The Japanese Journal of Psychology 2001, Vol. 72, No. 5, 361-368
不快 な 情動が 目撃者の有効視野 に及 ぼす影響2
九 州 大 学 大 上 渉3・ 箱 田 裕 司 ・大 沼 夏 子
・ 原 子 力 安 全 シ ス テ ム 研 究 所 守 川 伸 一
The effect of negative emotion on eyewitness functional field of view
Wataru Oue (Department of Cognitive Psychology, Faculty of Letters, Kyushu University, Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka
812-8581)
Vuji Hakoda, Nacmko On uma (Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University,
Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581) and Shinichi Morikawa (Institute of Nuclear Safety System, Mihama-cho,
Mikata, Fukui 919-1205)
This study examined whether the functional field of view was shrunk by negative emotion. The functional field of view was determined in terms of the number detection task, in which a number presented for a brief exposure peripherally in one of the four video screen corners. Participants watched either negative emotional or neutral event on the screen. Emotion was evaluated by means of self ratings of mood adjective checklist, and the results showed that tensional arousal increased in participants who watched the negative emotional event. After watching the video participants were asked to report whether they noticed the number, Participants who watched the emotional event were able to detect fewer numbers than participants who watched the neutral event. This result suggests that the functional field of view shrank because of negative emotion. Peripheral memory decrement reported in previous studies might be due to the shrinkage of the functional field of view.
Key words: eyewitness testimony, emotion, functional field of view, attention-focusing.
強 盗 や 殺 人 の よ う な シ ョ ッ キ ン グ な 出 来 事 は,目 撃 者 に対 し て 恐 怖 や 不 安 感 と い っ た 不 快 な 情 動4を 喚 起 さ せ る 。 こ う い っ た 場 合,我 々 の 注 意 は 出 来 事 の ど う い っ た 側 面 に 向 け られ,ど の よ う な情 動 が 記 憶 さ れ る の だ ろ う か.本 研 究 で は 不 快 な情 動 が 目 撃 者 の 認 知 機 能 に対 し,特 に 情 報 の 獲 得 時 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 す る 。 不 快 な 情 動 は 目撃 者 の 記 憶 を促 進 す る の だ ろ う か, そ れ と も 抑 制 す る の だ ろ う か 。 こ の 間 題 は,こ こ20 年 間,多 くの 研 究 者 に よ り繰 り返 し研 究 され て き た. と こ ろ が 現 在 の と こ ろ,実 際 に 発 生 し た事 件 の 目 撃 証 言 研 究 お よび 実 験 室 研 究 か ら得 られ て い る の は以 下 の とお りの 矛 盾 す る結 果 で あ る.情 動 喚 起 時 の 記 憶 は促 進 さ れ る とす る記 憶 促 進 説(Heuer & Reisberg, 1990; Leippe, Wells, & Ostrom, 1978; Yuille & Cutshall,
1986)と,反 対 に,抑 制 さ れ る と す る 記 憶 抑 制 説 (Brigham, Maass, Mamtinez, & WhitenBerger, 1983; Clifford & Ho11in, 1981; Loftus & Burns, 1982)で あ る 。 な ぜ,こ れ ら の よ う な 矛 盾 す る 説 が 提 唱 さ れ て き た の だ ろ う か.
矛 盾 す る 説 の 統 一 的 な 理 解:Yerkes-Dodsonの 法 則 現 在,多 く の 研 究 者 が 情 動 と 記 憶 の 関 係 を 説 明 す る う え で, Yerkes-Dodsonの 法 則(Yerkes & Dodson, 1908)を 引 用 し て い る(Christianson, 1992; Loftus, 1979西 村 訳, 1987; Mandler, 1984田 中.津 田 監 訳, 1987;越 智, 1997).そ れ に よ る と 情 動 に と も な う 生 理 的 覚 醒(以 降,覚 醒 と称 す る)と 認 知 効 率 の 間 に は 逆U字 型 の 関 数 関 係 が あ り,あ る 覚 醒 水 準 ま で は 認 知 効 率 は 上 昇 す る が,最 適 水 準 を 超 え る と,認 知 効 率 は 低 下 す る 。 こ の 法 則 に よ っ て,前 記 の 矛 盾 す る 説 を 統 一 す る よ う な 説 明 が 行 わ れ て き た. Yerkes-Dodsonの 法 則 を 説 明 す る 理 論 と し て,頻 繁 に 引 用 さ れ て き た の がEasterbrook (1959)の 説 で あ る.こ の 説 は 覚 醒 が 高 ま る に つ れ て 手 が か り の 利 用 範 囲 が 徐 々 に 狭 ま り,周 辺 的 手 が か り か ら 中 心 的 手 が か り の 順 で 利 用 さ れ に く く な っ て い く と す る も の で あ る.し た が っ て,低 覚 醒 状 態 で は,中 心,周 辺 の 両 手 が か り が 同 時 に 利 用 さ れ る た め に 手 が か り 間 に 注 意 が 分 散 し て 認 知 効 率 が 低 下 し,高 覚 醒 状 態 で は,中 心 的 1 本 研 究 の 一 部 は第58 , 59回 九 州 心 理 学 会,お よ び 第62回 日本 心 理 学 会 で 発 表 され た. 2 本 研 究 は(株)原 子 力 安 全 シ ス テ ム研 究 所 か ら の平 成10年 度 受 託 研 究("情 動 的 ス トレ スが 人 間 の環 境 認 知 機 能 に 及 ぼ す 影 響 に関 す る研 究")で あ る. 3 大 上 渉 の現 所 属 は〒840-8540佐 賀 市 松 原1-1-16佐 賀 県 警 刑 事 部 科 学 捜 査 研 究 所. 4 本 研 究 で は,情 動 を 主 観 的 な 体 験 とそ れ に と もな う生 理 的 覚 醒(自 律 神 経 系,内 分 泌 系 な どの 活 性 化)を 含 め た 概 念 とす る.ま た 不 快 な 情 動 を対 象 に して い る.
手 が か りの利 用 さ え も 困 難 な た め に認 知 効 率 が 低 下 す る と考 え られ る. Easterbrookの 説 と注 意 集 中 効 果 Easterbrook (1959)の 説 が 正 し い の な ら ば,あ る 程 度 の 不 快 な情 動 が 喚 起 さ れ る場 面 で は,場 面 の 中 心 的 手 が か り に 注 意 が 向 か う の に対 し,周 辺 的 手 が か り に は 注 意 が 向 か わ ず 記 憶 も さ れ な い こ とが 予 測 さ れ る。 こ の 予 測 を支 持 す る効 果 が 最 近 の 研 究 に よ り得 ら れ て い る.情 動 的 出 来 事 の 中 心 情 報(中 心 人 物 の 行 動,服 装 な ど)に つ い て は 促 進,周 辺 情 報(背 景 に あ る車 な ど)に つ い て は 抑 制 さ れ る とい う現 象 が 数 多 く 報 告 さ れ て い る(Burke, Heuer, & Reisberg, 1992; Christianson & Hubinette, 1993; Christianson & Loftus, 1987, 1991;越 智, 1997;相 良 ・越 智, 1996; Safler, Christianson, Autry, & Osterlund, 1998). Chrlstianson (1992)は こ れ ら の 現 象 を 注 意 集 中 効 果 と称 した. 中 心 情 報 あ る い は 周 辺 情 報 の 定 義 を よ り明 確 に した の がBurke et a1. (1992)で あ る。 彼 ら は そ れ ま で の 中 心 情 報 と周 辺 情 報 の 区 別 に は,ス トー リー に 関 係 が あ る情 報 とそ うで な い 情 報 とい う区 別,す な わ ち 概 念 的 区 別(Heuer & Reisberg, 1990)と,中 心 人 物 に 空 間 的 に 接 近 し て い る 情 報 と そ う で な い 情 報 と い う 区 別,す な わ ち 空 間 的 区 別(Christianson & Loftus, 1991)が 混 在 して い る こ と を指 摘 した う え で,こ れ ら を 区別 し,検 討 す べ き情 報 を ギ ス ト情 報,基 礎 レ ベ ル 視 覚 情 報,中 心 的 詳 細 情 報,背 景 詳 細 情 報 の4種 類 に 分 類 し た.ギ ス ト情 報 と は,出 来 事 の ス トー リ ー を記 述 す る こ と に 必 要 な 情 報 で,た と え ば,"次 に何 が 起 こ り ま した か"と い っ た 質 問 に 対 す る答 を指 す.基 礎 レベ ル 視 覚 情 報 と は,刺 激 ス ラ イ ドが 表 し て い る 情 報 で,た と え ば,"そ の ス ラ イ ドに は 何 が 写 っ て い ま し た か"と い っ た 質 問 に 対 す る答 え が こ れ に あ た る。 中 心 的 詳 細 情 報 とは,出 来 事 の 中 心 人 物 と空 間 的 に 接 近 して い るが,ス トー リー と は無 関 係 な情 報 で あ る。 た と え ば,中 心 人 物 の 着 て い る服 の 色 な どで あ る 。 背 景 詳 細 情 報 と は 中 心 人 物 と空 間 的 に 接 近 し て お らず,ま た ス トー リー と も無 関 係 な 情 報 で あ り,た と え ば,背 景 に あ る車 な どで あ る 。 実 験 の 結 果,情 動 条 件 で は, 中 性 条 件 と比 べ ギ ス ト情 報,基 礎 レベ ル 視 覚 情 報,中 心 的 詳 細 情 報 の 記 憶 成 績 が 高 く,背 景 詳 細 情 報 の 成 績 の み が 低 い こ とが 明 らか に な っ た 。 こ こで,前 者3種 の情 報 と後 者 の 背 景 詳 細 情 報 の 違 い は ス トー リー に 関 連 す る 情 報 で あ るか な い か で は な く,む し ろ 中 心 人 物 に 空 間 的 に 接 近 し て い る情 報(以 降,空 間 的 接 近 情 報 と称 す る)で あ る か な い か の 違 い とみ る こ とが で き る. 基 礎 レベ ル 視 覚 情 報,中 心 的 詳 細 情 報 は もち ろ ん の こ と,ギ ス ト情 報 も空 間 的 接 近 情 報 の 時 系 列 変 化 を も と に構 成 した もの で あ る と考 え られ る た め,こ の3種 は 空 間 的 接 近 情 報 に 分 類 で き る。 一 方,背 景 詳 細 情 報 は,ス トー リー と は 全 く関 連 が な く,空 間 的 に も接 近 して い な い.し た が っ て,不 快 な 情 動 が 喚 起 さ れ る 場 面 で は 空 間 的 接 近 情 報 の 記 憶 は促 進 さ れ るが,接 近 し て い な い 背 景 詳 細 情 報 の 記 憶 は抑 制 さ れ る と結 論 で き る。 注 意 集 中 効 果 を 解 明 す る 新 た な概 念1有 効 視 野 説 の 導 入 以 上 の よ う に,情 動 場 面 に お い て,あ る情 報 の 記 憶 が 促 進 さ れ る か 抑 制 さ れ る か は,そ の 情 報 が 視 野 の 中 心 に 位 置 す る.す な わ ち 空 間 的 接 近 情 報 か,周 辺 に位 置 す る,す な わ ち 背 景 詳 細 情 報 か で 規 定 さ れ る と考 え ら れ る. で は,背 景 的 詳 細 情 報 の 記 憶 は な ぜ 抑 制 さ れ る の か 。 従 来 のEasterbrook (1959)説 で は,覚 醒 に と も な う手 が か りの 利 用 範 囲 の縮 小 に つ い て 述 べ て い る に す ぎ ず,空 間 的 情 報 に つ い て は何 もふ れ て い な い た め 十 分 な 説 明 は で き な い.そ こ で,手 が か りの利 用 範 囲 と い う曖 昧 な概 念 を,空 間 的 情 報 の獲 得 に直 接 関 係 す る "有 効 視 野"と い う概 念 に 置 き 換 え て 考 え る こ と に よ り,明 確 な 説 明 が 可 能 に な る. 有 効 視 野 と は,あ る もの を み な が ら同 時 に他 の もの を み る こ とが で き る範 囲,す な わ ち,あ る 注 視 点 の 周 り で 比 較 的 明 確 に 意 識 で き る 範 囲 の こ と を い う(三 浦, 1993).し た が っ て,有 効 視 野 内 に あ る 情 報 は, 注 意 を向 け られ て い な くて も,な ん らか の 知 覚 的 処 理 を受 け る が(石 口, 1983),よ り深 い 処 理 は 注 視 点 で 行 わ れ る(三 浦, 1996)。 こ の よ う に,有 効 視 野 は 視 覚 の 機 能 的 側 面 か ら定 義 した もの で あ り神 経 生 理 学 的 側 面 か ら定 義 し た も の で は な い.
有 効 視 野 は 認 知 的 負 荷(Ikeda & Takeuchi, 1975; Williams, 1982)や 注 意 の 必 要 性(三 浦, 1993)の 増 大 に と も な い 縮 小 す る こ とが 知 ら れ て い る(注 視 点 か ら半 径 約20-100内)。 こ の メ カ ニ ズ ム に つ い て は, これ ま で の と こ ろ処 理 資 源 に基 づ い た 説 明 が な され て い る。 三 浦(1996, 1993)は,認 知 処 理 に使 用 で き る 資 源 は 一 定 で あ り,注 視 点 に お け る処 理 の 深 さ と広 さ は 相 反 関 係 に な る の で,注 視 点 に お い て 深 い 処 理 を 行 う場 合 に は,有 効 視 野 は 狭 くな る と論 じ て い る. 本 研 究 で は不 快 な 情 動 が 有 効 視 野 を 縮 小 させ る可 能 性 に つ い て 検 討 す る.情 動 の 喚 起 と と も に,利 用 可 能 な 処 理 資 源 量 の 減 少(大 平, 1997)や 処 理 資 源 の配 分 率 の 変 化(福 井, 1990; Mandler, 1984田 中 ・津 田 監 訳, 1987)が 生 じ る こ とか ら,有 効 視 野 の縮 小 が 予 測 さ れ る 。 有 効 視 野 が 縮 小 す れ ば,場 面 の 周 辺 に 存 在 す る事 物 は 認 知 も 記 憶 も さ れ に く く な る.し た が っ て, Burke et al. (1992)の 結 果 が 示 し て い る よ う に,
情 動 が 背 景 的 詳 細 情 報 の 記 憶 を抑 制 す る 現 象 が 生 じ る と考 え ら れ る(有 効 視 野 説). 実 験1で は情 動 に よ る有 効 視 野 縮 小 の 可 能 性 を検 討 し た.不 快 な 情 動 へ の 誘 導 方 法 と し て ビ デ オ を 使 用 し,有 効 視 野 の 縮 小 を検 出 す る 方 法 と して,多 くの 有 効 視 野 研 究 で 用 い られ て い る(三 浦, 1996)タ ー ゲ ッ ト検 出 課 題 を用 い た 。 具 体 的 に は,上 映 中 に 画 面 の 四 隅 の い ず れ か に,数 字 を 一 度 だ け 被 験 者 に 予 告 す る こ とな く呈 示 し,被 験 者 が そ れ を検 出 で き るか ど う か 調 べ る とい う方 法 を と っ た 。 も し情 動 に よ り有 効 視 野 が 狭 ま る な ら ば,情 動 ビ デ オ を 見 た 被 験 者 の 数 字 検 出 成 績 は低 下 す る は ず で あ る 。 続 く実 験2で は,実 験1で 使 用 し た 刺 激 ビ デ オ よ り も,情 動 を 喚 起 させ や す い 内 容 の ビ デ オ を 使 用 し て, 再 び 有 効 視 野 の 縮 小 を検 討 し た 。 さ ら に,実 験3で は,ビ デ オ の 特 異 性 が 注 意 機 能 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 す る た め に,ア イ マ ー カ ー を使 用 して ビ デ オ 観 察 時 の 注 視 点 を 測 定 した 。 本 来,実 験1, 2, 3を 通 じ て9ア イ マ ー カ ー を使 用 し て,眼 球 運 動 を モ ニ タ ー し つ つ,検 出 課 題 を 行 うべ き で あ っ た が,実 験1, 2は 実 際 の 目 撃 状 況 か ら あ ま り遠 ざ け ず に検 出 課 題 を行 わ せ る た め に,ア イ マ ー カ ー の使 用 は避 け,そ の 点 に つ い て の 補 完 を 実 験3で 行 っ た 。 実 験1 方 法 被 験 者 九 州 大 学 の 学 生96名(男 性46名,女 性 50名)。 実 験 計 画 第1要 因 は,ビ デ オ の 種 類 で あ り,情 動 と中 性 の2種 類 が あ っ た 。 ビ デ オ は そ れ ぞ れ 三 つ の フ ェ ー ズ(各13秒 間)か ら な り,第2要 因 は,ど の フ ェ ー ズ に 数 字 を呈 示 す る か で あ っ た.第3要 因 は数 字 呈 示 位 置 で あ り条 件 で あ り画 面 の 左 上,右 上,左 下, 右 下 の4箇 所 で あ っ た 。 第4要 因 は 呈 示 す る数 字 の種 類 で あ り, Kinney, Marsetta, & Showman (1966)よ
り比 較 的 誤 認 さ れ に くい と さ れ た4種 類 の 数 字(1, 3, 4, 7)で あ っ た. 4要 因 す べ て 被 験 者 間 要 因 で あ っ た 。 刺 激 ビ デ オ 映 画"仁 義 な き 野 望"(東 映)の 一 部 を ビデ オ ボ ー ド(miro MOTION DC20)付 きパ ソ コ ン(Power Macintosh 8500/150)に 取 り込 み,動 画 処 理 ソ フ ト(Adobe Premiere 4.0J)で 編 集 し刺 激 ビ デ オ を作 成 した 。 情 動 場 面 を含 む""情 動 ビ デ オ"と 含 ま な い"中 性 ビ デ オ"の2種 類 で あ る 。 フ ェー ズ1と3は カ ラ ー バ ー で あ る 。 フ ェ ー ズ2は,情 動 ビ デ オ で は, 道 路 上 に 立 っ て い た 男 が 車 に轢 か れ,血 ま み れ に な り 道 路 に倒 れ,車 は 去 る ス トー リー で あ り,中 性 ビ デ オ で は,車 が 接 近 し,車 の 後 姿 が ア ッ プ に な り,去 っ て い くス トー リー で あ っ た 。 数 字(視 角1.20)は3フ ェ ー ズ の う ち い ず れ か 一 つ に500msec呈 示 さ れ た.呈 示 位 置 は 画 面 中 央 か ら視 角6.70の 位 置 に あ た る 画 面 の 四 隅 の い ず れ か で あ る。 こ の 呈 示 位 置 は有 効 視 野 に 関 す る先 行 研 究(Ikeda & Takeuchi, 1975;三 浦, 1993)か ら,平 常 時 に は数 字 を 十 分 に検 出 で き る 位 置 で あ る と考 え られ る.数 字 の 時 間 的 呈 示 位 置 は再 生 開 始 か ら12。5秒 後(フ ェ ー ズ1), 22.5秒 後(フ ェ ー ズ 2), 32.5秒 後(フ ェ ー ズ3)で あ る. 情 動 操 作 の 評 価 被 験 者 に喚 起 さ れ た 不 快 な 情 動 を 評 価 す る た め にJUMACL(自 澤 ・石 田 ・箱 田 ・原 口, 1999)を 用 い た. JUMACLは 自 己 報 告 に 基 づ い て 感 情 状 態 を測 定 す る チ ェ ッ ク リ ス トで あ り,エ ネ ル ギ ー 覚 醒(energetic arousal, EA)と 緊 張 覚 醒(tense arousal, TA)の2次 元 で 構 成 さ れ て い る 。 前 者 は 正
の 感 情 を反 映 した エ ネ ル ギ ッ シ ュ な状 態 を示 し,後 者 は 負 の 感 情 を反 映 した 緊 張 状 態 を 示 し て い る.こ れ ら は 自律 神 経 系 の 生 理 指 標 との 間 に 正 の 相 関 関 係 が あ る (Matthews, Jones, & Chamberlain, 1990).チ ェ ッ ク リ ス トに よ る 自 己 報 告 は,い か な る 単 一 の 生 理 指 標 よ り も,身 体 的 覚 醒 の 全 般 的 状 態 を代 表 す る と い う考 え方 (Thayer, 1967)や,生 理 指 標 は 必 ず し も 情 動 経 験 と 対 応 し て い な い(Schachter & Singer, 1962)こ と か
ら,本 研 究 で は 情 動 評 価 の た め に 生 理 指 標 は採 用 せ ず JUMACLの み を 用 い た 。 ま た,不 快 な 情 動 経 験 と JUMACLに よ る 自 己 評 定 と の 関 係 を 調 べ た 研 究 に よ る と,暴 力 的 場 面 の 目撃 や 痛 み の 知 覚 は 緊 張 覚 醒 の み を 高 め る こ とが 明 らか に さ れ て い る(Matthews et al., 1990).こ の こ とか ら本 研 究 で は,緊 張 覚 醒 の 変 化 を 不 快 な情 動 へ 被 験 者 を誘 導 で き た か ど う か の 評 価 基 準 と し てJUMACLを 採 用 した. 装 置 ビ デ オ は ビ デ オ デ ッ キNV-SX10(松 下 製) で 再 生 し, TVモ ニ タ ーAV-25AF1(ビ ク タ ー 製)に 呈 示 した. 手 続 き 被 験 者 はJUMACL回 答 後,顎 台 で 頭 部 を 固 定 さ れ 画 面 か ら2m離 れ て ビ デ オ を観 察 し た 。 観 察 後,被 験 者 は 次 の こ とが ら に つ い て の 内 省 報 告 を し た, (a)上 映 中 に 画 面 の 隅 に 何 か 出 た こ と に 気 付 い た か, (b)そ れ は 何 か, (c)そ れ は どの シ ー ン に 出 て い た か, (d)画 面 の ど の 位 置 に 出 て い た か 。 最 後 に 被 験 者 は,再 度JUMACLに 回 答 し て 実 験 を終 了 した. 結 果 と 考 察 情 動 操 作 の 評 価 緊 張 覚 醒 お よ び エ ネ ル ギ ー 覚 醒 に つ い て ビ デ オ 観 察 前 後 の評 定 平 均 値 を情 動,中 性 の 条 件 別 に 算 出 し た(Figure 1).ま ず 緊 張 覚 醒 に つ い て JUMACL回 答 時 期 × ビ デ オ 種 類 の2要 因 分 散 分 析 を 行 っ た と こ ろ,緊 張 覚 醒 は情 動 ビ デ オ 観 察 後 に有 意 に 上 昇 し た(F(1,94)=4.57, p<.05).一 方,中 性 ビ デ オ 観 察 前 後 で 有 意 差 は み ら れ な か っ た(F(1,94)= 2.65, ns).次 に エ ネ ル ギ ー 覚 醒 に つ い てJUMACL回
答 時 期 × ビ デ オ 種 類 の2要 因 分 散 分 析 を行 っ た と こ ろ,情 動 ビ デ オ観 察 後 に 有 意 に 上 昇 し た(F(1,94)= 5.68, p<.05).一 方,中 性 ビ デ オ 観 察 前 後 で 有 意 差 は み られ な か っ た(F(1,94)=1.17, ns).以 上 の こ とか ら,情 動 ビ デ オ は 緊 張 覚 醒 の み な らず,覚 醒 度 全 般 を 有 意 に 亢 進 させ る効 果 が あ る こ とが 示 され た. 数 字 検 出 成 績 実 験1の 数 字 検 出 成 績 をFigure 2 に示 す 。 情 動 が 数 字 検 出成 績 に 及 ぼ す 効 果 を 検 討 す る た め に,情 動 条 件 と中 性 条 件 の 数 字 検 出 数 を フ ィ ッ シ ャ ー の 直 接 法 で 検 定 した 。 そ の 結 果,数 字 検 出 成 績 は フ ェ ー ズ2に お い て 情 動 条 件 が 中 性 条 件 よ り劣 る 傾 向 (p<.10)が あ っ た 。 次 に,呈 示 した 数 字 の 種 類 や 呈 示 箇 所 に よ っ て 数 字 検 出 成 績 に か た よ りが 生 じ て い な い か を 検 討 す る た め に 数 字 検 出 数 のX2検 定 を 両 ビ デ オ 条 件 で フ ェ ー ズ ご と に行 っ た 。 そ の 結 果,両 ビ デ オ 条 件 の い ず れ か の フ ェ ー ズ に お い て も有 意 差 は み ら れ ず,数 字 検 出 成 績 に数 字 種 類 と呈 示 箇 所 に よ る違 い は な い こ とが 明 ら か に な っ た 。
実
験2
実 験1で は情 動 条件 にお いて数字 の検 出数 が 中性 条
件 よ り少 な か っ た 。 こ の 結 果 は不 快 な情 動 の 喚 起 に よ り有 効 視 野 が 縮 小 す る こ と を 示 唆 し て い る 。 しか し, 数 字 検 出 数 の 差 は 有 意 傾 向 の 範 囲 に と ど ま り,有 意 水 準 に 達 し な か っ た 。 こ の こ と は刺 激 ビデ オ の 情 動 価 の 高 さが 不 十 分 で,顕 著 な認 知 機 能 の 変 化 を 引 き起 こす こ とが で き な か っ た か らで は な い か と考 え ら れ た 。 そ こで 実 験2で は,実 験1の 刺 激 ビ デ オ に 比 べ よ り情 動 的 な 場 面 を 含 む,よ り長 時 間 の 刺 激 ビ デ オ を作 成 し, 実 験1と 同 様 の 手 続 きで 実 験 を 行 っ た. Figure 1. 実 験1に お け る 各 覚 醒 度 の 変 動 。 ビ デ オ 観 察 前 後 の 緊 張 覚 醒,エ ネ ル ギ ー 覚 醒 の 変 動 を 示 す. TA=緊 張 覚 醒, EA=エ ネ ル ギ ー 覚 醒. Figure 2. 実 験 に お け る 数 字 検 出 成 績 。 各 条 件 の 被 験 者 数 は16名 で あ る. 方 法 被 験 者 九 州 大 学 の 学 生32名(男 性14名,女 性 18名)・ 実 験 計 画 第1要 因 は,刺 激 ビ デ オ の 種 類 で あ り, 情 動 と中 性 の2種 類 で あ っ た 。 第2要 因 は,数 字 呈 示 箇 所 条 件 で あ り,画 面 の 左 上,右 上,左 下,右 下 の4 箇 所 で あ っ た 。 す べ て 被 験 者 間 要 因 で あ っ た. 刺 激 ビ デ オ 映 画"オ ー ル ナ イ トロ ン グ"(大 映) をパ ソ コ ン に 取 り込 み,実 験1と 同 様 の 方 法 で 情 動 お よ び 中 性 ビ デ オ(3分34秒)を 作 成 し た.両 ビ デ オ は3フ ェ ー ズ か ら な る.ビ デ オ の 内 容 は 以 下 の とお り で あ る。 フ ェ ー ズ1で は,あ る 少 年 が 登 校 中,踏 切 で 電 車 の 通 過 を 待 つ.一 緒 に 並 ん で い た 少 女 に 不 審 な 男 が 話 し か け る(2分6秒)。 フ ェ ー ズ2で は ビ デ オ 種 類 に よ りス トー リー が 異 な る。 情 動 ビ デ オ で は,男 は ポ ケ ッ トか らナ イ フ を 取 り出 し少 女 を何 回 も刺 す.一 方,中 性 ビ デ オ で は,男 は ポ ケ ッ トか ら紙 切 れ を 取 り 出 し少 女 に道 を 尋 ね る(い ず れ も19秒)。 フ ェ ー ズ3 で は,再 び 共 通 の ス トー リー とな り,少 年 は 学 校 へ 到 着 し着 席 す る(1分9秒).両 条 件 と も に 数 字(視 角 1,2。)は"1"の み を 使 用 し た 。 数 字 の 呈 示 位 置,呈 示 時 間 は 実 験1と 同 じで あ っ た 。 数 字 は 再 生 開 始 か ら 2分11秒 後(フ ェ ー ズ2)に 呈 示 した 。 情 動 操 作 の 評 価 実 験1と 同 じ くJUMACLを 使 用 し た. 装 置 お よ び 手 続 き 実 験1に 準 じ る。 結 果 と考 察 情 動 操 作 の 評 価 緊 張 覚 醒 お よ び エ ネ ル ギ ー 覚 醒 に つ い て ビデ オ観 察 前 後 の 評 定 平 均 値 を情 動,中 性 の 条 件 別 に 算 出 し た(Figure 3).ま ず 緊 張 覚 醒 に つ い て JUMACL回 答 時 期 × ビ デ オ 種 類 の2要 因 分 散 分 析 を 行 っ た と こ ろ,緊 張 覚 醒 は情 動 ビ デ オ 観 察 後 に有 意 に 上 昇 し た(F(1,30)=10.73, p<.005)。 一 方,中 性 ビ デ オ で は 有 意 な 上 昇 は み ら れ な か っ た(F(1,30)= 2.35, ns)。 次 に エ ネ ル ギ ー 覚 醒 に つ い て ビ デ オ 観 察 時 期 × ビ デ オ 種 類 の2要 因 分 散 分 析 を行 っ た と こ ろ, エ ネ ル ギ ー 覚 醒 は情 動,中 性 の 両 条 件 と も ビデ オ観 察 後 の 有 意 な 上 昇 は み ら れ な か っ た(F(1,30)=2.39, ns; F(1,30)=0.149ns).以 上 の よ う に,実 験2で 使用 し た情 動 ビ デ オ は 緊 張 覚 醒 の み を上 昇 させ,そ の 上 昇 量 は 実 験1の も の よ り も高 い こ と が 明 らか に な っ た 。 この こ と か ら,実 験2の 刺 激 ビ デ オ は 実 験1の 刺 激 ビ デ オ と比 べ,よ り情 動 的 で あ る と考 え られ る. 数 字 検 出 成 績 実 験2の 数 字 検 出 成 績 をFigure 4 に 示 す 。 情 動 が 数 字 検 出 成 績 に及 ぼ す 影 響 を検 討 す る た め に,情 動 条 件 と中 性 条 件 の 数 字 検 出 数 の差 を フ ィ ッ シ ャ ー の 直 接 法 で検 定 し た 。 そ の 結 果,情 動 条 件 は 中 性 条 件 よ り数 字 検 出 成 績 が 有 意 に 低 下 し た(p< .05).次 に,数 字 の呈 示 箇 所 に よ り数 字 検 出 成 績 に か た よ りが 生 じ た か 検 討 す る た め に 情 動 条 件 と中 性 条 件 の 数 字 検 出 成 績 のX2検 定 を 行 っ た 。 そ の 結 果,い ず れ に お い て も数 字 検 出 数 に有 意 差 は み られ ず1呈 示 箇 所 の 違 い は検 出 成 績 に影 響 を 及 ぼ さ な い こ とが 明 らか に な っ た 。 以 上 の こ とか ら,情 動 喚 起 時 に 周 辺 視 野 に お け る 数 字 検 出 成 績 が 著 し く低 下 した こ とが 確 認 され た.こ の こ と は 情 動 に よ る有 効 視 野 縮 小 の 可 能 性 を強 く示 唆 す る も の で あ る. 実 験3 実 験1, 2の 結 果 か ら情 動 に よ る有 効 視 野 縮 小 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 しか し,有 効 視 野 縮 小 で は な く, 刺 激 の 特 異 性 が 注 意 機 能 に 影 響 を及 ぼ した た め数 字 検 出 成 績 が 低 下 し た 可 能 性 も考 え ら れ る。 情 動 価 に か か わ らず,特 異 性 の 高 い 対 象 は し ば し ば注 視 さ れ,そ の 注 視 時 間 も長 くな る(Loftus & Mackworth, 1978). 本 研 究 で 使 用 し た 情 動 ビ デ オ に は 特 異 性 の 高 い 対 象 (血,凶 器 な ど)が 多 く,一 方,中 性 ビ デ オ に は 特 異 性 の 高 い 対 象 は全 くな い.し た が っ て,被 験 者 の 注 意 が 血 や 凶 器 に 集 中 し た た め,画 面 周 辺 に 出 現 した 数 字 を見 逃 した 可 能 性 も考 え られ る.実 験3で は,ア イ マ ー カ ー に よ り,被 験 者 の 注 視 点 を測 定 し,数 字 出 現 時 に お け る 注 視 点 か ら呈 示 位 置 まで の 距 離 を調 べ,情 動 と 中性 の 両 条 件 で そ の 距 離 に差 が み ら れ る か ど うか を 調 べ た 。 ま た,数 字 呈 示 中(500ms)に 注 視 点 が 移 動 す る こ と も考 え られ る の で,数 字 が 消 失 す る瞬 間 に お い て も 同 様 の 検 討 を行 っ た.も し,注 視 点 か ら数 字 呈 示 ・消 失 位 置 ま で の 距 離 に 差 が な い な ら ば,特 異 性 の 高 い 対 象 に注 視 点 が 集 中 した の で は な い とい え,数 字 検 出 成 績 の 低 下 は,有 効 視 野 縮 小 に よ る も の と考 え ら れ る 。 Figure 3. 実 験2に お け る 各 覚 醒 度 の 変 動 。 ビ デ オ 観 察 前 後 の 緊 張 覚 醒,エ ネ ル ギ ー 覚 醒 の 変 動 を 示 す. TA=緊 張 覚 醒, EA=エ ネ ル ギ ー 覚 醒. Figure 4. 実 験2に お け る 数 字 検 出 成 績 。 各 条 件 の 被 験 者 数 は16名 で あ る. 方 法 被 験 者 九 州 大 学 の 学 生8名(男 性3名,女 性5 名). 実 験 計 画 第1要 因(被 験 者 内 要 因)は,刺 激 ビ デ オ の種 類 で あ り,情 動 と中 性 の2種 類 で あ っ た 。 ビ デ オ の 呈 示 順 序 は カ ウ ン タ ー バ ラ ン ス し て い る。 第2要 因(被 験 者 間 要 因)は,数 字 呈 示 箇 所 で あ り,画 面 の 左 上,右 下 の2箇 所 で あ っ た 。 刺 激 数 字 呈 示 箇 所 以 外 は 実 験2と 同 じ で あ っ た 。 装 置 実 験1, 2と 同 じ ビ デ オ デ ッ キ を使 用 した. モ ニ タ ー は14イ ン チ(NEC製)の も の を使 用 した. 眼 球 運 動 の 測 定 に,ア イ マ ー カ ーEMR-7(NAC製) を使 用 した 。 手 続 き 被 験 者 が ア イ マ ー カ ー を 装 着 し た こ と, JUMACLは 使 用 し な か っ た こ と を 除 け ば 実 験1に 準 ず る 。 た だ し,先 行 観 察 した ビ デ オ の 影 響 を 可 能 な 限 り排 除 す る た め に, 1週 間 後 に,も う一 方 の ビ デ オ を 観 察 し た 。 結 果 と考 察 数 字 出 現 時 に お け る 注 視 点 か ら 数 字 ま で の 距 離 を Table 1に 示 す. 2要 因(ビ デ オ 種 類 ×数 字 呈 示 位 置) の 分 散 分 析 を 行 っ た と こ ろ,ビ デ オ 種 類 の 主 効 果 も数 字 呈 示 位 置 の 主 効 果 も,そ れ ら の 交 互 作 用 も み られ な か っ た(F(1,6)=1.73, ns; F(1,6)=0.087, ns; F(1, 6)=0.003, ns).次 に,数 字 呈 示 中 に 注 視 移 動 が 生 じ て い る か ど うか を調 べ る た め に,数 字 消 失 時 に お け る 注 視 点 か ら数 字 まで の 距 離 をTable 2に 示 す 。 出 現 時 の 分 析 と 同 様 に, 2要 因(ビ デ オ 種 類 ×数 字 呈 示 位
置)の 分 散 分 析 を 行 っ た と こ ろ,ビ デ オ 種 類 の 主 効 果 も数 字 呈 示 位 置 の 主 効 果 も,そ れ らの 交 互 作 用 もみ ら れ な か っ た(F(1,6)=1.85, ns; F(1,6)=0.025, ns; F(1,6)=0.187, ns).つ ま り,情 動 条 件 で も 中 性 条 件 で も,数 字 か ら注 視 点 ま で の 距 離 は 等 しか っ た.し た が っ て,実 験1, 2の 情 動 条 件 に お い て 数 字 検 出 成 績 が 低 下 した の は有 効 視 野 の 縮 小 に よ る もの と考 え ら れ る。 Table 1 数字 出現 時 に お け る平 均数 字 距 離 と標 準 偏 差(視 角) a) 平 均 数 字距 離 とは注 視点 か ら数字 呈 示 位 置 まで の距 離 で あ る。 b) 左 上.情 動 条 件9右 下 ・中性 条 件 に は4名 の同 一被 験 者 が 参加 して い る. c) 右 下 ・情 動 条 件,左 上 ・中性 条 件 に は4名 の同 一被 験 者 が 参加 して い る. Table 2 数 字 消 失 時 に お け る平 均 数 字 距離 と標 準偏 差(視 角) a) 平 均 数字 距 離 と は注視 点 か ら数字 呈 示 位 置 ま で の距 離 で あ る。 b) 左 上 ・情 動 条 件,右 下 ・中性 条 件 には4名 の 同一 被 験 者 が参 加 して い る。 c) 右 下 ・情 動 条 件,左 上 ・中性 条 件 には4名 の 同一 被 験 者 が参 加 して い る。 全 体 的 考 察 本 研 究 の 実 験1-3は,不 快 な 情 動 が 有 効 視 野 縮 小 の 生 起 要 因 で あ る か 否 か を 検 討 し た 。 そ の 方 法 と し て,情 動 も し くは 中 性 場 面 に瞬 間 呈 示 さ れ る 数 字 の 検 出 成 績 を 比 較 し た.そ の 結 果,情 動 条 件 で は 画 面 隅 に 呈 示 され る数 字 の 検 出 成 績 が 低 下 した(実 験1, 2). ま た,眼 球 運 動 の 測 定 結 果 か ら,注 視 点 か ら数 字 呈 示 位 置 ま で の 距 離 は,情 動,中 性 の 両 条 件 と も に等 し い 距 離 で あ っ た(実 験3).実 験1, 2で は 周 辺 視 野 に数 字 が 呈 示 さ れ た 保 証 は な い が,数 字 呈 示 時 間 は500 msと 比 較 的 長 く,そ の 間 は 何 度 か 注 視 移 動 も 可 能 で あ る 。 そ れ に も か か わ ら ず,中 性 条 件 と比 べ て 情 動 条 件 で 数 字 検 出 成 績 が 低 下 した の は,有 効 視 野 の 縮 小 に よ る もの で あ る 可 能 性 を 強 く示 唆 し て い る.し か し な が ら,そ の よ う に結 論 す る に は今 後,さ ら に綿 密 な 調 査 を す す め て ゆ く必 要 が あ る. 数 字 検 出成 績 低 下 が 有 効 視 野 縮 小 以 外 の 原 因 に よ っ て も た ら さ れ た 可 能 性 も考 え ら れ る。 そ こで,い くつ か の そ の よ う な 可 能 性 を検 討 せ ね ば な ら な い 。 まず,刺 激 の特 異 性 が 注 意 集 中 を引 き起 こ す も の で は な い と して も,そ れ が 有 効 視 野 縮 小 の 原 因 に な っ て い る こ と も考 え られ る。 情 動 場 面 に お け る 血 や け が な ど は,非 日 常 的 で 特 異 的 で あ る(Christianson & Loftus, 1991;相 良 ・越 智, 1996)。 有 効 視 野 の 縮 小 は 刺 激 の情 動 に 起 因 す る もの で は な く,特 異 性 の 高 さ に よ っ て もた ら さ れ た 可 能 性 もあ る 。 この 間 題 に つ い て は,従 来 の情 動 ・中性 条 件 に加 え,特 異 性 は高 い が 情 動 を喚 起 さ せ な い 新 奇 条 件 を設 け た 実 験 に お い て,情 動 条 件 で は 注 意 集 中効 果 が 生 じた に もか か わ らず,新 奇,中 性 条 件 で は 生 じ な か っ た(Christianson & Loftus, 1991; Christiansong Loftus, Hoffman, & Loftus,
1991;相 良 ・越 智,1996)こ とか ら,特 異 性 は 注 意 を 引 き付 け る が,有 効 視 野 を縮 小 さ せ る効 果 を もつ もの で は な い と考 え られ る。 次 に,数 字 は重 要 性 の低 い刺 激 で あ るた め,情 動 喚 起 時 に は 処 理 さ れ に く くな り,数 字 検 出 成 績 が 低 下 し た 可 能 性 も考 え られ る.も し,こ の 考 え方 が 正 し け れ ば,数 字 検 出 成 績 は呈 示 位 置 に は左 右 され ず,情 動 場 面 の 中 心 に数 字 が 呈 示 さ れ た と し て も検 出 で き な い こ とに な る 。 本 研 究 の 数 字 呈 示 位 置 は 画 面 の 四 隅 の み で あ り,こ の 間 題 を 直 接 検 討 す る こ と は で き な い 。 しか し な が ら, Burke et al. (1992)の 実 験 結 果 か ら推 察 す る と,ス トー リー 的 に 重 要 で は な い が,中 心 人 物 と空 間 的 に接 近 して い る 中 心 的 詳 細 情 報 の 記 憶成 績 は 情 動 条 件 に お い て の み 高 か っ た 。 この こ とか ら,情 動 喚 起 時 に は重 要 性 の 低 い 刺 激 で あ っ て も認 知 処 理 さ れ て お り,数 字 の 重 要 性 の 低 さ が 検 出 成 績 低 下 の 一 因 に は な りえ な い と考 え る. さ ら に,情 動 に よ る 健 忘 の 可 能 性 が あ る。 トラ ウ マ 的 出 来 事 に遭 遇 し,目 撃 した もの を 思 い 出 せ な くな る こ とで あ る。 本 研 究 で は,数 字 を事 後 報 告 させ て い る た め,数 字 検 出 に 対 して 記 憶過 程 が な ん ら か の 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 を完 全 に 排 除 で きて い な い.し か し,実 験1, 2の 情 動 条 件 に お い て 数 字 を検 出 で き な か っ た 被 験 者(実 験1で は11名,実 験2で は13名)に つ い て も,数 字 報 告 を求 め た 際 に,数 字 呈 示 シー ンの 内 容 そ の もの に つ い て 健 忘 を 報 告 し た 者 は い な か っ た の で, 数 字 検 出 成 績 低 下 は情 動 に よ る 健 忘 が 原 因 で は な く, 有 効 視 野 め 縮 小 に よ る 検 出 ミス で あ る と考 え ら れ る 。 で は,情 動 の 喚 起 時 に有 効 視 野 の 縮 小 は な ぜ 起 こ る の か 。 情 動 と処 理 資 源 の 関 係 か ら考 え て み る。 目 撃 者 が 情 動 場 面 に 遭遇 し た 場 合,情 動 喚 起 の 原 因 探 索 の た め に,感 覚 神 経 系 を敏 感 に し,認 知 機 能 を促
進 さ せ る(福 井, 1990; Mandler, 1984田 中 ・津 田 監 訳,1987)。 こ の こ とか ら,情 動 喚 起 時 に お い て は 平 静 時 に比 べ,外 的 刺 激 の 処 理 へ 配 分 さ れ る 処 理 資 源 量 は増 加 す る と考 え ら れ る 。 し か し,情 動 喚 起 時 に は9危 急 事 態 に 対 応 す る た め 自 律 神 経 系 の 機 能 が 活 性 化 し,そ の評 価 の た め の モ ニ タ リ ン グ に 一 定 の 処 理 資 源 が 消 費 さ れ る(大 平, 1997)。 この こ とか ら,情 動 喚 起 時 に お い て は 平 静 時 に 比 べ,外 的 刺 激 の 処 理 へ 配 分 さ れ る処 理 資 源 量 は減 少 す ると 考 え られ る. こ れ ら の 考 え方 は矛 盾 す る もの の,有 効 視 野 の 縮 小 に よ り,そ の 矛 盾 は解 消 す る。 す な わ ち,少 な い 処 理 資 源 を効 果 的 に 利 用 し外 的 刺 激 を取 り込 む た め に,有 効 視 野 を縮 小 させ て,情 動 喚 起 源 の 中 心 情 報 を 集 中 的 に 取 り込 む の で あ る。 以 上 の こ とか ら,情 動 喚 起 時 に お け る有 効 視 野 の縮 小 は積 極 的 な情 報 獲 得 と効 率 的 な処 理 資 源 の 利 用 を行 うた め の メ カ ニ ズ ム で あ る と考 え られ る。 今 後 は 有 効 視 野 の 空 間 的 サ イ ズ に つ い て の よ り厳 密 な 実 験 と,な ぜ,有 効 視 野 が 縮 小 す る の か に つ い て の 理 論 的 メ カ ニ ズ ム を 実 証 的 に 明 ら か に す る必 要 が あ る.
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