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『JFIR WORLD REVIEW』第2号|公益財団法人日本国際フォーラム

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RE

VIE

W

特集

Vol.2 公益財団法人 本国際 ISSN 2434-0685 特集

﹁地経学﹂

とは何

vol.

2

2018年12月

日本国際フォーラム研究プロジェクトの軌跡

巻頭論文

「地経学」から見る二十一世紀の世界

河合 正弘 

日本国際フォーラム上席研究員/東京大学特任教授

特別寄稿

地経学時代のインド太平洋戦略

ロバート・ブラックウィル 

米外交問題評議会上級研究員

政策論考

「経済相互依存の罠」とTPP 寺田  貴 経済「ディール」外交─トランプ時代の通商政策 飯田 敬輔 塗り替えられる世界のエネルギー・フロー 本村 眞澄 日米中の通貨パワーバランスと円国際化 櫻川 昌哉 岐路に立つ世界の開発協力 助川 成也

「地経学」

とは何か

(2)
(3)

JFIR WORLD REVIEW Vol.02 2

特 

﹁地経学﹂

本国際フ

研究

クト

集のね

巻頭論文  

﹁地経学﹂

世界

... 5 プ ロ ジ ェ ク ト リ ー ダ ー / 日 本国際 フ ォ ー ラ ム 上席研究員  

河合

正弘

特別寄稿

    

地経学時代

太平洋戦略

... 30 米外交問題評議会上級研究員  

政策論考

第一章  

﹁経済相互依存

環太平洋経済連携協定

... 54 プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー / 日 本国際 フ ォ ー ラ ム 上席研究員  

寺田

第二 章 

経済﹁

﹂外交

̶

時代

通商政策

... 66 プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー /東京大学教授  

飯田

敬輔

目次

002-目次.indd 2 002-目次.indd 2 2018/12/27 17:13:132018/12/27 17:13:13

(4)

目 次 3 第三 章 

塗り替

... 79 プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー /石油天然 ガ ス ・ 金属鉱物資源機構主席研究員  

本村

眞澄

  ◇第 三 章補論  

ー問

る三

... ... 94        日本 国 際 フ ォ ーラム 研 究セ ン タ ー 長 

矢野

卓也

第四 章 

通貨

国際化

... 104 プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー /慶應義塾大学教授  

櫻川

昌哉

第五 章 

岐路

開発協力

... ... 118 プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー /国士館大学准教授  

助川

成也

世界の声

第一章  

︽特別対論集︾

﹁地経学﹂時代

... 134 第二章  

地域別

る﹁

世界

... ... 159

バックステージ

第一章  

﹁地経学﹂研究

... ... 164 第二章  

公益財団法人

本国際

... ... 177

編集後記 ... ... ... 179 002-目次.indd 3 002-目次.indd 3 2018/12/27 17:13:132018/12/27 17:13:13

(5)

特 集

「地経学」とは何か

日本国際フォーラム研究プロジェクトの軌跡

近年、中国をはじめとする新興国の台頭で、既存の国際政 治・経済のパワーバランスが崩れ、新たな均衡を見出せな いでいる。こうした中、一部の国や地域では、経済的手段 を通じて自国に有利な規範やルールを打ち出しつつ、新た な 政 治・ 経 済 秩 序 を 形 成 し よ う と す る「 地 経 学 (Geoeconomics)」に基づく対外戦略がみられる。その なかで、日本はいかなる経済外交を展開するべきなのか。 4かくし ≉㞟ϨࢺࣅࣛLQGG ≉㞟ϨࢺࣅࣛLQGG 

(6)

I 本特集のねらい

巻頭論文

「地経学」から見えてくる新たな世界

 河合 正弘 

プロジェクトリーダー          日本国際フォーラム上席研究員 5かくし ≉㞟ϨࢺࣅࣛLQGG ≉㞟ϨࢺࣅࣛLQGG 

(7)

JFIR WORLD REVIEW Vol.02 6

はじめに

この特集では、最近の国際関係を特徴づける﹁地経学 ︵ G e o e c o n o m i c s ︶ ﹂という考え方に焦点をあてて 、国 際社会の大きな流れ︵メガトレンド︶を展望しつつ、そ のなかで日本がいかなる経済外交を展開すべきかについ て考えてみたいと思います。 ﹁地経学﹂ とは、簡単にいえば、ある国がその戦略的・ 地政学的な目標 ︵国益︶を達成しようとする際に 、︵軍 事的手段ではなく︶経済的手段を用いようとするアプ ローチです。このアプローチは、日本外交の基本に位置 づけられるべきものといえます 。なぜなら日本にとっ て、積極的に軍事的手段を使って国益を達成することに 大きな制約

もちろんあらゆる軍事的手段を否定する という意味ではありません

があるなか、経済的な手 段を使って国益を最大化することが現実的なアプローチ だと考えられるからです。いうまでもなく日本は、第二 次大戦後久しく、軽武装・経済外交にもとづく﹁吉田ド クトリン﹂と呼ばれる外交路線をとってきました。軍事 的な手段でなく経済的な手段を用いる ﹁吉田ドクトリ ン﹂は、日本の﹁地経学﹂的な経済外交の出発点だった といえます。ポスト﹁吉田ドクトリン﹂の積極的平和主 義時代の﹁地経学﹂的アプローチについても考えてみた いと思います。 以下では、まず﹁地経学﹂をめぐる議論を整理した上

﹁地経学﹂

二十

プロジェクトリーダー/日本国際フォーラム上席研究員  

河合

正弘

[特集]         「地経学」とは何か 巻頭論文 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 6 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 6 2018/12/27 午前 11:00:342018/12/27 午前 11:00:34

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特集 「地経学」とは何か 7 といった手法がそれです。あるいは地理的な制約を考慮 しつつ空間経済学的な見地から、産業クラスターをどの ように形成していくことが企業利潤の極大化や地域経 済・国民経済の成長につながるかを分析することも、そ うした考え方にあたります。 第二は 、﹁地理的な環境が国家に与える政治的 、軍事 的、経済的、社会的、歴史的、文化的な影響を考慮に入 れて 、経済的な手段がもつ経済的 ・非経済的な効果を トータルに分析する﹂という考え方です。たとえば、経 済的な手段を通じて自国に有利な国際環境をつくり出す こと、あるいは自国の歴史的・文化的な資産や経済的利 益、政治的な立場を反映した国際規範やルールを設定し たり地域的なグループや機関を創設したりすることを通 じて、自国に有利なかたちで国際的な政治・経済秩序を 形成するための分析がそれにあたります。 ﹁地経学﹂に関する世界的に読まれている著作にロ バート・ブラックウィル氏とジェニファー・ハリス氏に よる ﹃ ﹄︵二〇一六年︶がありま す 。この著作では ﹁地経学﹂について 、﹁地政学的な目 的を達成するために経済的な手段を体系的に用いるこ で、二〇五〇年ごろまでの世界経済のメガトレンドを展 望し、その上で日本の経済外交の現状および今後の課題 について検討します。  

1 

﹁地経学﹂

とは何か

﹁地経学﹂については 、国や地域によってさまざまな 考え方があり、また個々の論者によってもその定義はさ まざまです 。ですから 、﹁地経学﹂を議論する際には 、 その意味する内容を正確に捉えておく必要があります 。 そこで以下では、この特集において﹁地経学﹂がおよそ どのような意味で使われているかについて、簡単に整理 しておきたいと思います。 一般に﹁地経学﹂には、大きく分けて二つの考え方が あります 。第一は 、﹁地理的な環境が国家に与える影響 や制約を経済的な観点から分析する﹂というものです 。 たとえば地理的に離れた二つの地点や三つの地点をどの ような交通・通信・エネルギーインフラを用いて、いか に連結していけばコストが最小化し経済的な利益が最大 化するのかを 、工学的 ・経済学的な見地から分析する 、 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 7 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 7 2018/12/27 午前 11:00:352018/12/27 午前 11:00:35

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 8 ﹁地経学的な強制﹂の例としては、 ﹁一帯一路﹂構想に おける金融支援を利用して主要なシーレーンを確保する こと、台湾との国交をもつ国に対して経済的な誘因を与 えて国交関係の解消を迫り台湾を外交的に孤立させるこ と、相手国の政策︵日本の尖閣諸島の国有化、韓国での 米軍による終末高高度防衛︹TH AA D︺ミサイル防衛 システムの配備、フィリピンによる南シナ海での領有権 の主張など︶を変更させる目的で相手国からの輸入を制 限したり、相手国への中国人観光客の渡航を制限したり すること、などが挙げられています。 しかしながら﹁地経学﹂が、もっぱら﹁強制﹂と結び ついたものであるとは限りません 。﹁強制﹂によらない ﹁地経学﹂的アプローチには多くの例があります 。たと えば米欧を中心とする第二次世界大戦後のブレトンウッ ズ機関 ︵国際通貨基金 ︹IMF︺ 、世界銀行 、関税及び 貿易に関する一般協定︹G A TT︺=のちの世界貿易機 関 ︹ W TO︺ ︶を通じた自由主義的な国際経済システム の構築がまず挙げられます。そのなかには、経済協力開 発機構 ︵OECD︶ 、地域開発金融機関 ︵米州開発銀行 ︹IDB︺ 、アジア開発銀行 ︹ A DB︺ 、アフリカ開発銀 と﹂と定義されており、これは上記の第二の考え方に近 いといえます 。つまり 、﹁地経学﹂は単に経済的な目的 を達成するために経済的手段を行使することではなく ︵それは経済学です︶ 、非経済的︵地政学的︶な目的を達 成するためのものだということです。こうした点を踏ま え 、この特集では 、﹁地経学﹂を主として ﹁地政学的 ・ 戦略的な観点から国益を追求するにあたり、最も有効な 経済的な手段を見出し、その効果を分析する﹂考え方だ と定義します。 さて ﹃ ﹄の共著者の一人であ るブラックウィル氏は、この特集の第Ⅱ部に﹁地経学時 代のインド太平洋戦略﹂という論文を寄せています︵三 〇頁以下参照︶ 。このなかで氏は、 ﹁地経学﹂の目的に適 した経済的手段として、貿易協定の締結や貿易政策の変 更、投資政策やインフラ向け借款、経済・金融制裁、サ イバー攻撃 、経済援助 、通貨 ・為替政策 、 エネルギー ・ 商品の供給・販売への介入を挙げています。そして中国 は 、﹁地経学的﹂なアプローチに長けており 、そうした 手段を使う際には ﹁地経学的な強制﹂ ︵ geoeconomic coercion ︶に訴えることが多いと指摘しています。 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 8 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 8 2018/12/27 午前 11:00:352018/12/27 午前 11:00:35

(10)

特集 「地経学」とは何か 9  

2 

世界経済のメガトレンド

国際社会における日本の地位が世界第三位の経済大国 であっても、政治・軍事大国ではなくミドルパワー︵中 位国︶だと考えることに大方の異論はないと思います 。 この場合 、日本外交が基本とすべきは 、﹁世界の中の日 本﹂の地位を客観的に認識し、その外交戦略を構想する という視点です。したがって、日本の経済外交のあり方 を考えるにあたっても、まずは世界のメガトレンド︵潮 流︶を確認する必要があります。そこで以下では、二〇 五〇年を見据えて、二十一世紀の世界経済がどのように 展開していくかについて検討したいと思います。そうす ることで、日本が今後どのような諸国・地域とどのよう に連携していくことが望ましいかについての指針を得る ことができます。     ︵ 1 ︶ 二〇五〇年の世界経済予測 近未来の世界経済予測としては、最近のものでは、 A DBの委託研究 ﹃アジアの世紀﹄ ︵ K o h l i -S h a r m a -S o o d , 行 ︹ Af DB︺ 、欧州復興開発銀行 ︹EBRD︺など︶ 、 主要先進七カ国会合 ︵G 7 ︶・主要二十カ国 ・地域会合 ︵G 20︶などの多国間機関やフォーラムも含まれます 。 あるいは、旧ソ連を中心としたコメコン体制の確立︵こ れは旧ソ連の崩壊に伴い自然消滅しました︶ 、欧州連合 ︵E U ︶ における経済統合の深化・拡大 ︵市場統合、ユー ロ圏諸国による通貨同盟の形成︶ 、 米国による広域的な メガ自由貿易協定︵FT A ︶の形成努力︵米州支援構想 ︹E A I︺による米州自由貿易地域︹FT AA ︺、環太平 洋経済連携協定 ︹TPP︺ 、大西洋横断貿易投資パート ナーシップ協定 ︹TTIP︺ 、アジア太平洋自由貿易圏 ︹FT AA P︺など︶ 、中国による人民元の国際化、アジ アインフラ投資銀行 ︵ A IIB︶の創設 、﹁一帯一路﹂ 構想の実施、ロシアによるユーラシア経済同盟の構築や 資源外交などもこうした﹁地経学﹂的アプローチに則っ たものだといえます。日本の政府開発援助︵OD A ︶ 政 策、海外インフラ整備支援、経済連携協定の締結、新た な時代に即した国際的ルールや規範の構築などは 、﹁ 強 制﹂によらず親日的な友好国を増やしていくという﹁地 経学﹂的な志向にもとづくものです。 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 9 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 9 2018/12/27 午前 11:00:352018/12/27 午前 11:00:35

(11)

JFIR WORLD REVIEW Vol.02 10 2 0 1 1 ︶が行った世界の主要国 ・地域のGDPの将来予 測が知られています。ここでは、この A DB委託研究と 同様の手法を用いて、筆者が二〇一八年時点での、二〇 五〇年に向けた米ドルベースでの実質GDPの予測を 行った結果を紹介したいと思います。ここで米ドルベー スの実質GDPとして、一〇年価格で示された各国通貨 建ての実質GDPを同年の為替レートで米ドル換算した 値が用いられています。この米ドルベースの実質GDP は世界銀行の W o r l d D e v e l o p m e n t I n d i c a t o r s に所収 されており、以下では一定の想定の下で一八年以降五〇 年 ま で の 値 が 予 測 さ れ て い ま す ︵ 詳 し く は K a w a i ︹ 2 0 1 9 ︺を参照のこと︶ 。将来の米ドルベースの名目G DPを予測することはより困難であることから、実質G DPを予測したのです。 その結果は表 1 にまとめられています 。この表では 、 一九八〇年から二〇五〇年まで十年毎に、GDPの大き い順にトップ二十カ国がリストアップされ、そのランキ ングの変化が示されています。表の八〇年から一〇年ま でのランキングは実績値に基づくものであり、二〇年以 降のランキングは予測値に基づくものです。   1980年 1990年 2000年 2010年 2020年 2030年 2040年 2050年 1 米国 米国 米国 米国 米国 米国 中国 中国 2 日本 日本 日本 中国 中国 中国 米国 米国 3 ドイツ ドイツ ドイツ 日本 日本 インド インド インド 4 フランス フランス フランス ドイツ ドイツ 日本 日本 日本 5 イタリア イタリア 中国 フランス インド ドイツ ドイツ インドネシア 6 イギリス イギリス イギリス イギリス フランス イギリス ブラジル ブラジル 7 ブラジル ロシア イタリア ブラジル イタリア フランス イギリス ドイツ 8 カナダ ブラジル ブラジル イタリア イギリス カナダ フランス イギリス 9 スペイン カナダ カナダ インド ブラジル ブラジル インドネシア フランス 10 メキシコ スペイン スペイン カナダ カナダ インドネシア カナダ カナダ 11 オーストラリア 中国 ロシア ロシア ロシア イタリア オーストラリア オーストラリア 12 オランダ メキシコ メキシコ スペイン スペイン オーストラリア メキシコ メキシコ 13 サウジアラビア オーストラリア オーストラリア オーストラリア オーストラリア メキシコ イタリア フィリピン 14 スイス オランダ インド 韓国 韓国 ロシア トルコ ナイジェリア 15 中国 インド オランダ メキシコ メキシコ 韓国 ロシア トルコ 16 インド スイス 韓国 オランダ トルコ スペイン 韓国 イタリア 17 ベルギー トルコ トルコ トルコ インドネシア トルコ スペイン ロシア 18 スウェーデン 韓国 スイス インドネシア オランダ オランダ フィリピン 韓国 19 アルゼンチン ベルギー インドネシア スイス サウジアラビア サウジアラビア ナイジェリア スペイン 20 トルコ スウェーデン ベルギー サウジアラビア スイス スイス オランダ バングラデシュ  注:実質 GDP は 2010 年価格の各国通貨建て GDP を 2010 年の対米ドルレートでドル換算した値。藤色のハイラ イトは先進諸国、紺色のハイライトは新興経済諸国を指す。

出所:IMF, , October 2018 及び World Bank, のデー

タを用いて筆者作成。

表 1 経済規模(実質GDP)でみた世界のトップ 20 か国、1980-2050 年

004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 10

(12)

特集 「地経学」とは何か 11 ツ 、フランス 、イタリア 、イギリス 、カナダ︶が並び 、 それ以外の先進国としてスペイン、オーストラリア、オ ランダ、スイス、ベルギー、スウェーデンが含まれてい ました。新興国としては、ブラジル、メキシコ、サウジ アラビア、中国、インド、アルゼンチン、トルコが含ま れていました。 二〇五〇年の世界のトップ二十位には依然としてG 7 諸国が含まれていますが、そのランキングは下がり︵米 国第二位 、日本第四位 、ドイツ第七位 、イギリス第八 位 、フランス第九位 、カナダ第十位 、イタリア第十六 位︶ 、それに代わってBRIC四か国 ︵中国第一位 、イ ンド第三位、ブラジル第六位、ロシア第十七位︶がラン キングを伸ばしています。先進諸国としては、オースト ラリア、スペインしか残らず、代わってBRIC四か国 以外の新興国としては、インドネシア、メキシコ、フィ リピン、ナイジェリア、トルコ、バングラデシュが入っ ています。 つぎに図 1 をみてみましょう。この図には、五〇年に 向けての米ドルベースでの実質GDPの推移が 、中国 、 インド、米国、E U 、日本について示されています。こ この表によれば、米国は三〇年まで一貫して世界経済 でトップの地位を占めますが、一〇年から第二位となっ た中国が急速な成長を続け四〇年に米国を抜いて世界一 となり 、その後も中国のトップの座は続きます 。︵ただ し米ドルベースの名目GDPでは中国が米国を追い抜く のは二〇年代後半だと予想されます 。︶そのため米国は 四〇年以降は第二位の地位に下がることになります。日 本は一九八〇年から二〇〇〇年まで世界第二位の地位を 占めていましたが 、一〇年には中国に抜かれ第三位に なった後、三〇年にはインドに抜かれて第四位に下がる ものと予測されます。インドは中国の後を追うかたちで 成長して一九八〇年の世界第十六位の地位から着実に上 昇し、一〇年に第九位になり、三〇年には世界第三位の 経済大国になると予測されます。 全体のトレンドとしていえることは、経済規模の大き な国が時間の経過とともに先進諸国から新興諸国にシフ トすることです 。一九八〇︱九〇年には上位二十カ国 中、十三か国が先進国でしたが、その数は年を追って減 少し、二〇五〇年には九か国に減ると予測されます。 一九八〇年代の上位にはG 7 諸国︵米国、日本、ドイ 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 11 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 11 2018/12/27 午前 11:00:352018/12/27 午前 11:00:35

(13)

JFIR WORLD REVIEW Vol.02 12 けではありませんが、中国の成長率よりも低い率でしか 伸びないため、中国との差が相対的に開くことになりま す。また、インドが中国の後を追って急速に成長するこ とが予測され、五〇年には中国とインドの経済規模の差 が縮小します。そうしたなか、日本の経済成長率は中国 やインドはおろか、米国やE U よりも低く推移すること が見込まれることから、日本経済の規模は中印や米欧経 済の規模と比べると拡大のスピードが遅くなります。 ここで注意すべきは、中国経済は三〇年代半ば以降に 世界に比類のない経済大国になるものの、世界経済で圧 倒的なシェアを占めるようにはならない︵五〇年でせい ぜい十七%︶ということです。というのは、米国とE U は依然として規模の大きな国・地域であり続け、かつイ ンドをはじめとする他の新興諸国が台頭するからです 。 つまり、五〇年に向けて中国経済の規模は世界最大にな りますが、米国とE U を合わせた経済規模の五九%にす ぎず、米国・E U に日本とインドを加えた経済規模の三 七%にしかなりません。 こから、中国経済の規模が世界のトップになった後も速 いスピードで成長し、米国やE U との経済規模の差を広 げることが分かります。米国とE U は著しく後退するわ 図 1 実質GDPの将来予測(兆米ドル) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 ୰ ୰ᅜ 䜲䞁䝗 ᪥ᮏ ⡿ᅜ EU  注:実質GDPは2010年価格の各国通貨建てGDPを2010年の対米ドルレートでドル換算した値. 出所:IMF, World Economic Outlook database, October 2018 及び World Bank, World Development

Indicators データを用いて筆者作成.

004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 12

(14)

特集 「地経学」とは何か 13 ﹁アテネの台頭と 、それに対するスパルタの恐怖心﹂に あったと指摘しました。このように、ある地域を支配し ている既存の覇権国に対し、新興国が台頭し挑戦するよ うになると、両者は対立し戦争に至る可能性が高いとい う こ と を 、 米 国 の 政 治 学 者 グ レ ア ム ・ ア リ ソ ン ︵ G r a h a m A l l i s o n ︶が 、﹁ツキジデスの罠﹂と名付けま した。 この話を現下のアジア太平洋地域にあてはめると、中 国が急激に台頭して政治・経済的な影響力を拡大させる なかで、米国がアジア太平洋地域における覇権を維持し ようとして、米・中が政治的・軍事的に衝突する可能性 が高まる、ということになります。現在進行中の南シナ 海における米中の緊張関係や米中﹁貿易戦争﹂はそれを 反映している可能性があります。そうだとすれば、米国 と中国がいかに﹁ツキジデスの罠﹂を回避していくかが 今後の課題となるでしょう。 ただし現実は﹁ツキジデスの罠﹂が示唆するよりもは るかに複雑です。貿易・投資・金融を通じた米中間の経 済的相互依存関係は深まっており、両国の経済的利害が 一致する部分が格段に増えているからです。中国は米国   ︵ 2 ︶ メガトレンドの意味 このメガトレンドの意味するところは何でしょうか。 第一は 、世界経済が多極化していくということです 。 第二次大戦直後は世界経済に占める米国の比重が圧倒的 に大きかったわけですが、次第に日本やドイツなど他の 先進諸国の比重が伸びてきました 。しかしその後 、米 国、日本、ドイツなどG 7 を中心とする先進諸国の比重 が低下し、中国、インドなどのBRICをはじめとする 新興諸国が比重を増してきました 。このことは 、政治 ・ 経済面での多国間協調が難しくなってきたことを示唆す るとともに、だからこそ協調がますます必要になってき たことを意味します。 第二は 、新興国のなかでも中国が極めて急速に成長 し、そのことが既存の政治・経済大国である米国との間 で﹁ツキジデスの罠﹂を発生させる可能性があるという ことです。 古代ギリシャの歴史家ツキジデスは、著書﹃戦史﹄の なかで、紀元前五世紀に新興のアテネが既存の覇権国で あるスパルタに挑戦し、戦争に至った経緯を叙述し、こ の戦争

有名なペロポネソス戦争です

の原因が 、 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 13 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 13 2018/12/27 午前 11:00:352018/12/27 午前 11:00:35

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 14 以上の点は、既存の国際社会が、台頭する中国にどう 対応すべきかについて 、基本的な指針を提供していま す。中国はめざましい経済発展を遂げ、世界第二の経済 大国として他の諸国に大きな経済的な機会を提供するよ うになっています。しかし同時に、中国は南シナ海や東 シナ海などでは力による現状変更を試みており、広域経 済圏﹁一帯一路﹂の構築を通じて勢力圏の拡大を図るな ど、既存の国際秩序や国際ルールに挑戦しているのでは ないかという懸念を生んでいます。 日本を含む国際社会にとっては、大国化した中国が力 による現状変更などの一方的な行動を抑制して、国際協 調を重視する行動をとることが望ましいことはいうまで もありません。逆に中国が﹁国家資本主義﹂のもとでさ らなる経済発展を続け、軍事強国化し、既存の国際秩序 に軍事力を背景にした力で挑戦するのであれば 、米国 、 E U 、日本など先進民主主義諸国はお互いに結束し、イ ンドなどを巻き込んで中国に軍事的に対峙する姿勢を示 すことで、中国の行動を抑制しようとするでしょう。そ の結果、中国と日米欧との対立は﹁地経学﹂的な戦いへ と移っていくでしょう。そのなかで、日米欧の国際社会 など先進諸国の多国籍企業のサプライチェーン ︵ 供給 網︶に組み込まれ、中国製品の国際競争力は高く、拡大 し続ける中国市場は米国企業にとっても極めて魅力的な のです。また、米中はいずれも核保有国であることから 相互破壊的な核戦争に至る全面的な軍事衝突は避け 、 ﹁地経学﹂的な観点からの戦争

貿易 ・経済戦争 、ハ イテク覇権競争、サイバー攻撃など

に訴える可能性 が高まります。このように米中経済が相互依存を深めて おり 、かつ両国とも核大国であるという現状では 、﹁ ツ キジデスの罠﹂は﹁地経学﹂的な戦いというかたちで起 こると思われます。 第三は、中国は経済的に台頭するものの、中国経済が 世界で圧倒的・支配的な存在となるわけではないことで す。つまり二〇五〇年においても、米国・E U という既 存の西側諸国の総経済規模が、中国の経済規模を上回り 続ける︵一・七倍になる︶ことになります。これは、中 国が既存の国際秩序に挑戦して、米欧の西側諸国と政治 的・軍事的に対立するには、中国は十分な経済的な資源 を持ち合わせていないことを意味します。日本とインド が米欧に加われば、なおさらそうでしょう。 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 14 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 14 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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特集 「地経学」とは何か 15 して、米欧をはじめとする先進諸国や、インド、インド ネシアなど民主主義的な新興諸国とも連携していくこと が必要になります。経済的な観点からは、国内市場が拡 大する中国との間で、良好かつ安定的な関係を同時に維 持することも望ましいといえます。その意味で、中国と の経済連携や経済協調を同時に進めるというバランスを もったアプローチが必要になります。   ︵ 1 ︶ 日本の経済外交の現状と成果 それでは、日本はどのような経済外交に戦略的な焦点 を当てていくべきなのでしょうか。まずは現状を見てみ ましょう 。外務省の ﹃平成 30年版外交青書﹄によれば 、 日本外交が国益を守り増進するために取り組んでいる重 点領域として、①日米同盟の強化及び同盟国・友好国の ネットワーク化の推進、②近隣諸国との関係強化、③経 済外交の推進、④地球規模課題への対応、⑤中東の平和 と安定への貢献 、⑥ ﹁自由で開かれたインド太平洋戦 略﹂の六つが挙げられています。 このうち第三の﹁経済外交の推進﹂にあたっては、以 下の三点が重視されています。第一は﹁自由で開かれた は中国に対して、それを包囲し排除しようとするのでは なく、様々な圧力をかけつつ既存の国際協調システムに 取り込んでいこうとするでしょう。そうすることで、中 国が国際社会と調和のとれた ﹁平和的な台頭﹂ ︵ p e a c e f u l r i s e ︶に努めるようになると考えられるからです 。要す るに、世界経済が多極化すれば、G 7 をはじめとする先 進諸国がお互いに協調し結束していくだけでなく、先進 諸国と中国︵及びそれを含む新興諸国︶も協調的に行動 していくことが望ましいということになります。  

2 

日本の経済外交はどうあるべきか

以上のメガトレンドが日本の安全保障や経済外交に とって意味することは以下の点にまとめられます。まず 日本にとっては、米国との安全保障同盟が外交の基軸で あり、日米関係のさらなる緊密化が望ましいということ です。これに加えて、E U との連携強化が必要不可欠で す。とりわけトランプ米政権が ﹁米国第一主義﹂ をとり、 G 7 の結束が揺らいでいる現状では、日欧関係の強化は 喫緊の課題です。中国の経済・政治・軍事的な台頭に面 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 15 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 15 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 16 みのために、表 2 に示されるようないくつかの重要成果 指標︵KPI︶が設定され、定期的に達成度が評価され ているのです。 日本は安倍政権の下で、いくつかの経済外交上の成果 を挙げてきました 。それらはおよそ四つに整理されま す。 第一の成果は、日本主導でTPP︱ 11の交渉を決着さ せ 、発効にこぎつけたことです 。そもそもTPP交渉 は 、原加盟四か国 ︵ブルネイ 、チリ 、ニュージーラン ド 、シンガポール︶に米国 、オーストラリア 、ベトナ ム、ペルーの四か国を加えた拡大交渉として二〇一〇年 三月に開始されたものです 。後にマレーシア 、メキシ コ、カナダ、日本が加わりましたが、日本がTPP交渉 に参加したのは一三年七月のことでした。TPP参加十 二カ国は、一五年十月に五年半におよぶ交渉の大筋合意 に達し、一六年二月に署名しました。日本は、同年十二 月にTPP参加を国会で批准しました。 しかし、米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏 が、一七年一月にTPPからの離脱を決める大統領令に 署名したことから、そのままではTPPが発効しないこ 国際経済システムを強化するためのルールメイキング﹂ で、開放的かつルールに基づく安定した国際経済秩序の 維持・発展がうたわれ、G 7 、 G 20、 W TO、アジア太 平洋経済協力 ︵ A PEC︶ 、OECDなどの多国間の フォーラム・国際機関の役割が重視されています。また 保護主義への対抗や 、TPP 、日︱E U 経済連携協定 ︵EP A ︶、東アジア地域包括的経済連携 ︵RCEP︶ 、 日中韓自由貿易協定︵FT A ︶などのメガFT A の締結 が優先事項となっています。第二は﹁官民連携の推進に よる日本企業の海外展開支援﹂で、官民一体での日本の インフラや技術の海外への売り込み 、日本産品のプロ モーションなど日本企業の海外展開支援を目指すことで す 。第三は ﹁資源外交とインバウンドの促進﹂で 、資 源・エネルギー・食料の安定供給確保、外国人観光客の 訪日︵インバウンド︶促進︵戦略的なビザ緩和や日本の 魅力の発信︶などを目指すことです。 実際、二〇一二年末からの第二次︱第四次安倍晋三政 権の下では、アベノミクスの一環として、成長戦略を推 し進める上で経済外交に重要な位置づけが与えられてい ます。つまり、観光業の促進や海外の成長市場の取り込 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 16 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 16 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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特集 「地経学」とは何か 17 とになりました。そこで残る十一か国の中で最大の経済 規模を持つ日本が主導して、米国を除くTPP︱ 11の交 渉を行うことになったのです。その結果、もともとのT PPのうち 、関税撤廃 ・引き下げの約束は維持しつつ 、 ルール分野で二十二項目の効力を凍結し、四項目につい てサイドレターをつけることで関係国間で調整を終え 、 一七年十一月の大筋合意、一八年三月の署名に至ったの です。TPP︱ 11は十一カ国のうち六カ国以上が国内手 続きを終えれば発効することになったところ 、メキシ コ 、日本 、シンガポール 、ニュージーランド 、カナダ 、 オーストラリアが国内手続きを終えたため、一八年十二 月三十日に発効することになりました。TPP︱ 11の発 効後は 、コロンビア 、タイ 、フィリピン 、インドネシ ア、韓国、英国などの新規加入の交渉プロセスが始まる ことになりそうです。 こうした進展は大半の米国人にとってサプライズだっ たようです。また、トランプ大統領は一八年前半に﹁全 ての利益に合致する場合、TPPに復帰するための再交 渉を検討する﹂などと述べ、TPPへの復帰に含みを残 しましたが、実現せず、むしろ現実は、自動車関税引き 観光業の促進 ・訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人とすることを目指す(2012年836万人 ⇒ 2016年2,404万人、2017年2,869万人) ・訪日外国人旅行消費額を2020年に8兆円、2030年に15兆円とすることを目指す(2012年1兆846億円 ⇒ 2016年3兆7,476億円、2017年4兆4,162億円) 海外の成長市場の取り込み ・2018年までに、FTA カバー比率70%を目指す(2012年18.9% ⇒ 2016年度末40.0%、2017年度末40.3%) ※日本の貿易総額に占める、2017年度末時点におけるEPA/FTA発効済・署名済の国との貿易額の割合(2017年 貿易額ベース)、※6本の経済連携交渉を早期妥結に向け推進中(交渉中のものを含めると85.8%) ・2019年に農林水産物・食品の輸出額1兆円を達成する(2012年4,497億円 ⇒ 2017年8,071億円) ・2020年までに、外国企業の対内直接投資残高を35兆円に倍増する(2012年19.2兆円 ⇒ 2016年27.8兆円、 2017年末28.6兆円) ・2020年までに、中堅・中小企業等の輸出額及び現地法人売上高の合計額2010年比2倍を目指す(2010年 度12.8兆円 ⇒ 2014年度14.9兆円、2015年度23.1兆円)※2018年に従来のKPIを現地法人売上高を含めた形 に変更 ・2020年に、約30兆円のインフラシステムの受注を実現する(2010年約10兆円 ⇒ 2015年約20兆円、2016 年約21兆円)※KPIは「事業投資による収入額等」を含む ・2020年に、海外の医療技術・サービス市場の1.5兆円を獲得する(現状0.5兆円) ・2020年度までに、放送コンテンツ関連海外売上高を500億円に増加させる(⇒ 2016年度393.5億円) ・中小企業の海外子会社保有率を2023年までに、2015年比で1.5倍にする 出所:首相官邸・経済再生本部「日本再興戦略―Japan is BACK」(2013 年6月)、「日本再興戦略改訂 2014―未 来への挑戦」(2014 年6月)、「日本再興戦略改訂 2015―未来への投資・生産性革命」(2015 年6月)、「日 本再興戦略改訂 2016―第4次産業革命に向けて」(2016 年6月)、「未来投資戦略 2017―Society 5.0 の実 現に向けた改革」(2017 年6月)、「未来投資戦略 2018―『Society 5.0』『データ駆動型社会』への変革―」 (2018 年6月)より筆者作成。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kettei.html#tousi2017 表 2 安倍晋三政権における成長戦略のうち経済外交に関する重要成果指標(KPI) 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 17 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 17 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 18 サミットでは 、﹁質の高いインフラ投資の推進のための G 7 伊勢志摩原則﹂が合意されました 。それによれば 、 ﹁質﹂の高いインフラとは 、 長期的な観点から経済性が 高い︵初期投資と維持・修繕費全体のライフサイクルコ ストが低い︶こと 、安全性と強靭性 ︵自然災害 ・テロ ・ サイバー攻撃のリスクに対するもの︶が確保されるこ と、環境・社会面での影響が配慮されること、現地の社 会・経済への貢献が大きいこと︵雇用創出、技術・ノウ ハウの移転 、人材育成︶ 、各国の経済 ・開発戦略との整 合性が保たれること、などの条件を満たすものです。こ れはいいかえれば、経済・環境・社会面で維持可能なイ ンフラの構築をめざすものだといえます。 第四の成果は、トランプ米政権が安倍政権の﹁自由で 開かれたインド太平洋戦略﹂を受け入れ、みずからの対 アジア戦略としたことです。これは、従来型の、ワシン トンが外交政策を決め、東京がフォローするという決定 パターンを逆転したものと評価できます 。﹁インド太平 洋戦略﹂は、アジア太平洋からインド洋を経て中東・ア フリカに至るインド太平洋地域を、法の支配に基づく自 由で開かれた海洋にして、国際社会の安定と繁栄を図ろ 上げの威嚇の下で関係国・地域と二国間貿易協定を交渉 する方向に進んでいます。 第二の成果は 、日︱E U EP A の交渉をまとめて発 効の目途をつけたことです。この交渉は二〇一三年四月 に開始されましたが、当初はE U 側が強硬姿勢をとり協 議が難航していました。しかし、保護主義を掲げたトラ ンプ大統領の誕生を受け、協定締結に向けた交渉が加速 し、一七年七月に大枠合意、同年十二月に最終合意に達 し、一八年七月に署名に至ったのです。また、EP A と は別個に協議されていたE U と日本の間の個人データの 移転については、高い水準のプライバシー保護を保障し つつ相互のデータフローを許すために、同年七月それぞ れの﹁個人データ保護規則に関わる十分性﹂の認定を行 うよう合意しました。 日 ︱ E U EP A は 、 一八 年 十 二 月 に 、日本が国会 で 、E U が 欧州議会 で そ れぞ れ承認 し た こ とから 、 一 九 年二 月 一 日に発 効 する見 通 しとなりました。 第三の成果は 、﹁質﹂の高いインフラ支援を重視する 姿勢を打ち出し、そのことがG 7 伊勢志摩サミット︵一 六年五月︶やG 20杭州サミット︵一六年九月︶などの国 際フォーラムで認知されてきたことです。G 7 伊勢志摩 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 18 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 18 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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特集 「地経学」とは何か 19 トリン﹂を国家戦略として追求してきました 。﹁吉田ド クトリン﹂の狙いは、安全保障を米国に依存しつつ、国 力を戦後の疲弊した日本経済の復興に充てることにあり ました。そのため日本は、過大な軍事費を負担せずに平 和と安全を享受しつつ、米国主導の自由貿易体制の下で 経済成長を果たしたのです。その意味で﹁吉田ドクトリ ン﹂は日本の﹁地経学﹂的な経済外交の出発点を与えた といえます。 ただし﹁吉田ドクトリン﹂は﹁日本が軍事的な活動を 行わないことが国際平和に寄与する﹂という消極的平和 主義の立場に基づくものでした。これに対し、近年の積 極的平和主義の考え方は﹁日本は自国と国際社会の平和 と安全のために積極的な役割を果たすべきだ﹂とするも ので、日米同盟を基軸としつつ、防衛政策と外交政策の 両者を重視します。具体的には、紛争地域への平和維持 軍の派遣などとともに、海洋・宇宙・サイバー空間等の 国際公共財の維持、ODAの供与、エネルギー資源・食 糧の安全保障などに焦点を当てるというものです。ただ 防衛政策を重視することになったとしても、軍事的な手 段を用いて国益を追求する方向に転換したわけではな うとするものです 。 具 体 的 に は 、 ① 航 行 の 自 由 、 法 の 支 配 な ど の 普 及 ・ 定 着 、 ②国際規準 に の っ と っ た ﹁ 質﹂ の 高 い イ ン フ ラ 整 備 を 通 じ た 連 結性 の 強 化 に よ る 経済的繁栄 の追 求 、 ③ 海 上 で の法 執 行 能 力 の向 上支 援 、 防 災 、 不 拡 散な ど を 含む 平 和 と 安 定 の た め の 取 組を 進め る も の で す 。 トランプ米大統領は、二〇一七年十一月の東アジア訪 問で、中国の一方的な海洋進出を念頭に、安倍首相の唱 える﹁インド太平洋戦略﹂が政権の新たなアジア太平洋 戦略となったことを示しました。そして、相次いで﹁国 家安全保障戦略﹂ ︵一七年十二月︶ や ﹁国家防衛戦略﹂ ︵一 八年一月︶などの戦略文書を公表し 、﹁インド太平洋戦 略﹂を支えるものとしました。これには、インド、オー ストラリアなども賛同し、日米豪印の協調が進められて いますが 、日本の立場は第一次安倍内閣 ︹〇六︱〇七 年︺ 時の ﹁自由と繁栄の弧﹂ という外交戦略とは異なり、 中国を排除するものではないとしています。   ︵ 2 ︶ 日本の経済外交の基本戦略 第二次世界大戦後の日本は、平和憲法の下で、経済成 長を最優先とする軽武装・経済外交に基づく﹁吉田ドク 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 19 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 19 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 20 ど︶の下で新たな国際ルールや規範を構築していくこと です。そのためにも、米中に対して貿易戦争を早期に終 結させ W TOの枠組みで問題解決を図るよう訴え、米国 に対しては多国間主義・国際協調に復帰するよう説くと ともに、中国に対しては国際ルールや規範︵知的財産権 保護、補助金の透明性など︶を順守するよう促していく ことが求められます。   ︵ 3 ︶ 国・地域別にみる日本の経済外交の課題 こうした観点から、日本が他の主要諸国・地域とどの ように関わるべきかがおのずと見えてくるでしょう。 ︵イ︶ 米国 日本にとって、米国は安全保障条約を結ぶ最も重要な 同盟国ですが、その米国が多国間主義︵TPP、パリ協 定、イラン核合意、国連教育科学文化機関︹ U NESC O︺ 、国連人権理事会など︶やグローバリズムから後退 しつつある中、日本は米国が多国間の国際協調の枠組み に戻るよう説得すべき立場にあります。貿易面では W T O改革を進めることで、米国が W TO重視の貿易政策を とるよう訴えるべきです。米国にとってTPPがアジア く 、その意味で 、﹁地経学﹂的なアプローチの重要性は 依然として維持されています。 現在の日本の経済外交の基本は﹁日本経済の成長を後 押し﹂して自国の直接的な経済利益を高めるだけでな く 、﹁地経学﹂的な観点から 、国際経済秩序の強化や国 際経済システムの協調・安定を通じて間接的に日本の国 益を追求する

つまり、国際協調的な枠組みでルール 作りを進め、それを日本の国益に合致させる

という アプローチです。 その意味で、さきほど紹介した日本政府が掲げている 経済外交の重点分野の一つが﹁自由で開かれた国際経済 システムを強化するためのルールメイキングの主導﹂で あることは高く評価されるべきです。なぜなら、日本に とって望ましいグローバルな経済秩序を維持・強化して いくことが日本にとって死活的に重要だからです。具体 的には、既存のブレトンウッズ体制︵IMF、世銀、 W TOなど︶を中心とする開放的な国際経済システムを維 持し、G 7 ・ G 20などの国際フォーラムを通じた多国間 の国際協調的な秩序を強化し、二国間ないし地域的な経 済連携・協力の枠組み︵TPP、RCEP、 A PECな 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 20 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 20 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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特集 「地経学」とは何か 21 パートナーになるという﹁戦略的互恵関係﹂を結んでい ます。その観点から、日本は中国に対して、 ﹁一帯一路﹂ 構想の実施にあたり、開放的で透明なインフラ構築ルー ルを取り入れ 、借入国の債務の維持可能性に注意を払 い、多国間合意に基づくアプローチをとっていくよう促 していくことが重要です。 安倍首相は ﹁一帯一路﹂を条件付きで支持しており 、 第三国での日中企業による共同事業を進めていますが 、 そうした案件には、①プロジェクトの経済合理性、②開 放性、③透明性、④借り入れ国の財政の健全性、の四条 件を満たすことが必要だと繰り返し述べています。それ により、事業の序盤にプロジェクトが暗礁に乗り上げた り、終盤になって借り手国の公的債務が過剰になったり することを避けることができると見込まれるからです 。 また、民間資金を活用する官民パートナーシップ︵PP P︶案件を広げることで、経済合理性を保持し、インフ ラの開放性・透明性を高め、借り手国政府の財政の健全 性を保つことが容易になります 。﹁一帯一路﹂事業の多 くは、基本的に中国をハブとする二国間プロジェクトの 集積であることから、それを多国間化していくことも有 太平洋地域の貿易・投資ルールを定めるものとして極め て有用であること 、﹁地経学﹂の観点からも米国がアジ アにおける政治・経済的なプレゼンスを維持する上でも 極めて重要であることを主張し続けるべきです。また日 本が米国と共に﹁自由で開かれたインド太平洋戦略﹂を 通じて、法の支配や規範に基づく、開かれた秩序構築の 具体化を進めることも重要です。 当面の課題は 、新たに開始される日米物品貿易協定 ︵T A G / T r a d e A g r e e m e n t o n G o o d s ︶ないし日米 貿易協定︵USJT A ︶の新協議を通じて、米国との間 でバランスのとれた自由貿易協定を結ぶことです。両国 は、農林水産品については日本が過去に結んだ経済連携 協定 ︵TPPや日E U EP A など︶を超える市場開放 を求めないこと 、自動車分野では米自動車産業の生産 ・ 雇用の増加をめざすことに合意しています。この交渉で は、自動車の輸出自主規制など管理貿易化を避けるとと もに、農業部門での意味のある自由化に応じていくこと が必要になるでしょう。 ︵ロ︶ 中国 日本は中国との間で、お互いに脅威とならず、協力の 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 21 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 21 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 22 中間の信頼増進のためにも有効です。日本が主導してい る A DBでは、中国が第三位の出資国として重要な役割 を果たしています。チェンマイ・イニシャチブと A M R Oでは日中政府 ︵財務当局者︶ 間の協調が進んでいます。 RCEPでは日中政府︵通商当局者︶が他の政府ととも に交渉を続け 、貿易面での制度化を図ろうとしていま す 。﹁一帯一路﹂構想については 、既述のように 、日中 企業が第三国で共同事業を進めるための日中合意がなさ れています。日本︵財務省︶は A IIBには加盟してい ませんが、 A DBに対して A IIBと協調していくよう 促しています。 その他 、日本は日中韓FT A の交渉進捗などの貿易 ・ 投資協力、二国間通貨スワップの締結、東京での人民元 決済、 ﹁人民元適格外国機関投資家﹂ ︵R Q FII︶制度 の投資枠の日本への適用などをはじめ、様々な面で中国 と協力していくことが望ましいでしょう。 ︵ハ︶ E U E U は 、イギリスのE U 離 脱 ︵ B r e x i t ︶ 、難民問題 、 テロ事件、ポピュリスト政党の台頭などで揺れてはいま すが 、米国とともに世界第一 、二位の経済地域であり 、 用です。 構想の対象国がアジアを超え、中東、アフリカ、欧州 を含む極めて広範な地域を含むため、世界銀行が全体の 調整役として関わっていくことを勧めるべきです。世銀 が関与することで 、﹁一帯一路﹂が中国のみを利するの でなく、すべての参加国にとって有用な透明性の高いプ ログラムになるよう促していけるからです。世銀は、以 下のようなサービスを提供できます 。 す な わ ち 、 ① 主 要 な﹁ 一帯 一路 ﹂ プ ロ ジ ェ ク ト の 分 析 と 評 価 、 ② 中 立 的 な ブ ロ ー カ ー と し て 各国間 の 利 害 調整 、 ③ 各国 の 経 済発展 戦 略 と﹁ 一帯 一路 ﹂ プ ロ ジ ェ ク ト の 整 合 性 確 保 、 ④ 国 際 的 な 融資基 準 ︵ 環 境 ・ 社会的基 準 、 入札 の 透 明性 ︶ の 遵 守に よ る ﹁ 質 ﹂ の 高 い イ ン フ ラ ・プ ロ ジ ェ ク ト の 構 築 、 ⑤借 り 手 国 の 債務 の 維 持 可 能性 分析 、 な ど で す 。 中 国 も 世 銀 が﹁ 一帯 一路 ﹂ 構 想 に 関 与 す る こ と で 、 こ の 構 想 が 国 際 的 に 広く認 知 さ れ る こ と に 強 い 関 心をも つ は ず で す。 日本と中国は 、すでにアジアにおけるいくつかの制 度・国際組織︵ A DB、チェンマイ・イニシャチブ、 A SE A N+3マクロ経済調査事務局 ︹ A M RO︺など︶ を多国間の枠組みで運営しており、こうした制度化は日 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 22 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 22 2018/12/27 午前 11:00:362018/12/27 午前 11:00:36

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特集 「地経学」とは何か 23 大陸でもっとも重要な国であることから、日本はインド との戦略的な連携を強化していくことが重要です。日本 はインドとの間で日印経済連携協定や日印投資促進パー トナーシップを発効させ、さらに﹁特別戦略的グローバ ル・パートナーシップ﹂を構築してインドとの経済・政 治 ・戦略的な連携を深めてきました 。安倍首相による ﹁自由で開かれたインド太平洋戦略﹂は 、モディ首相の ﹁アクト ・イースト﹂戦略との相乗効果が期待できるも のであり、日印関係の強化によってその有効性がさらに 高まるという関係にあります。 ︵ホ︶ ASEAN 一九六七年に発足した東南アジア諸国連合︵ A S E A N︶は 、九二年に A S E A N自由貿易協定 ︵ A FT A ︶ を結んで域内経済統合に乗り出し、〇七年には A S E A N憲章を採択しました 。一五年末には 、政治 ・安全保 障、経済、社会・文化の三つの共同体からなる﹁ A S E A N共同体﹂を設立しました。 A S E A Nは A S E A N +3 、東アジア首脳会議 ︵E A S ︶、 A S E A N地域 フォーラム︵ A RF︶を組織するなど、東アジア地域の 中心的な存在になっています。民主主義、人権、法の支 多国間主義的な国際協調を支持し、かつ民主主義、法の 支配、基本的人権など日本と共通の基本的価値を共有す る重要なグローバル・パートナーです。日本は一八年七 月に日 ・E U EP A と日︱E U 戦略的パートナーシッ プ︵SP A ︶に署名し、E U との政治・経済・戦略的な 関係を強化しつつあります 。E U が日本とだけでなく 、 アジアの新興民主主義諸国︵インドやインドネシアなど A S E A N諸国︶と連携強化をしていくよう促すことも 欠かせません 。日︱E U EP A については 、それぞれ の国内・域内手続きが終了し、 一九年二月 の発効が予定 されています。こうした取り組みを通じて、内向き傾向 になりつつある世界経済の保護主義的な流れを変えてい くことが期待されます。 ︵ニ︶ インド インドは 、アジアとアフリカをつなぐインド洋に面 し、海上交通のシーレーン上の中央に位置しており、地 政学的にも極めて重要な国です。日本はインドと民主主 義や法の支配などの基本的な価値観を共有しています 。 インドは今後も急速な経済成長を続け、中国の経済規模 に匹敵する経済大国になる潜在性をもち、かつインド亜 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 23 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 23 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 24 様化させていくためにも、ロシアとの協力が重要な課題 になっています。欧米による対ロ制裁の中での日ロの接 近が、日本の対米・欧関係を不安定化させないよう努め ていくことが極めて重要です 。日本はロシアとの間で ﹁八項目の経済協力﹂の具体化を協議しており 、 ロシア 極東地域での共同資源開発など各種の経済協力を進めて いくことが課題になっています 。八項目の経済協力と は、①健康寿命の伸長、②快適・清潔で住みやすく、活 動しやすい都市作り、③中小企業交流・協力の抜本的拡 大 、④エネルギー 、⑤ロシアの産業多様化 ・生産性向 上 、⑥極東の産業振興 ・輸出基地化 、⑦先端技術協力 、 ⑧人的交流の抜本的拡大です。ロシアはとりわけ、労働 生産性の向上、デジタル経済分野、エネルギー協力に関 心が高く、日本の貢献が期待されています。   ︵ 4 ︶ 国際的な枠組の強化 協調的な国際経済秩序の維持や国際経済システムの安 定を図るためには、日本としても、いくつかの国際的枠 組の強化に努めるべきです 配、紛争の平和的解決、内政不干渉などの諸原則も打ち 出し、日本との親和性も高い地域です。 日本は A S E A Nとの経済的な相互依存関係を深めて きました 。両者は相互に主要な貿易相手国 ・地域であ り、日本にとって A S E A Nはアジア地域で最大の投資 先となり、日系企業を中心とした緊密なサプライチェー ンが形成されています。こうした経済的な相互依存の高 まりを背景に、日本と A S E A N諸国は二国間の経済連 携協定や投資協定、さらには日︱ A S E A N包括的経済 連携︵ A J CEP︶協定を締結しています。一三年から は A SE A NをハブとしたRCEP協定の交渉が始まっ ています。日本は、 A S E A N地域の統合の進展が地域 全体の安定と繁栄をもたらすとの観点から、 A S E A N 共同体の深化、 A S E A N連結性強化、域内格差の是正 に向けた努力を全面的に支援しています。 ︵ヘ︶ ロシア ロシアと欧米諸国との間は、前者によるウクライナの 併合、後者による制裁措置の発動などで対立関係にあり ます。日本も制裁措置に参加していますが、北方領土交 渉を進め、対中バランスを図り、エネルギー供給元を多 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 24 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 24 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

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特集 「地経学」とは何か 25 協定を結ぶことに大きな関心を抱いています。 ただしインドは急激な自由化を拒んでおり、RCEP 交渉が進まない一因になっていることから、一部にはイ ンド抜きでRCEPをまとめるべきだとする意見があり ます。しかし、インドがRCEPのメンバーとしてとど まることは﹁インド太平洋戦略﹂をとる日本にとってき わめて重要です。そこで、インドが自由化を進めやすく するために、 A SE A N後発国並の﹁特別かつ差異のあ る扱い﹂をして、貿易・投資の自由化や貿易・投資ルー ルの採用について長い期間を許すことが現実的な対応と なるでしょう。実際のところ、インドの一人当たりGD Pの水準はラオスやベトナムよりも低いのです。 ちなみに、RCEPはしばしば中国主導の枠組みだと いわれていますが、それは正しくありません。RCEP は日本、中国、 A S E A Nが中心になって進めている A SE A N+6の枠組みです。もともと中国は A S E A N +3間でのFT A を強く主張し、日本は A S E A N+6 の枠組みを主張して 、折り合いがつかなかったところ 、 A S E A Nが事実上の A S E A N+6 FT A であるR CEPを提唱して決着がついたという経緯があります 。 ︵イ︶ 東アジア地域包括的経済連携 ︵ RCEP ︶ 日本はできるだけ高いレベルのRCEPを早期に実現 させることを目指すべきです 。日本は 、RCEP交渉 で、高いレベルの関税引き下げと貿易・投資のル︱ルの 設定を主張する一方で、中国はより低いレベルを主張し ており、日本と中国の間の考え方の隔たりが大きいのが 現状です。RCEP交渉で合意するためには、ある程度 現実的な妥協が日中双方に必要でしょう 。日本として は、TPP︱ 11の発効によって、アジア太平洋地域で高 いレベルの貿易・投資枠組みのベンチマークを設定でき ることから 、RCEP交渉で中国に対し妥協しやすく なったといえます。日本が中国に対して高いレベルの貿 易・投資の自由化や貿易・投資のルールを求めていくの は 、日中韓FT A の枠組みの方が適しているともいえ 、 まずRCEP交渉を合意に導き、次いで日中韓FT A 交 渉を本格化させることが現実的でしょう。その一方で中 国にとっては、TPP︱ 11の発効を受け、みずからが大 きな影響力を及ぼせるRCEPをまとめる誘因が高まる ものと考えられます。またトランプ米政権との間での貿 易戦争を踏まえ、中国としてもアジア広域的な自由貿易 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 25 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 25 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 26 でなく、バングラデシュやスリランカなどともEP A を 結び 、経済的な結びつきを制度化していくべきでしょ う。これら諸国は将来的にRCEPの加盟候補国になり えます。米国はインド太平洋地域の諸国と二国間FT A を結ぶ意思を示していますが、米国が同時にTPPに復 帰することこそ、インド太平洋地域の貿易・投資の拡大 に大きく寄与します。 インフラ融資については、日本の政府系金融機関︵日 本貿易保険 ︹NEXI︺や日本国際協力銀行 ︹ J BI C︺ ︶と米国の機関 ︵海外民間投資公社 ︹OPIC︺と 国際開発庁︵USAID︶の一部機関を統合して新設さ れる開発金融機関 ︵DFI︶ や合衆国輸出入銀行 ︹ E x -i m B a n k ︺ ︶を連動させて、民間部門のインフラ事業に融資 等を行い支援していくことが有効です。トランプ米政権 は新設のDFIに対して最大六〇〇億ドルの投融資枠を 用意して、エネルギーやデジタル分野などでのインフラ 事業支援を行うむね表明しており、日本政府によるエネ ルギー分野の官民一〇〇億ドル規模のインフラ整備支援 とあいまって態勢が整いつつあります。インドが独自の 開発銀行を設立して国内外のインフラ融資に積極的に関 その意味で、RCEPはもともと日本の主張に沿った枠 組みであって 、中国の望んだ枠組みではありませんが 、 それにも拘わらず、中国は大きな関心を抱いているので す。 ︵ロ︶ 自由で開かれたインド太平洋戦略 日米豪印を中心にした﹁自由で開かれたインド太平洋 戦略﹂が安全保障の観点から強化されることは重要です が、それだけでは不十分です。そこに経済的な実体をも たせていくことが欠かせません。さもなければ絵に描い た餅に終わる可能性があるからです。とくに、インフラ の連結性の強化、貿易・投資の拡大、インフラ融資の増 強の面での具体化が必要です。 インフラの連結性については 、インド太平洋地域を ﹁質﹂の高い交通 ・情報通信 ・エネルギーインフラで連 結するための出発点として、インドとメコン地域を東西 につなげることが有益でしょう。 貿易・投資の拡大については、インドを A PECのメ ンバーとして迎え、RCEP交渉をなるべく早期に妥結 して、東アジアのサプライチェーンをインド亜大陸に拡 張していくことが重要です。日本としては、インドだけ 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 26 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 26 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

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特集 「地経学」とは何か 27

むすびにかえて

以上 、本稿では 、日本の観点から 、﹁経済的な手段を 通じて、自国に有利な国際政治・経済の環境や秩序をつ くり︵国際的な規範・ルールの設定や地域的なグループ の形成など︶強化する﹂という﹁地経学﹂に基づく経済 外交のあり方を検討してきました 。冒頭で述べたとお り、現在の日本には、戦略的・地政学的な目的を達成す るための手段として軍事力の行使が容易にできないとい う制約があり、そのためにも﹁地経学﹂的な視点からの 経済外交がきわめて重要な意味をもっています 。また 、 米国や中国についても 、核大国であることから 、経済 ・ 政治・軍事覇権をめぐる対決を全面的な軍事衝突や核戦 争で解決することは難しく 、﹁地経学﹂的な観点からの 戦争

貿易 ・経済戦争 、サイバー攻撃 、ハイテク競 争 、自国に有利な国際政治 ・経済秩序の構築競争など

に訴える傾向が今後も強くなるものと思われます。 日本はアジアで最初に近代化を成し遂げた国として 、 アジアと西側世界をつなぐ役割を果たすべき立場にあり ます。その際、日本にとっては、米国との安全保障関係 与していくことも有意義でしょう。 ︵ハ︶ 世界貿易機関 ︵ WTO ︶ 日本は、米欧中や他の有志国とともに W TO改革を進 め、ルールなき貿易戦争が再発しないよう努めることが 重要です。米国は中国に対して、知的財産権の侵害、不 透明な補助金による産業政策﹁中国製造二〇二五﹂の支 援、国有企業への不公正な支援などを問題視して中国に 対する二五〇〇億ドルに上る追加関税を課しています 。 これらの指摘には正当な面もあり、日本は米欧と協調し て、中国が国家主導型の経済モデルから市場主導型の経 済モデルに移るよう説得していくべきです。そうしたこ とを促すためにも、中国を巻き込んで W TO改革に乗り 出し、加盟諸国の貿易政策を効果的にモニターする態勢 の強化、裁定・紛争処理の制度の迅速化・強化、デジタ ル経済の下でのデータの国際移転等に伴う諸ルールの策 定、加盟国による補助金政策の W TOへの通報義務の実 効性確保、知財侵害・補助金・国有企業支援などに関す るルールの導入 ・強化 、などを進めていくべきでしょ う。 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 27 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 27 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

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JFIR WORLD REVIEW Vol.02 28 ︽参考文献︾ 外務省、二〇一八年。 ﹃平成三〇年版外交青書﹄ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/ html/index.html 外務省、二〇一八年。 ﹃我が国の経済外交﹄ 日本再建イニシアティブ、二〇一七年。 ﹃現代日本の地政学 13 のリスクと地経学の時代﹄ 、中公新書 Allison, Graham. 2017. Destined for War: Can America and China Escape Thucydides's Trap? Houghton Miffl in Harcourt. Blackwill, Robert D., and Jennifer M. Harris. 2016. War by

Other Means: Geoeconomics and Statecraft. Cambridge,

MA: Belknap Press.

Kawai, Masahiro. 2018. "Will the 21st Century Be an 'Asian Century'?: A Global Perspective." In Tomoo

Kikuchi and Masaya Sakuragawa, eds., China and Japan

in the Global Economy. Oxon and New York: Routledge, pp. 4-45. Kawai, Masahiro. 2019. "The World Economy in 2050."

ERINA Working Paper

︵ forthcoming ︶ . Kohli, Harinder S., Ashok Sharma, and Anil Sood. 2011. Asia 2050: Realizing the Asian Century. New Delhi: Sage. を基軸として、E U やインド、オーストラリア、 A S E A N諸国などと連携しつつ、中国やロシアなどとも多角 的な経済関係を深化させ、平和と安全を確保していくこ とが重要です。 日本にとって優先順位の高い経済外交上の政策課題を まとめると 、①TPP︱ 11と日︱E U EP A を発効さ せ、TPP︱ 11の発効後は新規加入のプロセスを始める こと、②日米新通商協議︵T A G/USJT A ︶を通じ て米国と生産的な協議を行うとともに、TPP復帰を粘 り強く働きかけていくこと、③中国と協調してRCEP 交渉を加速化させて合意に達し、次いでそれよりも質の 高い日中韓FT A を めざすこと、④﹁自由で開かれたイ ンド太平洋戦略﹂に経済的な実体を与えていくこと、④ ﹁一帯一路﹂構想が開かれた透明性の高いものになるよ う中国に促していくこと、⑤ W TO改革を米欧中と共に 進め、中国が真の﹁市場経済国﹂になるよう促していく ことです。長期的にはTPPとRCEPをつなげて、イ ンドを含む A PEC地域でアジア太平洋自由貿易地域 ︵FT AA P︶の構築をめざすべきでしょう。 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 28 004-特集Ⅰ-巻頭論文.indd 28 2018/12/27 午前 11:00:372018/12/27 午前 11:00:37

表 1 経済規模 (実質GDP) でみた世界のトップ 20 か国、1980-2050 年

参照

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