昭和60年11月20日 1165
わ が国初 の紅斑 熱 リケ ッチ ア感 染 症
阿南市医師会 馬 原 文 彦 古 賀 敬 一 沢 田 誠 三 谷 口 哲 三 徳島大学皮膚科学教室 重 見 文 雄 秋田大学微生物学教室 須 藤 恒 久 国立予防衛生研究所 坪 井 義 昌 大 谷 明 徳島大学 ウイルス学教室 小 山 一 内 山 恒 夫 内 田 孝 宏 (昭和60年5月21日 受付) (昭和60年7月23日 受理)Key words: Spotted fever group rickettsiosis,Weil-Felix Test,Hemorrhagic exanthem, Rickettsial disease of man, Tick bite
要 旨 昭 和59年5月 中 旬 よ り7月 ま で の短 期 間 に,徳 島 県 阿 南 市 に お い て,紅 斑 と高 熱 を 主 徴 と し特 徴 的 な 経 過 を 辿 った リケ ッ チ ア症 と思 わ れ る3症 例 を 経 験 し た.こ れ らの 症 例 は,Weil-Felix反 応OX2陽 性 で, 恙 虫 病 とは 異 な る反 応 を 示 し,詳 細 な 臨 床 的 血 清 学 的 検 索 の 結 果,わ が 国初 の紅 斑 熱 リ ケ ッチ ア症 と判 明 した. 症 例 は,62∼69歳 の農 家 主 婦 で,藪 ま た は 畑 に 入 っ て か ら2∼8日 後 に 発 熱,悪 寒 戦 標 を も っ て 発 病 し,稽 留 熱(39∼40℃ 以 上)と,四 肢 末 梢 か ら全 身 に 拡 が る皮 疹 を 特 徴 と した.皮 疹 は,米 粒 大 か ら 小 豆 大,淡 紅 色 の 痒 み を 伴 わ な い 紅 斑 で,ガ ラス 圧 に よ り消 退 す るが,次 第 に 出 血 性 と な った.3例 中2 例 で 痂 皮 また は 潰 瘍 を 伴 う硬 結 を 認 め た(刺 し 口).全 身 リ ンパ 節 腫 脹,肝 脾 の 腫 大 は 認 め な か っ た.治 療 は,テ トラサ イ ク リン系 抗 生 剤(DOXY)が 著 効 を 示 した. 血 清 学 的 検 査 で は,Weil-Felix反 応 で,3症 例 共OX2に 有 意 の 抗 体 価 上 昇 を 示 した.間 接 免 疫 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ反 応 で は,恙 虫 病 リケ ッチ ア3株 に 陰 性 で あ り恙 虫 病 で は 無 い こ とが 証 明 さ れ た.更 に,CF 反 応 で 紅 斑 熱 群 特 異 抗 原 に 対 し陽 性 と な り,本 症 例 は,紅 斑 熱 リケ ッチ ア 感 染 症 で あ る こ とが 確 認 さ れ た. 1.は じめ に 抗 生 物 質 の進 歩 に よ り,リ ケ ッチ ア症 は ほ ぼ 消 滅 に近 い も の と思 わ れ て き た.し か し,最 近 に な っ て恙 虫 病 を 主 体 と した リケ ッチ ア症 は む しろ 増 加 の傾 向 に あ り,従 来 の 発 生 地 以 外 に も報 告 例 が あ い つ ぎ 臨 床 上 注 意 を 要 す る疾 患 と な りつ つ あ る1)2).我 々 は,徳 島 県 阿 南 市 に お い て,昭 和59年 5月 下 旬 よ り7月 ま で の短 期 間 に,発 疹 と高 熱 を 主 徴 と し恙 虫 病 と類 似 す る経 過 を た ど った3症 例 を経 験 した.こ れ らの 症 例 は,Weil-Felix反 応 で OXK陰 性,OX2陽 性 を呈 し悪 虫 病 とは 異 な る反 応 を 示 した3).こ の た め,詳 細 な検 索 を お こ な っ た 結 果,本 邦 初 の 紅 斑 熱 リケ ッチ ア症 と判 明 した の 別 刷 請 求先:(〒779-15)徳 島県 阿 南市 新 野 町信 里6 -1 馬原医院 馬原 文彦
で 報 告 す る. II.症 例 症 例1.,63歳,農 家 主 婦. 家 族 歴:特 記 す べ き こ と無 し. 既 往 歴:高 血 圧 症 で 昭 和50年 よ り服 薬. 主 訴:発 熱,皮 疹,全 身 倦 怠 感,頭 痛. 現 病 歴:昭 和59年5月18日,阿 南 市 新 野 町 に お い て,竹 の 子 採 りに藪 に は い っ た.翌5月20日 夜 よ り,悪 寒 戦 藻 を 伴 う高 熱(39.4℃)が あ り,翌 5月21日 当 院 を 受 診 し入 院 した . 入 院 時 所 見:体 格 栄 養 良,意 識 清 明,体 温 38.5℃,脈 拍78/分,整,血 圧122∼62mmHg ,四 肢, 体 幹 に,米 粒 大 か ら小 豆 大 の紅 斑 を 多 数 認 め た . 掻 痒 感 疼 痛 は無 く,ガ ラ ス圧 に よ り消 退 した. 眼 険 結 膜 は 軽 度 充 血,黄 疸 は 認 め な か った.胸 部 は 心 音,呼 吸 音 共 に異 常 な く,腹 部 も肝 脾 を 触 れ ず 異 常 を認 め な い.項 部 強 直 な し.膝 蓋 腱 反 射 正 常,全 身 の リンパ 節 腫 脹 は認 め な か った. 入 院 時 検 査 成 績:尿 蛋 白,尿 潜 血 軽 度 陽 性,赤 沈17/42と 中等 度 促 進,末 梢 血 検 査 で は,白 血 球 数 7,700(L15%,ST13%,Seg70%)と 核 の左 方 移 動 を認 め,リ ンパ 球 は減 少 の 傾 向 に あ る. 生 化 学 検 査 で は,GOT62,GPT38,LDH1,253 と軽 度 肝 機 能 障 害 を 認 め,CRP5+で あ った. 経 過:熱 型 お よ び治 療 経 過 はFig.1に 示 した. 紅 斑 は3∼4病 日 よ り出 血 性 とな り,顔 面,四 肢 か ら全 身 に 拡 が っ た.1ヵ 月頃 よ り漸 次 消 退 傾 向 を 示 し,2ヵ 月後 に は ほ ぼ 消 失 した.本 症 例 で は, 虫 類 に よ る刺 し 口を 見 い 出 す 事 は で き なか っ た. 発 熱 は,最 高39.4℃ 位 の高 熱 が 持 続 し,大 量 の解 熱 剤 の 使 用 を要 した が,第10病 日頃 よ り分 離 的 に 解 熱 した.検 査 成 績 で は,第3病 日に 白 血 球 数 12,300(L8%,ST21%,Seg71%)と 増 加 を 示 し リン パ球 減 少 を認 め た.肝 機 能 検 査 で も,GOT 131,GPT95,LDH1,135と 悪 化 を み るが,第14 病 日の 検 査 で は 何 れ も正 常 に 復 し て い た. 治療:本 症 例 で は,病 初 期 に は リケ ッチ ア症 を 想 定 した 治 療 を な し えず,一 般 感 染 症 と して 抗 生 物 質 を使 用 した が,有 効 と は考 え 難 か っ た. 症 例2.,69歳,農 家 主 婦. 家 族 歴:特 記 す べ き事 無 し. 既 往 歴:昭 和47年4月,徳 島大 学 に て 乳 癌 手 術, 右 乳房 切 除,リ ンパ 節 廓 清 術 を 受 け て い る. 主 訴:発 熱,倦 怠 感,脱 力 感.
昭和60年11月20日 1167 現 病 歴:昭 和59年5月31日,阿 南 市 福 井 町 に お い て 藪 に 入 り右 手 を ダ ニ に 刺 さ れ た.6月2日 夕 方 よ り発 熱(37.3∼38.3℃),全 身 倦 怠,食 欲 不 振 が あ り,6月4日 当 院 初 診,入 院 し た. 入 院 時 所 見:体 格 中 等 度,栄 養 や や 不 良.右 前 胸 部 に 乳 房 手 術 痕,右 リ ン パ 節 廓 清 に よ る 濃 痕 を 認 め る.意 識 清 明,体 温38.5℃,脈 拍76,整,血 圧96∼70mmHg,右 腕 内 側 部 に 直 径1.0×0.5cm の,中 心 に 痂 皮 を 付 着 す る 赤 い 硬 結(刺 し 口, Photo 1)が あ り,ほ ぼ 全 身 に 小 豆 大 前 後 の 境 界 不 鮮 明 な 紅 斑 が 多 発 し,一 部 の も の は 皮 面 よ り隆 起 し て い る.特 に 右 腕 の 刺 し 口 か ら末 梢 に 腫 脹 を 認 め 皮 疹 が 目 だ っ た(Photo 2).胸 部,腹 部,四 肢 に 特 記 す べ き事 な く,全 身 リ ン パ 節,肝 脾 を 触 れ な い. 入 院 時 検 査 成 績:尿 蛋 白 潜 血,軽 度 陽 性,赤 沈 23/50と 中 等 度 亢 進,末 梢 血 検 査 で は,白 血 球 数 4,800(L11%,ST45%,Seg44%)と 白 血 球 増 多 は な く,リ ン パ 球 減 少 を 認 め た. 生 化 学 検 査 で は,GOT47,GPT42,LDH569 と 軽 度 肝 機 能 障 害 を 認 め,CRP6+で あ っ た. 経 過:熱 型 お よ び 治 療 経 過 は,Fig.2に 示 す ご と くで あ る.悪 寒 戦 標,高 熱 の 持続 が 特 徴 的 で あ り,病 初 期 に は,右 手 刺 し 口よ り末 梢 部 の腫 脹, 筋 痛,シ ビ レ感 等 を 訴 え た.皮 疹 は痒 み を 伴 わ ず, 手 足 よ り全 身 に 拡 が り,四 肢 末 梢 部 で や や 多 く毛 髪 内,手 掌 部 に 及 んで い る(Photo 3).病 初 期 は ガ ラス 圧 に よ り消 退 す る が,次 第 に 出血 を 伴 う よ うに な り,2週 間 目 ぐ らい を ピ ー ク と して 以 降 漸 次 消 退 傾 向 を 示 し,約2ヵ 月 後 に は ほ ぼ 消 失 した. 検 査 成 績 で は,尿 蛋 白,潜 血 は 治 療 開 始 と共 に 消 失 し,肝 機 能,CRPも2週 後 に は 正 常 化 して い るが,末 梢 血 検 査 で は,白 血 球 数4,200(L64%, ST2%,Seg31%)と や や リン パ球 増 多 の傾 向 に あ る. 治 療:第5病 日 よ りDOXY 200mg/日 点 滴 静 注 を 開 始 した が,著 明 な 効 果 が あ り,39℃ 以 上 を 持 続 し て い た 高 熱 が 急 速 な 改 善 を示 した.DOXY 点滴 静 注 は2週 間 継 続 し,そ の の ち経 口投 与 で 約 1ヵ 月 間 後 投 与 を 行 っ た. 症 例3.,62歳,農 家 主 婦. 家 族 歴:既 往 症 に特 記 す べ き こ とな し. 主 訴:全 身 倦 怠. 現 病 歴:昭 和59年7月17日,の 自
Photo 1 Eschar on the right arm in the case 2.
Photo 2 Swelling was remarkable over the for-earm distal to the eschar and the rash was obser-ved on the extremities,the palms,the face and the trunk,relatively in great numbers on
extrem-ities.(the case 2,on admission)
宅 近 くの 畦 で 草 取 りを して い て右 腋 窩 部 を 虫 に刺 され た.7月24日 頃 よ り全 身 倦 怠 感,微 熱(37.7℃) が あ り当 院初 診,解 熱 剤 の 投 与 に て 帰 宅,翌25日 全 身 倦 怠 高 度 の た め 入 院 とな る. 入 院 時 所 見:体 格 栄 養 普 通 わ 躯 全 体 に 生 気 無 く,体 温37.8℃,脈 拍96/分,整,血 圧110∼74 mmHg,眼 瞼 結 膜 の 充 血 を認 め る.皮 疹 は 体 幹 部 に散 在 し,四 肢 に 多 い.米 粒 大 か ら小豆 大,淡 紅 色 を呈 し痒 み を 伴 わ な い紅 斑 で,ガ ラ ス圧 に よ り 消 退 す る.右 腋 窩 部 に中 心 が 潰 瘍 化 した直 径3×2
Photo 3 The exanthem.The characteristic rash became hemorrhagic in a few days(the case 2,4 th hospital day).
Photo 4 Eschar on the right axilla in the case 3, (third hospital day).
cmの 硬 結 が あ る(刺 し 口,Photo 4).全 身 リ ン パ 節 の 腫 脹 は 認 め な い.胸 腹 部 に は 特 記 す べ き 所 見 を 認 め な か っ た. 入 院 時 検 査 成 績:尿 蛋 白,尿 潜 血,軽 度 陽 性, 赤 沈48/99,白 血 球 数5,100(L15%,ST35%,Seg 50%),核 の 左 方 移 動 を 認 め る が,リ ン パ 球 は 減 少 の 傾 向 に あ る.生 化 学 で は,GOT77,GPT35, LDH514と 軽 度 肝 機 能 障 害 を み と め,CRP5+で あ っ た. 経 過:熱 型 お よ び 治 療 経 過 をFig.3に 示 し た. 第1病 日 深 夜 か ら悪 寒 戦 標 を 伴 う40℃ を 越 え る 発 熱 が あ り,前2例 と 同 様 の 皮 疹 が,顔 面,四 肢 か ら 全 身 に 拡 が っ た.抗 生 物 質 投 与 に も 関 らず 第 2病 日,第3病 日 と40度 を 越 え る 高 熱 が 稽 留 し, 全 身 状 態 の 急 激 な 悪 化 を 認 め,顔 面 浮 腫,意 識 朦
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Fig.3 Clinical course and therapy in the patient of case 3.62 year old female.
朧 状 態 と な っ た.第3病 旦 に い た り,DOXY300 mg/日 の 投 与 を 開 始 し た と こ ろ,劇 的 な 効 果 が あ り急 速 な 症 状 の 改 善 を 得 る 事 が で き た.皮 疹 は, 第5病 日頃 よ り出 血 性 と な り,特 に 四 肢 末 梢 で 顕 著 で あ っ た. 血 液 検 査 で は,第1週 目 で 末 梢 血 白血 球 数9,500 (L59,ST4,Seg31)と 軽 度 増 加 を み た が,第2 週 目 で は 白 血 球 数5,100(L59,ST4,Seg29)と 改 善 を 認 め,肝 機 能CRPも 正 常 に 復 し て い る. III.血 清 学 的 検 査 1.Weil-Felix反 応(Table1) 症 例1,血 清 学 的 検 査 は,第15病 日 よ り お こ な っ た が,OXK,OX19は 陰 性,OX2は640倍 と陽 性 で あ っ た.そ の 後6週 目 ま で640倍 で 経 過 し,以 降 低 下 し 始 め た. 症 例2,0XK,OX19は 共 に 陰 性,OX2は 第3週 目 よ り40倍 陽 性 と な り,第6週 ま で 陽 性 を 示 し た. 症 例3,入 院 時 全 て 陰 性 で あ っ た が,第1週 目 よ り,OX2,160倍 陽 性 と な り,そ の 後 上 昇 し640倍 ま で 陽 性 を 示 し た. 2.間 接 免 疫 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 反 応 恙 虫 病 リケ ッチ ア3株 に 対 しペ ア血 清 で,3症 例 と も陰 性 で あ った. 3。 紅 斑 熱 群 特 異 抗 原 に 対 す るCF反 応(Table 2) 急 性期 は 何 れ も陰 性,回 復 期 で は3症 例 と も40 倍 ∼640倍 の 陽 性 と な っ た. IV.考 案 臨 床 所 見:3症 例 に共 通 して い る の は,以 下 の 如 くで あ る. 1.藪 また は畑 に 入 って か ら2∼8旦 後 に発 熱, 悪 寒 戦 懐 を も って 発 病 し,全 身 状 態 を急 激 に 悪 化 せ しめ る. 2.発 熱 と共 に痒 み を 伴 わ な い境 界 不 鮮 明 な 米 粒 大 前 後 の 紅 斑 が全 身 に 多 発 し,そ の 後 出血 性 と な る.発 疹 は 四 肢 に 多 い 傾 向 に あ る. 3.3例 中2例 で 刺 し 口を 認 め 本 人 が 気 付 い て い る.全 身 リンパ 節,肝 脾 の腫 大 は 認 め な か った. 4.病 初 期 に は尿 蛋 白,尿 潜 血 軽 度 陽 性,肝 機 能 の軽 度 障 害 を認 め るが,解 熱 と共 に正 常 に復 した. 5.抗 生 物 質 は,テ トラ サ イ ク リン系 抗 生 物 質 が 有 用 で あ った.
Table 1 Results of Weil-Felix Test&Immunog-lobulin Contents
Table 2 Spotted Fever Group Specific Comple-ment Fixation Test
R.rick.:Rickettsia rickettsi,N.D,:not done
本 症 は,発 疹,高 熱,刺 し 口,テ トラサ イ ク リ ン系 抗 生 物 質 が有 効 な こ とな ど恙 虫 病 と類 似 す る 点 が 多 い. しか し本 症 に お け る皮 疹 は,四 肢 末 梢 か ら体 幹, 全 身 に拡 が る傾 向 に あ り,3∼5病 日 よ り出 血 性 とな り,色 素 沈 着 が 約2週 ∼2ヵ 月 間 持 続 した. 恙 虫 病 に お け る 臨 床 症 状4)は,皮 疹 は躯 幹,顔 面 に 出 現 し後 に 四 肢 に 及 ぶ,5∼7日 間 持 続 し時 に軽 度 の色 素 沈 着 を の こす が,大 部 分 は1∼2週 で 完 全 に消 退 す る と記 され て い る. 発 熱 に 関 し て,新 型 恙 虫 病 に お け る最 高 体 温 が 38.5∼39.1℃ と され て い る の に 対 して,本 症 で は 39.2∼40.8℃ とや や 高 い傾 向 に あ る と思 わ れ る. ま た,恙 虫 病 で ほ ぼ100%に み られ る全 身 リン パ 節 腫 脹 が3症 例 と も に み られ なか っ た. 以 上 の臨 床 症 状 を紅 斑 熱 群 の リケ ッチ ア症 の 症 状5)6)と勘 案 して み る と,高 熱,皮 疹 の 形 状,発 疹 が 出血 性 とな り色 素 沈 着 を 残 す 点 な ど ロ ッキ ー 山 紅 斑 熱 の もの と類 似 して い る.し か し,発 熱,全 身 倦 怠 感,頭 痛,な どで 発 症 し,中 心 に壊 死 を伴 う刺 し 口が あ り,発 疹 が 手 か ら体 幹,顔,手 掌, 足 蹠 に拡 が る点 な ど,む し ろ,東 半 球 に お け る ダ ニ媒 介 リケ ッチ ア症 に 近 い もの と推 測 され る. 臨 床 検 査 成 績 で は,病 初 期 に は 白血 球 数 増 加 は な く,リ ンパ 球 減 少 を 示 し,1∼2週 目 に 白血 球 数 軽 度 増 加,リ ン パ 球 増 多 の傾 向 を認 め た.血 液 検 査 で は,CRP強 陽 性,肝 機 能 の 軽 度 障 害 を認 め た. 血 清 学 的 検 査:本 症 に特 徴 的 な の はWeil-Felix 反 応 で 患 者 血 清 がOX2抗 原 を 凝 集 す る こ とで あ る.恙 虫 病 で はWeil-Felix反 応 はOXK陽 性, OX2,OX19は 陰 性 とさ れ て い る. 本 症 で,Weil-Felix反 応OX2の 抗 体 価 は,症 例 2及 び3に み る ご と く,急 性 期 に 陰 性,そ の 後40 倍 或 い は640倍 迄 上 昇 を み た.ま た症 例1に お い て も,OX2抗 体 価 は640倍 陽 性 か ら 回 復 期 に は 低 下 を し て お り,本 症 が 明 ら か にWeil-Felix反 応 OX2陽 性 の 感 染 症 で あ る こ とを 示 す も の と考 え る(Table 1).OX19の 凝 集 反 応 に関 して は,臨 床 検 査 で は 陰 性 の 成 績 で あ った が,反 応 の検 討 に よ りOX19も 陽 性 と な る こ と が 判 明 し た7).Wei1-Felix反 応 は非 特 異 的 反 応 で あ り,そ の 診 断 的 価 値 につ い て は 議 論 の あ る と こ ろ で あ るが,こ れ に つ い て は別 に 発 表 され て い る8).何 れ に し て も, Weil-Felix反 応 が 本 症 発 見 の 端 緒 と な った 意 義 につ い て 強 調 し て お きた い.間 接 免 疫 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ反 応 で は,3症 例 とも恙 虫 病3株 に 対 し て 何 れ も陰 性 で あ り,恙 虫 病 で は な い こ とが確 定 さ れ た.更 にCF反 応 に よ り,紅 斑 熱 群 特 異 抗 原 陽 性
昭 和60年11月20日 1171 を示 し,紅 斑 熱 群 リケ ッチ ア感 染 症 で あ る こ とが 証 明 され た. 我 が 国 に お け る リケ ッチ ア症 は,発 疹 チ フ ス, 発 疹 熱,恙 虫 病,な どが 知 られ て お り長 い 研 究 の 歴 史 が あ る9).特 に恙 虫 病 は,昭 和50年 以 後 増 加 の 傾 向 に あ り,臨 床 上,医 療 行 政 上 問 題 を な げ か け て い る1)2).一方,紅 斑 熱 リケ ヅチ ア症 は,我 が 国 に は存 在 しな い も の と され て きた.今 回,臨 床 検 査 に お い てWeil-Felix反 応 のOX2が 強 陽 性 と な った こ とが 発 端 とな って,種 々の 施 設 で研 究 が な され,血 清 学 的 に我 が 国 に も存 在 す る事 が 確 認 され た3)10)11).現在 の と ころ 病 原 体 の 分 離 に至 って は お らず,さ ら に詳 細 な 血 清 学 的 解 析,病 原 体 の 解 明,疫 学 調 査 な どを 要 す る もの と考 え られ るが, 本 症 の 発 見 は 本 邦 に お け る リケ ッチ ア感 染 症 に 重 大 な 問 題 を提 起 し て い る もの と考 え る. 治 療 に関 して は,症 例1の ご と く本 症 と診 断 す る前 は セ フ ァ ロ ス ポ リソ系 抗 生 剤 を 第 一 選 択 と し た が,殆 ど効 果 が 得 られ な か った.第2例 以 降 は, テ トラサ イ ク リン系DOXYの 使 用 に よ り劇 的 な 効 果 を あ げ た.特 に第3症 例 で は第3病 日早 朝 に 40.8℃ とな り意 識 も うろ う状 態,顔 面 浮 腫 を きた した が,こ の 時 期 よ りのDOXY使 用 に よ り急 激 な症 状 の 好 転 を えて 危 機 を 脱 した.本 症 は高 熱 に よ る 全 身 衰 弱 が 顕 著 で あ るた め,早 期 に 適 切 な処 置 を要 す る もの と考 え られ,病 早 期 よ りの テ トラ サ イ ク リン系 抗 生 剤 の使 用 が 強 調 され る. 血 清 学 的 診 断 を うる の に 必 要 な抗 体 価 の上 昇 は 2∼3週 後 に な る に も関 らず,病 勢 は 第2第3病 日 と急 速 に悪 化 を み る事 か ら,高 熱 と発 疹 の あ る 症 例 で は,本 症 を 念 頭 に お い た 治 療 が 肝 要 と考 え る. な お 本 論 文 要 旨 は,第54回 日本 感 染 症 学 会 西 日本 地 方 会 総 会(昭 和59年11月30日,山 口市)お よ び,第59回 日本 感 染 症 学 会 総 会(昭 和60年5月11日,那 覇 市)に お い て 発 表 し,西 日本 地 方 会 総 会 の 推 薦 論 文 と な っ た. 文 献 1) 川 村 明 義: つ つ が 虫 病. 医 学 の あ ゆ み, 131: 924-930, 1984. 2) 須 藤 恒 久: 我 国 に お け る 恙 虫 病 とそ の 早 期 診 断. 早 期 治 療 の 必 要 性 に つ い て. Prog. Med., 4: 1083 -1 089, 1984. 3) 馬 原 文 彦: 発 疹 と 高 熱 を 主 徴 と し, Weil-Felix反 応(OX2) 陽 性 を 示 した3症 例 に つ い て.阿 南 医 報, 68(9月 号): 4-7, 1984. 4) 橘 宣 祥: つ つ が 虫 病 の 臨 床. 臨 床 と ウ イ ル ス, 12: 265-269, 1984. 5) 山 作 房 之 輔: リ ケ ッ チ ア 性 疾 患. 新 内 科 学 大 系(山 村 雄 一 外 監 修) 53B, 中 山 書 店, 東 京, 1979, p. 221-258.
6) Woodward, T. E. & Jackson, E. B.: Spotted fever rickettsiae. In viral and rickettsial infec-tions of man, Fourth ed. (Horsfall, F.L. Jr. & Tamm, I., eds.), J. B. Lippincott Co., Philadel-phia, 1965, p.1095-1129. 7) 内 田 孝 宏: 市 販Weil-Felix反 応 用 抗 原Proteus OX2お よ びOX19を 用 い た 凝 集 反 応 の 検 討.感 染 症 誌,投 稿 中. 8) 内 田 孝 宏: Weil-Felix反 応 に つ い て の 考 察. 臨 床 と ウ イ ル ス, 13: 207-212, 1985. 9) 笠 原 四 郎: リ ケ ッ チ ア 病 研 究 の 歩 み. ウ イ ル ス, 28: 5-23, 1978. 10) 馬 原 文 彦, 古 賀 敬 一, 沢 田 誠 三, 谷 口哲 三, 重 見 文 雄, 坪 井 義 昌, 大 谷 明, 小 山 一, 内 山 恒 夫, 内 田 孝 宏: 紅 斑 と高 熱 を 主 徴 と し, Weil-Felix反 応OX2陽 性 を 示 し た3症 例 に つ い て.感 染 症 誌, 59: 424-425, 1985. 11) 馬 原 文 彦, 古 貫 敬 一, 沢 田 誠 三, 谷 口 哲 三, 重 見 文 雄, 須 藤 恒 久, 坪 井 義 昌, 大 谷 明, 小 山 一, 内 山 恒 夫, 内 田 孝 宏: わ が 国 初 め て の 紅 斑 熱 群 リ ケ ッ チ ア 感 染 症. 感 染 症 誌, 59 (臨 時 増 刊 号): 127-128, 1985.
The First Report of the Rickettsial Infections of Spotted Fever Group in Japan; Three Clinical Cases
Fumihiko MAHARA
Mahara Hospital,Anan-city,Tokushima,Prefecture Keiichi KOGA
Koga Hospital Anan-city,Tokushima,Prefecture Seizo SAWADA & Tetuzo TANIGUCHI
Anan Medical Association Hospital Fumio SHIGEMI
Department of Dermatology,School of Medicine,The University of Tokushima Tsunehisa SUTO
Department of Microbiology,Akita University School of Medicine Yoshimasa TSUBOI&akira OOYA
National Institute of Health
Hazime KOYAMA,Tsuneo UCHIYAMA&Takahiro UCHIDA
Department of Virology,School of Medicine,The University of Tokushima
During the short period of summer,from the middle of May to July,1984,there were three cases of an acute febrile disease with the characteristic exanthem successively at Aratono area in Anan city, Tokushima prefecture.The onset was abrupt,with headache and witha sudden shaking rigor and the fever was 39•Žto 40•Žor more.The rash was not tender or didn't itch,and it appeared on extremities, face and trunk,relatively in great numbers on extremities.The erythematous lesions were macular and nonfixed and then became macropapular and hemorrhagic.A tick bite was noticed in one case and in two cases out of three,eschars were observed: the erythematous induration covered by a scab in one case and the ulcerated lesion located in a center of the indurated area in the others.
The generalized lymphadenopathy was not detected,and the liver and spleen were not palpable. Agglutinins against Proteus OX2 with a significant rise were found in the sera of the patients by Weil-Felix test.It was proved by indirect immunoperoxidase reaction that the sera of all cases contained no antibody against any three strain of Rickettsia tsutsugamushi.After the treatment with doxycycline the patients became afebrile promptly and the response was dramatic.
The clinical observations and serologic examinations were led to consider these cases to be the rickettsial infection of spotted fever group,the novel disease in our country.The diagnosis was con-firmed by the complement fixation test using group specific rickettsial antigens of spotted fever group.
