池田隆徳
東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野実臨床での心房細動管理における
抗凝固薬の役割と今後の展開
高齢者が増え続ける今,脳梗塞にいかに立ち向かうか
Role and Future Development of Novel Oral Anticoagulants for
Managing Atrial Fibrillation in Clinical Practice
杏林大学医学部第二内科教授を経て,2011年より現職.2012年からは東邦大学 医療センター大森病院循環器センター長を兼任している.また,日本心電学会 (理事),日本不整脈学会(評議員),日本循環器学会(専門医),日本透析医学会 (専門医)など多くの学会で活躍する傍ら,心電図,不整脈,循環器薬に関する 著書を多数執筆している. 我が国では,脳卒中のなかで脳塞栓症の占める割合が急激に増加しており,その多くは心房細動に由来 することが示されている.心房細動による心原性脳塞栓症の予防は,アスピリンをはじめとする抗血小板 薬では効果が乏しく,ガイドラインでも抗凝固薬の使用を積極的に推奨している.心房細動患者において 抗凝固薬を使用する場合は,CHADS2スコアあるいはそれに準じたスコアの活用を推奨している.使用 する抗凝固薬として,従来使用されていたワルファリンは多くの制限を有していたため,新規経口抗凝固 薬(novel oral anticoagulant : NOAC)が開発され,その有効性と安全性が臨床試験で立証された.直接 トロンビン阻害薬のダビガトランと Xa 因子阻害薬のリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンが これに含まれる.徐々にではあるが,これら NOAC の臨床上の特徴や使い分けについても把握できるよ うになってきた.今後,心房細動患者における NOAC を用いた抗血栓凝固療法の適応が,ますます拡大 することが予想される.
Ⅰ.心原性脳塞栓の疫学と心房細動に対する 薬物治療のあり方 近年,心房細動による脳卒中(心原性脳塞栓症)の 発現について多くのエビデンスが出され,血栓 ・塞 栓を予防することの重要性が広く認知されるように なった.以前に比べ,脳卒中の原因として心原性脳 塞栓症の頻度が上昇してきたことが,その背景にあ る.脳卒中データバンク 2009(全国統計)の報告を 見ると,脳卒中の原因のなかで心原性脳塞栓症の占 め る 割 合 は 19.2 % で あ り, こ れ は ラ ク ナ 梗 塞 (22.7%)に次いでアテローム血栓性梗塞(19.3%)と ともに 2番目に多い1).東京都にある杏林大学病院 脳卒中センターのデータ(2010)では,心原性脳塞栓 症の占める割合はさらに高く 29%で,脳卒中の原 因の第 1位となっている(図 1左)2).周知のとおり, 心原性脳塞栓症の原因疾患で最も頻度が高いのは心 房細動であり,同脳卒中センターのデータでは心原 性脳塞栓症の原因の 92%を占める(図 1右)2). 抗血栓凝固療法を行うことの重要性が日欧米のガ イドラインで述べられている.ガイドラインで示さ れた心房細動に対する薬物治療のあり方を図 2に示 す.抗血栓凝固療法は,心房細動それ自体を抑制す るリズムコントロール(洞調律維持)療法,あるいは 心房細動による症状と生活の質(quality of life: QOL)の改善を目指したレートコントロール(心拍 数調節)療法よりも上位にランクされており,心房 細動患者を診たら,まずは抗血栓凝固療法の適応を 吟味しなければならないということである. 図1 杏林大学病院脳卒中センターでの心原性脳塞栓症の原因 〔文献 2)より引用改変〕 その他・分類不能 n=196 (13%) 一過性脳虚血発作 n=109 (7%) アテローム血栓性梗塞 n=179 (12%) ラクナ梗塞 n=300 (20%) 脳塞栓 n=423 (29%) 脳出血 n=271 (18%) くも膜下出血の症例は脳神経外科で 手術適応になることから除かれている. 心不全(含心筋症) n=5(2%) 心筋梗塞 n=5(2%) 奇異性脳塞栓症 n=9(3%) 感染性心内膜炎 n=2(0.7%) 粘液腫 n=1(0.4%) 心房細動 n=245 (92%) 奇異性脳塞栓症には心房中隔欠損などの 先天性シャント疾患が含まれる. 図 2 ガイドラインで示された心房細動に 対する薬物療法のあり方 抗血栓凝固療法 アップストリーム療法 洞調律維持療法 心拍数調節療法 心房細動の検出
Ⅱ.心房内血栓の予防における抗血栓凝固療法 の重要性 心房細動による心原性脳塞栓症を予防するには, 左房内での血栓形成を阻止するしかない.抗凝固薬 であるワルファリンが心房内の血栓形成の予防にお いて有効であることは,多くの臨床試験で示されて いる.心房細動患者を対象とした抗凝固薬(ワル ファリン)とプラセボ /コントロールとの無作為比 較試験のメタ解析をみると,いずれの試験において もワルファリンのほうが優れていることが示されて いる3).一方,抗血小板薬(アスピリン)とプラセ ボ /コントロールとの無作為比較試験のメタ解析で は,アスピリンの優越性は示されていない3).日本 では JAST試験でアスピリンの有効性が評価された が,同様にアスピリンとプラセボの間では優越性が 認められなかった4).逆に,アスピリンはプラセボ に比べて大出血のリスクを増加させることが示され た.ワルファリンとアスピリンを比較したメタ解析 では,ひとつの臨床試験を除いてワルファリンのほ うが抗血栓凝固療法に適していることが示されてい る3).ACTIVE W 試験5)において,抗血小板薬 2 剤(クロピドグレル+アスピリン)とワルファリンの 塞栓症予防の効果が比較されたが,抗血小板療法を いくら強化してもワルファリンに及ばないことが立 証された.心房細動による心原性脳塞栓症を予防す るには,抗凝固薬を処方するしかないということに なる. Ⅲ.ワルファリンの問題点と新規経口抗凝固薬 の登場 ワルファリンは心原性脳塞栓症の予防において有 用であるものの,多くの問題点(使用するうえでの 煩雑さ)をかかえている.ワルファリン(ビタミン K 拮抗薬)は,血液凝固カスケードのⅡ(トロンビン), Ⅶ,Ⅸ,Xと複数の因子を阻害することで抗凝固作 用を発揮する薬剤である6).そのため,使用するう えで多くの煩雑さを伴う.定期的な採血によるモニ タリングが必要であり,かつ治療域が狭い.プロト ロ ン ビ ン 時 間 国 際 標 準 値 比(prothrombin time internationalized normalized ration:PT-INR)を 2.0 ~ 3.0 にコントロールしなければ,効果が期待 できない.低ければ塞栓のリスク,高ければ出血 のリスクを伴う.PT-INRの至適範囲時間(time in therapeutic range:TTR)を調査した研究が存在す るが,我が国では専門医でも平均 64%程度である ことが示されており7),PT-INRを十分にコントロー ルすることは難しいのが実情といえる.また,血中 半減期が約 3日と長いため,すぐに効果を発揮させ たい場合や,早々に効果を消失させたい場合には問 題となる.さらに,薬物との相互作用が多く,食事 の影響を受けやすいのも問題である.食物について は,ビタミン Kを多く含む納豆,青汁,クロレラ などの摂取制限が必要である.これらの要因は,薬 剤を服用するうえでの患者のアドヒアランスに影響 を及ぼすことが予想される. そのため,各社がしのぎを削って新規経口抗凝固 薬(novel oral anticoagulant : NOAC)の開発に乗り 出した.コンセプトとしては,心原性脳塞栓症の予 防においてワルファリンと同等もしくは優れた効果 を発揮し,かつ頭蓋内出血などの重篤な副作用の合 併が同等もしくは少なく,PT-INRのような調節指 標を必要としない抗凝固薬の開発である.直接トロ ンビン阻害薬(ダビガトラン)と Xa因子阻害薬(リ バーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンなど) がこれにあたる.それぞれの NOACの薬理学的特 徴を表 1に示す.臨床試験の設定により服用回数 は,ダビガトランとアピキサバンが2回/日,リバー ロキサバンとエドキサバンが1回/日となっている. 興味深いことに,4種類の薬剤間で半減期(10~ 12 時間前後)と服用後の最高血中濃度(2~ 3時間前後) に大差はない.排泄経路は薬剤間で異なり,ダビガ トランは主に腎臓,リバーロキサバンは主に肝臓, アピキサバンは複数の経路(肝臓,腎臓,腸管など) である.
それぞれの NOACにおいて臨床試験が企画され, 有効性と安全性の検証が行われた.ダビガトラン (150 mg または 110 mg,2 回 / 日投与)は,RE-LY 試験で脳卒中や全身性塞栓症の効果がワルファリン と比べて非劣性もしくは優越性があり(図 3)8),安 全性(主に大出血などの副作用の発現)においてもワ ルファリンと同等,もしくは少ないことが示され た.これにより,ダビガトランは NOACの先陣を 切って 2011年 3月に発売された.リバーロキサバン (20 mg,1回 /日投与)は,ROCKET AF試験でワ ルファリンに対して非劣性(同等)であることが示さ れた(図 4)9).リバーロキサバンは我が国のみで臨 床試験(J-ROCKET AF)が行われ,投与量をグロー バル試験よりも少ない量(15 mg,1回 /日投与)に 設定したことが功を奏し,安全性(副作用)に関して はグローバル試験よりも良好な結果となっている. リバーロキサバンは 2012年 4月に発売された.ア ピキサバン(5 mgまたは 2.5 mg,2回 /日投与)につ 新規経口抗凝固薬 作用機転 剤形 薬量 投与回数 適正投与量 / 日 排泄経路 禁忌 CCr 半減期 最大血中濃度 薬剤相互作用 ダビガトラン 力プセル剤 75mg・110mg 2回/日 300mg・220mg 腎:85% <30mL/min 12∼14時間 1∼3時間 P糖蛋白阻害薬 リバーロキサバン 第Xa因子阻害 錠剤 15mg・10mg 1回/日 15mg(10mg) 腎:36% <15mL/min 9∼13時間 2∼4時間 CYP3A4/ P糖蛋白阻害薬 アピキサバン 第Xa因子阻害 錠剤 5mg・2.5mg 2回/日 10mg(5mg) 腎:27% <15mL/min 8∼15時間 1∼4時間 CYP3A4/ P糖蛋白阻害薬 エドキサバン 第Xa因子阻害 錠剤 30mg・60mh 1回/日 60mg/30mg 腎:50% (不明) 9∼11時間 1∼2時間 P糖蛋白阻害薬 表 1 NOAC の薬理学的特徴の違い ダビガトラン150mg 2× ダビガトラン110mg 2× ワルファリン ダビガトラン150mg 2× ダビガトラン110mg 2× リスク比0.90 (95% CI: 0.74∼1.10) p<0.001(非劣性) p<0.001(優越性) リスク比0.65 (95% CI: 0.52∼0.81) p<0.001(非劣性) 優越性なし ワルファリン ダビガトラン 150 mg 2× ダビガトラン 110 mg 2× 6,022 6,015 6,076 5,862 5,862 5,939 5,718 5,710 5,779 4,593 4,593 4,682 2,890 2,945 3,044 1,322 1,385 1,429 リスク患者数 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.00 0 6 12 18 24 30 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0 6 12 18 追跡期間(年) 24 30 発 症 累 積 ハ ザ ー ド 図 3 直接トロンビン阻害薬(ダビガト ラン)とワルファリンの主要エン ドポイント(脳卒中または全身性 塞栓症)の発症リスクの比較: RE-LY試験 ワルファリンに対するタビガトラン通 常量(150 mg,2回 /日)の優性ならび に低用量(110 mg,2回 /日)の非劣性 が示されている. 〔文献 8)より引用改変〕
いては,ARISTOTLE試験で効果,安全性,死亡 抑制においてワルファリンに対する非劣性ならびに 優越性が示された(図 5)10).これまでの試験でもっ とも良好な結果となっている.アピキサバンも 3番 目の NOACとして 2013年 2月に発売された.エド キサバン(60 mgまたは 30 mg,1回 /日投与)を用 A プロトコール準拠解析 B 治療企図解析 0.88 95% CI : 0.74∼1.03 p 0.001 0.79 95% CI : 0.66∼0.96 p 0.001 ワルファリン リバーロキサバン 追跡期間(年) 発 症 累 積 ハ ザ ー ド リバーロキサバン ワルファリン 7,0817,090 6,8796,871 6,6836,656 6,4406,470 5,2645,225 4,1054,087 2,9512,944 1,7851,783 リスク患者数 100 90 80 ワルファリン リバーロキサバン 70 60 50 40 30 20 10 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 120 240 360 追跡期間(年) 480 600 720 840 0 0 120 240 360 480 600 720 840 発 症 累 積 ハ ザ ー ド リバーロキサバン ワルファリン リスク患者数 0 0 1 2 3 4 5 6 0 1 2 3 4 5 6 120 240 360 480 600 720 840 0 120 240 360 480 600 720 840 6,958 6,211 5,786 5,468 4,406 3,407 2,472 1,496 7,004 6,327 5,911 5,542 4,461 3,478 2,539 1,538 図 4 Xa因子阻害薬(リバーロキサバン)とワルファリンの主要エンドポイント(脳卒中または全身性塞栓症) の発症リスクの比較:ROCKET AF試験 ワルファリンに対するリバーロキサバン(20 mg,1回 /日)の非劣性が示されている. 〔文献 9)より引用改変〕 アピキサバン ワルファリン 9,1209,081 8,7268,620 8,4408,301 6,0515,972 3,4643,405 1,7541,768 0 6 12 18 24 30 0 ワルファリン アピキサバン 6 12 18 24 30 0 1 2 3 4 リスク患者数 発 症 累 積 ハ ザ ー ド 追跡期間(年) 0 6 12 18 24 30 0 0 ワルファリン アピキサバン 6 12 18 24 30 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 発 症 累 積 ハ ザ ー ド 追跡期間(年) アピキサバン ワルファリン 9,0889,052 8,1037,910 7,5647,335 5,3655,196 3,0482,956 1,5151,491 0 2 4 6 8 リスク患者数 ハザード比 0.69(95% CI: 0.60∼0.80) p<0.001(非劣性) p<0.001(優越性) ハザード比 0.79(95% CI: 0.66∼0.95) p<0.001(非劣性) p= 0.01(優越性) A 主要エンドポイント B 大出血 図 5 Xa因子阻害薬(アピキサバン)とワルファリンの主要エンドポイント(脳卒中または全身性塞栓症) および大出血の発症リスクの比較:ARISTOTLE試験 ワルファリンに対するアピキサバン(5 mgまたは 2.5 mg,2回 /日)の非劣勢ならびに優越性が示されている. 〔文献 10)より引用改変〕
いた ENGAGE AF-TIMI 48試験については,2013 年秋の学会でその結果が公表され,有効性および安 全性においてワルファリンと同等であることが示さ れた11). このように,NOACの登場で心房細動に対する 抗血栓凝固療法のあり方が大きく変わってきてお り,すさまじい勢いで非弁膜症性心房細動患者に対 する NOACの処方率が延びている. Ⅳ.ガイドラインが示す心房細動に対する 抗血栓凝固療法の指針 心房細動は致死性の不整脈ではない.そのため, 自覚症状がなく,QOLを損ねていなければ,心房 細動自体に対する治療の必要性はない.最近のガイ ドラインでは,心房細動患者の予後を左右するのは 脳塞栓症であり,仮に心房細動を放置したとして も,血栓形成を阻止する治療は必ず考慮しなければ ならないことを明記している. 1.抗血栓凝固療法の適応に関する簡易スコアの活用 我が国および米国のガイドラインでは,抗凝固薬 の適応に関して CHADS2スコアを活用することを すすめている12), 13).CHADS 2スコアとは,周知の とおり各危険因子の英語名の頭文字を並べたもので ある.このスコアでは,S(脳塞栓 /一過性脳虚血 発作の既往)を 2点,その他の CHAD(心不全,高 血圧,年齢≧ 75歳,糖尿病)を 1点とし,すべてを 合計すると 6点になる.合計点が高くなるほど年間 の脳梗塞発症率も上昇することが示されている12). 欧州心臓病学会は独自に「心房細動治療ガイドラ イン(2012 年)」を発行し,CHADS2スコアの改良 版として CHA2DS2-VASc スコアを提示している (表 2 左)14).Aを A 2 (≧ 75歳)と A(65~ 74歳)の ふたつに分け,さらに V(血管疾患),Sc(性別: 女性)を加え,すべてを合計すると 9点になる.こ
のように,CHA2DS2-VAScスコアは CHADS2スコ
アよりも,さらにワルファリンの適応を広くする指 標といえる.同学会では CHA2DS2-VAScスコアが 1点以上で抗血栓凝固療法の適応にするように推奨 している.一方で,抗血栓凝固療法施行時の大出血 のリスクを評価する HAS-BLEDスコアも導入して いる(表 2右)14).これは,最近発売された新しい直 接トロンビン阻害薬,あるいは Xa因子阻害薬が, 易出血性を判定することにおいて PT-INRのような 有用な指標がないことを考慮したことによる.これ も,すべてを合計すると 9点になる.HAS-BLED スコアが 3点以上となると,大出血の合併をきたし やすくなる. 今後は,CHA2DS2-VAScスコアで塞栓のリスク を評価し,かつ HAS-BLEDスコアで出血のリスク を考慮して,心房細動に対する抗血栓凝固療法の適 応が検討されるようになるかもしれない.しかし, このふたつのスコアを構成する指標はオーバーラッ プしているため,より混乱を招くことも予想される. 塞栓リスク:CHA2DS2-VASc スコア
Congestive heart failure 心不全 1 点 Hypertension 高血圧 1 点 Age ≧75y 年齢 75 歳以上 2 点 Diabetes mellitus 糖尿病 1 点 Stroke/TIA 脳卒中 /TIA の既往 2 点 Vascular disease 血管疾患 1 点 Age 年齢 65 ∼ 74 歳 1 点 Sex category(female) 女性 1 点 出血リスク:HAS-BLED スコア Hypertension 高血圧 1 点 Abnormal renal/liver function 異常腎 / 肝機能 1/2 点
Stroke 脳卒中 1 点
Bleeding 出血傾向 1 点
Labile INR 不安定 INR 値 1 点 Elderly ≧65y 高齢≧ 65 歳 1 点 Drugs/alcohol 薬剤 / 飲酒 1/2 点
2.新規経口抗凝固薬の使用開始後に出された 我が国のガイドライン 3種類の NOACが非弁膜症性心房細動患者に対し て実診療で使用できるようになったのを受け,日 本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン (2013年改訂版)」が 2014 年の初頭に update された (図 6)13).先に述べたように,欧州心臓病学会と異 なり,日本循環器学会では危険因子の評価として CHADS2スコアの活用を基本としている.注目す べき点は,CHADS2スコア 1点の患者の扱いである. 非弁膜症性心房細動 僧帽弁狭窄症 人工弁*2 CHADS2スコア 心不全 1 点 高血圧 1 点 年齢≧75 歳 1 点 糖尿病 1 点 脳梗塞や TIA の既往 2 点 その他のリスク 心筋症 65≦年齢≦74 血管疾患*1 ≧2点 1点 推奨 ダビガトラン リバーロキサバン アピキサバン エドキサバン*3 ワルファリン 70歳未満 INR2.0∼3.0 70歳以上 INR1.6∼2.6 推奨 ダビガトラン アピキサバン 考慮可 リバーロキサバン エドキサバン*3 ワルファリン 70歳未満 INR2.0∼3.0 70歳以上 INR1.6∼2.6 考慮可 ダビガトラン リバーロキサバン アピキサバン エドキサバン*3 ワルファリン 70歳未満 INR2.0∼3.0 70歳以上 INR1.6∼2.6 推奨 ワルファリン INR2.0∼3.0 同等レベルの適応がある場合,新規経口抗疑固薬がワルファリンよりも望ましい. *1:血管疾患とは心筋梗塞の既往,大動脈プラーク,および末梢動脈疾患などをさす. *2:人工弁は機械弁,生体弁をともに含む. *3:2013年12月の時点では保険適応未承認. 図 6 心房細動における抗血栓療法 日本循環器学会「心房細動治療(薬 物)ガイドライン(2013年改訂版)」 で示された心房細動における抗血栓 療法の指針.塞栓予防において,基 本的に CHADS2スコアを使用する ようになっている. 〔文献 13)より引用〕 (人) 70 60 50 40 30 20 10 0 0点 1点 2点 3点 4点 5点 6点 CHADS2スコア 患 者 数 全心房細動由来患者(n=245) 33% 8% 8% 25% 27% 16% 16% 1% (人) 70 60 50 40 30 20 10 0 0点 1点 2点 3点 4点 5点 6点 CHADS2スコア 患 者 数 非弁膜症性心房細動由来患者(n=216) 30% 6% 7% 24% 29% 16% 17% 1% 図 7 心原性脳塞栓症をきたした全心房細動由来患者および非弁膜症性心房細動 由来患者の CHADS2スコア別うちわけ CHADS2スコア 1点の患者の比率が高いことが示されている.
これまでのガイドラインでは,CHADS2スコア 1点 で「推奨」となる薬剤はなかったが,今回の改訂では ダビガトランとアピキサバンが「推奨」となった.そ の理由は,この 2剤が臨床試験で CHADS2スコア 1 点の患者における有用性を立証していたからであ る.一方,リバーロキサバンとエドキサバンについ ては,主に二次予防の患者(CHADS2スコア 2点以 上)を対象としていたこともあり,「推奨」ではなく 「考慮可」となった.ワルファリンも同様の扱いと なっているが,位置づけとしては NOACの下に記 載されている.加えて,我が国のガイドラインで は,CHA2DS2-VAScスコアの因子である年齢(65~ 75歳),血管疾患,(日本に多い)心筋症を,危険因 子として別枠で取り扱っているのも特記すべき点と
Favours NOAC Favours warfarin
0.5 1.0 2.0
Favours NOAC Favours warfarin
0.5 1.0 2.0
Favours NOAC Favours warfarin NOAC(events) Warfarin(events) RE-LY 134/6076 199/6022 ROCKETAF 269/7081 306/7090 ARISTOTLE 212/9120 265/9081 ENGAGE AF-TIMI 48 296/7035 337/7036 Combined(random) 911/29312 1107/29229 RR(95% CI) p 0.66(0.53-0.82) 0.0001 0.88(0.75-1.03) 0.12 0.80(0.67-0.95) 0.012 0.88(0.75-1.02) 0.10 0.81(0.73-0.91) <0.0001 NOAC(events) Warfarin(events) RE-LY 375/6076 397/6022 ROCKET AF 395/7111 386/7125 ARISTOTLE 327/9088 462/9052 ENGAGE AF-TIMI 48 444/7012 557/7012 Combined(random) 1541/29287 1802/29211 RR(95% CI) p 0.94(0.82-1.07) 0.34 1.03(0.90-1.18) 0.72 0.71(0.61-0.81) <0.0001 0.80(0.71-0.90) 0.0002 0.86(0.73-1.00) 0.06
Pooled NOAC Pooled warfarin
(events) (events) Efficacy Ischaemic stroke 0665/29292 0724/29221 Haemorrhagic stroke 0130/29292 0263/29221 Myocardial infarction 0413/29292 0432/29221 All-cause mortality 2022/29292 2245/29221 Safety Intracranial haemorrhage 0204/29287 0425/29211 Gastrointestinal bleeding 0751/29287 0591/29211 0.92(0.83-1.02) 0.10 0.49(0.38-0.64) <0.0001 0.97(0.78-1.20) 0.77 0.90(0.85-0.95) 0.0003 0.48(0.39-0.59) <0.0001 1.25(1.01-1.55) 0.043 RR(95% CI) p 0.2 0.5 1 2 A B C 図 8 新規経口抗凝固薬(NOAC)とワルファリンの有効性および安全性を比較したメタ解析と NOAC全体の特徴 A:有効性(脳卒中 /全身性塞栓症の予防)の比較,B:安全性(大出血の合併)の比較,C: NOAC全体の特徴
NOACはいずれも通常量で使用した場合の結果が示されている.リバーロキサバンについては,日本では J-ROCKET AFで個 別に 3/4量(15 mg/日)で評価している. NOACはいずれもが有効性および安全性において,ワルファリンと同等もしくは優性 の効果がある.
いえる. 我々は,心房細動で実際に心原性脳塞栓症をきた した患者における評価で,CHADS2スコアが 1点ま たは 0点が 33%を占めていたことを報告している (図 7)2).特に,CHADS 2スコア 1点の患者が全体 の 25%を占めていた.このデータからも,CHADS2 スコア 1点の心房細動患者に対して抗血栓凝固療法 を行う意義は大きいと考えられる. Ⅴ.新規経口抗凝固薬の特徴を評価した メタ解析と使用するうえでの注意点 NOACの臨床試験の結果をもとに,NOACとワ ルファリンの間で有効性(脳卒中 /全身性塞栓症の 予防)と安全性(大出血の合併)について比較検証し たメタ解析の結果が報告されている15).NOACは, ワルファリンと比べて有効性,安全性ともに高いこ とがわかる(図 8A,B).安全性において最も注目 すべき点は,いずれの NOACも頭蓋内出血の合併 がワルファリンに比べて圧倒的に少ないことである (図 8C).日本人を含めたアジア人は,白人,黒人 あるいはヒスパニックよりも頭蓋内出血が多いとさ れている16)が,抗凝固薬の使用で重篤な頭蓋内出 血の合併を回避したい場合は,NOACを選択した ほうが良いことになる.逆に,NOACがワルファ リンに比べて劣る点は,消化管出血の合併が有意に 多いことである.しかし,アピキサバンおよびダビ ガトラン(低用量)については,ワルファリンと同等 もしくはやや少ない傾向となっているため,消化管 出血の既往のある患者ではこの点を考慮して薬剤を 選択すれば良い. NOACを安全かつ効果的に使用するには,知っ ておくべき幾つかのポイントがある(表 3).一般論 として,高齢者(> 80 歳),腎機能障害者(CCr < 30(50)mL/min),低体重者(< 50 kg),易出血性 の患者(抗血小板薬併用など),消化管出血の既往の ある患者,全身状態の悪い患者などは,使用する際 に(定められた投与範囲内で)低用量を心掛ける.前 3つの年齢(Age),腎機能(Kidney/Creatinine),体 重(Body)は,とりわけ重要である.頭文字をとっ て AKBもしくは ABCと覚えると良いだろう. ・ 高齢者(>80歳) ・ 腎機能障害者(CCr<30(50)mL/min) ・ 低体重者(<50kg) ・ 易出血性の患者(抗血小板薬併用など) ・ 消化管出血の既往のある患者 ・ 全身状態の悪い患者 表 3 新規経口抗凝固薬を安全かつ 有効に使用する際のポイント 〔文 献〕 1 ) 小林祥泰 (編):脳卒中データバンク 2009, 中山書店,東 京,2009 2 ) 宮越 睦,池田隆徳,星田京子,柳澤亮爾,三輪陽介, 石黒晴久,塚田雄大,阿部敦子,米良尚晃,柚須 悟, 吉野秀朗,西山和利,栗田浩樹,塩川芳昭:脳卒中セ ンターに搬送された非弁膜症性心房細動由来の心原性 脳塞栓患者における危険因子からみた CHADS2スコア の成因・意義について.Pharma Medica, 2011 ; 29 : 189~ 193
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