GLOBAL INNOVATION REPORT
米国におけるマイクログリッド
世界各地で相次ぐ自然災害やテロの脅威を背景に,停電 への備えを含む電力の安定供給は,住民の安全やセキュ リティの面からも各国共通の社会課題となっています。
地球温暖化対策として再生可能エネルギーの導入が進む 中,諸課題への有望なソリューションと目されているマイ クログリッド――。しかし,その構築・運用にはさまざま なノウハウが求められます。
日立は現在,専門知識を備えたチームを新たに創設し,多く の顧客と対話を重ねながら,エネルギー関連の先進地域で ある北米マイクログリッド市場の開拓に挑戦しています。
ここでは,エネルギー分野で豊富な経験を持つAlireza Aram が米国市場における最新動向をレポートします。
Alireza Aram
Sr. Vice President & General Manager, Energy Solutions Division, Hitachi America, Ltd.
1 ︱ 市場の状況
変革の最中にある米国の電力業界において,数 あるDER(Distributed Energy Resource:分散 型エネルギー源)ソリューションの一つがマイク ログリッドである。電力業界は,しばしば市場の 独占状態を生み出してきた集中型システムから,
分散型システムへとシフトしつつある。筆者が米 国の顧客との会合を重ねていくうちに感じている のは,エネルギー流通に対する顧客の期待が目に 見えて,かつ急速に変わりつつあるということだ。
新しい技術と,それを支える規制の変化によって,
エネルギーの供給,管理,コストをめぐる選択肢
出典:Navigant Research
と自由度が増えてきているからである。しかも,
全国で大小規模の公益事業者から話を聞いてみる と,その反応は電気通信業の場合とよく似ている。
将来を見越して転換に備える事業者もあれば,そ の変化を押し留め遅らせようと抵抗している事業 者もあるということである。
2 ︱ マイクログリッド
マイクログリッドは,今日の市場で入手できる DERソリューションとしては最も洗練されたも のだ。その定義は国によって異なるが,米国では エネルギー省によってこう定義されている。
「明確に定義でき,グリッドという形で一元的 に管理できる事業体として機能する電気系統の中 で,負荷と分散型エネルギー資源(DER)を相互 に接続したグループ。マイクログリッドは,グリッ ドに接続した状態でも分離モードでも動作するよ うに,グリッドとの接続と切り離しが可能で ある。」
マイクログリッド方式のDERは一般的に,太 陽光発電システム,CHP(Combined Heat and Power:熱・電気複合)ユニット,高性能バッテ リー,建造物における負荷コントロールで構成さ れる。これらのシステムを能動的に管理するのが,
発電動作特性や負荷の変化に対応できるマイクロ グリッドコントローラである。マイクログリッド は,平常時には一般電力網と並列で動作するが,
停電の発生時には主電力網から独立して動作する 機能(分離モード)を備える。テクノロジーへの 依存が進む中,ひとたび停電が起きた場合の耐性 は,社会のあらゆる部分で極端に低下している。
その一方,米国ではインフラの老朽化と,インター ネット上および物理的な脅威が原因で,停電が起 きやすくなっているという現状もある。
こうした理由で,停電が起きた場合に電力グ リッドから切れ目なく「分離」できる機能が,マ イクログリッドと他のDERソリューションを比 較検討する際に大きな決定要因となっている。そ のほか,マイクログリッドではエネルギーコスト の安定,炭素排出量の削減といったメリットも大 きい。
3 ︱ マイクログリッドの市場
図1に見るとおり,マイクログリッドは世界的 な傾向であり,累積収益(マイクログリッドの総 資産値を算出)は2024年までに1,648億ドルに 達すると予測されている。特に顕著なのがアジア 太平洋地域で,世界のマイクログリッド総収益の うち41.3%を占める。北米は,全世界市場の 32.5%を占める見込みである。
Navigantの調査データによると,米国で2015 年までに設置されたマイクログリッドの発電容量 は1,000 MWをやや上回る程度だという。2015 年1月から2016年6月までに,71か所のマイク
0 5
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1
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2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
北米 欧州
アジア太平洋地域 南米
中東およびアフリカ 総収益
(単位:100万ドル)
総収益総発電容量
(MW)
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ログリッドが設置され(約592 MW),その収益 は17億米ドルと予測されている。
米国におけるマイクログリッドの配備状況を GTM Researchが分析し,各地域の密度と,発 電源を図示したのが図2である。
地理的な要因としては,公益料金の高騰,奨励 金制度,停電の起きやすさが挙げられる。過去1 年間に顧客との間で重ねてきた対話から考える と,顧客がマイクログリッドを検討する最大の動 機として突出しているのは,エネルギー回復力で ある。エネルギー回復力に関する評価は顧客に よって異なり,地元公益事業の業績,悪天候など 電力網が障害を受ける脆弱性,各業界の社会的役 図
2
│米国におけるマイクログリッドの展開状況
図
3
│マイクログリッドの顧客割合割といった要因によって決定される。
米国の幾つかの州でマイクログリッドの導入が 進んでいるのは,現在の州の政策の多くが,こう したエネルギー回復力に支えられているからにほ かならない。
現在,州レベルで政策を支えている当初からの 要因はエネルギー回復力に違いないので,規制当 局ではマイクログリッドが社会にもたらすメリッ トについて,考え方を拡大し始めている。公益事 業に利用できる一連のDERソリューションの一 つとして,次のような目標達成に利用できること が明白になってきたからである。
(1)再生可能エネルギーの高い普及率に起因する安 定性の問題を受けやすい配電事業をサポートする。
(2)需要が増大している地域に,NWA(Non-Wires Alternative)を提供する。
(3)資本増強計画を延期する,あるいは支援する。
4 ︱ 顧客
顧客によるマイクログリッドの利用形態はさま ざまであり,都市部や軍事基地でミッションクリ ティカルな機能に電力を供給する場合もあれば,
環境に配慮した,信頼性の高いエネルギーを大学 や営利製造施設に供給する場合もある(図3参照)。
日立が実施するマイクログリッドプロジェクト はいずれも,コンサルティングに基づく設計プロ
63%
34%
81% 22%
28%
13% 20% 237西海岸MW
64ハワイMW 南西部
399MW
567北東部MW 中西部43MW
8%
21% 13% 18%
10%
69% 399南東部MW 15% 9%
19% 10% 28%
20% 36%
10%
CHP 天然ガス ディーゼル 太陽光 風力 水力 燃料電池 不明 エネルギー貯蔵 出典 : GTM Research North American Microgrids 2015 アラスカ99MW
38% 16%
16% 24%
商用/産業用
7
%コミュニティ
9
%公益配電
12
%研究機関/大学
32
%15
軍事%遠隔利用
25
%図
4
│悪天候によって起きた大規模な停電 ムが反復的な設計プロセスを支援している。4.1 ︱
商用/産業用C&I(商用/産業用)はこれまで,最も弾みが付 かない分野であった。投資対効果に関するバ リュープロポジションの点で難があり,顧客側で も評価が遅々として進まなかったためである。だ が,PPA(Power Purchase Agreements: 電 力 購入契約)を利用する新しいベンダービジネスモ デルによって,顧客が設備投資を必要とせずに導 入できるようになり,C&Iでも導入が進み始めて いる。
顧客の実現性評価を何回となく実施する中で,
わかったことがある。停電が長引いてもマイクロ グリッドであれば信頼性の高い電力供給をでき る。一方,バックアップ発電は燃料の調達に左右 され,極端な悪天候の場合にはその燃料の供給が 困難になる場合もある。それが,北米のC&I顧客 にとっては重要な検討材料だという事実である。
4.2 ︱
大学/研究機関年間の発電容量と収益の点で,北米がどの国よ りもリードしているのが,大学/研究機関の顧客 セグメントである。総発電容量は,2015年が 219.7 MWで,2024年までには年間およそ1.2
いる。
中でも各種大学,総合大学のキャンパスは電力 と暖房の負荷が高いことから,マイクログリッド 導入の魅力的な候補と言える。さらに,大学施設 は独自の電力・暖房インフラを備えている場合が 多く,公共電力を利用する相互接続ポイントが少 ないため,マイクログリッド導入のプロジェクト も円滑かつ低予算で進めやすいという特長があ る。大学の顧客が日立のチームに説明したところ では,一般電力網の停電中に電力の供給を維持す ることが,授業料を負担している保護者の多くに とって重要なのだという。また,マイクログリッ ドを導入すれば,多くの大学が掲げる意欲的な持 続可能性の目標も達成しやすくなり,マイクログ リッドを研究や教育の現場に活用することも重要 な課題であるという。
4.3 ︱
コミュニティ州がマイクログリッドプログラムを後援するこ とで,コミュニティがエネルギー回復力の目標を 達成できる現実的なソリューションとして,マイ クログリッドへの関心が高まっている。
コミュニティにおけるマイクログリッドで重視 されるのは,激しい悪天候の後で重要施設のエネ ルギー回復を保証することである。米国東部では
悪天候が大規模な停電を引き起こす。
(大規模 = 50,000人以上の顧客が影響を受ける。)
150
嵐,悪天候寒波,猛吹雪 ハリケーン,熱帯暴風雨 竜巻
酷暑,山火事
120
90
60
30
1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008 2012
停電の件数
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ハリケーンや猛吹雪の強度と発生頻度が高まって おり,何日間も電力が不通になる事態が起きてい る(図4参照)。日立が長年にわたり事業活動を 続けてきた地域の多くでも同様である。中には,
住民の避難が難しい場所もある。マイクログリッ ドの備えがあれば,住民が避難先で生活する間も,
警察や消防,医療,医薬品,避難施設,ガソリン,
食糧などを引き続き利用できることになる。重要 な市政サービスを維持するためにマイクログリッ ドの導入を検討している市町村も多い。顧客が市 町村の単位になれば,複数の関係者や利用者(病 院,役所,消防署,食料品店など)が関わるコミュ ニティのマイクログリッドよりも話が単純にな る。こうしたマイクログリッドは,技術的に見て も,ビジネスモデルや財政の観点で見ても困難を 極めるが,各種の障壁撤廃を決定する州も増え始 めている。たとえば,ニューヨーク州のNew York Prize Programは,83のコミュニティに対 してマイクログリッドの設計と実現性研究に資金 を提供している。日立は,これらのうち12件で 資金提供を受けており,2016年6月と7月には,
パートナーコミュニティに実現性研究の結果を報 告した。
4.4 ︱
軍事米 国 陸 軍 は,SPIDERS(Smart Power Infra- structure Demonstration for Energy Reliability and Security)と呼ぶ計画を進めており,一般電 力網の喪失や攻撃という事態が発生した場合に ミッションクリティカルな施設に電力を供給する ために,マイクログリッドの導入を検討している。
従来のバックアップ発電機に,太陽光発電とエ ネルギー貯蔵を統合して多様なエネルギー源をま とめて提供し,長期的なソリューションを実現し たうえで,従来型のバックアップ発電機よりも カーボンフットプリントを低減できるというの が,マイクログリッドの特徴の一つである。これ までにすでに,実証プロジェクトが幾つか実施さ れている。
4.5 ︱
公益事業公益事業については,会合も開き,ご意見も頂 いた。公益事業者は,インフラおよび運用リソー スとして,また新しい収益源候補としてもマイク
ログリッドの役割を模索しており,日立にとって は顧客候補であると同時に,競合となる可能性も 秘めている。インフラリソースとしてのマイクロ グリッドは,公益配電事業が現在直面している多 くの運用目標を達成し,課題を解決する可能性が ある。規制対象になっていない企業を伴う公益事 業者の中には,すでにマイクログリッドビジネス に参入し,既存の顧客にサービスを提供している ケースも現れている。
公益事業のマイクログリッドプロジェクトとし て は,San Diego Gas and ElectricのBorrego Springs Microgrid,Duke EnergyのMount Hol- ly Microgrid,National Grid の Potsdam Mi- crogridなどが挙げられる。
5 ︱ ビジネスモデル
マイクログリッドのプロジェクトは複雑であ り,技術選定,財務問題の解決,各地域の条例や 規制,公益事業の要件,顧客の調達ポリシーなど に関して高度な専門知識が必要になる。
日立は,マイクログリッドプロジェクトの完成 形を米国の市場に提供するために,マイクログ リッドプロジェクトの開発,エンジニアリング,
財務,設計,運用などあらゆる点について専門知 識を備えたチームを,日立アメリカ(HAL)の ESD(Energy Solutions Division:エネルギーソ リューション部門)に創設した。
マイクログリッドが現在,米国で実際に利用さ れているケースを図5に示す。
C&Iをはじめとする顧客セグメントがベンダー による「microgrid as a service」を求めるように なり,長期的には,電力購入契約という形態が増 えるものと予測されている。市場競争を優位に進 めるために,日立はPPAモデルに類似したビジ ネスモデルとして,電気および熱エネルギーも含 むESA(Energy Services Agreement:エネルギー サービス契約)というモデルを策定した。ESAは,
プロジェクトオーナー(特別目的事業体)と顧客 の間で交わされるエネルギーおよびサービスの契 約である。SPEには,1件以上の投資家が資金を 投入し,投資家は日立ESDのエンジニアリング,
建築,運用サービスを契約する。
日立ESDでは現在,自己資金によるプロジェ
クトに関心を示している顧客が4者いる。
また,30以上あるプロジェクト候補の保有者 は,マイクログリッド・アズ・ア・サービス方式 のESAモデルを希望している。たとえば,ニュー ヨーク州とカナダ・オンタリオ州のコミュニティ と市当局の顧客は,システムを購入できるほど潤 沢な資金を保有してはいないが,マイクログリッ ドによって地域の重要な目標を達成できると考え ている。また,ある大学顧客の場合,資金は用意 できるが,エネルギーインフラに注ぎ込むくらい なら施設の改築に回したいと考えている。ある製 造業顧客は,エネルギーがビジネスにとって「中 核的」ではないため,発電施設に資本を投入した くはないが,マイクログリッドの持つエネルギー 回復力は魅力的だという。
マイクログリッドからは,社会的な革新と共同 を実現する新しい場が生まれている。たとえば,
ニューヨーク州のCommunity Microgrid Proj- ectでは,低所得者,高齢者,身体障がい者の大 規模なコミュニティが,悪天候の際に安全な避難 施設を提供される。このコミュニティでは,マイ クログリッドが重要な施設と住居の電力をまかな うからである。また同地域では,エネルギー効率,
再生可能エネルギー,持続可能性といった目標の 達成に低所得層の市民も参加できることになる。
コミュニティマイクログリッドについてこのよう な目標が設けられたのは,コミュニティ,公益事 業,大学,州政府から20以上のステークホルダー が関与した結果である。これも,日立が北米市場 で現在実施しているプロジェクトの一例である。
マイクログリッドは,エネルギーの安全性と回 復力を強化するとともに,カーボンフットプリン トを削減し,多くの場合エネルギーコストも全体 的に低減する。社会的なメリットも大きい。米国 全土で,自然災害やテロなど,国民の安全とセキュ リティを脅かす事態が発生したときにコミュニ ティレベルで回復を図る努力が進んでいる。
日立アメリカのエネルギーソリューション部門 は,マイクログリッドの完成形を提供し,耐用期 間が終わるまでシステムの運用と維持に当たるワ ンストップのサービスプロバイダーとして,北米 のマイクログリッド市場を積極的に開拓してい る。マイクログリッドの市場はまだ成立途上にあ り,今後10年間で大きく成長するものと予測さ れている。日立がこの業界で主導的な立場に立つ 大きいチャンスと言えるだろう。
今後,実稼働するマイクログリッドが増えてい けば,日立として,新しいOT/ITテクノロジー を導入して,市場をいっそう最適化・活性化する 機会を拡大していきたいと考える。
公益事業の レートベース
15
%ファイナンシング
16
%PPA 45
%24
%公益事 レート
15
%ファイナンシ
16
%PPA PP
45
%24
%Alireza Aram
Sr. Vice President & General Manager, Energy Solutions Division, Hitachi America, Ltd.
日立シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーとして,北米のエネル ギーソリューションを担当。送電,配電,分散型エネルギー資源などエネ ルギー分野で20年以上に及ぶビジネス経験を持つ。
日立に入社する以前は,ABB,Areva T&D,Alstom Gridで上級管理 職を歴任し,アジア,南北アメリカ,ヨーロッパで特に活躍した。ドイツ・ア ーヘン工科大学で電気工学の修士号を取得している。