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情報経済論

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Academic year: 2021

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第 14 回 情報通信産業の発達と地域産業振興の課題

1 オープンソースとIT産業 (1)クラウドコンピューティングとオープンソース Google や Amazon、そしてセールスフォース・ドットコムなどの米国 IT 企 業はクラウドコンピューティングを利用したサービス(第 9 回「クラウド・ソ ーシャルと情報通信産業」参照)の構築には、Linux に代表されるオープンソ ース・ソフトウェア(OSS)が多く活用されている。 従来のソフトウェア開発の作業には膨大な時 間、巨額の投資が必要であった。そこでソフトウ ェアが簡単にコピーされるなら企業も望むだけ の歳入を得ることができなくなるので、企業は OS などのソース・コード(ソフトウェアの設計 図)の技術情報を隠すようになり、法的にコンピ ュータの内部情報は知的財産であるとして著作権で守られようになる。また、 コンピュータやソフトウェアの普及には互換性を進めていくために規格の標準 化が必要である。これは公的な場で決められるのではなく、Windows に典型的 に見られるように、よく売れたためにみながそれに従うというデファクト・ス タンダードが力を持ち、結果として一つの企業が市場を占有するとい覇権構造 に直結してきた。 一方、Linux に代表されるオープンソース・ソ フトウェアや、これによる新たなシステムの開発 はインターネットも利用して自主的に参加する 人材が集まり、自由に利用できるソース・コード と、迅速な対応が可能となる。また統一した規格 や標準化もオープンな場で議論し、決めることが 可能である(第 5 回「オープンソースと情報産 業の発展」参照)。これ自体 Web2.0 的、あるい は集合知を活用した開発スタイルであるが、 Web2.0、さらにクラウドコンピューティングの システム自体にも多くのオープンソース・ソフ トウェアが利用されている1

1 Web サーバアプリケーション Apache やデータベースの MySQL、PostgreSQL、プログ

ラム言語のPerl、Python、PHP、Ruby、そして Web アプリケーションを構築する Ruby on Rails など、オープンソースとして開発されている。

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(2)オープンソースとIT企業:活用と貢献 オープンソースの活用はクラウドコンピューティングを活用したビジネスと 同様に、地方の小規模な企業にとってもビジネスのチャンスを拡大すると同時 に、Google や Amazon のような巨大 IT 企業に莫大な利益をもたらすものであ る。そしてこれらの巨大IT 企業はオープンソースの開発自体にも大きな貢献を している。 企業側から見た場合,オープンソースを導入する第一の理由はコスト削減で ある。一方,オープンソースによるビジネスモデルは,ソフトウェア自体は無 償であっても,その導入,システム構築,サポート,メンテナンスなどのサー ビスをビジネスとするものである。 そこで供給側の企業がその市場を獲得す る,市場競争において優位になるためにはオープンソース自体への知識,開発 力が求められ,企業自身がオープンソースの開発へ参加・貢献するようになる。

実際にLinux の開発(Linux のカーネルコードへの貢献)においても IBM,Intel,

Red Hat,Novell といった大企業であり(これら 4 社で Linux Kernel の全体の

コード数の約30%に貢献している),Linux サーバ市場におけるこれらの企業の

競争力強化につながっている。

Linux カーネル 3.2 までコード変更に関する貢献度

The Linux Foundation 「Linux カーネル開発支援企業上位 30 社」より Proprietary Software Open Source Software

Programmers Engineers Enterprise  Community Selling Free Small Sized

Businesses Small SizedBusinesses Small Sized

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(3)オープンイノベーションとオープンソース オープンソースによる活用と貢献を考えると、 Henry Chesbrough(1956- )によって提起された オ ー プ ン イ ノ ベ ー シ ョ ン が 想 起 さ れ る 。 Chesbrough は従来の自前主義的な経営戦略をクロ ーズドイノベーションとして企業が自分でアイデ アを発展させ,マーケティングし,サポートし,資 金調達すると同時に,自社内ですべての研究開発活 動を行うとする態度が支配的であるとする。一方,競争環境,研究,開発環境 の変化(労働者の流動性上昇,従業員の知的レベルの向上,ベンチャーキャピ タルの存在,場競争の激化)によってクローズドイノベーションの有効性が低 下する一方,企業内外の境界が曖昧化し,外部の研究開発と内部の研究開発と が結合するオープンイノベーションによれば,知識の流入と流出を自社の目的 にかなうように利用して,社内イノベーションを加速するとともに,イノベー ションの社外活用を促進する市場を拡大することである2。オープンイノベーシ ョンでは自社以外の研究成果,すなわち外部資源が結び付くことで付加価値が 作り出されている一方,自社内では市場へ至らなかった研究成果は外部へと公 開される。 オープンソースの開発は組織の枠を超えた「バザール型」の開発方式であり、 オープンソースを活用する情報サービス企業が高付加価値あるいは競争優位を 形成するためには,各企業は外部資源であるオープンソースへの開発貢献がよ り求められることになる。

2 Chesbrough, H. (2003) "Open Innovation", Oxford University Press. (大前恵一朗 訳

『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて』産能大出版部, 2004 年) Chesbrough, H., VanHaverbeke, W., and West, J. (2006) "Open Innovation

Researching a New Paradigm ", Oxford University Press. (長尾高弘訳『オープンイノベ ーション―組織を超えたネットワークが成長を加速する』英治出版, 2008 年)

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2 オープンソースと地域産業振興 (1)オープンイノベーションと地域産業 IT 企業がそのサービスの提供あるいはソフトウェアやシステムの開発におい てオープンソースを活用する場合、これらのIT 企業が収益を高める=IT 企業が その市場で競争優位になるためにはオープンソースの開発へ参加・貢献するこ とが求められる。IBM,Intel,Red Hat,Novell といった米国の大手 IT 企業 に比べて、日本の多くのIT 企業にとってオープンソース活用対象であり、これ に対して開発貢献は依然として低いことが分析されている(参考論文1参照)。 このことは地方の中小IT 企業であってもオープンソースの開発へ参加・貢献が 求められ、またこれが進めば、この分野で市場を拡大できる可能性があること も示しており、大手IT 企業だけでなくオープンソースを活用したベンチャー企 業の成功例も数多くみられる。 島根県松江市が2006 年から進めているオープンソースの一つである Ruby を

活用した地域IT 産業振興策:Ruby City MATSUE プロジェクトは、地方の中

小IT 企業がオープンソースを活用することによって市場を拡大させようとする 取組であるが、このプロジェクトが成功するためには地方の中小IT 企業自身が、 地方とは対極にあるグローバルなオープンソース開発プロセスへ貢献すること が求められる。これは地方におけるオープンイノベーションの過程とも捉えら れる(情報経済論「IT 投資と日本経済・IT と地域経済化」、および参考資料・ 参考ビデオ等参照)。

Ruby City MATSUE プロジェクトは行政機関が 主導した面もあるが、その主体は松江市内の民間企 業や技術者、そして大学の研究者であり、Ruby と いう技術的優位性を活かしながら、産学官の連携に よって地域産業振興につなげようという取り組み であった。しまね OSS 協議会による勉強会(オー プンソースサロンやRuby 勉強会)の開催などを通 じて地元の IT 企業は Ruby やオープンソースに関 する事業・開発を進める中で、Ruby 開発の技術力・ プロジェクトマネジメント力を高めていった。そし てビジネス拡大、市場獲得のための研究と、大規模 開発の県内企業による共同受注へと進めていった。2008 年になると島根県も IT 産業振興を産業振興の中心に位置づけるようになった3 3 島根県 IT 産業振興策としては、人材育成事業・OSS/Ruby エンジニア育成講座、実践 型OSS 開発力強化支援事業・高度エンジニア派遣事業、ソフト産業ビジネス研究会支援事 業・専門家などを招聘したビジネス研究会の創設・運営を支援、販路拡大支援事業・県内

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島根県松江市のIT 産業振興の取組によって島根県の IT 産業は 2008 年度から 2013 年度にかけて売上高を 63%伸ばし、県内の従業員数も 25%伸ばすという成 果をあげてきた。また2008 年度から 2014 年度までに開発拠点を設けるなどし て島根県に進出したIT 企業は 28 社、特に 2014 年度は 11 社と急増するなど注 目すべき成果を示している。 情報通信技術の発達や経済のグローバル化を背景に、IT 市場は今後も成長が 続くことが予想される。特にソフトウェア市場の成長率は年平均で 5%に達し、 OSS を活用したソフトウェア開発も拡大している。Web アプリケーション開発

において生産性の高さを実証しているRuby や Ruby on Rails の活用場面は今後

も拡大することが予想される。一方で国内のIT 業界はソフトウェア開発を中心

にして高度な技術を持ったIT 技術者が足りないという深刻な人材不足に直面し

ている。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が 2014 年に IT 関連の企業を

対象に行った調査では、人材が不足していると答えた企業が5 年前の 49%から

去年は82%に急増した。島根県の IT 企業にとっても、拡大する IT 市場を前に

して企業成長を継続していくためには、Ruby や Ruby on Rails を中心とした優

秀なソフトウェア技術者を絶えず確保していくことと同時に、Ruby やオープン ソースに関する知識・開発力を高めていくことが求められる。 のソフト系企業のソフトウェア製品の販路獲得、高い開発技術による業務獲得を目指し、 首都圏で開催されるIT 関連展示会への出展を支援、県内就職支援事業・県内外の情報系の 学生などを対象にRuby 講座を実施し、県内 IT 企業への就職につなげる研修を合宿形式で 実施、などがある。 島根県産業振興課調査資料より 島根県情報産業協会調査資料より

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(2)日本の IT 企業とオープンソース:活用と貢献

日本のIT 企業におけるオープンソースの活用および開発貢献が企業成長・企

業経営指標に与える影響の分析では「オープンソースは日本の多くのIT 企業に

とって活用対象であり、これに対して開発貢献は依然として低い」という結果

が表れ、特にLinux や Apache HTTP Server、

データベース(MySQL, PostgreSQL 他)など の主要なオープンソースは、商用のソフトウェ ア同様に企業での活用度も高いが、開発貢献は 低かった。すなわち日本の多くの IT 企業は主 要なオープンソースに関してはフリーライダー の状態である。 一方、Ruby、Ruby on Rails(RoR)や他の言語などは主要オープンソースに 比べて活用と開発貢献の相関は比較的高いという結果が表れた(参考論文1参 照)。すなわちRuby、Ruby on Rails や他の言語などのオープンソースは日本の IT 企業において活用度はまだ低いが、これらのオープンソースを活用する IT 企業にはその開発過程にも参加・貢献していると考えられる。島根県松江市の 地域IT 産業振興の取り組みによって地域におけるオープンイノベーションが創 出されると考えるならばならば、島根県のIT 企業がオープンソース、特に Ruby の活用が進むと同時に、これらの開発に対す貢献も拡大することが想定される。 表 1 主要 OSS の活用と開発貢献の相関(全国) 開発貢献

活用 Linux Apache データベース Ruby その他言語 RoR Linux .136 -.002 .004 .128 .083 .110 Apache .151 .135 .054 .149 .125 .111 データベース .050 -.016 .052 .132 .098 .105 Ruby .031 -.013 .007 .324** .114 .351** その他言語 .144 .161* .189* .099 .272** .140 Ruby on Rails .087 .086 .065 .331** .159 .420** 「オープンソース・ソフトウェア(OSS)活用実態調査アンケート」(2012)より スピアマン順位相関係数検定 ** 1%水準有意, * 5%水準有意

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(3)オープンソースの活用と貢献の地域比較

そこで、2012 年度と 2013 年度に行った「オープンソース・ソフトウェア(OSS)

活用実態調査アンケート」の調査結果から、オープンソースの活用と開発貢献

の関係(相関)を都市圏(関東、関西、福岡の大都市圏)、それ以外の地方圏(島

根県を除く)、島根県で比較を行った(参考論文 2 参照)。その結果開発貢献に

ついて、都市圏ではRuby と Ruby on Rails 相互間の活用と開発貢献の相関が

高く、また地方圏において、相関分析の結果からは、Ruby on Rails の活用と Linux や Apache、その他言語、Ruby、Ruby on Rails の開発貢献との間に高い

相関が表れた(表 2~表 3 参照)。この結果は、Ruby on Rails の活用をしてい る企業の活用と開発貢献との間に関係性があることを示していると考えられる。 表 2 主要 OSS の活用と開発貢献の相関(都市圏) 開発貢献 活 用

Linux Apache データベース Ruby その他言語 RoR

Linux .143 -.055 .018 .124 .051 .110 Apache .187 .135 .073 .166 .137 .108 データベース -.011 -.066 .095 .130 .091 .120 Ruby -.205 -.289 .102 .227* .051 .340** その他言語 .109 .102 .131 .010 .199 .089 Ruby on Rails -.139 -.219 -.058 .148 .065 .374** 表 3 主要 OSS の活用と開発貢献の相関(地方圏:島根県を除く) 開発貢献

活用 Linux Apache データベース Ruby その他言語 RoR Linux .082 -.046 .001 .108 .098 .140 Apache .129 .133 .051 .161 .148 .146 データベース .176 .039 .070 .200 .174 .161 Ruby .256 .144 .127 .411** .208 .429** その他言語 .136 .163 .247 .175 .311* .169 Ruby on Rails .231 .284* .153 .450** .224 .478** 一方島根県については、活用と開発貢献との間に有意な相関関係は見られな

かった。特にRuby や Ruby on Rails に関してはその相関係数が他地域に比べて

極端に低い。Ruby やオープンソースを活用した IT 産業振興政策を進める島根 県においては両者ともその活用度が他地域に比べて高く、また開発貢献も進ん でいるが、必ずしも活用を進める企業が開発に貢献しているわけではないとい

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表 4 主要 OSS の活用と開発貢献の相関(島根県)

開発貢献

活用 Linux Apache データベース Ruby

その他言語 RoR Linux .215 .185 .054 .150 .175 .091 Apache .012 .028 .048 -.087 .061 .001 データベース -.098 -.092 -.148 -.161 -.091 -.157 Ruby .235 .201 .125 .207 .186 .159 その他言語 .193 .199 .154 .144 .236 .108 Ruby on Rails .364 .332 .197 .387 .285 .267 いずれも「オープンソース・ソフトウェア(OSS)活用実態調査アンケート」(2012)より スピアマン順位相関係数検定 ** 1%水準有意, * 5%水準有意 (4)オープンソースを活用した地域産業振興の課題 日本のIT 産業=情報サービス企業におけるオープンソースの活用と開発貢献 の地域別の比較分析から、Ruby やオープンソースを活用した産業振興政策を進 める島根県においては両者ともその活用度の割合が他地域に比べて高く、また 開発貢献も進んでいるが、必ずしも活用を進める企業が開発に貢献している訳 ではないことが示された。そもそも松江市の地域産業振興策は「地域資源」と してのRuby の技術的優位性を利用したものである。Ruby はオープンソースで あるので、その技術的知識を持っていれば誰が何処でRuby を使ってビジネスを 興してもかまわない。オープンソースであるからこそRuby の利用や Ruby を活 用したビジネス市場が拡大しているのであるが、この中で Ruby、Rails の市場 でのシェアを確保していくためには松江市のIT 企業が技術的優位性を維持し続 けていかなければいけない。そのためにはオープンソースのRuby を使ったシス テム構築やサポートが可能となる企業・人材の育成とともに、Ruby 自体への知 識を深めることが求められる。これは他のオープンソース同様にRuby の開発自 体へ貢献することによって獲得できるものである。ところがオープンソースの 活用と開発貢献の関係の地域比較を行った結果、島根県松江市の地域IT 産業振

興の取り組み、Ruby City MATSUE Project は現状では IT 産業振興政策によっ

てオープンイノベーションを創出するには至っていないと考えられる。

Ruby も含めて情報通信技術の発達とともに、情報産業の市場は拡大し続けて

いるが、この市場はそのまま松江市のIT 企業の市場シェアにつながるものでは

ない。Ruby City MATSUE Project の成果を継続していくためには、Ruby の安

定化と信頼性の確保、すなわちオープンソースのRuby 自体の開発過程に参加・

表 4  主要 OSS の活用と開発貢献の相関(島根県)

参照

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