T-2588の
ラ ッ トに お け る器 官 形 成 期 投 与 試 験
小 前 憲 久 ・中 田 弘 子 ・中 村 愚 三 ・米 田 豊 昭
寔山化学工 業株式会社綜合研究所
SD系 ラ ッ トにT-2588の250,500お よび1,000mg/kgを 妊 娠7日 か ら17日 まで の 器官 形 成 期 に 連 周経 口投 与 し,母 体,胎 仔 お よび 出生 仔 にお よぼ す 影響 を検 討 し以 下 の 結 果 を得 た。 1. 母 体 に つ い て は250m9/kg以 上 の投 与 群 で 軽度 の軟 便 と一 過 性 の摂 餌量 の減 少 が,500mg/ kg以 上 の投 与 群 で摂 水量 の増 加 が,1,000mg/kg投 与群 で軽 度 の 体 重増 加 抑 制 が み られ た。 2. 胎 仔 につ い て は 死亡 仔 数,生 存 仔 数,体 重,性 比 お よび 外 表 にT-2588の 影 響 は み られ なか った が,1,000mg/kg投 与群 で波 状 肋骨 お よび 左 臍 動 脈 の発 現 頻 度 に 軽 度 の増 加が み られ た 。 3. 出生 仔 につ い て は妊 娠 期 間,出 生仔 数,出 生時 体 重,外 形 分 化,感 覚 機 能,反 射,学 習能 力 お よび 生殖 能 力 にT-2588の 影 響 は み られ なか った が,1,000mg/kg投 与 群 で離 乳率 の軽 度 低 下 と オ ー プ ン ・フ ィー ル ド試験 で の雌 の立 ち 上 が り回数 お よび 区画 移 動 数 の 軽 度増 加 が み られ た。 4. T-2588の 母 体,胎 仔 お よび 出 生 仔 に対 す る最 大 無 作 用量 は500mg/kgで あ った。 新 規 セ フ ェ ム 系 抗 生 物 質 で あ るT-2588の 毒 性 試 験 と し て は す で に マ ウ ス,ラ ッ ト,イ ヌ で の 急 性 毒 性 試 験1), ラ ッ ト6ヵ 月 間 経 口投 与 慢 性 毒 性 試 験2)お よ び ビ ー グ ル 犬6ヵ 月 間 経 口 投 与 慢 性 毒 性 試 験3)に つ い て 報 告 し た 。 今 回T-2588を ラ ッ トの 器 官 形 成 期 に 投 与 し,母 体,胎 仔 お よ び 出 生 仔 に お よ ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 し た の で そ の 結 果 を 報 告 す る。(試 験 期 間:昭 和58年5月 ∼ 昭 和 58年12月) I. 材 料 お よ び 方 法 1. 被 験 検 体 T-2588はFig.1に 示 す 化 学 構 造 と化 学 名 を 有 し,水 に 溶 け に く く,エ ー テ ル に わ ず か に 可 溶,メ タ ノ ー ル, ア セ ト ン,酢 酸 エ チ ル,塩 化 メ チ レ ン に 可 溶 な 苦 味 を 有 す る 白 色 な い し淡 黄 色 の 結 晶 性 粉 末 で あ る。 本 試 験 に は Lot No.580516を 使 用 した 。 2. 使 用 動 物 お よ び 飼 育 条 件 日 本 ク レ ア株 式 会 社 よ り10週 齢 のSprague - DawleyFig. 1 Chemical structure of T-2588
pivaloyloxymethyl (+)-(6 R, 7 R)-7 -a 2 )-2 -(2-amino- 4-thiazolyl)-2-methoxyiminoacetamido]-3-[(5-methyl-2 H-tetrazol-4-thiazolyl)-2-methoxyiminoacetamido]-3-[(5-methyl-2-yl) meth yl ]- 8 -oxo- 5 -thia- 1 - azabicyclo [4. 2. 0] oct- 2- ene- 2- carboxylate
系 ラ ッ トの雄65匹,雌185匹 を購 入 し,約2週 間 の予 備飼 育 後 試 験 に 供 した。 ラ ッ トは室 温23±2℃,湿 度50∼60%,午 前6時 か ら 午 後6時 ま で の12時 間 人工 照 明の パ リアー飼 育 室内 で, 固 型 飼 料(日 本 ク レア株 式 会社 製,CA-1, CE-2を 高圧 蒸 気 滅 菌 処理)と 紫 外 線 殺菌 処 理 した 水 を 自由 に摂取 さ せ て飼 育 した。 哺 育 期 間 中 は 実験 動 物 用 床 敷(日 本 クレ ア株 式 会 社 製)を 入 れ た プ ラ スチ ッ ク製 ケ ー ジに母体毎 に収 容 し,他 の期 間 は金 属 製 ブ ラ ケ ッ トケ ー ジに1ケ ー ジ1∼5匹 を 収 容 した。 交 配 は雌 雄 を1対1で 同居 させ て行 な い,腟 栓お よび 腟 脂 垢 中 に精 子 を認 め た 動物 を交 尾 成 立雌 と し,こ の 日 を 妊 娠0日 と した。 本 試験 で は1群 に40匹 の交 尾成立 雌 を配 分 し,4群 構 成 で合 計160匹 を用 いた。 この うち 妊 娠 の成 立 した 雌 は147匹 で,1群 の動 物 数 は34∼39 匹 とな った 。 交 尾 成 立時 の体 重 は222∼290gで あった。 3. 投 与 方 法,投 与量 お よび投 与 期 間 投 与 量 設 定 の ため の予 備 試 験 と してT-2588の 1,000, 500,250mg/kgを1群10∼12匹 の妊 娠 ラ ヅ トに器 官形 成期 経 口投 与 した 結 果,1,000mg/kg投 与 群 で軽 度 の体 重 増 加抑 制 が み られ た こ とか ら1,000mg/kgを 本試験 にお け る最高 用量 と した 。 他 に500 mg/kg, 250mg/kg の各 用 量 と対照 群 を設 定 した。 投 与 経 路 は 臨床 適 用経路 に準 じて 経 口投 与 と した 。 T-2588は0.5% carbexymethylcellulose(東 京 化成工 業 株 式 会 社 製,CMC, Lot No.AQ 01)に hydroxypro-pylcellulose(日 本 曹 達 株 式 会 社製, HPC-L, Lot No. AE-261) 0.1%を 加 え た 水 溶 液(以 下0.5% CMC+
0.1%HPC-Lと 略 す)に 懸 濁 し,10%懸 濁 液(原 液) を調製 した。 この原 液 は暗 所5℃ 保 存 で1週 間 以 上 の 安 定性 が 確 認 され て いた こ とか ら,3∼5日 分 を ま とめ て 調製 し冷 蔵 庫 に保 存 した 。 使 用 時 に 原 液 を0,5%CMC +0.1%HPC-Lで 希 釈 し,い ず れ の用 量 も1回 の投 与 液量が 体重1009あ た り1mlに な る よ うに した。 投与 期 間 は妊 娠7日 か ら17日 まで の11日 間 と し, 妊娠0日 の体 重 を 基 準 に1日1回 胃管 を用 い て 強 制経 口 投与 した 。対 照 群 に は0.5%CMC+0.1%HPC-Lを 同 様 に投与 した。 4. 観 察 方 法 母 体 の体 重,摂 餌 量 お よび摂 水量 を妊 娠 期 間 中 毎 日測 定 し,分 娩 後 は体 重 測 定 を分 娩 終 了 時 と分 娩 後4,7, 14,21日 に,摂 餌 量,摂 水 量 の 測定 を分 娩 日 と 分 娩 後 7,14,21日 に各 々行 な った。 また母 体 の一 般 症 状 を妊 娠お よび 哺 育期 間 中 とも に毎 日観 察 した。 1群20匹 の母 体 を 妊娠21日 に エ ー テ ル 麻酔 下 で放 血死 させ,黄 体 数,着 床 数,吸 収 胚 数,死 亡 胎 仔数 お よ び生 存胎 仔 数 を調 ぺ た 。 生存 胎 仔 につ い て は 性 別 お よび 外表 異常 の 有無 を調 べ,体 重 を測 定 した の ち 各 腹 の約 半 数 を90%エ タ ノー ルで 固定 し,DAwsON4)の 変 法 に よ り ア リザ リ ン ・レ ッ ドS染 色 を 施 し骨 格 観 察 を行 な った。 残 りの半数 は プア ン液 で固 定 し,WIL80N51お よび 西 村6) の方 法 に よ り内 臓観 察 を行 な った 。母 体 は胸 腹 部 臓 器 を 肉眼的 に観 察 した の ち主 要 臓 器(心,肺,肝,腎,脾, 副 腎,胸 腺 唾 液 腺 卵 巣)の 重 量 を測 定 した 。 残 りの1群14∼17匹 の母 体 は 自然 分娩 させ た 。 出 生 仔は生 後24時 間 以 内 に そ の数,生 死,性 別 お よび 外 表 異常 の有 無 を調 べ,生 後4日 に1腹 仔 数 が8匹 とな る よ うに調 整 し生後22日 に離 乳 した 。 な お 生後4日 に淘 汰 した 仔 は骨 格観 察 に供 した。 仔 の体 重 は出 生 時 と生 後4 日に測定 し,生 後7日 以 降 は 週1回,生 後12週 ま で測 定 した。 母 体 は離 乳 時 にエ ーテ ル麻 酔 下 で放 血 死 させ, 着 床 痕数 を調 べ た の ち胸 腹 部 臓 器 の 肉眼 的 観 察 と重 量測 定 を行 な った 。 仔 の外 形 分 化 に つ い て生 後4日 に 耳 介 開 展,7日 に腹 部毛 生 と乳 頭 出 現,14日 に切 歯 萠 出 と眼 瞼 開 裂,4週 に 精 巣下 降,5週 に 腟 開 口の状 態 を調 べ た。 感 覚 機能 検 査 と して 生後4∼5週 に 全 例 に つ い て 視 覚,聴 覚,痛 覚 の 機能 と 自 由落 下 反 射,耳 介反 射,角 膜 反 射 を 調べ た 。 各 群 雌 雄10匹 につ い て 情 動 性 検 査 と し て生後4週 に ナ ー プ ン ・フ ィー ル ド試 験 を,学 習能 力検 査 と して 生後5∼6週 にT型 水 迷 路 試 験 を 行 な った。 オ ー プ ン ・フ ィー ル ド試 験 はBUTCHER7)ら の 装 置 と方 法 を 参 考 に1日1試 行,連 続3日 間観 察 し,1試 行3分 間 の 中 央 区 画潜 伏 時 間,脱 糞 数,排 尿 回数,立 ち 上 が り回数, 身 つ くろ い回 数 お よび 区両 移 動 数 を 調 ぺ た。 水 迷 路 試 験 はBIBL8)が 用 い た迷 路 に類 似 のwater multiple T-maze (岡 崎産 業 株 式 会 社 製)を 用 い て1日5試 行,速 続2日 間 行 な った 。1回 の 訟 行時 間 は6分 を限 度 と し,出 発 点 か ら ゴー ル に到 達 す るま で の所 要 時 間 と錨 課 数 を測 定 し た 。 な お迷 路 試 行 の 前 日に は直 水 路 を用 い て遊 泳訓 練 を 行 な った。 生 後6週 で各 群 雌 雄20匹 を残 して飼 育 を継 続 し,他 はエ ーテ ル麻 酔 下 で放 血 死 させ 胸 腹 部 臓 器 の 肉 眼 的観 察 と重 量 測 定 を 行 な った。 生 殖 能 力 検 査 と して生 後12週 で各 群 の 全 例 を 同腹 仔 を さけ て雌 雄1対1で 同 居 させ,腟 栓 お よび 腟 脂 垢 の 検 査 に よ り交 尾 を確 認 した 。9日 間 同居 後 も交 尾 が確 認 さ れ なか った 雌 は,す で に交 尾 が確 認 され て い る同 群 の 雄 とさ ら に6日 間 同 居 させ た 。 交 尾 の成 立 した雌 は 妊娠20 日に エ ー テ ル麻 酔下 で放 血 死 させ 黄 体 数,着 床 数,吸 収 胚 数,死 亡 胎 仔 数 お よび 生存 胎 仔 数 を 調べ,生 存 胎 仔 に つ い て は性 別,外 表 異常 の観 察 と体 重 測定 を行 な った 。 雄 は 生後16週 で 全 例 屠殺 し,胸 腹 部臓 器 の 肉眼 的 観 察 と重 量測 定 を行 な った。 交 尾 の確 認 され な か った雌 は同 居 最後 の 日か ら3週 後 に 剖 検 を行 な った 。 5. 統 計的 処 理 T-2588投 与 群 と対 照 群 との 間 の有 意 差 の検 定 に はx2 検 定,STUDENTのt検 定 お よびMANN-WHITNEYのU検 定 を用 いた。 な お胎 仔 お よび 生後6週 ま での 出 生 仔 に つ い て は1腹 を 単位 と して取 り扱 った。 また 水 迷 路 試験 で の未 到 達 例 に つ い て は錯 誤 数 お よび所 要 時 間 の計 算 か ら は除 外 した 。 II. 結 果 1. 母 体 に お よぼ す影 響 投与 期 間 中 に250mg/kg投 与 群 で1例,500mg/kg, 1,000mg/kg投 与 群 で 各2例 が 死亡 した が,い ずれ も投 与 過 誤 に よる も の であ った。T-2588各 投 与 群 に投 与 開 始 翌 日か ら軽 度 の軟 便 が み られ,250mg/kg投 与群 で は 投 与 期 間 終 了 ま で,500mg/kg, 1,000mg/kg投 与 群 で は妊 娠 末 期 ま で観 察 され た 。 そ の 他 の一 般 症 状 につ い て は妊 娠 お よび 哺育 期 間 中 と もに 特 記す べ き異 常 はみ られ なか った が,哺 育期 間 中 に 全 仔 を 食殺 した母 体 は1,000 mg/kg投 与 群 に2例 み られ,そ の うち の1例 は 分 娩 後 全 く哺育 行 動 を 示 さな か った 。 母 体 の体 重 推 移 をFig.2に 示 す。1,000mg/kg投 与 群 で は 妊娠15日 以降 に 軽 度 の体 重 増 加 抑 制 が み ら れ た 。500mg/kg投 与群 で も妊 娠 末 期 に ご く軽 度 の体 重 増 加 抑 制 がみ られ た 。 分 娩 後 は各 投 与 群 とも対 照 群 と同 様 に推 移 した。 摂 餌 量,摂 水量 をFig.3,4に 示 す 。摂 餌 量 はT-2588
Fig.2 Body weight changes of dams administered T-2588 orally
Fig. 4 Water intake of dams administered T-2588 orally
Table 1 Organ weight of dams administered T-2588 orally (dissected on day 21 of gestation)
a)
. Mean ± S. E.
Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01
各投 与 群 で投 与 開 始 後一 過 性 に減 少 し,投 与 期 間 終 了 後 は逆 に増 加 した 。 分 娩後 は対 照 群 との 差 は み られ なか っ た。 摂 水量 は500mg/kg,1,000mg/kg投 与群 で投 与 開 始か ら妊娠 末 期 に か け て増 加 した 。 分 娩後 も これ らの群 で は対照 群 よ り若 干 多 い傾 向が み られ た 。 妊 娠21日 の 帝 王切 開時 の 肉眼 的 観 察 では1,000mg/ kg投 与 群 の1例 に 両側 腎臓 の腫 大 と脾 臓 の 萎縮 が み ら れ た が,他 の動物 に は特 に異 常 は認 め られ な か った 。 臓 器 重量 をTable1に 示 す 。1,000mg/kg投 与 群 に 心,胸 腺 お よび唾 液 腺 重 量 の軽 度 の 減 少 がみ られ た 。 離 乳時 の母 体 の剖 検 で はT-2588各 投 与 群 に 盲腸 腔 の 拡 大 が散 見 され た 以 外,特 に 異常 はみ られ な か った 。臓 器重 量 お よび そ の体 重 比 をTable2に 示 す。250mg/ kg,500mg/kg投 与 群 に肝 重 量 お よび そ の体 重 比 の 増 加 が み られた 。 また 各 投 与群 に副 腎 重 量 の軽 度 の減 少 が み られ,250mg/kg,500mg/kg投 与 群 で はそ の 重 量 体重 比 も軽 度 の減 少 を示 して い た 。 2. 胎 仔 に お よぼ す 影 響
Table 2 Absolute and relative organ weight of dams administered T-2588 orally (dissected after weaning ),
a).Mean ± S. E.
Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01
Table 3 Cesarean section data of dams administered T-2588 orally (dissected on day 21 of gestation)
妊娠21日 の 帝 王切 開 時 の胎 仔 の観 察 結果 をTable 3 に示 す。1,000mg/kg投 与 群 の平 均 着 床 数 が対 照 群 の 15.6に 対 し14.1と わ ず か に 低 い 値 を 示 した 以 外 は黄 体 数,吸 収 胚 ・死 亡 胎 仔 数,生 存 胎 仔 数 お よび 生 存 胎 仔 体 重 に対 照群 との差 は み られ なか っ た。 個 体 別 に み る と 1,000mg/kg投 与 群 の 腎 の腫 大 が み られ た 母 体 で は 胎 仔 は全例 低体 重(2.06∼2。64g)を 示 して いた 。500mg/kg 投与群 の性 比 は雄 が 若 干 多 くみ られた が1他 の 投 与 群 に
Photo. 1 Wavy ribs
(T-2588 1, 000 mg/kg,
Fetus)
は この 傾 向 はみ られ な か った 。 胎 仔 の外 表 観 察 では 対 照 群 の1例 に無 尾 と肛 門 閉 鎖 が み られ た だ け で,T-2588 投 与 群 に は 異常 を認 め なか った。 骨 格 観 察 の 結果 をTable4に 示 す 。骨 格 異 常 と して は 1,000mglkg投 与 群 の5/143例(3母 体)に 波 状 肋骨 (photo.1)が み られ た 以 外,異 常 は み られ なか った 。 骨 格 変 異 と して は 頸肋,胸 骨 核 の 不 相称 や分 離,14肋 骨, 椎 体 分 離 お よび 仙椎 前 椎 骨 数 の過 剰 な どの所 見 が 散 見 さ れ たが,こ れ らの骨 格 変 異 の発 現 頻 度 に は対 照 群 と の差 は み られ なか った。 化 骨 進 行 度 に は 対照 群 との差 は み ら れ なか った 。 内臓 観 察 の結 果 をTable5に 示す 。T-2588各 投 与 群 に 胸腺 頸部 残 留,食 道 の右 方 転 位,心 室 中隔 欠損,冠 状 動 脈 口の過 剰,肝 臓 の 副葉 存 在,尿 管拡 張,左 臍 動 脈, 精 巣 低 形成 が観 察 され,左 臍 動 脈 の 発 現 頻 度 が1,000 mg/kg投 与 群 で7/130例(6母 体)と 若 干 高 い 値 を 示 した 以 外 は対 照 群 との 差 はみ られ な か った。 3. 出 生仔 にお よぼ す影 響 出 生 時 の観 察 結 果 と生後4日,3週 お よび6週 の生 存 率 をTable6に 示す 。妊 娠 期 間,着 床 数,出 生 仔数,死 亡 仔 数 お よび性 比 には 対照 群 との差 はみ られ な か った 。 また 外 表 異常 もみ られ な か った。1,000mg/kg投 与 群 の 生 後3週 お よび6週 の生 存 率 がや や 低 い値 を 示 して い た が,個 体 別 にみ る と生 後4日 の まび き後 か ら生後3週 ま で の生 存 率 が0∼50%と 低 い母 体 は16例 中3例 で あ っ た。 出 生仔 の体 重 推移 をTable7,8に,外 形 分 化,感 覚 機Table 4 Skeletal observation on fetuses obtained from dams administered T-2588 orally (dissected on day 21 of gestation)
a). Proximal and middle phalanges
Table 5 Visceral observation on fetuses obtained from dams administered T-2588 orally (dissected on day 21 of gestation)
Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01 a)
. The umbilical artery passes to the right of the urinary bladder in most cases. In a few instances it passes to the left of the urinary bladder.
Table 6 Observation of delivery and viability of pups obtained from dams administered T-2588 orally
a)
( No. of pups born alive/No, of implantations) •~100
b)
No. of 4 days old pups before culling/No, of pups born alive
c) No. of pups at 3rd week/No. of 4 days old pups after culling d) No. of pups at 6th week/No. of 4 days old pups after culling Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01
能 の 観 察結 果 をTable9に 示 す 。1,000mg/kg投 与 群 の 雄 で は 生後7週 以 降,対 照 群 よ りもわ ず か に 重 い 体重 の 推 移 を示 した が,雌 で は対 照 群 とほ ぼ 同様 に推 移 した。 外形 分 化,感 覚 機能 お よび 反 射 に 異常 はみ ら れ な か っ た。 生 後4日 で淘 汰 した 仔 の骨 格 観 察 の結 果 をTable10 に示 す 。 骨 格 異 常 と して は1,000mg/kg投 与群 の3例 と対 照 群 の1例 の肋 骨 に結 節(photo.2)が み られた が, そ の発 現 頻 度 に差 はみ られ なか った。 他 に異常 はみ られ なか った 。骨 格変 異 と して は胸 骨 核 の過 剰,14肋 骨,仙 椎 前 椎 骨 数 の過 剰 が み られ た が,そ の発 現 頻 度 お よび化 骨 進 行 度 に はT-2588投 与 に よ る影響 はみ ら れ な か っ た 。 生 後6週 の 出 生仔 の剖 検 では 肝 に副 葉 が み られ る例 が 対 照 群 を 含 む 各群 に散 見 され た が,発 現頻 度 に差 はみ ら れ なか った 。 他 に異 常 はみ られ な か った。 臓 器 重量 とそ
Table 7 Body weight changes of F1 (Male) obtained from dams administered T-2588 orally
a).No. of F 1 b)
.g: Mean ± S. E.
Significantly different from control * p<0.05
Table 8 Body weight changes of F, (Female) obtained from dams administered T-2588 orally
a). No. of F1 b).g: Mean ± S. E.
Significantly different from control * p<0.05
の体重 比 をTable 11,12に 示 す。500mg/kg投 与 群 の 雄お よび1,000mg/kg投 与 群 の 雌雄 の腎 重 量 お よび そ の体重 比 がわ ず か に高 い値 を示 した 。 オ ー プ ン ・フ ィー ル ド試 験 の結 果 をTable13,14に, 水迷 路 試験 の結 果 をFig.5,6に 示 す 。 オ ー プ ン ・フ ィ ール ド試 験 では1 ,000mg/kg投 与群 の雌 で立 ち 上 が り 回数 と区画 移 動数 の増 加 が み られ た。 雄 で は こ の傾 向 は み られ なか った。 水 迷 路 試 験 で はT-2588各 投 与 群 の 錯 誤 数 お よび 所 要 時 間 は対 照 群 とほ ぼ 同 様 に 推移 した。 F1の 生 殖 能 力 お よび そ の胎 仔 の観 察 結 果 をTable15 に示 す 。 第1回 目の 同 居 で 対 照 群 の3組 と500mg/kg 投 与 群 の2組 を 除 く全 て の組 で交 尾 が確 認 され た。 交 尾 が 確 認 され な か った雌 につ い て交 尾 が 確認 され た 同群 の 雄 と第2回 目の 同 居 を行 な った 結 果,対 照 群 の1組 を除 き他 は全 て交 尾 が 確 認 され た。Table15に は第2回 目 の 同居 の結 果 も ま とめ て 示 した。交 尾 率,妊 娠 率,黄 体
Table 9 Postnatal development of F1 observed from dams administered T-2588 orally
a). No. of rats positive/ observed (%)
Photo. 2 Nodulated ribs
(T-2588 1, 000 mg/kg, Neonate)
数,着 床 数,吸 収 胚 ・死 亡胎 仔数,生 存 胎 仔 数,性 比 お よび 生 存 胎 仔 体 重 に は 対 照群 との差 はみ られ な か った。 胎 仔 の外 表 観 察 では1,000mg/kg投 与 群 に臍 帯 ヘ ル ニ アが1例 み られ た に す ぎなか っ た。 生 後16週 に 行 な った雄 の剖 検 では 胸 腹 部臓 器 に異 常 は み られ な か った 。 III. 考 察 SD系 ラ ッ トを 用 い てT-2588の250, 500お よび 1,000mg/kgを 胎 仔 の器 官 形 成期 に経 口投 与 し,母 体, 胎 仔 お よび 出 生 仔 に お よぼす 影 響 を検 討 した。 母 体 に つ い て は250mg/kg以 上 の 投 与群 で投 与開 始 後 に 軟 便 と一 過 性 の摂 餌量 の 減 少 が,500mg/kg以 上 の 投 与群 で摂 水 量 の増 加 が,1,000mg/kg投 与群 で軽度 の 体 重増 加抑 制 が 各 々観 察 され た。500mg/kg投 与 群 の妊 娠 末期 の体 重 の伸 び が わ ず か に少 なか った が,こ れは胎 仔 数 が対 照 群 よ り少 な か った影 響 と考 え られ る。 軟便 は 他 の セ フ ェム系 抗 生 物 質 で 報告9∼12)され てい る よ うに腸 内 細菌 叢 の変 動 に も とづ く二 次的 な変 化 と思 われ る。 そ の 他 分娩 後 の一 般 症 状 お よび体 重 推 移 にT-2588の 影響 は み られ なか った 。 胎 仔 に つ い て は 胎 生 末 期 の 生 存 率 お よび 体重 にT-2588の 影 響 はみ られ ず,ま た 外表 異常 も 観 察 され なか つ た。 胎 仔 の骨 格 観 察 で は1,000mg/kg投 与群 の3.5%の 胎 仔 に波 状 肋 骨 がみ られ,当 社 の バ ッ ク ・グ ラ ウン ド` デ ー タ(0.24%)と 比 較 して も高 値 を示 して いた 。 この 変 化 は 特 定 の母 体 の胎 仔 に 集 中 して起 こる 傾 向 が あ っ た 。 しか し生後4日 の出 生 仔 の 骨 格観 察 では この変化 は み られ な か った。 ア ドレナ リ ン作 動 性 β-受容 体刺激 剤 (BD 40A, fenoterol),利 尿 剤(azosemide),イ ンシ ュ リンを ラ ッ ト器 官形 成 期 に投 与 した試 験 で も波状 肋 骨が 出 現 す る こ とが 知 られ てお り,そ の 波状 肋骨 は出生 後, 正 常 な 形 に 修 復 され る こ とが 確 認 され て い る13∼6)。これ らの こ とか ら本試 験 でみ られ た 波 状 肋 骨 は骨 の発 達段階 にお け る一 時 的 な変 化 と考 え られ,特 に 問題 視 すべ き異 常 とは思 わ れ な い。 胎 仔 の 内臓 観 察 で は 臍動 脈 が膀 胱 の左 側 を 走 行 してい る例 が1,000mg/kg投 与 群 の5.4%の 胎 仔 にみ られ,Table 10 Skeletal observation on pups obtained from dams administered T-2588 orally (culled at 4 days old)
a).
Proximal and middle phalanges
Significantly different from control * p<0.05
Table 11 Absolute and relative organ weight of F1 (Male) obtained from dams administered T-2588 orally (dissected at 6 weeks old)
a)
. Mean ± S. E.
Table 12 Absolute and relative organ weight of F1 (Female) obtained from dams administered T-2588 orally
(dissected at 6 weeks old)
a)
. Mean ± S. E.
Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01
Table 13 Open field test of F, (Male) obtained from dams administered T-2588 orally
a) . Day b)
. Mean ± S. E.
Table 14 Open field test of F1 (Female) obtained from dams administered T-2588 orally
a) . Day b)
. Mean±S.E.
Significantly different from control * p<0.05, ** p<0.01
Table 15 Reproductive performance of F1 obtained from dams administered T-2588 orally
(dissected on day 20 of gestation)
a).(): (No.of copulated/No.of pairs)×100
b).(): (No
.of impregnated/No.of copulated)×100
c).(): (No
Fig, 5 Water multiple T-maze test of F1 obtained from dams administered
T-2588 orally (No. of errors)
Fig. 6 Water multiple
T-maze test of F1 obtained from dams administered
T-2588 orally (Swimming
time)
当社 のパ ッ ク ・グ ラ ウ ン ド ・デ ー タ(0.28%)と 比 較 し て も高 値 を示 して い た。 しか しこの 変 化 は 出 生後 は使 用 され な い 膀 動脈 の走 行位 置 が 通 常 右 側 に あ る も のが 左 側 に あ った とい うだ け で,胎 仔 体 重 や 出 生後 の発 育 に は影 響 が な か った こ とか らみ て重 大 な奇 形 とい え る も の では な か っ た。 出生 仔 につ い ては1,000mg/kg投 与 群 の 離 乳 率 が わ ず か に低 い 値 を 示 した。 これ につ い ては 特 定 の 母 体 の離 乳 率 が 低 か った こ と,ま た 仔 を食 殺 した り哺 育 行動 を示 さな い 母 体 が み られ た こ とか ら,母 体 側 の 要 因が 仔の生 存 率 に 影響 を お よぼ した 可 能 性 が考 え られ る。 オ ー ブ ン ・フ ィー ル ド試 験 で1,000㎎1kg投 与群 の 雌 の 立 ち 上 が り回数 お よび 区 画移 動 数 が 高 値 を示 し,数 値 上 で は探 索 活 動 の亢 進 を 示 して いた が,こ れ らの指 標 は個 体 差 が 大 き いた め にT-2588が 行 動 異常 の原 因 であ る と断 定 す る こ とは 困難 で あ る。 以 上 の結 果 か ら母 体 に対 す る最 大 無作 用 量 ば摂餌量 の 減 少,摂 水 量 の増 加 あ る いは 軟 便 が み られ る もめ の,妊
娠 期 間 中 の 体 重 増 加 に 影 響 の み ら れ な か っ た500mg!kg と考 え ら れ る。 ま た 胎 仔 に 対 す る最 大 無 作 用量 は 骨 格 お よび 内 臓 に 影 響 の み ら れ な か っ た500mg/kg,出 生 仔 に 対 す る最 大 無 作 用 量 は 離 乳 率 に 影 響 の み ら れ な か っ た 500mg/kgと 考 え ら れ る 。 文 献 1) 佐 藤 盛, 中 川 重 仁, 柴 田 哲 夫, 河 村 泰 仁, 永 井 章 夫, 霜 鳥 智 也, 吉 田 一 晴, 米 田 豊 昭: T-2588 の マ ウ ス, ラッ ト, イ ヌ で の 急 性 毒 性 試 験 。 Chemotherapy 34(S-2): 166∼172, 1986 2) 佐 藤 盛, 永 井 章 夫, 柴 田 哲 夫, 河 村 泰 仁, 霜 鳥 智 也, 岩 井 信 治, 米 田 豊 昭: T-2588の ラ ッ ト6 ヵ 月 間 経 口 投 与 慢 性 毒 性 試 験 。Chemothempy 34 (S-2): 190∼211, 1986 3) 中 川 重 仁, 柴 田 哲 夫, 河 村 泰 仁, 永 井 章 夫, 佐 藤 盛, 霜 鳥 智 也, 吉 田 一 晴, 米 田 豊 昭: T-2588の ビ ー グ ル 犬6ヵ 月 間 経 口 投 与 慢 性 毒 性 試 験 。 Chemotherapy 34(S-2): 212∼249, 1986
4) DAWSON, A. B.: A note on the staining of
the skeleton of cleared specimens with aliza-rine red S. Stain. Tech. 1 : 123•`424, 1926
5) WILSON, J. G.: Method for administering agents and detecting malformation in
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Tera-tology (WILSON, J. G. and J. WARKANY) pp.
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6) 西 村 耕 一: マ ウ ス お よ び ラ ッ ト胎 仔 の 胸 部 内 臓 奇 形 観 察 の た め の 顕 微 解 剖 法 。 先 天 異 常14 (1): 23∼40, 1974
7) BUTCHER, R. E.; W. J. SCOTT, K. KAZMAIER &
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Teratolo-gy 7: 161•`466, 1973
8) BIEL, W. C.: Early age differences in maze
performance in the albino rat. J. Genet.
Psychol. 56 : 439•`453, 1940 9) 廣 岡 哲 夫, 田 所 規, 高 橋 昌 三, 金 漕 枝, 北 川 純 男: Cefroxadine(CGP-9000)の ラ ッ トに お け る 生 殖 試 験(第1報)器 官 形 成 期 投 与 試 験 。 医 薬 品 研 究10(4) 3802∼824, 1979 10) 野 村 章, 古 橋 忠 和, 池 谷 恵 里, 沢 木 あ け み, 仲 吉 洋: Cefaclorの 催 奇 形 性 お よ び 生 殖 に お よ 匠 す 影 響(第1報)マ ウ ス, ラッ トお よ び ウ サ ギ に お け る 雅 官 形 成 期 経 口 投 与 に よ る検 討. Chemo-therapy 27(S-7): 846∼864, 1979 11) 柴 田 正 勝, 玉 田 尋 通: Cefotetan (YM 09330)の 静 脈 内 投 与 時 の ラッ トに お け る 器 官 形 成 期 投 与 試 験 。Chemotherapy 30 (S-1): 278∼294, 1982 12) 清 水 万 律 子, 打 屋 尚 章, 野 田 有 俊, 宇 高 壷 二: Ro 13-9904(Ceftriaxone)の 毒 性 に 関 す る 研 究 (第7報)ラッ トに 対 す る 器 官 形 成 期 投 与 試 験 。 基 礎 と臨 床18 (5): 167∼180, 1984
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