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経済研究所 / Institute of Developing

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何が起こると「エンパワーメント」は達成されるの か (特集 エンパワーメント再考)

著者 佐藤 寛

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 120

ページ 38‑39

発行年 2005‑09

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00047559

(2)

﹁エンパワーメント﹂に関わる開発援助プロジェクトの事例は数多く紹介されているが︑それぞれの事例報告において﹁エンパワー﹂の定義が共有されているわけではない︒しかしながら︑通常﹁エンパワーメントが達成された﹂事例として語られる場合は︑その根拠として以下の三つの変化のいずれかを指摘している場合が多い︒その三つとは︑①当事者の﹁気づき︑主体的意欲﹂︵心理的変化︶が起こったこと︑②当事者が﹁能力︵技術・知識︶の獲得﹂︑﹁能力開花﹂を達成したこと︑③当事者が獲得した技術・知識・能力を活用する場を得ること︑である︵図1︶︒そして︑最も﹁原理主義的﹂なエンパワーメント論では︑この三つの変化がすべて発生し︑相乗作用を発揮して対象者を取り巻く﹁社会関係の変革﹂にたどり着いた時に﹁真のエンパワーメント﹂が達成されたと言える︑と主張する︒しかし通常は①のみでも﹁エンパワーメント﹂が達成された︑ と主張することもあれば︑②のみで﹁エンパワーメントさせた﹂ということもある︒しかし②のみであれば従来から行われてきた﹁技術移転﹂︑﹁能力開発﹂と本質的な変わりはない︒

さて︑このようにエンパワーメントが三つの要素に分解できるとしたら︑開発援助の文脈で外部者︵ドナー︑政策当局者︶は三つの要素それぞれに対応して以下のような介入が可能であろう︒①に対応して︑啓発活動による﹁気づきの誘発﹂︑②に対応して︑教育活動︑実地訓練︑資金提供などによる能力︵技術︑知識︶の獲得︑能力開発の促進︑ができるが︑これらは﹁エンパワーメント﹂を標榜しないプロジェクトでもこれまで行われてきた︒問題は③に対応する活動である︒対象者が﹁能力﹂を獲得できても︑対象者を取り巻く社会的制約が強固であるために︑その能力を十分に発揮させることができない︵例えば︑農村女性が識字・計算能力を身につけても︑家計の決定権が与えられないため に活用できないなど︶ということは︑しばしば起こる︒そこで︑せっかく獲得された能力を発揮しやすくなるように︑外部者が﹁社会環境の改変/能力発揮の場作り﹂を働きかけるという活動が﹁エンパワーメント﹂プロジェクトでは重要な意味を持つことになる︒ただし︑すべてのエンパワーメントプロジェクトがこの活動に意図的・積極的に取り組んでいるわけではない︒

援助プロジェクトによる﹁社会関係の変革﹂が注目されるようになった背景には︑世界の援助実施機関がこぞって﹁貧困削減﹂に注目し始め︑アマルティア・センなどの影響もあって﹁貧困は経済的側面のみを意味するのではない﹂という認識が共有され︑﹁社会関係の変更﹂がなければ根本的な貧困削減にはつながらないという理解が広まったことがある︒この意味で近年の﹁貧困削減﹂と﹁エンパワーメント﹂は親和性が高い︒他方貧困削減とエンパワーメントの結び

何が起こると﹁エンパワーメント﹂は達成されるのか

特集/エンパワーメント再考

佐 藤  寛

特 集

アジ研ワールド・トレンドNo.120(2005.9)─38 39─アジ研ワールド・トレンドNo.120(2005.9)

(3)

つきの背景には︑本来政治的出自を持った概念であるエンパワーメントを開発援助に適用する際︑その政治的色彩を脱色するために︑一種の価値中立的な目標︵貧困削減は︑政治的立場を問わず合意される政策目標である︶と結びつけたという側面も否定できない︒これに対しては﹁エンパワーメントを非政治化し︑効率性やマネジメントの問題という範囲で議論することは︑本当の力関係を隠蔽することになりかねない﹂との指摘は様々な立場からなされている︒ここで筆者は﹁社会関係の変革を目指さない援助プロジェクトは無意味だ﹂と言いたいのではない︒日本の多くのプロジェクトが︑そのような方向性を持っていないのには一定の正当性がある︒筆者の言いたいのは︑社会関係・権力関係の改変を意図し︑そのために積極的に活動する覚悟がないのであれば︑プロジェクトに﹁エンパワーメント﹂などという目標を掲げる必要はないという点である︒耳あたりのよい﹁エンパワーメント﹂という用語を﹁脱政治化﹂してまで使わなければならない必然性は︑日本のODAプロジェクトにはないと思われるからである︒

もちろん︑積極的に貧困層を取り巻く社会関係に介入し︑社会的弱者の地位を改善するための働きかけを行うプロジェクトが あってもよい︒ただ︑その場合に注意を要するのは︑﹁社会の望ましい方向性﹂を誰と合意するのか︑という点である︒開発におけるエンパワーメントが︑子供の発達・教育過程におけるエンパワーメントとのアナロジーで語られることも多い︒子どもの発達において︑その子が成長したあかつきに獲得するであろう﹁本来あるべき力﹂を想定することには︑生物学的・統計的蓋然性に基づいた根拠がある︒その﹁本来の力﹂が発揮されていない場合には﹁非力化﹂︵ディス・パワーメント︶が起こっていると判断することは可能であり︑これをエンパワーメント戦略によって獲得させようとすることは正当化されよう︒しかし︑同様のロジックを途上国の社会的弱者に用いることは︑﹁本来あるべき姿﹂︵社会関係の変革後の社会︶を想定するという段階でパラドクスに陥る︒なぜならば︑当事者が過去にも経験したことがない﹁本来あるべき姿﹂を想定するためには︑何らかの参照基準︵理想的な社会の状態︶が必要である︒そしてその場合には︑ドナーたる欧米先進国を範とした﹁理想的な社会﹂像を唯一に結び︑それとの対比の中で﹁欠落﹂度を測定するという戦略を生み出す可能性がある︒これはややもすると﹁すべての社会は︑西欧近代社会を頂点とする発展の過程上にある﹂という︑社会進化論的な思考に結びつきやすく︑それぞれの社会において﹁あるべき社会の 姿﹂の多様性を認めない単線的発展論に基づいた援助戦略を生み出すおそれがある︒

最後に開発とエンパワーメントをめぐる今後の研究課題について整理しておこう︒第一に︑エンパワーメントの三要素が﹁気づき﹂︑﹁能力開発﹂︑﹁能力を発揮する場の獲得﹂であるとして︑それら三要素が究極目標としての﹁社会関係の変革﹂とどのような関係にあるのか︑についての実証的な分析の積み重ねが必要であろう︒第二に﹁キャパシティー・ディベロプメント﹂論とエンパワーメント論の関係の整理も必要だと思われる︒第三にあげておきたいのは︑エンパワーメント・プロセスの﹁ゼロサム性﹂についての研究である︒第四に今回の特集では正面から取り上げることをしなかったが︑﹁女性のエンパワーメント﹂が開発現象一般をめぐって語られるエンパワーメント概念と︑どのような関係にあるのかも︑整理される必要がある︒第五に︑外部者の介入によるエンパワーメント過程の推進は︑倫理的に許されるものなのか︑許されるとしたらどのような条件の下でなのか︑についての議論がきちんと行われる必要があるように思われる︒︵さとう  ひろし/アジア経済研究所開発研究センター︶

図1 エンパワーメントの三要素と外部者の介入経路

当事者・対象者 2.能力賦与・訓練

外部者

3.社会環境への働きかけ 1.啓発活動

①気づき(主  体的意欲)

②能力開発  能力開花

③関係性の変  化/能力を  活用する場

アジ研ワールド・トレンドNo.120(2005.9)─38 39─アジ研ワールド・トレンドNo.120(2005.9)

参照

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