見 積もり,濃縮管の不確かさが測定精度に及ぼす影響について検証し たので報告する。

研究ノート

[環境化学(Journal of Environmental Chemistry)Vol.25, No.2, pp.101 - 107, 2015]

濃縮操作の定容に用いる目盛り付きガラス製器具

(「濃縮管」)の不確かさと測定精度への影響

松田 史郎,伊原  裕,宮川  肇,小森 孝郎,

田畑 佳世,神藤 正則,小林 和夫,田中 智之

堺市衛生研究所(〒590-0953 大阪府堺市堺区甲斐町東3-2-8)

[平成26年10月 9 日受付,平成27年 1 月20日受理]

The Uncertainty on using Graduated Volumetric Glassware for the Concentration of Samples (Concentration Tube) and its Effect on Measurement Accuracy

Shirou MATSUDA, Yutaka IHARA, Hajime MIYAGAWA, Takao KOMORI, Kayo TABATA, Masanori SHINTO, Kazuo KOBAYASHI and Tomoyuki TANAKA

Sakai City Institute of Public Health

(3-2-8 Kainocho-higashi, Sakai, Sakai, Osaka 590-0953)

[Received October 9, 2014; Accepted January 20, 2015]

Summary

  Although each step in the quantitative analysis of trace substances is susceptible to marked variability, it is assumed that there is only a negligible difference in the quality of concentration tubes, and that the concentration step, which is performed in such tubes under a nitrogen gas stream to obtain the desired volume, generates very few sources of varia- tion. Therefore, using a quantitative method for measuring benzo(a)pyrene (B(a)P) as a test procedure, we estimated un- certainties involved in each step, from sampling to instrumental analysis, and evaluated the effect of concentration tubes on the measurement accuracy based on an uncertainty analysis. As the results, the combined relative standard uncertain- ty for the determination of 1.0 mg/L of (B(a)P) was 3.3-5.4%, of which the contribution of concentration tubes was 67.3- 87.8%. The present study demonstrated that uncertainty on use of concentration tubes affects measurement accuracy, and highlighted the need to introduce precision control in vessel use.

Key words: precision, concentration tube, volumetric glassware, permissible error, uncertainty

(2)

2.実験方法

2.1 濃縮管

 測定に用いた濃縮管は,特注の 3 製品(濃縮管A:褐色0.3 mL専用,

濃縮管B:透明0.5 mL専用,濃縮管C:透明1.0 mL専用)で,0.3 mL定容を検証した(Fig.1 )。

2.2 標準液調製に用いた器具等

 標準液調製に用いた器具・試薬・機器は,以下の通りである。

・1,000 mLメ ス シ リ ン ダ ー:IWAKI・PYREX, 許 容 誤 差( ± 5 mL,20℃)。

・100 mLメスフラスコ:IWAKI・PYREX,許容誤差(±0.08 mL,

20℃)。

・20 mLメスフラスコ:IWAKI・PYREX ,許容誤差(±0.04 mL,

20℃)。

・10 mLホールピペット:IWAKI・PYREX,許容誤差(±0.02 mL,

20℃)。

・500 μL,250 μLおよび25 μLの各マイクロシリンジ:イトウ社製(容 量精度,再現精度は各 1 %以内メーカー保証)標準液調製用。

・天秤:METTLER TOLEDO社製AG204(再現性0.1 mg,測定誤 差の範囲 0.1±0.3 mg)。

・気圧計:佐藤社製。

・温度計:アズワン社製赤液棒状温度計。

・測定用の水:Yamato社製WG510の精製水。

・B(a)Pの標準試薬:GLサイエンス社製(98%保証)。

・GC-MS: QP2010(島津製作所社製)。

2.3 試験方法 2.3.1 実験操作

 水中のB(a)P定量分析をモデルとし,試料採取から機器分析ま

での段階で生じる不確かさを見積もり,濃縮管の不確かさが測定精 度に影響を及ぼす割合を算出した。分析方法および濃度算出式を Fig.2 に示した。また濃度は,最小二乗法による検量線法から求め た。再現性を考慮して試験操作は一人で実施した。

2.3.2 不確かさの要因の摘出と評価方法

 今回の検証では測定値に影響を及ぼす主要因として「試料分取:

u(V)」,「濃縮管定容:u(Vnk)」,「標準液調製:u(Cs)」及び「検量

線からの読取り値:u(X)」を摘出した。各要因に対して,Aタイプ

(繰返し測定から得られた標準偏差を統計的に評価)又はBタイプ

(メーカーの許容誤差等の情報を利用し矩形分布2))で評価し,各 要因の不確かさは,不確かさの伝播法則2)により合成した。例えば,

試料分取の不確かさをu(V)とすると,目盛りの不確かさ(許容誤

差)u1(V)とメスシリンダーによる採取の標準不確かさ(繰返し測定)

u2(V)から次式の算出式から求められる。各要因間の関係は,フィッ シュボーンダイヤグラム2)でFig.3 に示した。

2.3.3 ガラス製体積計5)等・濃縮管の繰返し測定と不確かさ  メスフラスコなどの入用の体積計やホールピペットなどの出用の 体積計は,標線まで入れた精製水の重量を10回の繰返し測定を行っ た。水温は試験中の温度変化が 2 ℃/hを超えないように注意し,

JIS K0050の全量フラスコ校正方法の式から補正を行ない(Fig.4 ),

体積換算値から併行精度(RSD%)を求めた。一方,濃縮管の測定 法は「同一管測定」と「個別管測定」の 2 通り行った。同一管測定 は, 3 種の濃縮管から各々 1 本を選び,同一器具で,標線まで入 れた精製水の重量を一日10回の併行測定を 3 日間実施した。同様の 補正後,体積換算値の分散分析から室内精度RSD%を求めた。一方,

個別管測定は,各種濃縮管に番号を付し,標線まで入れた精製水の 重量を番号ごとに 3 日間測定した。同様の補正後,体積換算値の乱 塊法分散分析から室内精度RSD%を求めた。なお,濃縮管Cの一 部に目盛り線が不鮮明なものがあったので測定数は 8 本とした。

2.3.4 検量線作成用標準液の調製法と濃度の不確かさの求め方8)

 標準原液(1000 mg/L)の調製は,標準物質100 mgを溶媒で溶 かしメスフラスコ100 mLで定容して調製した。次に1000 mg/L標

Fig. 1 Shape of general concentration tube

Fig. 2 Experimental procedure

(3)

環境化学 Vol.25, No.2(2015) 

準原液をホールピペットで10 mL分取し,メスフラスコで100 mL に定容し二次標準原液(100 mg/L)を調製した。100 mg/L二次標 準原液からマイクロシリンジで400 μL,300 μL,200 μL,100 μL,

50 μLを分取し,それぞれメスフラスコ20 mLで定容し検量線作成 用標準液とした。

 検量線作成用標準液の濃度の不確かさは,原液調製の不確かさと 希釈操作の合成から求められる。原液調製の不確かさは,試薬の純 度や濃度保証値(Bタイプ)を合成して求め,希釈操作の不確かさは,

ピペットなどの許容誤差(Bタイプ)や繰返し測定の精度(Aタイ プ)を合成して求めた。従って,検量線作成用標準液の濃度の不確 かさu(CS)は,標準原液濃度の不確かさu(C0),二次標準原液濃度 の不確かさu(C1),及び標準液濃度の不確かさu(C2)を合成して得 られ,相対標準不確かさu(Cs)/Csは( 1 )式から求めた。

( 1 ) 2.3.5 検量線から得られた測定値の不確かさ

 検量線は, 5 点検量(0.25,0.50,1.0,1.5,2.0 mg/L)で最小二 乗法により求め,検量線作成時の各濃度の繰返し測定数はn= 1 と した。測定試料として検量線の中央点である1.0 mg/L検量線作成 用溶液を用い,検量線作成時の各濃度の繰返し測定数はn= 1 と

した。検量線から読取った測定値の不確かさは,( 2 )式の四角目

9, 11)の計算法から求めた。

( 2 )  n:測定試料の測定の繰返し数 b:検量線の傾き

 m:検量線の濃度点数 yu:測定試料の測定値  u(X):測定濃度の不確かさ y:検量線縦軸測定値の平均値  Sy/x:縦軸の不確かさの平均値

 (検量線縦軸測定値のばらつき) s2x:分散 2.3.6 合成相対標準不確かさと拡張不確かさ

 最終的に求める合成相対標準不確かさu(C)/Cは,各要因の不確 かさ「u(V)」,「u(Vnk)」,「u(Cs)」及び「u(X)」から相対標準不確 かさを求め,それらを( 3 )式から合成し求めた。拡張不確かさ2)

は,測定値の大部分を含むと期待される区間で,拡張不確かさUは,

合成標準不確かさucに,包含係数kを乗じて求められ,通常k= 2 ( 2σに相当)とすることが多い。

( 3 )  U=k×uc

2.3.7 濃縮管定容の不確かさの寄与率

 合成相対標準不確かさに対する濃縮管定容の寄与率10)(%)は,

( 4 )式から求めた。

寄与率(%)= ( 4 )

3.結果

3.1 各種体積計の繰返し精度

 希釈操作などで使用する体積計の繰返し精度の結果はTable2 に示した。同一管測定とその分散分析の結果をTable3 ,Table5 に,個別管測定とその分散分析の結果をTable4 ,Table6 に示し た。体積計の繰返し測定(熟練度)をRSD%で比較すると,同一 管測定(0.52 ~ 0.87%),250 μLマイクロシリンジでの200 μL採取 時(0.46%),10 mLホールピペット(0.07%),1,000 mLメスシリ ンダー(0.06%),20 mLメスフラスコ(0.03%),100 mLメスフラ スコ(0.02%)の順であった。濃縮管の測定法別の比較では,個別 管測定(2.6 ~ 5.0%),同一管測定(0.52 ~ 0.87%)であった。

3.2 試料分取の標準不確かさ:u(V)

 相対標準不確かさu(V)/Vは,メスシリンダーの目盛りの許容誤 差± 5mL(Bタイプ)と繰返し測定の不確かさ0.5691(Aタイプ,

Table2 )を合成して得られるので次の通りとなる。

3.3 濃縮管の標準不確かさ:u(Vnk)

 濃縮管には規格で定められた許容誤差はなく,目盛りの精度も不 明であるため,同一管測定から得られた室内精度だけでは不確かさ は求められない。一方,個別管測定から得られた室内精度には,繰 返し精度と目盛りの精度(正規分布にある)が含まれていると考え られるので,求めたRSD%は濃縮管の相対標準不確かさに相当す Fig. 3 Fishbone diagram for sources of uncertainty

Fig. 4 Calculation formula in calibration method using volumet- ric flask

(4)

となる。

 さらに,各種濃縮管 8 本間でばらつきに有意差を有するかF検 定で解析した結果,濃縮管因子が(A: F0=208>2.8,B: F0=106.2

>2.8,C: F0=56.2>2.8)となり, 3 種類とも有意水準 5 %で有意 差がある結果となった(Table6 )。

3.4 検量線作成用標準液の濃度の標準不確かさ:u(Cs) 3.4.1 標準原液調製の標準不確かさ:u(C0)

 相対標準不確かさu(C0)/C0は,標準物質秤量時の相対標準不確

かさu(m)/m,標準物質純度の相対標準不確かさu(p)/pおよび100

mLメスフラスコの相対標準不確かさu(Vmf100)/Vmf100を合成して求 められる。標準物質100 mgの秤量時の相対標準不確かさu(m)/m は,器差±0.1 mg,繰返し誤差0.3 mgであるのでBタイプで評価し,

98%はBタイプで,純度p= 1 として評価すると,各々次の通り となる。

 一方,100 mLメスフラスコの相対標準不確かさu(Vmf100)/Vmf100は,

目盛りの許容誤差±0.1 mL(Bタイプ)と繰返し測定による不確か さ0.0219(Aタイプ,Table3 )を合成して得られ次の通りとなる。

従って,標準原液調製の相対標準不確かさu(Co)/Coは③④⑤から 次の通りとなる。

3.4.2 二次標準原液(100 mg/L)調製の標準不確かさ:u(C1)  相対標準不確かさu(C1)/C1は,10 mLホールピペットの相対標 準不確かさu(VHP)/VHPと100 mLメスフラスコの相対標準不確かさ Table 2 Results of measurement with various volumeters

Table 3 Results of measurement for same concentration tubes

Table 4 Results of measurement for individual concentration tubes

Table 5 Results of one-way layout analysis of variance and rela- tive standard deviation

Table 6 Results of randomized block design and relative stan- dard deviation

(5)

環境化学 Vol.25, No.2(2015) 

u(Vmf100)/Vmf100を合成して求められる。

 u(VHP)/VHPは,目盛りの許容誤差±0.02 mL(Bタイプ)と繰返 し測定による不確かさ0.0078(Aタイプ,Table3 )を合成して得 られるので,次の通りとなる。

 一方,100 mLメスフラスコの相対標準不確かさは,⑤から0.00061 であるので, 2 次標準原液調製の相対標準不確かさu(C1)/C1は次 の通りとなる。

3.4.3 標準液(1.0 mg/L)調製の標準不確かさ:u(C2)  相対標準不確かさu(C2)/C2は,マイクロシリンジで200 μL採取 時の相対標準不確かさu(Vmsy)/Vmsyと20 mLメスフラスコの相対標 準不確かさu(Vmf20)/Vmf20を合成して求められる。

 u(Vmsy)/Vmsyは許容誤差±0.01 mL,再現精度±0.1 mL(Bタイプ)

と繰返し測定による不確かさ0.00096(Table3 )を合成して得られ るので,次の通りとなる。

⑨  一方,u(Vmf20)/Vmf20は,メスフラスコの目盛りの許容誤差±0.04 mL(Bタイプ)と繰返し測定による不確かさ0.00567(Table3 )を 合成して得られるので,次の通りとなる。

⑩ 1.0 mg/L調製時の相対標準不確かさu(C2)/C2は,⑨⑩から次の通 りとなる。

⑪   従 っ て, 検 量 線 作 成 用 標 準 液 の 濃 度 の 相 対 標 準 不 確 か さ

u(Cs)/Csは,⑥⑧⑪の結果から以下の通りとなる。

3.5 検量線から求めた測定値の標準不確かさ:u(X)

 検量線から求めた試料測定の読取り値は0.971 mg/Lであった。

最小二乗法の計算から得た各係数(Table7 )と( 2 )式の四角目 らの計算法から求めた測定値の相対標準不確かさu(X)/Xは,次の 通りとなる。

3.6 合成相対標準不確かさ u(C)/C と拡張不確かさ

 各要因の不確かさ①②⑫⑬の結果から,( 3 )式の合成相対標準 不確かさを求め,さらに( 4 )式から濃縮管定容の寄与率を求め,

各要因の不確かさをまとめた(Table8 )。

 その結果,各要因の不確かさは,濃縮管定容>>標準液調製>検 量線からの読取値>試料分取の順となり,濃縮管定容の寄与率は 67.3 ~ 87.8%であった。拡張不確かさは,包含係数K= 2 を乗じ ると濃縮管A:0.1071(10.7%),濃縮管B:0.0653(6.5%),濃縮 管C:0.095(9.5%)となった。

4.考察

 ガラス製体積計の繰返し測定をRSD%で比較すると,マイクロ シリンジ200 μL採取時が最大で100 mLメスフラスコが最小となり,

田原ら4)の測定結果と同様の傾向であった。濃縮管との比較では,

濃縮管の同一管測定の繰返し測定とマイクロシリンジ200 μL採取 時の測定がほぼ同レベルであった。一方,個別管測定と同一管測定 の比較では数倍の差が認められた。こうした差が生じるのは,個別 管測定では繰返し精度と目盛りの不確かさ(工作誤差で正規分布を なす)が測定値に含まれるためであり,工作誤差の分が加算され大 きくなったからと考えられる。さらに,個別管測定で,各種濃縮管 各 8 本間で有意差が認められたのは,各濃縮管の目盛りに起因する

Table 8 Contribution rate in results of measurement for individual concentration tubes Table 7 Coefficient data

(6)

者独自の基準により作成され,しかも0.3 mLのような少容量を手 作業による製作となると,人由来のばらつきがかなり介在すると推 測され,その結果,目盛りの精度にはかなりのばらつきが生じてい ると考えられる。

 今回の測定結果では,合成相対標準不確かさに対する濃縮管定容 の寄与率が67.3 ~ 87.8%であることから,不確かさの大部分が濃縮 管由来であり,測定精度に影響を与える主要因であることが明らか となった。さらに,拡張不確かさが6.5 ~ 10.7%であることから無 視できるものでなく,測定値に対し影響を与えていることが示唆さ れた。一般に定容量が小さくなるとCV%計算時の分母は小さくな るので,相対標準偏差(不確かさ)は大きくなり,繰返し精度が同 程度の場合,0.1 mL定容の不確かさは0.3 mL定容の 3 倍となる。

さらに,極微量定容量(0.05 ~ 0.1 mL)になると,目盛り合わせ や目盛り製作上のばらつきはさらに増大し,不確かさはさらに大き くなると考えられる。ダイオキシン分析などは,同位体希釈法を用 いているため,内標準物質の添加後の器具のばらつきによる影響は 受けにくいものの,内標準物質の添加前や添加に用いるマイクロシ リンジなどの器具のばらつきの影響は直接受けることになる。従っ て,精度・信頼性の確保の観点からすると,ダイオキシン分析のよ うな微量分析でも,器具由来の不確かさによる影響を検証すること は重要と思われる。一方,環境分析や水道水分析などの公定法では,

JIS規格にない容量の器具を使用したり,指定されたりすることが あるために器具による調製誤差が生じてしまうことがある。 従っ て,こうした器具由来の誤差を正さないと公定法自体が信頼できる 方法ではないということになるので,使用する器具の精度管理を行 う意義は大きいと考えられる。

 なお,今回の検証では「試料分取,濃縮管定容,標準液調製及び 検量線からの読取り値」の 4 要因に限定して不確かさを求めたが,

不確かさはこれ以外に標準試薬の純度3),溶媒抽出時での回収率な どで生じるため,合成相対標準不確かさはさらに大きくなると考え られる。

 ところで,こうした調製誤差が生じる主な原因は,JIS3505規格(ガ ラス製体積計)で少容量を定容可能とするガラス製体積計がないこ とが問題の発端になっている。従って,JIS規格の適用範囲に濃縮 管(仮名)を追加し,分析方法が規定する容量を規格化すれば直ち に改善につながると考えられるが,しかし,仮に規格化されたとし ても,製造者サイドの技術的な問題,個別体積計の認証問題,コス ト,採算などの問題が生じ,供給が難しくなるという新たな問題に 直面する。ただ,器具材質をガラスから樹脂(透明)へと変更が可 能ならば,精度認証を受けた成型物から大量生産も可能となり,全 量フラスコの供給と同様の扱いとなるので製造者サイドの問題も軽 減され,改善策になり得る可能性は残されている。一方,分析法で 規定された試料採取量や最終定容量を増やすことも改善策の一つで あるが,公定法で既に決められた試料採取量などを,あえて微量分 析であることを理由に容量を増やすことは困難と思われる。さらに,

定容操作で 「窒素ガス吹込み―パージ法」 から「窒素ガス吹込み-

乾固-マイクロシリンジによる一定容量注入」への変更も挙げられ るが,ジェオスミンのような揮散しやすい物質の場合は適さないの で測定物質ごとの検討が必要となる。

 このように,いずれの場合もJIS規格の改定あるいは公定法の変 更が必要となるので,直ちには実現しがたい状況にある。従って,

現状では目的容量専用の濃縮管を特注する方法でしか対応可能な選 択肢はない。そのため,自主的に濃縮管の容量校正を行ない,真度 や室内精度を求める内部精度管理を実施することは重要である。さ らに分析では最終的な測定結果が問題になるので,全工程の精度を

とも重要である。

5.まとめ

 0.3 mL定容を指定するB(a)P定量分析をモデルにして,各操作 で使用する体積計の繰返し精度(熟練度)を確認し,各体積計の

RSD%で比較した。マイクロシリンジ200 μL採取時の繰返し測定

が最大,100 mLメスフラスコの繰返し測定が最小で,濃縮管の同 一管測定はマイクロシリンジ200 μL採取時の繰返し測定とほぼ同 レベルであった。一方,同一管測定と個別管測定との比較では,個 別管測定では目盛り作成時の工作誤差が加算されるので数倍大きく なった。濃縮管の不確かさを見積もるには,個別管測定から算出す ることが必要である。また,濃縮管の不確かさが測定精度に及ぼす 影響について考察した結果,合成相対標準不確かさに対する濃縮管 定容の寄与率は67.3 ~ 87.8%であった。これは測定精度に明らかに 影響を与えていることが示唆され,濃縮管に対しても精度管理を考 慮する必要があり,内部精度管理の重要性が明らかとなった。

謝 辞

 今回の研究に関して,助言を下さった国立医薬品食品衛生研究所 杉本直樹先生,前神戸市環境保健研究所所長 田中敏嗣先生,並び に本文をまとめるに当たりご協力下さった皆様に感謝申し上げま す。

要 約

 微量物質の定量分析では,各操作段階で様々なばらつきが生じて いる。しかし,窒素吹付けによる定容段階では,濃縮管の容量誤差 は小さいため,ばらつきも無視できるほど小さく測定値に影響を与 えることはほとんどないと見なされている。そこで,不確かさによ る評価法を用い,ベンゾ(a)ピレン(B(a)P)の定量分析をモデル として,試料分取から機器分析までの不確かさを見積もり,濃縮管 の不確かさが測定精度に及ぼす影響について検証した。その結果,

1.0 mg/Lの測定結果に伴う合成標準不確かさは3.3 ~ 5.4%,その 内濃縮管の寄与率は67.3 ~ 87.8%であった。これは,明らかに測定 精度に影響を与えていることが示唆され,濃縮管に対しても精度管 理を考慮する必要があり,一層の内部精度管理の重要性が明らかと なった。

文 献

1)飯塚幸三 監修:ISO国際文書 ・ 計測における不確かさの表現 のガイド,17-31,日本規格協会,東京(1996)

2)日本環境測定分析協会:環境分析における不確かさの評価に関 する報告書(その 1 ),環境と測定技術,32,No.8,44-68(2005)

3)田原麻衣子,杉本直樹,中島晋也,有薗幸司,西村哲治:水道 水質試験の標準液における不確かさと定量精度に影響を及ぼす 要因,水道協会雑誌,81,10-16(2012)

4)日本規格協会:化学分析方法通則,JIS K 0050,81-84,JISハ ンドブック環境測定Ⅱ水質(2005)

5)日本規格協会:ガラス製体積計,JIS R 3505,1-6(2010 確認)

6)環境庁:外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(平成 10年10月 環境庁水質保全局水質管理課)

7)小和田和宏,石川雅章,浮島美之,渡邊正幸,越智壽美子,中 島美穂,浅賀彦人,降旗昌彦,志村将彦,鈴木東吾:保健所等

(7)

環境化学 Vol.25, No.2(2015) 

における外部精度管理調査結果,静岡県環境衛生科学研究所報,

No.47,27-30(2004)

8)日本環境測定分析協会:環境分析における不確かさの評価に関 する報告書(その 2 ),環境と測定技術,32,No.9,45-71(2005)

9)四角目和広,佐藤寿邦:直線検量線を利用する定量分析値の不 確かさ-考え方と計算法,環境と測定技術,30,No.4,34-42

(2003)

10)本橋勝紀:ダイオキシン類測定における不確かさ,環境と測定 技術,30,No.10,56-66,(2003)

11)財団法人化学物質評価研究機構:化学分析における不確かさ評 価例 -水中の鉛の測定

http://www.accreditation.jp/council/image/5_7.pdf

Fig. 2 Experimental procedure
Fig. 4  Calculation formula in calibration method using volumet- volumet-ric flask
Table 6  Results of randomized block design and relative stan- stan-dard deviation
Table 8 Contribution rate in results of measurement for individual concentration tubes Table 7 Coefficient data

参照

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