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Microsoft Word - 運動障害のある児童生徒の「食べる力」の育成に関する

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運動障害のある児童生徒の「食べる力」の育成に関する研究

教職員及び保護者の意識や実態を基にした指導内容づくり

【研 究 者】 特別支援教育・教育相談部 指導主事 篠原 浩美 【研究指導者】 広島大学大学院教育学研究科 講師 川合 紀宗 広島県立障害者リハビリテーションセンター 言語聴覚士 下妻 玄典 【研究協力員】 県立広島西特別支援学校 校 長 水田 弘見 県立広島特別支援学校 教 諭 棟口 忍 県立西条特別支援学校 高等部主事 溜谷 伸弘 県立福山特別支援学校 小学部主事 清戸 千代美

研究の要約

本研究は,運動障害のある児童生徒の食事の在り方に関する,保護者や担任等の意識や実態について 調査を行い,「食べる力」の育成につながる,「指導内容づくりへの視点」をまとめることを目的とした ものである。 文献研究より,「食べる力」の育成につながる具体的な指導内容が分かった。また,肢体不自由者で ある児童生徒に対する教育を行う特別支援学校においては,給食指導を自立活動の時間における指導と して,教育課程に位置付けている事例が複数あり,給食指導と他の学習活動との関連付けをする重要性 が分かった。 これらを基に,県内の肢体不自由者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校3校において, 保護者や担任等の食事の在り方に関する意識及び実態調査を実施した。その結果,「障害の状態など, 児童生徒の基本的情報」,「食事の仕方や食物形態,大切にしていることなど,食事にかかわる具体的な 内容」,「摂食に関する研修の様子,摂食指導の経験等,悩み,卒業後への意識など,教職員及び保護者 の状況」,「給食指導と他の学習活動との関連付け(教職員のみ)」の内容について,多面的・具体的に把 握することができた。 以上のことを踏まえて,「指導内容づくりへの視点」をまとめた。今後は,その効果的な活用に向け て,意識及び実態調査の課題を整理し,更なる実用性を高める。また,実践モデルを構築し検証にも取 り組む。 キーワード:運動障害 食べる力 指導内容づくりへの視点 目 次 はじめに………95 Ⅰ 研究の概要………96 Ⅱ 研究の基本的な考え方………96 Ⅲ 食事の在り方に関する意識及び実態調査… 105 Ⅳ 「指導内容づくりへの視点」の作成……… 114 Ⅴ 研究のまとめ……… 114 おわりに……… 114 巻末資料「指導内容づくりへの視点」………… 116

はじめに

広島県教育委員会では,平成16年3月から,県民 総参加による子どもの望ましい基本的生活習慣の定 着を目指し,「食べる!遊ぶ!読む!」キャンペーン を展開している。キャッチフレーズは,「食べる!遊 ぶ!読む!で生活リズムを整えよう!」である。 広島県教育研究グループ自立活動研究会(平成20 年)は,特別支援教育の視点からこのキャッチフレ ーズについて,次のように述べている。1) 食べる力を育むことはエネルギーの源となり,活 力や持続力,コミュニケーションを育むことにつな がっていく。遊ぶ力を育むことは自己と外界(人やも の,自然)を知っていくさまざまな感覚を鍛え,言葉 の基礎や社会性を育むことにつながっていく。読む 力は障害の状態によって大きく異なる。いわば特別 支援教育の独自性が発揮される分野である。しかし, その基礎は遊ぶ力にあり,遊びによってさまざまな ものを知り,人の動きを知り,人間関係を知ってい

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く。その力が文字と具体物や抽象的な事象の結びつ きを知ることにつながっていく。そして,その遊ぶ 力の基礎となるのが食べる力である。このように見 ていくと,発達や障害の状態に関わらずすべての子 どもたちに大切な目標であり,内容である。 食べる力をはぐくむことは,すべての児童生徒の 学びを支え,広げていくことにつながり,重要であ ると考える。しかし,障害のある児童生徒の指導に 当たっては,何らかの難しさがあると考える。 金子芳洋(1987)は,食べる行動の障害を摂食障害 とし,障害のある子どもたちの様態の多様さについ て,次のように具体例を挙げている。2) 「食べ物を口に持っていっても開いてくれない」 「開いてもとろうとしない」「口の開きが小さくてス プーンが入らない」「必要以上に口を大きく開ける」 「のけぞる」「舌がベロベロ出てきて食べ物が口に入 らない」「入れても舌で押し出してしまう」「スプー ンをガチッと咬んでしまって,引っ張ってもなかな か離さない」「口には入れるけれど,あとは動かさな い」「口にためていて飲み込まない,そのうちに咳込 みだす」「咬んでいるうちに咳込みだす」「ひどくむ せて何も食べられない」「なんでもどんどん口に入れ て丸飲みにしてしまう」「咬まない」「むせがひどく て水をあげられない」「コップで飲めない」などなど ―よくみられる症状や母親の訴えを少し挙げただけ でもこんなにいろいろあるし,またこれらの症状が 重複して起こってきます。 「食べる」ことは,毎日繰り返される当たり前の 営みであるが,障害のある児童生徒やかかわる教職 員や保護者などにとっては,困難や苦痛を伴うこと があると考える。 芳賀定(平成19年)は,障害のある子どもたちへの 食事支援の目標として,「いつでも・どこでも・誰と でも・安全で・安心して・楽しく・おいしい食事を 取ることができる」3)と述べている。 これまでも,「食べる」ことの指導を通して,こ の分かりやすく当たり前である目標が具現化される 難しさを問い続けてきたが,改めて指導の充実に向 けて追究していきたい。

研究の概要

研究の目的

特別支援学校学習指導要領等の改訂の基本的考え 方の一つとして,「障害の重度・重複化,多様化に対 応し,一人一人に応じた指導を一層充実」4)が示さ れている。障害のある児童生徒一人一人の障害の状 態等に応じたきめ細かな指導の一層の充実が重要で ある。広島県においても,平成20年7月に広島県特 別支援教育ビジョンが策定され,「障害の種別・程度 に応じた質の高い教育の提供・障害のある幼児児童 生徒の自立と社会参加」5)を目指し,取組みが進め られている。 食育基本法(平成17年)では「子どもたちが豊かな 人間性をはぐくみ,生きる力を身に付けていくため には,何よりも『食』が重要である。」が示されてお り,学校教育において「食べる力」の育成を図るこ とは児童生徒の生きる力につながると考える。 障害のある児童生徒の場合,触覚や味覚等の感覚 過敏や運動発達の遅れ等により,食べ物へのこだわ りや介助者に対する不安感等を抱いていることが多 い。とりわけ,重度の運動障害のある児童生徒の場 合,食事の在り方が肺炎や気道狭窄等に関係するこ とから,児童生徒の状態や家庭での養育状況を十分 に踏まえた指導が必要である。 このことから,食事の在り方は児童生徒の「食べ る力」の育成に大きく影響することを踏まえ,指導 においては児童生徒の実態に応じた「食べる力」を 高めるかかわりが必要であると考える。 本研究は,こうした状態にある児童生徒の保護者 や担任等の,運動障害のある児童生徒の食事の在り 方に対する意識や実態について調査を行い,今後の 指導内容づくりへの視点をまとめることを目的とす る。

研究の内容と方法

研究内容及び方法は,「食べる力」の育成に関す る文献研究,食事の在り方に関する意識及び実態調 査の作成・実施・分析・考察及び「指導内容づくり への視点」の作成である。 研究を進めるに当たり,調査の前後に研究協力員 会議を2回実施した。調査については,広島県内の 肢体不自由者である児童生徒に対する教育を行う特 別支援学校3校において実施した。

研究の基本的な考え方

運動障害について

(1) 運動障害 三澤義一(1993)は,「運動障害は,運動・動作の 障害であるから,その起因疾患等がさまざまであっ ても,共通しているところは,移動やものの操作に

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支障をきたすということである。それは日常生活の 隅々にまで影響する。」6)と述べている。 運動障害には,先天的に四肢体幹の形成が障害さ れたり,生後の事故などによって四肢等を失ったり することなどによる形態的な障害によって生じる場 合と,形態的には基本的に大きな障害はないものの 中枢神経系や筋肉の機能の障害によって生じる場合 とがある。 三澤(1993)は,「わが国では,運動障害という用語 の代わりに,肢体不自由という言葉が多く使われ, 教育や福祉・労働などの制度上もこの用語が使われ ている」7)と述べている。 米山明(平成18年)は,「肢体不自由児とは,肢体(四 肢・体幹)に障害をもつ子どものことです。」8)と示 し,「肢体不自由児には,肢体の運動障害があります が,その原因となっている障害や疾病とその障害程 度により,知的障害,コミュニケーション障害,て んかん,嚥下,排泄などさまざまな随伴症状(合併症 状)の合併は少なくありません。」9)と述べている。 以上のことから,運動障害と肢体不自由がおおむ ね同義であり,運動障害によって,日常生活全般に 影響が及ぼされること,また,運動障害の原因はさ まざまであり,他の障害等が重なる場合が少なくな いことが分かった。 肢体不自由者である児童生徒に対する教育を行う 特別支援学校において,運動障害の発症原因別で最 も多いのは,脳性疾患,次いで筋原性疾患,脊椎脊 髄疾患,骨関節疾患,骨系統疾患,代謝性疾患とさ れている。また,運動障害の原因となる主要な疾患 は,脳性まひ,筋ジストロフィー,二分脊椎である。 肢体不自由者である児童生徒に対する教育を行う特 別支援学校においては,児童生徒の障害は,脳性ま ひの割合が最も多い状況である。 (2) 運動障害に着目する意義 宇佐川浩(2007)は,発達の全体像をとらえ,発達 要因間の絡み合いを見ようとする視点が,支援のた めの仮説や目標設定に,更には支援方略を考えるた めには必要不可欠であるとし,その考えを図1のよ うに示している。そして図1を用いて,まず運動感 覚,認知,自己像等について,次のように述べてい る。10) まず前庭感覚や固有感覚といった揺れや関節等身 体自身に感じる内受容感覚と,触れて感じるといっ た触覚を通して,初期の「身体・姿勢」の気づきが 芽生える。こうした「身体・姿勢への気づき」はや がて目を使いながら粗大な運動や手先の運動を調節 するようになる(視覚運動協応)。同様に耳を使いな がら発声や動きを調節するようになる(聴覚運動協 応)。そうした一連の行為がみわける(視知覚)・きき とる(聴知覚)といった知覚系を育て,同時に認知や 自己像(関係性)の高次化を支えていく。認知発達面 では模倣やみたてあそび等の象徴機能が育ち,やが て概念が育っていく。自己像発達の面では,他者へ の拒否の仕方が育ち,並行して他者との折り合いを つけ,合わせる楽しさという調節的な仕方も育って いく。 続けて,情緒,表現手段とコミュニケーションに ついて,「そしてこれらの感覚運動,認知,自己像等 のすべての要因がうまく育っていくときに,情緒も 育ち,表出としての運動面の発達とともに,ことば を含めたコミュニケーション手段も育っていく。」11) と述べている。 図1 発達要因間の絡み合いの臨床的理解 こうした発達要因間の絡み合いや流れについて理 解を深めることは,発達の全体像をとらえることに つながり,指導に当たって必要なことであると考え る。 下條信輔(2006)は,「からだが学習や記憶の原点」 12)と示し,ことばや数といった抽象的な能力が,そ の最初のレベルでは,聞くこと,見ること,描くこ となど,感覚と動作との具体的な協応関係に強く依 存しながら発達することについて述べている。加え て,「ことばや数の概念が,発達的にみると,発声や からだの動作のリズムと強く結びついており,とい うよりはむしろ,そこから派生してきたものである とさえいえる」13)とも述べている。 以上のことから,発達の初期における運動体験が 諸側面の発達に非常に重要であると考える。このこ とを踏まえると,運動障害に着目し指導内容を追究

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していくことは,その内容を他の障害領域にわたら せることが期待でき,意義深いと考える。

「食べる力」の育成

(1) 「食べる力」 食を通じた子どもの健全育成(-いわゆる「食育」 の視点から-)のあり方に関する検討会は,家庭や社 会の中で,子ども一人一人の「食べる力」を豊かに はぐくむための支援づくりを進める必要があること を踏まえ,平成15年から平成16年にわたり 7 回開催 され,報告書として,楽しく食べる子どもに~食か らはじまる健やかガイドを取りまとめた。 楽しく食べる子どもに~食からはじまる健やか ガイド(平成16年)では,食を通じた子どもの健全育 成のねらいとして,「現在をいきいきと生き,かつ生 涯にわたって健康で質の高い生活を送る基本として の食を営む力を育てるとともに,それを支援する環 境づくりを進めること。」14)を定めた。そして,「『食 を通じた子どもの健全育成』は,子どもが,広がり をもった『食』に関わりながら成長し,『楽しく食べ る子ども』になっていくことを目指します。」15)とし, この「楽しく食べる子ども」に成長していくための 具体的な五つの子どもの姿を目標とするとした。目 標を表1に示す。 表1 具体的な五つの子どもの姿 具体的な五つの子どもの姿 ○ 食事のリズムがもてる ○ 食事を味わって食べる ○ 一緒に食べたい人がいる ○ 食事づくりや準備にかかわる ○ 食生活や健康に主体的にかかわる さらに,食行動の発達だけではなく,身体的・精 神的・社会的発達を含め,子どもを統合的にとらえ る必要性を述べ,目標とする「楽しく食べる子ども」 の姿として図2を示した。 図2 目標とする「楽しく食べる子ども」の姿16) 図2に示されている「心と身体の健康」,「人との 関わり」,「食のスキル」,「食の文化と環境」は,食 を営む力を育てるために,特に発育・発達過程にお いて配慮すべき側面として注目されたものである。 この四つの側面における発育・発達過程にかかわる 主な特徴については,乳児期(授乳期・離乳期)から 思春期にかけての内容や関係性も含めた目安が,「発 育・発達過程に関わる主な特徴」と題して一覧表に まとめられた。一覧表には,多種多様な要素が示さ れている。表2は,「食のスキル」の部分で用いられ ている語句を示したものである。実際には,これら の語句が発育・発達過程等に関係付けて示されてい る。 表2 「食のスキル」で用いられている語句 食 の ス キ ル 「哺乳」「固形食への移行」「手づかみ食べ」「スプ ーン・箸等の使用」「食べ方の模倣」「食べる欲求の 表出」「自分で食べる量の調節」「自分に見合った食 事量の理解,実践」「食材から,調理,食卓までのプ ロセスの理解」「食事観の形成,確立」「食に関する 情報に対する対処」「食べ物の自己選択」 さらに,「発育・発達過程に関わる主な特徴」の 一覧表に応じて,表1の目標とする子どもの姿を踏 まえ,具体的にどのような「食べる力」をはぐくん でいけば良いのかについても, その内容が分かるよ う関連性とともに目安が,「発育・発達過程に応じて 育てたい“食べる力”について」と題して一覧表に まとめられた。その説明には,「一つひとつの“食 べる力”は,他の“食べる力”と関連しながら育ま れていくものです。」17)とあり,様々な「食べる力」 が重なり合って,全体像がはぐくまれていくと考え る。図3は,一覧表の一部抜粋である。 図3 「発育・発達過程に応じて育てたい“食べる力” について」(一部抜粋)18)

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食に関する指導の手引(平成19年)では,食に関す る指導の目標として表3の内容を示している。 表3 食に関する指導の目標 食に関する指導の目標 ○ 食事の重要性,食事の喜び,楽しさを理解する ○ 心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄養や食 事のとり方を理解し,自ら管理していく能力を身に付け る ○ 正しい知識・情報に基づいて,食品の品質及び安全性等 について自ら判断できる能力を身に付ける ○ 食物を大事にし,食物の生産等にかかわる人々へ感謝 する心をもつ ○ 食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を身に 付ける ○ 各地域の産物,食文化や食にかかわる歴史等を理解し, 尊重する心をもつ そして,特別支援学校における食に関する指導に ついては,目標の設定に当たり,これらに準ずると ともに,健康状態の維持・改善など自立活動の視点 を加味する必要性を述べ,指導の展開については次 のように述べている。19) 小学校,中学校に準じて行うとともに,食事の量 や種類等に伴う栄養状態や発育状態を適切に管理す ることなど生命の維持や健康の保持・増進を図ると ともに,咀嚼,嚥下などの食べる機能の改善・向上, さらには情緒,コミュニケーションの発達等を促す ための教育活動としてとらえることが大切です。 そして続けて強調して,障害の状態が極めて重度 の児童生徒に対する食に関する指導について,「発達 の基盤となるさまざまな学習を含んだ総合的な教育 活動といえます。」20)と述べている。 これらのことは,今日の動向である,障害の重度 ・重複化,多様化の状況を踏まえ,特別支援教育に おける「食べる力」の育成に係り,重要な視点であ る。 以上のことから,本研究の「食べる力」とは,「食 事のリズムがもてる」,「食事を味わって食べる」,「一 緒に食べたい人がいる」児童生徒の姿を目標とし, これらを具現化する力の総体とすることとした。「発 育・発達過程に関わる主な特徴」と「発育・発達過 程に応じて育てたい“食べる力”について」の一覧 表の内容を踏まえて整理した,本研究における「食 べる力」の内容を表4に示す。 表4 本研究における「食べる力」の内容 「食べる力」の内容 ○ 食 欲 が あ る ○ お 腹 が す く リ ズ ム を も つ ○ 1 日 3 回 の 食 事 や 間 食 の リ ズ ム を も つ ○ い ろ い ろ な 食 品 に 親 し む ○ 食 べ た い も の , 好 き な も の を 増 や す ○ 見 て , 触 っ て , 自 分 で 進 ん で 食 べ よ う と す る ○ 味 覚 な ど 五 感 を 味 わ う ○ 自 分 で 食 べ る 量 を 調 節 す る ○ よ く 噛 ん で 食 べ る ○ 食 事 マ ナ ー を 身 に 付 け る ○ 安 心 と 安 ら ぎ の 中 で 飲 ん で い る (食 べ て い る )心 地 良 さ を 味 わ う ○ 家 族 と 一 緒 に 食 べ る こ と を 楽 し む ○ 仲 間 と 一 緒 に 食 べ る こ と を 楽 し む (2) 将来像を踏まえた指導 キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力 員会議報告書(平成16年)では,キャリア教育の定義 について,「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援 し,それぞれにふさわしいキャリアを形成していく ために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」21) とらえ,示した。 小学校・中学校・高等学校キャリア教育推進の手 引(平成18年)では,キャリア発達について,次のよ うに詳しく説明している。22) 社会との相互関係を保ちつつ自分らしい生き方を 展望し,実現していく過程がキャリア発達です。社 会との相互関係を保つとは,言い換えれば,社会に おける自己の立場に応じた役割を果たすということ です。人は生涯の中で,様々な役割をすべて同じよ うに果たすのではなく,その時々の自分にとっての 重要性や意味に応じて果たしていこうとします。そ れが「自分らしい生き方」です。 障害のある児童生徒の自立や社会参加を踏まえ, 特別支援教育におけるキャリア教育を進めていくに 当たっては,キャリア発達の意味を再確認し,将来 において児童生徒一人一人が自分らしい生き方を実 現できるよう取り組んでいくことが重要であると考 える。 芳賀(平成19年)は,はじめにで示した,障害のあ る子どもたちへの食事支援の目標に続けて,次のよ うに述べている。23) その結果,家庭での食事や学校での給食,修学旅

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行や宿泊訓練の際の食事も,また家族揃ってのレス トランや旅行先での食事も楽しく,おいしい食事を 取ることができるようになります。子供にも,家族 にも生活の幅が広がり,社会(集団)生活への参加も 広がり,QOL(生命・生活・人生の質)の向上につ ながります。 永長妙子(平成20年)は,児童生徒の将来の「食べ る」姿を大切にした指導について,次のように述べ ている。24) 数年を経て,ある程度の基礎知識は身に付いたも のの,摂食指導が生徒たちの将来にどう結びつき, なんのために行うのかイメージができないまま,そ の重要性を見過ごしていた時期もありました。時に は「お母さんとその子の間で,食べられるならいい か。嫌がる介助を無理矢理してまで,食べさせなく てもいいか。」と思ったこともありました。しかし, 中学部,高等部と年齢が上がるにつれ,加齢に伴い 食べる機能が衰えていく子供を目の当たりにし,摂 食指導に対する考え方が変わってきました。子供た ちが将来にわたって毎日継続して得られる楽しみや 喜びの一つである「食べる」ということを学習する 場が摂食指導なのだと。将来,子供たちが色々なサ ービスを利用する中で,家族や友だち,支援者の方々 と共に,できるだけ長い期間,安全に楽しく食事を とり,より豊かな生活を送ることができるよう,摂 食指導が役立って欲しいと願っています。 障害のある児童生徒の「食べる」姿には,周囲の 人の介する姿がともにあり,「食べる力」の高まりは, 将来において児童生徒一人一人の自分らしい生き方 の実現につながると考える。また,そうした実現に 向けて安全に「食べる」ことは基盤であり,例えば 口唇閉鎖が難しく,顎の動きが少ない児童生徒の重 力を嚥下の助けにする食べ方や,スプーン等の食具 の長年の活用により生じる上肢の後方への引きによ る食べ方の困難さへは,将来像を踏まえて日々地道 に取り組む必要があると考える。 以上のことから,「食べる力」の育成に関する指導 を進めるに当たり,キャリア教育を踏まえ,将来の 児童生徒の姿を具体的に見据えた日々の指導が大切 であると考える。 (3) 「食べる力」の育成にかかわる指導内容 金子(1987)は,障害のある子どもたちの指導につ いて,「摂食障害児のリハビリテーションを成功させ るためには,じつに多くの要因に対する同時進行的 な配慮が必要であり,単に症状対処方法や技術面だ けに頼っていては成功は望めません。」25)と述べてい る。さらに,指導の視点として,「直接あるいは間接 的に関係する基本となる考え方や心構えを,母親や 介助者にしっかりと持ってもらうことが重要です。」 26)と述べている。そして,摂食指導にかかわる多種 多様な内容について,指導の視点と合わせて詳細に 解説するとともに,それらの内容を,食べる機能の 障害(1987)の付図5に示した。 北住映二・尾本和彦・藤島一郎(平成19年)は,障 害のある子どもたちにとって,食べること,飲むこ とに関係した課題を表5のように整理した。 表5 障害のある子どもたちにとって,食べること, 飲むことに関係した課題 食べること,飲むことに関係した課題 ① 必要な量と種類の,栄養や水分が摂取できるように する。 ② 安全に摂取できるようにする(誤嚥や,食事中の窒 息・呼吸困難を防ぐ)。 ③ 生きる楽しみの一つとしての食事という意味を,尊 重し豊かにする。 ④ コミュニケーションの場としての食事場面の意味 を,大事にする。 ⑤ 食べることへの意欲を大事にし,育てる。 ⑥ 自分で食べることができる力を伸ばす。 ⑦ 介助されて食べる子どもでは,いろいろな人からの 介助で,確実に安全に摂取できるようにする。 そして,表5の①②が生きていくための基本,③ ④も生活や人生を心豊かなものにしていくために大 切なもの,⑤⑥⑦はそのためにも必要な課題,と述 べている。 本研究における「食べる力」の内容を踏まえ,金 子(1987)の付図5及び表5の内容を主として参考に し,「食べる力」の育成にかかわる指導内容を次のよ うに整理した。これらの指導内容は,相互に関連付 いていることに留意する必要がある。 ○ 食環境にかかわること (心理的配慮,雰囲気,心づかい,食器・食具) ○ 食内容にかかわること (食物形態,再調理器具,栄養(水分)指導) ○ 摂食機能にかかわること (過敏への対応,鼻呼吸の促進,姿勢,捕食や咀 嚼の指導,上肢の操作,口腔ケア) ○ 生活リズム ○ キャリア教育の視点 ○ 安全面への配慮

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「食べる力」の育成にかかわる具体的な

指導内容

(1) 食べる機能の発達について 「食べる力」の育成に関する指導を進めるに当た り,食べる機能の発達について理解を深めることが 必要である。厚生労働省策定の授乳・離乳の支援ガ イド(平成19年),神奈川県教育委員会の食事に関し て支援の必要な子どもに対する食事指導ガイドブッ ク-安全で楽しい食事のために-(平成19年),田角 勝・向井美惠編著の小児の摂食・嚥下リハビリテー ション(2006)などを参考にし,食べる機能の発達に ついて,特徴的な動きや食物形態(1),指導のポイン ト等を合わせて表6にまとめた。各機能等が単独で 発達するのではなく,重なり合い,関連し合いなが ら発達することに留意する必要がある。 表6 食べる機能の発達について 食べる機能の 発達の様子 (栄養摂取段階) 特徴的な動き 発達の目安,食物形態 指導のポイント 介 助 食 べ が 主 哺乳に関する原始反 射がだんだん弱くな る ・ 経口摂取準備期 (哺乳期) 首が座る 哺乳反射,指しゃぶり,玩具なめ ~5か月,液体類 生活リズムを整える 口やその周辺へ多様な刺激を入力 (たっぷり,じっくり,繰り返し) 口に入った食物を嚥 下反射が出る位置ま で送ることを覚える ・ 嚥下機能獲得期 ・ 捕食機能獲得期 (離乳初期) 寝返りができる 下唇が内側に入る 口角はほとんど動かない 舌は前後に動く 顎は上下に動く 5~6か月,なめらかにすりつぶし た状態(ポタージュ状) 姿勢を少し後ろに傾け,重力を嚥下 の助けにする 口の前の方を使って 食物を取り込み,舌 と上顎でつぶしてい く動きを覚える ・ 捕食機能獲得期 ・ 押しつぶし機能 獲得期 (離乳中期) 座位ができる 上唇を閉じようとする 口角は水平左右対称に動く 舌は上下に動く 顎を上下に動かしてつぶす 7~8か月,舌でつぶせる固さ(豆 腐ぐらい) 平らなスプーンを下唇の上にのせ, 上唇が閉じるのを待つ つぶした食べものをひとまとめに する動きを覚え始めるので,飲み込 みやすいようにとろみを付ける工 夫も必要 舌と上顎でつぶせな いものを歯ぐきの上 でつぶすことを覚え る ・ すりつぶし機能 獲得期 ・ 水分摂取機能獲 得期 (離乳後期) つかまり立ちができる 口唇で捕食する 口角の左右非対称に動く 舌は左右に動く 顎を左右に動かして噛む 9~11か月,歯ぐきでつぶせる固さ (指でつぶせるバナナぐらい) 丸み(くぼみ)のあるスプーンを下 唇の上にのせ,上唇が閉じるのを待 つ やわらかめのものを前歯でかじり 取らせる 自 食 が 主 口へ詰め込み過ぎた り,食べこぼしたり しながら,一口量を 覚える 手づかみ食べが上手 になるとともに,食 器・食具を使った食 べる動きを覚える ・ 自食準備期 ・ 手づかみ食べ機 能獲得期 ・ 食器・食具食べ 機能獲得期 (離乳完了期) 歩ける 歯固め遊び 手づかみ遊び 口唇中央部から捕食する 前歯で食物を噛み切る 頸部回旋が消失する 口唇中央部から食具を挿入する 口唇で上手に捕食する 12~18か月,歯ぐきで噛みつぶせ る固さ(肉だんごぐらい) 手づかみ食べを十分にさせる 食具は,最初はスプーンが良い (2) 「食べる力」の育成にかかわる具体的な指導 内容について 金子芳洋編の食べる機能の障害(1987),田角勝・ 向井美惠編著の小児の摂食・嚥下リハビリテーショ ン(2006),北住映二・尾本和彦・藤島一郎編著の子 どもの摂食・嚥下障害-その理解と援助の実際-(平 成19年)などを参考にしてまとめた,「食べる力」の 育成にかかわる具体的な指導内容について次に示す。 指導内容には,直接あるいは間接的に関係する基本 となる考え方や心構えを含むこととする。 ア 食環境にかかわること ○ 心理的配慮 ・ 児童生徒自らが積極的に食事に参加する能動 的な姿勢を生み出すような食事の流れに沿っ た言葉かけをする ・ 食物に児童生徒が自ら対処する準備ができる よう,見せてから口に運ぶ ・ 手づかみ食べや遊び食べを十分体感させる ○ 雰囲気 ・ 楽しい雰囲気にする ・ 食事に集中できるようにする

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・ 食器を児童生徒の見える位置に食物等を置く ○ 心づかい ・ 味覚体験を増やす(複数のおかずを混ぜてひ とまとめにしない) ・ 食物の温度や味や香りに気を配る ・ 口に食物を運ぶ速度に気を配る ・ 児童生徒の視線や顔の表情に気を配る ・ 口を開くまでは食物を無理に入れない ○ 食器・食具 ・ 食べる機能に応じてスプーン,箸,ストロー, コップ,滑り止め付皿など適切な食器・食具を 準備する ・ 口唇閉鎖を妨げない食具にする ・ 初期のスプーンは,ボール部分が小さめで浅 くほとんど平らなもの ・ 介助には,スプーンの柄が長いものが良い イ 食内容にかかわること ○ 食物形態 ・ 食べる機能の発達に従った食物形態にする (流動食,すりつぶし食,刻み食,軟食,普通 食等) ・ 食物形態を上げ過ぎないように気を配る ・ 刻み食はむせを誘発することがある ・ 食物の大きさ,固さ,粘度などの条件をどの ように組み合わせていくかを考えて食物形態 の調整をする(大きさの調整から固さの調整に 重点を置くようになってきている) ○ 再調理器具 ・ 食物形態の調整によって器具を使い分ける (裏ごし器,フードプロセッサー等) ○ 栄養(水分)指導 ・ 体重,年齢,運動量を把握する ・ 食事摂取基準に気を配る ・ 便秘に対する指導に気を配る ・ 脱水への対応に気を配る(水分摂取量の把握, 間食等) ウ 摂食機能にかかわること ○ 過敏への対応 ・ 過敏部位の把握 ・ 脱感作への継続的な取組み(2) ○ 鼻呼吸の促進 ・ 鼻呼吸の確認(片方の外鼻孔だけでなく両方 とも) ○ 姿勢 ・ 上体を起こした姿勢での食事に気を配る ・ 頭・頸部に緊張が誘発しない全身の姿勢に気 を配る(屈曲優位,左右対称等) ・ 頭部の固定とともに,体幹と首との角度を頸 部筋がリラックスするように姿勢を保つ ・ 多様な補装具を適切に活用する ・ 前傾姿勢に取り組む ・ 体重移動がしやすいよう下半身の安定に気を 配る ・ できるだけ児童生徒の目の位置と同じ高さに なるようにして,前か横に座る ・ 指導が長続きするよう,介助動作に負担が少 ない保持具を活用する(クッション等) ○ 捕食や咀嚼の指導 ・ 口腔顔面領域の感覚-運動不足を補う“口で の遊び”体験を増加する ・ 口腔周辺の拭き取りは口が閉じる方向にする (口の中に食物が入っているときはしない) ・ 口唇閉鎖に気を配る(練習の順番は,最初は捕 食時に口唇を使って食物を取り込む,次に嚥下 時に確実に口唇閉鎖する,最後に食物処理時に も口唇閉鎖する) ・ 顎運動のコントロールに気を配る ・ 一口分の量に気を配る(多過ぎないようにす る) ・ 食物は舌尖部に置く ・ 食物を運ぶときは児童生徒の口の高さと同じ か,それよりも低い位置から水平に持っていく ・ 前歯での食物のかじり取りや小臼歯あたりで の食物の咀嚼への取組み ・ バンゲード方式やガムラビング(3)への取組み ○ 上肢の操作 ・ 下半身の安定を基盤とする ・ 手を使うための体幹や頭部の安定性,姿勢の 対称性に気を配る ・ 食具の操作の前に,手指での直接操作の十分 な体験に気を配る ・ 工夫された食器・食具を積極的に活用する ○ 口腔ケア ・ 口腔の保清に気を配る(食前後の歯磨き等) ・ 口腔の保湿に気を配る(口腔スプレー使用等) ・ 口腔への感覚入力に気を配る エ 生活リズム ・ 休息と活動のメリハリを付ける ・ 覚醒水準の向上に気を配る(多様な姿勢をと る等) オ キャリア教育の視点 ・ 具体的な将来像を描き指導に取り組む(「な

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にを」「どれだけ」食べるかということととも に,「いつ」「どこで」「誰と」「どのように」食 べるかという具体を考える) カ 安全面への配慮 ・ 体調の細かな把握(呼吸状態や投薬量の変化 の把握等) ・ 食べる機能の発達に従った適切な食物形態を 準備する ・ 誤嚥,窒息に気を配る(嚥下しやすい姿勢の 検討等) ・ 緊急時の対応への準備に気を配る

「食べる力」の育成にかかわる指導と他

の学習活動との関連

(1) 「食べる力」の育成にかかわる指導と自立活 動の時間における指導 食に関する指導の手引(平成19年)では,食に関す る指導の目標は,一度の実践や指導で達成される ものではなく,少しずつ時間をかけながら繰り返 し行うことによって理解が深まり,習慣化される ことを述べている。そして,毎日繰り返し行われ る給食の時間における食に関する指導が極めて重 要であるとしている。また,特別支援学校の教育 課程における給食指導の位置付けについては,「毎 日の学校給食を通して,食べ物を噛む,飲み込む などの食べる機能を高めたり,食事をするときの 姿勢や,スプーンやフォーク,食器等の道具の操 作,食器の中のものをはしでつまんだりスプーン ですくうなどの指導を『自立活動の時間における 指導』として位置付ける場合もあります。」27)と述 べている。 肢体不自由者である児童生徒に対する教育を行 う特別支援学校においては,給食指導を自立活動 の時間における指導として,教育課程に位置付け ている事例が複数ある。そして,その教育実践の 成果を Web ページや研修会などで広く公開してい る学校もあり,研究協力校においても,同様な取 組みが見られる。(4) 以上のことから,肢体不自由者である児童生徒 に対する教育を行う特別支援学校において,「食べ る力」の育成にかかわる指導が,自立活動の時間 における指導において取り組まれ,教育実践の成 果につながっていることが分かった。 自立活動とは,特別支援学校の教育課程において 特別に設けられた指導領域であり,教育課程上重要 な位置を占めている。そして,自立活動の指導は, 個々の幼児児童生徒が自立を目指し,障害による学 習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服しよう とする取組みを促す教育活動である。 特別支援学校学習指導要領解説自立活動編(平成 21年)では,「自立活動の指導は,学校の教育活動全 体を通じて行うものであることから,自立活動の時 間における指導と各教科等における指導とが密接な 関連を保つことが必要である。」28)と述べ,学校の教 育活動全体を通じて行う自立活動の指導と自立活動 の時間における指導及び各教科等における指導の関 係性を説明している。 自立活動の時間における指導とは,授業時間を特 設して行う自立活動の指導のことであり,自立活動 の指導の中心となるが,自立活動の指導の全体を占 めるわけではなく,その一部であること,そして, 各教科等の指導においても,密接な関連を図って行 わなければならないことを理解する必要がある。 また,自立活動の時間における指導は,専門的な 知識や技能を有する教師を中心として,全教師の協 力の下に効果的に行われるようにすることが求めら れており,専門性が高く求められる指導であると考 える。 以上のことから,「食べる力」の育成にかかわる 指導が,自立活動の時間における指導において取り 組まれている場合,その指導内容と他の学習活動と の密接な関連が図られる必要があると考える。そし て,指導に当たっては専門性の高さの必要性を意識 するとともに協力体制に基づき,進めることが重要 であると考える。 しかし,これまでの体験を振り返ると,日々多く の時間を費やしている給食指導ではあるが,これを 学習指導として積極的にとらえようとする意識は希 薄であることが多いと考える。 ペンフィールドのホムンクルスと呼ばれている デフォルメされた人間の姿を描いた絵がある。手や 口がとても大きく誇張されて描かれており,手や 唇,舌などからの刺激を脳がとても敏感に受け取る ということ,そして,これらを動かすのにも脳の大 きな部分の働きが必要なこと,を表している。 これを,脳地図で示したのが,ペンフィールドの 脳地図(5)と呼ばれている図であり,大脳皮質の感覚 野と運動野における身体の対応部位を示した図であ る。この図を見ると,手や口からの刺激を受け取っ たり,手や口を動かしたりする部分が,大脳の大き な部分を占めていることが分かる。手は第二の脳と いう言い方もある。手や口の動きは,脳を活性化さ

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せたり,脳機能の発達を促したりするのにとても重 要である。つまり,しっかり手や口を動かす活動は, ひいては,物事をじっくり考えたり,自分の考えを はっきり表現したりする力をはぐくむことにつなが ると考える。 こうした視点からも,給食指導の充実は学習指導 の充実につながると考える。改めて,給食指導を学 習指導として着目する必要性があると考える。 (2) 「食べる力」の育成にかかわる指導と他の学 習活動との関連付け 自立活動の内容は,人間としての基本的な行動を 遂行するために必要な要素と,障害による学習上又 は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素 を検討して,その中の代表的なものを項目として六 つの区分の下に分類・整理され,示されている。指 導に当たっては,幼児児童生徒の実態把握を基に, 項目の中から必要とされるものを選定し,それらを 相互に関連付けて具体的な指導内容を設定すること になる。自立活動の内容を表7に示す。 表7 自立活動の内容 区分 項 目 1 健康の 保持 (1) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。 (2) 病気の状態の理解と生活管理に関すること。 (3) 身体各部の状態の理解と養護に関すること。 (4) 健康状態の維持・改善に関すること。 2 心理的 な安定 (1) 情緒の安定に関すること。 (2) 状況の理解と変化への対応に関すること。 (3) 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服 する意欲に関すること。 3 人間関 係の形 成 (1) 他者とのかかわりの基礎に関すること。 (2) 他者の意図や感情の理解に関すること。 (3) 自己の理解と行動の調整に関すること。 (4) 集団への参加の基礎に関すること。 4 環境の 把握 (1) 保有する感覚の活用に関すること。 (2) 感覚や認知の特性への対応に関すること。 (3) 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。 (4) 感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関 すること。 (5) 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関す ること。 5 身体の 動き (1) 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。 (2) 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関す ること。 (3) 日常生活に必要な基本動作に関すること。 (4) 身体の移動能力に関すること。 (5) 作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。 6 コミュ ニケー ション (1) コミュニケーションの基礎的能力に関すること。 (2) 言語の受容と表出に関すること。 (3) 言語の形成と活用に関すること 。 (4) コミュニケーション手段の選択と活用に関する こと。 (5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること。 食に関する手引き(平成19年)では,自立活動の視 点から食に関する指導を進めるに当たっては,自立 活動の内容との関連を明確にしておくことが大切で あるとし,その例を示している。表8は,その内容 について一部抜粋したものである。29) 表8 食に関する指導の進め方(例) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること 学校給食を通じて,規則正しい食事時間の習慣化と食事内 容(種類・量等)の改善を図るとともに,偏食や異食,過食, 多飲,反芻,嘔吐など食行動・食習慣に関する問題の改善 に取り組む。 情緒の安定に関すること 食欲や食事量は,その時々の気分や感情など心理面の要因 が関与する場合もあることから,学校給食等を通して食事 時の情緒の安定を図るとともに,必要に応じて給食をとる 場所の環境の改善に努める。 保有する感覚の活用に関すること 学校給食を通して,さまざまな食べ物を食すことによって 味覚や嗅覚等を刺激し,味覚,嗅覚等の感覚機能の発達を 促す。 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること 食材の属性や色,形,大きさ,固さ,量,味など,学校給 食等を通して,日常生活に必要な認知や行動の手がかりと なる概念の形成を図る。 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること 学校給食を通して,咀嚼・嚥下等の食べる機能を高めると ともに,食事をとる際の姿勢保持や外界にある物に手を伸 ばす,物をつかむ,つかんだ物を口に運ぶなどの上肢(手 指)の運動・動作の改善及び習得を図るなど,日常生活の 基本となる身体の動きを促進する。 日常生活に必要な基本動作に関すること 学校給食を通して,安定した座位を確保しながら,上肢を 十分に動かせるようにし,食事動作の改善,習得を図る。 また,運動・動作が極めて困難な児童生徒の場合は,食事 介助をする際の姿勢を中心に個々の実態に応じて主体的 に日常生活をしていく上で必要とされる基本動作を身に 付けるようにする。 神林裕子(平成20年)は,学校生活の中の給食のと らえについて,次ページ図4のように提言し,給食 と授業を別の物とせず,関連させて考えることでそ れぞれ良い効果が表れるのではないかと述べている。

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図4 学校生活の中の給食のとらえ方30) 篠原浩美(平成20年)は,肢体不自由者である児童 生徒に対する教育を行う特別支援学校において,高 等部第1学年から第3学年にかけての継続した教育 実践を踏まえて次のように述べている。31) 3年間の変化を最も感じるのは給食の様子である。 給食は,生徒の嗜好や健康を考え,様々な食材が使 われ,大変多くの献立が用意されている。その一方, 家庭では比較的生徒の好むものや食べやすいものが 用意されている場合が多い。そうした意味で,給食 は多くの課題が設定でき生徒の食べる力やコミュニ ケーションを育み,自立活動を主とする教育課程の 生徒にとって指導の大きな柱となると考える。そし て,食べる力をつける学習の細かな積み上げは,多 種多様な要素の学習の充実や発達の促進につながり, ひいては他の学習や生活場面にその成果が般化され ると考える。例えば,『目の前の食物を「見て」,こ れに「手を伸ばし,触れ,掴み,持ち上げ」,食べや すいように「姿勢を自らコントロールし」,口に「運 び」,「噛み」,「味わい」,「飲み込み」,「満足」する。』 といった一連の流れは,目的的で主体的な行動の結 果,達成感を獲得するといったものであり,題材を 変化させると日々の学習に生かしていけると考える。 また,食べる機能の発達は呼吸や嚥下状態の向上に 繋がり,生活の過ごしやすさがもたらされるととも に,口腔機能の向上により言葉の広がりひいてはコ ミュニケーションの広がりが期待できると考える。 以上のことから,自立活動の時間における指導と 他の学習活動との密接な関連が図られる必要がある ことを踏まえ,「食べる力」の育成にかかわる指導と 他の学習活動との関連付けにより,それぞれの学習 効果の高まりが期待されると考える。

食事の在り方に関する意識及び実態

調査

調査の概要

文献研究を踏まえて,表9のように四つの項目立 てを視点に内容を検討し,調査用紙を作成した。そ して,これを基に調査を実施した。調査への回答方 法は,該当する回答内容の選択及び自由記述とした。 表9 実態調査の項目立て及び内容 【児童生徒の基本的情報】 「学年」「診断名」「運動発達」「食事のリズム(保護 者のみ)」 【食事にかかわる具体的な内容】 「姿勢(食事中・食事後)」「姿勢保持具」「食事の仕 方」「自立度」「介助方法」「食物形態」「食事中に食 べにくいときに工夫していること」「食物の準備や 食事に向けた準備,食事で大切にしていること」「食 事に要する時間」「食後に休む時間」 【教職員及び保護者の状況】 「研修の様子(指導者,研修内容,研修頻度,感想 等)」「摂食指導の経験等(教職員)」「悩み(食事及び その他)」「専門家に相談したいこと」「卒業後への 意識」 【給食指導と他の学習活動との関連付け】(教職員 のみ) 実施時期,対象者,回答数は次のとおりである。 ○ 実施時期 平成21年12月 ○ 対 象 者 県内の肢体不自由者である児童生 徒に対する教育を行う特別支援学校 3校である県立広島特別支援学校, 県立西条特別支援学校,県立福山特 別支援学校の教職員及び保護者 ○ 回 答 数 教職員:38人 45事例 保護者:69人 69事例

調査結果の分析及び考察

(1) 児童生徒の基本的情報 ア 診断名 児童生徒の診断名についての記述内容を次ページ 表10に示す。記述内容には複数回答が見られた。

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表10 児童生徒の診断名 教 職 員 脳性まひ,脳質周囲白質軟化症,滑脳症,てんかん, 脳挫傷,筋ジストロフィー,心臓病,ダウン症,視 力障害 等 保 護 者 脳性まひ,脳質周囲白質軟化症,滑脳症,水頭症, てんかん,ウエスト症候群,脳挫傷,ミトコンドリ ア脳筋症,筋ジストロフィー,心臓病,脊髄性筋萎 縮症,二分脊椎,ダウン症,視力障害 等 教職員の記述内容よりも保護者の方が多く診断名 を記述していた。記述内容を詳しく見ると,脳性ま ひの記述の割合については,教職員が60%,保護者 が68%であり最も多かった。てんかんの記述の割合 については,教職員が7%,保護者が26%であり最 も多かった。 これらのことから,児童生徒の基本的な情報共有 が教職員と保護者の間で不十分である可能性が考え られる。 イ 運動発達 児童生徒の学年構成及び運動発達ついての内容を 表11(教職員)と表12(保護者)に示す。また,児童生 徒の運動発達の概要を図5(教職員)と図6(保護者) に示す。 表11 学年構成及び運動発達(教職員) 学年 首 が 座 っ て い な い 座 位 が で き な い 寝 返 り が で き る 座 位 が で き る つか ま り 立 ち 介助 歩 行 歩 け る 小1 (人) 1 小2 (人) 3 1 1 1 1 小3 (人) 1 小4 (人) 1 小5 (人) 4 2 2 小6 (人) 2 1 1 中1 (人) 1 1 1 2 1 中2 (人) 1 1 1 1 中3 (人) 高1 (人) 3 1 1 高2 (人) 2 2 高3 (人) 2 合計 (人) 14 12 4 6 1 2 4 (学年及び運動発達の未記入は除く,空欄は0人を示す) 表12 学年構成及び運動発達(保護者) 学年 首 が 座 っ て い な い 座 位 が で き な い 寝 返 り が で き る 座 位 が で き る つ か ま り 立 ち 介 助 歩 行 歩 け る 小1 (人) 1 2 1 1 小2 (人) 2 1 1 1 2 小3 (人) 4 1 1 小4 (人) 2 1 1 小5 (人) 3 1 1 小6 (人) 1 3 1 2 中1 (人) 1 1 1 中2 (人) 1 1 1 中3 (人) 1 1 1 高1 (人) 3 3 2 2 高2 (人) 2 2 1 2 高3 (人) 2 4 1 合計 (人) 20 12 10 11 10 3 (学年及び運動発達の未記入は除く,空欄は0人を示す) 27% 9% 13% 2% 7% 9% 2% 31% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 首が座っていない 座位ができない 寝返りができる 座位ができる つかまり立ち 介助歩行 歩ける 不明 図5 運動発達の概要(教職員) 29% 17% 14% 16% 1% 14% 4% 3% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 首が座っていない 座位ができない 寝返りができる 座位ができる つかまり立ち 介助歩行 歩ける 不明 図6 運度発達の概要(保護者)

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表11と表12より,運動発達について,低学年の方 が障害の程度が重度であるといった学年に対する何 らかの傾向は見られなかった。図5と図6より,「首 が座っていない」,「座位ができない」,「寝返りがで きる」の回答の合計について,教職員が61%,保護 者が67%であることが分かった。 これらのことから,運動発達の面から全体的とし て障害の重度化の状況が確認できたと考える。ひい ては,「食べる力」を高めるには,全身的な発達を促 す必要が多くある状況であると考える。 ウ 食事のリズム(保護者のみ) 児童生徒の食事のリズムを把握するために,食事 や間食の時間について尋ねた。内容を次に示す。 ○ 3食をおおむね規則正しく食している ○ 学年,運動発達にかかわらず,「間食なし」は 28%, 「間食 1 回」は 46%,「間食2回」は 14%,「間食3回」 は 12%であった ○ 食事の仕方が「経管」,「経管+経口」はおおむね間食 2回以上であった ○ 21:00 以降の間食は,おおむね食事の仕方が「経管」 であった 児童生徒の食事のリズム 児童生徒の3食の食事のリズムはおおむね整っ ていることが分かった。食事の仕方が「経管」,「経 管+経口」の場合,食事の回数が増えるとともに遅 い時間での間食の状況があると考える。また,児童 生徒の多くが間食によって,栄養を補っていると考 える。 (2) 食事にかかわる具体的な内容 ア 食事中,食事後の姿勢と姿勢保持具 児童生徒の姿勢と姿勢保持具についての内容を表 13(食事中)と表14(食事後)に示す。 表13 食事中の児童生徒の姿勢と姿勢保持具 姿勢 姿勢保持具 教 職 員 ○ 「座位」の みは 91% ○ 「 寝 た ま ま」,「抱かれ て」,「複数姿 勢」は概ね「首 が座 っていな い」状態 ○ 「座位保持椅子」か「車椅子」 は 87% ○ 「椅子」か「なし」は,概ね 「介助歩行」か「歩ける」状態 ○ 姿勢に合わせて,複数の保持 具を活用 ○ 「なし」の場合は,「首が座 っていない」状態もある 保 護 者 ○ 「座位」の みは 80% ○ 「 寝 た ま ま」,「抱かれ て」,「複数姿 勢」は概ね「首 が座 っていな い」状態 ○ 「座位保持椅子」か「車椅子」 は 69% ○ 「椅子」か「なし」は,概ね 「介助歩行」か「歩ける」状態 ○ 姿勢に合わせて,複数の保持 具を活用 ○ 「なし」の場合は,「首が座 っていない」状態もある ほとんどの児童生徒が座位で食事をしているこ とが分かった。運動発達の重度化の状況を踏まえる と,姿勢保持具の内容の充実が背景ではないかと考 える。 表14 食事後の児童生徒の姿勢と姿勢保持具 姿勢 姿勢保持具 教 職 員 ○ 「座 位」の みは 47% ○ 「寝たまま」 か「抱かれて」 は 21% ○ 「複数姿勢」 は 33% ○ 「座位保持椅子」か「車椅子」 は 78% ○ 「 な し 」 は 「 歩 け る 」 状 態 ○ 姿勢に合わせて,複数の保持 具を活用 保 護 者 ○ 「座 位」の みは 66% ○ 「寝たまま」 か「抱かれて」 は 16% ○ 「複数姿勢」 は 18% ○ 「座位保持椅子」か「車椅子」 は 70% ○ 「なし」は,概ね「歩ける」 状態 ○ 姿勢に合わせて,複数の保持 具を活用 ○ 「なし」の場合は,「首が座 っていない」状態もある 教職員が保護者より多く「座位」のみ以外の状態 で食休みを取らせていることが分かった。教職員は, 保護者に比べて食事に要する時間を多くとっており, この影響ではないかと考える。 イ 運動発達と食事の仕方 児童生徒の運動発達と食事の仕方についての内容 を表15(教職員)と次ページの表16(保護者)に示す。 表15 運動発達と食事の仕方(教職員) 運動発達 人数 経管 経 管 + 経口 経口 首が座っていない 14 人 14% 50% 36% 座位ができない 12 人 25% 75% 寝返りができる 4 人 100% 座位ができる 6 人 17% 17% 67% つかまり立ち 1 人 100% 介助歩行 3 人 100% 歩ける 4 人 100% 不明 1 人 100% 合計 45 人 7% 24% 69% 全体に占める割合 (空欄は0%を示す)

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表16 運動発達と食事の仕方(保護者) 運動発達 人数 経管 経 管 + 経口 経口 首が座っていない 20 人 15% 25% 60% 座位ができない 12 人 25% 75% 寝返りができる 10 人 10% 90% 座位ができる 11 人 9% 9% 82% つかまり立ち 1 人 100% 介助歩行 10 人 100% 歩ける 3 人 100% 不明 2 人 100% 合計 69 人 7% 13% 80% 全体に占める割合 (空欄は0%を示す) 運動発達にしたがって,経口摂取に移行している ことが分かった。しかし,教職員と保護者では「首 が座っていない」状態での経口摂取に差があること が分かった。 ウ 運動発達と食事の自立度 児童生徒の運動発達と食事の自立度ついての内 容を表17(教職員)と表18(保護者)に示す。 表17 運動発達と自立度(教職員) 運動発達 人 数 全 介 助 手 づ か み 食 べ + 介 助 食 器 ・ 食 具 食 べ + 介 助 汚 す が 自 食 上 手 に 自 食 そ の 他 首が座っ ていない 14 人 100% 座位がで きない 12 人 100% 寝返りが できる 4 人 50% 25% 25% 座位がで きる 6 人 67% 17% 17% つかまり 立ち 1 人 100% 介助歩行 3 人 33% 33% 33% 歩ける 4 人 25% 75% 不明 1 人 100% 合計 45 人 73% 4% 7% 9% 7% 全体に占める割合 (空欄は0%を示す) 表18 運動発達と自立度(保護者) 運動発達 人 数 全 介 助 手 づ か み 食 べ + 介 助 食 器 ・ 食 具 食 べ + 介 助 汚 す が 自 食 上 手 に 自 食 そ の 他 首が座っ ていない 20 人 100% 座位がで きない 12 人 100% 寝返りが できる 10 人 70% 20% 10% 9% 座位がで きる 11 人 27% 18% 18% 27% つかまり 立ち 1 人 100% 40% 介助歩行 10 人 10% 30% 20% 33% 歩ける 3 人 33% 33% 不明 2 人 100% 合計 69 人 62% 3% 12% 14% 9% 全体に占める割合 (空欄は0%を示す) 運動発達にしたがって,食事の自立度が高くなっ ていることが分かった。教職員,保護者ともに同様 の内容であった。 エ 運動発達と食物形態 児童生徒の運動発達と食物形態についての内容 を表19(教職員)と次ページの表20(保護者)に示す。 表19 運動発達と食物形態(教職員) 運動発達 人 数 流動 ドロ ド ロ ベ タ ベ タ 軟 食 小き ざ み 粗 き ざ み 少 し 軟 ら か 一 口 大 普 通 その 他 首が座って いない(人) 14 8 5 1 1 2 2 1 1 1 座位ができ ない (人) 12 1 3 3 1 2 1 2 寝返りがで きる (人) 4 1 1 1 1 座位ができ る (人) 6 1 1 3 1 1 1 つかまり立 ち (人) 1 1 介助歩行 (人) 3 1 2 歩ける(人) 4 2 2 不明 (人) 1 1 1 合計 (人) 45 10 8 5 4 9 3 1 8 6 2 (回答内容は複数回答,空欄は 0 人を示す)

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表20 運動発達と食物形態(保護者) 運動発達 人 数 流 動 ド ロ ド ロ ベ タ ベ タ 軟 食 小 き ざ み 粗 き ざ み 少 し 軟 ら か 一 口 大 普 通 そ の 他 首が座って いない(人) 20 5 4 6 3 3 1 1 2 1 2 座位ができ ない (人) 12 1 2 1 2 3 2 1 3 寝返りがで きる (人) 10 1 1 2 3 3 1 2 6 2 座位ができ る (人) 11 1 1 5 7 1 つかまり立 ち (人) 1 1 介助歩行 (人) 10 1 1 1 4 8 歩ける(人) 3 1 2 不明 (人) 2 1 合計 (人) 69 8 7 7 7 10 8 4 15 27 5 (回答内容は複数回答,空欄は 0 人を示す) 運動発達にしたがって,口腔内での処理がより複 雑になる食物形態へと移行していた。しかし,内容 を更に詳しく見ると,運動発達が初期の状態と考え られる児童生徒においても多様な食物形態で摂取し ていることが分かった。 オ 食事に要する時間 児童生徒の食事に要する時間についての内容を表 21に示す。この内容は,児童生徒の食事における疲 労度の把握につながる内容であると考える。 表21 児童生徒の食事に要する時間 教職員 保護者 15分まで: 2% 30分まで:16% 45分まで:40% 60分まで:37% 90分まで: 5% 15分まで: 3% 30分まで:33% 45分まで:39% 60分まで:17% 90分まで: 7% 教職員,保護者ともに60分までが90%以上であっ た。しかし,30分と60分で数値が逆転している。理 由を探る必要があるのではないかと考える。例えば, 学習活動と生活の一部といった教職員と保護者の食 事に対する意識の違い,児童生徒にとって緊張する 空間とリラックスする空間の違い,保護者の補食に 対する考え方の影響等が理由として考えられる。教 職員の方が保護者よりも食事に要する時間が長い傾 向であることが分かった。 カ 食後に休む時間 児童生徒の食後に休む時間についての内容を表22 に示す。 表22 児童生徒の食事に休む時間 教職員 保護者 休まない:16% 15分まで:20% 30分まで:52% 45分まで: 5% 60分まで: 7% 90分まで: 0% 休まない:33% 15分まで:11% 30分まで:42% 45分まで: 0% 60分まで: 6% 90分まで: 2% 90分以上: 3% 決めていない:3% 保護者の方が教職員より食後に休まない状況であ った。食事に要する時間の影響があると考える。ま た,保護者の中には長時間の食後の休みをとってい る事例があることが分かった。 キ 食事中に食べにくいときに工夫していること 食事中に食べにくいときに工夫していることの 概要は教職員,保護者ともに次のようであった。 ○ 食環境にかかわること ・ 言葉かけ ・ 楽しい雰囲気づくり ○ 食内容にかかわること ・ 食物形態の調整(大きさ,固さ,粘度) ・ 一口量の調整 ・ 好きな食べ物の活用 ○ 摂食機能にかかわること ・ 姿勢の調整 ・ 筋緊張への対応 ・ 口腔等への刺激 ・ 介助する部位の変更 ○ 安全面への配慮 食事中に食べにくいときに工夫していることの概要 教職員及び保護者の具体的な記述内容の一部を次 に示す。 ○ 食環境にかかわること ・ コミュニケーション ・ 表情を見る ○ 食内容にかかわること ・ 食材の固さなどに応じて,食形態の調整をする ・ とろみを付ける ・ ご飯を練り,一口大に切る ・ なめらかさ,水分量を食べやすいようにしている

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○ 摂食機能にかかわること ・ 微妙な椅子の角度の調整をする ・ 口唇のサポート ・ あごを少し動かす ・ 奥歯の上に食べ物を置き,しっかり噛めるように する ・ スプーンを曲げてスポンジを付けている,そのス プーンを使うとほとんど自食 ・ 滑り止めクロス,自助食器,滑り止めスプーン, カットしたコップ ○ 安全面への配慮 ・ 痰が絡んでくると,口の中の食べ物を出し,姿勢を 変えて排痰し,それから食べ始める ・ 経管栄養が基本,体調が合わないときは経口の味見 は中止している ・ 無理をしない 食事中に食べにくいときに工夫していること(教職員) ○ 食環境にかかわること ・ しっかり噛むよう常に言葉をかける ・ 温度,楽しい雰囲気作り,音楽の利用 ・ 本人の気持ちを尊重して,もう沢山で食べたくな いのか,食べたいけど食べられないのか,気を付けて, まずそれを大切にしている。単に食べにくい時は,姿 勢や首の状況,角度等々,味付けなども,もう一度確 認する。親の気分もゆったりを心がける ○ 食内容にかかわること ・ とろみの調整,白湯やスープなどで固さを調整 ・ 好きな物から与える ・ 形態を変えてみる ・ 食べやすい大きさにして出す ・ パサパサのものについては,まとまりを付けるた めご飯と一緒にマヨネーズを使用したりまとまりや すくする ○ 摂食機能にかかわること ・ 首の後ろを介助する(緊張を取る ・ 姿勢。疲れると顎や肩が上がってしまうので,ネ ックレストをする時もある ・ できるだけ,ひとまとめになるようにし,奥歯の 上の方に入れてやるようにしている ・ 口の中に入れる量を少なくする ・ 口の中の刺激,口の周り,のど,あご周りの刺激 ・ スープ等はコップを使って(ストローを使う時もあ る)飲んでいる ・ 食べ物を容器の中央部にまとめてやる ○ 安全面への配慮 ・ どうしても食べれない時は食べやすいおやつなど に切り替える 食事中に食べにくいときに工夫していること(保護者) 教職員,保護者ともに,児童生徒の実態に応じて 丁寧で多様な対応をしていることが分かった。こう した具体的な内容を知ることは,今後の指導・支援 の充実につながると考える。 ク 食物の準備や食事に向けた準備,食事で大切 にしていること 食物の準備や食事に向けた準備,食事で大切にし ていることを尋ねた。表23に教職員と保護者の回答 の様子を示す。 表23 教職員と保護者の回答の様子 回答項目数と割合 教職員 0個:17% 1個:10% 2個:7% 3個:10% 4個:17% 5個以上:38% 保護者 0個:4% 1個:7% 2個:16% 3個:11% 4個:11% 5個以上:51% 教職員よりも保護者の方が,回答項目数が多いこ とが分かった。 表24に,食物の準備や食事に向けた準備,食事で 大切にしていることの内容の概要を示す。 表24 準備や食事で大切にしていることの概要 教職員 保護者 ○ 言葉かけ ○ あいさつ ○ 雰囲気づくり ○ 主体性・意欲・本人の ペース ○ リラックス ○ 姿勢の調整 ○ 食物形態の調整 ○ 口腔機能の向上 ○ 安全・衛生 ○ 完食 等 ○ 言葉かけ ○ あいさつ ○ 雰囲気づくり ○ 家族の団らん ○ 主体性・意欲・本人の ペース ○ リラックス ○ 姿勢の調整 ○ 食物形態の調整 ○ 食物の準備(好きな物, 温度,バランス等) ○ 食べる順番 ○ 口腔機能の向上 ○ 安全 ○ 食事時間 等 ( は,教職員と保護者で異なる回答内容を示す) 教職員と保護者で異なる回答内容があることが分 かった。 教職員及び保護者の具体的な記述内容の一部を 次ページに示す。

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○ 食環境にかかわること ・ リラックスする(心理的にゆったりと楽しく食べら れるように) ・ 二つ位メニューを見て食べたい物を選ばせる ・ すべて目の前にメニューを置くのではなく,食べ ている物だけ前に置く ・ 朝の会でメニューの写真カードを見る ○ 食内容にかかわること ・ 水分の多いものは必ずとろみを付ける ・ 固さの調整をする ○ 摂食機能にかかわること ・ 姿勢(体幹保持,首の角度,テーブルの調整など) ・ 唇をしっかりと閉じ,よく噛んで食べること ・ パンは握らせるようにする ・ 飲み込みの様子を見ながら量や口に運ぶ速さを調 整する ・ 注入速度を適宜調整する ・ 食器・食具のフィッティング ・ 食前の口腔ケア(歯磨き) ○ 生活リズム ・ 覚醒状態にする ○ 安全面への配慮 ・ あまり時間をかけ過ぎると座っておくのがしんど くなるので,後半は教師が主導で食事をとる ・ 排痰をしっかりしておく ・ 衛生面に気を付ける 準備や食事で大切にしていること内容(教職員) ○ 食環境にかかわること ・ なるべく夕食は家族揃ってとる ・ 自分で手を合わせて「いただきます」するまで待つ ・ 熱いね,冷たいね,甘いね,辛いね,などといいな がら食べるようにしている ・ バランスの良い,目で何があるか分かるように量や 色合いをセッティング ○ 食内容にかかわること ・ 好きな物を食べられるだけ食べさせる ・ 好きな物だけを食べさせない ・ 水分,塩分が不足しないように(電解質が不足しな いように言われている) ○ 摂食機能にかかわること ・ 姿勢に気を付けて食べさせるようにする ・ 喉を見て飲み込むタイミングを見たり,口の中を 見て,なくなったのを確認して,次を入れる ・ 咀嚼の練習のため,軟らかい固形の野菜を用意 ・ 使いやすい(食器,フォーク,スプーン)を用意する ・ 出来る時は食事前にも歯磨きする(消毒や口腔マッ サージ) ○ 生活リズム ・ なるべく決まった時間に食事をとる ○ 安全面への配慮 ・ 長くとも,60分以内で終了…長時間座っているのは しんどいので,多分 準備や食事で大切にしていること内容(保護者) 教職員はスキル面に着目した内容を,保護者は生 活全体をとらえた内容を回答していると考えられる。 家庭によって大切にしている内容は異なり,指導に 当たっては細かな実態把握が大切であると考える。 (3) 教職員及び保護者の状況 ア 研修の様子(指導者,研修内容,研修頻度, 感想等)及び摂食指導の経験等(教職員) 研修の様子及び摂食指導の経験等(教職員)につ いて,表25,表26,表27に示す。 表25 研修の概要 教 職 員 92%が「経験がある」。91%が摂食指導を始めて5年 以内に研修を受けている(57%が1年目に研修)。摂食 指導の経験年数は1~6年が76%,7~12年が19%, 12年以上が5%。 「内容に納得」は89%。納得でも,その後の指導で苦 労している事例はある。納得し,児童生徒の指導内容 に十分生かしている事例もある。研修回数は数回が大 多数。 「経験がない」のうち,何らかの「悩みがある」が67%。 保 護 者 75%が「経験がある」。就学前に92%が経験。中学部, 高等部から研修受ける事例もある。 「内容に納得」は88%。納得でも,その後の食事で苦 労している事例がある。納得し,子どもの成長の実感 が得られた事例もある。研修回数は1回もあれば,数 え切れないもあり多様。 「経験がない」のうち,「全介助」が41%,何らかの 「悩みがある」が53%。 表26 研修の指導者 教 職 員 理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,教員が主。 学校や療育センターが主な研修場所。自主研修とし て校外の研修に参加している事例もある。 保 護 者 理学療法士,作業療法士,言語聴覚士に加え,歯科 医師,栄養士,保育士が多くなる。教員から研修を 受けている事例もある。 (回答内容は複数回答) 表27 研修の内容 教 職 員 食べさせ方:89%,飲ませ方:69%,食べ物の形や 固さ:69%,食べさせるときの姿勢:86%,食器・ 食具の選び方:29%,口腔ケア:40%,栄養指導: 0%,過敏取り:17%,食べる機能の発達の見方: 20%,その他0% 保 護 者 食べさせ方:87%,飲ませ方:58%,食べ物の形や 固さ:62%,食べさせるときの姿勢:83%,食器・ 食具の選び方:50%,口腔ケア:48%,栄養指導: 40%,過敏取り:21%,食べる機能の発達の見方: 29%,その他2% (回答内容は複数回答)

参照

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