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一寸木英多良 岡本真佐子 真鍋一史 校

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(1)

〈共同研究〉

ドイツにおける国際交流基金(Japan Foundation)の事業評価調査の分析

――「一般市民」と「ケルン日本文化会館日本語講座受講者」との比較にもとづく諸知見 ――

真 鍋 一 史

*1

岡 本 真 佐 子

*2

一 寸 木 英 多 良

*3

!.はじめに

独 立 行 政 法 人「国 際 交 流 基 金(Japan

Foundation)

」は、2006年度の「韓国における事 業評価調査」に続いて、2007年度は「ドイツにお ける事業評価調査」を企画・設計した。これまで すでに「一般市民調査」「ケルン日本文化会館日 本語講座受講者調査」「日本研究者調査」「知的交 流事業参加者調査」などが実施されている。

ここでは、「一般市民」を対象とする質問紙調 査(個別訪問面接聴取法)の結果と、「ケルン日 本文化会館日本語講座の受講者」を対象とする質 問紙調査(自記式集合調査法)の結果、の比較にも とづく諸知見の読み取りの試みについて報告する。

これら2種類の調査は、いずれも「ドイツにお ける国際交流基金の事業評価調査」として位置づ けられるものの、それぞれの調査対象者(被調査 者)が大きく異なる。つまり、国際交流基金のサ イドからするならば、前者の調査対象者は「一般 市民」であり、いわば「潜在的カスタマー」とも 性格づけられ、現在の時点ではその多くが国際交 流基金と直接の関係・つながり・かかわり合いを もっているとは考えにくい人びとであるのに対し て、後者の調査対象者はいわば「顕在的カスタ マー」であり、すでにして国交流際基金の事業・

活動・サービスの受益者となっている人びとであ る。

この2種類の調査において、われわれはほぼ同 一の質問紙(questionnaire)を用いた。それぞれ の質問内容――質問項目(question

items)――

については、「ドイツ調査・対応表」に示したと お り で あ る が、こ れ ら は 昨 年 度 の「韓 国 調 査

(2006年2月24日〜3月14日)」の調査票設計と基 本的に同じ考え方を踏まえたものである。それ は、「調査の仮説的図式(その1)」を見れば明ら かとなる。これを簡略化したのが「調査の仮説的 図式(その2)」である。

さて、「韓国調査」から、今回の「ドイツ調査」

にいたるわれわれの海外調査は、国際文化交流機 関の評価手法の開発を目的として実施されたもの である。そして、そのような評価手法の開発のね らいの1つは、従来の評価手法のこれまでの問題 点をどのように克服し、この研究領域にどのよう に新しい地平を拓いていくか、といったところに おかれた。

われわれのアイディアは、ひとまず以下の3点 にまとめることができる。

1.行政評価に「住民調査(citizen survey)」を 活用するという考え方は、行政評価の先進国とい われる米国においては、すでに広く定着してい る。しかし、そのような「住民調査」にお い て は、行 政 の 政 策(policy)・施 策(program)・事 業(project)に対する人びとの「満足度」や「重 要度」などの 意識の側面 が中心となってお

キーワード:国際交流基金、事業評価、質問紙調査、単純集計表、記述分析

*1関西学院大学社会学部教授、(独)国際交流基金客員研究員

*2桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部教授、(独)国際交流基金客員研究員

*3(独)国際交流基金総務部・企画・評価課課長補佐

October 2008 ―109―

(2)

ドイツ調査 対応表

調査対象者 一般市民 日本語講座受講者

サンプル数 506 124

調査時期 2007年3月2日〜4月3日 2007年5月29日〜6月21日

! 日本

日本体験・経験 Q2 Q1

日本情報・知識 Q3 Q2

日本関心 Q4 Q3

日本についてどの程度知っているか Q5 Q4

日本が好きか・嫌いか Q6 Q5

日本が国際貢献を果たすべき分野 Q9 Q8

" 国際社会

国際文化交流の目的 Q8 Q7

国際文化交流の意味と方向 Q10 Q9

# 国際交流基金

訪問・利用した国際機関 Q7 Q6

JFをどの程度知っているか Q11 Q10

(選択肢の「全く知らない」を除く)

JF情報・知識 Q12 Q11

JFコンタクト Q13

JFを利用しなかった理由 Q14(自由回答)

JFコンタクト頻度 Q15 Q12

JFコンタクト目的 Q16(自由回答) Q13(自由回答)

JFコンタクト時期 Q17 Q14

JF情報の伝達経験 Q18 Q15

JF情報の伝達先 Q19(自由回答) Q16(自由回答)

JFの活動は役立っているか Q20 Q17

JF事業・活動参加 Q21 Q18

JFについての要望・感想・意見 Q22(自由回答)

Q23(自由回答)

ケルン日本文化会館および日本語講座につい ての要望・感想・意見

$ 日本語講座

母語 Q19

ドイツ語以外に分かる言語 Q20

日本語講座をどこで知ったか Q21

日本語学習のきっかけ・目的 Q22

% デモグラフィック

年齢 Q1

性別 D1 D1

誕生年月 D2 D2

最終学歴 D3 D3

職業資格の有無 D4A D4A

職業資格の種類 D4B(自由回答) D4B(自由回答)

現在の職業 D5 D5

所属団体の有無 D6A D6A

所属団体の種類 D6B D6B

居住地域 欄外(郵便番号も記入) D7(都市名のみ)

JF=ケルン日本文化会館(国際交流基金)

―110― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(3)

り、それらに対する人びとの「関与度」や「受容 度」などの 行動の側面 には焦点が当てられて おらず、さらにこれら2つの側面を組み合わせる という調査票設計におけるシステマティックな方 法の導入という試みもなされていない。そのこと を、筆者の書斎の書棚にある「評価研究」に関す る文献について検証するならば、以下のとおりで ある。

① 中 井 達『政 策 評 価』(ミ ネ ル ヴ ァ 書 房、2005 年、pp.203―205)で は、政 策 評 価 の 手 法 の1 つとして「アンケート調査」があることに触れ ているものの、そのいくつかの問題点が紹介さ れるにとどまっている。

② 山 田 治 徳『政 策 評 価 の 技 法』(日 本 評 論 社、

2000年、pp.51―168)では、本書は政策の対象 となっている人びとを対象として行なう標本調 査について書かれたものであるとしているが、

そこでは評価調査のための独創的な方法論の開 発ということではなく、単に社会調査の基礎知 識が教科書的に記述されているにすぎない。

③ 小 野 達 也、田 淵 雪 子『行 政 評 価 ハ ン ド ブ ッ ク』、(東洋経済新報社、2001年、pp.155―175)

では、行政評価において「住民調査」を活用す る方法として、住民の「満足度と重要度を測る 手法」が紹介されているが、それ以上の調査票 設計のアイディアについては書かれていない。

このような先行研究の現状に鑑みて、われわれ は海外における国際交流基金の事業評価調査の調 調査の仮説的図式(その1)

オリリエエンンテテーーシショョンン の

の内内容容 オ

オリリエエンンテテーーシショョンン の

の対対象象 国際社会 日 本 国際交流基金(JF)

Involvement

Q2 ①日本体験「度」

②日本体験「領域」

Q3 ①日本情報「度」

②日本情報「領域」

Q4 ①日本関心「度」

②日本関心「領域」

Q5 日本についてどの程度知っ ているか

Q7 訪問・利用機関

Q11 JFをどの程度知っているか(「度」)

Q12 ①JF情報「度」

②JF情報「領域」

Q13 JFコンタクト経験 Q15 JFコンタクト「度」

Q17 JFコンタクト時期 Q18 JF情報の伝達経験 Q19 JF情報の伝達先

Q21(A)①JF事業・活動参加「度」

②JF事業・活動参加「領域」

Attitude Q8 国際文化交流の

目的

Q10 国際文化交流の 意味と方向

Q6 日本は好きか・嫌いか Q9 日本が国際貢献を果たすべ

き分野

Q20 JFの活動は役立っているか Q21(B)JF事業・活動に対す る 評 価

「度」

Q14 (利用したことのない人に)利用しない理由、期待すること(自由記述回答)

Q16 JFコンタクト目的(自由記述回答)

Q22 JFに対する要望・意見(自由記述回答)

仮説的図式(その2)

オリエンテーションの対象

オリエンテーションの内容 日本 JF

Involvement Ⅰ Ⅲ

Attitude Ⅱ Ⅳ

(仮説的図式(その2)は仮説的図式(その1)を簡略化したものである。)

October 2008 ―111―

(4)

査票設計に、社会測定の研究領域における1つの 到達点ともいえる方法論的ブレークスルーをもた らした

Louis Guttman

Facet Approach

の考え 方――Facet Design, Facet Analysis, Facet Theory の三位一体的な考え方――を導入することを提案 したのである(真鍋一史「ファセット:ファセッ ト・デザイン、ファセット・アナリシ ス、フ ァ セット・セオリー」『ファセット理論と解析事例』

ナカニシヤ出版、2002年、真鍋一史『社会・世論 調査のデータ解析』慶應義塾大学出版会、1993年 などを参照されたい)。

2.一般に、行政評価や国際機関評価などにお いては、上述の「調査の仮説的図 式(そ の2)」 のⅣの領域の質問諸項目によって、行政や国際機 関の事業・活動・サービスに対する人びとの評価 を測定するというところに焦点が合わされる。し かし、国際交流基金の事業評価というものは、こ のような「狭い意味での評価」にとどまるもので はない。それは、国際交流基金の事業・活動・

サービスの目的が「我が国に対する諸外国の理解 を深め、国際相互理解を増進する」(独立行政法 人国際交流基金法第3条)ことにあるとされてい ることを考えれば、容易に理解されるであろう。

こうして、「調査の仮説的図式(その1)」に示し たように、今回の海外調査においては、その調査 票設計の段階において、Ⅳの領域の質問諸項目の 分析を、広くⅠ、Ⅱ、Ⅲの諸領域の質問諸項目と の関連において進めていくというアイディアを採 用したのである。

3.2006年の「韓国調査」においては、「一般 市民」を対象とする質問紙調査に加えて、国際交 流基金ソウル日本文化センターの「図書館利用 者」「日本語講座受講者」「フェローシップなどの 国際交流基金公募事業関係者」に対する質問紙調 査を併せて実施したが、今回の「ドイツ調査」に おいても、「一般市民」以外に「ケルン日本文化 会館日本語講座受講者」をはじめとして、「日本 研究者」「知的交流事業参加者」「文化事業参加 者」などに対する質問紙調査を企画・設計してき ている。この小論においては、このようなドイツ における「一般市民」を対象とする調査と、「日

本語講座受講者」を対象とする調査の2つの調査 結果を比較することをとおして、「何が見えてく るか」に焦点を合わせる。では、なぜこのような 比較という視点を今回の海外調査の企画・設計に 盛り込むことにしたのか。これが、ここでの評価 手法の開発についての3つ目の提案ということに なる。じつは、国際交流基金の評価手法の開発を ねらいとするわれわれの海外調査において、いわ ば国際交流基金の「潜在的カスタマー」ともいう べき「一般市民」と、その「顕在的カスタマー」

ともいうべき「国際交流基金事業参加者グルー プ」の両方を調査対象者に選んだ意図は、つぎの 点にある。それは、第1に、国際交流基金の事業 評価において、まずその事業・活動・サービスに ついての直接の受益者ともいうべき「国際交流基 金事業参加者」――ここで今回のドイツ調査での

「日本研究者」がすべて基金事業参加者であるわ けではないということはいうまでもないが、この 点については後に改めて取りあげることにする

――からその「評価」を聴取するというのは、大 学評価において「学生による授業評価」が必須の 要件であるというのと同じ意味合いをもつものと いえるであろう。それが国際交流基金の「自己評 価活動」の重要な課題の1つであること間違いな い。しかし、われわれの意図はこの点だけにとど まるものではない。じつは、調査の企画の段階 で、それを越えた、いわば「方法論的ねらい」と もいうべきものが、すでにして組み込まれていた のである。それは、一口でいえば、「実験計画法

(Experimental Design)的なアイディア」の導入 ということである。

いうまでもなく、「実験計画法」は、米国の統

計学者

R. A. Fisher

によって提唱された科学的研

究法についての考え方である。この考え方は、基 本的には自然科学における実験的方法の3つの要 件を踏まえたものといえる。それは、①「実験グ ループ(experimental group)」と「対照グループ

(control group)」を分ける、②研究対象者をこの 2つのグループにふり分ける場合、恣意的な要素 をすべて排除したふり分け――「無作為ふり分け

(random

assignment)

」と 呼 ば れ る――を 行 な う、③独立変数以外の条件はすべて同じものにコ ントロールする、という準備をした上で、独立変

―112― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(5)

数を操作する実験を行ない、それに対する2つの グループの反応を測定し、従属変数の値が2つの グループ間で統計的に有意に異なっていたとき、

独立変数が従属変数に効果を及ぼしたという因果 関係が確定されるという考え方である(土田昭司

「実 験 計 画 法」『新 社 会 学 辞 典』(有 斐 閣、1993 年、pp.563)。

ここで、われわれの方法論的な立場を実験計画 法「的」な考え方と表現したのは、今回の「一般 市民」と「日本語講座受講者」という2つ の グ ループを、本来の「実験計画法」のような厳密な 要件によってコントロールした上で観察しようと いうのではなく、むしろそれぞれを現時点でのあ りのままの自然の状態で観察――「質問紙調査」

という手法による観察――するという仕方をとる ものの、それら2つのグループの「比較」に際し ては、「実験計画法」の考え方をそのための1つ の視座として援用するという考え方に立っている からにほかならない。それは、具体的にいえば、

以下のようなことである。すでに述べたように、

一般に行政評価や国際機関評価などにおいては、

「調査の仮説的図式(その2)」のⅣの領域の質問 諸項目によって、それらの提供する事業・活動・

サービスに対する人びとの評価を測定するという ことが中心的な課題となる。それが「中心的な」

課題となるというのは、評価調査の課題はそれだ けに限定されるわけではないということである。

いうまでもなく、それ以外の課題もある。その1 つは、調査対象者がどの程度そのような「事業・

活動・サービス」の受益者となっているか、どの 程度そのような「事業・活動・サービス」に関与 しているか、も同時に測定しておかなければなら ないということである。そして、そのような「受 益者度」あるいは「関与度」の高い人びとほど、

それらの「事業、活動・サービス」に対する評価 度も高いということが見出されたとするならば、

それはそれら「事業・活動・サービス」の評価と いう観点からして、きわめて望ましい結果という ことになるのである。このような人びとの「関与 度」と「評価度」との関係の測定のためには、い うまでもなく、そのような「関与度」の各レベル ごとの一定の――つまり、統計的な分析に耐える だけの数の――回答者数といったことが前提とな

る。ところが、海外――昨年は「韓国」、そして 今年は「ドイツ」――における国際交流基金の

「事業評価調査」においては、残念ながら、この 要件は「一般市民」を対象とする標本調査におい ては、まったく満たされるものとはなっていな い。それは、いうまでもなく、一般市民のなかで の国際交流基金の「認知度・知識度・関与度」が きわめて低いレベルにとどまっているということ による。

われわれは、海外調査の調査票設計に当たっ て、人びとは国際交流基金の「事業・活動・サー ビス」への「かかわり合 い(関 与:

involvement)

」 の機会をとおして、それがそれらへの評価を高め る結果となる(Ⅲの領域の質問諸項目によって測 定する)というにとどまらず、一方ではそれが契 機となって日本とのさまざまな「かかわり合い」

の機会がもたらされる(Ⅰの領域の質問諸項目に よって測定する)とともに、他方ではそれによっ て日本に対する広い意味での「ポジティブな意 識」が培養(cultivate)されてくる(Ⅱの領域の 質問諸項目によって測定する)というストーリー

(あるいはシナリオ)を仮説的に考えた。しかし、

この「かかわり合い(関与)」の各レベルごとに 一定の回答者数を見込むことのできない現状にお いては、このような仮説的ストーリーを検証する 手立てはない。そこで、このようなデータ解析の 問題点を解決するために考えられたのが、「実験 計画法『的』な考え方」の導入である。た と え ば、「ケルン日本文化会館日本語講座受講者」を 国際交流基金の「事業・活動・サービス」への関 与度の高い人びとの1例として取りあげ、その回 答傾向を探ることをとおして、上述の仮説的ストー リーを、いわば「論理的推論(logical inference)」 という仕方で、確認していく可能性に道を拓こう としたのである。しかし、いうまでもなく、「一 般市民」と「日本語講座受講者」が国際交流基金 への関与度以外の諸条件においてはすべて同一で ある(random assignment)という保証はまった くない。それにもかかわらず、このような考え方 の導入以外に、われわれが直面している分析上の 壁を破っていくいかなる方策も考えられない現状 にあって、このようなある意味で「人為的な分析 の試み」にも意味がないわけではな い。L. Kish

October 2008 ―113―

(6)

のいうように、社会調査という人間の探究活動に おいては、「望ま し い こ と(the

desirable)

」と

「で き る こ と(the

possible)

」と の 間 に、常 に ギ ャ ッ プ が 存 在 す る(Statistical Design for Research,

John Wiley,

1987)。まずは「できるこ と」から手がけていこうというのが、ここでの基 本的な考え方である。「一般市民」と「ケルン日 本文化会館日本語講座受講者」との比較にもとづ く諸知見の読み取りは、まさに以上のような問題 関心から進められる野心的な知的営為の試みにほ かならない。

因みに、「実験計画法」という科学的研究法に ついての基本的な考え方は、L. Guttmanの

Facet

Approach

のルーツの1つでもあったという点を

付記しておきたい。

!.調査の概要

「一般市民を対 象 と す る 質 問 紙 調 査」お よ び

「ケルン日本文化会館日本語講座受講者を対象と

する質問紙調査」の調査概要は以下のとおりであ る。

1.ドイツ一般市民を対象とする質問紙調査

(1) 調査対象:ケルン、デュッセルドルフ、ボ ンの都心部に居住する18歳以上のドイツ語 を話す一般市民男女。

(2) 標本抽出:サンプリングと実査はドイツの

調査会社

Marplan

社に委託して実施した。

「ADMサ ン プ ル・シ ス テ ム(1970年 代 に

「ド イ ツ 市 場・世 論 調 査 協 会 研 究 チ ー ム

Arbeitskreis Deutscher Markt-und- Meinungsforschunginstitute:ADM)によっ

て開発されたサンプリング・システム」に もとづく「ランダ ム・ウ ォ ー ク・メ ソ ッ ド」により任意抽出された世帯から「キッ シュ・メソッド(Kish Method)」により調 査対象者を選び出す方法。

(3) 調査方法:調査票(質 問 紙)に も と づ く

「個別訪問面接聴取法」。

日本語講座受講者

クラス名 質問票番号 度数(回答者数) クラスの全人数

1A 1―18 18 23

1N 19―28 10 15 2A 29―40 12 16

2N 41―44 4 6

3 45―66 22 25 4 67―82 16 20

5 83―89 7 7

6 90―105 16 18 7 106―110 5 7 8 111―114 4 8 9 115―124 10 10

合計 124 155

<クラスのレベル>

クラス名 レベル

1A(夜の部 PM6:45―8:45)

初級『みんなの日本語』1〜10課 1N(午後の部 PM4:30―6:30)

2A(夜の部 PM6:45―8:45)

初級『みんなの日本語』11〜20課 2N(午後の部 PM4:30―6:30)

3 初級『みんなの日本語』21〜30課 4 初級『みんなの日本語』31〜40課

5 初級『みんなの日本語』41〜50課(日本語能力試験3級レベル)

6 初中級

7 中下級

8 中上級(日本語能力試験2級レベル)

9 上級

―114― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(7)

(4) 調査期間:2007年3月2日〜4月3日。

(5) 回収数(率):506/714(70.9%)。

2.ケルン日本文化会館日本語講座受講者を対象 とする質問紙調査

(1) 調査対象:ケルン日本文化会館日本語講座

「初級」〜「上級」の9クラスの受講者。

(2) 調査方法:質問紙(調 査 票)に も と づ く

「自記式の集合調査法」。

(3) 調査期間:2007年5月29日〜6月21日。

(4) 回収数(率):124/155(80.0%)。

!.「一般市民を対象とする質問紙調査」

の結果からの知見の読み取り

1.日本についての体験・経験(Q2 )

①単純集計の結果の表示の仕方について、はじ めに説明しておかなければならない。Q2は複数 回答形式を採用しており、今回の調査の有効回答 者数は506人となっている。そこで、それぞれの 項目(1〜16)ごとに、その項目を選んだ回答者 の有効回答者に占める%を棒グラフに表示した

(図1)。

②単純集計結果の「読み取り」については、

「演 繹 的(deductive)な 方 法」と「帰 納 的

(inductive)な方法」の2つが考えられる。前者 は、社会科学の領域における既存の「理論・法則・

一般化」のアイディアを用いて、何らかの傾向を 読み取ろうとする行き方であり、後者は、単純集 計の結果を素朴に「見つめる」ことを通して、何

らかの「理論化・法則化・一般化」の方向を模索す るという行き方である。ここでは、とくにいずれ かの行き方を優先するという考え方はとらない。

③有効回答者の何%が「体験・経験がある」と 回答すると、その回答の%は高いといえるのかに ついては、一定の基準がわけではない。ただ、社 会現象の分析については、古くから50%といった ところが1つの基準とされてきた。たとえば、L.

Guttman

Median Regression Analysis

において、

100%の

Median、つまり5

0%のところに焦点を合 わせたというのはその1例である。また、E. M.

Rogers

は「イノベー シ ョ ン の 普 及 過 程 の 研 究」

において、いわば「理念型としての採用者カテゴ リィ」ともいうべきものを示しているが、それは

「革 新 的 採 用 者」2.5%、「初 期 少 数 採 用 者」

13.5%、「前期多数採用者」34%、「後期多数採用 者」34%、「採用遅滞者」16%という分類基準で ある(E. M. Rogers、宇野善康監訳『普及学入門』

産業能率大学出版部、1981年)。ここでは、ひと まず以上のような先行研究を踏まえて、単純集計 結 果 の「読 み 取 り」に お い て、50%、20%――

「革新的採用者」と「初期少数採用者」を加えた

%をやや上回るところ――といったところを1つ の基準として用いることにする。

④ここでの質問項目(question

items)は、広

い意味での「異文化体験」について尋ねたもので ある。

・50%を越えるのは:

「日本に関する新聞・雑誌記事を読んだことが ある」(319人)

革新性をもとにした採用者カテゴリー

いつイノベーションを採用したかによって測定される革新性の大きさ には連続性がある。けれども、採用時点の平均値から標準偏差ずつ区切 ることにより、この連続体は5つの採用者カテゴリーに分けられる。

October 2008 ―115―

(8)

「日 本 の 製 品 や 商 品 を 購 入 し た こ と が あ る」

(292人)

「日本の料理屋・レストラン・居酒屋・バーな どで飲食したことがある」(254人)

・40%を越えるのは:

「日本の映画・アニメ・漫画を見たことがある」

(214人)

・30%を越えるのは:

「学校・大学で日本のことを学んだことがある」

(157人)

・20%を越えるのは:

「日 本 に 関 す る 展 覧 会・公 演・講 演 会 な ど に 行ったことがある」(112人)

⑤ 以 上 の よ う に、20%を 越 え る 項 目(items)

は、「メディア」「商品」「教育」「イベント」など による「異文化体験」で、すべていわば「間接的 な体験」ともいうべきものである。

⑥逆に「体験・経験」についての回答者が10%

以下の項目としては、以下のものがある。

「日本の友人・知人がいる」(58人)

「日本企業・日系企業と取引をしたことがある」

(48人)

「日本企業・日系企業で働いたことがある」(24 人)

「観光で日本に行ったことがある」(19人)

「仕事で日本に行ったことがある」(7人)

「留学で日本にいったことがある」(1人)

これらは、いずれも「直接的な体験」ともいうべ きものである。

⑦以上の結果について注目すべきは、「国際化

・世界化・全球化」の時代といわれる今日におい ても、やはり人びとの「異文化体験」の主流は

「間接的体験」であり、「直接的体験」の機会は少 ない――真鍋一史「グローバル・コミュニケー シ ョ ン と し て の 広 告」『グ ロ ー バ ル・コ ミ ュ ニ ケーション論』(ナカニシヤ出版、2002年)――

ということである。ここに、いわゆる「国際文化 交流機関」の果たすべき役割が示唆されていると いえないであろうか。

⑧再び「イノベーションの普及過程の研究」の アイディアを援用するならば、今回の「ドイツ調 査」の結果とくらべて、昨年の「韓国 調 査」で は、「間接的体験」のかなりの項目で日本体験が

「後期多数採用者」のレベルにまで達していた。

つまり、韓国についていえば、このような形での 日本体験はそろそろ、社会学理論でいうところの

「redundancy」のレベルにまで達しつつある――

真鍋一史「政治意識と政治情報――神戸市におけ る政治意識調査から――」『マスコミ文化』(国民 出版協会、1975年、6月)――のに対して、ドイ ツではようやく「前期多数採用者」のレベルから

「後期多数採用者」のレベルへのシフトが始まり つつあるところであるといえるかもしれない。こ のような視点を、国際文化交流機関の政策・施策

・事業にどう取り入れていくかを検討すること は、今後の重要な課題の1つとなってくるであろ う。

2.日本についての情報・知識源(Q3 )

①この質問は「日本情報」を獲得するための媒 体・機関・人についての項目であり、前問と同様 の仕方で結果を見ていく(図2)。

②50%、20%を1つの基準として見ていく。

・50%を越えるのは:

「テレビ番組」(416人)

「新聞記事」(363人)

「雑誌記事」(283人)

・20%を越えるのは:

「友人・知人・職場の同僚から聞いて」(146人)

「新聞・雑誌の広告」(135人)

「ラジオ番組」(112人)

「本」(108人)

「劇場映画」(103人)

③以上の「媒体」「人」とくらべるならば、「ケ ルン日本文化会館(国際交流基金)」「在ドイツ日 本国大使館・総領事館」「ベルリン日独センター」

「独日協会、独日友好協会」などの「機関」をあ げる回答者はきわめてわずかである。それは、

「媒体」「人」の場合とく ら べ て、こ れ ら の「機 関」の場合は、そのような機関を利用する情報獲 得の行動が、より「意図的・能動的・主体的」の ものであるからであるという仮説が立てられるで あろう。それは、「テレビ番組」の回答が80%を 越えて最も高く、このような「機関利用」と対極 をなしていることから明らかとなる。たとえば

G. Gerbner

は「テレビ」というメディアの特性つ

―116― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(9)

いて、つぎのように述べている。「ほかのあらゆ るメディアとくらべてテレビはより多くの人びと のより多くの時間と注目を獲得している。ほかの メディアと違って、テレビの場合は、待つことも 計画することも、探し出すことも必要でない。そ れは直接に家庭のなかでいながらにして見られる ものであり、また四六時中見られるものである。

テレビを見るのに動く必要はないし、読み書き能 力も必要でない」(G. Gerbner,

Where We Are and Where We Should Be Going, Paper Presented to the Working Session on Mass Communication Research of IAMCR Conference,1

976

. p.3)

④ し か し、Gerbnerか ら 離 れ て、再 び

Rogers

の「普及」概念の援用というアイディアに戻るな らば、これら機関の利用者を「革新的採用者」と 位置づけ、そのような利用者の拡大過程を政策論 的に考察することの重要性が改めて認識されるこ とになる。ここでは、このような問題の所在を指 摘しておくにとどめる。

⑤ここでの選択肢の1.新聞記事から13.学校 の授業・教科書については、それら諸項目につい てのいわば「客観的データ」ともいうべきものを 準備し、それらと対応させながら、ここでの結果 を検討するという「分析作業」が要請されること になる。たとえば、「現在、ドイツの新聞記事で はどのくらいの割合で日本情報が扱われている か」といったことについてのデータと対応させる ことで、「新聞記事」という項目を選択した回答 者の割合の意味づけが可能となってくるからにほ かならない。この点については、K. Nafrothによ るドイツの新聞で取りあげられた日本についての 記事の内容分析を参照されたい(Katja

Nafroth,

Zur Konstruktion von Nationenbildem in der Auslandsberichterstattung Das Japanbild der Deutschen Medien im Wandel,

LIT Verlag Munster,

2002)。

⑥さらに、このような「単純集計結果」の読み 取りのためには、人びとの日常生活における「メ ディア接触行動」の傾向を把握しておくことも重 要 な ポ イ ン ト と な る。い う ま で も な く、「テ レ ビ」」に よ る 日 本 情 報 へ の 接 触 度(こ こ で 接 触

「度」というのは、人びとの何%がテレビ番組を 見ているかといった集合的な意味での「度合い」

を示している)が「新聞」よりも高いのは、単に 普段のメディアの接触行動を反映したものにすぎ ないとも考えられるからである。この点について は、真鍋一史『国際イメージと広告』(日経広告 研究所、1998年)を参照されたい。ここでは問題 の所在を指摘するにとどめる。

⑦日本情報・知識源として選択肢にあげた諸項 目のそれぞれの特性については、すでに述べてき たが、もう一度それらをまとめていえば、1〜8 は「マス・メディ ア」、9〜10は「パ ー ソ ナ ル・メ ディア」、11〜13は「特殊関心的メディア」、14〜15 は「パーソナル・コミュニケーション」、16から19 は「特定機関情報」という分類がなりたつであろ う(E. L. Hartley and R. E. Hartley, Fundamentals of Social Psychology, 1952

, pp.1

62―164)。そし て、これまでの知見の読み取りで取りあげていな い項目に「パーソナル・メディア」と「特殊関心 的メディア」がある。これらをあげる回答者の%

は、いずれも20%を切るものとなっている。この 点も、今後の「国際文化交流機関の広報活動のあ り方」という課題からして、きわめて重要な知見 といわなければならない。

3.日本の事柄についての関心(Q4 )

①一般に「単純集計表」の読み取りにおいて は、ま ず 回 答 の 分 布 が「単 一 最 頻 型(single-

modal)

」か、そ れ と も「複 数 最 頻 型(multi-

modal)

」かを検討するのが常套手段となってい

る。そこで、それぞれの項目ごとに、この点につ いて検討するならば、ここにあげた22項目はつぎ の2つのパターンに分けられることがわかる。1 つは、ここでの回答のカテゴリィは、「とても関 心がある」「まあ関心ある」「あまり関心がない」

「全く関心がない」の4段階としたが、この順で それぞれのカテゴリィを選択する回答者の%が高 くなり、「全く関心がない」のところの%が最も 高いという「単一最頻型」のパターンであり、も う1つは「まあ関心がある」と「全く関心 が な い」の2つのカテゴリィで回答者の%が高い「2 カテゴリィ最頻型」のパターンである。ほとんど の項目が前者のパターンとなっているのに対し て、後者のパターンは「11.食べ物・飲み物・料 理」「12.商品・製品」「14.名所・旧跡」の3項

October 2008 ―117―

(10)

目に限られている。ここでの知見は、以下のよう な点を示唆しているかもしれない。それは、人び との外国(ここでは日本)の事柄に対する関心の レベルについての、将来の変化の予測ということ である。つまり関心レベルを4つのカテゴリィで 捉えるという試みにおいては、その変化の「きざ し」は「まあ関心がある」というレベルでまず現 われるということである。この点が「ドイツ」に 固有のものであるかどうかの確認は、興味深い課 題といえよう。

②つぎに選択肢にあげた項目ごとの比較をする ために「1.とても関心がある」と「2.まあ関 心がある」の回答を合計した数値でグラフを作成 した(図3)。このグラフによれば、諸項目は以 下の3つに分類される。

・40%を越える項目:

「食べ物・飲み物・料理」(212人)

「商品・製品」(230人)

「名所・旧跡」(212人)

・20%を越える項目:

「美術・絵画」(145人)

「伝統芸能」(168人)

「映画・アニメ・漫画」(125人)

「スポーツ」(116人)

「流行」(122人)

「自然・地理」(175人)

「科学技術」(125人)

「社会・生活・風習」(172人)

「経済・産業・企業」(124人)

「政治・外交・国際関係」(116人)

「歴史」(141人)

「ドイツとの関係」(168人)

・20%を下回る項目:

「音楽・歌謡・Jポップ・民謡」(53人)

「ファッション」(72人)

「文芸」(95人)

「コンピューターゲーム・ビデオゲーム・ゲー ム機」(61人)

「タレント・歌手・俳優」(36人)

「宗教」(93人)

「日本語」(23人)

以上の結果から、いくつかの研究テーマが示唆 される。それは、「外国(ここでは日本)の事柄

に対する関心」といった人びとの主観的意識につ いての理論化の方向である。まず1つは、「単純 集計表」から「見えてくるもの」と、「見えてこ ないもの」がある。後者の1つとして、人びとは さまざまな日本の事柄について、あることには関 心をもつが、ほかのことには関心をもたないとい うように、関心は「選択的」であるのかどうかと いうことがある。あるいは、あるものに関心をも つ人はほかのものにも関心をもつ――逆にいえ ば、あるものに関心をもたない人は、ほかのもの にも関心をもたない――というように、関心は

「all or nothing」の傾向を示すものなのであろう か。この点については、「単純集計」結果の検討 からは何もいえない。「クロス集計」「相関分析」

など、つぎの段階の分析を待たなければならな い。

つぎに、ここでの結果と、Q2日本についての 体験・経験の結果をくらべてみるならば、「商品

・製 品」や「食 べ 物・飲 み 物・料 理」に つ い て は、「体験」と「関心」はパラレルな関係にある ことがわかる。ここから「関心・体験は機会の関 数である」という命題が導かれることになる。具 体的にいうならば、それは、今やドイツにおいて も「日本の商品・製品」が人びとの身辺に溢れ、

「日本の料理屋や居酒屋」も身近なところにある ようになってきており、そこで人びとの関心も高 くなってきているという考え方である。このよう な考え方の同じ線上に「名所・旧跡」に対する関 心も位置づけられる。つまり、ドイツにおいて も、日本は「観光旅行」の目的地の1つに数えら れるようになってきており、そこで日本の「名所

・旧跡」への関心も相対的に高いものとなってい るということである。この点については、つぎの 文献を参照されたい。真鍋一史、Sven Holst「外 国における日本イメージの探究――ドイツの外国

・地域・都市紹介雑誌に描かれた日本――」『関 西学院社会学部紀要』(第102号、2007年)。

さらに、マーケティングの研究領域で古くから 利用されてきた

AIDMA

図式をここでの考えの展 開のために援用するというアイディアが提案され る。いうまでもなく、Aは注目(Attention)、Iは 関 心(Interest)、Dは 欲 求(Desire)Mは 記 憶

(Memory)、Aは 行 動(Action)を 意 味 す る。つ

―118― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(11)

まり、人びとはある広告に目を惹かれ、それに関 心を抱き、その広告の訴求している商品が欲しく なり、その広告を記憶し、しかる後にその商品の 購買行動に移るという考え方である(真鍋一史

『社会・世論調査のデータ解析』慶應義塾大学出 版会、1993年)。このモデルによれば、人びとの 関心は、上述の「機会」の関数ということ以外 に、「注目(Attention)」――つまり主体の「選択 的な」意識――によって惹起されるという側面が ある。こうして、人びとの「関心」についての以 上のような理論化の方向を、国際文化交流機関が その政策・施策・事業の展開にどのように取り入 れていけばいいのかの検討が、今後の重要な課題 となってくるのである。

4.日本に対する認知度

――どの程度知っているか――(Q5 ) 日本に対する認知度に関しては、「あなたは日 本について、どの程度知っていると思いますか」

という質問文と、「1.とてもよく知っている」

「2.ま あ 知 っ て い る」「3.あ ま り 知 ら な い」

「4.全く知らない」という4つの回答のカテゴ リィを準備した。

結果(図4)は、

1.とてもよく知っている: 0.8%( 4人)

2.まあ知っている: 12.3%( 62人)

3.あまり知らない: 48.4%(245人)

4.全く知らない: 38.5%(195人)

となった。ここでの回答の分布の形は、「関心」

の場合に示された多くの分布の形と似ているよう でもあるが、やはり違いもある。それは、「関心」

の場合は「とても関心がある」のレベルから「全 く関心がない」のレベルへと完全な

linear

な形で

%の増加が見られたのに対して、「認知」の場合

は完全な

linear

な形とはならずに「あまり知らな

い」のところでの%が最も高く、「全く知らない」

ではその%がそれに比べてやや(10%ほど)低く なっているということである。以上のような「関 心」と「認知」という2つの心的傾向には、その ような心的傾向の向かう対象を「日本」というこ とに限った場合に、どのような関係が見られるこ とになるかが、つぎの分析課題として取りあげら れることになる。

5.日本に対する好感度――日本が好きか、それ とも嫌いか――(Q6 )

日本に対する好感度に関しては、「日本が好き ですか、嫌いですか」という質問文と、「1.と ても好き」「2.まあ好き」「3.どちらともいえ ない」「4.やや嫌い」「5.とても嫌い」という 5つの回答のカテゴリィを準備した。

結果(図5)は、

1.とても好き: 4.9%( 25人)

2.まあ好き: 33.2%(168人)

3.どちらともいえない:45.5%(230人)

4.やや嫌い: 11.7%( 59人)

5.とても嫌い: 4.7%( 24人)

となった。ここでの回答の分布の形は、「3.ど ちらともいえない」のところを最頻値とする「ポ ジティヴの方向に歪んだ単一最頻型」であるとい えよう。これを、前回の韓国調査の場合とくらべ てみるならば、韓国調査の分布の形は「ネガティ ヴの方向に歪んだ単一最頻型」であったことがわ かる。つまり、両者の違いは、それぞれの分布の 歪みの方向にあるといえるのである。

6.訪問・利用した国際機関(Q7 )

20%を越える回答が得られたのは、「東アジア 美術館」(21.5%、109人)ただ1つだけで、その ほかは「ゲーテ・インスティテュート」(17.6%、

89人)がわずかに注目されるものの、すべて10%

以下の回答でしかない。「ケル ン 日 本 文 化 会 館

(国際交流基金)」も例外ではなく、訪問・利用者 は28人(5.5%)にとどまった(図6)。この28人 という訪問・利用者がどのような社会的属性の人 達であるがについての分析は、あまりに数が少な く統計的には意味のないものになってしまう。

7.国際文化交流の目的

――望まれる方向――(Q8 )

集計結果(図7)から、つぎのような知見が読 み取れる。

・50%を越える項目:

「国家間の友好的関係をつくる」(284人)

「国際的な平和の構築」(261人)

・20%を越える項目:

「国際的な共通課題の解決に向けた協力」(196人)

October 2008 ―119―

(12)

「異文化に対する偏見やステレオタイプを是正 する」(127人)

「信頼関係の維持」(104人)

「相互理解の増進」(169人)

8.日本が国際貢献をすべき分野(Q9 ) すべての項目について高い回答率が得られた

(図8)。あえていえば、80%台の項目、70%台の 項目、60%台の項目の3種類に分けることができ る。

・80%台の項目:

「地球環境保全」(416人)

・70%台の項目:

「世界平和の維持」(380人)

「対テロリズム」(374人)

「途上国援助」(380人)

「文化交流」(356人)

・60%台の項目

「世界経済の発展」(329人)

「科学技術の発展」(334人)

9.国際文化交流の意味と方向(Q10)

ここでは、国際文化交流の「意味」と「方向」

について、それらをいわば「理念型」的な2分法 の形で示し、いずれかを選択してもらうという方 法で尋ねた(図9−①②③)。

(1)「国際文化交流はそれ自体に意味がある」

か、それとも「何らかの目的を達成するた めの手段として意味がある」か。前者が 85.6%(433人)ま で を 占 め、後 者 は 13.8%(70人)に と ど ま る。両 者 の 差 は 71.8%にもなる。

(2)「国際文化交流によって世界の文化は多様 化する」か、それとも「画一化する」か。

前 者 は56.5%(286人)、後 者 は42.5%

(215人)で、前者の回答が後者の回答より も多いものの、そ の 差 は14.0%に と ど ま る。

(3)「国際文化交流によって異なる文化に対す る寛容が育まれる」か、それとも「寛容が 排 除 さ れ る」か。前 者 が81.8%(414人)

までを占め、後者は17.0%(86人)にとど まる。両者の差は64.8%になる。

10.ケルン日本文化会館(国際交流基金)に対す る認知度

――どのくらい知っているか――(Q11)

ここでは「ケルン日本文化会館(国際交流基 金)をどのくらいよく知っていますか」という質 問文と、「1.とてもよく知っている」「2.まあ 知っている」「3.あまり知らない」「4.全く知 らない」という4つの回答のカテゴリィを準備し た。

結果(図10)は、

1.よく知っている: 0.0%( 0人)

2.まあ知っている: 3.2%( 16人)

3.あまり知らない:10.3%( 52人)

4.全く知らない: 86.6%(438人)

となり、わずかしか知らない人を含めても「知っ ている人」は68人(10%強)で、その認知度はき わめて低い。この点は、国際交流基金にとっての 今後のきわめて重要な課題を示唆しているといわ なければならない。

!.「一般市民を対象とする質問紙調査」

と「ケルン日本文化会館日本語講座 受講者を対象とする質問紙調査」の 2つの調査結果の比較からの知見の 読み取り

はじめに、単純集計の結果のグラフ化の方法に ついて、説明しておきたい。まず、ここでは「一 般市民に対する質問紙調査」を「日本語講座受講 者に対する質問紙調査」のそれぞれの結果を

Q

1、Q2、Q3などの質問項目ごとに、それぞれ 1つずつの棒グラフの図にまとめて表示してい る。2つの質問紙調査においてほぼ同じ質問内容 が盛り込まれているが、その順番は必ずしも同じ ではない。2つの調査での質問内容の対応関係の 確認については、「ドイツ調査・対応表」を参照 されたい。たとえば、「日本についての体験・経 験」は「一般市民調査票」で は、Q2、「日 本 語 講座受講者調査票」では

Q1となっている。

つぎに、たとえば、「日本についての体験・経 験」の質問項目(「一般市民調査(調査Ⅰ)」で

Q

2、「日本語講座受講者調査(調査Ⅱ)」で

Q1)

についていえば、この質問項目は「複数回答形

―120― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(13)

式」を採用しており、調査Ⅰの有効回答者数は 506人、調査Ⅱのそれは124人となっている。そこ で、それぞれの回答項目(1〜17)ごとに、2つ の調査でその項目を選んだ回答者数の全有効回答 者に占める%を算出し、その%を2つの棒グラフ に並べて表示した。このような表示の仕方を採用 することで、回答項目ごとの「一般市民」と「日 本語受講者」の比較が容易なものになった。

以下、それぞれの質問項目ごと、「一般市民」

と「日本語講座受講者」の比較から知見の読み取 り結果を記していくことにする。

1.日本についての体験・経験(「一般市民調査」

でQ2 、「日本語講座受講者調査」でQ1 ) 棒グラフ(図1)の高さでは示されていない が、「日本についての体験・経験の有無」で調査 対象者間――つまり、「一般市民」と「日本語講 座受講者」――に最も大きな違いが出てきたのは

「日本語学習」である。いうまでもなく、「日本語 講座受講者」はすべて日本語学習の経験がある

(つまり100%である)のに 対 し て、「一 般 市 民」

ではそれはわずか2.6%にとどまる。つまり「体 験・経験」の差は圧倒的である。この結果は、こ の2つの調査対象者の比較の意味を確認するもの となっているといえるかもしれない。つまり、日 本語学習という1つの変数についてほぼ100%近 い差がある2つのグループを比較することで、そ れ以外の変数については「何が見えてくるか」を 検討する機会が与えられるということである。そ れはまさに「実験計画法的なアイディア」という ことができる。

何が見えてくるかといえば、以下のような点が 見えてくる。

①2つのグループの「体験・経験」の差に注目 し た 場 合、そ れ が「大 き い(50%以 上)項 目」

と、「中程度(30〜40%)台の項目」と、「小さい

(20%未満)項目」とがある。

差が大きい項目: 日本の展覧会・講演・講演会 日本人作家の本

日本の音楽

日本の映画・アニメ・漫画 日本人の友人・知人 差が中程度の項目:日本の製品・商品

日本の料理屋・居酒屋 日本に関する新聞・雑誌記事 観光で日本に行く

差が小さい項目: 日本・日系企業で働く 日本・日系企業と取引きする 学校で日本のことを学ぶ 仕事で日本に行く 留学で日本に行く

柔道・華道・茶道・剣道を習う

②差が大きい項目では、おしなべて「日本語講 座受講者」のさまざまな事柄についての経験の%

が高いということもあるが、それとともに、ある いはそれにもまして、「一般市民」のそれぞれの

%が低いということがその要因となっている。そ れとは対照的に、差が小さい項目では、「一般市 民」の経験の%も低く、「日本語講座受講者」の それも低い。この両極端のケースの中間にある、

差が中程度の項目では、「日本語講座受講者」の 経験の%も高いが、「一般市民」のそれも同じよ うに高く、その結果として両者の差はそれほど大 きなものとはなっていない。

③ドイツの「一般市民」を対象とした質問紙調 査の結果からの知見の読み取りに際して、E. M.

Rogers

の「イノベーションの普及過程」(宇野善

康監訳『普及学入門』産業能率大学出版部、1981 年)のアイディアの援用を提案した。このアイ ディアを踏まえていえば、それぞれの項目ごと に、そのような「体験・経験」の社会的な普及に ついては、いわばその「上限」と「下限」とでも いうべきものが示唆されている。たとえば、「日 本の製品・商品」「料理屋・居酒屋」「新聞・雑誌 記事」「映画・アニメ・漫画」ではそれは90%を 越えるところまでいくが、「日本に行く」「働く」

「取引きする」ではそれは10%〜20%台にとどま るということである。

④この結果はさらにこのような異文化体験の普 及の上限と下限についての「指数(index)作成」

の方向を示唆するものといえよう。

⑤以上のような、項目(あるいは、より一般的 にいえば「領域」)ごとの異文化体験の普及にお いて、いわば普及が「容易なもの」と、「容易で ないもの」という違いは見られるものの、おしな べてどの項目についても、その「体験・経験」の

October 2008 ―121―

(14)

%は「日本語学習者」の方で高い――具体的にい うならば、2つずつ並んだ棒グラフの高さが、右 側の方でより高くなっている――。つまり、再び

「実験計画法的なアイディア」からするならば、

「日 本 語 学 習」と い う 形 で の 日 本 へ の

involvement

は、人びとのさまざまな領域におけ

る日本についての「体験・経験」に対 し て「正

(positive)の」影 響 を 与 え て い る と 推 測

(inference)することができるかもしれない。

2.日本についての情報・知識源(Q3 、Q2 ) 2つずつの棒グラフ(図2)の高さを比較する ことから、以下のような知見を読み取ることがで きる。

①ほとんどのケースで、左右2つずつの棒グラ フの右側の棒グラフの方が高くなっている。前の 質問項目の場合と同様に、「日本語学習」という 形での日本への

involvement

は、さまざまな仕方 での日本についての情報接触行動に対して「正 の」影響を与えていると考えられる。

②ところが、その例外ともいうべきケースが3 つある。「テレビ番組」「新聞・雑誌の広告」「テ レビ・ラジオの広告」の3つがそれである。これ ら3つのケースにおいては、その差はいずれも 10%未満の小さなものにすぎないにしても、その

%は「日本語講座受講者」の方で低い。この結果 については、さまざまなことが考えられるが、そ の1つは「一般市民」と「日本語講座受講者」で は普段の日常生活でのこれらの接触行動にすでに して違いがあり――つまり「一般市民」の方で接 触度が高いという違いがあり――、そのことがこ こでの結果に反映されているという仮説である。

そうだとするならば、「日本語講座受講者」は、

日本語学習という面での日本への

involvement

の レベルは高いものの、そのような

involvement

の レベルの高さは日本語学習という領域を越えてさ まざまな領域にも敷衍していえるかというと、必 ずしもそうではないのである。この点は、「日本 へ の

involvement」と い う 次 元 の 確 定 の 試 み に

とって、きわめて示唆的な知見といわなければな らない。

③左右2つずつの棒グラフについて、右側のも のが高いケースについては、前の質問項目の場合

と同様、その差の大きさに注目することによって つぎの3つのグループが区別される。

・差が大きい(50%以上)項目:

本 劇場映画 ビデオ・DVD インターネット ケルン日本文化会館

・差が中程度の(20%〜30%台)項目:

学校の授業・教科書 友人・知人・同僚

・差が小さい(20%未満)項目:

新聞記事 雑誌記事 政府の広報誌 日本料理屋の情報誌 家族・親族

日本大使館・領事館 ベルリン日独センター 独日協会

こ こ で の 両 者(「一 般 市 民」と「日 本 語 受 講 者」)の差の大きさについては、前の質問項目に ついて述べたことと同様の点が指摘できる。ま ず、前の質問項目で「日本語学習」という「体験

・経験」についていえたことと同じことが、「ケ ルン日本文化会館」についてもいえる。つまり

「日本語講座受講者」の90%近く(87.9%)が、

当然のことといえるかもしれないが、日本につい ての情報・知識源として「ケルン日本文化会館」

をあげているのに対して、「一般市民」ではそれ はわずか5%未満(4.7%)にとどまっており、

その差はじつに80%を越えるまでとなっている。

この点については、一般市民の国際交流基金に対 す る「認 知 度・知 識 度・関 与 度」も 含 め た

accessibility

を高めていくことが、国際交流基金

の今後の重要な課題の1つであるということを強 く示唆している。

また、以上の結果から考えられることとして は、「日本語講座受講者」というのは、単に日本 語学習を中心とする日本への

involvement

のレベ ルの高さを示すものであるだけでなく、ある年齢 層、つまり相対的には、「若い世代」の人たちか

―122― 社 会 学 部 紀 要 第 106 号

(15)

らなるグループであるということも考えられる。

つまり、「インターネット」「ビデオ・DVD」「劇 場映画」の%の高さは、あるいはこのような「若 い世代」ということのもたらした結果であるかも しれない。

さらに、「本」の%が高いということは、「日本 語講座受講者」の「学歴の高さ」を反映した結果 であるかもしれない。

要するに、「日本語講座受講者」という社会的 カテゴリーは、単に「日本への

involvement

の高 さ」についての同一性の指標(indication)であ るのではなく、さまざまな――「若い世代」「学 歴」「職 業」「居 住 地 域」な ど――複 合 的 な 要 素

(factor)の類似性ないし同一性の指標であるとい わなければならない。そうだとするならば、先に 述べた「実験計画法的な考え方」の援用はあまり リジットに考えない方がいいのかもしれない。そ れは、むしろさまざまな仮説を展開するための1 つのサーチライト(T. Parsonsの言葉)として、

探 索 的(exploratory)あ る い は 問 題 発 見 的

(heuristic)に用いられるべきものといえるかも しれない。

最後に、この質問項目であげられている選択肢 の諸項目はコミュニケーション論でいうところの

「メディア」と考えることができる。そこで、こ れら諸項目をコミュニケーション論の考え方にし たがって「マス・メディア」「特殊関心的メディ ア」「パーソナル・メディア」と分類することも できるであろう(E. L. Hartley and R. E. Hartley, Fundamentals of Social Psychology,1952

, pp.1

62―

164)。そして、このようなコミュニケーション論 の考え方からするならば、「日本語講座受講者」

は、いわば「万人向きのメディア」ともいうべき

「マス・メディア」にくらべて、まさに日本とい う特定の対象に焦点を合わせた「特殊関心的メ ディア」の方で接触度が高いだろうという理論仮 説が立てられるであろう。ところが、棒グラフに 示された調査結果を見るかぎり、「ケルン日本文 化会館」を除いて――この回答結果の意味につい ては上で詳細に述べてきた――、とくにそのよう な仮説を支持する知見は見られない。具体的にい う な ら ば、「日 本 語 学 習」を 中 心 に 日 本 へ の

involvement

のレベルの高いと考えられる「日本

語講座受講者」にとっても、「日本政府の広報誌」

「日本料理屋情報誌」「日本大使館・領事館」「日 独センター」「独日協会」をあげる回答者数は決 して多くはない。この結果から、人びとの「特殊 関心――ここでは日本への関心ということ――」

も、直ちに「特殊関心的メディア」への選択的接 触(selective exposure)につながるものではない という重要な知見が導かれることになる。この点 からも、むしろ

accessibility

という説明概念の導 入の方がより有効であるといえるかもしれない。

3.日本の事柄についての関心(Q4 、Q3 ) ここでは(図3)、以下のような知見を読み取 ることができる。

①ほとんどの選択肢の項目について、「一般市 民」にくらべて「日本語講座受講者」の方で回答 の%が高い。

②ただ1つの例外が「ドイツとの関係」で、こ の項目では後者にくらべて前者の方で40%ほども 高い。じつは、この「ドイツとの関係」は、「一 般市民」では回答者数の最も多い(66.8%)項目 であるが、「日本語講座受講者」では回答者数の 最も少ない(25.0%)項目である。その結果とし て、両者の間に40%もの違いが出てきているので ある。この結果からするならば、「一般市民」に とっては、外国の国というものを考える場合に、

どうしても「自分の国との国際関係」ということ が一番の関心事となるのに対して、日本語学習を 中 心 に 日 本 と い う 対 象 へ の 自 我 包 括(self-

involvement)の高い「日本語講座受講者」の場

合は、自分の国との関係という関係性の点からよ りも、日本の事柄そのものに対する関心の方が強 いということになるものと考えられる。そして、

その場合もその関心がとくに「日本語」で高い

(99.2%)ということは当然のこととしても、そ れに匹敵するほどの割合で「社会・生活・風習」

「食 べ 物・飲 み 物」「名 所・旧 跡」「自 然・地 理」

などに対する関心が示されていることは興味深 い。この点からも、「日本語講座受講者」のいわ ば「社 会 的 性 格(social

character)

」――E. H.

Fromm、日 高 六 郎 訳『自 由 か ら の 逃 走』

(創 元 社、1951年)――ともいうべきものを垣間見るこ とができるといえるかもしれないのである。

October 2008 ―123―

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