第8回 登記識別情報、第三者の許可・同意・承諾を証する情報 2 登記識別情報 (1)意義 ・登記識別情報とは、22 条本文の規定により登記名義人が登記を申請する場合におい て、当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられ る符号その他の情報であって、登記名義人を識別できるものをいう(2 条 14 号)。 ・登記識別情報は、アラビア数字その他の符号の組合せであり、不動産および登記名 義人となった申請人ごとに定められる(規則 61 条)。 書面により通知される場合の登記識別情報記載例 登記識別情報通知 次の登記の登記識別情報について、下記のとおり通知します。 【不動産】 A 市 A 町一丁目 1 番 1 の土地 【不動産番号】 123456789012 【受付年月日・受付番号(又は順位番号)】 平成 21 年 8 月 1 日受付 第 810 号 【登記の目的】 所有権移転 【登記名義人】 B 市 B 町二丁目 2 番 2 号 甲野 一郎 (以下余白) ※下線のあるものは抹消事項であることを示す。 記 登記識別情報 - - - 平成 21 年 8 月 3 日 A 法務局 B 出張所 登記官 登記 太郎 職印 1 1 A 2 2 B 3 3 C 4 4 D 登記識別情報の部分には目隠しシールが貼られてお り、はがすと貼り直しができない。本人以外の者が シールをめくった場合でも、その痕跡が明らかにな るようにされている。
(2)登記識別情報の通知 ① 通知 登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合におい て、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申 請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない(21 条本文)。 ② 相手方 (ア)法定代理人等 ・法定代理人または法人の代表者が登記を申請した場合は、その法定代理人または 法人の代表者に通知がされる(規則 62 条 1 項)。 (イ)委任を受けた代理人 ・登記識別情報の通知を受けるための特別の委任を受けた者がいるときは、その代 理人に対して通知することができる(規則62 条 2 項)。 (3)登記識別情報が通知される場合とされない場合 ① 登記識別情報は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場 合に通知される。つまり登記名義人とならない者に対しては登記識別情報は通知さ れない(21 条本文)。これは、登記識別情報が後の登記手続において登記名義人を 識別するための情報であるからである。 (ア)通知される場合 (イ)通知されない場合 所有権移転登記の登記権利者 所有権移転登記の抹消の登記権利者 抵当権・地上権等設定登記の抵当権者・ 地上権者等 ・ 地役権設定登記の地役権者 ・ 抵当権・地上権等の抹消回復登記の場 合の抵当権者・地上権者等 抵当権・地上権等移転登記の登記権利者 極度額増額等記や債務者の変更登記 A→B、B→C の所有権移転登記を連件で 申請する場合、登記完了時点で既に登記 名義人でないB に対しても通知がされる A から B への所有権移転登記を B に代位 して A と共同で申請した B の債権者 C A 単独の所有権保存登記を A・B 共有に更 正する登記の申請人となるB A から B への所有権移転登記を所有権一 部移転(持分 2 分の 1)とする更正登記の 申請人となるA A・B 共有の所有権保存登記を B 単独に更 正する登記の申請人となるB 抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更 登記 A から B への所有権一部移転(持分 2 分 の1)登記を所有権移転(全部移転)とす る更正登記の申請人となるB 抵当権設定の登記をA持分の抵当権設定 登記とする抵当権更正登記 権利能力なき社団の代表者変更の場合に おける委任の終了 登記名義人の氏名・住所の変更登記の申 請人
② 登記名義人であっても、申請人でない者に対しては、登記識別情報の通知はされ ない。具体例は次のとおり。 ・共有物の保存行為(民法252 条ただし書)として共有者の 1 人が所有権保存登記を 申請した場合における他の共有者。 ・共同相続人の1 人が申請した相続登記における他の相続人。 ・所有権の登記のない不動産に処分制限の登記の嘱託登記がなされ、登記官が職権で 所有権保存登記をしたときの登記名義人。 ③ 官公署の嘱託登記における例外的取扱 ・官公署が登記権利者の場合には登記識別情報は原則として通知されない(規則 64 条1項4号)。 ・官公署が登記義務者として登記の嘱託をした場合には登記権利者のための登記識別 情報は官公署に通知され(117 条1項)、当該官公署から登記権利者に通知される (117 条2項)。 (4)通知の方法 ① 電子申請の場合 ・登記官が登記識別情報を送信し、これを申請人または代理人がダウンロードする方 法による(規則63 条 1 項 1 号)。ただし当面、法務大臣の定める方法として、登記 識別情報通知書の交付を申し出ることができる(H20・1・11 民二 57 号通達) ・官公署が登記権利者のために登記の嘱託をしたときは、官公署の申出により、登記 識別情報通知書の交付を求めることができ、送付の方法による交付を求めることも できる(規則63 の 2 第 1 項)。 ② 書面申請の場合 ・登記識別情報を記載した書面を交付する方法による(規則63 条 1 項 2 号)。 ・官公署が登記権利者のために登記の嘱託をしたときは、官公署の申出により、送付 の方法により登記識別情報通知書の交付を求めることができる(規則 63 の 2 第 1 項)。 ・①②とも送付の方法よる交付を求める場合は、申請人はその旨および送付先を申請 情報に記載する(規則 63 条 3 項)。官公署はその旨および送付先を嘱託情報に記載 する(規則 63 条の 2 第 1 項)。 (5)通知を要しない場合 ① 登記識別情報の通知を受けるべき者が、あらかじめ通知を希望しない旨の申出を した場合(21 条、規則 64 条 1 項 1 号)。 ② 電子申請において、登記識別情報の送信が可能となった時から 30 日以内に通知 を受けるべき者がダウンロードしない場合(規則 64 条 1 項 2 号)。
③ 書面申請において登記完了の時から3ヶ月以内に登記識別情報を記載した書面を 受領しない場合(規則64 条 1 項 3 号)。 ④ 登記識別情報の通知を受けるべき者が官公署である場合(規則64 条 1 項 4 号)。 ただし当該官公署があらかじめ登記識別情報の通知を希望した場合を除く。 (6)再通知の可否 ・登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした、あるいは一定期間内に通知を受 けなかったことにより登記識別情報の通知がされなかったときは、その後再通知を 申し出ることはできない。 ・登記識別情報を通知されていない登記名義人が、その後登記義務者となって新たな 登記を申請するには事前通知等の方法(23 条)による。 (7)登記識別情報の失効の申出 ・登記名義人またはその相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、通知を受けた 登記識別情報について失効の申出をすることができる(規則65 条 1 項)。この申出 は所定の事項を内容とする申出情報を登記所に提出することにより、いつでもする ことができる(規則65 条 2 項)。登記識別情報の管理に不安がある場合のために設 けられた制度である。 ・申出は電子申請または書面申請のいずれかによる(規則65 条 3 項)。 ・申出は一つの不動産ごとに申し出なければならない(規則65 条 6 項、令 4 条)。 ・申出においては、登記識別情報を提供することを要しない。 ・登記名義人の氏名若しくは名称又は住所に変更又は錯誤がある場合にはそれを証す る情報を提供しなければならない(規則 65 条 4 項)。 ・登記名義人の相続人その他の一般承継人が申し出をする場合には一般承継があった ことを証する情報を提供しなければならない(規則 65 条 5 項)。 ・失効の申出は共同相続人のうち1人からもすることができる。 ・失効の申出後は再通知を求めることはできない。 ・登記識別情報が失効した登記名義人が、その後登記義務者となって新たな登記を申 請するには事前通知等の方法(23 条)による。 (8)登記識別情報に関する証明 ・登記名義人またはその相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付 して登記識別情報が有効であることの証明その他の登記識別情報に関する証明を 請求することができる(令 22 条 1 項) ・証明の請求は所定の事項を内容とする有効証明請求情報を登記所に提出してする (規則68 条 1 項)。 ・下記①の請求においては登記識別情報を提供しなければならない(規則68 条 2 項)。 ・請求は電子申請または書面申請のいずれかによる(規則68 条 3 項)。
・登記官は令 22 条 1 項に規定する登記識別情報に関する証明の請求があった場合に おいて、請求にかかる登記を表示した上、次のように認証文を付す。 ① 登記識別情報が有効であることの証明 (ア)証明できる場合(準則40 条 1 項本文) 事由 認証文 提供された登記識別情報が請求にかかる 登記についてのものであり、かつ失効し ていないとき 「上記の登記について平成何年何月何日 受付第何号の請求により提供された登記 識別情報は、当該登記に係るものであり、 失効していないことを証明する。」 (イ)登記識別情報が有効であることの証明できない場合(準則40 条 1 項1~5 号に 様々な事由が挙げられているが、例として2 号) 請求に係る登記があるが、当該登記の登 記名義人についての登記識別情報が通知 されずまたは失効しているとき 「上記の登記に係る登記識別情報が通知 されず、又は失効しています。」 ② 登記識別情報が通知されていないことまたは失効していることの証明 (ア)証明できる場合(準則40 条 2 項本文) 請求に係る登記名義人についての登記識 別情報が通知されず、または失効してい るとき 「上記の登記に係る登記識別情報が通知 されず、又は失効しています。」 (イ)登記識別情報が通知されていないことまたは失効していることの証明ができな いとき(準則40 条 2 項1~4 号に様々な事由が挙げられているが、例として 1 号) 請求に係る登記があるが、当該登記の登 記名義人についての登記識別情報が通知 され、かつ失効していないとき 「上記の登記について平成何年何月何日 受付第何号の登記識別情報に関する証明 の請求については、次の理由により、証 明することはできません。 当該登記にかかる登記識別情報が通知 され、かつ失効していません。 (注)この証明は、上記請求において登 記識別情報が通知されていないため、当 該登記に係る登記識別情報が通知され、 かつ失効していない事実のみを証明する ものであり、特定の登記識別情報が当該 登記に係る登記識別情報として有効であ ることを証明するものではありません。」
(9)登記完了証 ・登記が完了しても、登記識別情報は必ずしもすべての申請人に通知されるわけでは ない。そこで登記官は登記を完了したときは、申請人に対して登記完了証を交付す ることにより、登記が完了した旨を通知しなければならない(規則 181 条1項)。 ・申請人が 2 人以上であるときは、その 1 人(登記権利者および登記義務者が申請人 であるときは、登記権利者および登記義務者の)各1人に通知すればよい(規則181 条2 項)。 ・交付は、電子申請の場合は登記官が登記完了証を送信し、これを申請人または代理 人がダウンロードする方法による(規則 182 条 1 項 1 号)。書面申請の場合は登記 完了証を書面で交付する方法による(規則182 条 1 項 2 号)。 ・登記完了証の交付を不要とする申出はできない。 (10)登記識別情報の提供 ① 総説 ・共同申請により登記を申請する場合、法令に別段の定めのない限り、登記義務者の 登記識別情報を提供することが必要となる(22 条)。 ② 提供方法 ・電子申請による場合は、登記識別情報を暗号化して、オンラインで提供する(規則 66 条 1 項 1 号) ・書面申請による場合は、登記識別情報通知書を封筒等に入れて封をし、これに登記 識別情報を提供する申請人の氏名(名称)・登記の目的に加え、「登記識別情報在中」 のように記載して提出する(規則66 条 1 項 2 号・2 項・3 項) (11)提供が必要とされる場合 ・登記識別情報の提供は、すべての登記申請において要求されるわけではない。提供 が必要なのは、①共同申請により登記を申請する場合および、②登記名義人が政令 で定める登記を申請する場合である(22 条本文)。 ① 共同申請により登記を申請する場合 ・登記権利者と登記義務者の共同申請により登記を申請する場合には、登記義務者の 登記識別情報の提供が必要である。登記義務者の本人確認のためであり、これが原 則である。 ② 登記名義人が政令で定める登記を申請する場合 ・共同申請ではないが、これらの登記については、登記識別情報の提供が必要となる (令8 条 1 項)。 (ア)単独申請による登記の一部 ・所有権保存登記の抹消(令 8 条 1 項 5 号、77 条) ・仮登記名義人が単独で申請する仮登記の抹消(令 8 条 1 項 8 号)
(イ)合同申請による登記のすべて ・共有物分割禁止の定めの登記(令 8 条 1 項 4 号、65 条) ・抵当権等の順位変更登記(令8 条 1 項 6 号、89 条 1 項) ・根抵当権の優先の定めの登記(令 8 条 1 項 7 号、89 条 2 項) (12)提供が不要な場合 ① 単独申請の登記 ・単独申請による登記については、上記(11)②(ア)以外は、提供を要求する規定 が存在せず、登記識別情報の提供は不要である。代表的な例は、次のとおりである。 (ア)所有権保存(74 条) (イ)包括承継による権利の移転登記(63 条 2 項) (ウ)権利者の死亡による権利の抹消登記(69 条) (エ)登記義務者の行方不明の場合の抹消登記(70 条) (オ)仮登記義務者の承諾がある場合にする仮登記(107 条 1 項) (カ)仮登記を命ずる処分がある場合にする仮登記(107 条 1 項) (キ)仮登記の登記上の利害関係人が、仮登記名義人の承諾がある場合にする仮登 記の抹消(110 条) ② 22 条本文の適用が排除されている共同申請の登記 ・共同申請による登記でも、次の2つについては例外的に登記識別情報の提供が不要 となる。 (ア)建物新築の不動産工事の先取特権の保存登記(86 条1項) ・この登記は、建物所有者となるべき者を登記義務者とみなし、登記権利者である 不動産工事の先取特権者との共同申請になる。しかし、この登記は建物の所有権 保存登記がなされる前に行われるので、登記義務者である建物所有者に登記識別 情報はなく(登記名義人にはなっていない)、提供は不要とされている。 (イ)仮登記の登記権利者と登記義務者が共同して仮登記を申請する場合(107 条 2 項) ・仮登記の申請は、上記(12)①の(オ)および(カ)のように仮登記義務者の承 諾や仮登記を命ずる処分がある場合は単独申請となるが、それ以外は原則どおり 共同申請によって行う。したがって、22 条によれば登記識別情報の提供が必要な はずである。 ・しかし、仮登記は本登記の順位を保全するものであり、いまだ終局的な効力のな い予備的な登記のため、本登記ほど厳格な方法で登記の真正担保の必要がないと され、たとえ共同申請による場合でも、仮登記義務者に登記識別情報を提供させ る必要はない(107 条 2 項で 22 条本文の適用を排除)。 ③ 政令で定める登記の例外に該当する場合
・(11)②で挙げた政令で定める登記に関しても、例外的に登記識別情報の提供が不 要となる場合がある(令8 条1項ただし書)。 (ア)確定判決による登記 ・政令で定める登記が確定判決による登記の場合は、登記識別情報の提供は不要と なる(令8条1項ただし書)。 ・これは、政令で定める登記の単独申請・合同申請の登記(令 8 条 1 項各号)につ いて確定判決を得て行う登記である。例えば、A 所有の建物に B が勝手に自己名 義の所有権保存登記をしたので、A がその登記の抹消(令 8 条 1 項 5 号)を命ず る確定判決を得て、B 名義の登記を抹消するような場合がこれに当たる。 (イ)官公署の嘱託による登記(116 条) ・政令で定める登記が官公署の嘱託登記の場合も、登記識別情報の提供が不要とな る(令 8 条 1 項ただし書類推)。官公署が直接行う登記なので信頼性が高く、虚 偽登記がなされる恐れがないためである。 ④ 提供が省略される場合 ・①~③では、提供を不要とするのに対し、次の場合は提供を省略できる。すなわち、 同一の不動産に関する複数の権利に関する登記が前後関係を明らかにして同時に 申請された場合(連件申請)に、前の登記により登記名義人となる者が、後の登記 の登記義務者となるときは、後の登記に関する登記識別情報が提供されたとみなさ れる(規則 67 条)。 (ア)買戻特約の登記 ・例えば、売主である所有権登記名義人A と買主 B が売買契約の際に買戻特約をし た場合、登記義務者A から登記権利者 B への所有権移転登記を申請すると同時に、 買戻特約の登記を申請する。 ・買戻特約の登記は、所有権移転登記と逆に、A が登記権利者、B が登記義務者と なり、B の登記識別情報(1件目の所有権移転登記により登記名義人となる B に 通知されるもの)を提供する。 ・しかし、所有権移転と買戻特約の登記は同時に申請しなければならないため、買 戻特約の登記申請の時点では、まだB の登記識別情報は B に通知されてはいない。 そのため、このような処理が認められる。 (イ)不動産売買の先取特権の保存登記 ⑤ 22 条ただし書に該当する場合 ・ 以上のように単純に登記識別情報の提供が不要となる場合に対し、他の本人確認 制度によるべきとされる場合がある。登記識別情報が通知されなかった場合(21 条ただし書)その他の申請人が登記識別情報を提供できないことにつき正当な理 由がある場合がこれに当たる(22条ただし書)。 ・ 正当な理由とは、下記の場合をいう(準則42)
①登記識別情報が通知されなかった場合 ②登記識別情報の失効の申し出に基づき、登記識別情報が失効した場合 ③登記識別情報失念した場合 ④登記識別情報を提供することにより登記識別情報を適切に管理するうえで支障 が生ずることとなる場合(分筆等) ⑤登記識別情報を提供したとすれば申請に係る不動産の取引を円滑に行うことが できないおそれがある場合(多数で時間が掛かる等) 3 登記済証 (1)総説 ・全ての登記所がオンライン指定庁となった現在では、電子申請、書面申請のどちら の方法で登記を申請したとしても、登記識別情報の通知や、登記完了証の交付等の 処理がなされ、登記済証が発行されることはない。 ・しかしオンライン未指定庁において発行された登記済証が無効となるわけではなく、 登記済証が存在する権利について、オンライン指定庁で初めて登記を申請する際に は登記済証を添付して本人確認を行う(附則 7 条)。 (2)意義 ・登記済証とは、オンライン未指定庁において、登記が完了したときに登記官から登 記済の旨を記載して登記権利者に還付された書面である(規則附則 15 条 3 項、旧 法60 条 1 項) ・登記済証は登記識別情報と同様、以後の登記申請における本人確認のためのもので あったが、登記の完了を通知するという機能も兼ねていた。 (3)登記済証に関する先例 ・上記のように、登記済証には以後の登記申請において提出できるものとできないも のがある点に注意が必要である。以下はその点が問題となった先例である。 ① A・B 共有の不動産の共有物分割により、A は甲土地、B は乙土地につき各単有 の所有権取得の登記を受けた場合、甲土地の所有権に関する登記済証とは、下記登 記記録の①の AB 共有の所有権取得の登記済証と、②の共有物分割の登記の登記済 証とを併せたものである(S37・11・29 民甲 3422 号回答) 甲土地の登記記録(甲区) 2 所有権移転 X 3 ① 所有権移転 持分2 分の 1 A 持分2 分の 1 B 4 ② B 持分全部移転 原因 共有物分割 持分2 分の 1 A
② 買戻特約の登記がされた後、当事者間に買戻代金減額の合意が成立した場合にお いて、買戻権変更の登記を申請するときは、申請書に、登記義務者である所有権登 記名義人の所有権取得の登記の際の登記済証を添付する。 ③ 官公署が登記権利者のために登記を嘱託した場合には、当該官公署が登記済証の 還付を受け、それが遅滞なく登記権利者に交付される(規則附則15 条 3 項、旧 61 条)ので、当該登記済証は以後、本人の登記済証として利用することができる。 ④ 債権者代位権の行使によりなされた代位登記の場合、登記済証は代位者に交付さ れ、登記権利者には交付されない。つまり、登記名義人となった被代位者はこの登 記済証を持っていないため、以後の登記申請においての登記済証とはならない。 ⑤ 破産管財人が、破産財団に属する不動産を任意売却し、その所有権移転登記を申 請する場合には、破産者の権利に関する登記済証の添付を要しない(S34・5・12 民甲 929 号通達) ⑥ 共同相続人AB全員のため、その1人Aが保存行為として共同相続による所有権移 転登記を申請した場合、登記済証は申請人Aに対しAB共有のものとして1通交付さ れる。この登記済証は、AB共に以後の登記申請の際に提出できる(S40・9・22民 甲2822号回答)。 ⑦ 相続財産法人が登記義務者となり、相続財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許 可書を添付して登記の申請をする場合は、登記義務者の権利に関する登記済証の添 付を要しない。 ⑧ 甲単有の不動産を甲、乙の共有とする所有権の更正登記をした後における甲また は乙についての権利に関する登記済証は、甲については甲単有の登記済証であり、 乙については右更正登記の登記済証である(S40・10・2 民甲 2852 号回答)。 4 登記識別情報(登記済証)を提供できない場合 (1)総説 ・登記権利者および登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合、そ の他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には申請人はその申請情 報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければならない(22 条本文)。 ・しかし、登記名義人となる申請人があらかじめ通知を希望しない旨の申出をした 場合(21 条ただし書)、その他申請人が登記識別情報を提供できないことにつき 正当な事由がある場合は、登記識別情報の提供がなくても申請が却下(25 条 9 号)されることはない。 ・このような、登記識別情報を提供できない場合に用いられる本人確認のための手 続が事前通知および資格者代理人による本人確認情報の提供(23 条)である。
(2)登記済証(登記識別情報は前記)を提供できない場合の具体例 ① 登記済証登記名義人となる申請人が登記識別情報の通知を希望しない旨の申出 をしたため、登記官から登記済証登記識別情報の通知を受けなかった場合(21 条 ただし書、附則8条)。 ② 登記済証の滅失、紛失(通達第1-3(1)イ)。 ③ 登記義務者が現に登記済証を所持していない場合(通達第1-3(1)ウ)。 (3)事前通知制度の流れ 登記識別情報(登記済証)を提供できない登記申請 登記義務者の登記記録上の住所に 対する事前通知書の送付 事前通知の受領 却下 通知を受けた登記義務者の間違いない旨の申出 登記の実行 却下 事前通知が省略できる場合 無 無 (4)事前通知の方法 ・事前通知は、登記義務者の登記記録上の住所に書面を送付してなされる(規則 70 条1項)。 ・通知のあて先・方法は次のとおりである(規則70 条 1 項各号・準則 43 条 2 項)。 登記義務者 あて先 方 法 期間 自然人 登記記録上の住所 法人(法人の代表者の住 所あての送付希望の申出 をした場合) 申 請 人 が 申 し 出 た 代 表 者 の 住 所 ( 商 業 登 記 簿 の 記 録 と 異 な る 場 合には、登記簿の記録場所) 本 人 限 定 受 取 郵便 法人 登記記録上の本店・主たる事務所 2週間 外国在住者 登記記録上の外国の住所 書 留 郵 便等 4週間
・事前通知は、電子申請・書面申請を問わず書面でなされる。これは、オンラインに よって通知した場合どこでも受領できてしまうため、通知のあて先である現在の登 記記録上の住所に本人が間違いなく住んでいることを確認できないためである。 (5)前住所への通知 ① 前住所への通知が必要な場合 ・登記識別情報(登記済証)を提供せずに所有権に関する登記の申請がなされた場合 において、登記義務者の住所についての変更登記がなされているときは、法務省令 で定める場合を除き、変更登記後の住所あての通知をするほか、変更登記前の住所 にあてても通知をしなければならない(23 条 2 項)。 ・これは、本人になりすまして不正な登記をしようとする者が、虚偽の本人の住所変 更登記をして、変更後の住所で事前通知を受け取ることを防ぐためである。 ② 前住所への通知の方法 ・前住所への通知は転送を要しない郵便物として書面を送付する方法またはこれに準 ずる方法による(規則71 条 1 項)。 ③ 法務省令で定める前住所への通知が不要な場合(規則71 条 2 項各号) (ア)登記義務者の住所についての変更・更正の登記の登記原因が、行政区画もしく はその名称または字もしくはその名称についての変更または錯誤もしくは遺漏 である場合。 (イ)登記の申請の日が登記義務者の住所についてされた最後の変更・更正登記の申 請に係る受付の日から3 か月を経過している場合。 (ウ)登記義務者が法人である場合 (エ)資格者代理人による本人確認情報の提供があった場合において、当該本人確認 情報の内容により申請人が登記義務者であることが確実であると認められる場 合。 (6)通知に対する申出 ・登記官からの事前通知がなされた場合、登記義務者が一定期間内に、申請の内容が 真実である旨の申出をすることによって、登記が実行される(23 条 1 項)。 ① 申出期間 ・通常は登記官が事前通知を発した日から2 週間である(規則 70 条 8 項)。 ただし、登記義務者の住所が外国にある場合には4 週間である(同ただし書) ② 申出の方法 ・登記申請が電子申請で行われた場合には登記義務者の申出もオンラインですること を要する。登記申請が書面で行われたのであれば、申出も書面によって行う(規則 70 条 5 項)。
③ 申出人 ・申出は通知を受けた登記義務者が行う。 (ア)通知を受けるべき者が死亡した場合 ・その相続人全員から相続があったことを証する情報を提供して申出をすることが できる(準則46 条 1 項)。 (イ)法人の代表者に事前通知した場合 ・その法人の他の代表者から申出をすることもできる(準則46 条 2 項)。 ・登記申請当時は代表者であったが、申出をする前に代表権を喪失していることが 明らかな場合、その前代表からの申出は受理されない(S53・12・19 民三 6722 号回答) (ウ)登記義務者が未成年者である場合 ・登記義務者が未成年者である場合の事前通知は、親権者が申請代理人の場合はそ の親権者に、また未成年者本人が申請人である場合は、その未成年者本人に発送 する(S36・1・14民甲20号回答)。 ・未成年者本人が申請人であり、未成年者に対して通知がされた場合は、未成年者 から申出をすることを要する。親権者から申出をすることはできない(S36・1・ 14 民甲 20 号回答)。 ・登記義務者が未成年者であり親権者が申請を代理していたが、申出までに登記義 務者が成年に達した場合、本人からの申出は有効である(S36・1・14 民甲 20 号 回答)。 ④ 登記の実行 ・事前通知制度によるべき登記の申請があった場合、その登記が実行されるのは申出 があった後であるが、申請の受付は申請時にされ、順位はその時点で確保される。 (7)事前通知が省略できる場合 ・登記識別情報を提供せずに登記の申請がなされた場合、登記の実行の前に、登記官 は登記義務者に対して事前通知をすることを要するが、以下の場合には事前通知を 省略することができる(23 条 4 項)。 ① 司法書士等、登記の申請の代理を業とすることができる代理人(以下「資格者代 理人」という)が登記義務者を代理して当該登記を申請した場合において、その資 格者代理人が、当該申請人が登記義務者本人であることを確認するために必要な情 報の提供を受け、かつ登記官がその内容を相当と認めるとき(23 条 4 項 1 号)。 ・本人確認をすることができる資格者代理人は、当該申請を代理する代理人に限られ る。 ② この登記の申請情報(代理人による場合は代理権限証明情報)について、公証人 から、当該申請人が登記義務者本人であることを確認するために必要な認証がなさ れ、かつ登記官がその内容を相当と認めるとき(23 条 4 項 2 号)。
5 登記原因につき第三者の許可、同意または承諾を証する情報 (1)総論 ・登記原因について第三者の許可、同意または承諾を要するときは、申請情報と併せ てその許可等を証する情報を提供することを要する(令 7 条 1 項 5 号ハ)。 ・具体的には以下のような場合である。 ① 第三者の許可等が登記原因たる法律行為の効力要件となっている場合 (例)・農地の売買による所有権移転 → 農業委員会等の許可(農地法3 条 1 項) ・確定前の根抵当権の譲渡 → 根抵当権設定者の承諾(民法398 条の 12) ・この許可等は登記原因日付に影響を与える。例えば、農地法の許可は権利変動の有 効要件なので、許可がなければ登記原因である法律行為の効力が発生しない。した がって、農地の売買契約が許可の前にされている場合は、売買契約の日ではなく、 許可書が到達した日に所有権が移転し、その日が原因日付となる。逆に、農地法の 許可が先にされ、その後に売買契約がされた場合は、売買契約日が原因日付となる。 売買契約日 許可書の到達日 原因日付 許可書の到達日 売買契約日 原因日付 ② 第三者の許可等がなければ、登記原因たる法律行為について取消事由が存するこ ととなる場合 (例)・未成年者の法律行為 ・法律行為の取消しによって、実体法上の権利変動が遡って無効となることにより(民 法 121 条)登記も無効となる。これは取引の安全を害することにつながるため、未 成年者のなした法律行為を原因として登記を申請するには、当該法律行為について の法定代理人の同意を証する情報を提供しなければならない(S22・6・23 民甲 560 号通達)。 ・この許可等は原因日付に影響を与えない。例えば、未成年者が自己所有の土地を第 三者に売却した場合は、後日、法定代理人である親権者が同意をすれば、売買契約 は契約の当初から確定的に有効となり、原因日付は同意の日ではなく売買契約日と なる。 売買契約日 原因日付 法定代理人が同意した日
(2)農地法の許可を証する情報 ・農業生産力の安定を図る趣旨から、農地の権利移転や転用には農地法の許可を必要 とするとして、一定の規制がかけられている。 ・農地法の規制には次の3 種類がある。 (ア)権利移動の制限(農地法3 条) ・農地または採草放牧地について所有権を移転し、または用益権を設定し、もしく は移転する場合には、当事者は許可を受けなければならない。 (イ)転用の制限(農地法4 条) ・農地を、農地以外のものにする者は、許可を受けなければならない。 (ウ)転用のための権利移動の制限(農地法5 条) ・農地を農地以外のものにするため、または採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農 地を除く)にするため、これらの土地について所有権を移転し、または用益権を 設定し、もしくは移転する場合には、当事者は許可を受けなければならない(法 5 条 1 項)。 ① 農地法の許可を証する情報の提供の要否 ・すべての権利変動に、農地法の許可が必要となるわけではない。原則として申請人 の意思によらない場合(相続など)には不要、申請人の意思による場合(契約など) には必要となる。以下個別に検討する。 (○=必要 ×不要) (ア) 相続 × (イ) 合併・会社分割 × 特定遺贈 ○ (ウ) 包括遺贈 × 贈与 ○ (エ) 死因贈与 ○ 遺留分減殺 × 遺産分割 × (オ) 遺産分割による贈与 ○ 協議による財産分与 ○ 裁判・調停による財産分与 × (カ) 民法 958 条の 3 の審判(特別縁故者への財産分与) × 共有物分割 ○ (キ) 共有者の持分放棄 × 合意解除 ○ (ク) 法定解除 × 売買 ○ (ケ) 買戻権の行使 ○
真正な登記名義の回復(従前の登記名義人へ) × (コ) 真正な登記名義の回復(従前の登記名義人以外へ) ○ (サ) 委任の終了 × (シ) 民法 646 条第 2 項による移転 ○ (ス) 時効取得 × (セ) 土地収用法による収用 × (ソ) 農業協同組合への信託 × 相続分の譲渡(共同相続人から第三者へ) ○ (タ) 相続分の譲渡(共同相続人間) × (チ) (強制)競売による売却 × (ツ) 錯誤による抹消 × 錯誤による更正 A 名義 → AB 共有名義 ○ 上記 A 名義、AB 共有名義への移転の原因が相続であった場合 × 持分の更正 × (テ) 登記原因の更正 × 農地の地下に工作物等を設置するための地上権・地役権の設定 ○ 空中の使用(電線など)を目的とする地役権の設定 × 抵当権の設定 × (ト) 不動産質権の設定 ○ (ア)相続 ・相続は、死亡によって被相続人の財産に属した一切の権利義務が法律上当然に相 続人に承継される包括承継であり(民法 896 条)、申請人の意思によるものでは ないため、許可は不要である。 (イ)合併・会社分割 ・相続と同様、意思表示によらない権利移転のため、許可は不要である。 (ウ)特定遺贈・包括遺贈 ・特定遺贈による農地の所有権移転は遺言者の意思表示に基づく農地の移転である から農地法の許可を要する。 ・包括遺贈を受けた者は相続人と同一の権利義務を有するので、相続による権利の 移転と同視でき、包括遺贈に農地法の許可は不要である。 (エ)贈与・死因贈与 ・どちらも、贈与者と受贈者の間の契約であり(民法 549 条・554 条)、当事者の 法律行為に基づく、申請人の意思による権利変動なので、許可が必要となる。 (オ)遺留分減殺・遺産分割
・遺産分割によって農地を取得した者は、相続開始時から権利を相続したことにな り、遺留分減殺も本来は相続により遺留分権利者が被相続人から承継すべき権利 につき、受贈者や受遺者から移転を受けたにすぎず、相続による権利変動と同視 できるので、許可は不要である。 ・ただし遺産分割協議において、共同相続人の1人が相続財産の権利を取得する代 わりに、自己の農地を遺産分割による贈与により他の共同相続人に移転する場合 は、その農地は相続財産ではなく許可を要する。 (カ)財産分与 ・当事者間の協議に基づく財産分与による所有権移転は、当事者間の意思表示によ る権利の移転であり、農地法の許可を要する。 ・調停または裁判に基づく財産分与による所有権移転は、申請人の意思によること なく裁判所が関与して権利変動が生じるので、許可は不要である。 ・民法958 条の 3 の審判(特別縁故者への財産分与)も裁判または調停に基づく場 合と同様であり、許可は不要である。 (キ)共有物分割・共有持分放棄 ・共有物分割の場合、共有者間での各持分の売買や交換と同様の効果を生じさせる ものであり、申請人の意思によるものとして、許可が必要となる。 ・共有持分放棄の場合、共有者の1人がその持分を放棄すると法律の規定(民法255 条)により当然に他の共有者に持分が移転するため、申請人の意思によらないも のとして、許可は不要である。 (ク)解除 ・合意解除による所有権抹消登記を申請には、当事者が新たに復帰的物権変動の合 意をしたものと同視できるため、申請人の意思によるものとして、許可が必要と なる。 ・これに対し、法定解除による所有権抹消登記を申請する場合、法律の規定に基づ く復帰的物権変動であり、申請人の意思によらないものとして、許可は不要であ る(S31・6・19 民甲 1247 号) (ケ)売買・買戻 ・売買は売主と買主の間の契約であり(民法 555 条)、申請人の意思による権利変 動なので、許可が必要となる。売買契約と同時に買戻特約をした場合、売買を登 記原因とする所有権移転登記の申請の際は農地法の許可を証する情報の提供 が 必要となるが、これと同時に申請する買戻特約の登記については提供を要しない。 ・しかし、買戻権を行使する際は、許可が必要となる。なお、買戻期間内に買戻の 意思表示をすれば、許可が期間経過後であっても「買戻」を登記原因とする所有 権移転登記の申請は受理される。その場合の原因日付は、許可書の到達日となる (S42・2・8 民甲 293 号回答)。
(コ)真正な登記名義の回復 ・真正な登記名義の回復を登記原因として、現在の所有権登記名義人から従前の所 有権登記名義人に登記名義を回復する場合は、元々の適法な所有者に戻す趣旨か ら、許可は不要である。 ・従前の所有権登記名義人以外の者に登記名義を回復する場合は、その者が農業従 事者として適格な人物かどうかを判断するため、許可が必要である(S40・9・ 24 民甲 2824 号回答)。 (サ)委任の終了 ・権利能力なき社団が委任の終了を原因として、新しい代表者へ所有権移転登記を 申請するときも、実質的な所有者である当該社団には変わりはないので、許可は 不要である(S58・5・11 民三 2983 号回答)。 (シ)民法646 条第 2 項による移転 ・「民法 646 条 2 項の規定による移転」(委任契約により、受任者が自己の名前で取 得した不動産の所有権を委任者に移転する場合)を原因とする登記の申請には農地 法の許可を証する情報の提供を要する(登記研究 456 号)。 (ス)時効取得 ・一定期間の占有継続という事実により権利変動が生じるため、申請人の意思によ らないものとして、許可は不要である。 (セ)土地収用法による収用 ・農地法の規定により許可は不要である(農地法3 条 1 項 6 号) (ソ)農業協同組合への信託 ・農地法の規定により許可は不要である(農地法 3 条 1 項 8 号) (タ)相続分の譲渡 ・相続分の譲渡は、申請人の意思による権利変動であるため、原則として許可が必 要となる。しかし、共同相続の登記前に共同相続人の1人から他の共同相続人に 対し相続分の譲渡がされた場合は、遺産分割による権利変動と同視でき、許可は 不要である。 (チ)(強制)競売による売却 ・農地の強制競売による売却をする場合、買受人は農地法の許可を受けなければな らないが、買受人への所有権移転登記は嘱託登記により、嘱託情報と併せて許可 を証する情報を提供する必要はない(S21・9・3 民甲 569 号通達)。
(ツ)錯誤による抹消 ・錯誤を登記原因として所有権移転登記の抹消登記を申請する場合、申請人の意思 により新たに権利変動が生ずるわけではないため、許可は不要である。 (テ)錯誤による更正 ・A 単有を AB 共有とする所有権更正登記を申請する場合、当初の許可は元の所有 者から A への移転についての許可だったはずである。その当初の許可と異なる者 への移転登記に更正するのであるから、改めて許可が必要となる。 ・ただし、元の所有権移転登記の登記原因が相続であった場合には、そもそも元の 登記について許可が不要であるため、その更正登記についても許可は不要となる。 ・共有者 AB 間の持分の更正登記を申請する場合、また登記原因を贈与から売買に する更正登記を申請する場合も、許可は不要である(登記研究395 号)。 (ト)地上権・地役権・抵当権の設定 ・農地の地下に工作物等を設置するための地上権・地役権の設定の場合は、農地を 使用収益する権利の設定なので許可が必要となる(S44・6・17 民甲 1214 号回 答)。 ・空中の使用(電線など)を目的とする地役権の設定の場合は、直接農地の使用収 益に影響を与えないので許可は不要である(S31・8・4民甲 1241 号通達)。 ・抵当権は使用収益権のない非占有担保なので、農地に設定する際も許可は不要で ある。 ・不動産質権は、目的不動産を使用収益できる権利であり、農地に設定する際は原 則どおり許可を要する。 ② 農地法の許可と相続 ・農地の売買契約後に農地法の許可を申請をしたものの、売主または買主が死亡した ような場合は、それが許可書の到達前か後かによって相続登記の要否等が異なる。 (ア)農地法の許可の到達前に売主が死亡した場合 ・A が B に自己所有の農地を売り渡す契約をしたが、農地法の許可を受ける前に A が死亡し、その後許可が到達した。 ・この場合は、買主 B に所有権が移転する前に A が死亡しているため、A から A の相続人に相続による所有権移転登記をし、次いで農地法の許可が到達した日を 原因とする A の相続人から B への売買を原因とする所有権移転登記を申請する (S40・3・30 民三 309 号回答)。 (イ)農地法の許可の到達後に売主が死亡した場合 ・A が B に自己所有の農地を売り渡す契約をし、農地法の許可を得た後に A が死亡 した。 ・この場合はA が生きているうちに許可が到達しているので所有権は B に移転して いる。しかし、登記申請前に A が死亡しているので A の相続人が A に代わり B
と共同して移転登記を申請する。 (ウ)農地法の許可の到達前に買主が死亡した場合 ・A が B に自己所有の農地を売り渡す契約をしたが、農地法の許可を受ける前に B が死亡し、その後許可が到達した。 ・この場合、死者に対する許可は効力を生ぜず、所有権移転登記をすることはでき ない。 (エ)農地法の許可の到達後に買主が死亡した場合 ・A が B に自己所有の農地を売り渡す契約をし、農地法の許可を得た後に B が死亡 した。 ・この場合、B は農地法の許可を得て、所有権を取得した後に死亡したので、B の 名義とする所有権移転登記ができる。 ③ 関係先例 (ア)農地法の許可を条件として農地の所有権移転登記を命ずる判決により所有権移 転登記を申請するには、農地法の許可を証する情報の提供は不要である(S48・11・ 16 民甲 8527 号回答)。 ・判決による登記の申請では、登記原因証明情報として執行力のある確定判決の判決 書の正本を提供する必要がある(令7条1項5号ロ(1))。つまり、条件成就執行 文(民事執行法 27 条1項)の付与を受ける際に、条件の成就を証明する文書とし て農地法の許可書を裁判所に提出しており、許可があったことは明らかであるため である。 (イ)登記記録上の地目が農地である土地に所有権移転登記を命ずる判決が確定し、 その判決の理由中にすでに農地法の許可がされている記載がある場合に、この判決 により所有権移転登記を申請するには、農地法の許可を証する情報の提供は不要で ある(H6・1・17 民三 373 号回答)。登記原因証明情報として判決書正本を提供す るため、農地法の許可があったことは明らかなためである。 (ウ)農地法の許可の要否は、登記記録上の地目とは関係なく現況で判断する。現況 が農地であれば、登記記録上の地目が宅地であったとしても、実体法上、農地法の 許可が必要となる。ただし、登記官には形式的審査権しかないので、農地法の許可 を証する情報が提供されなくても申請を却下できない。本来は宅地から農地への地 目変更の登記後に農地法の許可を証する情報を提供して所有権移転登記を申請す べき場合である。 ・逆に、現況が宅地で利用されているが、登記記録上の地目が農地であった場合は、 実体法上は農地法の許可は不要であるが、権利に関する登記について実質的審査権 を持たない登記官は、登記簿の記載に従って農地と判断する。よってこの場合は、 農地でない旨の証明情報(非農地証明書)を添付情報として提供するか、あるいは、
まず農地から宅地への地目変更登記をする必要がある。 (エ)登記記録上の地目が田である土地につき、登記原因を「平成21 年 12 月 1 日売 買(条件 農地法 3 条の許可)」として、停止条件付き所有権移転仮登記(105 条 2 っこ書)の申請があったとする。更に、その仮登記に基づく本登記を命ずる判決が 確定し、その判決の理由中に、平成 21 年 5 月 1 日にその土地が宅地になった旨の 記載があったものとする。 この判決により本登記を申請する場合は、前提として仮登記の更正登記を申請す る必要がある(S40・12・7 民甲 3409 号回答)。この土地は平成 21 年 5 月 1 日に 宅地となっており、そもそも農地法の許可は不要であったので、無条件で(民法131 条1 項)平成 21 年 12 月 1 日に売買は有効に成立しており、所有権移転の効力が生 じていたこととなるためである。つまり、停止条件付き所有権移転仮登記(105 条 2 号かっこ書)は誤っているため、所有権移転仮登記(105 条1号)に更正してか ら本登記を申請すればよい。 (3)株主総会または取締役会の承認を証する情報 ① 総説 ・取締役がその地位を利用して、自己または第三者の利益を図り、会社の利益を損な うことのないよう、株式会社と取締役の利益が相反する取引をしようとするときは、 株主総会において承認を得ることを要する(会社法 356 条 1 項)。 ・当該会社が、取締役会を設置する会社である場合には、株主総会ではなく取締役会 の承認を要する(会社法365 条 1 項)。 ② 利益相反取引の具体例 ・(ア)~(エ)のような場合は ⅰ「取締役が自己又は第三者のために、株式会社と取引をしようとするとき」 (会社法 356 条 1 項 2 号-直接取引) ⅱ「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において 株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」 (会社法 356 条 1 項 3 号-間接取引) にあたり、登記の申請の際に申請情報と併せて株主総会または取締役会(以下、「株 主総会等」)の承認を得たことを証する情報を提供することを要する。 (ア)取締役が自己のためにする直接取引(会社法356 条 1 項 2 号) ・甲株式会社の取締役A 個人と甲株式会社の間での不動産の売買。 (イ)取締役が第三者のためにする直接取引(会社法356 条 1 項 2 号) ・代表取締役が同一人物A である甲株式会社および乙株式会社の間において不動産 を売買する場合は、甲、乙両会社の株主総会等の承認を要する。(S37・6・27 民 甲 1657 号回答)。
・甲会社(代表取締役A、取締役ABCD)と乙会社(代表取締役E、取締役ABCDE) の間の不動産の売買には、乙会社の株主総会等の承認を要する。 甲会社 乙会社 売買 取 A B C D 取 A B C D E 代A 代E (ウ)取締役が自己のためにする間接取引(会社法356 条 1 項 3 号前段) ・甲株式会社の取締役A 個人の債務を担保するために、甲株式会社の所有する不動 産に抵当権を設定する場合。 ・甲株式会社が根抵当権の設定者兼債務者である場合において、債務者をその代表 取締役Aに変更する場合(S52・3・16民三1620号民三通知)。以後代表取締役 が個人的に負担した債務を会社の不動産で担保することになるため甲会社の 株主総会等の承認を要する。 (エ)取締役が第三者のためにする間接取引(会社法356 条 1 項 3 号後段) ・甲、乙両会社の代表取締役が同一人であり、甲会社の債務を担保するため、乙会 社所有の不動産に根抵当権を設定する場合には、乙会社の株主総会等の承認を要 する。(S52・3・16民三第1620号通知)。 ③ 承認を要しない場合 (ア)甲および乙両会社の代表取締役が、それぞれABならびにACである場合におい て、Bが甲会社を、Cが乙会社をそれぞれ代表して甲会社所有の不動産を乙会社に 売渡し所有権移転登記を申請するについては、いずれの会社についても株主総会 等の承認を証する情報の提供を要しない(S52・11・14民三5691号回答)。 (イ)次の場合はいずれも株主総会等の承認を要しない(S41・6・8民三397号回答) ・会社の債務のため代表取締役が保証人となり、かつ、会社所有の不動産について 抵当権を設定する場合 ・会社の債務のため代表取締役が自己および会社所有の各不動産について抵当権を 設定する場合 ・会社の債務のため代表取締役が自己所有の不動産について抵当権を設定する場合 ・会社と代表取締役との連帯債務について代表取締役所有の不動産に抵当権を設定 する場合 (ウ)会社の債務のため会社所有の不動産について抵当権設定登記後、債務者をその
代表取締役個人に変更する場合にも株主総会等の承認を要しない(S41・6・8民 三397号回答)。 ④ 株式会社以外の場合 (ア)持分会社(合名会社、合資会社、合同会社-会社法575条1項)と業務を執行す る社員との間の利益相反取引については、当該社員以外の社員の過半数の承認を 受けなければならない(会社法595条1項)。 (イ)特例有限会社(会社整備法3条2項)とその取締役との間の利益相反取引につい ては、株主総会の承認を受けなければならない(会社整備法2条1項・会社法356 条1項)。 ⑤ 承認の決議について (ア)取締役会設置会社である株式会社の取締役全員が連帯債務者となり、各自の所 有不動産と共に会社所有の不動産に抵当権を設定するには、取締役会の決議を要す るのであるが、全員が利害関係あるために承認決議をすることができず、抵当権を 設定することもできない(S29・7・6民甲1394号通達)。 (イ)株式会社が取締役会の構成員を同じくする他の株式会社のために物上保証人と なって抵当権を設定する場合における取締役会の承認については、各取締役は議決 権を行使することができる(S41・8・10民甲1877号回答)。 ⑥ 承認を証する情報を提供しての登記の申請 (ア)取締役会の承認を証する書面(取締役会議事録)の押印は、代表取締役につい ては登記所に、代表取締役以外の取締役については市町村にそれぞれ登録している 印鑑でする必要がある(S45・8・27民三454号回答)。 (イ)取締役会の承認は利益相反取引の事後になされることも妨げられず、事後にな されたときは法律行為は初めから有効となる(東京高判S34・3・30)。よって登記 の原因日付に影響を与えることはない。 (4)その他の登記原因についての第三者の等を証する情報 ① 許可等が効力要件であるもの (ア)不在者財産管理人の権限を超える行為に対する家庭裁判所の許可 ・共同相続人中に不在者がいて、その者のため財産管理人が選任されている場合、 相続財産管理人が他の相続人との間で遺産分割の協議をすることは、処分行為と して財産管理人の権限を超えるため、有効に協議をするには、家庭裁判所の許可 が必要となる(民法28 条・103 条)。 (イ)相続財産管理人の相続財産の処分に対する家庭裁判所の許可(民法953 条・28
条) (ウ)破産管財人の破産財団に属する財産の任意処分に対する裁判所の許可 ・破産管財人が不動産の任意売却などをする場合は、裁判所の許可が必要となる(破 産法 78 条 2 項)。 (エ)抵当権の順位変更、根抵当権の極度額変更、分割譲渡に対する利害関係人の承 諾 ・順位変更によって後順位となる抵当権に対する転抵当権者などが利害関係人に当 たり、その承諾が必要となる(民法 374 条 1 項・398 条の 5・398 条の 12 第 3 項)。 (オ)区分地上権の設定に対する土地の使用収益権者等の承諾 ・地上権の設定登記がされている土地に区分地上権を設定する場合は、地上権者の 承諾が必要となる(民法269 条の 2 第 2 項)。 (カ)工場財団に属する不動産を目的とする、賃借権の設定に対する抵当権者の同意 ・工場財団に属するものは、譲渡したり、所有権以外の権利の目的や差押などの目 的とすることはできない。例外として抵当権者の同意を得て、工場財団に属する 不動産を目的として賃借権を設定することができる(工場抵当法13 条 2 項)。 (キ)工場財団の分割に対する抵当権者の承諾 ・工場財団の分割による抵当権の消滅は抵当権者の承諾が実体法上の要件である (工場抵当法42 条の 5・42 条の 2 第 3 項)。 ② 第三者の許可等がなければ、登記原因たる法律行為について取消事由が存するこ とになるもの (ア)未成年者の法律行為に対する法定代理人の同意(民法5条1項本文) (イ)被保佐人・被補助人に対する保佐人・補助人の同意(民法13 条 1 項・17 条 1 項)