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消費者行動から見る患者満足
香川大学経済学部
於:中京大学名古屋キャンパス 堀 啓造 消費者行動研究学会
第31回消費者行動研究コンファレンス
2005 年 11 月 2 6日
• 患者満足度の研究は社会学と消費者中心主義の 起源をもつと言われている。
• 1950 年代から米国において科学的研究が行われ
ている。しかし、定義・概念、尺度化を含め、
さまざまな未解決問題がある。
• 1994 年は1年で 1000 以上の患者満足の研究が
公表されている (Sitzia & Wood, 1997) 。
– もはや完全なレビューは無理になっている。
– レビューを中心にレビューした。
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患者満足度の利用
• QOL
• 医療の質
• 病院評価(経営,医療行政)
• 看護
• 施術等の改革?
患者満足度の定義
• 患者満足度とは、受けた医療に対してど のような点にどの程度満足できたかとい う患者の印象を表すもの(長谷川 , 1999)
– 長谷川万希子 (1999). 患者満足度調査・入門
─患者さんが満足する医療を目指して─第1
回患者満足度とは 国民健康保険 , 1999 年 1
月号 ,36-40
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期待モデル
• 患者満足の定義または概念には期待を使って行うこ とが多い。
• 患者満足の期待に関するレビューは Pascoe(1983) 、 Thompson and Sunol (1995) などが行っている。
• 期待と患者満足の関係のレビューは Ross et al.(1987) が行っている。この時は関係について楽観的である。
しかし, Ross et al.(1993) において選好によって満足 の違いを説明しにくいことから挫折してい
る。 Williams(1994) が消費者中心主義および期待の暗黙
の仮定が満たされないことを論文を引用して論証した。
2つの期待
• 期待について多くの問題が指摘されているが、期 待の2つのタイプについて注意が必要である。
– 本来の期待は具体的な事前の期待することである。
– もう一つは、腰だめ的な見込みまたは漠然とした望み (desire) である。
• 2つの期待は区別しなければならない。患者満足 の期待では2つをわざと混同して使っているとこ ろがある。
• 実証的研究は両方ともある。厳密な事前「期待」
に関しては、面接調査および調査研究において否
定されることが多い。 ( 後述 )
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• 心理学では期待 × 価値(宮本・奈須、 1995) モデルが一世風靡した。期待というものを ベースに満足を考えるのが主流となった。
• マーケティングにおいては嶋口 (1984) が期 待と満足の諸説を説明している。
• 心理学の本では満足について書かれていな
いが,欲求が満たされれば満足だから動機
づけ理論は満足の理論でもある。
期待モデルの問題点
• 期待モデルの問題点として、期待以上のときにはどうな るのか,期待以外のことがおこったときにどうなるのか という点がある。
– Arnould, E., Price, L., & Zinkhan, G. (2002). Consumers. McGra w-Hill (p.617)
• さらに日本人はアメリカ人のように明確な期待をもたな いということもある。
– 日本では Fishbein と Ajzen(1975) のモデルに従ってに期待する 属性とその重要性を購買前に判断させることはとても難しい。
商品をみてからいくつかについて考えるということが多い。
• この点からも期待モデルを適用しにくいことがわかる。
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• 面接調査の結果は事前の期待は明確なものでも ないし,基準を語っても治療後には評価に使わ れてなかったりする (Fitzpatrick & Hopkin, 1983;
Owens & Batchelor, 1996) 。
• Fisherbein & Ajzen モデルも患者満足度の実験の 結果否定されている (Linder-Pelz, 1982) 。
– 理想点モデルのほうが本来の期待モデルに近い考え
かもしれない。
• 漠然とした望み (desire) は事後に期待ど おりだったかを聞く研究が対応する。
– この場合多くが期待モデルを立証。
• これは事前の漠然とした望みがどのよう なものかわからないので研究の意味があ るとは思えない。
– 満足の測定としては使える。
• 漠然とした望みはおそらく自分が健康に
なるということであろう。
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期待モデルの基本的問題
• 今まで期待に対する批判で論じられていな い点がある。患者は医者や看護師や事務や建 物に期待を持つのだろうか。安易にこれらに 対して期待を持つと考えている。
• 実際には期待するのは自分の病気の回復に対 してであろう。
– ファッション店に対する評価を見ても、服に対す る評価は多く出てくるが、店員に対するコメント はあることはあるがわずかである(表1)。
• 期待モデルはかなり不自然な前提を置いてい
る。
表1.店舗イメージの内容分析
( 属性)
( 堀 , 1990)
[商品] (豊富)
色が豊富・服が豊富・種類が多い・店が集まっている (値段)
値段が手頃・値段が安い・品質と値段がつりあっている・
割り引き ・メンバーズカードで景品
安くても高そうに見える・同じ素材でも高く感じる (色・形・品質)
シンプル・カジュアル・はですぎない・落ち着いた感じ・
定番・流行ものではない
色が柔らかい・中間色・きれいな色・特定の色
女の子らしい・かわいらしい・お嬢さんぽい・大学生にみ られる服装・年相応
・大人っぽい・エレガント 特定のサイズがある
形がよい・体にピッタリしている・角張っている・かっち りしている
形が変わらない
仕立てがよい・仕立てががっちりしている 素材がいい・品質が安心
扱いが楽・洗濯をしやすい
いいものが置いてある・置いてあるものに信用ができる 安っぽくない・それなりの高級感がある
外国ものがある
自分の感性にあっている・自分の趣味にあっている・好き なものがそろっている
・欲しいものがある (ブランド)
ブランド・名前が知れている・雑誌に紹介されている ロゴがかわいい・ロゴが入っている
• [店員]
(親和)
店員がいい・店員のファッションセンスが優れてい る・店員の知識が豊富
店員のアドバイスをしてくれる,アドバイスが客観 的・親身、店員が親切・店員と懇意
・店員が気さく・店員と話が楽しい・店員が冷たくな く・相談しやすい
・客が何をもっているか知っている (排斥)
店員がよってこない・つきまとわない・ひつこくな い・売りつける感じがしない
・おしつけない・店員に威圧されない
[店の雰囲気]
通路に商品を出している・試着室が数ヶ所ある・ディ スプレイがある・ドアがない
明るくてきれい・人が適度に入っている・活気があ る・こじんまりしている・広い
・オープン・落ち着いた感じ・雰囲気がいい・いき つけ[立地]
通り道にある・駅から近い・近い・行きやすい・ほ かの用がたせる
─────────────────────────
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満足は1つの理論で解明できる か
• 満足を期待や公正(衡平)など単一のモデル だけで説明できるのであろうか。
• Oliver(1997) は複数の説明原理を取り入れて いる。
– 製品・サービスの性能・品質,期待,要求 (need s) ,公正,秀逸さ(理想),起こったであろう 出来事,なにもなし そこから期待との不一致,
要求の充足,品質,平衡,後悔,評価できないと の認知そして満足・不満足に至る図式を載せてい る。
• ここで、もう一つ問題がある。何でも取り入
れればいいのだろうか。
Oliver(199 7 ) の満足モデル(略)
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満足のレベル
• 英語では, ( 小学館ランダムハウス英語 辞典 )
– satisfy 願望・期待などを十分にかなえてや
る [ 満足させる ] の意 .
– content 文句や不平を言う気にならない程度
に満足させる
面接による研究
– Collins, K. and Alicia O’Cathain, A. (2003). Th e continuum of patient satisfaction― from sati sfied to very satisfied. Social Science & Medic ine, 57, 2465-2470
• 深層面接をした。満足ととても満足は区 別されている。
– 満足…適切なケア,他の人と同じくらいのケ ア。改善される余地がある。
– content
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• 日本語ではさらに上の
– 「満悦,堪能,大いに満足,重畳(ちょうじょう),心 ゆく,満ち足りる」という言い方がある。
– satisfy 「満足,充足,満足のいく,十分な,適う(か
なう)
– content 「足りる,足れりとする,安んじる,安住する
,事足りる , 妥協する,で満足する,で我慢する,受 け入れる,に不足 [ 不平 ] がない,満たす,納まる」
• このように考えると期待モデルには不足がある。
満足と不満足は両極尺度か?
• 古くからある経営学の動機づけの理論に「衛生 要因」「動機づけ要因」の2つに分けるものが ある。
– 衛生要因はそれが改善されれば不満がなくなるが,満 足は高まらない。
– 動機づけ要因はそれがなくても不満は高まらないがあ れば満足が高まる。
• 環境や給料や対人関係などの諸要因をこの2つ に分類している。
• 衛生要因だけ改善しても社員の志気は上がらな
い。
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• この理論からすると満足と不満は別次元に なっている。
– (1) 満足-満足でない
– (2) 不満-不満でない
• という2つの軸がある。
• つまり患者満足を不満だけを聞いてもだめ
である。この考えは消費者満足にも持ち込
まれて 1960 年代後半から 1970 年代に米国
では議論されている(馬場 , 1980 参照)。
• また,快-不快のような感情次元など両極とみら れる分野においてポジティブ,ネガティブの項目 を因子分析すると2次元になる。この結果から両 極尺度ではなくポジティブ,ネガティブが別因子 になるということが広く知られている。
• この問題は各領域でホットな話題となっている。
数理的に生じる,誤差要因,反応バイアス,心理
的実在などいろいろな面から討論されている。
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• 患者満足における2因子は岡谷ほか
(1994) , Moller-Leimkuhler et al.(2002) の
分析などにある。消費者満足における1
因子立証論文は Leavitt(1980) にある。
満足の判断の根拠
• 患者満足というのを「治療行為に対する」
とか「病院に対する」というような対象限 定的なものだろうか。対象を限定すること によって期待モデルが有意になる。
• 病院での経験を通じての満足・不満足であ ろう。
• そこで過去のデータをチェック
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既存データの再分析 満足の規定因
• 長谷川 (2000) のデータを再分析した結果
(図1),外来患者に対する満足を測定 すると「医者」「回復」が重要であった
– (その他の因子は看護師、時間、事務員、多 忙性、建物、配慮)。
– 標本数 =495
– Cf. 長谷川・杉田 (1993). 病院管理 , 30.
図1.外来患者満足度と規定因
(長谷川 (2000) データの再分析)
(GFI=0.964, CFI=0.975, RMSEA=0.054)
T19 精神的苦痛の軽減 回復
E2
.83T18 症状の軽快
E1
.80医師
T12 医師の説明の明瞭度 E6
T11 十分に話を聞く医師の態度 E5
T10 医師の技術と能力の高さ E4
.70 .69 .71
満足
T20 この病院に通院
してよかった E7
T21 他の病気のときも
この病院に来たい E8 T22 家族友人に紹介
できる E9
.85 .82 .86
D1
.35
T06 看護婦の態度 看護師 E12
T05 看護婦の技術と能力の高さ E11
.74 .74
.15
T13 医師の態度や言葉づかい
E3
.59.66 .60
.37
.43
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表2. SEM による項目追加と標準 化係数,統計および適合度
医師因子 3項目 4項目
追加因子 医師 回
復 医師 回復 看護師 建物
医
師
医師 回復+医師 回復+医 師
標準化 満足<-医師 0.756 0.56
1 0.737 0.531 0.432 0.482
係数 満足<-回復 0.32
1 0.348 0.349 0.347
満足<-追加 0.153 0.109
満足誤差分散 0.293 0.26
1 0.314 0.272 0.260
0.264 0.641
決定係数 0.586 0.64
7 0.542 0.626 0.649
GFI 0.981 0.96
4 0.979 0.964 0.964 0.967
RMSEA 0.072 0.08
1 0.060 0.068 0.056 0.053
追加パスのp 値 0.00
0 0.000 0.018 0.047
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1 2 3 4 5 6 7 8
T13
医師の態度や言葉づかい 0.76T11
十分に話を聞く医師の態度 0.63T12
医師の説明の明瞭度 0.63T10
医師の技術と能力の高さ 0.56 0.29T15
担当医の交替による不便 0.48T19
精神的苦痛の軽減 0.84T18
症状の軽快 0.79T05
看護婦の技術と能力の高さ 0.77T06
看護婦の態度 0.66T03
来院のための交通の便 1.00T04
各待ち時間の長さ 0.46 0.27T09
事務系職員の態度 0.78T08
事務系職員の仕事の効率 0.69T07
看護婦の多忙性 0.74T14
医師の多忙性 0.38 0.44T02
建物の雰囲気や快適性 0.70T01
病院内の案内表示の明確度 0.66T17
医師によるプライバシーの尊重 0.75T16
医師によるはげまし 0.25 0.49表3.因子パタン ( 最小2乗法,プロマックス回転 (power=4))
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1 2
医師 0.76 0.15
事務 -0.09 0.77
時間 0.10 0.25
多忙性 -0.06 0.37 回復 0.73 -0.08
看護師 0.38 0.38
建物 0.01 0.79
配慮 0.86 -0.12 2 乗和 2.01 1.60
表4.2次因子
I 医
師 その
他
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表5.重回帰分析の標準化係数
標準化係
数
t有意確率 相関係数
ベータ
ゼロ 次 偏
T10 医師の技術と能力の高さ 0.27 7.20 0.00 .550 .311
T18 症状の軽快 0.20 4.54 0.00 .510 .202
T06 看護婦の態度 0.11 3.16 0.00 .390 .142
T19 精神的苦痛の軽減 0.17 3.92 0.00 .510 .175
T14 医師の多忙性 0.09 2.49 0.01 .290 .112
T17 医師によるプライバシーの尊重 0.11 3.22 0.00 .360 .145
T08 事務系職員の仕事の効率 0.06 1.73 0.08 .260 .078
T13 医師の態度や言葉づかい 0.08 2.25 0.02 .390 .102
T02 建物の雰囲気や快適性 0.07 2.00 0.05 .280 .090
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ちょっと外れる
医師3項目の医師・看護師と 患者満足
• 共分散構造モデルの設定
• 単純化したモデルによる例示
モデル1 全体モデル
看護師 T07 看護婦の多忙性
E3
T06 看護婦の態度
.31E2
.76T05 看護婦の技術と能力の高さ
E1
.72医師 T12 医師の説明の明瞭度
E6
T11 十分に話を聞く医師の態度 E5
T10 医師の技術と能力の高さ E4
.68 .66
.73
満足
T20 この病院に通院
してよかった E7
T21 他の病気のときも
この病院に来たい E8 T22 家族友人に紹介
できる E9
.83 .82 .88 .09
.70 .68
E10
31
モデル2 看護師→満足=0
看護師 T07 看護婦の多忙性
E3
T06 看護婦の態度
.31E2
.76T05 看護婦の技術と能力の高さ
E1
.72医師 T12 医師の説明の明瞭度
E6
T11 十分に話を聞く医師の態度 E5
T10 医師の技術と能力の高さ E4
.67 .66
.73
満足
T20 この病院に通院
してよかった E7 T21 他の病気のときも
この病院に来たい E8 T22 家族友人に紹介
できる E9
.83 .82 .88 .00
.77 .69
E10
モデル3 医師→満足=0
看護師 T07 看護婦の多忙性
E3
.28
T06 看護婦の態度
E2
.65T05 看護婦の技術と能力の高さ
E1
.64医師 T12 医師の説明の明瞭度
E6
T11 十分に話を聞く医師の態度 E5
T10 医師の技術と能力の高さ E4
.69 .66
.73
満足
T20 この病院に通院
してよかった E7
T21 他の病気のときも
この病院に来たい E8 T22 家族友人に紹介
できる E9
.82 .83 .89 .75
.00 .87
E10
33
モデル4 相関=0 →重回帰分 析
看護師 T07 看護婦の多忙性
E3
.32
T06 看護婦の態度
E2
.83T05 看護婦の技術と能力の高さ
E1
.66医師 T12 医師の説明の明瞭度
E6
T11 十分に話を聞く医師の態度 E5
T10 医師の技術と能力の高さ E4
.69 .68
.71
満足
T20 この病院に通院
してよかった E7
T21 他の病気のときも
この病院に来たい E8 T22 家族友人に紹介
できる E9
.81 .81 .87 .25
.68 .00