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我が国における高大連携の変遷と今後の展望

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Academic year: 2021

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要旨  我が国の教育は日進月歩である。中でも高校生に大学が高度な知識・経験を提供する高大連携という取り 組みが始まって久しい。高校と大学の学び方には大きなギャップがあり,現代の多様な高校生の多くはその 壁に苦しむ。そこで,高校生のうちに大学教員の授業を受け,大学生が行うような学習を経験させる取り組 みを高大連携で行うことにより少しでも大学での学習スタイルに慣れ親しんでもらおうという狙いの下,高 大連携が始まった。もちろん興味のある分野や将来への展望を抱いてもらうことも目的の一つである。国内 でも多くの高校・大学がそれぞれの特色を生かした独自の連携を行っている。21 世紀における連携を通し た教育について考察を行った。 キーワード:高大連携,教育,自主性,モチベーション,先取り

Ⅰ.高大連携とは

1.高大連携の現代までの歴史と取り組みの内容  昨今,高大連携という単語を耳にするようになった。 戦後になり我が国の教育水準は上昇しており,一昔前 では考えられなかった現象である。字のごとく高校と 大学の連携という事は推察できるが,一体どのような 取り組みがなされているのだろうか。高等学校・大学 の双方が,後期中等教育機関・高等教育機関としてそ れぞれ独自の目的や役割を有していることを踏まえつ つ,高等学校と大学との接続を柔軟に捉え,生徒一人 一人の能力を伸ばすための,高等学校・大学双方が連 携した教育の在り方について考察したい1)  中高一貫教育や現行学習指導要領の実施等により高 等学校の多様化と選択の幅の拡大は更に進展している。 時は遡り 1999 年 12 月の中央教育審議会答申『初等中 等教育と高等教育との接続の改善について』の提言の 影響もあると言えよう。多様な学習履歴を持つ高校生 が増え,大学の多様化や個性化が進んだことを受けて, 高校生が大学レベルの教育内容を履修する機会を拡大 することが求められた2)。この結果,特定の分野につ いて高い能力と強い意欲を持ち,大学レベルの教育研 究に触れる機会を希望する生徒の増加が予想される。 このような生徒の能力・意欲に応じた教育の実現を目 指していくためには,「高等学校教育」あるいは「大 学教育」のいずれか一面のみから論ずるべきではな い3)。以上のような考えから生まれた取り組みが現代 の高大連携である。  他にも要因は考えられ,1 つは,少子化による 18 歳 人口の減少に伴った進学状況の変化が挙げられる。大 学の数に対して入学対象となる青年は減少の一途を 辿っている。大学側は入学者の減少を恐れ,定員確保 のために入試のハードルを低くした。その結果,あま り勉強しなくても大学に入学できる状況が生まれ,高 校生の学習意欲が低下しはじめたのである。そこで, 大学の魅力を紹介することで大学進学へのモチベー ションを高め,学習意欲の向上につなげようとした動 きが高大連携に表れているとも指摘できる4) 2.高大連携のメリットとデメリット  生徒が興味のある分野について深く知ることが出来 る,将来の展望に有用など一見してメリットばかりが

我が国における高大連携の

変遷と今後の展望

より自主性を尊重する教育へ

The Journal of Economic Education No.37, September, 2018

Transitions and future prospects of linking secondary and higher education in japan: Toward education valuing more independent thinking

KAWAI, Hiroyuki

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目立ちがちな高大連携であるが,物事には当然デメ リットもある。高大連携の良さと気を付けるべき事項 について本節では解説したい。  まずは,高大連携の主目的である「学生にとって興 味のある事柄を突き詰め,より深い部分まで学べる機 会を与えられる」という最大のメリットを挙げたい。 高校で学ぶことが出来る範囲には設備・機能的にどう しても限りがある。大学にしか出来ない経験を良い意 味で「先取り」することは高校生の勉強のモチベー ションの向上にも繋がると予測される。例えば,獣医 師の夢を抱く高校生にとって,座学で高校の授業を受 けることは大学入試の勉強になっても,自らの夢に直 結する学習とはイメージしにくい部分がある。しかし, 実際に獣医学部に見学に出向き,動物と触れ合い,現 役の大学生から話を聞くことは貴重な経験となる。高 校の教科の知識が大学に入っても役に立つ,現在高校 で行っている勉強は決して無駄にはならないと理解で きれば,彼らの勉強に対する姿勢にも変化が出てくる だろう。図 1 にあるように,高大連携では高校と大学 を入試で接続するのではなく,教育で接続することが 求められる。教育による接続は,自ら学ぶ上でモチ ベーションの維持にも繋がる。このように,自身の将 来を見据える若者に個性を尊重しつつ自主的に学ぶ機 会を与えることは,教育上有用と言える。  また,教育者の立場から考えると教育機関同士の結 びつきが強まるというメリットが挙げられる。もとも とは 1 大学と近隣の 1 高校との連携が多かったが,次 第に,複数の大学と複数の高校が結び付くようになり, 今日では,地元教育委員会が間に入って県や地域全体 のすべての大学と高校が連携しあうケースも増えてき ている。まさに点から線,そして面への展開が急速に 進んでいるといえよう5)。教育の在り方は施設により 様々であり,一つの施設での教育に携わっていると新 たな変化を取り入れづらい部分もある。高大連携に よって別の施設との関わりを持つことで,教育者自身 も新たな視点に気づくことが出来るのだ。特に高校の 次のステップである大学との連携を行うことから,大 学に入っても役立つ授業や,今後の学びに活かせるよ うな知識の提供をより模索することも可能となる。図 1 のように教育により接続されるのは,生徒だけでな く教える側もだという事が出来る。  このような新しい高大連携の取り組みは,地域貢献 としての役割も期待されるようになっている。かつて のように 1 大学と近隣の 1 高校との連携であれば,高 校にとってもその大学への志願者が多いケースが大半 なので,大学側もその高校と密接な関係を保ちながら, その成果を学生募集に直接生かすこともできた。しか し,線や面での連携としてお互いの連携対象が広がっ てくると,むしろ地域全体の高校や高校生の活性化を 目的とした地域貢献策としての高大連携の在り方が模 索されるようになってきている7)。その地域だからこ そ提供できる教育を提唱することで,入学者の増加も 高校生 (志願者) 「入試接続」から 「教育接続」へ カリキュラムと学びの 相互の接続・連携 溝(chasm) 入試 機能 (入学者) chasm大学生 エリート エリート 自力 自力 高 校 高 校 学大 大 学 エリート 選抜 高校生 (志願者) 入試機能 (入学者)大学生 chasm 大衆 *必要となる「学習支援」  高校教育の多様化を理解した設計のFD  授業内外での学習支援、入学前教育、初年次教育、  リメディアル教育、学習サポート等 「学習支援」* 接続 大衆 選抜 大衆 図 1 高大接続教育の構造と高校と大学間の溝6)

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期待することが可能である。  これは大学の外部評価の一形態と見なすこともでき る。高大連携に参加した高校生から,面白い授業をし ているという評判が立てば,学生募集に大きなアドバ ンテージとなるからだ。たとえ逆の評価を受けたとし ても,それはそれで貴重な改善勧告を受けたことにな る。また,高校生が何を望み,どんな授業を欲してい るのかを知るヒントが得られれば,大学の授業に生か すことができ,学生の満足度が高い授業ができる。つ まり,高校生をリサーチすることによって,大学の授 業の魅力を高めるためのノウハウも蓄積できる。そう 考えると,高大連携は大学にとっても大きなメリット があるといえよう8)。オープンキャンパスといった高 校生を対象にしたイベントを除き,大学が多くの若い 高校生からの視点で評価される機会はなかなか希少で ある。大学側も若い世代がどのようなことに興味を抱 いているか知り,自大学への期待をリアルタイムに尋 ねられる貴重な機会となるだろう。  さらに,高校生と大学生が関わることで大学生にも 良い影響がある。例えば,とある高校では大学生が高 校生を指導し,大学で習った知識を還元するという高 大連携を行っている。人に何かを教えることで,自身 の知識の強化にも繋がり,大学生側のモチベーション の向上にもなる。まだ経験の浅い大学生にとって,歳 の近い高校生を指導することは貴重な体験となると 言っていいだろう。高校生も年代の近い大学生に指導 されることで,自分の近い将来をリアルに描くことが 出来るはずだ。  そして,高大連携が広まっていく中で気を付けるべ き点は,あくまで「生徒の能力を伸ばすための取り組 み」という所である。高校生が大学レベルの教育研究 に触れることは,一般的に非常に能力の高いことと見 なされ,決して多数派ではない。難しい教育を若いう ちに受けることにより,逆に自らの能力に限界・不安 を感じてしまう高校生も存在しうるところをしっかり と留意しておきたい。高大連携が広がる一方で,その 波についていけず劣等感を感じる生徒の発生が予測さ れる。場合によっては,各教育機関にメンター等の相 談体制を整備することが必要と考えられる9)。また, このようなリスクを避ける上で,高校生に対して大学 レベルの教育研究に触れる機会を与える際には,その 内容に応じて,対象者の選抜・絞り込みを行うべきも の,ある程度対象者を広く設定してよいものに分けて 考える必要がある。例えば,大学の科目等履修生とし て高校生を受け入れる際には,その成果に対して大学 の単位が与えられることから,対象となる高校生が該 当する授業科目を履修するに相当の学力を有している か等について,適切に審査することが必要である10) 高等教育を受けるためにはある程度の学力で線引きを することは致し方ないと言えよう。ある種の選抜は生 徒同士の競争心を煽り,学習のモチベーションの向上 に繋がる可能性もあるが,ここでも同時に自身の能力 に失望する学生が発生する可能性には言及しておきた い。  個々の生徒のニーズや能力・意欲を踏まえることな く,一律に大学レベルの教育研究に触れる機会を与え るような取組は,高大連携の趣旨に反し,本来の目的 を達成することが困難と考えられる。高等学校教員及 び大学教員双方が連携しつつ責任を持ち,個々の生徒 の能力・意欲の把握を行うことが不可欠であり,その ための識見が高大連携を実施する高等学校教員・大学 教員に求められる11)

Ⅱ.日本における高大連携の具体的な内容

1.立命館大学の入学前教育プログラムを通し た高大連携  前章では高大連携の流れやシステムについて述べて きた。本章では我が国で実際にどのような高大連携が 行われているかについて述べる。  立命館大学は,2009 年 4 月に高大接続教育システム の開発,リメディアル教育,初年次教育の全学的支援 等を行うことを目的に,教育開発推進機構の中に接続 教育支援センターを設置した。同大学における高大連 携を兼ねた入学前教育プログラムは,入学者の約 25% (1,650 名程度)を占める特別入試合格者(附属・提携 校を除く)を対象に 2001 年度からと比較的早い時期 より実施している。これら合格者は,早期に大学に合 格することで基礎的学力の維持・向上,学習習慣の定 着に課題を残す危険性が指摘されている。また,進学 する学部に必要な教科の学習履歴を持たない合格者も 一定存在する。実施期間は,合格時から入学前までの 4 〜 5 カ月に跨り,各学部と入学センターとが連携し て全学一斉に実施している。その目的は,「基礎学力 の定着と維持・向上」,「学習習慣の維持・継続・定 着」,「入学後の大学・学部教育との接続の実質化」で ある12)。早期に進路が決まってしまうからこそ発生す る問題を,入学者を対象にカバーしているこの取り組 みは見事と言わざるを得ない。大学で学習する事柄の

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具体的なイメージや展望を掴んでおくことは,高校生 にとってプラスになるだろう。  そして,2011 年度からは,これに加えて,特別入 試合格者の多くが同大学への志望動機の高い層である ことや,高校までの様々な活動を通じて特定の能力を 有するリーダー層であるという積極面を踏まえて, 「入学後に,その成果や能力を活かしてリーダー的役 割を発揮し,学びのコミュニティー形成の核となる」 ことを目的としている。取り組み状況であるが,2011 年度の実施結果から,入学前学習おいて必須課題と いった最低限の学習以外取り組まない,また何を勉強 したらよいか分からないという入学予定者が一定数存 在し,主体的な学びの姿勢に課題を残したまま入学し ているということが判った。この結果を踏まえ翌年の 2012 年度は「学びの自己省察」の促進とともに,「高 校と大学の学びの繋がりと転換の理解促進」について より理解が深まるよう改善を図っている13)。これこそ まさに高大連携の中核となる目的であって,入学前か ら連携を取り学習への不安を払拭しておくことはモチ ベーションの維持にも繋がるだろう。 2.文京学院大学の高大連携への取り組み  文京学院大学では,高等学校の新課程の導入に伴っ て高校生の「生きる力」をはぐくむ「総合的な学習の 時間」に,同大学の研究教育を還元していこうとする 試みを実施している。人間科学部では大宮開成高校, 浦和学院高校と連携して,高等学校の総合的な学習の 時間に大学内で福祉,心理の講座を開催して高校生に 受講させている14)。昨今は福祉・心理系の職業が医療 ドラマなどを通してメディアで多く取り上げられ,若 い世代の中でも関心が高い分野の一つである。大学で 学ぶ専門的な知識を「先取り」出来て喜びを感じる生 徒も多そうだ。  同大学では高等学校の教養講座,文化講座,特別講 座などに,学校の教授陣が出張して講義を行っている。 学長を始め,教授陣の講義内容を一覧にしたリーフ レットを各高等学校に配布し,希望があれば出張して 講義する。費用は大学サイドが負担しており,高校生 が受講しやすい仕組みになっているのもポイントの一 つだ。毎年年間 30 校程度の高等学校へ大学教員が出 張して講義している。2011 年度は関東圏内の高等学 校から依頼があり,実施した出張講義は 30 件であ る15)  また,高校教員を対象としたワークショップ・ フォーラムを高大連携の一貫として行っている。高校 教員,高校生を対象にして,各学部の特色ある教育を, グループごとに分かれて学ぶ高大連携講座である。 2010 年度も高等学校の教員を対象としたフォーラム を実施しており,大学の最新の教育情報を高等学校の 各教科の先生に公開している16)。同大学のこの取り組 みにおいて注目すべきは高校教員も対象としている点 である。大学で学ぶような専門的な知識は,自身が履 修した経験がないと大人でも理解に時間がかかるのが 通常である。生徒と共に高校教員にも受講の幅を広げ ることで,知識の共有が出来,生徒が興味を抱く分野 を高校教員が把握することに繋がる。同分野の講義を 再度依頼することに繋がり,ひいては高大連携の質を 上げる事にも繋がると考える。デジタルコンテンツ, コミュニケーション社会,スポーツコンディショニン グなど特色としている教育のエキスをコンパクトにま とめて学習できる機会が設定17)されており,総合大 学だからこそ可能な幅広い知識の提供を高校生・高校 教員へ行っている。  文京学院大学では高校が併設されており,高大連携 の一貫として,定期的に講座を開く取り組みを行って いる。大学のユニバーサル化時代を迎えて,中等教育 と高等教育との連携が特に重要になってきている。同 大学では,併設文京学院大学女子高等学校と連携して, 毎月委員会を開催し,多くの連携プログラムを展開し ている。高大接続教育の重要性に鑑み,その充実に向 け,数理力,英語力,言語力・論理的思考力(国語と 社会の学際領域)をテーマに,将来社会で求められる キャリアも視野に,高校の各教科担当と 4 学部の教員 による高大交流研究会を開催し,研究会を通して明ら かになってきた有用な基礎力を修得する「高三生プロ グラム」を進めている。大学においては,入学前に大 学の単位取得を前提とした大学レベルでの授業設定に よる「特別プログラム(単位認定講座)」,いわゆるプ レ入学を実施している。また,高二の時点で早期にガ イダンスを行い,併設高の卒業生と教員がそれぞれの 学部・学科・専攻の生きた情報・魅力を伝えて進路決 定に役立てている18)。教員同士の交流を深め,互いの 知識・経験を教育に還元できる場所を設けられるのは 併設高校の強みである。このように高校生のみならず, 高校側にも大学側にとってもメリットのある取り組み を推進している。さらに併設高校だけでなく,文京学 院大学の取り組みに賛同する他の高校との連携プログ ラムも計画中である19)  また,地域の高等学校と連携し,質の高い「環境教 育」プログラムを高校生に提供する活動も同大学は

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行っている。例えば,埼玉県立ふじみ野高校と連携し た本プログラムは毎年 12 月に 1 年生 150 名ほどが大学 を訪れ,大学教員だけではなく大学生が指導者となり 実施される事業である20)。このような活動は高校生だ けでなく,大学生側にも大きな成長の機会となる。年 の近い高校生に自ら指導をすることで,知識をより深 めるきっかけともなり,貴重な経験を積むことが可能 となるだろう。 3.立地を生かした広島県立賀茂高等学校の特 色溢れる高大連携  東広島市に立地する広島県立賀茂高等学校は,「最 新の知にあふれる賀茂高校」という将来像を掲げてい る。同高校は広島大学から約 4km という地の利を生 かし,広島大学をはじめとする県内大学による公開授 業・公開講座の受講や,「広大進学ゼミ」といった課 外活動を実施している21)。地域の中核となる大学が近 隣にあればこそ可能なこの連携であるが,双方の学校 の連携が始まって長く経つのである。  賀茂高校と広島大学との交流は 10 年以上前から始 まり,理科分野を中心に,同校教員が大学時代に所属 していた研究室に生徒を連れて訪問したり,大学教員 に出張授業を行ってもらうなどの取り組みを行ってい た。そして 2001 年度からは,広島県教育委員会との 協定によって広島大学が高校生を対象にした「公開授 業・公開講座」を開始し,これを機に,賀茂高校でも 生徒に,広島大学をはじめとする県内の大学の「公開 授業」や「公開講座」への参加を促している。校内で は受講を高校の卒業単位として認定する仕組みを整え, 毎年70〜100名程度の生徒が参加している。単位認定 するにあたっては,レポート作成や他の生徒の前での プレゼンテーションが課され,約 85%程度の生徒が 単位を認定されている22)。高校のような受動的な学習 ではなく,大学生になってから行うレポート作成やプ レゼンテーションなど自主的な学習を評価するのがこ の連携のポイントとも言えるだろう。大学生になった 時に多くの学生は勉強方法に苦戦するが,高校在学中 にこのように「先取り」した経験を積めることは生徒 にとって非常にメリットとなる。  また,教員自身が好奇心を持って,大学と接点をも ちながら,生徒のモチベーションを高めるような仕組 みをつくるべきではないかという気運が高まり,2005 年度からは広島大学の学部との接続を意識した,『広 大進学ゼミ』と名づけた活動を始めている。各ゼミは, ゼミ活動に意欲のある,各領域に専門性を持つ教員が 担当する。活動は部活動と同等に位置づけられている ため,教員がゼミ活動のために学外に出かける場合は 出張扱いとなり,生徒の活動が授業と重なる場合は公 欠扱いとして,活動がスムーズに進むよう,校内の体 制を整えている23)。生徒だけでなく,それを支える教 員のサポート体制もしっかりと整えている点には感心 した。教員の働きやすい環境があってこそ,より良い 教育の提供が可能となる。 4.高大連携が広がるからこそ生じる問題  高大連携が活発になると同時に,それらを目的とす るビジネスが生まれている現状がある。高大連携が始 まった当初は,高校教員が大学教員と個人的につなが りをもち,両者の理解と努力に負う形で,高大連携の 活動が行われてきた。しかし,現在では高大連携を仲 介する業者が登場している。業者は,高校側に模擬授 業の企画を持ちかけ,それが成立すると,複数の大学 にファックスを送って大学教員の派遣を依頼する。業 者への手数料は一部の大学が負担するため,高校に費 用負担はなく,高校側で講師を探す手間も省ける。大 学も自らの魅力をアピールする機会として利用できる 24)。全国には多くの高校,大学があり,それぞれが求 める教育をマッチングさせるのは至難の業と言えよう。 このようなシステムがあれば,より早く双方の希望を 合わせることが出来,高大連携の促進にも繋がるとも 考えられる。しかし,高校,大学共にメリットしかな いようなこのビジネスであるが,同システムには高大 連携のメリットを打ち消してしまう大きな問題が隠れ ている。  それは,本来高大連携のメリットであった教育者同 士の交流が希薄化してしまうことである。学生の興味 のある分野の講義を学校側が提供できるのに変わりは ないが,事前に高校と大学同士で打ち合わせが出来な いことに講義者サイドも不安を覚えるだろう。高校側 が求めているものと,大学側が提供しようとしている ものに相違が生じる事態は決して珍しくない。日頃か ら専門的な分野に携わっている大学の講義者からする と,どの程度まで高校生が難解な講義を理解できるの か把握するのは容易ではない。事前に高校側に確認し ておき,内容の摺合せをしておくことが重要ではない か。一旦,こういうシステムが出来上がってしまうと, それが当たり前になってしまい,高大連携の活動だと いう意識が薄れてしまう恐れがあると,内村(2009) は危惧しており,これは一種のデメリットにもなり得 る。内村(2009)は「業者から大学に送られてくる

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ファックスは,模擬授業の分野と集合時間などが記載 されただけの,ごく事務的なものです。その高校が模 擬授業を実施する目的やその必然性についての詳しい 説明はありません。連絡先も模擬授業を行う高校では なく,業者宛になっています。業者からファックスを 受け取った大学の担当職員は,それを学内の教員に割 り当てます。このようにして大学から高校に派遣され ることになった大学教員は,高校側との事前の打合せ や情報が全くないままに,授業を準備して行う以外に 方法がないわけです」と話す25)  また,高校側には,進学意識を高めるためなどの理 由から,高大連携を進めなければならない状況がある ことも指摘できる。そのような状況から判断すると仲 介業者の存在は非常に魅力的であるが,この場合は進 路指導部などが模擬授業を受け入れることが多いとさ れる。その際,日頃の授業を担当している高校教員は 模擬授業の内容には全く関知せず,大学側に「丸投 げ」になることがほとんどである26)。教員の日常業務 が多忙であることも昨今問題になっているが,丸投げ になってしまう現状は喜ばしいことではない。内村 (2009)は「つまり,高校教員の頭越しに,大学教員 の模擬授業が行われているわけです。その結果,現場 の高校教員としては,模擬授業は進路指導部や業者が 行うイベントであり,大学教員は自学の宣伝のために 来ているのだろうという意識になりがちです。大学教 員が高校を訪問した際にも,積極的に関わろうとしま せん。このような,高校教員と大学教員が何の接点も ない高大“連携”が増えているのです」と指摘する27) 実態が伴わない形だけの高大連携では,はたして本当 に教育を提供できていると言えるのかいささか疑問を 感じる。高大連携が全国的に広まってきている現代だ からこそ生じてしまう,ある意味では嬉しい悩みとも 言えるが本来の連携の意味をしっかりと見直しておく 必要があるだろう。

Ⅲ.今後我が国にあるべき高大連携の姿とは

1.高大連携を促進するにあたり必要な教員養 成について  前章まで,我が国において行われている高大連携の 具体例を紹介した。大学入学前の高校生を対象とした 取り組み,高校初期より大学の講義に触れる取り組み など各学校の長所・強みを生かしたものであった。高 大連携について考察するうちに,今後は高校生のみな らず,高校教員を対象とした高大連携の取り組みもま すます重要になってくる28)であろうと予測される。  「文教学院大学の高大連携への取り組み」にて述べ たように,大学に併設している高校の場合は大学との 連携が取りやすい。このような学校の多くは敷地が近 いこともあり,教員同士の交流の場も必然的に増える。 一般的に,大学は従来のように進路指導部の高校教員 とのみパイプづくりをしていても,高大連携の輪はな かなか広がりにくいのが現状と言える。例えば出張講 義の場合,受け入れの決定権は学年の教員が握ってい るケースが多いからだ。また,高校全体としての取り 組みにしていくのであれば,管理職教員の了解なしに は進まない。さらに県全体としての取り組みにするの であれば,県教育委員会の協力が不可欠となる29)。生 徒の細やかな要望を把握している教員がいても,高大 連携において決定権があるわけではないのだ。  また今後,高大連携を推進するに当たって高校サイ ドでは,より知識の幅の広い教員を養成することも必 要になってくる。高校生が求める分野,興味のある事 が分かっても,それに適した講義を見つけ,提供でき ない限りはより良い高大連携とは言えない。つまり, 膨大な大学講義の中から必要な情報を取捨選択する能 力が教員には求められると考える。情報を選ぶために はある程度の教養・知識が備わっていることが必要で あるため,高校は教員の教育にも力をいれるべきであ ろう。  ここまで,大学側が知識・体験の提供を行い,高校 側が享受するという記載を行い高大連携について考察 してきたが,高校と大学の教員は生徒を送り出す側と 受け入れる側という違いがあるだけで,教育に関して は対等であるという意識を持つ30)ことも重要である。 それぞれの専門性の違いこそあれど,教育という同じ フィールドに立つ仲間である。当たりまえの事である がしっかりと心に留めて,より良い連携を模索すべき であろう。 2.21 世紀の高大連携の在り方  長々と高大連携について述べてきたが,このような 活動は 21 世紀初頭になり生まれたばかりの取り組み である。まだまだ成長盛りの高大連携は,これからの 時 代 ど の よ う な も の で 在 る べ き だ ろ う か。 内 村 (2009)は「それは,高校までの学びと大学での学び には,質的な違いがあり,大きなギャップがあるとい うことです。学び方のスタイルについても,高校まで は先生から正解を教えてもらうという『Teaching』 が中心であるのに対して,大学では学生たちが主体的

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に学ぶという『Learning』が中心になります」と述べ ている。このような高校と大学間のギャップは,従来 から存在しており,大学生には自力でそのギャップを 乗り越えることが求められ,実際に今までは可能で あった31)。しかし,現在のように多様化した学生を抱 える場合は,一人一人がそれぞれ高校と大学のギャッ プに対応することが困難になってきている。高校まで の間,受動的な学習を長年続けてきた学生たちにとっ て,短期間で自主的に探究する学習スタイルに変換す ることは困難だ。大学は高校と異なり,クラスの人数 も増え,担任との距離も遠くなる。学習の進め方に 困っていても身近で指導してくれる存在を見つけるこ とが難しい状態にある。  しかし,このように高大連携の取り組みが広がる一 方で,いまだに高校教員の間には,大学側は単なる受 験生集めの手段としか考えていないのではないかとい う根強い不信感があると聞く。そして大学側も,せっ かく高校生にとって有意義な授業を企画・広報しても, 大学の知名度が低いという理由で断られたりするケー スも多いと嘆く32)。高校生が特定の分野に興味を抱き, 高大連携をきっかけとして結果的にその大学を受験す ることになっても,生徒の自主性を尊重した教育が成 された証拠だと言えるのではないか。高校教員が大学 に不信感を抱き,高校生の学習の機会を奪ってしまう 事態は非常に嘆かわしいものである。  今後の高大連携の取り組みを「高校生,高校,大学 の三者にとってハッピーなものにする」ためには,高 校と大学が相互の不信感を払拭し,高校生にとって望 ましい教育を実現するにはどのような連携のあり方が 必要なのかという原点から見つめ直し,企画段階から 協力しあいながら進めることが重要だろう33)。そのた めには,前述したような教員養成や高校と大学の交流 の活発化を一層図るべきであると言える。歴史が浅く 未来が開ける我が国の高大連携の在り方に関して,今 後もより良い方法を模索していきたいと考える。 引用文献 [1] 文部科学省「3.高等学校と大学との接続における一人一 人の能力を伸ばすための連携(高大連携)の在り方につ いて」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/ koutou/020-17/houkoku/06040408/001/004.htm(2017 年 12 月 14 日閲覧) [2] 内村浩(2009)「高大連携活動─高校教員の参画─高校教 員が主体的に参画する高大連携の可能性を探る」,『教育 改革 ing』,2009 年 9 月号 [3] 前掲資料,[1] [4] 前掲書,[2] [5] 足立 寛(2014)「視点 双方にメリットがある高大連携の 在り方を探る」,『Between』2003 年 6 月号 [6] 吉岡路(2013)「特集 学習者を主体とした高大接続教育 の課題と展望」,『立命館高等教育研究』第 13 号,2013 年 3 月 [7] 前掲書,[5] [8] 前掲書,[5] [9] 前掲資料,[1] [10] 前掲資料,[1] [11] 前掲資料,[1] [12] 前掲書,[6] [13] 前掲書,[6] [14] 文京学院大学「社会に開かれた活動:高大連携」https:// www.u-bunkyo.ac.jp/about/page/activity02.html(2017 年 12 月 16 日閲覧) [15] 前掲資料,[14] [16] 前掲資料,[14] [17] 前掲資料,[14] [18] 前掲資料,[14] [19] 前掲資料,[14] [20] 前掲資料,[14] [21] 前掲書,[2] [22] 前掲書,[2] [23] 前掲書,[2] [24] 前掲書,[5] [25] 前掲書,[2] [26] 前掲書,[2] [27] 前掲書,[2] [28] 前掲書,[5] [29] 前掲書,[5] [30] 前掲書,[5] [31] 前掲書,[2] [32] 前掲書,[5] [33] 前掲書,[5]

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