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座談会 これからの病棟業務は いかにあるべきか 病棟薬剤業務実施加算 創設がもたらすインパクト まさ だ みき お 政田 幹夫 司会 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 なか むら とし あき たか しま こう じ ろう たけ うち てつ お あら き りゅう いち 中村 敏明 高嶋 孝次郎 竹内

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発行月 : 平成 24年9月 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社     〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18     お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666 田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp ファーマスコープは

病院、保険薬局

で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特 別 号

福井県版

特 別 号 福井県版

これからの病棟業務はいかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 政田 幹夫 先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 中村 敏明 先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 高嶋 孝次郎 先生 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 竹内 哲夫 先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 荒木 隆一 先生 [司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 まさ だ みき お

政田 幹夫

先生 (司会) 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 たけ うち てつ お

竹内 哲夫

先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 なか むら とし あき

中村 敏明

先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 あら き りゅう いち

荒木 隆一

先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 たか しま こう じ ろう

高嶋 孝次郎

先生

特 別 号

福井県版

これからの病棟業務は

いかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

座 談 会

病棟薬剤業務に対する4病院の現状

政田 最初に、各施設の現状をお伺いします。まず、病棟薬剤業務 実施加算を申請されている福井県済生会病院からお願いします。 高嶋 福井県済生会病院は、460床、10病棟で、薬剤師はパート 職員を含めて29人です。このうち実際に病棟活動を行うのは25∼ 26人で、1病棟を4∼5人で担当します。主担当を1人決め、他は病棟 を重複して様々な作業をカバーしています。薬剤師1人当たりの病 棟活動時間は4時間で、午前と午後に分け、その日の勤務状況など によって振り分けています。2011年度における薬剤管理指導は月 平均1,000件です。ただ、当院の場合は、2012年度も薬剤師を増や さずに、現状の人員で病棟薬剤業務に取り組んでいく予定ですの で、指導件数が若干減ることが想定されます。当院は、いまでこそ 他病院と比較するとベッド数に対して薬剤師数が充実しています が、以前は半分の病棟に薬剤師を配置する程度の人員しかいませ んでした。しかし、現場の看護師や医師より、全病棟への薬剤師の 常駐化を強く要望されていましたので、医療安全と適正な薬物療 法の推進を掲げ、病院側を説得し、徐々に薬剤師を増やしていきま した。ですから、今回、新たな業務を始めたという意識はあまりな く、制度の方が後から付いてきたという印象です。なお、持参薬の チェックや注射薬のミキシングは調剤室で行っています。持参薬に 関しては、基本的な残数や薬剤名の確認を行った後、この一次情 報を基に、病棟の薬剤師が医師とさらにきめ細かく、その後の投与 計画を立てています。 政田 1病棟に4∼5人が担当で、メインの担当者が休んだときや 当直明けは、別の人がカバーするのですね。 高嶋 はい、メンバーは重複していますが、病棟ごとに固定されて おり、その中で調整しますから、毎日、調剤担当の主任が非常に細 かい勤務表を作っています。 政田 では、福井社会保険病院の竹内先生、お願いします。 竹内 福井社会保険病院は199床、4病棟の小規模病院です。薬 剤師は8人のうち1人は医療安全管理部にいますので、実質7人とな ります。1病棟当たりの担当は1人で、8時半から17時15分まで病棟 に詰めています。薬剤部に戻って来るのは、昼食とともに45分間の ミーティングをするときだけです。薬剤管理指導は各病棟1人100件 を目標にしています。10年程前からこの体制ですので、私たちも、こ の加算のために何か新しい業務をしているという感覚はありませ ん。しかし、病棟薬剤業務の実施で、薬剤管理指導件数が減る可 能性はあります。実際、4月は50件ぐらい減っていますが、慣れてく るともどるかもしれません。持参薬チェックは、病棟のナースセンタ ーの一角に薬剤師の業務スペースを設け、ここでチェックから報 告、処方の提案まで、一連の作業を行っています。パソコンも設置 されており、電子カルテやインターネットにもアクセスできます。一 方、注射薬のミキシングは中央で行っています(資料1)。 政田 次は、これから加算申請をする市立敦賀病院、福井大学医 学部附属病院の現状をお話しください。 荒木 市立敦賀病院は332床、病棟数はHCUを入れて9病棟で す。薬剤師は12人ですが、新人が2人、当直や休日急患センターを 担当する薬剤師が2人いるので、実質8人で332床をみていることに なります。人員の確保は公的病院共通の課題であり、正直なとこ ろ、病棟薬剤業務実施加算の算定要件を満たすのは厳しいのが 現状です。今年から15分刻みで、個々の薬剤師の業務記録を取っ ているのですが、これによると平均1時間程度しか病棟に滞在でき ていません。半年後に新人が一人前に育ってきたら、少しは改善で きるかと思います。持参薬チェックは、基本的に中央でやっている のですが、病院全体の2∼3割しか把握できていません。簡単なも のは看護部にお願いしているのが現状です。しかし、2011年4月の DPC導入後、ジェネリック医薬品も増えており、医療安全室と看護 部からの薬剤師関与への要望はさらに高まっています。そこで現 在、2病棟をモデル病棟として様々な試みを始めています。回診に 参加して医師とのコミュニケーションを図り、看護師に対しては、毎 週15分、ハイリスク薬を中心にレクチャーをしています(資料2)。 また看護部と情報交換を行いながらモニタリング項目を決めるな ど、共同薬物治療管理(CDTM)をめざしてプロトコールづくりに 挑戦しています。 中村 福井大学医学部附属病院は600床、ICUやNICUなど特定 入院料の病棟を除いて12病棟を有しています。教官2人を除く薬 剤師は32人で、薬剤管理指導は月平均630件程です。病棟薬剤業 務実施加算は、2013年1月に申請を行う予定でいます。増員も決 まっており、あとは業務内容の大幅な組み替えが課題です。現行 の診療科ごとの担当制から病棟単位の配置に切り替え、業務日誌 などで時間の累計を算出する管理システムを作る必要がありま す。持参薬管理や入院の混注業務は中央で集中的に行っていま す。一部の病棟の持参薬については、診療科担当の薬剤師が残 数や相互作用のチェックまで行うようにしています。

コミュニケーション、信頼の構築、

 そして共同薬物治療管理(CDTM)へ

政田 病棟薬剤業務では、持参薬チェックや抗がん剤の調製な ど、様々な面での安全管理が求められています。その結果として、 医師・看護師等の負担軽減が実現されるわけです。そのような役 割を果たす薬剤師のあるべき姿をどう考えるのか、具体的なイメ ージをお話しいただきたいと思います。福井大学医学部附属病院 の話を少ししますと、20年前から薬剤師が医師のカンファレンスや ミーティングで話をすることを続けています。私はとても大切な業 務だと考えています。大学病院と市中病院では環境が違うと思う のですが、薬剤師の役割についてはいかがでしょうか。 竹内 医療の質の向上や医療安全の確保という観点から、薬剤 師が主体的に薬物療法に参加するということは共通しているので すが、政田先生がおっしゃるように、大病院と当院のような中小 病院では、薬剤師の役割も少し異なるかと思います。当院は全科 で20人程度の医師しかおらず、深刻な医師不足の状況です。その なかで医師の負担軽減と安全性の向上のために、薬剤師が病棟 に常駐することは、薬剤師の役割として大変重要です。医師とマ ンツーマンでコミュニケーションがとりやすく、医師の回診時にも 薬剤師がサポートを行い、頼られる存在になっています。また、大 学病院からの紹介患者が多いので、しっかりと持参薬チェックを 行い、何かあったら、すぐに大学病院に連絡をし、主治医に報告で きる体制づくりが重要だと思っています。 政田 中小病院では、病棟に常駐して医師とマンツーマンで話が できる薬剤師像がベストだということですね。福井県済生会病院 はいかがですか。 高嶋 病棟薬剤業務に求められるのは、主に医療安全、薬物療 法の適正化、医師の負担軽減の三つですが、次の診療報酬改定 が2年後に行われますので、少なくとも1年で各医療スタッフのアン ケートなどの評価や実績を示さなければなりません。当院では、 病棟薬剤業務実施加算の前に、持参薬を中心とした管理支援シ ステムを導入しました。これで持参薬と院内処方のマッチング、相 互作用や重複投与がチェックでき、医療安全面の強化を図ること ができました。薬物療法の適正化については、以前から抗凝固剤 や糖尿病薬など注意が必要な薬剤は、調剤室で処方箋とともに 履歴を記録した特定薬歴チェック表でチェックをしていましたが、 今回、その対象薬剤を広げて、投与量や投与間隔を調剤室で確認 し、それを病棟担当薬剤師に調剤室から連絡するという方法を採 っています。医師の負担軽減については、従来は持参薬やハイリ スク薬に薬剤師が関与することで貢献してきたと思いますが、投 与前の指導や確認をもっと徹底すれば、医師から今以上に評価さ れるのではないかと思います。DI情報の提供は、必要な情報や副 作用情報をDI室から流すと同時に、毎日の朝礼でDI室の薬剤師 が薬剤に関する注意喚起について、症例も交えて提示し、関係病 棟の薬剤師に医師への情報提供または注意喚起を促していま す。そして、情報提供を受けた医師には確認印をもらうようにして います。 中村 薬剤管理指導業務は、医師が薬物療法を決め、処方箋を 発行してからの関与ですが、病棟薬剤業務では投与前からになり ます。医師が処方を組み立てるときの関与はどうされているので すか。 高嶋 現時点では、投与前に100%薬剤師がかかわることは無理 だと思います。しかし、7∼8割は関われるようにしたいと考え、薬 物治療についての提案や疑義照会を外来中の医師にも診察の妨 げにならぬようFAXで連絡したりしています。処方を組み立てると きに薬剤師が関与するためには、CDTMというような形で、プロト コールに基づいて薬剤師にある程度任せてもらうしくみが必要だ と思います。 政田 処方に関与するためには、入院時のカンファレンスに薬剤 師が入るべきですね。 中村 将来的には、薬剤師が入院時に患者さんの全体像を把握 して「こういう形で薬を使ったらどうですか」と提案をし、医師が 「ではそれでいきましょう」とオーダーするという形が理想です。

薬薬連携によるシームレスなサポート

政田 荒木先生は、求められる病棟薬剤業務としてどのようなイ メージを持っていますか。 荒木 以前は薬剤師の病棟活動は、患者さんのところに行くこと だけをイメージしていたのですが、医師・看護師とコミュニケーショ ンを取ることの重要性が分かってきました。中には配薬も薬剤師 が行う病院もあるようですが、結果として引き受けることはあって も、あくまでも病棟薬剤業務でめざすのは医師の負担軽減であ り、患者様の安全はもちろん看護師の安心を担保することだと考 えています。ですからモデル病棟の薬剤師にはそこに軸足を置い てくれと伝えています。また、これからは患者さんの入院中だけで なく、退院後のフォローを充実させるための薬薬連携にも取り組 みたいと思います。入院中にどのような治療や指導をしたのか、 保険薬局に伝達するのは病棟薬剤師の大きな仕事の一つだと思 います。 政田 退院後の患者さんのフォローは大変重要です。中村先生も いろいろ取り組んでおられますね。 中村 患者さんは、外来と入院を繰り返されることが多いので、 途切れることなく薬剤師が関与して、サポートしていくべきだと思 います。たまたま今回は病棟活動に焦点が当たり、それを機会に、 病院薬剤師の人数が増え、手厚くサポートできる体制ができつつあ ります。この歓迎すべき状況を活用して、広い視野をもって病棟 業務に取り組みたいと思います。 政田 薬薬連携、病診連携は、今後さらに重要になってくると思 います。当院では、処方箋と共に検査値を提供していますが、中 には検査値など見たこともないという薬剤師もいます。外来患者 さんの薬剤管理を保険薬局がしっかりできるように病院薬剤師 がサポートする必要があります。患者さんに副作用が出た場合、医 師の責任を問われることが多いのですが、薬剤師がすべき点は少 なくないと思います。例えば、腎機能の低下している場合に投与 禁忌の薬を、検査値を見ないで投与していたら、恐らく健康被害 救済制度による救済は受けられないでしょう。こうした問題を含め て地域全体で協力していく必要があります。

人材育成が要

政田 ここからは病棟薬剤業務の課題と展望について話し合い たいと思います。高嶋先生いかがでしょうか。 高嶋 病棟薬剤業務実施加算は、今後、全国的に実績が集積さ れてくれば、その価値が認められ、診療報酬も上がっていくと思い ます。そのとき、看護師同様、薬剤師も24時間の病棟常駐体制が 求められてくる可能性もあります。これに対応する必要があると思 いますが、人員増だけでは難しいのではないでしょうか。 政田 さらに人材の育成が重要になりますね。病棟業務の今後 の展開を考えると、どのような人材が望まれるでしょうか。 荒木 基本的に求められる薬剤師の職能は同じですが、実際の テクニカルな部分は、病院によって違うと思います。大学病院、都 市部の病院、地方の公立病院などの各医療機関が、どういう立ち 位置で医療の枠組みを担っているかを薬剤師も把握した上で、自 分の病院の機能を理解し、ベストなアプローチを考える必要があり ます。スペシャリストかジェネラリストかという議論もありますが、私 は医療人としての資質、全体を俯瞰できる能力、問題解決能力を もった人材が求められると思います。それをどう育成するかが課 題です。 政田 人材を送り出す立場の大学病院として、中村先生に一言い ただきたいと思います。 中村 薬剤師としての基本的な部分の教育が第一だと思います。 そして服薬指導は、薬剤師の仕事のごく一部分にすぎないことを 理解してもらう必要があります。薬物療法全体を見てうまくコント ロールできる薬剤師を育てる必要があると思います。 政田 卒業後すぐに、がん専門薬剤師やCRCになりたいと言う 人がいますが、ジェネラリストとして全体が把握でき、一通りのこ とが分からないと、スペシャリストには成り得ませんから、まずはジ ェネラリストを育てる必要があると考えています。人材育成につい ては、先生方とも協力していきたいですね。 竹内 例えば大学病院で育てた人を地方の病院に送るという考 え方もあると思います。 政田 薬剤師も医師のように様々な医療機関で経験を積めるよ うにすべきですね。規模や機能の異なる病院を少しずつ経験しな がら、自分のめざすところを考えていく。そんな体制づくりを連携 して実現できればいいと思います。 中村 紹介患者が多い病院であれば、紹介元に時々顔を出して 患者さんと会い、その人が紹介されてきたときに、「こんにちは」と 言えるような環境づくりもいいかもしれませんね。

経済性ではなく安全管理に主眼を

政田 今、病院も含めて医療界全体が経済性重視の傾向にある ように思われます。しかし、国民皆保険制度の原点に立ち返って 考え直す必要がありますし、荒木先生が言われた薬剤師としての 使命、医療人としての質の向上や、問題解決能力を鍛えていかな いといけないと思います。 荒木 経済ベースの話が先立って、大切なものを置き去りにして はいけないですね。 竹内 病棟業務に真剣に取り組む病院とそうでない病院が存在 し、いつまでも両者の差が縮小しなければ、結局、薬剤師の評価 は上がらないことが危惧されます。 高嶋 私は、無理をして加算を取る必要はないと思います。中身 がなくて点数だけを取りにいく施設が増えたら、加算自体がなくな る可能性もあります。荒木先生のところのようにモデル病棟をつく り、できる範囲で薬剤師が専門性を発揮し、医師、看護師等の負 担軽減が実現すれば、時間がかかるかもしれませんが評価され、 人員増にもつながる可能性が出てくると思います。 政田 目先にとらわれず、患者さんや病院全体の医療安全を担 保するという本来の目的を忘れずに、しっかりと病棟業務を行うこ とが大切ですね。本日はありがとうございました。  2012年度の診療報酬改定で、「病棟薬剤業務実施加算」100点が新設されました。それまであった「医薬品安全性情報等 管理体制加算」50点が発展的解消をした結果であり、安全管理がこの業務の基本であると言えるでしょう。福井県では、本日 ご出席いただいた福井県済生会病院、福井社会保険病院のほか、いくつかの病院も加算申請を終えて実施されていると聞い ています。しかし、人員的な問題などで、すぐに加算をとれる病院はそれほど多くないと思いますし、すでに開始している病院で も実施方法が随分違うようです。皆さまには、各医療機関の現状を踏まえた上で、病棟業務の在り方について忌憚なく話し合っ ていただければと思います。

座談会開催にあたって

[司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 

政田 幹夫

先生 病棟の薬剤師業務スペース(福井社会保険病院) 資料1 朝のプチセミナーの様子(市立敦賀病院) 資料2  各病棟のナースセンター内に薬剤師の業務スペースがあり、看護 師がアナムネ実施後に持参薬を直接薬剤師に手渡します。持参薬の チェック、報告、処方提案まで一連の作業が病棟で行われています。

(2)

発行月 : 平成 24年9月 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社     〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18     お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666 田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp ファーマスコープは

病院、保険薬局

で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特 別 号

福井県版

特 別 号 福井県版

これからの病棟業務はいかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 政田 幹夫 先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 中村 敏明 先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 高嶋 孝次郎 先生 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 竹内 哲夫 先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 荒木 隆一 先生 [司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 まさ だ みき お

政田 幹夫

先生 (司会) 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 たけ うち てつ お

竹内 哲夫

先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 なか むら とし あき

中村 敏明

先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 あら き りゅう いち

荒木 隆一

先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 たか しま こう じ ろう

高嶋 孝次郎

先生

特 別 号

福井県版

これからの病棟業務は

いかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

座 談 会

病棟薬剤業務に対する4病院の現状

政田 最初に、各施設の現状をお伺いします。まず、病棟薬剤業務 実施加算を申請されている福井県済生会病院からお願いします。 高嶋 福井県済生会病院は、460床、10病棟で、薬剤師はパート 職員を含めて29人です。このうち実際に病棟活動を行うのは25∼ 26人で、1病棟を4∼5人で担当します。主担当を1人決め、他は病棟 を重複して様々な作業をカバーしています。薬剤師1人当たりの病 棟活動時間は4時間で、午前と午後に分け、その日の勤務状況など によって振り分けています。2011年度における薬剤管理指導は月 平均1,000件です。ただ、当院の場合は、2012年度も薬剤師を増や さずに、現状の人員で病棟薬剤業務に取り組んでいく予定ですの で、指導件数が若干減ることが想定されます。当院は、いまでこそ 他病院と比較するとベッド数に対して薬剤師数が充実しています が、以前は半分の病棟に薬剤師を配置する程度の人員しかいませ んでした。しかし、現場の看護師や医師より、全病棟への薬剤師の 常駐化を強く要望されていましたので、医療安全と適正な薬物療 法の推進を掲げ、病院側を説得し、徐々に薬剤師を増やしていきま した。ですから、今回、新たな業務を始めたという意識はあまりな く、制度の方が後から付いてきたという印象です。なお、持参薬の チェックや注射薬のミキシングは調剤室で行っています。持参薬に 関しては、基本的な残数や薬剤名の確認を行った後、この一次情 報を基に、病棟の薬剤師が医師とさらにきめ細かく、その後の投与 計画を立てています。 政田 1病棟に4∼5人が担当で、メインの担当者が休んだときや 当直明けは、別の人がカバーするのですね。 高嶋 はい、メンバーは重複していますが、病棟ごとに固定されて おり、その中で調整しますから、毎日、調剤担当の主任が非常に細 かい勤務表を作っています。 政田 では、福井社会保険病院の竹内先生、お願いします。 竹内 福井社会保険病院は199床、4病棟の小規模病院です。薬 剤師は8人のうち1人は医療安全管理部にいますので、実質7人とな ります。1病棟当たりの担当は1人で、8時半から17時15分まで病棟 に詰めています。薬剤部に戻って来るのは、昼食とともに45分間の ミーティングをするときだけです。薬剤管理指導は各病棟1人100件 を目標にしています。10年程前からこの体制ですので、私たちも、こ の加算のために何か新しい業務をしているという感覚はありませ ん。しかし、病棟薬剤業務の実施で、薬剤管理指導件数が減る可 能性はあります。実際、4月は50件ぐらい減っていますが、慣れてく るともどるかもしれません。持参薬チェックは、病棟のナースセンタ ーの一角に薬剤師の業務スペースを設け、ここでチェックから報 告、処方の提案まで、一連の作業を行っています。パソコンも設置 されており、電子カルテやインターネットにもアクセスできます。一 方、注射薬のミキシングは中央で行っています(資料1)。 政田 次は、これから加算申請をする市立敦賀病院、福井大学医 学部附属病院の現状をお話しください。 荒木 市立敦賀病院は332床、病棟数はHCUを入れて9病棟で す。薬剤師は12人ですが、新人が2人、当直や休日急患センターを 担当する薬剤師が2人いるので、実質8人で332床をみていることに なります。人員の確保は公的病院共通の課題であり、正直なとこ ろ、病棟薬剤業務実施加算の算定要件を満たすのは厳しいのが 現状です。今年から15分刻みで、個々の薬剤師の業務記録を取っ ているのですが、これによると平均1時間程度しか病棟に滞在でき ていません。半年後に新人が一人前に育ってきたら、少しは改善で きるかと思います。持参薬チェックは、基本的に中央でやっている のですが、病院全体の2∼3割しか把握できていません。簡単なも のは看護部にお願いしているのが現状です。しかし、2011年4月の DPC導入後、ジェネリック医薬品も増えており、医療安全室と看護 部からの薬剤師関与への要望はさらに高まっています。そこで現 在、2病棟をモデル病棟として様々な試みを始めています。回診に 参加して医師とのコミュニケーションを図り、看護師に対しては、毎 週15分、ハイリスク薬を中心にレクチャーをしています(資料2)。 また看護部と情報交換を行いながらモニタリング項目を決めるな ど、共同薬物治療管理(CDTM)をめざしてプロトコールづくりに 挑戦しています。 中村 福井大学医学部附属病院は600床、ICUやNICUなど特定 入院料の病棟を除いて12病棟を有しています。教官2人を除く薬 剤師は32人で、薬剤管理指導は月平均630件程です。病棟薬剤業 務実施加算は、2013年1月に申請を行う予定でいます。増員も決 まっており、あとは業務内容の大幅な組み替えが課題です。現行 の診療科ごとの担当制から病棟単位の配置に切り替え、業務日誌 などで時間の累計を算出する管理システムを作る必要がありま す。持参薬管理や入院の混注業務は中央で集中的に行っていま す。一部の病棟の持参薬については、診療科担当の薬剤師が残 数や相互作用のチェックまで行うようにしています。

コミュニケーション、信頼の構築、

 そして共同薬物治療管理(CDTM)へ

政田 病棟薬剤業務では、持参薬チェックや抗がん剤の調製な ど、様々な面での安全管理が求められています。その結果として、 医師・看護師等の負担軽減が実現されるわけです。そのような役 割を果たす薬剤師のあるべき姿をどう考えるのか、具体的なイメ ージをお話しいただきたいと思います。福井大学医学部附属病院 の話を少ししますと、20年前から薬剤師が医師のカンファレンスや ミーティングで話をすることを続けています。私はとても大切な業 務だと考えています。大学病院と市中病院では環境が違うと思う のですが、薬剤師の役割についてはいかがでしょうか。 竹内 医療の質の向上や医療安全の確保という観点から、薬剤 師が主体的に薬物療法に参加するということは共通しているので すが、政田先生がおっしゃるように、大病院と当院のような中小 病院では、薬剤師の役割も少し異なるかと思います。当院は全科 で20人程度の医師しかおらず、深刻な医師不足の状況です。その なかで医師の負担軽減と安全性の向上のために、薬剤師が病棟 に常駐することは、薬剤師の役割として大変重要です。医師とマ ンツーマンでコミュニケーションがとりやすく、医師の回診時にも 薬剤師がサポートを行い、頼られる存在になっています。また、大 学病院からの紹介患者が多いので、しっかりと持参薬チェックを 行い、何かあったら、すぐに大学病院に連絡をし、主治医に報告で きる体制づくりが重要だと思っています。 政田 中小病院では、病棟に常駐して医師とマンツーマンで話が できる薬剤師像がベストだということですね。福井県済生会病院 はいかがですか。 高嶋 病棟薬剤業務に求められるのは、主に医療安全、薬物療 法の適正化、医師の負担軽減の三つですが、次の診療報酬改定 が2年後に行われますので、少なくとも1年で各医療スタッフのアン ケートなどの評価や実績を示さなければなりません。当院では、 病棟薬剤業務実施加算の前に、持参薬を中心とした管理支援シ ステムを導入しました。これで持参薬と院内処方のマッチング、相 互作用や重複投与がチェックでき、医療安全面の強化を図ること ができました。薬物療法の適正化については、以前から抗凝固剤 や糖尿病薬など注意が必要な薬剤は、調剤室で処方箋とともに 履歴を記録した特定薬歴チェック表でチェックをしていましたが、 今回、その対象薬剤を広げて、投与量や投与間隔を調剤室で確認 し、それを病棟担当薬剤師に調剤室から連絡するという方法を採 っています。医師の負担軽減については、従来は持参薬やハイリ スク薬に薬剤師が関与することで貢献してきたと思いますが、投 与前の指導や確認をもっと徹底すれば、医師から今以上に評価さ れるのではないかと思います。DI情報の提供は、必要な情報や副 作用情報をDI室から流すと同時に、毎日の朝礼でDI室の薬剤師 が薬剤に関する注意喚起について、症例も交えて提示し、関係病 棟の薬剤師に医師への情報提供または注意喚起を促していま す。そして、情報提供を受けた医師には確認印をもらうようにして います。 中村 薬剤管理指導業務は、医師が薬物療法を決め、処方箋を 発行してからの関与ですが、病棟薬剤業務では投与前からになり ます。医師が処方を組み立てるときの関与はどうされているので すか。 高嶋 現時点では、投与前に100%薬剤師がかかわることは無理 だと思います。しかし、7∼8割は関われるようにしたいと考え、薬 物治療についての提案や疑義照会を外来中の医師にも診察の妨 げにならぬようFAXで連絡したりしています。処方を組み立てると きに薬剤師が関与するためには、CDTMというような形で、プロト コールに基づいて薬剤師にある程度任せてもらうしくみが必要だ と思います。 政田 処方に関与するためには、入院時のカンファレンスに薬剤 師が入るべきですね。 中村 将来的には、薬剤師が入院時に患者さんの全体像を把握 して「こういう形で薬を使ったらどうですか」と提案をし、医師が 「ではそれでいきましょう」とオーダーするという形が理想です。

薬薬連携によるシームレスなサポート

政田 荒木先生は、求められる病棟薬剤業務としてどのようなイ メージを持っていますか。 荒木 以前は薬剤師の病棟活動は、患者さんのところに行くこと だけをイメージしていたのですが、医師・看護師とコミュニケーショ ンを取ることの重要性が分かってきました。中には配薬も薬剤師 が行う病院もあるようですが、結果として引き受けることはあって も、あくまでも病棟薬剤業務でめざすのは医師の負担軽減であ り、患者様の安全はもちろん看護師の安心を担保することだと考 えています。ですからモデル病棟の薬剤師にはそこに軸足を置い てくれと伝えています。また、これからは患者さんの入院中だけで なく、退院後のフォローを充実させるための薬薬連携にも取り組 みたいと思います。入院中にどのような治療や指導をしたのか、 保険薬局に伝達するのは病棟薬剤師の大きな仕事の一つだと思 います。 政田 退院後の患者さんのフォローは大変重要です。中村先生も いろいろ取り組んでおられますね。 中村 患者さんは、外来と入院を繰り返されることが多いので、 途切れることなく薬剤師が関与して、サポートしていくべきだと思 います。たまたま今回は病棟活動に焦点が当たり、それを機会に、 病院薬剤師の人数が増え、手厚くサポートできる体制ができつつあ ります。この歓迎すべき状況を活用して、広い視野をもって病棟 業務に取り組みたいと思います。 政田 薬薬連携、病診連携は、今後さらに重要になってくると思 います。当院では、処方箋と共に検査値を提供していますが、中 には検査値など見たこともないという薬剤師もいます。外来患者 さんの薬剤管理を保険薬局がしっかりできるように病院薬剤師 がサポートする必要があります。患者さんに副作用が出た場合、医 師の責任を問われることが多いのですが、薬剤師がすべき点は少 なくないと思います。例えば、腎機能の低下している場合に投与 禁忌の薬を、検査値を見ないで投与していたら、恐らく健康被害 救済制度による救済は受けられないでしょう。こうした問題を含め て地域全体で協力していく必要があります。

人材育成が要

政田 ここからは病棟薬剤業務の課題と展望について話し合い たいと思います。高嶋先生いかがでしょうか。 高嶋 病棟薬剤業務実施加算は、今後、全国的に実績が集積さ れてくれば、その価値が認められ、診療報酬も上がっていくと思い ます。そのとき、看護師同様、薬剤師も24時間の病棟常駐体制が 求められてくる可能性もあります。これに対応する必要があると思 いますが、人員増だけでは難しいのではないでしょうか。 政田 さらに人材の育成が重要になりますね。病棟業務の今後 の展開を考えると、どのような人材が望まれるでしょうか。 荒木 基本的に求められる薬剤師の職能は同じですが、実際の テクニカルな部分は、病院によって違うと思います。大学病院、都 市部の病院、地方の公立病院などの各医療機関が、どういう立ち 位置で医療の枠組みを担っているかを薬剤師も把握した上で、自 分の病院の機能を理解し、ベストなアプローチを考える必要があり ます。スペシャリストかジェネラリストかという議論もありますが、私 は医療人としての資質、全体を俯瞰できる能力、問題解決能力を もった人材が求められると思います。それをどう育成するかが課 題です。 政田 人材を送り出す立場の大学病院として、中村先生に一言い ただきたいと思います。 中村 薬剤師としての基本的な部分の教育が第一だと思います。 そして服薬指導は、薬剤師の仕事のごく一部分にすぎないことを 理解してもらう必要があります。薬物療法全体を見てうまくコント ロールできる薬剤師を育てる必要があると思います。 政田 卒業後すぐに、がん専門薬剤師やCRCになりたいと言う 人がいますが、ジェネラリストとして全体が把握でき、一通りのこ とが分からないと、スペシャリストには成り得ませんから、まずはジ ェネラリストを育てる必要があると考えています。人材育成につい ては、先生方とも協力していきたいですね。 竹内 例えば大学病院で育てた人を地方の病院に送るという考 え方もあると思います。 政田 薬剤師も医師のように様々な医療機関で経験を積めるよ うにすべきですね。規模や機能の異なる病院を少しずつ経験しな がら、自分のめざすところを考えていく。そんな体制づくりを連携 して実現できればいいと思います。 中村 紹介患者が多い病院であれば、紹介元に時々顔を出して 患者さんと会い、その人が紹介されてきたときに、「こんにちは」と 言えるような環境づくりもいいかもしれませんね。

経済性ではなく安全管理に主眼を

政田 今、病院も含めて医療界全体が経済性重視の傾向にある ように思われます。しかし、国民皆保険制度の原点に立ち返って 考え直す必要がありますし、荒木先生が言われた薬剤師としての 使命、医療人としての質の向上や、問題解決能力を鍛えていかな いといけないと思います。 荒木 経済ベースの話が先立って、大切なものを置き去りにして はいけないですね。 竹内 病棟業務に真剣に取り組む病院とそうでない病院が存在 し、いつまでも両者の差が縮小しなければ、結局、薬剤師の評価 は上がらないことが危惧されます。 高嶋 私は、無理をして加算を取る必要はないと思います。中身 がなくて点数だけを取りにいく施設が増えたら、加算自体がなくな る可能性もあります。荒木先生のところのようにモデル病棟をつく り、できる範囲で薬剤師が専門性を発揮し、医師、看護師等の負 担軽減が実現すれば、時間がかかるかもしれませんが評価され、 人員増にもつながる可能性が出てくると思います。 政田 目先にとらわれず、患者さんや病院全体の医療安全を担 保するという本来の目的を忘れずに、しっかりと病棟業務を行うこ とが大切ですね。本日はありがとうございました。  2012年度の診療報酬改定で、「病棟薬剤業務実施加算」100点が新設されました。それまであった「医薬品安全性情報等 管理体制加算」50点が発展的解消をした結果であり、安全管理がこの業務の基本であると言えるでしょう。福井県では、本日 ご出席いただいた福井県済生会病院、福井社会保険病院のほか、いくつかの病院も加算申請を終えて実施されていると聞い ています。しかし、人員的な問題などで、すぐに加算をとれる病院はそれほど多くないと思いますし、すでに開始している病院で も実施方法が随分違うようです。皆さまには、各医療機関の現状を踏まえた上で、病棟業務の在り方について忌憚なく話し合っ ていただければと思います。

座談会開催にあたって

[司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 

政田 幹夫

先生 病棟の薬剤師業務スペース(福井社会保険病院) 資料1 朝のプチセミナーの様子(市立敦賀病院) 資料2  各病棟のナースセンター内に薬剤師の業務スペースがあり、看護 師がアナムネ実施後に持参薬を直接薬剤師に手渡します。持参薬の チェック、報告、処方提案まで一連の作業が病棟で行われています。

(3)

発行月 : 平成 24年9月 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社     〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18     お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666 田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp ファーマスコープは

病院、保険薬局

で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特 別 号

福井県版

特 別 号 福井県版

これからの病棟業務はいかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 政田 幹夫 先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 中村 敏明 先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 高嶋 孝次郎 先生 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 竹内 哲夫 先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 荒木 隆一 先生 [司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 まさ だ みき お

政田 幹夫

先生 (司会) 福井社会保険病院 薬剤部 薬剤部長 たけ うち てつ お

竹内 哲夫

先生 福井大学医学部附属病院 薬剤部 副部長 なか むら とし あき

中村 敏明

先生 市立敦賀病院 薬剤室 室長 あら き りゅう いち

荒木 隆一

先生 福井県済生会病院 薬剤部 薬剤部長 たか しま こう じ ろう

高嶋 孝次郎

先生

特 別 号

福井県版

これからの病棟業務は

いかにあるべきか

∼「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト∼

座 談 会

座 談 会

病棟薬剤業務に対する4病院の現状

政田 最初に、各施設の現状をお伺いします。まず、病棟薬剤業務 実施加算を申請されている福井県済生会病院からお願いします。 高嶋 福井県済生会病院は、460床、10病棟で、薬剤師はパート 職員を含めて29人です。このうち実際に病棟活動を行うのは25∼ 26人で、1病棟を4∼5人で担当します。主担当を1人決め、他は病棟 を重複して様々な作業をカバーしています。薬剤師1人当たりの病 棟活動時間は4時間で、午前と午後に分け、その日の勤務状況など によって振り分けています。2011年度における薬剤管理指導は月 平均1,000件です。ただ、当院の場合は、2012年度も薬剤師を増や さずに、現状の人員で病棟薬剤業務に取り組んでいく予定ですの で、指導件数が若干減ることが想定されます。当院は、いまでこそ 他病院と比較するとベッド数に対して薬剤師数が充実しています が、以前は半分の病棟に薬剤師を配置する程度の人員しかいませ んでした。しかし、現場の看護師や医師より、全病棟への薬剤師の 常駐化を強く要望されていましたので、医療安全と適正な薬物療 法の推進を掲げ、病院側を説得し、徐々に薬剤師を増やしていきま した。ですから、今回、新たな業務を始めたという意識はあまりな く、制度の方が後から付いてきたという印象です。なお、持参薬の チェックや注射薬のミキシングは調剤室で行っています。持参薬に 関しては、基本的な残数や薬剤名の確認を行った後、この一次情 報を基に、病棟の薬剤師が医師とさらにきめ細かく、その後の投与 計画を立てています。 政田 1病棟に4∼5人が担当で、メインの担当者が休んだときや 当直明けは、別の人がカバーするのですね。 高嶋 はい、メンバーは重複していますが、病棟ごとに固定されて おり、その中で調整しますから、毎日、調剤担当の主任が非常に細 かい勤務表を作っています。 政田 では、福井社会保険病院の竹内先生、お願いします。 竹内 福井社会保険病院は199床、4病棟の小規模病院です。薬 剤師は8人のうち1人は医療安全管理部にいますので、実質7人とな ります。1病棟当たりの担当は1人で、8時半から17時15分まで病棟 に詰めています。薬剤部に戻って来るのは、昼食とともに45分間の ミーティングをするときだけです。薬剤管理指導は各病棟1人100件 を目標にしています。10年程前からこの体制ですので、私たちも、こ の加算のために何か新しい業務をしているという感覚はありませ ん。しかし、病棟薬剤業務の実施で、薬剤管理指導件数が減る可 能性はあります。実際、4月は50件ぐらい減っていますが、慣れてく るともどるかもしれません。持参薬チェックは、病棟のナースセンタ ーの一角に薬剤師の業務スペースを設け、ここでチェックから報 告、処方の提案まで、一連の作業を行っています。パソコンも設置 されており、電子カルテやインターネットにもアクセスできます。一 方、注射薬のミキシングは中央で行っています(資料1)。 政田 次は、これから加算申請をする市立敦賀病院、福井大学医 学部附属病院の現状をお話しください。 荒木 市立敦賀病院は332床、病棟数はHCUを入れて9病棟で す。薬剤師は12人ですが、新人が2人、当直や休日急患センターを 担当する薬剤師が2人いるので、実質8人で332床をみていることに なります。人員の確保は公的病院共通の課題であり、正直なとこ ろ、病棟薬剤業務実施加算の算定要件を満たすのは厳しいのが 現状です。今年から15分刻みで、個々の薬剤師の業務記録を取っ ているのですが、これによると平均1時間程度しか病棟に滞在でき ていません。半年後に新人が一人前に育ってきたら、少しは改善で きるかと思います。持参薬チェックは、基本的に中央でやっている のですが、病院全体の2∼3割しか把握できていません。簡単なも のは看護部にお願いしているのが現状です。しかし、2011年4月の DPC導入後、ジェネリック医薬品も増えており、医療安全室と看護 部からの薬剤師関与への要望はさらに高まっています。そこで現 在、2病棟をモデル病棟として様々な試みを始めています。回診に 参加して医師とのコミュニケーションを図り、看護師に対しては、毎 週15分、ハイリスク薬を中心にレクチャーをしています(資料2)。 また看護部と情報交換を行いながらモニタリング項目を決めるな ど、共同薬物治療管理(CDTM)をめざしてプロトコールづくりに 挑戦しています。 中村 福井大学医学部附属病院は600床、ICUやNICUなど特定 入院料の病棟を除いて12病棟を有しています。教官2人を除く薬 剤師は32人で、薬剤管理指導は月平均630件程です。病棟薬剤業 務実施加算は、2013年1月に申請を行う予定でいます。増員も決 まっており、あとは業務内容の大幅な組み替えが課題です。現行 の診療科ごとの担当制から病棟単位の配置に切り替え、業務日誌 などで時間の累計を算出する管理システムを作る必要がありま す。持参薬管理や入院の混注業務は中央で集中的に行っていま す。一部の病棟の持参薬については、診療科担当の薬剤師が残 数や相互作用のチェックまで行うようにしています。

コミュニケーション、信頼の構築、

 そして共同薬物治療管理(CDTM)へ

政田 病棟薬剤業務では、持参薬チェックや抗がん剤の調製な ど、様々な面での安全管理が求められています。その結果として、 医師・看護師等の負担軽減が実現されるわけです。そのような役 割を果たす薬剤師のあるべき姿をどう考えるのか、具体的なイメ ージをお話しいただきたいと思います。福井大学医学部附属病院 の話を少ししますと、20年前から薬剤師が医師のカンファレンスや ミーティングで話をすることを続けています。私はとても大切な業 務だと考えています。大学病院と市中病院では環境が違うと思う のですが、薬剤師の役割についてはいかがでしょうか。 竹内 医療の質の向上や医療安全の確保という観点から、薬剤 師が主体的に薬物療法に参加するということは共通しているので すが、政田先生がおっしゃるように、大病院と当院のような中小 病院では、薬剤師の役割も少し異なるかと思います。当院は全科 で20人程度の医師しかおらず、深刻な医師不足の状況です。その なかで医師の負担軽減と安全性の向上のために、薬剤師が病棟 に常駐することは、薬剤師の役割として大変重要です。医師とマ ンツーマンでコミュニケーションがとりやすく、医師の回診時にも 薬剤師がサポートを行い、頼られる存在になっています。また、大 学病院からの紹介患者が多いので、しっかりと持参薬チェックを 行い、何かあったら、すぐに大学病院に連絡をし、主治医に報告で きる体制づくりが重要だと思っています。 政田 中小病院では、病棟に常駐して医師とマンツーマンで話が できる薬剤師像がベストだということですね。福井県済生会病院 はいかがですか。 高嶋 病棟薬剤業務に求められるのは、主に医療安全、薬物療 法の適正化、医師の負担軽減の三つですが、次の診療報酬改定 が2年後に行われますので、少なくとも1年で各医療スタッフのアン ケートなどの評価や実績を示さなければなりません。当院では、 病棟薬剤業務実施加算の前に、持参薬を中心とした管理支援シ ステムを導入しました。これで持参薬と院内処方のマッチング、相 互作用や重複投与がチェックでき、医療安全面の強化を図ること ができました。薬物療法の適正化については、以前から抗凝固剤 や糖尿病薬など注意が必要な薬剤は、調剤室で処方箋とともに 履歴を記録した特定薬歴チェック表でチェックをしていましたが、 今回、その対象薬剤を広げて、投与量や投与間隔を調剤室で確認 し、それを病棟担当薬剤師に調剤室から連絡するという方法を採 っています。医師の負担軽減については、従来は持参薬やハイリ スク薬に薬剤師が関与することで貢献してきたと思いますが、投 与前の指導や確認をもっと徹底すれば、医師から今以上に評価さ れるのではないかと思います。DI情報の提供は、必要な情報や副 作用情報をDI室から流すと同時に、毎日の朝礼でDI室の薬剤師 が薬剤に関する注意喚起について、症例も交えて提示し、関係病 棟の薬剤師に医師への情報提供または注意喚起を促していま す。そして、情報提供を受けた医師には確認印をもらうようにして います。 中村 薬剤管理指導業務は、医師が薬物療法を決め、処方箋を 発行してからの関与ですが、病棟薬剤業務では投与前からになり ます。医師が処方を組み立てるときの関与はどうされているので すか。 高嶋 現時点では、投与前に100%薬剤師がかかわることは無理 だと思います。しかし、7∼8割は関われるようにしたいと考え、薬 物治療についての提案や疑義照会を外来中の医師にも診察の妨 げにならぬようFAXで連絡したりしています。処方を組み立てると きに薬剤師が関与するためには、CDTMというような形で、プロト コールに基づいて薬剤師にある程度任せてもらうしくみが必要だ と思います。 政田 処方に関与するためには、入院時のカンファレンスに薬剤 師が入るべきですね。 中村 将来的には、薬剤師が入院時に患者さんの全体像を把握 して「こういう形で薬を使ったらどうですか」と提案をし、医師が 「ではそれでいきましょう」とオーダーするという形が理想です。

薬薬連携によるシームレスなサポート

政田 荒木先生は、求められる病棟薬剤業務としてどのようなイ メージを持っていますか。 荒木 以前は薬剤師の病棟活動は、患者さんのところに行くこと だけをイメージしていたのですが、医師・看護師とコミュニケーショ ンを取ることの重要性が分かってきました。中には配薬も薬剤師 が行う病院もあるようですが、結果として引き受けることはあって も、あくまでも病棟薬剤業務でめざすのは医師の負担軽減であ り、患者様の安全はもちろん看護師の安心を担保することだと考 えています。ですからモデル病棟の薬剤師にはそこに軸足を置い てくれと伝えています。また、これからは患者さんの入院中だけで なく、退院後のフォローを充実させるための薬薬連携にも取り組 みたいと思います。入院中にどのような治療や指導をしたのか、 保険薬局に伝達するのは病棟薬剤師の大きな仕事の一つだと思 います。 政田 退院後の患者さんのフォローは大変重要です。中村先生も いろいろ取り組んでおられますね。 中村 患者さんは、外来と入院を繰り返されることが多いので、 途切れることなく薬剤師が関与して、サポートしていくべきだと思 います。たまたま今回は病棟活動に焦点が当たり、それを機会に、 病院薬剤師の人数が増え、手厚くサポートできる体制ができつつあ ります。この歓迎すべき状況を活用して、広い視野をもって病棟 業務に取り組みたいと思います。 政田 薬薬連携、病診連携は、今後さらに重要になってくると思 います。当院では、処方箋と共に検査値を提供していますが、中 には検査値など見たこともないという薬剤師もいます。外来患者 さんの薬剤管理を保険薬局がしっかりできるように病院薬剤師 がサポートする必要があります。患者さんに副作用が出た場合、医 師の責任を問われることが多いのですが、薬剤師がすべき点は少 なくないと思います。例えば、腎機能の低下している場合に投与 禁忌の薬を、検査値を見ないで投与していたら、恐らく健康被害 救済制度による救済は受けられないでしょう。こうした問題を含め て地域全体で協力していく必要があります。

人材育成が要

政田 ここからは病棟薬剤業務の課題と展望について話し合い たいと思います。高嶋先生いかがでしょうか。 高嶋 病棟薬剤業務実施加算は、今後、全国的に実績が集積さ れてくれば、その価値が認められ、診療報酬も上がっていくと思い ます。そのとき、看護師同様、薬剤師も24時間の病棟常駐体制が 求められてくる可能性もあります。これに対応する必要があると思 いますが、人員増だけでは難しいのではないでしょうか。 政田 さらに人材の育成が重要になりますね。病棟業務の今後 の展開を考えると、どのような人材が望まれるでしょうか。 荒木 基本的に求められる薬剤師の職能は同じですが、実際の テクニカルな部分は、病院によって違うと思います。大学病院、都 市部の病院、地方の公立病院などの各医療機関が、どういう立ち 位置で医療の枠組みを担っているかを薬剤師も把握した上で、自 分の病院の機能を理解し、ベストなアプローチを考える必要があり ます。スペシャリストかジェネラリストかという議論もありますが、私 は医療人としての資質、全体を俯瞰できる能力、問題解決能力を もった人材が求められると思います。それをどう育成するかが課 題です。 政田 人材を送り出す立場の大学病院として、中村先生に一言い ただきたいと思います。 中村 薬剤師としての基本的な部分の教育が第一だと思います。 そして服薬指導は、薬剤師の仕事のごく一部分にすぎないことを 理解してもらう必要があります。薬物療法全体を見てうまくコント ロールできる薬剤師を育てる必要があると思います。 政田 卒業後すぐに、がん専門薬剤師やCRCになりたいと言う 人がいますが、ジェネラリストとして全体が把握でき、一通りのこ とが分からないと、スペシャリストには成り得ませんから、まずはジ ェネラリストを育てる必要があると考えています。人材育成につい ては、先生方とも協力していきたいですね。 竹内 例えば大学病院で育てた人を地方の病院に送るという考 え方もあると思います。 政田 薬剤師も医師のように様々な医療機関で経験を積めるよ うにすべきですね。規模や機能の異なる病院を少しずつ経験しな がら、自分のめざすところを考えていく。そんな体制づくりを連携 して実現できればいいと思います。 中村 紹介患者が多い病院であれば、紹介元に時々顔を出して 患者さんと会い、その人が紹介されてきたときに、「こんにちは」と 言えるような環境づくりもいいかもしれませんね。

経済性ではなく安全管理に主眼を

政田 今、病院も含めて医療界全体が経済性重視の傾向にある ように思われます。しかし、国民皆保険制度の原点に立ち返って 考え直す必要がありますし、荒木先生が言われた薬剤師としての 使命、医療人としての質の向上や、問題解決能力を鍛えていかな いといけないと思います。 荒木 経済ベースの話が先立って、大切なものを置き去りにして はいけないですね。 竹内 病棟業務に真剣に取り組む病院とそうでない病院が存在 し、いつまでも両者の差が縮小しなければ、結局、薬剤師の評価 は上がらないことが危惧されます。 高嶋 私は、無理をして加算を取る必要はないと思います。中身 がなくて点数だけを取りにいく施設が増えたら、加算自体がなくな る可能性もあります。荒木先生のところのようにモデル病棟をつく り、できる範囲で薬剤師が専門性を発揮し、医師、看護師等の負 担軽減が実現すれば、時間がかかるかもしれませんが評価され、 人員増にもつながる可能性が出てくると思います。 政田 目先にとらわれず、患者さんや病院全体の医療安全を担 保するという本来の目的を忘れずに、しっかりと病棟業務を行うこ とが大切ですね。本日はありがとうございました。  2012年度の診療報酬改定で、「病棟薬剤業務実施加算」100点が新設されました。それまであった「医薬品安全性情報等 管理体制加算」50点が発展的解消をした結果であり、安全管理がこの業務の基本であると言えるでしょう。福井県では、本日 ご出席いただいた福井県済生会病院、福井社会保険病院のほか、いくつかの病院も加算申請を終えて実施されていると聞い ています。しかし、人員的な問題などで、すぐに加算をとれる病院はそれほど多くないと思いますし、すでに開始している病院で も実施方法が随分違うようです。皆さまには、各医療機関の現状を踏まえた上で、病棟業務の在り方について忌憚なく話し合っ ていただければと思います。

座談会開催にあたって

[司会] 福井大学医学部附属病院 薬剤部 部長 

政田 幹夫

先生 病棟の薬剤師業務スペース(福井社会保険病院) 資料1 朝のプチセミナーの様子(市立敦賀病院) 資料2  各病棟のナースセンター内に薬剤師の業務スペースがあり、看護 師がアナムネ実施後に持参薬を直接薬剤師に手渡します。持参薬の チェック、報告、処方提案まで一連の作業が病棟で行われています。

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