非対称ソーシャルメディアにおける分散的及び探索的選択特性 *
小島 清信
†a)徳田 英幸
†Decentralizing and Explorative Attachment in Asymmetric Social Media
∗Kiyonobu KOJIMA
†a)and Hideyuki TOKUDA
†あらまし ソーシャルフィルタリングといわれる人的ネットワークを介した選択的な情報伝達作用に着目した.
Twitterは相手の同意なくリンクをつなぎ換えできるため,ユーザの興味変化がソーシャルグラフとしてAPI
を通じて動的に取得可能である.実ユーザの行動を週単位から年単位まで追跡調査することで,リンク数が32 (101.5)以上のユーザにおいて積極的なつなぎ換えを観察した.アンケートを加えてつなぎ換えの分析を行い,中 位次数へのリンクを活性化させる分散的選択と探索的選択の特性を導き出した.モバイル環境の普及により人を 介する伝達の機会は更に増加すると考えられ,ソーシャルフィルタリングを活用するための知見が応用できる領 域は大きい.
キーワード ツイッター,ソーシャルグラフ,つなぎ換え,ソーシャルフィルタリング,情報伝達
1.
ま え が きSNS
の利用が近年急拡大し,更には機能の一部と してユーザ同士のコミュニケーションを取り入れたア プリケーションが増えてきた.これらシステムでは,ユーザの増加による情報量の急増や迷惑な情報の混入 が課題となり得るため,ユーザが情報を受け取る負荷 を考慮した設計が必要である.
大規模サービスの一つである
[1]
.また,人の手による選択は機械的な フィルタに比べて情報量や環境の変化に対応しやすい と考えられる.本論文は,情報を伝達する人のつながりであるソー シャルグラフの特性を分析し,伝達者を活性化する要 件を求めることにより,ソーシャルフィルタリングを 活かして有用な情報を得られる伝達システムの構築に
†慶應義塾大学政策・メディア研究科,藤沢市
Graduate School of Media and Governance, Keio University, 5322 Endo, Fujisawa-shi, 252–0882 Japan
a) E-mail: [email protected]
*本論文は学生論文特集秀逸論文である.
資することを目的とする.
コミュニティのトポロジーは
2000
年ごろから多く の研究が成され[2]
,特にSNS
は実社会で観測しがた い人間関係を定量化できる場として活用されてきた.更に
2006
年にスタートしたWeb API
を通じてリアルタイム にデータが取得できるため,新たな対象として研究が 広がってきた.く
follow
と呼ばれる購読関係を設定・解除することができるため,それまでの
SNS
で観測が難しかった関 係解除に注目した分析も行われた[3]
.ツールとしてスタートしたため,従来の
SNS
と同様に 実社会の関係をベースにしている.ところが発信者の情報をほぼリアルタイムで読むことができる.
個人が購読者に対して情報を発信
/
伝達し,購読者数 の増加という形で動機付けが強化される関係が連鎖し ており,ソーシャルなメディアとしての位置付けが確 立した.これらのリンク関係や伝達情報は,その多くを取得 可能なため,情報伝達メディアとしての拡散の分析
[4]
や,地震情報など人をセンサとしてとらえた分析
[5]
, 位置情報を用いて場のコンテクストを理解する応用[6]
も進んできた.
これら先行研究の多くでは,社会的関係はユーザ間 のつながりを表すソーシャルグラフのトポロジー分析 で行われ,情報メディアとしての特性はトピックの伝 搬分析で行われてきた.本論文では
退会依頼を出す代わりにメールソフトウェアのフィル タリング機能を用いることも多かった.購読という非 対称関係にある
API
を用いてユーザの興味の変 化を捉え,行動特性を分析することで,今後の情報量 増大時のネットワークの成長を考察する上での知見を 得られると考えている.筆者らは
2010
年に2
週ごとに追跡調査することで,リンクのつなぎ換えを分析し,シミュレーションによっ てソーシャルメディア発展の要件を抽出した
[7]
.本論 文では2
年間の長期的変化とアンケートによるユー ザ行動の分析を加え,情報伝達メディアとしての特性 を明らかにすることで,以下に対して貢献できると考 える.•
ソーシャル機能を含むアプリケーション開発•
ソーシャルメディアのプロモーション利用•
インフラとしてのネットワークシステム開発2. Twitter
分析の前提象について述べる.
2. 1
基本的な仕組みと用語1
に示す.ユーザA
がユーザB
のアカウント名またはリンクを知ると,図1 Twitterの用語 Fig. 1 Terms in Twitter.
ユーザ
A
はユーザB
に単方向リンク(follow link)
を 張る(follow
する)ことができ,B
が書いたメッセー ジ(tweet)
が継続的にA
に伝達されるようになる.A
をB
のfollower
,B
をA
のfollowing
と呼ぶ.B
が情 報保護強化のための設定をしていない限りはB
の承認 なくリンクが張られるが,B
はA
がfollow
したこと を知ることができる.B
がA
に対してfollow
するか どうかはB
の意思次第であり,非対称のソーシャルグ ラフとなる.B
から受け取ったtweet
を更にA
が他 に伝達することをretweet
と呼ぶ.2. 2
測 定 対 象トによる利用状況の変動や
follow
を集める有名人の 特性といった地域性があり,対象地域を分離して分析 するのが望ましい.2010
年当時のサポート言語のうち日本語が最 も地域の分離精度が高いと見込まれた.また,先行研 究[8]
で日本での利用が特徴的であることが示されて おり,日本を対象とした.2010
年5
月までに発行された1.4
億のアカウントID
から172,000
をサンプリングし,言語の属性により日本語に該当する
6,967
ユーザについて,どういうユーザを
follow
しているか,そのリンクがどう変化していくかを追跡調査した.また,その後
2012
年5
月 までに発行された5.8
億アカウントID
との差分であ る4.4
億から26,400
をサンプリングし,日本語に該当 する1,100
ユーザについても追加して調査した.2010
年の調査では,先行調査によって想定された複合要因 を分析するためのサンプル数とし,追加調査について は差分を分析するためのサンプリング数とした.図2
に日本語言語に該当するサンプル数を発行ID
に換算 して変化を示すが,2
年間でユーザ数は4.1
倍になっ図2 言語属性が日本語にあたるサンプルの遷移 Fig. 2 Transition of sampled accounts corresponding
to Japanese.
ている.
3. Twitter
ユーザの選択特性分析follow
する側に主体性があるの で,各ユーザがどういうユーザをfollow
するかという 視点で分析する.相手先の購読者数(follower
数)が 小さければ直接の知人である可能性が高く,大きけれ ば有名人の発信を期待している可能性が高いと考え,ユーザが選択する先の次数によって傾向とその変化を 調べる.
3. 1 follow
選択先の次数分布図
3
に1
ユーザからのfollow
先(following)
の分布 を示す.横軸にはfollowing
の人気にあたるfollower
数(次数)を対数で示し,縦軸は1
ユーザからのfollow
リンク本数の合計を1
としたときのリンク数の確率 分布(次数ごとの選択率)を表す.ユーザがfollow
す る先の13%
が,32
〜100
万人のfollower
をもつ当時の
には二つのピークがあるが,様々なパラメータで分類 した結果,図
4
に示すようにfollow
する数が傾向を 決定的にしていた.Follow
数が32 (10
1.5)
未満のユー ザには数十万人付近のピークがあり,32
以上のユーザ には数百付近のピークがあり,これらの大きく傾向の 異なるものの平均として図3
の分布になることを発見 した.図4
の縦軸は1
ユーザ当りの本数の絶対値を対 数で示しているため,図3
に比べて起伏が緩やかに見 える.図
4
の10
5.5に見られるピークは,初心者にfollow
を勧めるSuggested User List (SUL)
と呼ばれる仕組 みの影響であると考えられるが,それ以外はフラット に近い.一方,following
数が32
以上の利用が進んだ図 3 follow先のユーザ(following)の次数分布(fol- lower数)
Fig. 3 In-degree distribution of followings linked from each user.
ユーザになると,高次(有名アカウント)へのリンク 比率は減少し,数百の
follower
をもつ中次の比率が増 加することが分かる.これは直接の知人へのリンクに 比べて,情報収集メディアとしての比重が上昇してく るためと考えられる.3. 2
つなぎ換え活動の分析この
32
を境にした変化を調べるため,時間を追っ て各々のユーザが追加したリンクと削除したリンクの 分布を調べた.代表して2010
年6
月の2
週間におけ るリンクのうちfollow
数が32
未満のものを図5
に示 す.ユーザが2
週間に追加した平均リンク数を縦軸の 正数に,削除したリンクを負数で表す.Following
数 が増え,10
〜31
になるとリンクの削除が活発になり,その中でも
10
5〜10
5.5付近については,追加と同程度 に削除が行われているが,低次から中次にかけては削 除が少なく,広く追加が行われている.Following
数図4 ユーザのfollow数で分類したfollowingの次数分布 Fig. 4 Distribution of followings classified by number
of followers.
図5 followingの次数ごとの追加/削除本数 Fig. 5 Average number of added/removed links.
が
32
を過ぎて,急に削除が進むわけではなく,follow
先を変えて試しながら結果として中位次数のfollow
先 を選ぶ傾向に変化することが分かる.4.
モデル化とシミュレーション3.
の分析を踏まえてつなぎ換えについてモデル化を 行い,シミュレーションによって特性を分析し,4. 1
つなぎ換えモデル図
6
に基本的な概念を図示する.ユーザにあたる ノードを丸で表し,直径がそのノードの次数(follower
数)を表す.ノードA
がいくつか のノードにリンクを張り,そのうちのノードB
の人気 が上がり次数を更に成長させるとする.情報が各々の ノードに保存され,リンクを通じた参照要求に応答す る性質のネットワーク(ストック型と呼ぶ)であれば,次数を増やしたノード
B
は更に情報を集約して利便性 を提供していくため,ノードC
,D
といった同種ノード の二番手の魅力は低下していく(図6 “Stock type”
). 一方,リンクを通じてリレー式に各ノードが随時情報 を伝達するネットワーク(フロー型と呼ぶ)では,ノー ドB
が発信する情報は別経路で伝達する可能性も増え,一次発信者に直接リンクを張る価値が低下し,自分に 合った形で伝えてくれる伝達者の価値が上がっていく
(図
6“Flow type”
).結果として,前者のストック型 では高次へのリンクが加速するが,非対称ソーシャル メディアで想定される後者のフロー型伝達では中次へ のリンクが加速すると考えた.つなぎ換えのモデルと して,前者を集中的選択(Centralizing Attachment)
, 後者を分散的選択(Decentralizing Attachment)
と名 づけた[7]
.また
retweet
によって他ユーザの発言の再掲載が許されているために受信者の読み損ねが致命的にならず,
分散的選択がうまく機能できると考える.
図6 つなぎ換えの概念
Fig. 6 Basic rewiring concept on stock/flow type.
4. 2
融合モデルによるシミュレーション分散的選択を取り入れたネットワーク成長をシミュ レーションし,特性を調査するため,
Barab´ asi
らが 提案[9]
したBA
モデルをベースとして,片方向リン クが増加する成長プロセスと分散的選択に基づいたつ なぎ換えプロセスを組み合わせたシミュレーションを 行った.モデルの詳細は[7]
に示されているが,基本 的な考え方を示す.図
7
に成長プロセスを示す.相互リンクされたノー ド1
と2
から始め,新規ノードが追加されるごとに既 存ノードの入次数と出次数の合計が多いノードを優先 して2
本のリンクを追加する(優先的選択).ノード3
は1
と2
にリンクを張るが,ノード4
は次数が2
の ノード3
より次数が3
のノード1
や2
にリンクを張 る確率が高い.図
7
に“Rewiring process”
としてつなぎ換えプロ セスの基本を示す.ノードB
とD
へのリンクをもっ ているノードA
をつなぎ換え対象としたとき,1
本の 新規リンクを優先的選択で追加(例えばノードC
へ のリンク:破線)する.各リンクを調べ,例えばノー ドB
のようにノードC
という1
ホップを介してもつ ながっている場合に直接リンク(1
点鎖線)を削除し,削除と同数のリンクを優先的選択に基づいて別のノー ドへリンクする.
成長プロセスに従って追加するノード一つに対して つなぎ換えプロセスに従って見直すノード数
M
をパ ラメーターとして変化させて1
万ノードまで成長させ た結果のfollow link
分布を図8
に示す.M
を増やすにつれ,中次にピークができてくること が分かるが,ある程度以上増やしても分布が変化しな くなる現象が発見された.これは,つなぎ換えを頻繁 に行うことで高次ノードの成長にブレーキをかけてし まうために発生する.本来は高次ノードが人気を集め図7 成長プロセスとつなぎ換えプロセス Fig. 7 Growing process and rewiring process.
図8 つなぎ換えによる次数分布変化 Fig. 8 Rewiring effect on decentralizing attachment.
図9 シミュレーションによるfollower数の分布 Fig. 9 Degree distribution of followers on the
simulations.
ることで発信を動機づけ,伝達者も含めたソーシャル メディア全体の活性化が期待されるが,分散的選択が 縮小均衡をもたらしかねない.
この対策として,つなぎ換え先を全ノードに対する 優先的選択ではなく,自分の
following
のfollowing
を 対象とした優先的選択にすると高次ノードの人気が伸 びて全体が成長することが分かった.図9
に対策あ り/
なしとBA
モデルだけの場合の全体のfollower
数 の次数分布を相補累積分布関数(CCDF)
で示す.ス ケールフリーを示すBA
モデル(M=0
に該当)に対 して,分散的選択によって中位の膨らみ(直線的分布 に比べて存在確率が部分的に高い)を生み,つなぎ換 え対策によって高次が伸びることが分かる.対策がない場合,つなぎ換えによって古くからある ノードの多くが中位として平均的にリンクを集めるこ とになる.対策がある場合,複数の中位からリンクを 集めているノードへのリンクを集中的に加速するため に,高次のノードが作られると考えられる.中位次数 が活性化する情報伝達システムには,分散的選択だけ でなく,その上位を活かす仕組みと組み合わせること
によって全体を活性化することが必要であることが分 かった.
5.
長期的変化の分析2010
年の分析に対してユーザ総数に関する依存性 を明確にするとともに,モデルやシミュレーションを 実環境と比較するため選択特性の長期的変化を観察し た.2012
年5
月までの2
年間でユーザ数は4
倍以上 に増加しており,その間の変化を分析する.5. 1
静的特性の変化2010
年5
月にサンプリングしたユーザのfollowing
先の分布について図10
に2012
年5
月と2
年前(図4
) とで比較した.10
2以下のノードの比率が下がってい るのは,ユーザの増加で次数が上がっているユーザが 増えていることと考えられ,特に普及率の上昇で友人 同士の相互リンクが増加したと考えられる.当時アカ ウントだけ作ったと思われるfollow
リンクがなかった ユーザも相当数follow
を始め,リンク数が0
のユーザ は1884
から1317
に減少している.また,影響力のあ るユーザの参加も増えて多様化したため上位次数が増 えている.一方follow
数が100
を超えるユーザでは,数万
follower
数をもつ層へのリンクが増加したが,必ずしもこの層を積極的に選択しているとは限らない.
Follow
数の多いユーザはfollower
への影響力が大き いために注目先の次数をこれらfollower
が育てた結果 とも考えられ得る.このほかは各チャートとも非常に よく一致している.この2
年間に4
倍以上ユーザが増 え,2011
年3
月の地震を境にfollow
数32
であり,低次の割 合が大きく変化したにもかかわらずマジックナンバー として変化しなかったことは特筆すべきである.次に
2010
年以降に新規に登録したユーザの分布を 図11
に示す.2010
年以前では加入時期による分布傾 向の差は認められなかったが,2010
年以降のユーザで は10
5.5に加えて10
4や10
1〜10
1.5にピークが認めら れる.2010
年当時は,SUL
として数十万のfollower
がいる国内の著名ユーザを一律に推奨していた.その 後,SUL
のカテゴリー分けやユーザ情報に基づいたSUL
が始まり,分野や組織内の有名人や身近な友達 が勧められるようになった.その傾向が三つのピーク に影響していると考えられるが,それでもfollow
数が32
を超えるとこの影響がなくなり,図10
と同じ傾向図10 2010年と2012年の選択特性比較 Fig. 10 Comparison of degree distribution between
2010 and 2012.
図11 2010/5以降に登録したユーザの選択特性
Fig. 11 Degree distribution of users registered after May/2010.
を示すのは,各々に対する分散的選択がなされた結果 と考えられる.
4.
のシミュレーションでは,分散的選択が進むと高 次の次数が伸びず,それを拡散する中次も伸びないこ とが分かったが,SUL
はこれを防ぐ手段の一つである.今回のピークの
10
4や10
5.5は,follow
数が多いユー ザに選択されなくなる次数に一致しており,SUL
を設定している可能性も あるが,SUL
にあがるようなユーザだからこそ情報価 値が下がりfollow
しなくなるとも考えられる.Follow
数の多いユーザはサンプル数が少ないので注意が必要 だが,図10
が示す10
4にバイアスのかかっていない ユーザ層において10
4は必ずしも選択率の低い次数で はない.いずれにしても意図的なピークは分散的選択 により平滑化するため,特定のプロモーションを意図図12 Follower数の次数分布の比較 Fig. 12 Comparison of degree distribution of
follower.
して強調すると,その情報の伝達を抑制する層を育て,
意図とは逆の作用をもたらす可能性がある.ユーザか ら見れば,情報の氾濫をフィルターする作用をもつと 考えられる.
5. 2
ノード全体のfollower
数分布と世界との比較4.
ではシミュレーション結果としての,ノード全体の
follower
数分布を示したが,実際のサンプリングによる
2010
年と2012
年の分布を図12
に示す.一般 にSNS
では,成長とともに実社会の関係が相互リン クとしてマップされて10
2以下の領域が増える形にな る[10], [11]
.韓国の人口の1/3
が加入していたといわれている
Cyworld
のピーク時には,知人同士が密にSNS
上でもつながっている状態で,10
2.5付近まで次 数分布が膨らんでいた[12]
.10
3にかけて膨らんでい るのは,情報伝達のための独自のソーシャルグラフが 構築されているためと考えられる.2010
年から2012
年にかけてその膨らみが更に増してきた.図
12
には言語によらない“World wide”
に示した.2010
年には直線的 なべき乗則にのっていたチャートが,2012
年にはほぼ2010
年当時の日本のチャートに重なっている.5. 3
今後の変化への考察本論文で使用してきた,図
10
に代表される1
ノー ドからの選択特性のグラフと図12
の関係を考察する.各ノードがどこを選択して
follow
するかの総計が各 ノードのfollower
数の分布に当たるので,BA
モデル で仮定するように次数(k)
に比例する確率で接続先を 選択する(優先的選択)として,その存在確率P (k)
がスケールフリーになると両者の積がバランスして図
10
に代表されるチャートの分布がフラットになることに なる.したがって議論してきた選択性を示すチャート はスケールフリーからの乖離要因を示すチャートとし て捉えることができる.本章では
3.
と併せて,ユーザ総数によらずfollow
数が32
を超えると分散的選択によりfollower
数が数 十から数百のユーザへのシフトが起き,更にfollow
数 が増えるとピークが徐々に上位側にシフトすることを 示した.今後ユーザ数が拡大すると,選択特性が変化 しないとしてもfollow
数の多いユーザ比率が高くなる こと,また,普及が進み飽和に近づくとつなぎ換え要 素が支配的になることから,この層における更なる分 析を試みる.6.
アンケートによる調査今後の長期的な変化に影響を与える中位の選択並び に徐々にピークが上位シフトする現象を分析するため,
アンケート調査を行った.
Follow
数32
以上のユーザ は全体の2
割にあたるが,ここに該当するユーザの意 識を調査し,実際のつなぎ換えを分析することで今後 の変化を考察する.6. 1
対象者の特性2011
年6
月に大学の関係者にアンケート調査を呼 びかけたうち,follow
数32
以上のユーザ44
人に対し てアンケートによる調査と,アンケートの際に同意し たユーザ35
人に対してその後の特性変化をAPI
上で 追跡調査した.図
13
にアンケート対象ユーザのfollower
数を横軸 にfollowing
数を縦軸にとり,11
か月の変化を示す.また一日当りの
tweet
数を線の幅で示した.どのユー図13 アンケート回答者の特性 Fig. 13 Characteristics of the respondents.
ザも
follow
数に見合ったfollower
とtweet
数があり,follower
数を増やしている情報発信/
伝達の中核層で あると考えられる.Tweet
数やfollow/follower
比は,follow
数やfollower
数の変化に対して顕著な相関がな かったことから,対象を分類せずに分析する.6. 2
リンクの追加/
削除直近
1
か月間の追加リンク数/
削除リンク数に関す るアンケート回答の度数分布を図14
に示す.追加も 削除も多く,1
か月の間に6
割のユーザが1
件以上削 除し,追加したリンク数に対して削除したリンク数も 半分に達していて,頻繁なつなぎ換えが行われている ことが分かる.次に,直近に
follow
した先と削除した先の各々につ いて,表1
にその相手の分類を,表2
にfollow
した アカウントの入手方法を,表3
に削除した理由を示す.表
1
の分類には各々の次数を代表すると考えられる選 択肢を挙げたが,追加,削除とも「一般個人」が圧倒 的に多く,かつ表2
によれば1
位に挙がるfollow
先のretweet
と3
位に挙がるfollow
先のfollow
先は,4.2
で述べた縮小均衡回避の手法にあたる.自 分のfollower
に対するfollow
(相互フォロー)も多いものの,
follow
先のツテともいえる関連情報を用いて,発信力のある一般個人を探し出して
follow
しているこ とが分かる.Follow
先が増えるに連れて/
伝達者を発見できると考えられ,そのfollower
によってツテが連鎖することで,発見された「興味深図14 直近1か月のfollowリンクの追加,削除数 Fig. 14 Added/deleted links in one month.
表1 直近でfollowした先の分類 Table 1 Category of the most recent following.
表2 直近でfollowした先の入手方法 Table 2 Means to get the account for the most recent
following.
表3 直近で削除した理由
Table 3 Reason of deleting the most recent following.
い個人」の情報が拡散し,次数を育てる(
follower
を 増やす)ことになる.次に削除の理由を分析する.直近でリンクを削除し た
1
件について三つまでの複合回答を許したアンケー トを表3
に示す.アンケート対象のこの層はfollower
にとって有用な情報を取捨選択するフィルタリング機能を担うことが期待されるが,多くを
follow
している からこそ流入量が多くなり,自分が入手するtweet
量や有用な
tweet
比率によって見直しをしていることが分かる.ソーシャルフィルタリング機能を担うといっ ても専任のキュレーターではないので,情報の入手経 路を積極的に保守して効率化を図らなければいけない ことになる.
既に分散的選択の経験のあるこの層は,皆が容易に 発見できる手法ではなく,新しい相手を発見しては見 直す繰り返しによって情報ソースの最適化を行ってい る.これを筆者らは「探索的選択」と名づけ,リンク 主導権が購読者側にある非対称ソーシャルメディアに おけるつなぎ換え特性の一つに位置づける.今後ユー ザ数が増えて
follow
数が増加し,成長が鈍化してくる と,この「探索的選択」が表
3
の削除理由の中に,分散的選択で想定していた「他の人のリツイートで入手可能だから」という項目 が多くはない.これは既に分散的つなぎ換えのフェー ズを既に経ている層だからともいえるが,
7.
考 察シミュレーションに用いたモデルや知見を実際の
2
年間の変化と比較し,また他論文の知見と併せて考察する.
7. 1
分散的選択による縮小均衡2010
年当時は,首相のtweet
がマスコミの話題に 上り,何人かの有名人が4.
で危 惧したような縮小均衡は認められない.表2
にあるよ うに,follow
先のretweet
やfollow
先のfollow
先を参照して
follow
することが行われていること,及びretweet
機能が作用している と考えられる.公式retweet
は2010
年1
月から正式 スタートし,2010
年内にほぼ普及した.元情報を直 接follow
している場合,他の人にretweet
されても多重表示されなくなったため,
retweet
されていること 自体に気づきにくい.何度も同じ内容を受け取ること を防ぐ役目ももつが,過度の分散的選択を防ぎ,発信者に
follower
数という形で報いるシステムにとって重要な役割を果たしていると考えられる.
7. 2 Twitter
における集中的選択グと呼ばれるキーワードを付加して検索対象とするス トック型といえる利用も行われている.検索サービス やハッシュタグによる情報分類サービスが広がってき たが,今のところサービス間での集中的選択が作用し たようには見えない.検索は広告など収益に直結して いる機能のため,
tweet
の二次利用の制限 を強化しており,ユーザによる自由な選択が進み難い ことが理由と考えられる.7. 3
つなぎ換えの地域性と利用段階の違いKwak
ら[3]
は,筆者らとほぼ同時期である2010
年6
月から8
月に韓国ユーザに関するfollow
削除につい て日ごとの変化を調べ,また削除理由をインタビュー によって調査している.相互リンク率が高いことが報 告されているが,当時SUL
がなく,
follow
数が少ないユーザが多かった.そのためか分散的選択に該当するような現象や削除理由は報告さ れていない.削除について,同日のうちに複数の削除 が行われる場合が多いことが報告されているため,つ なぎ換えはある程度まとまってから整理しようとする 動機が関係すると考えられる.本論文ではユーザ数が 増加しても
follow
数32
をしきい値としてつなぎ換え が活発になることが分かったが,心理的側面での分析 も必要であると考える.Kwak
らは男女22
名ずつに削除理由のインタビュー を行ったが,迷惑と感じるtweet
が理由の大多数を占 め,表3
で上位にあるような有用tweet
数や,有用と 無用の比率といった理由がなかったのが大きく異なっ ていた.本論文ではfollow
数32
を超える層に絞った 影響が大きいと考えられるが,正式導入前の利用形態 の違いやSNS
が活発な韓国独特の背景も考えられる.以前から正式導入された日本では,リンクの整理から 一歩進んで積極的な探索的選択が認められるが,これ が利用の段階の違いなのか地域性なのか,今後は地域 間の差異も含めた継続的な調査が必要である.
8.
む す び本論文では,新しい視点として,情報伝達における ユーザの興味をソーシャルグラフの動的変化に基づい て分析し,ソーシャルフィルタリング作用につながる いくつかの新しい発見とモデル化について報告した.
32
というつなぎ換えにおけるマジックナンバを発見 し,SUL
のような意図的特異点を平滑化しようとす る効果を発見した.また,follow
数の多いユーザが細 かくつなぎ換えを行って情報量をコントロールしてい ることが分かった.そして,ソーシャルグラフの継続 的なつなぎ換えに着目し,集中的選択,分散的選択,探索的選択の三つを定義し,今あるソーシャルメディ アの今後の予測やソーシャル機能の開発を行う上での フレームワークを与えた.これらは同時に,プロモー ション目的などの利用者にも有効な知見になると考え ている.
以上の知見から,中位次数の伝達者を活性化させる 要件として以下が挙げられる.
(
1
) 自由につなぎ換えでき,かつ情報の見逃しが 許されること(
2
) リンク数が32
を超えるユーザを増やすこと(
3
) 高次の発信者へリンクを誘導し,縮小均衡さ せないことまた,縮小均衡防止には
SUL
やリンク先の情報活用 が有効なことが分かった.今後,探索的選択が増え,中位次数のユーザが発見的に高次ユーザを生み,盛り 立てると考えられるが,そのためには頻繁なつなぎ換 えをサポートする必要性が高まると考えられる.
従来の情報伝達のトポロジーは,論理的にも物理的 にもスケールフリーになることが多いが,インター ネットは集中的選択で巨大ノード化が進んでいる一方,
ソーシャルフィルタリング効果を発揮するようなメ ディアは,ローカルでもグローバルでもない中位優勢 領域に移ろうとしている.モバイル環境の発達で人間 が常時オンラインに変化することで,人間というホッ プが遅延などのマイナス要因でなくなり,付加価値を 提供する要素に変化していく.インフラと論理トポロ ジーの差異が今後の課題になると考えられる.
非対称なメディアは必ずしも片方向ではなく,それ ぞれに別の役目をもたせることと考える.現在,こ こでの知見を既存システム上の行動理解にとどめず,
ソーシャルフィルタリング作用を促進し,人の付加価 値を生かすソーシャルメディア開発に反映させて提案
できるよう研究している.人のネットワーク自体がイ ンテリジェンスを内包するような環境で,分散的選択 と探索的選択が適応される分野が更に拡大すると考 える.
文 献
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(平成24年6月3日受付,10月3日再受付)
小島 清信 (学生員)
1982慶大・工卒.1984同大大学院工学 研究科修士課程了.同年ソニー(株)入社.
2009慶大大学院政策・メディア研究科後 期博士課程.現在,情報伝達システムの研 究に従事.
徳田 英幸 (正員)
1977慶應義塾大学大学院工学研究科修 士課程了.1983ウォータールー大学計算 機科学科Ph.D.(Computer Science).同 年カーネギーメロン大学計算機科学科勤務,
1990年同学科研究准教授.現在,慶應義 塾大学大学院政策・メディア研究科委員長.
主に,分散リアルタイムシステム,オペレーティングシステム,
ユビキタスコンピューティングシステムに関する研究に従事.
IEEE, ACM,情報処理学会,日本ソフトウェア科学会各会員.