• 検索結果がありません。

生のメカニズムの解明が進み, 防災施設の整備も進んできた. ただし, これまでは, 一定レベルの外力を考え, それに対する対策をとることが基本的な考え方であり, それに基づいた制度であった. こうした制度に最初に革新をもたらしたのは, 耐震設計である.1995 年の阪神 淡路大震災後に耐震設計は新し

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "生のメカニズムの解明が進み, 防災施設の整備も進んできた. ただし, これまでは, 一定レベルの外力を考え, それに対する対策をとることが基本的な考え方であり, それに基づいた制度であった. こうした制度に最初に革新をもたらしたのは, 耐震設計である.1995 年の阪神 淡路大震災後に耐震設計は新し"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

三つのレベルの津波と耐津波強化施設による

沿岸域の強靭化

高橋 重雄

1

・下迫 健一郎

2

・富田 孝史

3

河合 弘泰

4

・高山 知司

5 1フェロー会員 (一財)沿岸技術研究センター理事長(〒105-0003 東京都港区西新橋 1-14-2 SY ビル 5F) E-mail: takahashi_s@cdit.or.jp 2正会員 (国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 特別研究主幹 (〒239-0826 神奈川県横須賀市長瀬 3-1-1) E-mail: shimosako@pari.go.jp 3正会員 名古屋大学教授 大学院環境学研究科(〒464-8603 名古屋市千種区不老町) E-mail: tomita@urban.env.nagoya-u.ac.jp 4正会員 (国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 海洋情報・津波研究領域長 E-mail: kawai-h89s1@pari.go.jp 5フェロー会員 (一財)沿岸技術研究センター 沿岸防災研究所長 E-mail: takayama@cdit.or.jp 東日本大震災では,最悪のシナリオを考えることが重要であることを学び,震災後は,二つの津波レベ ル,「防災レベル(レベル 1)」と「最悪のレベル(レベル 2)」を考えるようになっている.しかしながら最近 では,最悪のレベルの津波が次第に大きくなり,地域によっては,避難しか考えなくなっていると思われ る.もちろん,沿岸域の強靭化のためには,津波の死者をゼロとすることが,最も大切であり,当然とも いえる.しかしながら,強靭化のためには,被害をできるだけ少なくする「減災」だけでなく,早期復旧 が重要である.減災,縮災を着実に進めるためには,その制度を明示しなくてはならない. 本報告では, 三つのレベルによる津波減災・縮災の制度を提案する.

Key Words : tsunami, worst case scenario, resilience, redundancy, robustness, performance design

1. はじめに

東日本大震災の深い反省と多くの教訓を踏まえて,粘 り強い沿岸域を創るためには,新しい災害対策の具体的 なシステムが必要である.本報告では,1995年の阪神・ 淡路大震災以降の耐震設計の進展に学び,沿岸域の災害 に性能設計の適用を検討してきた経緯を述べる.特に, 東日本大震災の教訓をレビューするとともに,新たな津 波リスク管理を提案する. 阪神・淡路大震災で,日本の耐震設計は大きく変わっ た.頻度の高い地震動(レベル1)と最大規模の地震動(レベ ル2)を用いた,いわゆる性能設計体系1)に変わっている. 著者らは,1999年の18号台風による高潮災害以降,この 性能設計の体系を沿岸災害に適用することを議論してき た2).しかしながら,インド洋大津波やハリケーンカト リーナを経て議論は深まったものの,東日本大震災をへ て初めて,耐震設計と同様に二つの津波レベルを考える 制度が導入されている3).すなわち,新たに最大クラス の津波も考えることにより,人命を守り,減災をして早 期の復旧復興を可能とし,沿岸域を強靭化することが国 の目標となっている. ただし,残念ながら最近では,最大クラスの津波につ いては,避難だけを考え,減災は忘れ去られる傾向にあ る.本報告では,最大クラスの津波を「減災・縮災レベ ル」と「最大避難レベル」の二つの津波レベルに分けて 明示することを提案している.「減災・縮災レベル」は, 減災と早期の復旧・復興を目的とし,「最大避難レベル」 は,津波死者ゼロを目指す.粘り強い,レジリアントな 沿岸域を創るためには,それぞれのレベルを明示し,災 害のシナリオを書き,可能な対策を具体的に考えること が重要である.特に,「減災・縮災レベル」の対策におい て,耐震設計の「耐震強化施設」に準じて「耐津波強化 施設」の設定も提案している.なお,河田4)は早期の復 旧・復興の必要性を,新しい言葉「縮災」で表している.

2. 性能設計と防災施設

大きな自然災害を経験するたびに,自然災害への対策 が進んできている.特に,第二次大戦後は自然災害の発

(2)

生のメカニズムの解明が進み,防災施設の整備も進んで きた.ただし,これまでは,一定レベルの外力を考え, それに対する対策をとることが基本的な考え方であり, それに基づいた制度であった.こうした制度に最初に革 新をもたらしたのは,耐震設計である.1995年の阪神・ 淡路大震災後に耐震設計は新しい制度を導入している. すなわち,防災レベル(レベル1地震動)と最大級(レベル2 地震動)の二つのレベルの地震動を考えており,性能設計 を導入している.例えば,港湾施設の技術上の基準を定 める省令1)では,レベル1地震動を「供用期間中に発生す る可能性が高いもの」とし,レベル2地震動を「最大規模 の強さを有するもの」としている. 性能設計とは,「構造物に要求する性能を明示し,そ の性能を設計供用期間に構造物が保持することを客観的 に確認する」設計法である.1960年代にヨーロッパで提 唱されたものであり,現在では,ISOでも設計の基本的 な考え方とされている.特に,性能設計における基本と なる要求性能は,外力に対する構造物の損傷の程度であ る.複数のレベルの設計条件に対して限界となる変形量 を性能の指標としてとることが多い.すなわち,複数の 設計レベルと変形量による評価が性能設計の基本となっ ている.性能設計は,耐震設計の分野で大きく進歩して いるが,期待滑動量を用いた防波堤の耐波設計5)など, 海岸工学の分野にも適用が試みられている. 性能設計は,発注者や市民を含む利用者が施設の性能 を具体的に知ることが出来る設計法であり,防災施設へ の適用が求められている.著者ら6),7,は,1999年の18号台 風による周防灘の高潮災害を契機に,耐震分野のように 性能設計を港湾や海岸の施設に適用することを考えてい る.表-1は,高潮対策施設の性能設計を考える上で,検 討すべき三つの高潮レベルであり,18号台風による高潮 災害を踏まえて提案したものである.ここでは,レベル Ⅰを頻度の高い高潮と考え,レベルⅡは既往最大級,そ して,レベルⅢは考えられる極限の高潮である. なお,2004年にはインド洋大津波が発生し,また,2005 年にはハリケーンカトリーナの高潮災害があり,性能設 計,特に最大級を考える必要性は,広く認識されてきた. 特にインド洋大津波は,M9.0を超える,まさに最大級の 津波であったが,津波災害への適用は,東日本大震災後 になってしまった.机上の検討だけに終わり,耐震設計 のように実務へ適用する努力が全く不十分であったと深 く反省している.

3. 粘り強さとレジリアンス

写真-1は,2005年のハリケーンカトリーナによって被 災したニューオリンズの運河堤防を示すものである.ハ リケーンカトリーナによって甚大な被害が出ており,ニ ューオリンズ市内では,旧運河の堤防が急に破堤し,周 辺の家は破壊され,町全体が浸水し死者もでている.図 -1は,外力,ここでは台風による高潮のレベルと被害の 関係を模式的に示したものである8).設計 (想定) レベル 程度で,堤防は決壊しており,人命を含めて一挙に被害 が拡大している.ただし,ルイジアナ州,ミッシシッピ 州,アラバマ州などのメキシコ湾岸でも大きな被害が出 ているが,基本的に堤防などのハード対策の防災施設は なく,避難と保険によるソフト対策が行われている.も ちろん,ハード対策もソフト対策も,両方とも必要であ るが,図-1では,そうしたソフト対策と堤防によるハー ド対策による被害の違いも別々に模式的に示している. この図では,主として以下の4点を議論している. ①ソフト対策だけであれば,台風のレベルに応じて物 的な被害は拡大するが,避難の徹底で人命の被害は 限定的である. ②設計レベル以下であれば,ハード対策で被害をほぼ 防止する. ③設計レベル程度の外力になって,防災施設が急に破 壊されると,人命を含め被害は急激に広がり,ソフ ト対策だけの場合を上回る被害となりうる. ④防災施設が「粘り強い施設」であれば,被害の急激 な拡大は防ぐことが出来る. すなわち,ハリケーンカトリーナでは,一つのレベル 表-1 三段階の高潮レベル 写真-1 破壊した運河堤防と周辺の被害

(3)

だけでなく,それを超える外力を考え,特に防災施設の 粘り強さを考える必要があることを学んだ. 著者らは,それ以前にも台風などによる設計波を超え る異常波浪で,被害が発生した防波堤を多く見ているが, 被害の程度は大きくばらついていた.防波堤全体が倒壊 している場合もあるが,被害が一部に限られ,変形も限 られている場合もある.防波堤にも,変形量を考えた性 能設計が必要であり,粘り強さ,ロバストネスやタフネ スを考える必要性を考えている.特に,防災施設にはこ うした性能設計が不可欠である. 図-2 は,ハリケーンカトリーナの直後に考えていた, 粘り強さの模式図である.降伏強度を越えた外力に対し て,できるだけ大きな破壊強度を持つ施設を考えること が,施設の粘り強さと考えていた.しかしながら,それ は粘り強さの一つに過ぎない.その施設の設計レベルを 上げて,降伏強度をあげること,すなわち,余裕(リダ ンダンシイ)を持つことも,粘り強さである. 2004 年のインド洋大津波の後,ほぼ毎年,国際沿岸防 災ワークショップを開催して,防災や減災を議論してい るが,一つの重要な言葉が,粘り強さであった.ただし, 粘り強さという言葉を海外の技術者に理解して頂くこと は,それほど簡単ではなかった.米国の B.Edge 教授は, 粘り強さの訳として,レジリアンス(resilience)という言葉 をあげている.レジリアンスという言葉は,米国では, 比較的よく使われている言葉であり,「バネが戻るように 復旧する力があること」を示す言葉である.すなわち, 単に防災施設の粘り強さだけではなく,被害を受けた 沿岸域全体の復旧・復興する力をレジリアンス,粘り 強さと言っており,ワークショップでは,Resilient Coastal Communities(レジリアントな沿岸域)という 言葉をよく聞いている.最近では,国土強靭化という 言葉が使われているが,強靭化の英訳は Resilience で ある.ハリケーンカトリーナでは,やはりレジリアン ス,すなわち,早期の復旧・復興が大切であり,被害 が大きいと復旧・復興は遅れ,また早期の復旧・復興 にはその準備が必要であることを学んだ.

4. 東日本大震災の教訓と二段階の津波レベ

ルによる減災・縮災

2011 年の東日本大震災では,非常に多くのことを学び, その教訓を生かすことが今後の津波対策に不可欠である 9).多くの教訓の中で,主要なものを取りまとめると以 下の三つがまず考えられる. ①東日本大震災は,まさに最悪のケースであり,最悪 のケースの津波災害の特徴が明らかとなった. 例えば,M9 の海溝型地震では,10m を超える津波 が三陸海岸全体を襲い,壊滅的な被害が発生してい る.防災施設の破壊,木造家屋の流失や火災を含め て,あらゆる災害を起こしており,その実態が明ら かになっている.また,明らかに被害が厳しいとこ ろほど,復旧・復興は遅く,レジリアントとは程遠 い状況となっている. ②ただし,最悪のケースであっても,津波の犠牲者を 減らし,被害を低減することは可能である. 例えば,日頃から準備をしていて,適切な避難が出 来たところでは,人的被害は最小となり,防災施設 も,粘り強い場合などには,被害の低減に貢献して いる. ③粘り強い沿岸域を創るには,最悪のケースに備える 必要がある.目標とすべきは,津波死者ゼロであり, また,できる限り被害を低減し,早期の復旧・復興 (減災と縮災) を図るべきである. 総合的な津波対策を考えるには,複数のレベルの津波 に対して被害シナリオを考え,それぞれの津波に対して, 目的を明確にし,それに対する適切な対策,具体的な対 策を講じておくことが必要である.複数の災害シナリオ は,市民の理解を得るためにも不可欠である. 東日本大震災では,最悪のシナリオを考えることが重 要であることを学び,震災後は,表-2 に示すように,二 つの津波レベル,「防災レベル(レベル 1)」と「最悪のレ 図-1 外力と被害の関係 図-2 粘り強い防災施設

(4)

ベル(レベル 2)」を考えるようになっている10).基本的に 防災レベルは,頻度の高い津波レベルともいわれ,再現 期間が,数十年から百数十年の津波に対する防災を考え る.一方,最悪のレベルは,最大クラスと呼ばれ,今回 の東日本大震災クラスを対象にしており,減災と避難を 考えている. 図-3 は,中央防災会議・南海トラフの巨大地震モデル 検討会の計算結果「南海トラフの巨大地震による震度分 布・津波高について(第一次報告)」であり,港湾におけ る津波高を示すもので,東日本大震災の前と後の計算値 を示すものである11).震災前に比べ震災後の計算値がか なり大きくなっていることがわかる.例えば,須崎にお いては 12m 程度が,24m と 2 倍になっている.これは, ベースとなる想定津波波源域が北方向と南西方向に拡大 し日向灘も含むようになっているばかりでなく,沖合の 海溝側の浅い部分のすべりによる津波地震も加わってい るからである. ただし,図中の●は国土交通省港湾局が震災後に暫定 的に行った計算値であり,震災後の計算値より震災前の 結果に比較的近い.中央防災会議の計算では,浅い部分 の滑りのエネルギーを一箇所に集中させることにより, その対岸付近の津波高を増大させるだけでなく,集中す る場所を移動させ,計算結果の包絡線をとったためであ る.まさに,最悪のレベルの津波を想定している. この例を含め最近では,レベル 2 の津波が次第に大き くなり,まさに最悪のレベルを考えるようになっている. もちろん,沿岸域の強靭化のためには,津波の死者をゼ ロとすることが最も大切であり,当然ともいえる.しか しながら,この最悪のレベルの津波とレベル 1 の防災の 津波レベルの間に,実際に発生する危険性のある津波は 少なくない.例え,中央防災会議の想定する海溝型地震が 発生しても,エネルギーが集中する場所以外では,震災 前の想定に近い可能性もある.強靭化のためには,こう した津波に対する減災や早期復旧・復興(縮災)が重要で ある.特に,激甚地域への周辺からの救援や協力を考え た場合には,全体としての減災が不可欠である.各地域 での減災の努力は,全体としての縮災に不可欠である.

5. 三段階の津波レベルによる減災・縮災

減災,縮災を着実に進めるためには,その制度を明示 しなくてはならない.表-3 は,本報告で新たに提案する 三つの津波レベルを示すものである.ここでは,「最悪レ ベル(レベル2)」を(レベル 2-1)と(レベル 2-2)の二つに分 けて明示的に設定することを,新たに提案している.レ ベル 2-1 が「減災・縮災レベル」である.早期の復旧・ 復興を可能にするためには,被害の低減を図り,復旧・ 復興の準備をしておく必要がある.一方,レベル 2-2 が 「最大避難レベル」であり,避難を考えるための津波レ ベルであり,「津波死者ゼロ」を目指すための津波である. 強靭な,粘り強いレジリアントな沿岸域のためには,津 波死者ゼロと早期復旧・復興の二つとも必要であり, そのために,対象とする二つの津波レベルを明確に定 義し,具体的な対策を提案することが重要である. ただし,性能設計では,設計レベルの再現期間やそ れぞれの要求性能は,重要度や利用者の要望などによ って変えることが出来る.表-3 の対象津波の再現期間 は,目安を示すものであり,もちろん対象とする沿岸 域の重要度や地域住民の選択によって異なってくる. 特に,復旧・復興が困難と考えられる場合は,再現期 間が長くなることも十分考えられる.結果的に,レベ ル 2-1 の設定とレベル 2-2 が同じになることも考えら 表-2 二段階の津波と要求性能 図-3 港湾における津波高の計算結果 表-3 三段階の津波と要求性能   要求性能 レベル1 近代で最大級 防災  津波 防災レベル (100年に一回程度 の再現確率) レベル 2-1 減災+早期復旧  津波 減災・縮災 歴史的な最大級   レベル (1000年に一回程度 の再現確率) レベル 2-2 津波死者ゼロ  津波 最大避難 究極的な最大級     的確な避難 レベル (10000年に一回 程度の再現確率) 対象津波

(5)

れる.なお,原子力施設などは,レベル 2-2 でも,防災 を考えなくてはならない. 実は,国土交通省港湾局では,「設計津波」という概 念で,粘り強い防波堤の耐津波設計を考えている12).す なわち,防災レベルの「設計津波」と「最大クラスの津 波」の間に,「設計津波を越える規模の強さを有する津波」 を考えて減災を目指している.設計津波をレベル1の津 波と考え,最大クラスの津波をレベル 2-2 と考えれば, 設計津波を超える規模を有する津波がレベル 2-1 に相当 すると考えられる.特に減災レベルを明示し,分かり易 くしていくことが必要である.

6. 被害のシナリオと減災・縮災,そして耐津

波強化施設

レベル 1,レベル 2-1 そしてレベル 2-2 の津波を決定し たら,各レベルの津波に対して,現状でその津波の来襲 を想定し,現状における被害の想定,特に浸水の予測を 行い,被害のシナリオを作る必要がある.次に,現状の シナリオに対して,適切な対策を考えて改善のシナリオ を作成する.被害のシナリオは,主として防災施設の被 害と浸水による家屋などの被害が主たるものであるが, 船舶の被害等,他の主要な被害を含むことが望ましい. レベル 2-1 の津波に対しては,現況では,多くの施設 が被害を受けるはずであり,その被害の程度を判定する のは技術的に困難である.また,復旧や復興のシナリオ を書くことも技術的には難しい.ただし,検討には概略 のシナリオでも必要であり,概略のものであれば,現状 の技術でも可能である.例えば,現況で対策が無い場合 には,津波防災施設は破壊されて減災の効果が無いとし て浸水を計算することによって概略を把握できる.求め られた浸水高さや流速から,直接的な浸水被害だけでな く,二次的な被害,そして緊急対応を含めて復旧・復興 なども検討できる. レベル 2-1 の改善策には,例えば以下のものがある. ①粘り強い津波防災施設 防波堤や護岸でレベル 2-1 に対しても直接的な浸水 被害を低減する.レベル 1 津波に対応した天端高さ であっても,レベル 2-1 では越流を許し,ある程度 の変位は許容するが破壊されないようにする.防波 堤・護岸・道路など多段式の防災施設も考える. ②石油施設による火災や船舶の漂流など,重大な二次 的被害の防止 ③浸水に強い街への改善 ・浸水地域の病院・学校,さらには住宅などの移転, 高層化,地盤の嵩上げ ④復旧復興のための準備 ・事業継続計画(BCP)復旧復興計画 ・復旧復興のための道路や空港,港湾の強化 ⑤その他 地震と津波の複合災害への対応 こうした対策を講じた結果として,改善シナリオを作 成し,レベル 2-1 津波に対する種々の対策の効果を具体 的に評価する必要がある. なお,国土交通省では,レベル 2 の地震動に対する耐 震設計に「耐震強化施設」という概念を導入している1) すなわち,レベル 2 地震動に対して,岸壁などを震災後 にも利用できるように変位などを規定している.まさに, 減災や復旧・復興を考え,粘り強さを具体的(定量的) に設計に取り入れており,制度化された性能設計の一つ である.阪神・淡路大震災後に定義された言葉で,その 後の港湾における地震災害に対する強靭化の進展に大き く寄与している. ここでは,「耐津波強化施設(耐津波強化防波堤や護 岸,岸壁)」という新しい言葉を提案し,レベル 2-1 の津 波に対する港湾施設の要求性能を明確化し,港湾におけ る耐津波対策の強化につなげていきたい.例えば,巨大 津波が来襲する港湾では,レベル 2-1 津波を定義して, 主要な第一線防波堤を耐津波強化防波堤に指定し,津波 来襲時の津波高さの低減や来襲時間の遅延に役立て,ま た復旧復興時の防波効果を確実にすることが考えられる. 例えば,耐津波強化防波堤の要求性能は,レベル 2-1 の 津波に対して,越流は許すが,崩壊しなく,一定の減災 効果を発揮することであり,例えば,上部工の水平変位 や回転変位を 10%以下にするなどの,変形量による要求 性能を定義していく必要がある.レベル 2-1 津波に対す る耐津波強化施設としては,「耐津波強化護岸」や「耐津 波強化岸壁」なども考えられる.例えば,耐津波強化岸 壁は,レベル 2-1 の津波に対しても浸水しない天端高さ を持ち,津波による洗掘や吸出しによる変形が限定的で ある構造で,復旧・復興に役立つ施設である.

7. ハザードマップと津波死者ゼロ

レベル 2-2 の津波は,避難に用いる津波レベルであり, 浸水などの被害のシナリオはもちろん,避難のシナリオ を作成しなければならない.東日本大震災後,津波の浸 水シミュレーションはもちろん,人々の避難のシミュレ ーションなど,この分野の発展が著しい.したがって, レベル 2-2 の津波に対する浸水域の想定を含めて,避難 のシナリオづくりはかなり進んでいる.また,現況のシ ナリオで問題が把握されて,対策が考えられて改善のシ ナリオも作られている.対策としては,避難タワーの設

(6)

置や避難ビルの指定,避難訓練の実施なども行われてい る.津波避難で重要なことは,津波避難は地震の避難と 異なり,緊急避難であり,鉛直避難であることである. ただし,津波死者ゼロを目指すには,特に,避難弱者と 言われる人も避難できる手厚い対策が重要である.なお, レベル 2-2 の津波の避難シナリオで最も大切なものは, いわゆる津波ハザードマップである. 津波の避難には,もちろん気象庁の津波警報が重要で ある.気象庁の津波警報は,東日本大震災の後,より避 難し易くなるように変わっており,避難のレベルも津波 注意報(1m),津波警報(3m),大津波警報(5m,10m,10m 以 上)となっている.ただし,津波警報が発令されても,津 波の規模は明確ではなく,三つの津波レベルとの対応も わからない.もちろん,東日本大震災にも国土交通省の GPS 波浪計が沖合の津波を観測しており,沖合での津波 観測によって,津波の予報の精度は向上しているが,よ り安全側をとる必要がある.少なくとも,大津波警報が 発令されたらレベル 2-2 の津波を想定して避難すること が不可欠であり,通常の津波避難には,レベル 2-2 の津 波に対応するハザードマップが用いられると思われる.

8. おわりに

東日本大震災後,津波対策は急速に進んだ.しかしな がら,年を経るにしたがって,減災,縮災への関心は低 下している.津波減災,縮災を着実に進めるために,や るべきことは少なくない.ただし,まず耐震設計での進 歩に学び,その制度を明示し,かつ分かり易くする必要 がある.特に,減災・縮災レベル(2-1)と「耐津波強化施 設の導入」が,津波対策の進展にまず,必要である.な お最近,耐震設計においては,地震動に対して構造物が 破滅的な状況に陥らない「危機耐性」を考えることが議 論されている.すなわち,レベル 2 を超える地震動に対 しても人々の安全性を考えることも議論されており,こ こで提案している津波のレベル 2-2 に相当するとも考え られる.なお,こうした三段階の災害対策は,地球温暖 化で問題となっている高潮災害にも適用する必要がある. 参考文献 1) 港湾の施設の技術上の基準・同解説検討委員会:港湾の施 設の技術上の基準・同解説,1485p., 2007. 2) 高橋重雄・ 河合弘泰・高山知司:1999 年の台風 18 号によ る災害と今後の高潮・高波対策,高潮対策施設の性能照査 と性能設計,災害報告,土木学会誌, Vol.85-10,pp.76-70, 2000. 3) 中央防災会議:東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・ 津波対策に関する専門調査会報告,平成 23 年 9 月 28 日. 4) 河田恵昭:私の意見,「縮災」の視点持て,日本経済新聞 2016/3/10 付朝刊. 5) 下迫健一郎・高橋重雄:混成防波堤の期待滑動量の計算法, 海岸工学論文集,第 41 巻,土木学会,pp.756-760,1994. 6) 高橋重雄・富田孝史・河合弘泰:沿岸防災施設の性能設計 の基本的な考え方,海岸工学論文集,第 49 巻,土木学会, pp.931-935,2002. 7) 高橋重雄:海域施設の性能設計の考え方とその適用:水工 学シリーズ 03-B-1,土木学会海岸工学委員会・水工委員会, pp.B-1-1-22,2003. 8) 高橋重雄・河合弘泰・平石哲也・小田勝也・高山知司:ハ リケーンカトリーナの特徴とワーストケースシナリオ,海 岸工学論文集,第 53 巻, 2006. 9) 高橋重雄,根木貴史,富田孝史,河合弘泰:東日本大震災 における津波と港湾施設等の被害 (震災特集 東日本大震 災 初動体制から応急復旧に向けた取組み),土木学会誌, Vol.97-7,pp.2-8,2011. 10) 高橋重雄:東日本大震災の津波被害から「最大級への対応 を考える」,科学,Vol.81,No.10,岩波書店,pp.1008-1012, 2011. 11) 国土交通省交通政策審議会:津波に対する港湾の安全性評 価について(速報)交通政策審議会港湾分科会第 4 回防災 部会,2012. 12) 国土交通省港湾局:防波堤の耐津波設計ガイドライン,37p. 平成 27 年 12 月一部改正. (2017.2.2 受付)

THREE-LEVEL TSUNAMIS FOR RESILIENT COASTAL COMMUNITIES

Shigeo TAKAHASHI, Ken-Ichiro SHIMOSAKO, Takashi TOMITA,

Hiroyasu KAWAI and Tomotsuka TAKAYAMA

A new tsunami disaster mitigation scheme named here “Three-Level Disaster Management”, in-cludes three disaster scenarios i.e., 1)Disaster Prevention Level, 2)Disaster Mitigation Level, 3)Maximum Evacuation Level. The Maximum Evacuation Level is to ensure safe evacuation and to minimize tsunami casualties (i.e., possibly Zero Tsunami Casualties) even for the case. The Disaster Mitigation Level is to ensure early recovery by reducing the damage and preparing for the recovery.

参照

関連したドキュメント

編﹁新しき命﹂の最後の一節である︒この作品は弥生子が次男︵茂吉

耐震性及び津波対策 作業性を確保するうえで必要な耐震機能を有するとともに,津波の遡上高さを

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

 しかしながら、東北地方太平洋沖地震により、当社設備が大きな 影響を受けたことで、これまでの事業運営の抜本的な見直しが不

地区住民の健康増進のための運動施設 地区の集会施設 高齢者による生きがい活動のための施設 防災避難施設

東京都環境局では、平成 23 年 3 月の東日本大震災を契機とし、その後平成 24 年 4 月に出された都 の新たな被害想定を踏まえ、

○池本委員 事業計画について教えていただきたいのですが、12 ページの表 4-3 を見ます と、破砕処理施設は既存施設が 1 時間当たり 60t に対して、新施設は

これに対して,被災事業者は,阪神・淡路大震災をはじめとする過去の地震復旧時に培われた復