脳性まひ児 の動作発達経過
佐藤 暁 (岡山大学教育学部)
脳性 まひ児 の動作発 達経過 につ いて,佐藤(2002)では,①低 緊張で動 きの少 ない子 どもの道 筋,②G パ ター ンか らの解放 の途上 にある子 どもの道 筋 ,③弱い癌性 を示 しつつ緊張の低 下 した子 どもの道筋 , が示 され た。本稿 で は,筆者 が長期 間 フォ ローア ップ してきた脳性 まひ児の事例 をい くつ か取 り上 げな が ら,それ ぞれ の道 筋 に特徴 的 な動作発達経過 と動作学習 上の問題 ,及 び動作発達支援 のポイ ン トにつ いて整理 した。 そ のなかで,座位や膝 立 ち位 にお ける抗重力動作 の学習 と,全身の屈 曲バ ター ンを示す 定型的姿勢か らの解放 が動作学習 のポイ ン トにな るこ とが示 され る とともに,動作の崩れ‑ の対応 が重 要であることが指摘 された。
キー ワー ド :脳性 まひ児,動作発達, フォ ローア ップ,動作訓練法,叛型化
Ⅰ.はじめに
脳性まひの運動発達については,医療, とりわけ神 経生理学的な立場から,すでにいくつかの研究資料が 提出されている(Bobathand】〕obath,19751);五味,19942)
他)0
ところで,脳性まひを理解す る場合の理論的枠組み として,このような医学的立場による理論 とは別に, 我が国の特殊教育の分野では,心理学的立場か ら構築 された動作理論 (成瀬,19853)がよく知 られている。筆 者は,脳性まひ児の動作発達を,動作理論をベースに して , 体 系 的 に整 理 して きた (佐 藤,19964);佐 顔,19975);佐藤,19996);佐藤,20027))0
Fig.1は,佐藤(2002)7)が,脳性まひ児の動作発達 経過 を図式化 したものである。 これによると,彼 らの 動作発達経過には,い くつかの主要な道筋,すなわち,
①低緊張で動きの少ない子 ども(低緊張タイプ)の道筋,
②Gパターンか らの解放の途上にある子 ども(全身屈 曲定型タイプ,癌性 ・座位抗重力動作不 自由タイプ, 癌性 ・膝立ち位抗重力動作不 自由タイプ,癌性 ・立位 抗重力動作不 自由タイプ)の道筋,③弱い痘性を示 し つつ緊張の低下 した子 ども(低癌性 ・座位抗重力動作不
自由タイプ,低癌性 ・立位抗重力動作不 自由タイプ) の道筋,が読み とれる。なお,ここで言 うGパターン
とは,全身の屈曲を示す定型的な姿勢パターンを指 し ている。また,抗重力動作 とは,座位,膝立ち位,立 位において,重力に抗 して姿勢を保持するための一連 の動作である。
本稿では,筆者が長期間フォローアップしてきた脳
性まひ児の事例を取 り上げなが ら,それぞれの道筋に 特徴的な動作発達経過 と動作学習上の問題,及び動作 発達支援のポイン トについて記述する。
Ⅱ.
方法 1. 対象児取 り上げた 10事例は.4歳か ら8歳の間にインテー ク(初回面接)をした後,6年間以上 もっとも長 くて 18歳までフォローアップした脳性まひ児である。いず れの事例も,筆者が,大学の教育相談機関,障害児通 園事業,訓練月例会等において,週 1回〜月1回,30
‑60分程度の動作訓練を実施 してきた。
2.資料の収集
毎回の訓練が終了した後に,訓練時の動作特徴が記 録 された。また,動作変容が認められた時期には,写 真による記録がなされた。なお,写真掲載にあたって は,本人または保護者の承諾が得 られている。
班.
動作発達経過以下,上述 した動作発達の道筋①②③それぞれに典 型的な事例のフォローアップ経過を示 しなが ら,脳性 まひ児の動作発達において重要 と思われる事項を整理
した。
1. 低緊張で動 きの少ない子 ども
ここで取 り上げるのは,インテークされた4歳時点 でも,仰臥位でのW状上肢や蛙状肢位,あるいは座位 での二つ折れ姿勢(浅田,19898))に特徴づけられる,低 緊張傾向を示すタイプの脳性まひ児における発達経過
佐藤 噴
である。このような低緊張の脳性まひ児は,10歳まで のフォローアップの途上で,全身の緊張が増大 しはじ め,個々に差はあるものの,インテーク時の低緊張状
態がそのまま持続することはなかった。 こうした経過 は,これまでもい くつかの事例研究で報告 されてきた (大野,19789);佐藤,198810))O
‡ ( 6 ) :
Fig.1 6年間のフォローア ップによる脳性まひ児76名の類型変化(佐藤,2002より,一部改変)
<注>矩形内の数字は,インテーク時における各類型の対象児の人数。矢印上の数字は,変化のあった対象児の人数。
ところで, このよ うに全身の緊張が増大 してい く 経過 を注意深 く観察す ると, これが二つの場合 に分 け られ るよ うであった。一つ は,いわゆる癌性の増 大 を含めた身体各部位及び全身の緊張の高ま りに対 して,子 ども自身の気づきが生 じ,わずかなが らも 意図的な動作の学習につながってい く場合, も う一 つは, こ うした気づ きが稀薄で,癌性 の増大 ととも に,全身の不当緊張が強固に蓄積 され てい く場合で ある。後者では,座位 姿勢において全身を屈曲させ るGパ ター ンが次第に顕著に現れ るよ うになって, 全身屈 曲定型 タイプに変化す るケース もあった(こ のタイプの経過については次項で述べる)。
この二つは,一人の子 どもの発達経過のなかで共
存す ることも多 く,もちろんこれ によって脳性まひ 児のタイプが特定 され るわけではない。
さて,事例 1は,低緊張タイプの脳性 まひ児であ る。イ ンテーク時では,Photo.1,2のよ うに,仰臥 位での蛙状肢位,座位 での二つ折れ姿勢に特徴づけ られ る低緊張の状態で,座位保持,定額 ともに困難 であった(Photo.3)0
フォローア ップの間の訓練では,腕肩 まわ りの動 作の向上,及び座位 における額すわ り動作の向上を 図った ところ,先に述べたよ うな,緊張の高ま りと 癌性の増大 とが観察 された。 これ は,頭部の回旋に 随伴 した胸部の反 り返 りと下肢の癌性 の高ま りを示 しつつ.一時的に強まることがあったが,そ うした
ー 22 ‑
状態が長期 間にわたって続 くことはなかった。 しか し. この よ うな変化 が起 こる要因あるいは引き金 に ついては,特定す ることができなかったO
ところで, この よ うな経過 を示 しつつ,訓練場面 では, 自らの緊張の高ま りに対 して,子 ども自身が 主体的 にかかわってい ると推測 され るよ うな場面が しば しば観察 された。Photo.4,5は,額の コン トロ ール能力が高まってきたIl歳時の訓練場面である。
ここでは,いわゆる腕 あげ動作 と呼ばれ るモデルパ ター ン動作 を用いて,腕 を挙上方 向に他動的に動か していった ときの抵抗 を弛緩 させ る課題 を設定 した。
そ うした ところ,指導者が子 どもの腕 を挙上 してい くのに対 して,子 どもはそれ と逆 向きに,つま り腕 を降ろす方 向に動か して くることがあった。 さらに この よ うな動 きに伴 って,声が出るよ うになるとと もに,表情の変化 が見 られ るよ うになった。 この よ うな動 きや表情の変化 は,子 どもが力 を入れて くる のに抗 して指導者 がわずかに力 を加 えてや ることで,
Photo,1 事例1,低緊張 を示す仰臥位姿勢
Photo.2 事例1,座位二つ折れ姿勢
Photo.3 事例 1,補助座位,定額が困難
Photo.4 事例1,腕あげ動作課題(1)
Photo.5 事例1,腕 あげ動作課題(2)
ますます明 らかに見 られ るよ うになった。
さらにこの時期,臥位姿勢では,イ ンテー ク時に 見 られ たよ うな,低緊張 を示す特徴的 な姿勢 をとる
佐藤 嘆
ことがな くな るとともに (Photo.6),Photo.7の よ う に,額のコン トロールが著 しく向上 した。
しか し,一方で, この よ うな変化 が認 め られ なが ら も,側琴 をは じめ,い くつかの二次障害が顕在化 し てきた。 なかで も側考 は, このケースだけでな く, 低 緊張の脳性 まひ児や障害が重度 の脳性 まひ児 に, 早期 か ら現れやすい(佐藤,1999̀))。側 琴 を予防す る ためには,早期 か ら両上肢機能 に差 を作 らせ ない こ とと,凹側 の上肢 に対 しては凸側 の上肢以上に 自発 的な動 きを促す よ うな関わ りが必要であることが指 摘 され てい る(熊谷 ・児玉 ・宮崎,199411))。 しか し,
「低緊張で動 きの少ない子 ども」 とした, このタイ プの脳性まひ児では,上肢の動 きについて,動きが
Photo.6 事例1,側臥位姿勢
Photo.7 事例 1,補助座位 。頚すわ り動作
出現 した として も事例 1の よ うな学習 に留 まるもの であった。 また, これ に頚 の コン トロール の困難性 も加 わって,10歳までの間に移動運動 が獲得 され る
ことはな く, この ことがい っそ う不 当緊張の増大 と 二次障害の出現 を助長 していた と思われ る。
重症心身障害児 をは じめ とした,障害の程度が重 篤な脳性 まひ児では,発達に伴 って機 能の向上が認 め られ る反面,比較的早期 か ら特定の能力低下 を呈 す る場合 があ り, こ うい う複雑な変化 が,彼 ら‑の 介入 の 目標設 定 を難 しく してい る(冨 田 ・近藤 。田 端 。宮 口 ・古 山 ・伊藤,199812))。事例 1では,側琴 の進行 を未然 に防 ぐことができなかったが,今後 は, 重症児の この よ うな変化 に対応 した, きめ細かな訓 練計画 を策定 してい くことが求められ る。
2. Gバ ター ンか らの解放の途上にある子 ども (1)全身屈曲定型タイプ
脳性 まひ児の動作不 自由は,動作の学習や遂行の まず さか ら不 当な緊張 を蓄積 してい くことで生 じる
「学習障害」によるもの と,新生児期 の胎児性緊張 がそのまま残存 して,全身 を屈 曲 させ た定型的姿勢 か ら解放 されず に動作 の発達が妨 げ られ る 「発達障 害」によるもの とに区別 して検討す ることがで きる。
ここで取 り上げる全身屈 曲定型 タイ プの脳性 まひ 児 は,後者 の問題 を とりわけ強 く孝 んでい る子 ども である。 このタイ プの脳性 まひ児では, Gパ ター ン と呼ばれ る全身の屈 曲パ ター ンを伴 う定型姿勢か ら いかに抜 け出 して,新 たな動作 を獲得 してい くか, そ して発達の途上でたびたび姿 を現すGパ ター ンを いかに克服できるかが,動作発達のポイ ン トになる。
事例2のPhot0.8は,典型的なGパ ター ンを呈 し たイ ンテー ク時におけ る座位姿勢 であ る。訓練 では, 座位お よび膝立ち位 における リラクセー シ ョン と抗 重力動作 を課題 とした。その結果,1年後 にはPhot0.9 の よ うに,不安定なが ら座位保持 を獲 得 した。それ に伴 って,安定 した腹臥位 が獲得 され(Photo.10),ず
り這いでの移動が可能になった(Photo.ll)。
しか し,就学後の9歳時点では,Photo.12の よ う に,座位 において股 関節 の屈 曲が 目立 ちは じめた。
さらに,仰臥位姿勢で も股 関節 の内転 内旋が強 まっ て,はさみ脚が顕著に見 られた(Photo.13)0
事例3では,イ ンテー ク時に,座位 姿勢において 強固なGパ ター ンがみ られ た。事例2と同様 の動作 課題 を設定 した訓練 を続 けた ところ, ゆっ くりとし たペースではあるが,Gパ ター ンか ら解放 され は じ め,6歳時点でPhoto.14の よ うな座位姿勢であった のが,9歳時点ではPhoto.15によ うな安定 した座位 保持が可能 になった。 その半年後 には安定腹臥位 が 獲得 され(Photo.16),側 臥位 で姿勢 を保持す る姿が し
‑ 24 ‑
ば しぼ見受け られ るよ うになった(Photo.17)0 このケースでは,その後のフォ ローア ップで も, 足部の変形がみ られ たほかは,安定座位 ,安定腹臥 位 な ど,以前に獲得 され た動作 がそのまま維持 され, 今回の研究で最終的にフォ ローア ップ した 18歳の 時点では,つかま り立ち動作が獲得 された。
このケースを含 めて,発達経過 が良好だった子 ど もでは,イ ンテー ク時 に座位 での抗重力動作がある 程度獲得 されていた。 そ して,座位や膝立ち位 にお ける支柱動作 をは じめ とした抗重力動作が.訓練の なかで徐 々に学習 され る ことによって,座位獲得ま でに必須 ない くつかの動作要素(佐嵐 19975))が確実 に学習 され,安定座位が獲得 された。
photo.8 事例2,Gパターンを伴 う座位
Photo.9 事例2,座位保持
Photo.10 事例2,安定腹臥位
Photo.11事例2,腹臥位移動
Photo.12 事例2,股関節の屈曲を伴 う座位
佐藤 噴
Photo,13 事例2,股関節の内転内旋 を伴 う仰臥位
Photo.14 事例3,Gパター ンを伴 う座位
Photo.15 事例3,安定座位
Photo.16 事例3,安定腹臥位
Photo.17 事例3,側臥位姿勢
ところで, この よ うに, Gパ ター ンか らの解放 に よって,著 しい動作の発達が遂 げ られ たケース とは 対照的だったのが事例4及び5である。
事例4は,9歳時 に.事例2及 び3と同様,腹臥 位 姿勢 での移動運動 を獲得 した(photo.18‑20)。 しか し,その数 ヶ月後 には,Photo.21の よ うに股 関節周 辺の不 当緊張が急激 に増大 して,それ まで可能だっ た安定腹臥位やず り這い移動が困難 になった。
また,事例5は,イ ンテー ク時か ら1年で,不安 定なが らも座位 の保持 が可能 になった(Photo.22)。し か し,その後のフォ ローア ップにおいて,12歳時点 でPhoto.23の よ うに,側考が顕著 に現れ は じめた。
また,座位 におい ては,Photo.24の よ うに,Am を伴 った,全身 にわたる緊張の高ま りが認 め られた。
ところで, これ ら事例2‑5に共通す ることは,い
ー 26 ‑
ずれ も就学前までのあいだに,全身の屈 曲パ ター ン か らの解放 が少 しずつ進み,座位保持や安定腹臥位 をいったんは獲得 してい ることである。 しか し.そ の後の経過 は, どのケースにおいて も,股 関節 まわ りの部位 をは じめ とした癌性 の増大, あるいは二次 障害に直面す ることになった。
二次障害 として とりわ け多かったのが,股 関節まわ りの痩性 の増大に伴 う股 関節脱 臼であった。癌性 が 強固な脳性 まひ児の場合,癌性増大に よる股 関節脱 臼の問題 は しば しば指摘 されてい るが,実際にはこ れを確実に防 ぐ手だてが兄い出せていない。
また, このタイ プの子 どもでは,側琴 も早期 か ら 出現 したO事例5の よ うに,ATNR を伴 った姿勢が 一因 と考 え られ るケース,そ して,前述 した低緊張 タイプの脳性 まひ児 と同様,上肢使用 の偏 向が関連 す ると考 え られ るケース もあった。 これ らのケース
Photo.18事例4,腹臥位移動(1)
Photo・19事例4,腹臥位移動(2)
Photo.20 事例4,腹臥位移動(3)
photo.21事例4,股関節の内転内旋 を伴 う仰臥位
Photo.22 事例5,座位保持
佐藤 噴
photo.23 事例5,側考 を伴 う仰臥位
Photo.24 事例5,ATm を伴 う座位
では,就学後早い時期 に,股 関節脱 臼 と側考が合併 して生 じ始 めていて,その後の動作発 達 に少なか ら ぬ影響 を及ぼ していた。
事例3の よ うに,ある程度早期 か ら自発運動が獲 得 され,体幹 の回旋動作 も確保 できてい る場合 は, 二次障害が生 じつつ も,座位保持や移動運動 に大幅 な後退 は認 め られなか った。 しか し,事例 2,4,5 の よ うに,Gパ ター ンが根強 く残存 した子 どもでは, 就学後比較的早い時期 か ら動作 の退行 が生 じるとと
もに,二次障害の出現 を防 ぐことが困難だった。
(2)癌性の影響が強いタイプ
次 に取 り上げるのは,医学的 な病型分類で言 えば, ほぼ痩直型 に対応す る脳性 まひ児である。 これ らの 脳性 まひ児 は,程度 の差 はあるものの,前項で述べ た全身的な屈 曲姿勢 を示す タイ プ と同様 ,新生児性 非活性緊張 とGパ ターンによる発達障害を示 した。
こ うした要因による動作発達の トラブルは,ケー スによって多様 であるが, ここでは,痩性 ・座位抗
重力動作不 自由タイプ,癌性 ・膝立ち位抗重力動作 不 自由タイプ,癌性 ・立位抗重力動作不 自由タイプ の3つに分けて,記述す ることにす る。
①癌性 。座位抗重力動作不 自由タイプ
前項の強固な全身屈 曲パ ター ンを示す タイプに類 似 してい るが,屈曲パ ター ンが次第に弱ま り,経過 が良好だったタイ プであるO佐藤(20027))が このタイ プに類型化 した10名 の うち9名 は,フォ ローア ップ 経過 で,程度の違いはあれGパ ター ンか ら解放 され て他 のクラスターに変化 した。他 の クラスター‑の 変化 が もっ とも多かったのはこのタイ プであ り, こ のタイプでは,多様な移動運動が獲得 された。
事例6では,Photo.25の よ うに,イ ンテー ク時に 座位 姿勢 における全身屈 曲パ ター ンが顕著で,座位 保持が困難 であった。 その後約半年 間,座位お よび 膝立ち位 において, こ うしたパ ター ンを崩す ことを 意図 した訓練 を繰 り返 していった ところ,Photo.26, 27の よ うに,膝立 ち位 お よび立位 にお ける抗重力動 作の学習が成立 し始 めた。 さらに,就学後 の9歳時 では,Photo.28の よ うに,四つ這いにはいた らない ものの, コマ ン ド一 ・スタイルによるず り這いでの 移動運動が活発 になった。同時 に,車椅子‑の移乗 , 車椅子での移動が獲得 された(Photo.29,30)。
この よ うな活発 な動 きは,就学後学年 を追 うごと に,ますます盛んになった。反面,股 関節部位 の痩 性 が増大す ることは避 け られず,股 関節 の内転内旋 が 目立ってきた。しか し,少 な くとも10歳までの観 察期 間内では, こ うした問題 によってすでに獲得 し た姿勢や動 きが失われ ることはなかった。
また, このタイプの脳性 まひ児では,二次障害の 出現 は少なかった ものの,一部のケースで足部の外 反,尖足を伴 う変形が見 られた。
この よ うに,癌性 ・座位抗重力動作不 自由タイ プ の脳性 まひ児 は,イ ンテー ク当初では座位 での抗重 力動作が未学習だった ものの,いったんGパ ター ン が解消 して抗重力動作の学習が進 む と,速いテ ンポ で動作の発達が促 され た。それ とともに, 日常生活 でも,移動運動な どさまざまな動作が獲得 され た。
②癌性 ・膝立ち位抗重力動作不 自由タイプ 前項の癌性 ・座位抗重力動作不 自由タイプ と類似 した臨床像 を示 した。 しか し,イ ンテー ク時には座 位 の保持が不安定なが ら獲得 されていて,膝立ち位 や立位 での抗重力動作 の学習 もある程度成立 してい たD フォ ローア ップの経過 では,歩行動作 は獲得 さ れなかった ものの,癌性 の軽減 とともに,活発 な動
‑ 28 ‑
きがみ られ るよ うになったタイプである。
事例7は,イ ンテー ク時 にすでに,膝立ち位 と立 位 での抗重力動作が,訓練のなかでは学習 され始 め ていた(Photo.31,32)。訓練 では,こ うした動作の学 習が繰 り返 しな され,就学後,それ まで うさぎ跳び 移動が中心だったのが四つ這い移動 を獲得 し,11歳 暗では,Photo.33‑35の よ うに, 四つ這い移動,膝 立ち移動, ウオーカー移動が活発 にな され るよ うに なった。一方, この よ うに新 たな動 きが獲得 され る につれて,や は り股 関節 の内転 内旋 とい った問題 が,
とくに立位動作や ウオーカー移動で 目立つ よ うにな
り,独立歩行動作を獲得す るには至 らなかった。 Photo.27 事例6,立位での抗重力動作の学習
Photo.25 事例6,座位姿勢(イ ンテーク時)
Photo.26 事例6,膝立ち位での抗重力動作の学習
Photo.28 事例6, コマン ド‑スタイルによる移動
Photo.29 事例6,車椅子移乗
佐藤 噴
photo.30 事例6,車椅子移動
photo.31事例7,膝立ち位での抗重力動作の学習
Photo.32 事例7,立位での抗重力動作の学習
photo.33 事例7,四つ這い移動
photo.34 事例7,膝立ち移動(写真左)
Photo.35 事例7, ウオーカー移動
しか し,前項の痩性 。座位抗重力動作不 自由タイ プの脳性 まひ児 と同様,フォローア ップがな された 10歳時点までの間では,股関節部位 の痘性 にかかわ る問題が,いったん獲得 された動きを大幅に制限す
‑ 30 ‑
ることはなかった。また,二次的な障害 について も, 足部の変形が生 じ始めていたケースがあったが, と
くに 目立った二次障害が現れ ることはなかった。
③癌性 ・立位抗重力動作不 自由タイプ
癌性 の影響 を受 けてい るなかでは,癌性 の程度が 少な く,かつ もっ とも動 きが活発 なタイプである。
しか し,動 きが活発 な分,膝 の拘縮 ・変形や足部の 内反 ・尖足変形が,早いケースでは就学後低学年時 で現れ始め,約2/3で こ うした問題が生 じていた。
事例8は,イ ンテー ク時 に安定座位 が獲得 され , 膝立ち,立位での抗重力動作 とともに,立位動作が
Photo.36 事例S,膝立ち位(イ ンテーク時)
Photo.37 事例8,立位(5歳時)
photo.38 事例8,歩行動作獲得時の立位
Photo.39 事例8,膝立ち位(11歳時)
Photo・40 事例8,立位(12歳時)
佐藤 噴
不完全なが ら獲得 され始 めていた。Photo.36はイ ン テー ク時の膝立 ち位姿勢,Photo.37は,半年後の立 位 姿勢 である。 いずれ も,股 関節 まわ りの癌性 が認 め られ るものの,抗重力動作が獲得 され始 めていた。
さらに,Photo.38は,就学後の7歳時,立位及 び歩 行動作が獲得 され始 めた ときの ものである。 この時 点では,歩行動作 に必要な抗重力動作 の学習が進 め られていた。一方 で,股 関節部位 の癌性 が依然強 く,
‑歩一歩の脚 の踏 み出 しに困難 を究 めた. また,体 幹の回旋 を伴 った立位 での重心移動が困難 で,安定 した歩行動作 を獲得す ることができなかった。その 後,小学校 高学年 にな ると,膝立 ち位 での抗重力動 作 が定着 して きた(Photo.39)。 しか し,立位 で は, photo.40の よ うに,股 関節 が内転 内旋 し,両膝 が内 側入 り込んで,外反 足が顕著 になった。 この ころか ら,立位保持 自体が不安定 になる とともに,いった ん獲得 した歩行動作が困難 になった。
このタイ プの脳性 まひ児では,就学前 に立位 での 抗重力動作が学習 され は じめ,独立歩行 の獲得が期 待 された。 しか し,多 くのケースでは,その後の動 作学習 において不 当緊張の蓄積 とともに膝や足部の 二次障害が顕在化 し,実用歩行 を獲得 できなか った。
3.弱 い感性 を示 しつつ緊張の低下 した子 ども 前項で取 り上げたタイ プの子 どもが,身体各部位 の痩性 を伴 う動作不 自由を特徴 としていたのに対 し, ここで取 り上げるケー スは
,
イ低癌性 タイプ」と言 え る脳性 まひ児 である。 ここでは, こ うしたタイ プに 対応す る,低痩性 ・座位抗重力動作不 自由タイ プ, 及 び低癌性 。立位膝立 ち位抗重力動作不 自由タイ プ の二つに分 けて,動作発達経過 を整理す る。(1)低癌性 。座位抗重力動作不 自由タイプ 前項 でみてきた脳性 まひ児 とは対照的 に,癌性 が 低 く,イ ンテー ク時では,む しろ筋 トー ンの低 下 し た臨床像 を示すケースがあった。
しか し,先 に取 り上 げた 「低緊張」 タイプの脳性 まひ児 とは違 って,蛙状肢位やW状上肢 といった低 緊張に特有 な姿勢の特徴 は認 め られず,主 として座 位 での頚 の コン トロール に問題 を残す ケースが多か った。 また,イ ンテー ク時お よび フォ ローア ップの 経過 で,額の コン トロールの学習が どの程度までな され ていたかに よって,動作の発達 に多 くのバ リェ
‑ シ ョンがみ られたのが このタイプの特徴である。
イ ンテー ク時の動作特徴 としては,補助座位 での 頭部の保持 が不安定で移動運動 に乏 しく,移動運動 が認 め られたケースで も寝返 りの獲得 に留まった。
移動運動の発達 に関 しては,以下の事例 に示す よ う に,フォ ローア ップの経過で,移動運動 が認 め られ ないままのケースか ら,四つ這 いや うさぎ跳びな ど の動作 を獲得 したケースまで さまざまであった。
また,座位保持が獲得 されていなが ら,寝返 りや 腹臥位移動の よ うな移動運動が認 め られ ない,いわ ゆる正常児の発達の順序性 にそわないケースがあっ たの も, このタイプの特徴 であった。 この よ うなケ ースでは,正常児の運動発達において座位保持 に先 立って獲得 され る諸動作 にかかわ る動作要素,すな わち,座位や膝立ち位 での支柱動作や 上肢動作の学 習が十分にな されていなかった。
さらに, フォ ローア ップの途上では,約4割 のケ ースで, しか も早期か ら側背が発生 し始 めていた。
これ は, このタイプの多 くのケースで,座位姿勢が ある程度保 たれ ていなが ら,抗重力的 な動 きや移動 運動 に乏 しいために,側琴 を伴 った定型的な姿勢が 固定化 した ことによると考 えられ る。
さて,事例9は,イ ンテー ク時においてPhoto.41 の よ うに補助座位 での額の コン トロールが不安定で あった。訓練では,座位 での額 のすわ り動作 を中心 に練習 を繰 り返 してい った ところ,9歳 時 で は, Photo.42の よ うに,座位 の確保 は困難 な もの0?,顔 部の保持が確実 に向上 した。 しか し,仰 臥位 姿勢で は,股関節 の癌性が出現 し始 めて,脚 の交叉が 目立 つ よ うになった(Photo.43)。また,移動運動 について
も,寝返 り運動がなかなか獲得 されなかった。
一方,事例 10では,事例9と同様 ,補助座位 での 頭部の安定が困難 であった(Photo.44)。アテ トーゼ型 と診断 され ていた このケースでは,額 の コン トロー ルの学習 に多 くの時間 を費やす ことになったが,12 歳 頃か ら額 の コン トロール能力が向上 し,Photo.45 で見 るよ うに,十分な安定はない ものの,座位保持 が可能 になったQ 同時 に,Photo.46の よ うに,寝返
り動作が獲得 された。
この よ うに, このタイプの脳性 まひ児では,動作 発達 に多 くのバ リエー シ ョンがあ り,その要因 とし て,頚の コン トロールの問題 が大 きい と考 え られ た。
頚の コン トロールは,座位動作獲得 までの過程す べてにかかわる,いわば動作発達のカギ となる動作 である。 それ だけに,額 の コン トロールの不全 は, 座位や膝 立ち位 での抗重力動作の学習効率 を低下 さ せ,動作発達 をいっそ う滞 らせ るものであった。
また, このタイプの脳性 まひ児の うち,安定 した 座位 が獲得 され,活発 な動 きが獲得 された子 どもで
‑ 32 ‑
は,イ ンテー ク時点で,すでに座位 における抗重力 動作が一定程度獲得 されていた。逆 に,安定座位 の 獲得 が困難 であった子 どもは,イ ンテー ク時での座 位 にかかわる動作 の学習が未成熟であった。一方, 座位 の獲得嘩程 では,頚の コン トロール を基盤 に し て,腕肩動作や腰 ・躯幹の動作の学習 がかかわって い るとともに,膝立ち位 で練習がな され るよ うな, 重力に抗 してか らだを支 える動作が重要な位置 を占 めていた。 こ うした こ とか ら, このタイプの脳性 ま ひ児では,早い時期 に座位や膝立ち位 における抗重 力動作 を獲得できるか ど うかが,その後の動作発達 を左右す ると考 えられ る。
(2)低痩性 ・立位膝立ち位抗重力動作不 自由タイプ フォ ローア ップの過程 で,立位 。歩行動作が獲得
Photo.41事例9,補助座位,定額が困難
Photo.42 事例9,補助座位,頭部の保持
photo.43 事例9,脚の交叉を伴 う仰臥位
photo.44 事例 10,補助座位,定額が困難
Photo.45 事例 10,座位保持
佐藤 噴
photo.46 事例10,寝返 り動作
されたのは, このタイ プの脳性 まひ児がほ とん どで あった。 こ うしたタイ プの脳性 まひ児では,癌性 が 低 く,歩行 の学習 にあたって も,また実用歩行 開始 後 も,股 関節 まわ りの癌性 に よって.立位 ・歩行動 作が妨害 され ることはなかった。
彼 らの動作発達経過 で, とくに問題 になるのは, 膝立 ち位 にお ける抗重力動作である。 このタイプの 脳性 まひ児の うち,立位 ・歩行動作が獲得 され たケ ース と,そ うでないケース とでは,膝 立ち位 での抗 重力動作の学習 に差が あった。前者 では,すでにイ ンテー ク時 に, こ うした膝立ち位 での抗重力動作が 不十分なが ら学習 されていた。 そ して,フォローア ップの途上で, この よ うな動作が定着す ることによ って,立位 ・歩行動作 が獲得 された。逆 に,立位 。 歩行 にいた らなかったケースでは,イ ンテー ク時に, 膝立ち位 でのタテ方 向の動 きの学習がほ とん どな さ れていな く,その後の学習 も滞 りがちであった。
一方,移動運動 との対応 では,イ ンテー ク時に, 四つ這い,ず り這い, あるいはい ざ り移動 を獲得 し ていたケースが,立位 。歩行動作 を獲得 した。イ ン テー ク時 に補助歩行 を獲得 していて,その後立位 ・ 歩行が可能になったケースはなかった。
Ⅳ.
動作発達経過のま とめ最後 に,脳性 まひ児 の動作発達経過 について,以 下2つの柱にそってま とめをしたい。
一つ めの柱 は,動作発達のポイ ン トに関す るもの である。佐藤 (19964),19975),19996),20027))は,脳性 ま ひ児の動作発達のポイ ン トとして,座位や膝 立ち位 における抗重力動作の学習 と,全身の屈 曲パ ター ン を示す 定型的姿勢(Gパ ター ン)か らの解放 とをあげ た。
この うち, とりわけ抗重力動作の学習 は,安定座 位や立位 ・歩行動作獲 得の予後 を,一 定程度予測す る変数 に もなっていた。 立位 ・歩行動作の獲得 に膝 立ち位 でのタテ方向の動作学習が重要 な位置 を占め ることや,安定座位 の獲得 には早期 に座位でのタテ 方 向の動作学習がな され る必要があることな どは, 訓練計画の作成上ポイ ン トになる事項である。
二つ めは,動作の崩れ の問題 である。取 り上げた 対象児の うち,明 らかな動作の崩れが認 め られたの は了全身の屈 曲パ ター ンか らの解放 の途上にある子 ども」と 「低 緊張で動 きの少 ない子 ども」であった。
痩性 の強い前者 の対象児 は,いったん獲得 した動 作が,発達の途上で,癌性 の増大 とともに崩れて く る経過 による 「動作の崩れ」 を特徴 とした。 これに 対 し.後者 の対象児 は,低緊張に加 えて,移動運動 をは じめ とした動 きの少な さが手伝 った,側考な ど の二次障害による 「動作の崩れ」を特徴 とした。
こ うした 「動作の崩れ」が生 じるメカニズムの解 明や.その予防法め開発 に関 しては,いっそ うの研 究が必要 とされ るであろ う。
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Title:MotorDevelopmentofC王IildrenwithCerebralPalsy Satoru SATOH(FacultyofEducation,OkayamaUniversity)
Abstract:Thepresentstudywasdonetodescribetheclinicalpictureofthemovementdisabilitiesofthe childrenwith cerebralpalsy,andtoexaminetiledi爪cultywithwhichtheylean movementsin仙eir developmentalperiod.Ontilebasisordataonthedegreeorattainmentofmodel‑pattem movementsor Dohsa‑method,locomotionpatterns,andsecondarydisturbancesfrom a6‑yearfollow‑upof10childrenwith cerebralpalsy,developmentalprocesses・ofmovementsandproblemsinmovementleamlngWereidentifiedthat correspondedto(1)aclinicalpicturesuchashemiplegia,showingagoodprognosisforwalking,(2)aclinical pictureshowingamovementdisabilitypeculiartodeplegiaandquadriplegia,(3)aclinicalpictureshowinga typicalpostureassociatedwithageneralf一exionpattern,and(4)aclinicalpicturesllOWingallypOtenSive inclination.
Keywords: Cerebralpalsy,MotorDevelopment,Follow‑up,Rehabilitation,Dohsa‑method