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福岡 捷二

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論文 河川技術論文集,第23巻,2017年6月

洪水水面形観測情報の広域的・統合的活用 による流域治水の考え方の構築に向けて

CREATING AN IDEA OF INTEGRATED RIVER PLAN DUE TO THE USE OF WIDESPREAD WATER SURFACE PROFILES OF FLOODS IN RIVER BASINS

福岡 捷二

1

Shoji FUKUOKA

1フェロー Ph.D 工博 中央大学研究開発機構 教授(〒112-8551 東京都文京区春日1-13-27)

The paper discusses the necessity of the integrated river plan to raise the safety level against water-related disasters in the near future. It is investigated that how water allocations in every reach in rivers and in dams were made and what flood control facilities seen over an aerial view of basins were endowed with insufficient functions.

The flood water volume distributions in upstream, middle and downstream reaches were investigated from the use of widespread water surface profiles by the numerical model. The new integrated river plan is proposed on the basis of the results of numerical computations using temporary flood water surface profiles in the 2015 Kinu river flood, in which the ship-bottom shaped cross-sections with an elevated river bed levels are adopted.

Key Words: Integrated river plan, Kinu river, flood, temporary water surface profile, storage water volume, numerical computation

1.序論 ー新しい流域治水推進の必要性

生産性向上,インフラストックの効果発現等は国の重 要施策であり,当然,河川事業にも求められている.こ れらには,治水ストックの効果的活用による治水安全度 の向上,地球温暖化に対する適応策,河川の維持管理技 術の向上等があげられる.治水事業のストック効果につ いて言えば,これまで積み上げられてきた治水事業の効 果を多面的に評価し,将来世代に治水ストックとして良 い形で引き継いでいくことが求められる.このためには,

流域における現有治水施設を十分活用し,地球温暖化等 による流量増に対し,流域における河道,ダム等による 水量収支を時空間的に適正にバランスさせ,治水施設の ストックをより効果的に発揮させる計画,設計,管理の 方法を検討し,これらを見える化し,分かり易く社会に 示していく必要がある.

洪水水位は十分長い区間にわたって高い精度で容易に 観測が可能であり,観測水位には河道の特性,洪水の特 性が反映されている12.このような特性を有する観測 水面形の時間変化を説明するように洪水流の基礎方程式 を解き,流れ場を詳細に調べることにより,河川におけ る洪水流の力学理解が可能になったことにより,洪水流 の伝播特性や貯留量等,河川管理上の重要な知見が得ら れて来た3.このように,ダムと河道を広域的,一体的

に扱って得られた洪水流の解析により,流域治水施設の 現在の実力を評価できるようになり,さらに,流域河川 システムの望ましい治水のあり方を検討する道筋が描け るようになって来た.

本研究では,平成27年9月の鬼怒川洪水の観測水面形 から,現状の治水ストックによる河川流域の水量収支構 造を調べ,豪雨流出量のダム群と河道への配分実態を明 らかにする.次に,ダム群と河道を広域的,統合的に見 た視点から流域の治水の安全性を考え,相応しい水量配 分をもたらす幾つかの方策を提案する.最後に,現在の 治水計画の延長上で,今後の流域治水の方向性を示す.

2.流域治水の考え方と検討課題

近年,日本各地で激甚な豪雨災害が頻発し,気候変動 による巨大水災害が現実味を帯びてきている.平成

27

9月の鬼怒川洪水では,下流域で大氾濫が起こる一方で,

中流部では高水敷にほとんど洪水流が乗らず,

22

か所あ る霞堤は機能しなかった.これは,勾配の急な区間にお ける昭和40年(1960年)代までの砂利採取による低水路 の河床低下が大きな原因であったと考えられる.鬼怒川 中流部は広い河原を有し,最も広いところでその幅は

800m

にも達する.大洪水時には高水敷に水が広がり,

自然の遊水機能による河道貯留効果を生かした計画が立

論文 河川技術論文集,第23巻,20176

- 253 - - 251 -

(2)

てられている.しかし,今次の洪水流は,中流部では低 水路満杯状態で一気に下流へ流れ,広い河道断面を使っ て洪水流量の低減をもたらすような河道貯留はほとんど 生じなかった.流域に降った異常な量の豪雨が下流の氾 濫の原因であったが,中流域の河床低下が下流への洪水 水位,流量の大きさ,伝わり方に影響を与えたことは否 めない.地球温暖化による洪水流量の増大が想定され,

洪水氾濫による甚大な被害が各地で発生する状況の中で,

鬼怒川の氾濫は,今後の治水のあり方に一石を投じたと 言える.治水の原則は,流域全体を考えた治水である.

これまでも計画的に治水施設の整備を行い,ストック効 果を高めてきたが,観測データが十分でなかったり,検 討方法や手段が不十分であったために,この原則を生か し切れていない面が見られる.治水施設のストック効果 をさらに高めるためには,また地球温暖化適応策の効果 的な実行のためには,観測された洪水流の水面形の時間 変化を用いたダム群と河道による流域全体の水量収支,

流量配分を包括的,統合的に考え,バランスのとれた治 水を考えることが求められる.

我が国では,ダムや河道・堤防などの治水施設が計画 レベルに達していない河川が多いため,計画規模以下の 洪水であっても容易に計画高水位を超えることになり,

時には氾濫が起こる.河川の計画高水位は,現在の治水 計画において安全を確保する水位の基準あり,この基準 を保持して,流域全体の水量収支バランスを検討するこ とにより,流域と川づくりを展開していくことになる.

必要なことは,今後の社会・経済・自然の状況変化を 考慮して改修計画を着実に実行し,安全,安心で,豊か な環境の川づくりを進めていくことである.そのために は,現在の治水上の課題を確実に把握し,川の実力を評 価し,効果的に実力の向上を図りながら,次世代に相応 しい川づくりを目指すことになる.次章では,洪水位の 時・空間観測値を用いた水面形の解析によって,流域レ ベルで治水ストックのより効果的な活用を目指す流域治 水の考え3を鬼怒川を事例に検討し,今後の治水のある べき方向を探る.

3.鬼怒川流域の平成27年9月洪水における水量収 支の実態とその改善策

前述したように鬼怒川平成27年9月大洪水では,鬼怒川 下流部で溢水と堤防決壊による氾濫被害が生じた.しか し,河幅が広いが,低水路の河床低下が著しい中流部で は,ほぼ低水路満杯程度で流れ,左右岸に計22ヶ所存在 する霞堤による氾濫貯留が生じることはなかった.ここ では,最初に観測水面形に基づいた非定常洪水流・河床 変動解析3)4)より求めた河道貯留量から,平成27年9月洪 水時における鬼怒川流域全体の時空間的な水量収支を示 す.次に,下流部の洪水水位,流量を減じるために,中 流部の低水路河床高を上昇させ,河道水面幅を広げ,ま

た霞堤区間の氾濫貯留をもたらす河道断面形の変更や幾 つかの対策によって,河道中流部での洪水流の貯留機能 を回復させ,ダム群と河道を一体的に捉えた貯留量の改 善による流域治水の考え方を示す.

(1)平成27年9月洪水における鬼怒川中下流部の洪 水流の特徴と水量収支の実態

図-1に鬼怒川の河幅縦断分布を,図-2に観測水面形に 基づいた非定常洪水流・河床変動解析34による水面形の 時間変化を示す.河幅が広くなる

48km

より上流側の河道 では,洪水水位はHWLよりも十分低く,洪水流下に余裕 があることが分かる.このため,中流部の河道区間で適 正な貯留を生じさせることができれば,下流区間の水位 低下が期待出来る.

図-3に鬼怒川流域の洪水水量収支の概念図を示す.鬼 怒川流域をひとつの河道システムとして捉えると,ダム 流域への全流入量

Qin

,大谷川,西鬼怒川,田川等の支川 群からの流入量の合計が本河道システムの全流入量とな る.これに対し,堤防決壊,溢水による氾濫量QIと鬼怒 川流末の流量

Qout

を流出流量と見ることができる.

図-4に,鬼怒川流域河道システムへの全流入流量,氾 濫流量,流出流量のハイドログラフを示す.ここに,ダ ム流入量及び放流量は実績データを用いた.また,大谷 川からの流入量は,佐貫の観測流量とダム放流量の合計 値の差により求めた.西鬼怒川,田川の流入量,氾濫流 量及び流末の流量は,観測水面形の時間変化に基づいた 洪水流・河床変動解析により推算した値を用いた.流域 全体で見ると,ダム流域及び支川からの流入量を合計し た全流入量は,最大で7,000m3

/sである.鬼怒川の流末に

おける最大流量が約

4,000m

3

/s

であることから最大約

3,000m

3

/s

の流量をダム群,河道及び氾濫によって低減し たと見ることができる.

次に,これらの洪水流量を時間積分することで洪水ボ リュームを算出し,降雨量やダム及び河道での貯留量と 比較することで,流域システム全体の水量収支を考察す る.図-5に,全降雨量と全洪水ボリューム,ダム群によ る貯留量,河道貯留量,氾濫量および流末からの流出量 の関係を示す.鬼怒川全体の流域平均雨量は,鬼怒川流 域の流出計算で設定されている

10

個の小流域の平均降雨 量及び流域面積の公表値5を基に作成した.流域平均雨 量の累積値は約

460mm/hr

であり,これを時間積分して総 流域面積を掛けることで得られる全降雨ボリュームは約

7

億m3に達する.これに対して,河道に流入した洪水ボ リュームは,

9

9

12:00

から徐々に増加していき,最 終的に5億m3となる.これより,流域全体の降雨流出率は 概ね

0.7

程度であったことが分かる.

河道に流入した洪水ボリュームは,図-6に示すように 上流ダム群では約1億m3が,河道では最大で約1.5億m3が 貯留された.また,堤内地への氾濫によって約

0.4

m

3が 河道から流出した4).これより,河道内では,上流の

4

- 254 - - 252 -

(3)

のダム群の貯留量を超える貯留が生じていたことが確認 できる.ここで,ダム群と河道の貯留量の時間変化の内 訳を図-6に示す.

4

つのダム群では,いずれも

9

9

13:00頃から貯留が始まっており,下流 21㎞左岸で 12:50頃

に破堤氾濫が生じたことから,洪水が終わった後も水を 貯め続けており,4日間にわたり洪水流量の低減機能を果 たしていた.同様に,河道の貯留量は時間的に変化して おり,

9

10

10:00

頃に河道貯留量はピークを迎え,そ の後貯留量の放出とともに徐々に低減していく.このよ うに,洪水現象は,豪雨の河道での貯留による水位上昇 と放出による水位低下といった時空間変化の過程を経て,

水位と流量を下流に伝播,変形させる力学現象であると 解釈できる.このような洪水水理現象の理解に基づいて,

河川の計画,設計,管理が行われることが,強く求めら れる.

河床勾配が急で川幅の狭い上流区間では,貯留量は小 さいが,広大な河幅を有する中流部は,相対的に大きな

貯留量ポテンシャルを有している.しかし,河幅の狭い 下流部の値に比べて中流部で

1,000

m

3程度貯留量が少な くなっている.これは,先に示したように,中流部の低 水路の河床低下の進行により,洪水が低水路満杯の低い 水位で流下しており,広大な河幅を使った河道内貯留や,

霞堤からの氾濫貯留が生じない状況の河道となっていた ことが要因である.

(2)中流部の船底形河道断面形状への変更等による 河道内貯留量改善効果の試算

上記河道実態を踏まえ,今次の洪水で河道の

HWL

と実 績最大洪水水位の差,Δ

H

が大きかった鬼怒川中流区間 において,河床勾配が比較的緩く,

5

箇所の霞堤が存在す る

46.75km

65.5km

までの

18.75km

区間を対象に,河床の 埋め戻しと高水敷の切土による河道断面の形状変更を 行った場合の貯留効果の改善について試算を行った.河 床高は,図-7に示すように46.75kmと65.5kmの河床を滑ら

‐800

‐600

‐400

‐200 0 200 400 600 800

4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62 64 66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100102

河道中央からの横断距離(m

利根川合流点からの距離(km)

平方 川島 鬼怒川水海道 鎌庭

石井

宝積寺 堤防

低水路

20 25 30 35 40 45 50 55

43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55

標高(Y.P.m

利根川合流点からの距離(km)

9/9 21:00解析値 9/10 0:00解析値 9/10 3:00解析値 9/10 6:00解析値 9/10 12:00解析値 9/10 18:00解析値 堤防高(左岸)

堤防高(右岸)

平均河床高(初期) HWL 9/9 21:00観測値 9/10 0:00観測値 9/10 3:00観測値 9/10 6:00観測値 9/10 12:00観測値 9/10 18:00観測値 平均河床高(洪水後) 洪水痕跡水位(左岸)

洪水痕跡水位(右岸)

平均河床高(実測) 川島

43k

低水路粗度係数0.036 低水路粗度係数0.035

田川

43 48 53 58 63 68 73 78

55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65

標高(Y.P.m

利根川合流点からの距離(km)

9/9 21:00解析値 9/10 0:00解析値 9/10 3:00解析値 9/10 6:00解析値 9/10 12:00解析値 9/10 18:00解析値 堤防高(左岸)

堤防高(右岸)

平均河床高(初期) HWL 9/9 21:00観測値 9/10 0:00観測値 9/10 3:00観測値 9/10 6:00観測値 9/10 12:00観測値 9/10 18:00観測値 平均河床高(洪水後) 洪水痕跡水位(左岸)

洪水痕跡水位(右岸)

平均河床高(実測) 低水路粗度係数0.036

図-2 鬼怒川中流部の水面形の時間変化 (a)43~69k

(b)55~65k

図-1 鬼怒川の川幅縦断分布

- 255 - - 253 -

(4)

かに繋ぐように設定した.図-8に,現況河道に対する経 年的な河床高6と想定した船底形河道の河床高の差を示 す.船底形河道7は,低水路の河床高を必要量上昇させ ても洪水時の河積を減らさず,また河川環境的にも望ま しい断面形を与えることから採用した.検討対象区間の 河床埋戻し高は平均的に約1.5mである.想定した河床の

埋め戻し高は,大規模な砂利採取や河道掘削が行われる 前の昭和

44

年(

1969

年)頃の河床高であり,上流ダム貯 水池群の堆砂土砂量を活用できれば,ダムにとっても河 道にとっても管理上望ましい.本検討で想定した河道改 修に必要な埋め戻し土量は,

1683

m

3,高水敷の切土量 は239万m3であり,必要土量は1444万m3となる.図-9に は,

59km

地点を例に,現況河道と設定した河道の断面形 状を示している.低水路の埋め戻しと高水敷の切土によ る船底形断面を想定しており,埋め戻し後のHWL以下の 河積は平成

27

9

月洪水時の河積よりも大きくなることを 確認している.

設定した船底形河道において,平成

27

9

月洪水が流下 した場合の洪水流解析を実施した.図-10に中流部河床埋 戻し区間の水位及び水面幅の縦断図を現況河道と比較し て示す.計算の結果,河床の埋め戻しを行ったとしても,

概ねHWL程度の水位で平成27年9月洪水が流下できるこ

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000

2015/9/9 12:00 2015/9/10 0:00 2015/9/10 12:00 2015/9/11 0:00 2015/9/11 12:00 洪水(m3)

Vrain Vin(合計)

Vin(合計)-Sd(ダム貯留量) Vin(合計)-Sd(ダム貯留量)-VI(氾濫量)

Vout(鬼怒川流末)

降雨損失分 ダム貯留分(Sd 河道貯留分

(S1+S2+S3

流末から の流出量 氾濫量(VI=∫QIdt)

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000

2015/9/9 12:00 2015/9/10 0:00 2015/9/10 12:00 2015/9/11 0:00 2015/9/11 12:00 流量(m3/s)

Qin+QD+QN+QT(流入量合計) QI(氾濫流量合計) Qout(鬼怒川流末)

図-4 流量ハイドログラフ

図-5 全降雨量と全洪水ボリューム,ダム群による 貯留量,河道貯留量,氾濫量の関係

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000

9/8 0:00 9/9 0:00 9/10 0:00 9/11 0:00 9/12 0:00 9/13 0:00 9/14 0:00

貯留量(m3 上流区間

中流区間 下流区間 合計 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000

9/8 0:00 9/9 0:00 9/10 0:00 9/11 0:00 9/12 0:00 9/13 0:00 9/14 0:00

貯留量(万m3 川俣ダム 川治ダム

湯西川ダム 五十里ダム 合計

約1億m3

(ダム群による貯留量最大)

約1.3億m3

(堤防決壊時)

河道(上・中・下流部)

上流ダム群

ダム直下~堤防決壊箇所の 洪水波形の遅れ時間:約12hr

約6000万m3

(決壊以降にダム群に貯めた量)

図-6 ダムと河道の貯留量の時間変化の内訳3

大谷川

鬼怒川

利根川

Qout 西鬼怒川

田川

佐貫

石井

川島

水海道

中流区間:dS2/dt=Q2+QN+QT-Q3 Qin:ダム流域への全流入量

Q2

Q3 QD

QN

QT

QI:氾濫量合計

下流区間:dS3/dt=Q3-QI-Qout 上流区間:dS1/dt=Q1+QD-Q2 上流ダム群:dSd/dt=Qin-Qout

5k 46k 101.5k 132k

川治ダム 五十里ダム

湯西川ダム 川俣ダム

図-3 鬼怒川流域の洪水水量収支の概念図

50 52 54 56 58 60 62

‐100 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

標高Y.P.m

横断距離(m)

50 52 54 56 58 60 62

‐100 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

標高(Y.P.m

横断距離(m)

59k

船底型 59k

HWL

H27.9洪水実績水位

HWL

埋め戻し部分(830m2 現況河道

埋め戻し河道

切土部分(67m2

図-7 中流部の設定した埋め戻し区間と河床高

20 30 40 50 60 70 80

43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69

平均河床高(Y.P.m

縦断距離(km)

現況河道 埋め戻し 河道 HWL

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5

43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69

埋め高(m

縦断距離(km)

埋め戻し 高 勝瓜頭首工

埋め戻し区間

川島

図-9 設定した船底形河道断面形状(59km の例)

図-8 現況河道に対する河床高の差

‐1

‐0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100

現況河道に河床高の差(m

縦断距離(m)

S39 S40 S41 S44 S49 S51 S53 S55 S58 H2 H5 H10 H13 H17 現況(H27) 船底型河道 船底形河道(想定)

船底形河道は概ねS44年 頃の河床高程度

勝瓜頭首工

(66.75k,S44~) 岡本頭首工

(82.7k,S61~)

佐貫頭首工

(107.3k,S39~)

- 256 - - 254 -

(5)

と,水面幅が現況河道に比べて広くなるとともに,水位 が赤丸で示す霞堤の敷高に十分達することが確認された.

図-11は,

50km

付近の霞堤を例に,計算で得られた霞堤 周辺の水深コンターを示している.洪水が霞堤から堤内 地へ流れ出していることが分る.

図-12に流量と貯留率ハイドログラフを,図-13に貯留 量の時間変化をそれぞれ示す.河床埋め戻しと船底形断 面形によって勝瓜頭首工より下流にある

5

箇所の霞堤から 氾濫貯留が生じるようになる.この結果,下流の川島地 点の流量は,現況河道に比べて,立ち上がり時に100~

200m

3

/s

程度,ピーク時には

44m

3

/s

低減する.また,河床 の埋め戻しを行うことで,勝瓜頭首工から川島までの区 間の貯留量は現況河道よりも大きくなる.

21.0 km

堤防決 壊時から3時間前(川島から

21.0 km

までの洪水伝達時間) では,貯留量は3,576万m3となり,現況河道に比べて453 万

m

3大きくなる.この値は,氾濫ボリューム

4,000

m

3の 約11%に相当している.また,中流部の貯留量が453万m3 増大すると,下流区間の貯留量(水位)は減ずることに なり,下流河道の治水安全度が改善されることになる.

4.流域治水計画と総合河川計画

平成

9

年版(

1997

年)の河川砂防技術基準(案) 8の冒 頭には,流域計画,陸水計画,土砂計画,環境計画の4 つの計画から構成される「総合河川計画」が記されてい る.それらの計画が有機的に結合され,実行されること により,流域から見て望ましい川づくりのための理念が 示されている.しかし,河川流域にすむ人々の長年にわ たる活動は,「総合河川計画」で言うバランスのとれた 流域管理の実施を困難にし,理念のままであった.平成

17

年版(

2005

年)の河川砂防技術基準9では,総合河川 計画の記述は消え,現在は,治水,利水,環境の3要素 の調和・総合化による河川管理が目標とされている.

水深(m)

図-11 埋め戻し河道における霞堤への氾濫状況 (a)水深コンター(ピーク時) (b)空中写真

‐2000

‐1000 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000

9/9 12:00 9/9 18:00 9/10 0:00 9/10 6:00 9/10 12:00 9/10 18:00 9/11 0:00 9/11 6:00 流量,貯留率(m3/s

勝瓜頭首工 川島(現況河道)

川島(埋め戻し河道) dS/dt=Qin‐Qout (現況河道) dS/dt=Qin‐Qout (埋め戻し河道)

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

9/9 12:00 9/9 18:00 9/10 0:00 9/10 6:00 9/10 12:00 9/10 18:00 9/11 0:00 9/11 6:00 貯留量(万m3

貯留量S(現況河道) 貯留量S(埋め戻し河道)

【堤防決壊時ー3hr】

現況河道:3123万m3 埋め戻し河道:3576万m3

(差:453万m3

21.0k左岸堤防決壊 9/10 12:50

川島から 21.0kまでの 洪水伝搬時間3hr

図-12 埋め戻し河道における流量と貯留率ハイドログラフ

図-13 埋め戻し河道における貯留量の時間変化

25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85

43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69

標高Y.P.m

利根川合流点からの距離(km)

堤防高(左岸)

堤防高(右岸)

HWL 霞堤 最大水位(現況河道) 最大水位(埋め戻し河道) 平均河床高(現況河道) 平均河床高(埋め戻し河道) 43k 川島

田川 勝瓜頭首工

0 500 1000 1500

43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69

幅(m

利根川合流点からの距離(km)

水面幅(現況河道) 水面幅(埋め戻し河道) 堤間幅

水面幅 水位縦断分布

図-10 現況河道と埋め戻し河道の水位,水面幅の比較

- 257 - - 255 -

(6)

本文で述べた「流域治水計画」は,洪水流の主要な機 構と機能である「貯留」に着目し,ダム群と河道システ ムによる広域的,統合的管理を狙いとしている.後述す るように,流域の水害リスク管理に密接に関係するもの で,流域から見た河川のあるべき姿に関係する今日版の

「総合河川計画」に相当するものと見ることができる.

5.まとめと課題

鬼怒川中流部のΔ

H分を有効に活用するため,河床埋め

戻しによる船底形断面河道について解析を実施し効果に ついて検討した.その結果,現況河道に比べて洪水位が 高まり水面幅が拡大するとともに,霞堤への氾濫貯留が 生じることで下流への流量低減に対して一定の効果があ ることを確認した.下流側の負担をさらに軽減するため,

河床埋め戻しに加えて鬼怒川中流部の

22

か所の霞堤の地 形,利用形態等,現況調査を実施し,霞堤機能を回復さ せるための検討,横断工作物の設置や高水敷の広い区間 の遊水地化の可能性の検討が考えられる.さらに,中流 部の低水路と高水敷流れの混合を促す低水路の蛇行化10, 大規模な樹林帯の存置は,河道貯留量,洪水水位の上昇 に効果を上げる.実河道で検討されるべきと考える.

これまでは,流下能力拡大のために,河床を掘削する ことは行われてきたが,河床高を長い区間にわたって上 昇させる改修は行われなかった.中流部の貯留量の増大 は,下流洪水水位の低減をもたらす重要な対策であるが,

中流部水位と洪水貯留時間の増大は,ともに現在の堤防 の安全性に対する懸念材料となる.これらに対しては,

堤防破壊危険確率11を評価し,堤防リスク管理に繋げる とともに堤防強化を行うなど十分な説明と対応が必要と なる.河床の埋戻しについては,社会的合意,施工の実 現性,整備後の河床の長期的な安定性等についての検討 が必要である.また,埋め戻し土量の確保のための手段

(ダム貯水池群内の堆積土砂や大谷川等からの流入土砂 量)についても,技術的検討が必要となる.

現在の治水方式は,河道の洪水流を素早く海へ流す考 え方が中心である.一方,流域治水は,流域全体の治水 安全度を考え,ダム群と河道で洪水を遊ばせながらゆっ くり流す方式である.観測水面形を用いた解析は,流域 における治水施設のストックを活かしながら洪水流の時 空間的な水量配分を適正化し,流域治水,総合河川計画 への道を切り拓くものと考えられる. 流域治水の考え方 の導入は,これまで実行されたが種々の制約のために効 果を挙げるまでに至らなかったり,また実行を躊躇して きた方策の実現への新たな道が開かれることにつながる.

このことは,新しい河川施策の展開,技術開発を活性化 し,河川事業への関心を呼び起こすことが期待される.

以下に著者が考える流域治水に関連する今後の主要な 検討項目を列挙して示す.

(1) 流域全体で水量配分がバランスした新しい総合河川

計画の実現,治水ストックを活用した積極的な貯留施 策による次世代の川づくり.

(2)

河床高の上昇に資するダムからの排砂とダムの再生

策の促進,フルスペックでダムが稼働できるよう流域 治水によるダム下流河道の改修検討.

(3)

複断面河道から船底形河道への改修,正常流量の回

復等 河道貯留量を活かした治水と環境の調和した流 域一体川づくり.

(4)

堤防破壊危険確率,脆弱性指標の導入11による堤防 リスク管理と堤防の計画,設計,管理技術の向上.

(5)

まちづくりとの協働による堤内地の氾濫リスク,リ

スクコントロール対応の促進.

(6) 超過洪水対策,危機管理対策のためのリスクファイ ナンスの導入の検討.

謝辞 国土交通省関東地方整備局河川部河川計画課,下 館河川事務所より貴重なデータの提供をいただいた.ま た,中央大学研究開発機構 田端幸輔 准教授との議論は 有意義であった.記して謝意を表する.

参考文献

1)福岡捷二:洪水流の水面形観測の意義と水面形に基づく河 川の維持管理技術,河川技術論文集,第12, pp. 16 2006

2)福岡捷二:河道設計のための基本は何か-水面形時系列観

測値と洪水流-土砂流の解析を組み合わせた河道水理シス

テムとその見える化,河川技術論文集,第17, pp. 83-88 2011

3)福岡捷二:洪水流の水位と流量の今日的考え方―多点で観 測された洪水水位と水面形から河道の水理システムを見え る化する―,土木学会論文集B1(水工学) Vol.73, No.4, I_355-I_360, 2017.

4)福岡捷二,田端幸輔,出口桂輔:平成27年9月洪水における

鬼怒川下流区間の流下能力,河道貯留及び河道安定性の検

討,河川技術論文集,第22巻,pp. 373-378,2016.

5)国土交通省関東地方整備局:鬼怒川の流出計算モデルにつ いて,2015.

6)(財)河川環境管理財団,河川環境総合研究所:鬼怒川の河道

特性と河道管理の課題-沖積層の底が見える河川-河川環 境総合研究所資料第25号,2009.

7)笹木拓真,宮原幸嗣,福岡捷二:複断面から船底形断面河

道への改修による洪水流況及び低水路河床高の変化,河川

技術論文集 ,第20巻,pp. 277‐282, 2014.

8)建設省河川局監修社団法人日本河川協会編:改訂新版建設

省河川砂防技術基準(案)同解説 計画編,山海堂,1997.

9)国土交通省河川局監修社団法人日本河川協会編:国土交通

省河川砂防技術基準同解説 計画編,山海堂,2005.

10)岡田将治,福岡捷二, 貞宗早織 : 複断面河道における平面

形状特性と 蛇行度,相対水深を用いた洪水流の領域区分,

水工学論文集、第46巻,pp.761-766,2002.

11)田端幸輔,福岡捷二,瀬崎智之 : 超過洪水時における堤 防破堤確率評価手法に関する研究,土木学会論文集B1(水 工学),Vol.71,No.4,I_1273-1_1278, 2015.

2017.4.3受 付 )

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