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オーストラリア自閉症早期療育エビデンス・レビュー

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オーストラリア自閉症早期療育エビデンス・レビュー

ジャクリーン・M.A.ロバーツ,

マーゴット・プライア 著

井上雅彦 監訳

つみきの会翻訳委員会 訳

(2)

Roberts, J. M. A., & Prior, M. (2006). A review of the research to identify the most effective models of practice in early intervention of children with autism spectrum disorders. Australian Government Department of Health and Ageing, Australia.

Tsumiki no Kai acknowledges that this publication is owned by the Commonwealth of Australia. つみきの会は、この出版物がオーストラリア政府によって所有されていることを認める。

○C Commonwealth of Australia 2005

Translation into Japanese and publication was licensed to Tsumiki no Kai by Commonwealth of Australia in 2007.

This work is copyright. Apart from any use as permitted under the Copyright Act 1968, no part may be reproduced by any process without prior written permission from the Commonwealth. Requests and inquiries concerning reproduction and rights should be addressed to the Commonwealth Copyright Administration, Attorney General's Department, Robert Garran Offices, National Circuit, Barton ACT 2600 AUSTRALIA or posted at http://www.ag.gov.au/cca.

この著作は著作権によって保護されている。1968 年著作権法によって許された用途に供する場合を除 いて、政府による事前の書面による許可なしには、いかなる部分も転載できない。転載及び諸権利に関 する依頼や問い合わせは、オーストラリア政府法務省著作権局、Robert Garran Office, National Circuit, Barton ACT 2600 AUSTRALIA まで。またはhttp://www.ag.gov.au/cca へ。

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A Review of the Research to Identify the Most Effective Models of Practice in Early

Intervention for Children with Autism Spectrum Disorders

Jacqueline M. A. Roberts

The University of Sydney

Margot Prior

The University of Melbourne

July 2006

This report was funded by the Australian Government Department of Health and Ageing この報告書はオーストラリア保健・高齢化省の助成により作成された

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このレビューはオーストラリア保健・高齢化省の委嘱を受け、ジャクリーン・ロバーツ博士とマ ーゴット・プライア教授が、デイビッド・トレンバス氏の補助を受けて作成したものである。 謝 辞 このレビューは、ニューサウスウェールズ州障害者高齢者在宅ケア省(DADHC)の委嘱を受け、 シドニー大学発達障害研究センター(CDDS)が 2004 年に作成した報告書に修正加筆したもので ある。 このレビューを作成するにあたり、以下の方々には特にお世話になった。ここに感謝を申し述べ たい。まず調査アシスタントのデイビッド・トレンバス氏にはこのレビューのあらゆる面につい てお手伝いを頂いた。ナタリー・シローブ博士には生物学的介入の箇所で、サラ・マクダーモッ トさんには疫学関係の箇所で援助を頂いた。ロジャー・ブラックモア博士、デブ・キーン助教授、 ジュディ・ブリューワー・フィッシャーさん、ヴァル・ジルさん、ジェニー・ボットさんには、 参考文献のリスト作りに協力して頂いた。各州の自閉症協会や州教育省も様々な情報を提供して 頂いた。 最後に多くの情報とヒントを頂いたパースにおける自閉症関連の専門家の皆さんに、そしてアン ケートに協力して頂いたサービス・プロバイダーの皆さんに感謝したい。 このレビューはジャクリーン・ロバーツ博士とマーゴット・プライア教授が、デイビット・トレ ンバス氏の補助を受け、オーストラリア保健・高齢化省のために作成した。 断り書き オーストラリア保健・高齢化省はこのレビューの作成を財政的に支援した。このレビューが正確 かつ発行時点で最新のものであるようあらゆる努力が払われたが、同省はいかなる誤り、省略、 不正確さに対しても責任を負わない。 著者らによって表明された見解は、必ずしも同省の見解やオーストラリア政府の政策を反映する ものではない。

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監訳者のことば

この数年、発達障害者支援法や特別支援教育の実施など我々の周囲はめまぐるしく動き ました。発達障害者支援法はLDやADHD、高機能自閉症のある人々を地域全体で支え る必要性を示した画期的な法律です。今年からの見直しの時期にあたり、我々は本当に有 効で必要な支援は何かを議論していく時期にさしかかっています。 国際的に見ると自閉症に関するABAに関連する研究やアプローチは膨大であり、様々 なエビデンスに関する研究からも、自閉症へのアプローチについては現時点で最も有力な 科学的かつ効果的な技術を提供していると考えられます。 我が国のABA研究は必ずしも個々の研究レベルで欧米に劣るとは思いませんが、大規 模な実証研究が困難な状況は大きな課題となっています。また当事者や家族が応用行動分 析に基づく療育サービスの提供を希望しても提供機関や専門家が少なく、数少ないNPO や大学の個人研究室レベルでのサービス提供に留まっているのが現状です。福祉や教育に 限らず、我が国では研究で得られた効果的なアプローチを効率的に現場へおろしていくこ とがまだ困難な状況にあります。 本レポートの内容を再検討し、当事者のニーズをベースに研究や行政施策が一体となっ て効果的な支援の仕組みや体制を構築することが求められるように思います。 2008 年 7 月 井上雅彦 鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座 masahiko-inoue.com

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訳者まえがき

自閉症・広汎性発達障害に関しては、今日、数多くの治療・教育法(以下、まとめて「療育法」と呼ぶ) が併存しており、その数はますます増えつつある。 しかしそれらの療育法が、障害児やその家族が抱える様々な困難を軽減する上で、果たして本当に効果 があるのか、仮に効果があるとして、複数の療育法には効果の面でどのような優劣があるのか、といっ た問題を、臨床データに基づいて客観的に検討しよう、という動きは、わが国ではこれまで乏しかった ように思われる。 しかし欧米先進諸国では、1990 年代初頭に医学界に起こった「エビデンス・ベースド・メディスン (EBM)」という考え方が障害児療育界にも波及し、本書付録Bに見るように、2000 年前後から、相次 いで自閉症早期療育の効果に関するエビデンスの包括的レビューが発表されるようになった。 本書はそのうちの一つ、オーストラリア保健・高齢化省の委嘱に基づいて、同国の高名な専門家2 人が

2006 年に作成したエビデンス・レビュー “A Review of the Research to Identify the Most Effective Models of Practice in Early Intervention for Children with Autism Spectrum Disorders”の翻訳であ る(直訳すれば「自閉症スペクトラム障害児に対する早期介入の最も効果的な治療モデルを特定するた めの調査研究レビュー」となろうか)。原典は下記のサイトで見ることができる。 http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/mental-pubs-r-autrev 原典の末尾には、オーストラリア国内で利用可能な自閉症早期療育のサービス提供者に関する詳しい情 報が掲載されているが、この部分は日本の読者には重要性が薄いと判断し、訳出を省略した。それ以外 は全訳である。 ところで本書がテーマとする自閉症療育の効果に関する「エビデンス(証拠)」とはどういう意味なの か、一般の読者のために簡単に説明しておきたい。 例えばある新しい療育法が外国から導入されたとする。その療育法を紹介する本を読むと、重度の自閉 症児がその療育を受けたことによって流暢に言葉が話せるようになったり、健常児と見分けの付かない ほどにまで障害が軽減した、という例が複数紹介されているとしよう。しかもその本には、著名な大学 教授の推薦の言葉が添えてあったとすると、それを読んだ親たちは、その療育法に著しい改善効果があ ると信じ、ぜひその療育法をわが子にも試してみたいものだ、と思いがちである。 しかしエビデンス、という点から見ると、実はその本に紹介されている改善例だけでは、ほとんど無価 値に等しい。なぜなら著者が数多くの症例(その大部分は全く改善しなかったかも知れない)の中から 目立った改善例だけを選び出すことは容易であるし、その少数の改善例ですら、その療育法のゆえに改 善したとは限らないからである。その子どもたちは同時に別の療育を受けていたかも知れないし、もし かしたら成長とともに自然に改善していったのかもしれない。 権威者の推薦の言葉(expert opinion)はエビデンスの乏しい領域では大いに参考にされるべきだが、 エビデンスとしての価値はやはり低い。権威者といえども、個人的な選好や判断の偏りから自由ではな いからである。 それに対して、例えばあらかじめ被験者として選ばれた十数名の自閉症児に対して、事前に何らかのテ ストを施してから、特定の療育を施し、一定期間経過後に同一のテストを行ってその変化を比較したと

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験者集団をあらかじめ固定して、事前にテストを行なってから介入を実施することで、研究者にとって 都合のよい改善例だけを選び出す可能性(「選択バイアス」という)が排除されるからである。このよ うな研究は「前向き」の研究デザインと呼ばれ、結果が分かってから過去に遡ってその対象児の療育歴 や療育前の状態を調べる「後ろ向き」の研究デザインに比べても、エビデンスとしての価値が高いとさ れる。 しかしこれで十分か、と言えばそうではない。なぜなら、先ほども述べたように、その被験児たちが示 した改善は、自然の発達によるものかも知れない。またその介入の時期に被験者の多くに影響を与えた、 何か別の要因(例えば新薬の登場)が潜んでいるかも知れない(結果に影響を及ぼしうる、そのような 隠れた別の要因のことを「交絡因子」と呼ぶ)。 それらの疑いを払拭するためには、介入群とは別に対照群を用意することが必要である。例えば介入群 として選ばれた、通常10∼20 名程度の自閉症児に対して、ほぼ同じ条件(年齢、発達指数など)を持 った別の10∼20 名程度の自閉症児を対照群とする。あらかじめ両群に同一の検査をいくつか行った後、 介入群には特定の療育法を施し、対照群には施さない。療育開始から一定期間を経て、両群を再テスト し、介入群の方が統計上有意に(つまり両群の平均値にそのような差が偶然に生じる確率が5%以下で ある)高い改善率を示した、となると、介入群のみの研究と比較して、エビデンスとしてはるかに高い 価値がある。 このような対照群を用意した研究を「比較試験」と呼ぶが、それでもまだエビデンスとして十分とは言 えない。介入群と対照群の条件をある程度揃えたとしても、やはり介入群の方に予期せぬ別の要因が作 用する可能性を排除できないからである。例えば介入群はA市、対照群はB市の療育施設から選ばれた とすると、両群の差は介入群に施された療育の結果ではなく、A市の療育体制が施設・人員ともにB市 を上回っていたことによるのかも知れない。 この疑いを払拭するためには、あらかじめ被験者として集めた数十名の自閉症児を、ランダム(無作為) に二群に分けて、一方を介入群とし、他方を対照群とすればよい。これが通常エビデンスとして最も価 値が高いとされる「ランダム化比較試験(RCT)」である。医学の分野では、新薬の有効性を判定する ために、このランダム化比較試験が要求されることが通例である。 さらに最も厳格な医学実験デザインでは、ランダム化に加えて、被験者のうちの誰が実薬を投与され、 誰が偽薬(プラセボ)を投与されるのかを、被験者だけでなく、投与する医師にも知らせない「二重盲 検」という手続が取られる。「プラセボ効果」と言って、たとえ偽薬であっても「薬を投与された」と いう認識だけで、患者はある程度の割合で回復を示すものだからである。これを「ランダム化二重盲検 比較試験」と呼ぶ。 このように治療的介入の効果に関する研究報告には、しばしばその介入以外の様々な要因が紛れ込み、 効果を過大に見せたり、時には全く効果のない介入をも効果があるように見せかけてしまうことがある。 介入効果に関するエビデンスとは、そのような研究結果をゆがめる様々な要因(これを「バイアス」と 総称する)をできるだけ排除した研究デザインによって得られた、効果に関する客観的な証拠となる情 報、ということができるだろう。 西洋医学が今日、人々の間で信頼を勝ち得ているのは、早くからランダム化比較試験に代表される厳格 な実験手続によって、信頼性の高いエビデンスを積み重ねてきたからである。それに対して、障害児療 育の世界では、従来、エビデンスの重要性に関する認識が乏しく、現場の知識や権威者のお墨付き、せ

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る療育と効果の疑わしい療育とが併存、乱立し、ユーザーである障害児の保護者は、どの療育を選んで よいのか、全く分からない混乱状態におかれている。わが国の自閉症児療育ができるだけ早くこの状態 を脱却し、各療育法がエビデンスを競うことで、本当に効果のある療育法が子どもたちとその家族に提 供されるようになってほしい。これが本書を翻訳したわれわれの願いである。 本書を紐解くと、わが国にも知られている様々な療育法が、有効性に関するある程度のエビデンスがあ るもの、エビデンスが存在しないもの、効果がないことや有害であることにエビデンスが存在するもの、 の3 種類に分けられることが分かる。 もとより現時点でエビデンスがないことは、その療育法に効果がないことを必ずしも意味しない。エビ デンスを得るためには大変な時間と労力がかかるものであり、新しい療育法の中には、効果があっても それを証明する時間や余力がまだないものも含まれているだろうからである。しかしエビデンスに関す る情報は、自閉症児の保護者がわが子の療育法を選択する上で、大いに参考となるだろう。また自治体 が貴重な予算を投じて地域の自閉症児とその家族に早期療育の機会を提供するにあたっては、基本的に エビデンスがない療育法よりもエビデンスのある療育法を優先することが求められるはずである。 われわれの属する「NPO法人つみきの会」は、本書にも登場する応用行動分析(ABA)に基づく自閉 症早期療育に取り組む親と療育関係者の集まりである。 われわれが本書の翻訳を思い立った直接のきっかけは、2007 年の春に、オーストラリア在住経験のあ る一会員が「オーストラリアで最近このようなレビューが作られた」と情報を提供してくれたことにあ る。同会の代表を務める私(藤坂)は以前からこの問題に関心があったので、これをよい機会と考え、 つみきの会の会員有志に分担翻訳を呼びかけた。するとすぐに英語に比較的自信のある十数名のメンバ ーが集まった。このメンバーが下訳を作り、それをもとに私がどの章にもかなり筆を入れて、完成訳と した。章によっては私が完全に訳し直したところもあるので、個々のメンバーの担当章は明記していな い。なお薬物療法に関する第3 章は、当会ゲスト会員の専門医に用語をチェックして頂いた。 さらに私の大学院時代の恩師である現鳥取大学大学院医学系研究科教授の井上雅彦先生に完成稿を持 ち込み、全体に目を通して修正すべき点を指摘して頂いた。井上先生は、お忙しい中、院生と本書の輪 読会を催し、数ヶ月かけて翻訳を詳細に検討して下さった。この場を借りて、感謝の言葉を申し述べた い。これらの作業に思いの外時間がかかり、作業を始めてから1 年以上経った 2008 年夏に、ようやく 完成にこぎ着けた次第である。 翻訳を担当したのは、私の他、以下のメンバーである。安宅翠、阿部道雄、上村裕章、大山茂之、小山 ありさ、杉坂美紀、杉原みどり、出口静江、橋本一成、松田千恵子、山崎かおる。彼らの協力なしには、 この翻訳は実現しなかった。ここにこれら諸氏に感謝の意を申し述べたい。 2008 年夏 NPO法人つみきの会代表・臨床心理士 藤坂龍司

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目 次

謝辞 監訳者のことば 訳者まえがき

1.全体の概要

p.1

前置き 自閉症スペクトラム障害の定義 自閉症スペクトラム障害児への様々な治療法の概観 効果的なプログラムの共通項 様々な介入の費用便益

2.序論 p.9

前置き 著者の紹介 はじめに 自閉症スペクトラム障害の定義 自閉症児への介入を見直すにあたって考慮すべき事項

3.生物学的介入

p.16

薬物療法 薬剤の種類 まとめ

4.補完代替医療(

CAM) p.21

食餌療法 キレーション イースト過剰増殖 消化酵素 セクレチン 三種混合ワクチンの不接種 ビタミンB6とマグネシウム 頭蓋オステオパシー

5.精神力動的介入

p.25

はじめに 精神力動的介入の例 まとめ

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6.教育的介入−概観−

p.27

7.行動的介入

p.29

はじめに 定義 行動的介入の実例 行動的介入の研究エビデンス 行動的介入の研究で言及された考慮すべき事柄と限界 特定のスキルを標的とした行動的介入 行動的介入に関する研究エビデンスの要約 行動的介入における最近の展開

8.発達的介入

p.45

発達的対人関係・語用論モデル(DSP) グリーンスパンのDIR/フロアタイム 反応的教育法 対人関係発達指導法(RDI)

9.療育的介入 p.49

コミュニケーションに焦点を当てた介入 視覚的方略と視覚的ヒントを用いた指導法 手話 絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS) ソーシャル・ストーリー 会話補助装置 ファシリテーティッド・コミュニケーションズ 機能的コミュニケーション訓練(FCT)

10.感覚運動的介入 p.54

聴覚統合訓練 感覚統合療法 ドーマン・デラカート法

11.複合的介入 p.57

サーツモデル TEACCH デンバーモデル LEAP

(11)

12.その他の介入 p.61

生活療法/武蔵野東学園 オプションアプローチ(サンライズ・プログラム) 音楽療法 SPELL キャンプヒル運動 ミラー法

13.家族支援 p.64

はじめに 家族支援の例 家族支援の評価 まとめ

14.様々な介入の費用便益 p.69

15.自閉症児のための教育的介入の比較評価 p.70

効果的介入の主要な要素 個人差

16.自閉症児の教育的配置 p.73

はじめに 用語の定義 統合教育と特殊教育サービス 自閉症児の教育 生徒や教師にとって自閉症に固有の困難とは何か 自閉症を持つ生徒の統合教育モデルの開発に向けて まとめ

参考文献

p.80

付録

A 文献レビュー検索方略

p.93

B レビューとガイドライン

p.95

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1.全体の概要

はじめに

本レビューの目的は、自閉症幼児の処遇と治療に関する研究文献を精査して、最も効果的な処遇 モデルを見いだすことである。本レビューは、オーストラリア保健・高齢化省の委嘱を受け、シ ドニー大学のジャクリーン・ロバーツ及びメルボルン大学のマーゴット・プライアが、デイビッ ド・トレンバスの援助を受けて作成した。

自閉症スペクトラム障害の定義

自閉症は生涯にわたる原因不明の神経学的障害である。自閉症の診断基準は、社会的相互作用の 障害、コミュニケーションの障害、思考と行動における柔軟性の欠如、という三つ組の障害に基 づいている。 自閉性障害のスペクトラムの中には、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、小児崩 壊性障害、特定不能な広汎性発達障害(PDD-NOS)(非定型自閉症とも言われる)が含まれる。 IQ が正常域にある自閉症者は、高機能自閉症(HFA)と呼ばれる。 自閉症スペクトラム障害(以下、本レビューでは単に「自閉症(autism)」と呼ぶ)の診断は、 生育歴、フォーマルなアセスメントおよび行動観察に基づいてなされる。その結果として、自閉 症のアセスメント及び診断には、専門家によってある程度のずれが生じる。従来報告された自閉 症の発生率は、1 万人につき 4 人未満から、1 万人につき 100 人以上まで開きがある。このばら つきの原因としては、自閉症の定義を厳格に捉えるか否かの違い、専門家の間でも自閉症診断の 技量に差があること、などが考えられる。しかしながらオーストラリア政府諸機関によって報告 された確定診断数(正確に診断された子どもの数)の増加及び福祉ニーズの恒常的な増加は、人 口の全般的な成長ペースを上回っている。

自閉症スペクトラム障害児への様々な治療法の概観

現在、数多くの治療法が自閉症児に対して用いられている。それらの大部分は、次の諸点につい てさらなる研究が必要である。(a)どのタイプの子どもたちに対して最も効果があるのか、(b)それ らの治療法の利用を促す最も効果的な方略、(c)その治療法を受けることによって子どもの全般的 な適応機能が促進される度合い。以下は、このレビューで確認された各治療法の研究エビデンス の概要である。

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1.生物学的介入

薬物療法 現在のところ、自閉症の中核的特性に対する医学的治療法は存在しない。ただし自閉症の諸症状 や、不安やADHD などの自閉症に併発する障害を治療するため、及び並行して進められる他の介 入から子どもが利益を得られる可能性を高めるために、薬物療法を用いる試みは行われている。 以下の薬物は、自閉症者に対して一定の有効性が実証されている。ただしその効果及び副作用は 注意深くモニターする必要がある。神経弛緩薬(Neuroleptics)/抗精神病薬(Antipsychotics)、 リ ス ペ リ ド ン(Risperidone) 、 選 択 的 セ ロ ト ニ ン 再 取 り 込 み 阻 害 剤 ( SSRIs )、 抗 鬱 剤 (Antidepressants)、興奮剤(Stimulants)、抗けいれん剤。 以下の薬物は自閉症児や青年期の自閉症者に対して効果がないか、有害であることが実証されて いる。ナルトレキソン、セクレチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)。

2.補完代替医療

ここには食餌療法(カゼイン・グルテン除去ダイエット)、抗イースト療法、キレーション、セク レチン、三種混合ワクチンの不接種、ビタミン B6 などのビタミン剤及び栄養サプリメントが含 まれる。これらの療法の有効性を支持するエビデンスはわずかであり、多くのエビデンスがセク レチンや三種混合ワクチンの不接種などについて、効果がないことを示している。これらの療法 の中には、潜在的リスクが顕著なものもある。

3.精神力動的介入

精神力動的介入は、自閉症は情緒的な損傷の結果であり、たいていは両親、特に母親との緊密な 絆(愛着)を形成できなかったために生じる、との前提に立つ。精神力動的介入は今日ではほと んど用いられない。なぜなら自閉症は情緒的障害ではなく、発達的かつ認知的な障害であるとの 知見を支持する強力なエビデンスがあり、精神力動的療法の有効性を支持する実証的エビデンス がほとんどないからである。

4.教育的介入

(1)行動的介入

行動的介入は、学習理論に基づくオペラント学習技術を主要な介入アプローチとする療法である (Francis,2005)。応用行動分析(ABA)は、標的行動を増加、減少、維持、般化させるために、 オペラント学習技術を系統的かつ測定可能な方法で適用するアプローチである。ディスクリー ト・トライアル・トレーニング(discrete trial training, DTT)は ABA プログラムでしばしば用 いられる教育方法であり、教えようとするスキルを小さく不連続な(discrete)ステップに分解し、 それらを少しずつ教えていくことを特徴とする。

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ロヴァース・プログラム

集中的行動介入(intensive behavioral intervention, IBI)あるいは早期集中行動介入(early intensive behavioral intervention, EIBI)は、集中的かつ包括的な行動療法を指す一般的名称で ある。あるプログラムがどの程度集中的かは、子どもが一週間に受ける治療の時間数の多さや、 訓練、カリキュラム、評価、プランニング、コーディネーションがどの程度集中的か、に係って いる。

ロヴァース・プログラム、別名「幼児自閉症プロジェクト(Young Autism Project)」は、著名で 広く模倣されている先駆的な集中的行動介入プログラムである。このプログラムは、治療の前期 段階においてディスクリート・トライアル・トレーニングを集中的かつ広範囲に用いるところに 特徴がある。

現代型応用行動分析

近年改良を加えられた行動療法は、しばしば「現代型ABA プログラム(contemporary ABA

Program)」と呼ばれる。例えば、現在その多くは、健常の子どもの発達、特に社会性やコミュニ ケーションの発達に関する知見を取り入れている。また視覚的情報の処理能力が比較的強く、聴 覚情報の処理の弱さを補うことができる、といった自閉症の特性を考慮に入れている。現代型 ABA プログラムには、ピボタル・レスポンス・トレーニング(Pivotal Response Training, PRT)、 自然言語パラダイム(Natural Language Paradigm, NLP)、機会利用型指導法(Incidental Teaching)などがある。 行動療法が自閉症児に改善をもたらすこと、それが実証的研究によってよく確かめられているこ と、に関しては広汎な合意がある。行動療法は有効性に関する厳密な科学的審査を受けているが、 行動療法以外の治療法で、同じレベルの科学的審査を受けているものはほとんどない。しかしな がら行動療法の特定のアプローチに関しては、まだ議論が続いているし、方法論上の懸念や、研 究結果をどう解釈するかに関する意見の対立がある。議論が続いているのは、(a)行動療法によっ て自閉症児を回復に導くことができる、という主張の是非、(b)一部の療育プロバイダーが他の一 切の方法を排除してABA 及び DTT のみを用いることを推奨していることの是非、(c)治療の集中 度がすべての子どもと家族に適しているとはいえないのではないか、という懸念、に関してであ る。

(2)発達的介入

発達的ないし関係的介入(Developmental or relationship based interventions)は、他者と積極 的で意味のある関係を築く子どもの能力に焦点を当てている。これらのプログラムの目標は、注 意力や他者との関わり、多様な感情、論理的な思考などを促進することにある。発達的療法は、 ノーマライズ療法(normalized intervention)とも呼ばれる。今のところ、発達的療法が自閉症 児にとって有効であるということを示すエビデンスはほとんど存在しない。発達的療法に関する 諸研究は、予備実験の段階であったり、評価の独立性を欠いていたり、方法論上の欠陥によって 知見が限定されていたりする。これらの療法の有効性を確認するには、さらなるリサーチが必要 である。これらの療育プログラムの個々の側面、例えば社会性、コミュニケーション、認知、子

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育てなどへの効果についての研究は、肯定的な結果を示している。

「発達的対人関係・語用論モデル(the Developmental Social-Pragmatic Model)」は自発的なコ ミュニケーションを重視し、子どもの興味や関心を尊重し、たとえ実用的なものでなくても、子 どもがすでに持っているコミュニケーションの手段を出発点とする。また日常の活動や出来事を 題材にして、子どものコミュニケーション能力を育てる。DSP モデルと現代型 ABA との違いは、 前者が通常の言語発達の道筋を重視し、ディスクリート・トライアルで子どもの反応を引き出す ことをあまり重視しないところにある。DSP モデルは、他者との自然なやりとりにうまく参加で きることを評価のポイントとし、日常生活のなかでコミュニケーション能力を高めることを、よ り強調する。 フロア・タイム(DIR)

フ ロ ア ・ タ イ ム (Floor Time)あるいは「発達、個人差、関係性モデル( Developmental Individual-Difference Relationship-Based Model)」(DIR)は、自閉症児その他の発達障害児に 対する発達的な早期療育法である。このプログラムでは、刺激の少ない環境で子ども主導の関わ り活動を行う。このアプローチの提唱者によれば、大人が子どものリードに従う関わり遊びを通 じて、子どもの外界へ関わりたいという気持ちを育てることができる。 反応的教育法(RT) 反応的教育法は、現代の児童発達理論に依拠する、親介在型のプログラムである。親がより反応 的に子どもと関われるようになるよう、親を援助する。 対人関係発達指導法(RDI)

対人関係発達指導法(Relationship Development Intervention)は健常児の社会性発達プロセス に依拠したアプローチである。RDI の目標は、自閉症児が他者との関わりにもっと動機付けと関 心を持つようにすることにある。そのために RDI は,子どもが他者との関わりをもっと楽しみ、 もっと関わりが上手になるように、様々な活動やコーチングを行う。

(3)療育的介入

コミュニケーションに関する援助法 自閉症児に対しては、コミュニケーションに関する様々な援助法が広く用いられている。これら は単独で用いられることもあれば、包括的なプログラムの一部に組み込まれることもある。これ らの援助法に関するリサーチがいくつかあり、そのあるものは肯定的、あるものは否定的な結果 を示している。いくつかのコミュニケーション援助法に関して、肯定的な結果が報告されている が、大規模で包括的な、よく統制された研究はまだ存在しない。 視覚的援助法

視覚的援助法(visual strategies and visually cued instruction)は子どもの表出的及び受容的な コミュニケーションを容易にするため、そして子どもの学習や情報処理を助け、子どもに物理的

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社会的な環境を生き抜く能力を身に付けさせるために、広く用いられている。 手話 手話(Manual Signing)は長い間、自閉症児と意思疎通を図るために用いられてきた。しかしな がら、手話を教えられることによって、子どもたちがどのような追加的メリットを得ているのか を評価するには、さらなるリサーチが必要である。またどのタイプの子どもたちが手話の使用に よってメリットを得やすいのか、に関するリサーチもまだ不足している。 絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS) 絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)は、ほしい物を示す絵、シンボル、写真、 あるいは実物をやりとりすることで、他者と意思疎通を図ることを教えるプログラムである。 PECS の目的には、子どもの行動を引き出す刺激となる物を見つけること、及び複数の絵カード を組み合わせて簡単な質問に答えることを教えること、が含まれる。PECS は高度に構造化され たプログラムで、機能的なコミュニケーションを達成するため、刺激、反応、報酬という行動原 則を利用している。 ソーシャル・ストーリー ソーシャル・ストーリーは、自閉症児に社会的状況を説明したり、自閉症児が社会的手がかりに 適切に反応することを学習することを助ける目的で、キャロル・グレイ(Gray & Grand,1993) によって開発された。

会話補助装置

会話補助装置(Speech Generating Devices, SGDs)は、自閉症児の表出的及び受容的コミュニ ケーションを補助するために、特に自閉症児の理解を助け、シンボル学習を促進し、大人や他の 子どもとの交流を増加させ、欲求やニーズを他者に伝えるために用いられている。 ファシリテーティッド・コミュニケーション(FC) FC の提唱者は、自閉症は主として運動障害であって、自発的な運動が困難であり、それが言語の 表出を阻んでいる、と主張する。そこで FC は手を取って指さしの形を作ってやり、手を添えて 何かを指ささせる。今のところ、FC が自閉症児に安定した、役に立つ、あるいは自発的なコミュ ニケーションをもたらす、というエビデンスはない。 機能的コミュニケーション訓練(FCT) FCT は、自閉症児の問題行動に含まれている「メッセージ」を、拡大代替コミュニケーション (Augmentative and Alternative Communication, AAC)によって伝えることを、行動的に訓練 する。FCT は自閉症児に一つかそれ以上の機能的なメッセージを伝えることを教え、それによっ て問題行動に代わる積極的な行動を可能にする。FCT は今日、自閉症児の問題行動に対処するた めの選択肢の一つと考えられている。

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自閉症には特有の感覚上の問題がある、という理解が広まると共に、それらの感覚上の問題が自 閉症者にもたらすインパクトを緩和するために環境を調整する介入に対する関心も高まっている。 自閉症の感覚上の特性とはいかなるもので、どの程度の広がりを持つのか、それらに対処するた めにどのような介入が有効なのか、に関しては、まだ十分な研究がなされていない。

聴覚統合訓練(AIT)

聴覚統合訓練(Auditory integration training)は自閉症者に聴覚の歪みや過敏性、感覚処理過程 の異常があり、それらが自閉症者に不快と混乱をもたらしているとの仮説に立ち、それらに対処 することを目的とする。目下のところ、聴覚統合訓練は実験的なものと見なされるべきであり、 その有効性を支持する研究エビデンスはほとんど存在しない。

感覚統合

感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)は、内耳前庭、触覚、体内感覚受容器(proprioceptor) などに刺激を与えることで、脳の感覚処理能力を改善させることを目的とする。今日の研究は、 感覚統合が自閉症、発達遅滞、精神遅滞にとって有効な療法であることを支持していない。また 子どもの行動やスキルの改善を示した数少ない研究は、感覚統合がそれらの改善をもたらす独立 変数であることを示すに至っていない。

(5)複合的介入

サーツモデル サーツモデルは、対人コミュニケーション、情動コントロール、交流型支援(Transactional Support)に焦点を当てる。このプログラムのねらいは、個々の子どもの問題に合わせた高度に 個別化されたアプローチによって、自閉症児の中核的障害に直に働きかけることである。サーツ は一つの療育法と言うよりは、サービス提供の一つのモデルであり、まだ独立した研究によって その効果を確かめられていない。 TEACCH

TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication Handicapped Children)は視覚的情報、構造、予測性を提供することによって、自閉症者を子どもから成人まで サポートすることを目指した「生涯(whole life)」アプローチである。少数の研究が、TEACCH プログラムを受けた子どもたちに改善がもたらされたことを示している。しかしながら今後さら に、このプログラムの短期的及び長期的な効果を測定するために、独立した研究者による、より 大規模で系統立った、統制群を用意した研究が行なわれる必要がある。

LEAP(Learning Experiences-An Alternative Program for Preschoolers and Parents) LEAP は自閉症児と健常児の両方のための包括的なプリスクール事業である。LEAP はプリスク ールにおける統合保育と、親のための行動スキルトレーニングから成る。このプログラムは行動 分析の側面も持つが、主として発達論的アプローチである。現在、長期的な結果に関する評価が

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行なわれているが、効果を確かめるためには、独立した研究者による評価が必要である。

(6)その他の介入

その他の介入には、武蔵野東学園/生活療法、オプションメソッド、音楽療法、SPELL、キャン ベル、ミラー法などがある。これらのプログラムの結果を評価する研究エビデンスは、ほとんど 存在しない。

(7)家族支援

自閉症児の家族を支援するために、数多くのプログラムが開発されている。これらの支援には、 親に自閉症の性質や自閉症児の学習スタイルについて教えること、子どもの学習を助けるために、 親を教育し、援助の方略を教えること、家族が自分たちのサポートネットワークを打ち立てる援 助をすること、他のサービスやサポートプログラムに関する情報を提供すること、などがある。 家族支援プログラムでは、セラピストや専門家は、子どもに直接関わるのではなく、親や兄弟、 その他の重要な他者に関わる。家族支援プログラムに関する少数の研究は、自閉症児とその家族 の両方によい結果を生んだことを示している。しかしながら、これらの結果を再現し、拡張して いくために、さらなる研究、特に大規模な統制された研究が必要である。家庭支援教育プログラ ムのうち、ヘルプ!プログラムと「アーリーバード」プログラムは、いずれもイギリスにおいて 全英自閉症協会が開発し、運営している。

家族向けプラス思考的行動支援(Family-centred Positive Behavior Support, PBS)

家族向けPBS は、子どもの問題行動に対処するため、親と専門家が系統的かつ共同的なスタンス

で取り組む。家族向け PBS のプログラムには、(a)問題行動に取って代わるスキルを教え、増加

させるための方略、(b)問題の発生を未然に防ぐための方略、(c)問題が発生した時にそれに対処す るための方略、(d)改善の度合いをモニターするための方略、が含まれる。

ヘイネンプログラム(モア・ザン・ワーズ)

「モア・ザン・ワーズ(More than Words)」はプリスクール期の自閉症児の親を対象とする集中 的トレーニングプログラムである。このプログラムは、社会・語用論・発達モデルの理論枠組み に立脚し、行動主義的プログラムと自然主義的子ども中心プログラムとの折衷を強調する。すな わちABA プログラムに見られるように、様々な行動を小さなステップに分解するし、自然主義的 アプローチのように、言語を機能的に用いる機会を重視する。治療結果の予備的研究は、このプ ログラムが子どもと家族に、一定の改善をもたらしたことを示している。このプログラムをより 包括的に評価するためには、さらなる研究が必要である。

効果的なプログラムの共通項

研究文献をレビューした結果、効果的なプログラムは、その哲学的志向が異なるにも関わらず、

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共通の構成要素を持つ傾向があることがわかった。すなわち効果的なプログラムは、 ・注意、コンプライアンス、模倣、言語、社会的スキルに焦点を当てた、自閉症に特化したカ リキュラムを提供している。 ・高度に支援的な教育環境に対する子供のニーズに応えている。 ・新たに獲得したスキルの般化を促進するための特別な方略を有している。 ・予測可能性や定まった日課に対する子供のニーズに配慮している。 ・問題行動に対処するため、機能的なコミュニケーションを育てようとしている。 ・プリスクールから学校への移行を援助している。 ・家族は療育に関わる専門家によって支援され、かつ専門家と対等な立場で協力し合う。 研究文献で繰り返し確かめられているのは、特定の療育プログラムに対する反応は、子どもによ って違う、ということである。従って、どの自閉症児とその家族にも適合するような、万能のプ ログラムは存在しない、ということを確認することが重要である。しかしながら、個々の子ども の長所と短所に適合し、家族環境をも考慮に入れたものである限り、早期の集中的な、家族指向 の療育プログラムが、顕著な短期的及び長期的な改善をもたらす、ということを示唆するエビデ ンスが存在する。

様々な介入の費用便益

目下のところ、治療プログラムの費用便益を療育費用、療育期間、療育による短期的な利益及び 長期的な利益の面で分析した研究は報告されていない。報告されているのは、特定の療育プログ ラムの目的、対象年齢、療育期間、療育費用、その療育がどのように費用を賄われるのか、など に関する叙述に過ぎない。オーストラリアにおいてサービス提供者が提示した療育費用に関する 情報は、表6に記載されている(訳注:表は省略した)。

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2.序 論

前置き

この報告書は、自閉症児のための早期介入サービスのレビューの結果と提言を示すものである。このレビ ューは 2005 年 6 月 16 日にキャンベラの国会議事堂で開催された全国自閉症フォーラムが起動力となっ ている。フォーラムは自閉症児とその療育者のニーズと課題を特定し、議論することを目的にオーストラリ ア保健・高齢化省が開催したものである。フォーラムに集まったのは政府代表者だけでなく、オーストラリ ア各地の自閉症スペクトラムに関与するグループの代表者たちで、全国レベルで自閉症に対する療育の 改善を推進することで合意し、フォーラムは終了した。 フォーラムを受けて、保健・高齢化省政務次官クリストファー・ペイン氏は、自閉症児の早期介入サービス に最良の療育基準を定めるための研究プロジェクトとその関連事業に、総額 5 万ドルを投じることを決定 した。 ジャクリーン・ロバーツ博士とマーゴット・プライア教授がこの研究調査を実施すること、また、親や 専門家、そして政府関連機関(自閉症児のためのエビデンスに基づく訓練プログラムを評価し、またそれ を受ける機会を提供する機関)のために国の適切なガイドラインを作成することを契約した。エビデンスに 基づく治療ガイドラインは自閉症の分野では特に重要である。と言うのもこの分野では様々な治療法(中 にはかなり普及はしているものの、それらの有効性について科学的根拠に欠けるものもある)の有効性を めぐってかなりの論争が行なわれてきたからである。親や専門家は、成功を主張する治療法、特に治療 者が自閉症児を「治した」、あるいは治ると断言しているような治療法を検討するのに役立つ情報を必要と している。これらの介入は子どもに有益かも知れないが、逆に無効であるか、さらには有害でさえあるかも 知れない。これらの主張に対処する研究が必要とされている。少数の治療プログラムについてはその有 効性を支持するある程度のエビデンスがある。しかしほとんどの治療法は適切に評価されておらず、中に は全く評価されていないものもある。したがって、親や専門家が、自閉症児への介入について決断を下す 際に、それぞれの治療法の有効性について慎重に鑑定する必要がある。このレビューの他に、他国でも 自閉症児の治療法に関する研究についてのレビューが行われている。付録 B にそれらの一覧を載せて いる。 自閉症に対する治療や介入の結果として、「回復」や「治癒」が生じるという、確かな証拠はない。しかしな がら、適切な介入の下で、自閉症児が成長を続け、生活にとって有用な行動を学び続ける、ということは 明らかであり、エビデンスによってよく裏付けられている。

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著者の紹介

ジャクリーン・ロバーツ氏、名誉文学士、教員免許、応用科学学士(言語病理学)、博士 シドニー大学の研究員であり、自閉症スペクトラムを専門とするコンサルタント。ニューサウスウェールズ州 自閉症協会(現在の「オーストラリア自閉症スペクトラム(ASPECT)」)で、教師、言語聴覚士、学校長、そし て協会が提供する専門的サービスに全体的な責任を負うサービス責任者として、20 年間務めた。講師ま たは教師として、オーストラリアだけでなく海外でも、自閉症に特化したプログラムとともに、特殊教育や言 語病理学における一般的訓練について幅広く講義してきた。シドニーにあるマッコーリー大学で言語学 博士号を得ている。シドニー大学教育・社会福祉学部早期介入センターの研究者であり、大学院生のス ーパーバイザーでもある。また、シドニー大学保健科学部大学院発達障害研究科で自閉症の講座を担 当している。マッコーリー大学の国語・言語学部、及び特別支援教育センター(MUSEC)で名誉職を保持 している。 マーゴット・プライア教授、オーストラリア二等勲士、文学士、博士、オーストラリア社会科学アカデミー会 メルボルン大学心理学教授。モナッシュ大学、ラ・トローブ大学、メルボルン大学で、自閉症、学習障害、 行為・情緒障害の子どもの理解と援助に焦点をあてて、家族と児童発達の分野で講義、臨床、研究を行 ってきた。1994 年から 2002 年の間、メルボルン国立子ども病院で教授兼心理所長を務めた。「幼年期か ら青年期までの道のり(Pathways from Infancy to Adolescence)」「特異的学習障害の理解(Understanding Specific Learning Difficulties ) 」 「 多 動 性 障 害 − 診 断 と 対 処 − ( Hyperactivity: Diagnosis and Management)」「アスペルガー症候群における学習と行動の問題(Learning and Behavior Problems in Asperger Syndrome)」など、7冊の書籍の執筆と編集を手がけ、200 件以上もの学術論文を発表している。 自閉症スペクトラムのエキスパートとして国際的な評判を得ている。「オーストラリア人気質プロジェクト」と 題して、20 年間に渡ってオーストラリア児童を縦断的に研究してきた。ヴィクトリア子育てセンターと国立 子ども病院学習障害センターの創設者。オーストラリアユネスコ国内委員会の社会科学代表。近年、心理 学への多大な貢献を賞してオーストラリア心理学会賞を受賞した。 調査アシスタント:デイビッド・トレンバス、応用科学修士、応用科学学士(言語病理学) 現在、シドニー大学でコミュニケーションと恒久的障害についての講師兼研究員。オーストラリア自閉症ス ペクトラム(ASPECT)加齢障害・在宅介護局及びシドニー大学コミュニケーション障害治療研究クリニック で言語聴覚士として勤務してきた。就学前の自閉症児に対して、ピア(友達)を介した自然的教育と会話 補助装置についての効果を検証した研究で、2005 年に修士を取得した。自閉症、拡大代替コミュニケー ション(AAC)や他の恒久的障害の分野に研究的興味を持っている。

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はじめに

近年、自閉症スペクトラム障害の「流行」が示唆されている。その理由は、低年齢で診断を受ける子どもた ちが多くなったことや、アスペルガー症候群と診断される子どもたちが増加してきたことで顕著にその患者 数の増加が見られるからである。このますます大集団化する子どもたちは極めて特殊な援助を必要として おり、特に社会へのより効果的な統合と生涯を通じての自立能力向上に資するスキル習得のために有益 な早期介入が必要である。自閉症児に特に重要な分野は、社会性とコミュニケーション能力の発達、問 題行動の予防と治療、そして実社会に参加することを可能にする適応能力の発達である。 自閉症児を持つ家族への支援ニーズもまた、懸案事項である。家族が診断・評価を経験する上で手助け となる戦略を同定すること、そして、利用可能な治療情報を提供する最も効果的な方法を見出すことが求 められている。包括的なサービス提供は、家族内での個人の特殊なニーズを認め、社会への家族の参加 を促進する戦略を含む、家族に焦点を当てた療法を必要としている。 世界各国の主要な論文や調査プロジェクトに関する本レビューは、以下の情報を提供する。 ・ 自閉症スペクトラム障害の定義 ・ 早期介入を強調するさまざまな治療介入モデルを支持するエビデンスの比較、例えば、集中的行動 介入、自然主義的な戦略、折衷的な療法、親教育プログラムなど ・ 介入の集中度、期間、短期結果と長期効用の観点における介入のコスト・ベネフィット ・ 診断・評価(情報提供を含む)時の家族支援における最良の実践モデルを支持するエビデンス ・ 自閉症スペクトラム障害の子どもと青年を持つ家族が体験するであろうストレスを軽減し、地域活動へ の参加を促進するための包括的援助の性質についての概観 ・ 自閉症児の教育上の配置 ・ この論文が発表された時点での、オーストラリアの州・特別地域で入手できる自閉症プログラムの調 査結果(訳注:この部分は省略した)

自閉症スペクトラム障害の定義

自閉症は原因不明の生涯にわたる神経発達障害である(Volkmar,1998)。病態生理学の観点から、自閉 症は皮質性あるいは皮質下性のある程度の脳機能障害によって引き起こされることが一般的に認められ ている。脳の先天異常を示す位置は未だに特定されていない(Bristol et al.,1996) が、過去10年の間、 遺伝子が関与するという証拠が増えている。自閉症の診断基準は、1940年代にレオ・カナー(Kanner, 1943)によって自閉症が発見されて以来、数十年、比較的安定している。ラター(Rutter, 1996)は「自閉症 の診断基準には大多数の意見の一致があり、診断分類としての自閉症の妥当性には一貫した根拠があ る」と示唆している。 現在、用いられている診断体系には主に2つのものがある。それらは共通して、社会的相互作用の障害、 コミュニケーションの障害、そして思考と行動の柔軟性の欠如という三つ組の障害を基礎に据えている。

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その診断体系とは、米国精神医学会による「精神疾患に関する診断と統計マニュアル(第4版)」(DSM-Ⅳ)(1994)と、世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類(第10版)」(ICD-10)(1992)である。「自閉症」と いう用語は「自閉症スペクトラム障害(ASD)(Wing, 1996)と同義に扱われ、DSM-Ⅳでは広汎性発達障 害(PDD)の範疇に入る。自閉症スペクトラムは異なった診断規準を持つ多くの病態を対象としているが、 三つ組の機能障害に起因する発達上の困難を共通して持つことで一致している。自閉症スペクトラム障 害またはDSM-Ⅳで定義された広汎性発達障害は、次のものを含む。 ・ 自閉性障害(古典的またはカナータイプ自閉症とも言われる。知的及び言語的に正常域にある自閉 性障害者を高機能自閉症(HFA)とも呼ぶ) ・ アスペルガー症候群(アスペルガー障害としても知られる)。アスペルガー症候群(AS)とHFAを区別す ることの妥当性について、かなりの議論がある。最近の研究では、どの重要な特徴に基づいても、確 実に区別することが不可能であると示唆されている。Wing(1996)はHFAとアスペルガー症候群とは、 相違点より類似点の方が多く、それらを教育上異なって扱うことは、根拠もないし、有益でもない、と 主張している。 ・ レット症候群 ・ 小児崩壊性障害 ・ 特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)。非定型自閉症とも言われる。 自閉症スペクトラム障害の診断は、三つ組をなす以下の3領域における行動観察に基づく。 ・ 社会的行動 ・ コミュニケーション行動 ・ 反復的または儀式的行動と変化への抵抗 自閉症の存在を正確に示す生理学に基づいた確定的な検査は存在しない。また、ある特定の行動によ って自閉症と確定的に診断されることもない。診断は、三つ組で説明されるそれぞれの特徴の行動観察 とともに、自閉症の早期徴候を示す生育歴を基礎に置く。 発生率と有病率:自閉症はどれくらい一般的か。 自閉症の有病率や発生率は、研究者やサービス提供者の間で論争の争点となり続けている。有病率 (prevalence rate)はある特定の地域に住む、特定の年齢層の自閉症者数を意味する。出生有病率(birth prevalence)はある地域で特定の条件を持って生まれた出生児数を意味する。ダウン症の出生有病率を 明らかにすることが可能であるからといって、同じ方法で自閉症の出生有病率を明らかにするのは困難で ある(Williams,2003)。なぜなら自閉症の生物学的マーカーは今まで明らかになっていないからである。 発生数(incidence)は特定人口の中で新たに診断された患者数を意味する。発生率(incidence rate)もまた、 自閉症については調査が難しい。と言うのも研究者によって基準が様々であるからである。例えば、アス ペルガー症候群を含む調査は自閉性障害のみを調べたものに比べて発生率は高くなる可能性がある。 研究文献によって報告されている、自閉症の推定有病率にはかなりの幅がある。包括的な見直しを行っ た英国医学研究審議会(Medical Research Council, MRC)(2001)は、自閉症スペクトラム障害は 8 歳未 満の子ども 1 万人のうちおよそ 60 人に発現すると見ている。MRC によるこれらの率は Chakrabarti and Fombonne(2005)によって裏付けられた。最近の国際研究では平均有病率を 175 人に 1 人としている (Insel,2006)。MRC レビューの著者たちは、文献やメディアで報告される率の違いは、諸研究間の方法

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上の相違、診断方法の変化、専門家や一般市民の間での自閉症への関心の高まりなどの諸要因の結果 と見ている。障害の有病率が実際に増加しているのかどうか、そしてもし増加しているのなら、すでに述べ た要因はその増加を説明するに足るものかどうか、明らかでない(Prior, 2003 参照)。Fombonne(2003)に よると、自閉症者の 70%前後が知的障害を併せ持ち、男性により多く発現する(男女比 4.3:1)。 現在のところ、自閉症と自閉症スペクトラム障害を単独で引き起こす要因は知られていない。ほとんどの 専門家は、発達途上の脳に影響を及ぼす様々な病因の結果、自閉症状が現れると見ている(Gillberg & Peeters, 1999)。自閉症には遺伝的要素があること(Medical Research Council,2001)は既知のことだが、 そのメカニズムはまだ解明されていない。遺伝的な罹患性と環境的な要因がどのように関わっているのか も知られていない。

自閉症児への介入を見直すにあたって考慮すべき事項

文化的認識 介入の結果について議論する際には、自閉症についての文化的認識の持つ影響力を考慮する必要が ある。それぞれの障害は社会にそれぞれ異なった受け止め方をされる。異なった文化は、所与の障害に 異なった定義を与え、異なった関わり方をする。ある障害とその障害特性の社会的定義は、特定の介入 に影響を与えるかも知れないし、違った社会の信念と価値感を反映するかも知れない。例えばオーストラ リア社会では、個人が表すアイコンタクトの量と型式は、その人と文化的背景を反映することが多い。多く の自閉症児にみられるアイコンタクトの欠如やアイコンタクトの質の異常は、ある家庭には文化的に適応 すると見なされるかも知れないが、別の家庭には文化的に不適応と見なされるだろう。自閉症についての 一つの見解は、自閉症を正常な生物学的変異(進化上の利点と同時に欠点も併せ持つだろう変異)の特 徴と考える(Jordan, 2001)。多くの自閉症の大人たちが、彼らの社会生活に非自閉症的な、彼らの言葉に よると「神経学的に正常な」基準、態度、判断を押し付けることの正当性に疑問を呈している。 多元的枠組みの必要性 自閉症は定義、診断、教育そしてケアの点において多くの異なる専門領域にまたがる。したがって多元 的な取り組みが最善である(Jordan, 2001)。自閉症児の評価と介入を考えるとき、我々の自閉症の理解は 生態学的概念に基づくことが必要不可欠である。専門家は異なる分野に従事する者を巻き込む多元的 な枠組みを導入する必要があり、介入の戦略は親、教師、友達、自閉症者そして他の専門家を包括しな ければならない。 介入と治療計画を立てる全ての試みは、科学、信念、文化、そして子どもや家族の個別のニーズ の間の隔たりを埋める必要性を常に留意しながら、専門家と家族との間に密接な協力関係を築く ことを含むべきである(Schulman, Zimin, & Mishori,001p233)。

個人差

自閉症スペクトラムの範囲の広さと症状の個人差は重要な問題である。Jordan(2001)は、自閉症は人の 考え、感情、理解や行動の行方に広範囲な影響を及ぼすが、その影響は均一ではないと述べている。自 閉症が幅広い年齢層と能力差を含んでおり、しばしば顕著な自閉症児の個人差を反映すると考えると、

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ある単一の介入が全ての子どもや家族に適応することはありそうにない。 「治癒」および「回復」の主張 自閉症は生涯にわたる広範囲な発達上の障害ではあるが、自閉症に治癒をもたらすと主張する治療プロ グラムは存在する。Howlin(1998)は、そういうプログラムとして抱っこ療法、オプションアプローチまたはサ ンライズプログラム、聴覚統合療法やファシリテーティッド・コミュニケーションなどを挙げている。それらの 療法やそれらに関連する主張は、公表された証言、インターネット記事、逸話的な説明や調査研究など の題材にはなっているものの、適切な調査研究によって裏付けられたものはない(Howlin, 1998)。親に 利用可能な治療法が数多くあり、その提唱者によって様々な主張がなされているにも関わらず、これらの 治療プログラムの結果を評価する科学的に確かな研究は、不足している。 親に与える負担 近年、自閉症への介入方法、特に幼児を対象とするものは非常に多い。そしてそれらの中には治癒や回 復について根拠のない主張を伴っているものもある。これらの介入はしばしば金銭面や時間の面で非常 に高コストである。それに加えて両親はできるだけ早期に集中的な介入を施すことに、多大なプレッシャ ーを感じている。それはもし彼らが正しい早期介入を子どもに十分に提供してこなかったと考えている場 合には、罪の意識を伴う。 成果を評価するにあたっての内在的な課題 プログラムの主張と実証的に裏付けられたされた結果との間に隔たりが生じるのは、優良な科学的基準は 厳密な実験的手法に基づいており、治療群と非治療群とを無作為に割り当て、それぞれの変数(ある特 定の介入評価以外に結果に作用する可能性のある変数)を厳重に統制しているからである。ある介入の 効果についての説得力のある証拠を示すためには、多くの科学的基準が満たされなければならない。し かしながら、介入プログラムはいつもそのような基準を満たせるとは限らない。例えば、被験者を治療群あ るいは比較検討される非治療群に無作為に割り振ることは、実現不可能なだけでなく、違法である可能 性もある。また、治療を施す人間(教師など)と子どもとの関係のような複雑な変数は簡単には統制し得な い。しかし介入を評価する調査なしには、好成績の主張は立証されることはできない。介入の結果を評価 するために、科学的に厳密な調査研究を組み立てることは、困難であるとしても可能である。しっかりした 調査基準がどの程度満たされているか(特に異なる調査者によって研究結果が再現されているか)は、そ の結果を信頼できるかどうかの指標になる。残念ながら自閉症の分野では、介入の主張を立証するため に使用される証拠の選択と解釈に重要な誤りを含む傾向にある。あるいは事例によっては、「甚だしい曲 解あるいは証拠の無視」をもって主張がなされているものもある(Schopler, Yirmiya, Shulman & Marcus, 2001, p13)。 歴史的に、自閉症児とその家族にとっての治療状況は、数十年もの間、有効性を支持する実証的な証拠 のないまま行われてきた心理療法によって曇らされてきた。今日、家族は一連の介入(それは評価されて おらず、自閉症児を害するリスクすらある)に多大な時間と資金を費やしている。例えばファシリテーティッ ド・コミュニケーションの研究では、ファシリテイターの存在が子どもをより受身的にし、コミュニケーションを 自発する可能性をより低くしている、という事実を明らかにしている。さらに、米国の数多くの学校や学校 区では、広範囲な教育課程を犠牲にしてファシリテーティッド・コミュニケーションへ資源を集中させること

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が行われた。そして子どもは「ファシリテートされて」書いたとされるすばらしいタイプ原稿に基づいて普通 クラスに移され、子どもには非現実的な期待が与えられ、その結果、関係者全員に多大なストレスをもたら した(Howlin, 1997)。わずかな証拠しかなく、潜在的なリスクも存在するため推奨できない生物学的治療 や自然療法による治療も同じことである(Perry & Condillac, 2003)。これらにはビタミンB6やマグネシウム を相当量投与するものも含む。この治療結果のレビューで、Pfeiffer, Norton and Shott(1995)は、5%の治 験者に感覚性ニューロパシー、頭痛、うつ、嘔吐、光過敏性の副作用が現われたと報告している。 介入の結果を評価する調査者にとっての重要な課題は、それらの結果報告で被験者の自閉症スペクトラ ム障害の性質の叙述が千差万別であったり、正確さを欠いていること、そして結果を測定するテストがまた 多様であるため、異なる治療の比較を困難なものにしていることである。このレビューで取り組まれる課題 は、入手できる調査エビデンスを要約し、そのエビデンスがどの程度健全なものであるかを考慮すること にあり、さらに可能であればそれらのエビデンスがどの程度、オーストラリアで自閉症児とその家族が利用 可能なプログラムに関連するかを示唆することにある。このレビューの焦点は、自閉症の幼児とその家族 のための「早期介入」についてである。それは自閉症児の治療と処遇に関する研究がどこまで行われてき たか、についての理解を促進し、家族と専門家に知識を与えるためにより健全な実証的研究が必要であ ることに注意を喚起することを目的とする。 介入の分類 一連の利用可能な自閉症への介入は広範囲に及んでおり、異なる著者によるいくつかの異なった方法 での分類がある。Mesibov, Adams & Klinger(1997)は、介入方法を3つの主要グループに分類している。 ・ 生物学的 ・ 精神力動的、そして ・ 教育的 このレビューでは、生物学的、精神力動的治療を簡潔に取り扱い、教育的介入に焦点を合わせる。教育 的介入が我々の主要な報告対象ではあるが、精神力動的、生物学的方法に関する調査のレビューも含 まれる。なぜなら、家族は二つ以上の方法を、しばしば同時に追求する傾向にあるからである。例えばオ ーストラリアの多くの子どもたちが、教育的プログラムに登録されていると同時にまた、一つあるいはそれ 以上の生物学的介入(薬物治療、食事療法、あるいは重金属中毒に対する治療など)を受けている。多く のしばしば高価な、時には子どもに侵襲性のある治療選択肢に、特にそれら介入の効能についての科学 的証拠が見出せないままで直面する家族のジレンマについて留意することが重要である。 教育的介入はスキル(技能)の発達と対人関係の発達に焦点を合わせた介入である。それらは、スキル 発達に焦点を合わせている行動的介入、対人関係の発達に焦点を合わせた発達的介入、コミュニケー ションあるいは感覚運動(これらのプログラムは通常、他のプログラムと併用で実施される)などの特定の 領域に焦点を合わせた療法的介入、親が子どものスキルおよび対人関係の発達を促すことを可能にする ことに焦点を合わせた家族的介入、あるいは上記の一つまたはそれ以上を組み合わせた複合的介入に 分類できる。

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