国立国語研究所 日本語疑問文の通時的 対照言語学的研究 第 2 回研究発表会資料 吉村大樹 トルコ語の疑問文 日本語との対照的研究にむけて * 吉村大樹 0. はじめに トルコ語と日本語は形態論 統語論的にきわめて類似した構造をしている 疑問文の構造 ( とりわけ yes-no 疑問文の構造 ):

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全文

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国立国語研究所「日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究」第 2 回研究発表会資料 吉村大樹 1/8

ト ル コ 語 の 疑問 文 ― 日 本 語と の 対 照 的 研究 に む け て ―

吉 村 大 樹*

0. は じ め に

 ト ル コ 語 と 日 本 語 は 形 態 論 ・ 統 語 論 的 に き わ め て 類 似 し た 構 造 を し て い る  疑 問 文 の 構 造( と り わ け yes-no 疑 問 文 の 構 造 ):ト ル コ 語 に は 様 々 に 日 本 語 と は 異 な る 現 象 が 観 察 さ れ る  ト ル コ 語 に は 疑 問 接 語 が 文 中 に 生 起 す る こ と が あ り 、日 本 語 の「 か 」と 比 較 し て か な り の 程 度 に 自 由 で あ る  WH 疑 問 文 で は 、( エ コ ー 疑 問 文 を 除 い て ) WH 詞 と 疑 問 接 語 は 共 起 し な い  本 発 表 で は 音 韻 ・ 形 態 、 統 語 、 意 味 の 各 レ ヴ ェ ル か ら ト ル コ 語 に お け る 疑 問 文 の ふ る ま い に つ い て の 特 徴 を ま と め 、 日 本 語 疑 問 文 と の 対 照 研 究 に お け る 問 題 点 を 整 理 す る

1. 現 代 ト ル コ 語 の 概 略

 チ ュ ル ク 諸 語 南 西 語 群 ( ア ゼ ル バ イ ジ ャ ン 語 、 ト ル ク メ ン 語 等 )  母 音 調 和 効 果:接 辞 等 の 膠 着 時 、直 前 の 音 節 の 音 韻 的 特 徴([ ±前 舌 ][ ±円 唇 ][ ±高 低 ]) に 調 和 す る

(1) a. gün-ler / kitap-lar ( /e//a/の 対 立 ) 日 -複 本 -複

「 日 々 」「( 複 数 冊 の ) 本 」

b. ben-im ad-ım /ev-im /göz-üm /kol-um ( /ɨ//i//y//u/の 対 立 ) 私 -属 格 名 前 -1 単 家 -1 単 目 -1 単 腕 -1 単 「 私 の 名 前 / 家 / 目 / 腕 」  形 態 論 : 典 型 的 な 膠 着 型 言 語 、 接 辞 の 膠 着 は 派 生 < 屈 折 < 接 語 の 順 が 一 般 的 (2) Çeko-slavak ya-lı-laş-tır-a-ma-dık-lar-ımız-dan mı-sınız? チ ェ コ ス ロ ヴ ァ キ ア -J 派 生 -V 派 生 -使 役 -不 可 能 -否 定 -分 詞 -複 数 -1 単 -奪 格 Q-2 単 「( あ な た は ) わ れ わ れ が チ ェ コ ス ロ ヴ ァ キ ア 人 化 で き な か っ た う ち の 一 人 で す か ? 」 ※ 疑 問 接 語 と 直 前 の 部 分 と は 正 書 法 の 上 で は 分 か ち 書 き す る が 、 母 音 調 和 効 果 は 保 持 さ れ て い る  主 要 部 ・ 依 存 語 の 二 重 標 示 言 語 (3) çocuğ-un baba-sı 子 ど も -属 格 父 -3 単 「( そ の ) 子 ど も の 父 親 」  語 順 : 依 存 語 < 主 要 部 ( 強 い 主 要 部 後 置 傾 向 ) (4) a. sevimli çocuk (Adj. + N)

か わ い ら し い 子 ど も 「 か わ い ら し い 子 ど も 」 b. çok pahalı (Adv. + Adj.) と て も 高 価 な

「 と て も 高 価 な 」

c. Ben Japonca-yla uğraş-ıyor-um (N(subj.) + N (comp.) + V) 私 ( 主 格 ) 日 本 語 -具 格 関 わ る -進 行 -1 単

*

(2)

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「( 私 は ) 日 本 語 に 関 わ っ て い ま す ( 日 本 語 を や っ て い ま す )」

 従 属 節 : 従 属 節 の 動 詞 は 「 準 動 詞 化 」 す る パ タ ー ン が 支 配 的 、 主 節 の 述 語 に 先 行 (5) (Göksel and Kerslake 2005: 90 -1)

a. [Sorun yarata -acağı] belli. 問 題 生 み 出 す -未 来 明 ら か な

「( 彼 / 彼 女 が ) 問 題 を 起 こ す で あ ろ う こ と は 明 ら か だ 」 b. [Sorun yarat-an] kuruluş-lar uyar-ıl-dı.

問 題 生 み 出 す -分 詞 組 織 -複 警 告 す る -受 身 -過 去 「 問 題 を 起 こ し た 組 織 は 警 告 を 受 け た 」

c. [Sorun yarat-maktansa] sonuç-lar-ı kabullen-di. 問 題 生 み 出 す -副 動 詞 形 結 果 -複 -対 格 受 け 入 れ る -過 去

「 問 題 を 起 こ す こ と を 選 ば ず 、( 彼 / 彼 女 は )( そ の ) 結 果 を 受 け 入 れ た 」

2. ト ル コ 語 の 疑 問 文

2.1 yes-no 疑 問 文

2.1.1 文 末 ( 動 詞 複 合 形 式 内 部 ) に 疑 問 接 語 が 生 起 す る 場 合

 疑 問 接 語 mI(mi, mı, mü, mu)の 生 起 。 yes-no 疑 問 文 は mI を 生 起 さ せ る こ と で 明 示 す る1

(6) Sen yarın İstanbul-a gid-ecek mi-sin? 君 明 日 イ ス タ ン ブ ル -与 格 行 く -未 来 Q-2 単 「 君 は 明 日 イ ス タ ン ブ ル に 行 く 予 定 で す か ? 」

 動 詞 の 時 制 / ア ス ペ ク ト ( / ム ー ド ) の 種 類 に よ り 、 人 称 語 尾 形 式 と の 相 対 的 位 置 が 異 な る

(7) a. Sen geçen hafta İstanbul-a git-ti-n mi? /*git-ti mi-n?

君 先 週 イ ス タ ン ブ ル -与 格 行 く -過 去 -2 単 Q /行 く -過 去 -Q-2 単 「 君 は 先 週 イ ス タ ン ブ ル に 行 っ た の ? 」

b. Sen her sabah kahvaltı yap-ıyor mu-sun? /*yap-ıyor-sun mu? 君 毎 朝 朝 食 す る -進 行 Q-2 単 / す る -進 行 -2 単 Q 「 君 は 毎 朝 朝 食 を と っ て い ま す か ? 」

 過 去 形 ・ 仮 定 形 の 場 合 は [ 人 称 語 尾 < 疑 問 接 語 ]、 未 来 形 、 現 在 進 行 形 等 の 場 合 は [ 疑 問 接 語 < 人 称 語 尾 ]

 z 系 列 の 人 称 語 尾 は 接 語 代 名 詞 (pronominal clitic)、 そ の 他 の 系 列 の 人 称 語 尾 は 屈 折 接 辞 (inflectional suffix)(cf. Good and Yu 2005)

系 列 / 人 称 ・ 数 k 系 列 z 系 列 希 求 法 命 令 法

1 人 称 単 数 -m -(y)Im -(y)EyIm --

2 人 称 単 数 -n -sIn -(y)EsIn (null), -sEnE (familiar)

-(y)In, -(y)InIz, -sEnIzE (formal)

3 人 称 単 数 -- -- -sIn -sIn

1 人 称 複 数 -k -(y)Iz -(y)ElIm --

2 人 称 複 数 -nIz -sInIz -(y)EsInIz -(y)InIz

3 人 称 複 数 -lEr -lEr -sInlEr -sInlEr

表 1: ト ル コ 語 に お け る 人 称 語 尾 の 系 列  複 合 動 詞 時 制 の 場 合 : TAM 接 辞 1< Q < 助 動 詞 < TAM 接 辞 2 < 一 致 ( 人 称 ) 1 以 下 、 疑 問 接 語 の 代 表 形 と し て mI と い う 表 記 を 用 い る こ と に す る 。 こ の 形 式 の 母 音 部 分 は 、 直 前 の 語 の 最 終 音 節 の 音 韻 的 特 徴 ([ ±前 舌 ][ ±円 唇 ]) に よ っ て 決 定 さ れ る 。

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3/8 (8) a. git-ti-y-di-m

行 く -過 去 -助 動 詞 -過 去 -1 単

「( そ の 時 ) 私 は も う 行 っ て し ま っ て い た 」 b. git-ti mi-y-di-n? / *git-ti-y-di-n mi?

行 く -過 去 Q-助 動 詞 -過 去 -2 単 / 行 く -過 去 -助 動 詞 -過 去 -2 単 Q 「( そ の 時 ) 君 は も う 行 っ て し ま っ て い た の ? 」

2.1.2 文 中 に 生 起 す る ト ル コ 語 の 疑 問 接 語

 mI は 文 末 だ け で な く 、文 中 に も 生 起 す る : フ ォ ー カ ス の 限 定 、話 し 手 が 特 定 の 要 素 だ け を 聞 き 手 に 質 問 し た い と き に 用 い る

(9) a. Ali kitab-ı Ayşe-ye ver-di mi? ア リ 本 -対 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -過 去 Q 「 ア リ は ( そ の ) 本 を ア イ シ ェ に あ げ た の ? 」

b. Ali kitab-ı Ayşe-ye mi ver-di?

ア リ 本 -対 格 ア イ シ ェ -与 格 -Q 与 え る -過 去 Q 「 ア リ は そ の 本 を ア イ シ ェ に あ げ た の ? 」

c. Ali kitab-ı mı Ayşe-ye ver-di?

ア リ 本 -対 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -過 去 Q 「 ア リ は そ の 本 を ア イ シ ェ に あ げ た の ? 」

d. Ali mi kitab-ı Ayşe-ye ver-di

ア リ -Q 本 -対 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -過 去 「 ア リ が ( そ の ) 本 を ア イ シ ェ に あ げ た の ? 」 ※ 報 告 者 が 知 る 限 り 、 他 の チ ュ ル ク 諸 語 で は 文 中 へ の 疑 問 接 語 の 生 起 は 見 ら れ な い と 言 わ れ て い る 。 疑 問 接 語 は 文 末 ( 述 語 部 分 ) に の み 生 起 し 、 特 定 の 構 成 素 に 韻 律 的 な フ ォ ー カ ス を 与 え る ( e.g. ウ ズ ベ ク 語 )  yes-no 疑 問 の ( 疑 似 ) 分 裂 文 に よ る 表 現 は 、 埋 め 込 み 節 と 主 節 述 語 名 詞 の 間 に ポ ー ズ を 置 く こ と で 一 応 可 能2→ mI の 文 中 生 起 と ど ち ら が よ り 多 用 さ れ て い る か ?3

(10) a. Ali-nin kitab-ı ver-diğ-i, Ayşe mi? / *Ayşe-ye mi?

ア リ -属 格 本 -対 格 与 え る -分 詞 -3 単 ア イ シ ェ Q / ア イ シ ェ -与 格 Q 「 ア リ が 本 を あ げ た の は ア イ シ ェ で す か ? 」

a’. Ali-nin kitab-ı ver-diğ-i kişi Ayşe mi? ア リ -属 格 本 -対 格 与 え る -分 詞 -3 単 人 ア イ シ ェ Q 「 ア リ が 本 を あ げ た 人 は ア イ シ ェ で す か ? 」

b. Ali-nin Ayşe-ye ver-diğ-i, kitap mı? ア リ -属 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -分 詞 -3sg 本 Q 「 ア リ が ア イ シ ェ に あ げ た の は 本 で す か ? 」

b’. Ali-nin Ayşe-ye ver-diğ-i şey kitap mı? ア リ -属 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -分 詞 -3 単 も の 本 Q 「 ア リ が ア イ シ ェ に あ げ た の は 本 で す か ? 」

b’’. *Ali-nin Ayşe-ye ver-diğ-i şey kitab-ı mı? ア リ -属 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -分 詞 -3 単 も の 本 -対 格 Q ( 意 図 し た 読 み :「 ア リ が ア イ シ ェ に あ げ た の は 本 を で す か ? 」) 2 (10)の 例 文 を 判 断 し て く だ さ っ た ト ル コ 語 イ ン フ ォ ー マ ン ト A 氏 ( 匿 名 : 男 性 ) に 謝 意 を 表 す る 。 3 ト ル コ 語 に は it や there な ど の 虚 辞 が 存 在 し な い た め 、 (10)に 挙 げ ら れ た も の も 含 め た あ く ま で 疑 似 分 裂 文 で あ る と Kornfilt (1997: 192-3)で 指 摘 さ れ て い る 。

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c. Kitab-ı Ayşe-ye ver-en? ?(,) Ali mi? 本 -対 格 ア イ シ ェ -与 格 与 え る -分 詞 ア リ Q 「( そ の ) 本 を ア イ シ ェ に あ げ た の は ア リ で す か ? 」

 疑 問 接 語 は 複 文 の 内 部 に も 生 起 可 能 (e.g. (11b)): 疑 問 の ス コ ー プ の 広 さ は ? (11) a. Aynur [Zehra-yla buluş-tuk-tan sonra] mı çocuk-lar-ı

ア イ ヌ ル ゼ フ ラ -共 格 会 う -分 詞 -奪 格 後 Q 子 ど も -複 数 -対 格 okul-dan al-dı?

学 校 -奪 格 得 る -過 去

「 ア イ ヌ ル は ゼ フ ラ と 会 っ て か ら 子 供 た ち を 学 校 で 拾 っ た の で す か ? 」 b. Aynur [Zehra-yla mı buluş-tuk-tan sonra] çocuk-lar-ı

ア イ ヌ ル ゼ フ ラ -共 格 Q 会 う -分 詞 -奪 格 後 子 ど も -複 数 -対 格 okul-dan al-dı?

school-Abl pick-up-Past:3sg 学 校 -奪 格 得 る -過 去

「 ア イ ヌ ル は ゼ フ ラ と 会 っ て か ら 子 供 た ち を 学 校 で 拾 っ た の で す か ? 」

(Göksel and Kerslake 2005:293)  疑 問 の ス コ ー プ が 従 属 節 内 部 の み の 場 合 (cf. Hayasi 1984)

(12) a. [Fatma-nın İstanbul-a gid-ip git-me-diğ-i]-ni bil-mi-yor-um. Fatma-Gen Istanbul-Dat go-Ger go-Neg-Opc-3sg-Acc know-Neg-Prog-1sg 「 フ ァ ト マ が イ ス タ ン ブ ル に 行 っ た か ど う か 、 私 は 知 ら な い 」

b. [Fatma İstanbul-a git-ti mi] bil-mi-yor-um. Fatma-Nom Istanbul-Dat go-Def. Past Q know-Neg-Prog-1sg 「 フ ァ ト マ が イ ス タ ン ブ ル に 行 っ た か 、 私 は 知 ら な い 」

c. [Fatma İstanbul-a git-ti mi git-me-di mi] フ ァ ト マ イ ス タ ン ブ ル -与 格 行 く -過 去 Q 行 く -否 定 -過 去 Q bil-mi-yor-um. 知 る -否 定 -進 行 -1 単 「 フ ァ ト マ が イ ス タ ン ブ ル に 行 っ た か 行 か な か っ た か 、 私 は 知 ら な い 」  (11)(12): 疑 問 の ス コ ー プ の 問 題 。 ス コ ー プ が 従 属 節 内 部 の み か 、 文 全 体 に か か る か  従 属 節 内 部 に 疑 問 接 語 が 生 起 し つ つ 、 ス コ ー プ が 文 全 体 に わ た る 場 合 と 従 属 節 の み に と ど ま る 場 合 と が あ る 。 統 語 構 造 は 互 い に 異 な っ て い る か ? 異 な る と す れ ば ど の よ う に 記 述 す る の が よ い か ?

2.2 WH 疑 問 文

 WH 詞:ne「 何 」、kim「 誰 」、ne zaman「 い つ 」、nerede「 ど こ で 」、nasıl「 ど の よ う に 」、 hangi「 ど の 」、 kaç「 い く つ 」 等

 WH-in-situ: 「 WH 詞 は 元 位 置 に と ど ま る 」。す な わ ち 、文 頭 に 生 起 す る な ど の 統 語 的 操 作 は 義 務 的 で な い

(13) a. Sen ne iç-er-sin (*mi)? 2 単 何 飲 む -中 立 -2 単 (Q) 「 君 は 何 を 飲 み ま す か ? 」

b. Kim İstanbul-a gid-ecek? 誰 イ ス タ ン ブ ル -与 格 行 く -未 来 「 誰 が イ ス タ ン ブ ル に 行 く 予 定 で す か ? 」

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c. Serkan ne zaman geri dön-dü? セ ル カ ン 何 時 戻 っ て 帰 る -過 去 「 セ ル カ ン は い つ 戻 っ て き た の ? 」

d. Pardon, Osaka Üniversite-si nere-de? 失 礼 大 阪 大 学 -3 単 ど こ -位 格 「 す み ま せ ん 、 大 阪 大 学 は ど こ で す か ? 」

e. Semra-nın ev-i-ne nasıl gid-il-iyor? セ ム ラ -属 格 家 -3 単 -与 格 ど の よ う に 行 く -受 身 -進 行

「 セ ム ラ の 家 に は ど う や っ て 行 き ま す か ? 」 (Göksel and Kerslake 2005: 303) f. Sınıf-ta kaç kişi var?

教 室 -位 格 い く つ 人 い る 「 教 室 に は 何 人 い ま す か ? 」  WH 疑 問 文 で は ,WH 詞 と 疑 問 接 語 は 共 起 し な い  共 起 す る 場 合 、 疑 問 接 語 は WH 詞 の 直 後 ( ま た は WH 詞 が 述 語 の 直 接 的 な 構 成 素 で な い 場 合 は 、そ の 構 成 素 の 主 要 部 の 直 後 )に 生 起 し 、文 の 読 み は エ コ ー 疑 問 文 と し て し か 解 釈 さ れ な い (Kornfilt 1997)

(14) Kim Türk? / *Kim Türk mü? / Kim mi Türk? 誰 ト ル コ 人 誰 ト ル コ 人 Q 誰 Q ト ル コ 人

「 誰 が ト ル コ 人 な の ? 」 / 「 誰 が ト ル コ 人 か っ て ( 言 っ た の か ) ? 」

 ( 疑 似 ) 分 裂 文 に よ る WH 疑 問 文 は 一 応 存 在 す る 。 た だ し 、 yes/no 疑 問 文 の 場 合 と 同 様 、 必 須 の 統 語 的 操 作 で は な い

(15) a. Dün sinema-ya gid-en, kim-di? (Kornfilt 1997: 29) 昨 日 映 画 館 -与 格 行 く -分 詞 誰 -過 去

「 昨 日 映 画 館 に 行 っ た の は 誰 で す か ? 」 b. Kim dün sinema-ya git-ti? 誰 昨 日 映 画 館 -与 格 行 く -過 去 「 誰 が 昨 日 映 画 館 に 行 っ た の で す か ? 」

c. Ahmed-in dün sinema-da gör-dük-leri, kim-(ler)-di? ア フ メ ト -属 格 昨 日 映 画 館 -位 格 見 る -分 詞 -3 複 誰 -( 複 数 ) -過 去

「 ア フ メ ト が 昨 日 映 画 館 で 見 た の は 誰 ( と 誰 ) で し た か ? 」 (Kornfilt 1997: 29) d. Ahmet dün sinema-da kim-(ler)-i gör-dü?

ア フ メ ト 昨 日 映 画 館 -位 格 誰 -( 複 数 ) -対 格 見 る -過 去 「 ア フ メ ト は 昨 日 映 画 館 で 誰 を 見 ま し た か ? 」

 複 文 に お け る WH 詞 の ス コ ー プ

(16) a. Ali [ne-yi Ayşe-nin oku-duğ-u]-nu bil-mi-yor-muş.

ア リ 何 -対 格 ア イ シ ェ -属 格 読 む -分 詞 -3 単 -対 格 知 る -否 定 -進 行 -不 定 過 去 「 ア リ は 何 を ア イ シ ェ が 読 ん だ か 知 ら な い ら し い 」 (Uzun 2000: 311)

b. Ne-yi [Ali Ayşe’nin oku-duğ-u]-nu bil-mi-yor-muş?

ア リ 何 -対 格 ア イ シ ェ -属 格 読 む -分 詞 -3 単 -対 格 知 る -否 定 -進 行 -不 定 過 去 「 ア リ は ア イ シ ェ が 何 を 読 ん だ か 知 ら な い っ て ? 」 (Uzun 2000: 311)

(17) [Fatma-nın nere-ye git-tiğ-i]-ni bil-mi-yor-um. フ ァ ト マ -属 格 ど こ -与 格 行 く -分 詞 -3 単 -対 格 知 る -否 定 -進 行 -1 単 「 フ ァ ト マ が ど こ へ 行 っ た か 、 私 は 知 ら な い 」

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6/8

3. 理 論 上 ・ 記 述 上 の 諸 問 題

3.1 ト ル コ 語 独 自 の 問 題

 音 韻 ・ 形 態 : mI が 直 前 の 語 の 最 終 音 節 の 母 音 に 対 し て 母 音 調 和 す る こ と を ど う 説 明 す る か  形 態:mI は 直 前 の 語 の 一 部 と し て 説 明 さ れ る べ き か そ れ と も 独 立 し た 語 形 と み な さ れ る べ き か  発 話 行 為 と 形 態 ・ 統 語 論 が 相 互 に 関 連 す る 問 題 (?) : (18) の 話 者 B の 発 話 に お け る gidiyorum mu は 形 態 ( ・ 統 語 ) 的 に は 許 容 さ れ な い は ず (cf. だ が 、 実 際 に は 文 法 的 で あ る と さ れ て い る (Kornfilt 1997: 32)

(18) Speaker A: Sinema -ya gid-iyor-um. 映 画 館 -与 格 行 く -進 行 -1 単 「 映 画 館 に 行 っ て き ま す 」

Speaker B: Sinema -ya gid-iyor-um mu de-di-n?

映 画 館 -与 格 行 く -進 行 -1 単 Q 言 う -過 去 -2 単

「『 映 画 館 に っ て き ま す 』 っ て 言 っ た の ? 」 (Kornfilt 1997: 33)  統 語 :

 mI の 直 前 の 語 、 お よ び 述 語 動 詞 と の 統 語 関 係 ( 主 要 部 は 何 か 、 ど こ に あ る か )  「 Q 要 素 の 移 動 」 と い う 考 え 方 に つ い て (cf. Hagstrom 1999:1): ト ル コ 語 で も 疑 問

接 語 が 節 の 内 部 (clause-internal position)か ら 周 縁 部 (clause-periphery)に 移 動 し て い る 、と す る 主 張 が あ る (Aygen 2007, Yücel 2012)4→ NP が 移 動 す る と 考 え る 分 析 と 対 立 ?  mI の 生 起 位 置 と フ ォ ー カ ス 位 置 の ミ ス マ ッ チ に つ い て 。  意 味 ( + 発 話 行 為 ): mI に よ っ て ど こ が 焦 点 化 さ れ る か 。 焦 点 の 違 い を ど の よ う に 記 述 ・ 説 明 す る か 。 ま た 、 ス コ ー プ の 広 さ を ど の よ う に 説 明 す る か

3.2 日 本 語 と の 対 照 に つ い て

 ト ル コ 語 の 疑 問 接 語 (mI)と 日 本 語 の 「 か 」 の 音 韻 ・ 形 態 的 ス テ ー タ ス の 対 照

 mI は ト ル コ 語 に お け る 典 型 的 な「 接 語 」( clitic; Erdal 2000, Sezer 2001 他 ):統 語 的 に は 他 の 語 と 独 立 し た 単 位 、形 態 論 上 は 接 語 形 式 と 直 前 の 語 形 か ら 形 成 さ れ る よ り 大 き な 語 形 の 一 部 → 母 音 調 和 現 象 が 直 前 の 語 か ら 継 続 し て い る こ と を 説 明 す る 必 要 が あ る  「 か 」 も 疑 問 接 語 ? → 形 態 ・ 統 語 的 な 「 サ イ ズ 」 の 議 論 ?  統 語 的 な 生 起 の 制 約 :  ト ル コ 語 で は 、疑 問 接 語 の 生 起 に 動 詞 形 式 の 制 約 は な い 。た だ し 、動 詞 の テ ン ス ・ ア ス ペ ク ト 形 式 の 種 類 に よ り 人 称 語 尾 と の 相 対 的 位 置 を ど の よ う に 説 明 す る か  一 方 「 か 」 が 生 起 す る と き は 、 動 詞 形 式 に 制 約 が か か る 場 合 が あ る (19) 明 日 の パ ー テ ィ ー に は 誰 が 来 る { *か / の }。  統 語 的 位 置 と ス コ ー プ と の 関 連:「『 か 』の ス コ ー プ は そ れ が 付 加 さ れ て い る 動 詞 ・ 形 容 詞 ・『 名 詞 / 形 容 動 詞 + だ 』 に 限 ら れ る 」 4

Aygen (2007)は こ の Hags tro m (1999) の 考 え を 踏 ま え て 、 ト ル コ 語 で は Q 移 動 は LF レ ヴ ェ ル で 行 わ れ る 潜 在 的 移 動 (covert movement)で あ り 、 yes-no 疑 問 文 ま た は エ コ ー 疑 問 文 の 時 に の み 顕 在 化 す る と い う 考 え を 提 示 し て い る 。 最 近 の 研 究 で も 、 Yücel (2012)が カ ー ト グ ラ フ ィ ー を 利 用 す る 立 場 を 新 た に 導 入 し つ つ 、 Aygen (2007)の 考 え 方 に な ら っ て い る 。 ま た 、 文 中 (NP/PP)に 生 起 す る と き は 、 N ま た は P の 最 大 投 射 の 姉 妹 位 置 に 基 底 生 成 さ れ る が 、 文 末 に 生 起 す る と き は 、 V0の 姉 妹 位 置 に 接 辞 と し て 付 加 さ れ

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7/8 (20) a. ?? 君 は 一 九 二 〇 年 に 生 ま れ た か 。 a’. 君 は [ 一 九 二 〇 年 に 生 ま れ た の ] か 。 b. ?? 君 は こ の 時 計 を パ リ で 買 っ た か 。  ス コ ー プ と 焦 点  日 本 語 で は 「 か ど う か 」 が 使 用 さ れ る が 、 ト ル コ 語 で は 疑 問 接 語 や WH 詞 を 使 用 せ ず に 選 択 的 な 間 接 疑 問 文 を 表 す こ と が 可 能 (12a)(20b) (21) a. [ お 父 さ ん が 来 年 家 を 建 て る か ど う か ]、 私 は 知 り ま せ ん 。 b. [Baba-m-ın gelecek yıl ev yap-ıp yap-ma-yacağ-ı]-nı

父 -1 単 -属 格 来 年 家 作 る -副 作 る -否 定 -未 来 -3sg-対 格 bil-mi-yor-um. 知 る -否 定 -進 行 -1 単  前 掲 (11)の 例 : mI が 従 属 節 内 部 に 生 起 し て い る 場 合 。 フ ォ ー カ ス は 特 定 の 語 ( ま た は 構 成 素 )、 し か し 疑 問 の ス コ ー プ は 文 全 体 に か か る → 日 本 語 に は な い 現 象 ?  ス コ ー プ の 広 さ の 表 示  日 本 語 の 疑 問 の ス コ ー プ は 、 そ れ が 付 加 さ れ て い る 動 詞 ・ 形 容 詞 ・「 名 詞 / 形 容 動 詞 + だ 」 に 限 ら れ る ( 田 窪 2011、 金 水 2013)  (11a), (16a,b)の ト ル コ 語 の 例:日 本 語 の 疑 問 の ス コ ー プ の 説 明 が そ の ま ま 適 用 で き な い 。 で は 、 ど の よ う に 説 明 す る か ?  日 本 語 の 「 な ぜ 」 と ト ル コ 語 の neden/niye/niçin(「 な ぜ 」) の 対 照 :  日 本 語 の「 な ぜ・ど う し て 」に よ る 疑 問 詞 疑 問 文 は 基 本 的 に「 の 」が 必 須 (cf. 野 田 1995)  ト ル コ 語 で は 「 な ぜ 」 に 相 当 す る WH 詞 (neden/niye/niçin)が 用 い ら れ る 場 合 で も 、述 語 形 式 は そ れ に 呼 応 す る「 の 」の よ う な 特 定 の 形 式 が あ る わ け で は な い 。 ま た 、 neden/niye/niçin 等 の 疑 問 詞 と mI も 、 や は り ( エ コ ー 疑 問 文 を 除 け ば ) 共 起 し な い (22) a. な ぜ こ の プ ロ ジ ェ ク ト に 参 加 し た [ の / ??ø] ? b. Neden bu proje-ye katıl-dı-n?

な ぜ こ の プ ロ ジ ェ ク ト -与 格 参 加 す る -過 去 -2 単  発 話 行 為 と 疑 問 文 の 統 語 構 造 と の 関 連

 エ コ ー 疑 問 文 の 対 照 は 可 能 ? → 日 本 語 の エ コ ー 疑 問 文 も プ ロ ジ ェ ク ト の 守 備 範 囲 ?

(23) Speaker A: Sinema-ya gid-iyor-um. 映 画 館 -与 格 行 く -進 行 -1 単 「( 私 は ) 映 画 館 に 行 き ま す 」 Speaker B: Sinema-ya mı de-di-n?

映 画 館 -与 格 Q 言 う -過 去 -2 単

「 映 画 館 に っ て 言 っ た の ? 」 (Kornfilt 1997: 32) (24) Speaker B: Nere -ye de-di-n?

ど こ -与 格 言 う -過 去 -2 単

「 ど こ に っ て 言 っ た の ? 」 (Kornfilt 1997: 34)

参 考 文 献

Aygen, Gülşat (2007). Q-particle. Journal of Linguistics and Literature 4-1, Mersin University, 1-30.

(8)

8/8 Boğaziçi University.

Dryer, Mattew S. (2005). Polar questions. In Haspelmath M. ( et al.), The World Atlas of Language

Structures. Oxford: Oxford University Press. 374-377.

Göksel, Aslı and Kerslake, Celia (2005) . Turkish: A Comprehensive Grammar. New York: Routledge.

Good, Jeff and Yu, A lan (2005). Morphosyntax of two Turkish subject pronominal paradigms . In Lorie Heggie and Francisco Ordóñez (eds.) Clitic and Affix Combinations . Amsterdam: John Benjamins. 315-341.

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