• 検索結果がありません。

児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 25, No. 2, 225-232, 2011

*1東京医科大学八王子医療センター(Tokyo Medical University Hachioji Medical Center)  *2慶應義塾大学(Keio University)

2011年 5 月30日受付 2011年12月19日採用

資  料

児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連

How infant feeding methods relate to anxiety over

child-rearing and feelings toward the child

武 本 茂 美(Shigemi TAKEMOTO)

*1

中 村 幸 代(Sachiyo NAKAMURA)

*2 抄  録 目 的  本研究の目的は,完全母乳栄養法や混合・人工栄養法の児の栄養法別による育児不安および児に対す る感情との関連を明らかにすることである。 対象と方法  産後1ヶ月健診に来院した褥婦148名を対象とし,質問紙調査によりデータ収集を行った。調査内容 は,対象の背景,育児不安の内容,育児不安尺度(牧野,1982)対児感情尺度(花沢,2008)である。分析 は,PASWVer17.0を使用し,有意水準は5%とした。 結 果  育児不安について,完全母乳栄養法の女性群の方が,混合・人工栄養法の女性群より育児不安が低か った(p<0.001)。対児感情について,拮抗指数において,有意差がみられ,完全母乳栄養法の女性群 の方が,児に対する肯定的,受容的な感情が高かった(p=0.039)。 結 論  母乳育児は育児不安軽減に対して有効性が高く,児に対する肯定的,受容的な感情が高まった。以上 より,母乳育児の奨励は望ましいことであると考えられる。 キーワード:母乳育児,育児不安,対児感情,オキシトシン,スキンシップ Abstract Purpose

The purpose of this study is to elucidate how the respective infant feeding methods, exclusive breast-feeding and mixed/bottle-feeding, relate to anxiety over child-rearing and feelings toward the child.

Subjects and method

Data was collected through a questionnaire survey of 148 postpartum women who visited clinics for a checkup one month after delivery. The survey covered the subjects’ backgrounds, their anxiety over child-rearing, Scale of Anxiety over Child-rearing (Makino, 1987) and Scale of Feelings toward the Child (Hanazawa, 2008). PASW Ver17.0 was used for analysis with a significant level of 5%.

(2)

in the mixed/bottle-feeding group (p<0.001). Where feelings toward the child were concerned, a significant differ-ence was found in the conflict index between the two groups, showing that women in the exclusive breast-feeding group had more positive and receptive feelings toward the child (p=0.039).

Conclusion

Breast-feeding is highly effective for alleviating anxiety over child-rearing and promotes positive and receptive feelings toward the child. Therefore, encouraging breast-feeding is considered desirable.

Keywords: breast-feeding, anxiety over child-rearing, feelings toward the child, oxytocin, mother and child bonding

Ⅰ.は じ め に

 女性にとって,妊娠・出産・産褥期間は,ホルモン のバランスの急激な変化などにより,心身ともに不安 定になりやすい。その上産褥期は,母親という新たな 役割も加わり,慣れない育児に,戸惑うことも多く容 易に育児不安に陥ってしまう。  厚生労働省は,平成13年から10年計画で「健やか親 子21」を推進し,平成17年には,乳幼児栄養調査を行 い「授乳と離乳の支援ガイド」を作成した。そして,平 成19年には「こんにちは赤ちゃん事業」が市町村を実 施主体として始まった。現在,ユニセフ/WHOでも 母乳の利点を広め,baby friendly hospital認定をし,母 乳育児を推進している。このように,社会的な背景か らみても,母乳育児支援や育児不安軽減についての関 心は高く,重要なことであるということがうかがえる。  母乳育児支援の現状として,厚生労働省(2007)は, 妊婦の96.0%が母乳育児を希望しているにもかかわら ず出産後1ヶ月における母乳育児率は,わずか42.4% であると報告している。また,臨床における母乳育児 支援の問題点として,支援者の知識や技術,母乳育児 に対する支援意識に差がみられることがあげられる。  大村・光岡(2006)は,児に対する母親の愛着得点が, 有意に上昇するのは「経産婦」「積極的に妊娠を希望し た母親」「妊娠中に心配事のなかった母親」「母乳栄養 の母親」であり,有意な上昇を示さないのは,「初産婦」 「妊娠を希望していなかった母親」「妊娠中に心配事が あった母親」「育児不安を抱えている母親」「育児の楽 しさや幸せ感を感じられない母親」であると報告して いる。さらに,前原・森(2005)は,母親役割の自信 尺度において,有意な関連を示す項目は「わが子の認 識が肯定的であること」や「産褥1ヶ月時に母乳栄養 が確立されていること」「経産婦であること」「年齢」で あることを明らかにしている。また,Akman, Kuscu, Yurdakul et al.(2008)は,母乳を与えている母親はう つ症状が少なく,母親役割に自信があると報告してい る。先行研究より,母乳育児と育児不安,母乳育児と 愛着形成との関連が示唆された。  本研究において,母乳育児と育児不安,母乳育児と 愛着形成との関連が明らかになれば,産後の母親と児 に関わる支援者は,母乳育児の重要性を再認識して, 母乳育児に対する支援意識や知識,技術も高まり,適 切な母乳育児支援の一助となると考える。

Ⅱ.研 究 目 的

1 . 完全母乳栄養法や混合・人工栄養法の児の栄養法 別による育児不安との関連について明らかにする。 2 . 完全母乳栄養法や混合・人工栄養法の児の栄養法 別による児に対する感情との関連について明らかに する。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究対象者  都内A大学病院にて,妊娠37週∼妊娠41週に出産 され,産後1ヶ月健診に来院した母児共に健康である 女性。 2.データ収集期間  2009年5月∼2009年9月。 3.データの収集方法  研究の主旨を書面にて説明し,同意の得られた女性 に質問紙の記入を行ってもらい,容易に開封すること のできない箱に投函する方法で,回収を行った。 4.測定尺度 1 ) 育児不安  育児不安尺度(牧野カツコ,1982)

(3)

児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連 検定やt検定を行った。いずれも標準偏差,95%CIを 求め,有意水準は5%とした。 6.用語の操作的定義 1 ) 完全母乳栄養法  本研究では,母乳のみの授乳だけでなく,ミルクの 補足を1日2回以下までは完全母乳栄養とした。 2 ) 混合栄養法  本研究では,ミルクの補足が1日3回以上を混合栄 養法とした。 3 ) 人工栄養法  本研究では,ミルクのみを与える方法を人工栄養法 とした。 4 ) 育児不安  親が自分の子供を育てるにあたって感じる過度の不 安や困惑,自信のなさからくる漠然とした精神的状態。 5 ) 対児感情  乳児に対して大人が抱く感情。 7.倫理的配慮  研究への参加は自由意思によるものとし,調査協力 には,いずれの時点においても中断や拒否ができるこ とを書面にて明示した。研究協力が得られない場合で も不利益が生じないことや,得られたデータは,研究 の目的以外には,一切使用せず,研究終了後は破棄す ることを書面にて明示した。質問紙は,無記名であり, プライバシーの万全な確保をした。  本研究は,A大学病院看護研究倫理委員会の承認を 得て実施した(承認番号16)。

Ⅳ.結   果

1.対象の背景  産後1ヶ月健診に来院した女性148名の褥婦を調査 対象とした。回収率は100%であり,そのうち有効回 答数は124名(83.8%)であった。  対象の背景を表1に示す。完全母乳栄養法の女性 群は66名(53.2%)混合・人工栄養法の女性群は58名 (46.7%)であった。分娩歴は,初産婦が60名(48.3%), 経産婦が64名(51.6%)であり,平均出産週数は39.3週 (SD1.3),分娩様式は,経膣分娩が93名(75.0%),腹 式帝王切開術が24名(19.3%),無回答7名(5.6%)で あった。また,乳房トラブルの有無については,乳房 トラブルありは,20名(16.1%),乳房トラブルなしは  一般的疲労感,一般的気力の低下,イライラの状態, 育児不安徴候,育児意欲の低下の5つの特性,14項目 から構成されている。14項目とは,育児におけるネガ ティブな感情や意識の有無を問うもの8項目と育児に 対する自信や満足感,安心感の有無を問うポジティブ な感情6項目である。評定尺度は「よくある」∼「全く ない」の4件法であり,不安度の程度を得点化し,得 点が高いほど不安が高いことを示し,得点が低いほど 不安が低いということ示す。本研究における育児不安 得点は,21点から49点までの正規分布に近い型であっ た。また,「育児不安度」については,得点の高い方か ら低い方へ並べ,高い方から25パーセンタイルを不 安度の「高い群」,低い方から25パーセンタイルを不 安度の「低い群」とする。本研究において,育児不安 の高い群は,37点から49点,育児不安の低い群は21 点から32点の得点範囲であった。尺度の信頼性,妥 当性は確認されており,本研究における育児不安尺度 のCronbachα係数は0.620であった。 2 ) 対児感情  対児感情尺度(花沢成一,2008)  乳児に対して大人が抱く感情を肯定的感情である接 近感情と否定的感情である回避感情の2側面から測定 を行う尺度である。14の形容詞から構成される接近項 目の合計点を接近得点,また,14の形容詞から構成さ れる回避項目の合計点を回避得点とする。接近得点が 高いほど,児に対する感情が肯定され受容を示し,反 対に回避得点が高いほど,児に対する感情が否定的 と捉える。「回避得点/接近得点 100」により拮抗指 数が求められ,拮抗指数が高いほど,児に対する感情 が否定的であり,拮抗指数が低い程,児に対する感情 が肯定的であり,受容を示す。尺度の信頼性,妥当性 は確認されており,本研究における対児感情尺度の Cronbachα係数は0.831であった。 5.分析方法  統計的分析には統計解析ソフトPASWVer17.0を用 いた。  児に完全母乳栄養法を行っている女性群と混合・ 人工栄養法を行っている女性群の2群間における育児 不安得点の検定にt検定,育児不安度の検定にχ2検定, 対児感情の検定にU検定を行い,相違を統計的に分析 した。また,対象の背景が児の栄養法に関与する要因 についてそれぞれの影響を調整して検討するため,χ2

(4)

 対象の背景が完全母乳栄養法の女性群,混合・人工 栄養法の女性群に関与する要因について,t検定,χ2 検定の結果,対象の背景全項目において有意差は認め られなかった。 2.分析結果 1 ) 育児不安について (1)児への栄養法別による育児不安得点との関連に ついて(表2)  育児不安得点は21点から49点(SD4.6)までの正規 分布に近い型であった。完全母乳栄養法の女性群の育 児不安得点は,平均値33.3(SD4.3),混合・人工栄養 法の女性群の育児不安得点は,平均値36.3(SD4.5)で あった。つまり,完全母乳栄養法の女性群の方が,混 合・人工栄養法の女性群よりも,育児不安得点が3.0 点低いという結果であり,育児不安得点と完全母乳栄 (2)児への栄養法別による育児不安度との関連につ いて(表3)  育児不安の高い群は,37点から49点までの39名, 育児不安の低い群は21点から32点までの36名であっ た。そのうち,育児不安の高い群は,完全母乳栄養法 の女性群では15名,混合・人工栄養法の女性群では 24名であり,育児不安の低い群は,完全母乳栄養法 の女性群では26名,混合・人工栄養法の女性群では 10名であった。つまり,完全母乳栄養法の女性群の 方が,混合・人工栄養法の女性群よりも育児不安の高 い群で9名少なく,育児不安の低い群は,16名多いと いう結果であり,育児不安度と完全母乳栄養法の女性 群,混合・人工栄養法の女性群との間に関連が認めら れた(χ2値8.610, p=0.005)。 表1 対象の背景 全対象者 (N=124) 完全母乳栄養法の女性群(N=66) 混合・人工栄養法の女性群(N=58) t値/χ2値 出産時年齢 児の出生体重 (t検定) ­1.495 1.519 分娩歴   初産婦   経産婦 60 64名(48.3%)名(51.6%) 30名(45.4%)36名(54.5%) 30名(51.7%)28名(48.2%) 0.486 出産週数   正期産   過期産   無回答 94名(75.8%) 22名(17.7%) 8名( 6.4%) 50名(75.7%) 10名(15.1%) 6名( 9.0%) 44名(75.8%) 12名(20.6%) 2名( 3.4%) 0.513 分娩様式   経膣分娩   腹式帝王切開   無回答 93名(75.0%) 24名(19.3%) 7名( 5.6%) 49名(74.2%) 13名(19.6%) 4名( 6.0%) 44名(75.8%) 11名(18.9%) 3名( 5.1%) 0.897 乳房トラブルの有無   トラブルあり   トラブルなし   無回答 20名(16.1%) 102名(82.2%) 2名( 1.6%) 12名(18.1%) 53名(80.3%) 1名( 1.5%) 8名(13.7%) 49名(84.4%) 1名( 1.7%) 0.510 家族形態   核家族   拡大家族 102名(82.2%) 22名(17.7%) 56名(84.8%)10名(15.1%) 46名(79.3%)12名(20.6%) 0.421 里帰りの有無   里帰りあり   里帰りなし   無回答 54名(43.5%) 69名(55.6%) 1名( 0.8%) 31名(46.9%) 34名(51.5%) 1名( 1.5%) 23名(39.6%) 35名(60.3%) 0名 0.370 育児手伝いの有無   手伝いあり   手伝いなし 122名(98.3%) 2名( 1.6%) 65名(98.4%) 1名( 1.5%) 57名(98.2%) 1名( 1.7%) 0.927 (χ2検定)

(5)

児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連 (3)育児不安の内容について  ①困ったこと  実際に困ったことについて,完全母乳栄養法の 女性群では,「児の成長発達・育児全般について」と 「上の子との関係について」が23.3%と最も多く,次 に「自分の心身について」が20.0%であった。また, 混合・人工栄養法の女性群でも,「児の成長発達・ 育児全般について」が41.6%と最も多く,次に「お っぱいについて」が20.8%であった(図1)。  ②不安なこと  不安なことについて,完全母乳栄養法の女性群で は,「児の成長発達・育児全般について」が42.3%と 最も多く,次に「おっぱいについて」が,26.9%であ った。また,混合・人工栄養法の女性群でも,「児 の成長発達・育児全般について」が41.6%と最も多 く,続いて「自分の心身について」が33.3%であっ た(図2)。 2 ) 対児感情について (1)児への栄養法別による接近得点との関連につい て(表4)  完全母乳栄養法の女性群の接近得点の平均は28.3 (SD6.7),混合・人工栄養法の女性群の接近得点の平 均は27.2(SD7.7)であった。両群の接近得点の平均は, 完全母乳栄養の女性群の方が,混合・人工栄養の女 性群より1.1高いという結果が得られたが,接近得点 との関連についての有意差は認められなかった(p= 0.510)。 (2)児への栄養法別による回避得点との関連につい て(表5)  完全母乳栄養法の女性群の回避得点の平均は6.3 (SD4.1),混合・人工栄養法の女性群の回避得点の平 均は7.7(SD4.9)であった。両群の回避得点の平均は, 完全母乳栄養法の女性群の方が,混合・人工栄養法の 女性群より1.4低いという結果が得られたが,回避得 点との関連についての有意差は認められなかった(p =0.080)。 表2 各群における育児不安得点 (N=124) 平均値(SD) t値 p値 95%CI 下限 上限 完全母乳栄養法の女性群 (n=66) 33.3(SD=4.3) ­3.765 <0.001 ­4.595 ­1.428 混合・人工栄養法の女性群 (n=58) 36.3(SD=4.5) t検定 表3 栄養方法と育児不安度のクロス表 育児不安度 合計 高い 低い 栄養方法 完全母乳栄養法の女性群 15 26 41      混合・人工栄養法の女性群 24 10 34 合 計 39 36 75 χ2値=8.610  p=0.005  χ2検定 50 40 30 20 10 0 % 割   合 児の成長発達・育児全般 上の子との関係について 家族との関係について 自分の心身について おっぱいについて 家事について ■ 完全母乳栄養法の女性群 □ 混合・人工栄養法の女性群 50 40 30 20 10 0 割   合 % 児の成長発達・育児全般 上の子との関係について 家族との関係について 自分の心身について おっぱいについて 相談相手について ■ 完全母乳栄養法の女性群 □ 混合・人工栄養法の女性群 図1 困ったこと 図2 不安なこと

(6)

(3)児への栄養法別による拮抗指数との関連につい て(表6)  完全母乳栄養法の女性群の拮抗指数の平均は23.1 (SD15.6),混合・人工栄養法の女性群の拮抗指数の 平均は33.9(SD31.8)であった。両群の拮抗指数の平 均は,完全母乳栄養法の女性群の方が,混合・人工栄 養法の女性群より10.8低いという結果が得られ,拮抗 指数との関連について有意差が認められた(p=0.039)。

Ⅴ.考   察

1.育児不安について  完全母乳栄養法を行っている女性群の方が,混合・ 人工栄養法を行っている女性群より育児不安が低かっ たという結果より,母乳育児は出産後の母親の育児不 安軽減に対して,有効性があるということが明らかに なった。  産後の育児不安の内容として,桑原(2007)は,「母 乳育児に関すること」「睡眠不足」「孤独感」「上の子と の関係」「夫の育児態度」「個人としての生活が奪われ ることへの脅威」の大きく6項目に分類されることを 明らにしている。また,関島・齋藤・木村他(2006)は, 育児不安の内容として「児の皮膚トラブル」「母乳不足 いうことがあると報告している。  本研究においても,実際に困ったこと,不安なこと の内容について「児の成長発達・育児全般について」 や「おっぱいについて」「自分の心身について」「上の子 との関係について」という回答が多くみられ,先行研 究と同様の結果が得られ,産後1ヶ月頃の母親は,様々 な不安を抱いているということが明らかとなった。ま た,炭谷・成瀬(2005)は,育児に対する不安は,細 かなことが解消されても次々と生まれてくるものであ り,育児者自身がその不安に対して対処行動をとれる ようになる必要性を報告している。  育児不安軽減に対して,児の成長・発達の評価を含 めた適切な母乳育児支援や母児の健康状態,周囲の人 との関わりについてのサポートや育児不安に対して母 親が対処行動をとれるようになるための支援体制の整 備が重要だと考える。  シャスティン・ウヴネース・モベリ(2008)は,授 乳をすることにより,母親の血圧やストレスホルモン であるコルチゾールの血中濃度を下げ,深い心理的安 らぎをもたらし,オキシトシン作用により,落ち着き とくつろぎを増すと述べており,堺(2004)は,授乳 により,母子の基本的信頼関係が樹立され,オキシト シン分泌によって,不安,ストレスの少ない,ゆった りとした育児を楽しめると報告している。  つまり母親は,満足のいく母乳育児を実践すること により,母乳育児という不安が一つ解消され,自己肯 定感や満足感が高められる。そして,児と一対一で向 き合い,児を愛しい存在であると認識し,ホルモン分 泌の影響も加わり,日常感じているストレスや不安が 軽減されるのではないかと推察される。よって,母乳 育児を行うことにより,育児不安軽減の要因の一つと して支持されると考える。 2.児への栄養法別による対児感情について  完全母乳栄養法を行っている女性群の方が,混合・ 人工栄養法を行っている女性群より児を肯定的に受容 することができるという結果より,母乳育児は出産後 の母親の愛着形成に対して,有効性があるということ が明らかになった。  花沢(2008)によると母乳を与えるという体験は, 児を肯定的に受け止めることができ,対児感情に影響 を及ぼすことを明らかにしている。本研究においても, 完全母乳栄養法の女性群 (n=66) 28.3(6.7) 0.51 混合・人工栄養法の女性群 (n=58) 27.2(7.7) Mann-Whitney検定 表5 各群における回避得点(対児感情) (N=124) 平均得点(SD) p値 完全母乳栄養法の女性群 (n=66) 6.3(4.1) 0.08 混合・人工栄養法の女性群 (n=58) 7.7(4.9) Mann-Whitney検定 表6 各群における拮抗指数(対児感情) (N=124) 平均得点(SD) p値 完全母乳栄養法の女性群 (n=66) 23.1(15.6) 0.039 混合・人工栄養法の女性群 (n=58) 33.9(31.8) Mann-Whitney検定

(7)

児の栄養法別による育児不安および対児感情の関連 完全母乳栄養法の女性群の方が混合・人工栄養法の女 性群よりも児に対して,肯定的・受容的な感情が高い という結果が得られ,既存の研究と同様の結果となっ た。また,坂口・大平・市川他(2006)は,母児間の スキンシップを行うことにより,母親は児に対し,肯 定的な感情を抱くということを明らかにしており,堺 (2004)は,母乳育児において,母と子が見つめあう ときに相互の感性が育まれ,母は母性が育ち,児は母 親への愛着を強め,母乳育児はスキンシップそのもの であると報告している。そして,本郷(2009)は,乳 房を吸われることで生産されるホルモンには,愛情や 信頼形成に関係のあるものや,動物実験により子育て 行動を活発化させるものがあると述べている。  母乳育児を実践することにより,児を胸に抱き,そ の肌のぬくもりや優しい声,ほのかな甘い匂いなど, お互いの存在を確かめ合うことができ,その心地よさ を実感することにより,児への愛着形成に関与するの ではないかと考える。母乳育児は,出産後の母親にと って,児を抱きながら,児を見つめたり,児に触れた りとスキンシップの場である。よって,母乳育児を行 うことにより,児を肯定的,受容的な存在として認識 するための要因の一つとして支持されると考える。 看護への適用と提言  母乳育児支援がよりよくあるために,支援者の現状 の問題として,母乳育児支援のための知識や技術,支 援意識は十分ではないということがある。また,産後 1ヶ月頃の母親は,様々な不安を抱えており,その不 安の一つとして,母乳育児に関することがあるという ことが明らかにされている。  本研究の結果から児の栄養法別による育児不安およ び対児感情について関連がみられたことにより,産後 の母児に関わる支援者は母乳育児の重要性を再認識し て,母乳育児に対する支援意識や知識,技術の向上が 望まれる。一方,母乳育児を行っていても,困ったこ とや不安なことがあるという結果が得られたことより, 適切な母乳育児支援のための継続的なフォローの重要 性が示唆された。周産期に関わる支援者は,母乳育児 の重要性を再認識すると同時に母親の気持ちを傾聴し, ファシリテートすることによって,母親が自信を持っ て母乳育児ができるように支えていくことが重要であ る。

Ⅵ.結   論

1 .児への栄養法別による育児不安について,完全母 乳栄養法を行っている女性群の方が,混合・人工栄 養法を行っている女性群より育児不安が低かった。 2 .児への栄養法別による対児感情について,児に対 する接近得点と回避得点には,有意差があるとはい えなかったが,拮抗指数において,有意差がみられ, 完全母乳栄養法を行っている女性群の方が,児に対 する肯定的,受容的な感情が高かった。 謝 辞  本研究の趣旨をご理解いただき,快く質問紙調査に ご協力くださいました褥婦の皆様方に心から感謝を申 し上げます。また,研究へご支援,ご協力下さいまし た看護師長はじめ,病棟スタッフの皆様に心から感謝 いたします。なお,本研究は武蔵野大学通信教育部の 卒業論文の一部である。 文 献

Akman, I., Kuscu, M.K., Yurdakul. Z., Ozdemir. N., Solako-glu. M., Orhon. L., et al (2008). Breastfeeding dura-tion and postpartum psychological adjustment:Role of maternal attachment styles. Journal of Paediatrics and

Child Health, 44(6), 369-373. 花沢成一(2008).母性心理学.65-79,東京:医学書院. 本郷寛子(2009).母乳と環境 安心して子育てをするた めに.56,東京:岩波書店. 厚生労働省(2007).授乳と離乳の支援ガイド.5-7,厚生 労働省. 桑原勲(2007).当院出生児のフォローアップと育児不安 への対応.近畿新生児研究会会誌,16,31-35. 前原邦江,森恵美(2005).産褥期における母親役割の 自信尺度と母親であることの満足感尺度の開発̶信 頼性・妥当性の検討̶.千葉大学看護学部紀要,27, 9-18. 牧野カツコ(1982).乳幼児をもつ母親の生活と〈育児不安〉. 家庭教育研究所紀要,3,34-56. 大村典子,光岡攝子(2006).妊娠期から生後1年までの児 に対する母親の愛着とその経時的変化に影響する要因. 小児保健研究,65(6),733-739. 坂口けさみ,大平雅美,市川元基,大久保功子,阪口しげ 子,本郷実他(2006).母児間スキンシップが母子相

(8)

互に及ぼす生理・心理的影響.母性衛生,47(1),190-1411-1413. 関島英子,齋藤益子,木村好秀,菱沼久子(2006).1ヵ月 の乳児をもつ母親の健康感と対児感情に関する検討. 母性衛生,47(1),62-70. 安らぎの物質.126-138,東京:晶文社. 炭谷靖子,成瀬優知(2005).3・4ヵ月乳児集団健診前後の 母親としての自信と対児感情の変化に関連する要因. 母性衛生,46(2),310-319.

参照

関連したドキュメント

保育所保育指針解説第⚒章保育の内容-⚑ 乳児保育に関わるねらい及び内容-⑵ねら

○社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する 苦情解決の仕組みの指針について(平成 12 年6月7 日付障第 452 号・社援第 1352 号・老発第

旧法··· 改正法第3条による改正前の法人税法 旧措法 ··· 改正法第15条による改正前の租税特別措置法 旧措令 ···

在宅の病児や 自宅など病院・療育施設以 通年 病児や障 在宅の病児や 障害児に遊び 外で療養している病児や障 (月2回程度) 害児の自

この問題をふまえ、インド政府は、以下に定める表に記載のように、29 の連邦労働法をまとめて四つ の連邦法、具体的には、①2020 年労使関係法(Industrial

平成 支援法 へのき 制度改 ービス 児支援 供する 対する 環境整 設等が ービス また 及び市 類ごと 義務付 計画的 の見込 く障害 障害児 な量の るよう

育児・介護休業等による正社

日本全国のウツタインデータをみると、20 歳 以下の不慮の死亡は、1 歳~3 歳までの乳幼児並 びに、15 歳~17