学 位 論 文 内 容 の 要 旨
博士の専攻分野の名称 博士(医 学) 氏 名 丸山 晃
学 位 論 文 題 名
TLR2
シグナルは
MDSC
の生存と抑制活性を増強する
(TLR2 signal enhances survival and immune-suppressive activity of MDSCs)
【背景と目的】健常個体には自己に対する免疫応答を制御する為、免疫抑制という機能が備わっ ている。制御性T細胞 (regulatory T cell : Treg) は免疫病を惹起する能力を持った自己反応性T細
胞を抑制的に制御している細胞である。Tregは粘膜組織の免疫系の制御に深くかかわっている。
腸内細菌の一部はTregを誘導することで腸管内の免疫系を抑制的に制御しており、Tregの機能的
異常が腸管における過剰な免疫応答を引きこ起こすことが報告されている。組織特異的なTreg誘
導機序を解明する事で、その組織における自己免疫寛容の機序の理解へと繋がると考えられる。
そこで、本論文の第一章では、自己免疫寛容の機序が不明であった口腔におけるTreg誘導機序の
解明を目的とした。
一方で、「がん」は免疫抑制を利用している疾患の一種である。健常なヒトの生体には、病原性
微生物を認識し排除する免疫監視機構と同じくがん細胞を認識し排除する免疫監視機構が存在す る。しかし、がんの進行に伴い免疫監視機構では排除しきれないがん細胞が生じてくる。これら のがん細胞は免疫抑制細胞を誘導することで免疫機能を著しく低下させる。その結果、進行がん 患者の生体内の免疫監視機構ではがん細胞を効率的に排除することが出来なくなる。骨髄由来抑
制細胞 (myeloid-derived suppressor cell : MDSC) は、がんが誘導する免疫抑制細胞の一種であり、
Arginase, iNOS (inducible nitric oxide synthase), 活性酸素種という三つの因子を介してT細胞を強く
抑制することが知られている。
がん細胞が免疫抑制を誘導することで免疫監視機構から逃れているならば、低下した免疫機能 を人為的に活性化することで、がんを治療できる可能性がある。当研究室では、移植担がんモデ
ルマウスに対し、免疫賦活化剤 (アジュバント) を用いることで抗がん免疫応答を誘導する方法を
模索している。TLR2/6のリガンドであるPam2リポペプチドの抗がんアジュバントとしての応用
を試みている。Pam2リポペプチドは、樹状細胞を起点として抗がん免疫を誘導できることが分か
っている。一方で、MDSCもTLR2を有しており、担がん生体内における免疫抑制能の維持にTLR2
シグナルが重要であるという報告がある。Pam2リポペプチドがTLR2シグナルを介してこMDSC
の免疫抑制能を増強し、抗がん免疫誘導の足枷となる可能性がある。そこで、本論文の第二章で は、Pam2リポペプチドの一種であるPam2CSK4がMDSCに与えている影響の解明を目的とした。 【材料と方法】(第一章) マウスより取り出した頚部リンパ節 (cervical lymph node : CLN) 、腋窩 部リンパ節 (axillary lymph node : ALN)、鼡径リンパ節 (inguinal lymph node : ILN)、腸間膜リンパ
節 (mesenteric lymph node : MLN) におけるTregの割合をフローサイトメトリーにより比較した。
また、各リンパ組織特異的樹状細胞の遺伝子発現を定量PCR 法により、割合と Treg 誘導能をフ
(第二章) EG7担がんマウスからMACSにより単離したMDSCをPam2CSK4で刺激し、生存能
の増強効果をWST-1法により観察した。また、単離したMDSCをT細胞、樹状細胞と共に共培
養し、Pam2CSK4刺激によるT細胞抑制効果の影響をフローサイトメトリーにより検証した。
MDSCのArginase, iNOS, 活性酸素種発現・産生についてはフローサイトメトリーおよび定量PCR
法により観察した。
【結果】 (第一章) CLN, MLNにおけるTregの割合はALN, ILNに比べて高いことが判明した。
MLNが腸管の所属リンパ節であるのと同様にCLNは口腔の所属リンパ節であり、CLNから単離
した樹状細胞はMLN から単離した樹状細胞と同様の高い Treg 誘導能を有していた。MLN では
Treg誘導能が高いと報告されているCD103 +
樹状細胞が多く存在していたが、CLNでのCD103 +
樹
状細胞の割合はALNと有意な差がなかった。一方、CLNではALNやMLNと比較して高い割合
のCD8
-DCが観察された。
(第二章) EG7担癌マウスにPam2CSK4を投与することで、全身的なMDSCの増加が見られた。単
離したMDSCにPam2CSK4を作用させることで細胞生存能の増強が観察された。また、MDSCを
Pam2CSK4で刺激する事によってMDSCの有するT細胞抑制能の増強が観察された。Pam2CSK4で
刺激したMDSCではiNOSならびにROSの発現・産生が亢進しており、iNOS阻害剤ならびにROS
scavengerの存在下では、Pam2CSK4で増強されるT細胞抑制効果は打ち消された。さらに、
Pam2CSK4で刺激したMDSCの一部はマーカー分子の一つであるGr-1の発現が低下する一方で、
F4/80, CD115の発現が上昇していた。
【
考察】
(第一章) CLN, MLNにおけるTregの割合が高いことから組織特異的なTreg誘導機序が存在すると考えられた。腸管での CD103
+
樹状細胞の報告から、口腔の所属リンパ節である CLN
においてもTreg誘導能の高い組織特異的樹状細胞が存在する事が予想された。実際に、CLNから
単離した樹状細胞は高いTreg誘導能を示したが、CLNとMLNでは組織特異的な樹状細胞の構成
や遺伝子発現は異なっており、CLNにおけるTreg誘導にはMLNと異なる機序が存在する可能性
が示唆された。
(第二章) EG7担がんマウスにPam2CSK4を投与することで、全身的なMDSCの増加が見られた。
実際に、単離したMDSCにPam2CSK4を作用させることで細胞生存が増強した。このことから、
Pam2CSK4にはMDSCの生存を増強させる効果があると考えられた。さらに、MDSCのT細胞抑制
活性が増強した。Pam2CSK4で刺激したMDSCではiNOS発現ならびにROS産生が亢進しており、
iNOS阻害剤ならびにROS scavengerの存在下では、Pam2CSK4で増強されるT細胞抑制効果は打ち
消された。Pam2CSK4で刺激することでMDSCのiNOSならびにROSを介したT細胞抑制機構が増強 していると考えられた。さらに、Pam2CSK4で刺激したMDSCの一部の集団はGr-1の発現低下に伴 い、マクロファージに特徴的なマーカー分子であるF4/80, CD115の発現が上昇していた。MDSCが 免疫抑制機能を有するマクロファージへ分化することでさらなる免疫抑制能を獲得するという報
告もあり、 MDSCの分化はT細胞抑制活性の増強に影響を与える可能性がある。これらのことか
ら、Pam2CSK4は、樹状細胞を介した抗がん免疫を増強する一方で、MDSCの免疫抑制能を増強す
ることで抗がん免疫を抑制する可能性が示唆された。
【結論】口腔では腸管と異なる機序によってTreg誘導が起こり、局所における免疫応答を制御し
ている可能性がある。一方で、担がん生体においては、自然免疫シグナルがMDSCの生存・免疫