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映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 1, pp. J17 J 一般社団法人映像情報メディア学会 選奨 技術振興賞/映像情報メディア未来賞 受賞者論文 招待フィールド論文 Live Multi Viewing の開発 Live Multi Viewing App

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Academic year: 2021

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1.ま え が き

YouTube や Ustream が全盛の中,さまざまなイベントで ライブ動画配信が用いられるようになってきた.これらの 動画配信は,イベントが行われている会場以外で使用する のには特に問題はないが,会場内で使うと,これらの遅延 が気になってしまったり,ネット上に公開されてしまうた め,権利などの関係でこれらのサービスは適切ではなかっ た.Live Multi Viewing では,それらの問題を解決したシ ステムであり,会場で使用するライブ配信システムとして は最適である.

2.配信の仕組みについて

「Live Multi Viewing」アプリに配信を行うには,イベン ト会場にサーバを用意してオリジナルのネットワークを構 築する必要がある.サーバには,映像キャプチャカード経 由で複数の映像・音声信号を入力して配信用にエンコード を行う.スマートフォンやタブレットに対しては,無線 Wifi によって通信を行う必要があるため,無線 Wifi のアク セスポイントを配置したネットワーク構成を組む.イン ターネット網を利用した配信も可能であるが,基本的には 権利上などの問題もあり,現時点では会場内にローカル ネットワークを構築することが多い.

3.低遅延での描画

「Live Multi Viewing」のようなイベント会場で使うアプ リを開発する場合,リアルタイムとの遅延差はユーザビリ ティの大きな障害になる.例えば,スポーツ会場で遅延が 4, 5 秒あると,目の前のプレイの 4, 5 秒後にその様子が配信 されるので,結果がわかってからその動画を見ることにな る.当然,実況なども遅れて配信されることになるので, あまり意味をなさなくなる.イベント会場で映像と音声を

あらまし 「Live Multi Viewing」は,スポーツや音楽イベント会場でさまざまな映像や音声を素早く切替え,視

聴することができる Android, iOS に対応したアプリである.「Live Multi Viewing」アプリを使うと,音楽イベント

では別のライブ会場で行われているアーティストを見ることができ,スポーツ会場では試合を観戦しながら副音声を 同時に聞くことができたり,と新しい楽しみ方を体験できる.従来の同様の仕組みでは発生していた配信の遅延もほ ぼなく,映像の切替もストレスなく行えるようになっている.また映像や音声の数を自由に増やすことができ,画面 レイアウトをイベント毎に作り,組合せることも簡単にできるように設計されている.構成している機材も安価なも のを中心としており,コストパフォーマンスにも優れている. キーワード:ライブ配信,低遅延,スマートフォン,アプリ

招待フィールド論文

2015 年 8 月 28 日受付,2015 年 10 月 27 日再受付,2015 年 11 月 24 日採録 †株式会社 TBS テレビ 技術局 制作技術統括部 (〒 107-8006 港区赤坂 5-3-6,TEL 03-5571-3926) ††株式会社 WOWOW 技術局 技術企画部 (〒 135-8080 江東区辰巳 2-1-58,TEL 03-5569-8155)

「Live Multi Viewing」の開発

Live Multi Viewing App

藤 本   剛

神 保 直 史

††

Go Fujimoto

and

Naoshi Jimbo

††

選奨(技術振興賞/映像情報メディア未来賞)受賞者論文

図 2 配信の仕組み 図 1 「Live Multi Viewing」アプリ

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配信する場合は,遅延をなるべくなくすことが必須である と言える.

開発当初,既存の「Ustream」,「YouTube」などのスト リーミングサービスや「Adobe Media Server」,「Red5」など の技術を用いて実現しようとしたが,さまざまな設定を試 みても遅延がかなり大きく,満足できるものではなかった. これを解決するために TBS が開発した「Live Back」1) どで使用している低遅延の動画圧縮技術を参考に,Google 社が開発したオープンソースの VP8 をコーデックとして採 用して,低遅延での配信ができるように独自に開発を行っ た.エンコード,デコードに関しては,VP8 のさまざまな パラメータを試行錯誤してなるべく遅延が少なく画質劣化 が許容範囲である今回の使用に適切な設定を算出した.

通信プロトコルには UDP(User Datagram Protocol)を 採用した.UDP を使用すると高速にデータを送信できるが, データ損失は補償されない.今回の仕組みでは,データが 損失されてもなるべくユーザストレスのあるような状態に ならないように工夫をしている. また,そもそもデータ損失がなるべく起きないように サーバからクライアントまでのネットワークの設計を構築 している.

UDP で取得した動画は,Android, iOS 端末において高速 で描画ができるように,それぞれの端末の GPU(Graphics Processing Unit)を OpenGL のプログラミングを行うこと によって直接操作している.これによって,通常の動画再 生より素早く描画を行うことができ,さらなる遅延の短縮 を行っている.

4.レイアウトを自由に変更可能

「Live Multi Viewing」では,システム使用者がイベント 毎にデザインレイアウトを設定することができる.そのイ ベントの Wifi ネットワークにアクセスすると,ユーザは自 動的にサーバからレイアウトファイルや画像などを取得し て,画面をレイアウトして,動画を配置することができる. システム使用者は,動画をレイアウトに応じて自由に切 り取って配置することが可能で,簡単な記述ファイルを編 集することで作成可能.マルチ画面に関しても事前に画面 合成器などでマルチ画面を作っておいて,それを配信,切 り取って配置することで実現している.クライアントアプ リでは,それらの切り取りや配置の情報をサーバから取得 してレイアウトを行っている.

5.簡単にスケーリングが可能

「Live Multi Viewing」では複数系統の映像・音声の切替 えが可能だが,1 台のサーバ PC で処理できるのは処理能力 などの関係で最大 4 ソースとなっている.この制限を解決 するためにクライアントアプリからのリクエストを適切に 対象の配信サーバに振り分けることができるようにした. これによって,1 台では処理ができないような映像・音声 の系統の処理を可能にしている.理論的には,配信サーバ を増やすことによって何系統でも増やすことが可能になっ た.また,今後はマルチキャストとユニキャストをうまく 組合せて負荷の分散もできるように設計を進めている.

6.SUMMER SONIC 2014 での使用実績

2014 年 8 月 16 日,17 日の 2 日間にわたって,東京会場 (QVC マリンフィールド&幕張メッセ)と大阪会場(舞洲サ マーソニック大阪特設会場)でアジア最大級の都市型音楽 図 4 イベントによってレイアウトを柔軟に変更 図 3 少ない遅延での配信,描画の仕組み 図 5 マルチ画面の仕組み 図 6 負荷分散の仕組み

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フェス「SUMMER SONIC」が開催された.その東京会場 で「Live Multi Viewing」アプリの実証実験を行った.

・配信会場:幕張メッセ(屋内・屋外) ・配信映像:9 系統(4 会場・ OA 映像・定点カメラ・ 1 会場三つのマルチアングルカメラ) ・配信音声:映像系統に付随した音声 ・設置 AP 数: 5 台(2.4 GHz 帯,5 GHz 帯を使用) ・想定アクセス数: 10 ∼ 20 端末(同時アクセス) 「SUMMER SONIC」では,広いエリアに複数のステージ が点在し,各ステージ単位で音楽ライブが同時に進んでい る.ステージごとに,大型スクリーン映像や放送などに使 用するための撮影チームが入っており,カメラのスイッチ ングが行われている.それら各会場のスイッチング映像(1 会場はマルチアングルカメラの映像)をアプリに配信し, 各会場内のステージから離れた場所や会場間を移動中にタ ブレットで視聴できるシステムの構築を目指した. 実際は,合計 5 台の AP をプラチナラウンジ,フードエリ ア,WOWOW ブース,グッズ販売エリアに設置した.ア プリは用意した端末にインストールし,来場者・関係者に 視聴していただいた. アプリのトップ画面は図 8 のようなレイアウトにするこ とで各ステージの生映像が同時に視聴できるようにした. また,見たいステージ画面にタッチすることによりフルス クリーンでも確認できる. 来場者からアンケート調査を行い 200 件以上集まったアン ケートの 8 割の方々から好評価を得ることができた.「切替 えが高速でストレスがない」,「時差なく手元で見られるのが 良い」と言った意見に加え,「ステージ間の移動中に進行が 確認できる」,「休憩している時にステージの様子を見られて 助かる」などの意見が多かった.また,「会場の混雑状況を 知りたい」,「グッズの在庫案内を見たい」,「トイレの状況を 知りたい」など付加情報を求める意見も寄せられた.

7.Excite Match での使用実績

2014 年 11 月 22 日,ボクシング世界タイトルマッチ会場

にて,「Live Multi Viewing」アプリの第 2 回実証実験を実

施した. ・配信会場:横浜国際プール(屋内) ・配信映像: 6 系統(5 つのカメラ・ OA 映像) ・配信音声:映像付随の音・独立したマイク音声 ・設置 AP 数: 14 台(2.4 GHz 帯,5 GHz 帯を使用) ・想定アクセス数: 100 ∼ 200 端末(同時アクセス) 「SUMMER SONIC」では用意したインストール済のタブ レットを配布したが,今回は来場者自身のタブレットやス マートフォンにインストールしてもらう試みである.その ため来場者へのビラ配布,ブースや場内スクリーンでの案 内アナウンスを精力的に行った. A n d r o i d 端 末 へ の イ ン ス ト ー ル を 簡 易 に す る た め , GooglePlay に公開し配布した.入場口に説明員を配置し, 来場者に向けて案内を行ったが,スマートフォンの使用に 図 9 Excite Match にて 図 8 SUMMER SONIC2014 用アプリ 図 7 SUMMER SONIC2014 にて 図 10 Excite Match のアプリ画面

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慣れていない方も多く,インストール作業が難しいとの声 をいただいた. AP 設置に関しては,AP メーカに御協力いただき,配置 や台数を検討した.図 12 のように会場全体に AP を配置し, どの席でも安定的に通信できるように工夫した. 「SUMMER SONIC」で使用したアプリ画面は,配信映像 の配置や画面デザインまで「SUMMER SONIC」専用に作 成されたアプリであった.今回のアプリは,前述したよう にユーザがアプリを起動した時に画面上のパーツや配信映 像 の 配 置 情 報 を ダ ウ ン ロ ー ド す る 仕 様 に な っ て い る . 「Live Multi Viewing」アプリを一度インストールしておけ

ば,イベント会場ごとに異なるデザインのアプリに生まれ 変わるという仕組みがこの時に誕生した.これはユーザの 利便性だけでなく,開発側としても効率的に準備ができる 機能となった.また今回は,映像だけでなく音声の切替ボ タンも用意した.実況解説に加えて,赤コーナー側・青 コーナー側の仕込みマイクの音が試聴できる.これは現場 でしか味わえない生きた音声の醍醐味を与えてくれた.音 声の選択ボタンも,レイアウト機能によって簡単に設定で きるようになった. 前述の通り,サーバ・アプリ・ AP 配置などの技術的要 素は,前回の実験と比べて格段に進歩した.しかし,実際 の来場者の声を聞くと,前回の実験より評価は低かった. ボクシング観戦のようなイベントでは,客席から選手まで の距離が近く,肉眼で良く見える.また,スマートフォン の画面よりも選手を直接見たい,という意識が勝ってしま う.ただし,自分の目では見えない控室の様子やスロー映 像,自分の耳では聞けない実況解説やセコンドの声などは 大変興味深いという意見もいただいた.低遅延であるため, 音声の生配信アプリとしても有効に使用できることがわ かった.今回の実験で,アプリの仕様としては一般向けに 公開できるレベルまで到達した.ただし,会場のユーザに インストールしてもらうための仕掛けが重要であり,現状 では準備不足という印象を禁じ得ない.また,「Live Multi Viewing」が特に有用だと思われる「複数会場や広い会場で 同時進行するイベント」以外での活用方法は,引き続き検 証していく必要を感じている.

8.富士スピードウェイでの使用実績

2015 年 5 月 2 日,3 日に富士スピードウェイで行われた国 内レースで関係者限定公開として使用された. ・配信会場:富士スピードウェイ(屋内外) ・配信映像: 6 系統 ・配信音声: 3 系統 ・設置 AP 数: 8 台(2.4 GHz 帯,5 GHz 帯を使用) ・想定最大アクセス数: 100 端末(同時アクセス) 富士スピードウェイで行われた国内レースは,期間中に 合わせて約 10 万人が訪れる最大級のイベントであり,広大 な敷地内で行われるイベントである.位置づけとしては, 実運用に向けた最終確認であった.どのようにネットワー クを構築して,どのような人材で運用を行えば,ビジネス として成り立つような体制を築くことができるか,という ことがテーマであった. 今回の実施においては,今までの実験と異なりネット ワークの専門家に頼ることなく,映像制作を中心とするス タッフのみでネットワークの構築を行い,映像制作業務の 人材でも実施可能であることが確認できた.また,より広 図 13 富士スピードウェイにて 図 11 ボクシング会場に設置した配信機材一式 図 12 ボクシング会場での AP 設置位置

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範囲にわたるネットワークの構築のノウハウも得ることが できた. Wifi 無線がどこまで飛ぶかといった懸念事項も,思って いたよりも良好な結果を得ることができ,実運用に向けた 手応えを掴むことができた.利用者の反応も良好であり, いままでの事例の中では一番マッチしたイベントであるこ とがわかった.

9.む す び

今回の実証実験などで,「Live Multi Viewing」に関する

有用性を実証することができた.今後は,事業化に向けて 運用モデルや価格などを構築していく予定である.

「Live Multi Viewing」プロジェクトの共同開発社で株式 会社 Xtone 様,機材協力をしていただいたフルノシステム ズの皆様,そして,実証実験に御協力いただいたイベント 主催者の皆様に深く感謝いたします.ありがとうございま した.

〔文 献〕

1)國分和輝・深澤知巳:“低遅延送り返しシステム「LiveBack」の開発”, 映情学技報,35,41,BCT2011-78,pp.53-56(Oct. 2011)

神保

じ ん ぼ

直史

な お し 2009 年,早稲田大学大学院国際情報通 信研究科修了.同年,(株)WOWOW 入社.同社制作技 術部にて,ファイルベース番組制作設備の構築,オンデ マンドサービスの立ち上げ,映像ネットワークインフラ の構築などを担当.現在は,同社技術企画部にて,新技 術の調査や開発を担当する.

藤本

ふ じ も と

ご う 2005 年,慶應義塾大学大学院政策・メ ディア研究科修了.同年,(株)TBS テレビに入社.番組 のオープニング CG アニメーション,CG デザインを担当. 映画「Rookies -卒業-」の CG テクニカルディレクターを務 める.現在は,CDTV,オールスター感謝祭などの番組 制作や,スタジオ更新を担当.

図 2 配信の仕組み図 1 「Live Multi Viewing」アプリ

参照

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