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Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology Vol. 84, No. 2 March, 2019 pp Lecture CCUS CO 2 Received J

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石油技術協会誌 第 84 巻 第 2 号 (平成 31 年 3 月)114 ∼ 122 頁 Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology

Vol. 84, No. 2(March, 2019)pp. 114∼122

講   演

Lecture

1. は じ め に

近年,地球温暖化の原因とされる排出ガスの削減に関

し,二酸化炭素(以下CO2)の回収・貯留技術(Carbon

Capture and Storage,以下 CCS)が注目され,実用化に 向けたさまざまな取組みが世界各地で検討・実施されて

いるが,そのコスト負担の問題からCCS を単独で商業的

に実施することは難しい。そこでCCS と原油増進回収法

(Enhanced Oil Recovery, 以下 EOR)を組み合わせ,コス

トの回収を原油の増産で賄うことで商業的価値を持たせた

CO2の回収・利用・貯留技術(Carbon Capture, Utilization

and Storage,以下 CCUS)が注目を浴びている。ぺトラ・

ノヴァ・CCUS プロジェクト(以下 PN CCUS プロジェクト) は,石炭火力発電所から大気中に放散されるCO2を年間 約150 万トン削減し,同時にその CO2を活用して油田か らの原油生産を数十倍に増産しようとするプロジェクトで

ぺトラ・ノヴァ・

CCUS プロジェクト

− 石炭火力発電所排ガスからの

CO

2

回収および老朽化油田の原油増産 −

藤 原 勝 憲

**,†

(Received January 8, 2019;accepted January 31, 2019)

Petra Nova Carbon Capture, Utilization, and Storage Project: capturing CO2 from the flue gas stream of a coal-fired power plant and

increasing oil production from a legacy oil field

Katsunori Fujiwara

Abstract: Carbon Capture, Utilization, and Storage (CCUS), which is the combination of Carbon Capture from an

anthropogenic source, followed by Utilization and Storage through an Enhanced Oil Recovery (EOR) process, is widely recognized as a useful technology to reduce greenhouse gas (GHG) emissions economically.

Petra Nova CCUS is one of such projects located near Houston, TX in the United States. In this project, a CO2 capture

and recovery unit has been constructed adjacent to a power plant in order to capture CO2 from the flue gas of coal-fired

power generating unit. A chemical absorption technique is used for the CO2 capture process, achieving a CO2 product

purity of 99.9%. CO2 recovery capacity is approximately 5,000 tons per day and 1.5 million tons per year considering

operational uptime. The target field for EOR is a giant onshore legacy oil field, located 130 km from the power plant. Historical oil production was boosted with infill-drilling and pattern-waterflood operations in 1970 s; however, prior to EOR operations, field oil production has declined to around 300 barrels oil per day. The captured CO2 at the power plant

is compressed and transported to this oilfield at under supercritical pressure condition through a 12 inch pipeline, then injected to the target oil reservoir for CO2-EOR.

The Petra Nova CCUS project was sanctioned in July 2014 and the capture system was completed in December 2016, with first CO2 capture and injection into the reservoir, and followed by first EOR oil production in February 2017.

Stable operations have continued so far, resulting in 2 million tons of CO2 captured and more than 2 million barrels of oil

produced.

This project is quite unique in assigning a value to CO2. The Petra Nova CCUS project is a good example of

collaboration between reducing GHG and increasing oil production, that is, collaboration between environmental protection and the oil business.

Keywords: CCS, CCUS, CO2-EOR, Petra Nova, West Ranch, W. A. Parish

平成 30 年 11 月 1 日,平成 30 年度石油技術協会秋季講演会「若手技

術者−何を考え何を目指す」で講演 This paper was presented at the 2018 JAPT Autumn Meeting entitled Young technical experts–what they think and where they are going held in Tokyo, Japan, on November 1, 2018.

** JX 石油開発株式会社第 2 事業本部 Business Division 2, JX Nippon Oil & Gas Exploration Corporation

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あり,地球温暖化の抑制と化石エネルギーの増産という一 見対立しそうな環境と石油ビジネスのコラボレーションを 目指している。

2. CCS/CCUS 技術と EOR

2.1 地球温暖化対策としての CCS/CCUS 技術 2015 年のパリ協定で長期目標となった「2 ℃目標」を達 成するためには,40 年後には数十ギガトンの CO2削減が 必要となり,そのうちの1 ∼ 2 割を CCS が担うことが期 待されている。一方でその普及は鈍く,2017 年現在でパ イロットテストなどを除く大規模CCS/CCUS は 20 プロ ジェクトにも満たない。CCS/CCUS に利用される CO2は, ほとんどのプロジェクトにおいて,天然ガスプラントで分 離された付随CO2または水素・肥料の製造過程で副産物 として生産されるCO2を供給源としており,PN CCUS プ ロジェクトを含む2 プロジェクトのみが,石炭火力発電所 の排ガスから回収したCO2を供給源としている。また貯 蔵目的で帯水層に貯蔵するプロジェクトは数少なく,稼働 中の大規模プロジェクトの大多数はCO2をEOR 目的で油 田に圧入している。 2.2 CO2による原油増進回収法(CO2-EOR)について CO2を利用したEOR は,1970 年代から商業的に行われ ており,米国では目新しい技術ではない。油層に圧入さ れたCO2が油層内の原油と混合してミシブル状態を形成 し,通常では流動できない原油を生産させる技術である。 現在米国で稼働中のCO2-EOR プロジェクトは百件以上あ り,EOR による増産量は日量約数十万バレルとなってい る。使用されるCO2は,テキサス州やニューメキシコ州 の油田地帯に整備されたCO2専用パイプラインを通して 油田へと供給されている。肥料工場などからの人工由来 のCO2も利用されているが,日量3.5 Bcf にのぼる CO2供 給量の80%が天然由来の CO2となっている。米国陸上に は,CO2-EOR の対象と成りうる老朽油田が多数存在し, 数百億バレルの回収量が期待されているが,操業コストが 高いことから非在来型油・ガス開発のような爆発的な広が りには至っていない。 2.3 JX 石油開発の環境対応型技術 JX 石油開発株式会社(以下 JX)は,図 1 に示すように, 地球温暖化への取り組みとして操業中の油ガス田から排出 される温室効果ガスの抜本的な排出削減策を立案・実行し てきた。2000 年には,開発当初から参画しているアブダ ビ石油株式会社が操業する油田において,それまでフレ アーとして放散していたCO2やH2S を回収して,中東で 初めてのサワーガス圧入操業を開始し,ゼロフレア生産操 業を実現した。その後2006 年には,同じく中東で操業す る合同石油株式会社の油田においてもサワーガス圧入を実 現し,フレアー量を削減した。 東 南 ア ジ ア で は2007 年 に ベ ト ナ ム の Japan Vietnam Petroleum Co. Ltd. が操業するランドン油田において,フ レアーとして燃焼していた随伴ガスを発電所の燃料に供給 するプロジェクトがCDM 認証を受けた。また,2011 年 には同油田において東南アジア地域で初となる洋上CO2 -EOR パイロットテストを実施し,CO2削減と原油の増産 の可能性を追求した。 そして2017 年には米国において,石炭火力発電所から 排出されるCO2を回収し,老朽化した陸上油田に圧入す ることでCO2-EOR による原油の増産を図る PN CCUS プ ロジェクトの操業を開始した。JX は,エネルギーの安定 供給と環境との調和を目指した石油・天然ガスの開発を目 指している。

3. PN CCUS プロジェクト

3.1 PN CCUS プロジェクトの概要 PN CCUS プロジェクトは,①米国テキサス州で操業 するW.A. パリッシュ発電所に CO2を回収するプラント

(Carbon Capture System)を建設し,石炭燃焼排ガスから

CO2を回収する過程,②回収したCO2を新設のパイプラ

インを通じて130 km 離れて位置するウエスト・ランチ油

(3)

田に輸送する過程,そして③CO2を油層に圧入し,油層 内に残存する原油を増進回収する過程から成る複合事業で ある。図2 にプロジェクトの事業構成を示した。プロジェ クト開始前は日量300 バレルまで低下していた原油生産を 数十倍に増加させる計画となっている。 PN CCUS プロジェクトの特徴は,まず石炭火力発電所 の排ガスを大規模で安定的なCO2供給源と捉えたことで

ある。当時,CO2-EOR が盛んな Permian Basin 地域で CO2

が不足していたことから,CO2供給源の確保はCO2-EOR 成功への鍵であった。次に,単独では商業化が難しいCO2 回収も油田操業と手を組めば,新たな価値を生じさせるこ とが可能となり,両者がWin-Win の関係を築くことがで きることに着目したことである。CO2という厄介者を生産 的資産に変えること,また温室効果ガス排出量を減らして 地球温暖化を抑制すると同時に原油を増産して利益を生む ことがこのプロジェクト推進の原動力となった。 3.2 PN CCUS プロジェクトの推進体制 PN CCUS プロジェクトの推進体制は,図 3 に示すとお りである。JX と火力発電所を運営する NRG Energy Inc.

(以下NRG)が共同で設立した Petra Nova Parish Holdings

LCC(以下 PNPH)がプロジェクト全体の事業主体となっ

ている。CO2回収装置やCO2回収装置に関連するユーティ

リティ設備は,それぞれ個別に設立された合同会社(LCC)

の 所 有 と な っ て い る。 油 田 に つ い て は,PNPH 傘下の

LCC と以前より当該油田を運営している Hilcorp Energy Company(以下 Hilcorp)が共同で設立した Texas Coastal Ventures LCC(以下 TCV)が運営主体となっている。実 操業に関しては,CO2回収などの火力発電所敷地内での操 業をPNPH が,また EOR 操業を含めた油田の操業管理を Hilcorp が務めている。 PN CCUS プロジェクトへの資金は,米国エネルギー省 の補助金190 百万ドル,国際協力銀行と日本貿易保険の 適用を受けたみずほ銀行の協調融資によるプロジェクト・ ファイナンス250 百万ドル,そしてこれらに JX と NRG 両 社の資金を加え,総額10 億ドル規模となっている。

米 国 エ ネ ル ギ ー 省 の 補 助 金 は,Clean Coal Power

Initiative (CCPI)プログラムに基づいたものである。米国 ではクリーンかつ安価で安定した電力供給のために,環境 図2 PN CCUS プロジェクトの事業構成

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調和的な石炭利用技術開発を促進することを目的として, 米国エネルギー省がプロジェクト費用の50%を上限に費 用を助成するというCCPI プログラムを 2002 年に開始し た。PN CCUS プロジェクトは,CO2の隔離や再利用技術 を実証する第3 次 CCPI プロジェクトに認定され,補助金 を受けることとなった。 3.3 PN CCUS プロジェクトの沿革 PN CCUS プロジェクトでは,建設工事着工から約 2 年 半という短い期間でCO2回収プラントの完成・運転に至っ た。主だったプロジェクトの沿革は以下のとおりである。 2012 年 9 月 JX プロジェクトへの検討開始 2013 年 11 月 開発計画策定 2014 年 6 月 JX 最終投資決定 2014 年 7 月 プロジェクト参入 2014 年 9 月 CO2回収プラント建設工事着工 2016 年 12 月 CO2回収プラント商業運転開始および油 田へのCO2圧入開始 2017 年 2 月 ウエスト・ランチ油田にてCO2-EOR に よる原油生産開始 2017 年 10 月 CO2回収量が累計で100 万トンに達する 2018 年 9 月 CO2回収量が累計で200 万トンに達する

4. CO

2

回収

4.1 W.A. パリッシュ発電所 CO2回収装置が建設されたW.A. パリッシュ発電所は, テキサス州ヒューストンの中心部から南西約40 km に位置 しており,NRG が所有・運営している。稼働開始は 1958 年で,8 基の主要発電設備を備え,合計 3,700 MW の出力 を有する米国最大規模の火力発電所である。1 ∼ 4 号機は 天然ガス焚きで合計出力は1,200 MW,5 ∼ 8 号機は石炭 焚きで合計出力は2,500 MW となっている。石炭焚き発電 によるCO2排出量は,年間1,500 万トンである。PN CCUS プロジェクトでは,最大出力約600 MW の 8 号機(Unit 8) のうち240 MW に相当する燃焼排ガスを CO2供給源とし ている。図4 に W.A. パリッシュ発電所全景を示した。 4.2 CO2回収システム CO2を含む気体からCO2を分離回収する技術は,天然 ガスの不純物としてのCO2除去,肥料工場におけるアン モニア合成プロセス,および水素製造プロセスで確立され た技術であるが,温室効果ガス削減という目的で発電所の 燃焼排ガスからCO2を分離回収する試みは,あまり行わ れていない。特に石炭火力発電の燃焼排ガスは,多くの不 純物を含むために事前処理工程が必要なこと,そして圧力 が大気圧に近い低圧のため処理するガス体積が大きくなり 大型の処理設備が必要なことが実用化への大きなハードル となっている。 本プロジェクトのCO2回収装置は,三菱重工株式会社

(三菱重工)の米国現地法人Mitsubishi Heavy Industries

America, Inc. と米国大手建設会社 The Industrial Company, 図4 W.A. パリッシュ発電所全景

(5)

Inc. のコンソーシアムが建設した。採用された CO2回収方 式は,三菱重工と関西電力株式会社が共同開発した高性能 なKS-1 吸収液を用いた KM CDR Process と呼ばれる化学 吸収タイプで,他の方式と比較しエネルギー消費量が大幅 に少ないという特徴がある。図5 に CO2回収装置全景, また図6 に CO2回収プロセス示した。 Unit8 から供給される排ガスは,まず前処理設備で冷却・ 処理されSOX などの不純物が除去された後,高さ約 100 m の吸収塔に導かれる。吸収塔で下部から吹き上げられた 排ガスは,塔の上部から降らせた吸収液と接触し,CO2は 吸収液に吸収される。このプロセスで排ガス中の90%以 上のCO2が除去され,浄化された排ガスは大気放散され る。一方CO2を含んだ吸収液は再生塔に送られ,加熱さ れることによりCO2を分離する。分離後回収されるCO2 は99.9%という高純度で,その回収量は日量では最大で約 5,000 トン,操業率を考慮した年間では 150 万トンとなっ ている。CO2分離後の吸収液は,再度吸収塔に送られ繰り 返し使用される。このCO2回収プロセスにおいて,再生 塔で必要となる熱源はCO2回収装置に併設した78 MW の 天然ガス焚きコジェネ発電設備で生成される蒸気が利用さ れている。またコジェネシステムで発電される電力は, CO2回収装置に必要な電力を供給するほか,マーケットで 販売されている。 分離・回収されたCO2は,このプロジェクトのために 図7 パイプライン位置図と付帯設備6 CO2回収プロセス

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設計された8 段式のインテグレーテッド・ギアード・コン プレッサーで130 気圧の超臨界状態まで圧縮され,そのま まの状態で直径12 インチ,全長約 130 km の CO2専用パ イプラインを経由してウエスト・ランチ油田へ送られる。 図7 にパイプライン位置図と付帯設備を示した。

5. CO

2

-EOR

5.1 ウエスト・ランチ油田 PN CCUS プロジェクトで CO2-EOR の対象となったウエ スト・ランチ油田は,図8 で示すようにヒューストン中 心部の南西170 km に位置する。1938 年に発見された後, 2000 年代まで約 700 本の坑井が掘削され,累計で約 4 億 バレルの原油を生産した米国有数の巨大陸上油田である。 1970 年代の最盛期の原油生産量は日量 5 万バレル以上で あったが,CO2-EOR 開始直前には日量 300 バレルまで減 退していた。すでに水攻法による二次回収法も適用された 老朽油田である。 CO2-EOR プロジェクトの開発計画策定にあたって,当 初CO2圧入井は新掘,そして生産井は既存坑井の活用を 計画した。しかし検討を進める中で,インテグリティ・安 全性の観点からCO2-EOR で使用される約 300 本の坑井は 原則新掘井とし,耐食性の高い材質を使用することとなっ た。地上設備では,原油処理設備ならびに原油に付随して 生産されるCO2を分離・回収し再圧入するためのコンプ レッサーを装備した中央処理施設が2 か所,また開発エリ アごとの生産原油の計量およびCO2圧入量の制御を行う テスト・サイトが現在までに5か所計画された。これらの 地上設備においても耐食性の高い材質が使用されている。 図9 にウエストランチ油田中央処理施設の全景および各装 置の拡大図を示した。 5.2 EOR パターン展開 CO2の圧入には5 スポット・パターン圧入法を採用して いる。一辺約300 m の正方形のパターンを格子状に油田全 体にわたり展開し,それぞれのパターンの中心にCO2圧 入井,また四隅に生産井を配置している。パターンは平面 的に100 以上に及び,一方で EOR 対象油層が深度別に 5 層あることから総計で500 以上想定されている。同一層で は中心部から周辺部に,また深い層から浅い層に向かって 順次パターン展開を進めることにより,油層全体にEOR を広げる計画となっている。図10 にパターンの配置と平 面展開を示した。 圧入されたCO2は油層内で原油とミシブル状態を形 成し,原油の流動性を高めている。さらにEOR 効果を 高めるために,CO2と水を交互に圧入するWAG(Water Alternative Gas)攻法も採用されている。圧入された CO2 は一部が原油とともに生産されるが,中央処理施設で分離・ 昇圧後,再び油層に圧入されるため,一度回収されたCO2 図8 ウエスト・ランチ油田 位置図9 ウエスト・ランチ油田 中央処理施設

(7)

は外部に放出されることなく,閉じられた系に留まってい る。対象油層の性状および原油性状は図11 に示すとおり である。 5.3 プ ロ ジ ェ ク ト 検 討 段 階 に お け る 事 前 油 層 評 価 (フィールド試験) CO2-EOR プロジェクトの成功には,①十分な原油が 油層に残っているか,また②CO2圧入により油層内の 原油が効率良く流れるかというポイントが重要である。 PN CCUS プロジェクトでは,実験室での流体試験やコア 試験に加えて,フィールド試験を実施し,対象油層が適当 であることとCO2圧入の有効性を確認した。

Single Well Chemical Tracer Test

ケミカルトレーサーを用いてHuff n Puff を行い,生産流 体中のトレーサー濃度から残留油飽和率を求める方法であ る。トレーサーとして圧入されるエステルは,地層内の水 により加水分解しアルコールを生成するため,再生産した 流体中のアルコール濃度と加水分解することなく戻ってき たエステル濃度の差を測定することにより,残留油飽和率 が計算される。ウエスト・ランチ油田では,水攻法の後も CO2-EOR により回収が可能と考えられる十分な原油が残さ れていることが,このトレーサーテストにより確認できた。

Five-Spot Pilot Test

CO2効果と掃攻効率の定量化を目的とし,5 点法による パイロットテストを実施した。図12 に示すように約 16 エー カーのパターンに対してCO2および後押しの水を圧入し, 生産量の変化を測定した。その結果CO2圧入前までの生 産挙動と比較して,明らかな増産効果が確認された。また 観測井では,CO2の通過とともに,飽和率の明らかな変化 が観測され,油層の不均質性とCO2の移動性の確認,掃 攻レイヤーの特定が行われた。図13 にパイロットテスト 概要と観測井における飽和率の変化を示した。 5.4 CO2-EOR 操業とモニタリング CO2-EOR においては,地下では油層内でミシブル状態 を形成させ掃攻効率を高めるという操業を行っているが, 一方で地上の操業は一般的な油田操業とあまり変わらな い。唯一,超臨界のCO2を扱っている点が他の油田とは 図10 ウエスト・ランチ油田 EOR パターン展開11 ウエスト・ランチ油田 油層諸元

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異なる。超臨界のCO2をパイプラインで受入れること, 原油に付随して生産されたCO2をコンプレッサーで超臨 界まで昇圧すること,そしてそれらを混合して再び地下に 圧入(CO2リサイクル)することが操業上の特徴である。 またウエスト・ランチ油田特有の課題として,生産井での サンドトラブルが挙げられるが,坑内のグラベルパックや 地上設備のエロージョン対策で対処している。 CCS/CCUS の観点からは,圧入 CO2が地下から漏洩し ていないことを検証する目的で,CO2のモニタリングが重 要な課題となっている。ウエスト・ランチ油田では,米国

エネルギー省との契約に沿ってMonitoring Verification and

Accounting(以下 MVA)プランを作成し,テキサス大学 Bureau of Economic Geology(以下 BEG)に委託してモニ

タリングを実施している。MVA プランには,CO2の移動

13 EOR Five Spot パイロットテスト(2)

(9)

を推定するためのFlow Model の作成と,操業中のデータ モニタリングが含まれている。代表的なモニター項目は, ①CO2-EOR 対象層における圧力,飽和率および圧入量, ②CO2-EOR 対象層上部における圧力,③浅層の帯水層に おける水サンプリング,そして④地表に近い不飽和帯にお けるCO2漏洩の有無である。図14 に代表的なモニタリン グ項目を図示した。

6. 米国の CCS/EOR に関する補助制度

6.1 テキサス州における生産税の優遇措置 テキサス州においては原油生産に関わる生産税率は 通常4.6%であるが,EOR を助成するためにいくつかの

優 遇 税 制 が あ る。 ま ず「The Enhanced Oil Recovery Tax

Incentive」と呼ばれる優遇措置より,認定を受けた新規 EOR プロジェクトの生産税率が通常の半分の 2.3%に減

額 さ れ る。 さ ら に,「Advanced Clean Energy – EOR Tax

Reduction」と呼ばれる制度では,人工由来の CO2を用い

たEOR に対し,さらに半分に減額した 1.15%の生産税率

が適用される。

6.2 45Q Tax Credit(CO2隔離による税額控除)

CO2の隔離に対して適用される税額控除制度で,2008 年

にEnergy Improvement and Extension Act の一部として法制

化された。EOR に対しては $10/ トン,また CCS に対して は$20/トン(いずれもインフレ調整あり)の税額控除が適 用され,控除の上限は75 百万トンと制定された。2018 年 2 月には,税額控除の拡張法案が成立し,税控除期間を 12 年と限るものの,①税額控除を受ける条件の緩和,②2026 年までにEOR に対して $35/トン,CCS に対して $50/トン へと控除額が増額され,また控除上限も撤廃された。

PN CCUS プロジェクトは,現時点で 45Q Tax Credit の 適用を受けていないが,テキサス州の優遇税制は適用され ており,プロジェクト収益の改善につながっている。

7. ま と め

・ CCS/CCUS 技術は地球温暖化の原因となる CO2排出量 を削減する有力な手法の1 つである。 ・ PN CCUS プロジェクトは,CCS と CO2-EOR 技術を組み 合わせることで,石炭火力発電所が排出するCO2を商 業的に回収することに成功した。 ・ CO2回収装置は2016 年 12 月の稼働以来順調に CO2を 回収し,ウエスト・ランチ油田に送り続けている。2018 年9 月までにすでに 200 万トン以上の CO2を回収した。 ・ ウエスト・ランチ油田では,CO2-EOR 効果により,プ ロジェクト開始前は日量約300 バレル程度であった原油 生産量が2018 年 9 月時点で 6,000 バレルと約 20 倍に増 加し,2017 年 2 月の生産開始以来累計で 200 万バレル 以上のCO2-EOR による原油を生産した。 ・ JX は CCS と CO2を組み合わせた技術を米国内や他の地 域でも積極的に展開し,地球環境との調和を目指した石 油ビジネスを進めてゆく。

SI 単位換算係数

ft × 3.048 E − 01 = m bbl × 1.589874 E − 01 = m3 psi × 6.894757 E + 03 = Pa cP × 1.0 E - 03 = Pa・s (°F − 32) / 1.8 =℃ 141.5 / (131.5 +°API) =g/cm3 図14 CO2-EOR モニタリングプラン

図 1  JX 石油開発㈱の環境対応型技術
図 3  PN CCUS プロジェクトの推進体制
図 13  EOR Five Spot  パイロットテスト( 2 )図12 EOR Five Spot パイロットテスト(1)

参照

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