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在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴--製造企業との比較において---香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第 73巻 第 3号 2000年 12月 167-210

在米日系商企業の経営環境と

管理会計の特徴

一一製造企業との比較において一一

井 上 信

し は じ め に

わが国企業のグローパノレ展開は,

1

9

8

5

年のプラザ、合意により急速に進展し, 新しい段階を迎えたことは周知の事実である。その後急速な円高傾向を背景に, 日本企業の海外への事業展開,とりわけ北アメリカ,アジア諸国へ,輸送用機 械器具製造業や電気機械器具製造業のような業種を中心に,企業活動の国際移 転が急速に進んだことは注目に値する。その大きな理由は,米国経済が世界経 済の中心的な地位を占めていることと共に,日本社会,政治,経済のあらゆる 面で,米国との関係が最も緊密であるためである。またアジア諸国への事業展 開は,製造基地としてスタートし,現在では販売市場としても有望になってき ていることが大きな理由である。 本稿の目的は,このような日本企業の海外事業展開の背景を意識しながら, アメリカ合衆国へ進出した日系商企業の経営環境,経営活動,管理会計活動に ついて,どの程度ローカル化(現地適用と現地適応)しているか,前稿で考察 した製造企業との比較において明らかにすることにある。具体的には,日系商 企業と日系製造企業の聞に,経営活動,管理会計活動のローカノレ化(現地適用 (1) 在米日系企業のうち,製造企業(研究開発型と製造・販売型)の比較については,拙稿 「在米日系企業の経営環境と管理会計・原価管理に関するー考察一一現地適用と現地適 応の視点から一一」『研究年報.n (香川大学経済学部)第38号, 1999年,を参照のこと。

(2)

168 香川大学経済論叢 618 と現地適応)のレベルに差異がみられるかどうか。すなわち商企業のローカル 化のレベルが低く,逆に製造企業のローカル化のレベルが高いのかどうか。そ のことは,製造企業においてはローカル(現地適応)化という視点が強く,す べての経営職能を現地で行う方向に進展せざるを得ないのかどうか。逆に商企 業の場合は,どの地域で販売するかという親企業サイドの観点,すなわちグロー パル(現地適用)化の観点が高いのではないか,ということを検証することに もなる。その辺の実態と理由を,経営環境,経営活動,管理会計活動の面から, 明らかにすることを意図している。またより詳細には,どのような経営活動は 日本の親企業での実践を国際移転(現地適用)し,またどのような経営活動は 現地への同化(現地適応)を行ってきているのかの考察を通じて,日系企業全 体(商企業と製造企業の両方を含めた意味で)の米国社会,経済へのローカノレ 化(ハイブリッド型)の特徴を究明することも意図している。 ここで利用されている調査データは,

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年から

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年にかけて行った郵 送調査(詳細は付録

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を参照のこと)を中心に,

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年から

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年にかけて 行った在米日系企業への面接調査での経営者からのヒアリングをも加味する方 法によっている。なお製造企業への郵送調査は,郵送対象企業

4

2

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社のうち

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4

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社から回答があった。従って回答率は

3

4

89%

である。また商企業では,郵送対 象企業は

2

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社であり,うち

8

7

社から回答があった。従って回答率は

3

9

73%

である。 本稿の構成は,第2節では在米日系企業の経営環境と経営活動の概要を,第 3節で在米日系企業の原価管理実践の実態と特徴を,そして第 4節では在米日 系企業の管理会計実践の特徴を明らかにし,最後に第

5

節でそれぞれの特徴を 整理し,全体のまとめとする。

(

2

)

なお調査の概要については,製造企業の場合には,前掲拙稿

(

1

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9

9

)

を,また商企業に ついては,本稿の付録-1に詳しいので,それを参照のこと。

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619 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴

-169-2

.在米日系企業の経営環境と経営活動

この節では,在米日系企業の進出目的,経営規模,経営人事,日本的経営実 践,経営活動のインサイダ、一化のレベル,製品ライフサイクlレ別売上高の構成, 主要製品の多様性について検討する。 2-1 米国進出の目的 米国進出の目的は,米国市場の確保というのが,製企造業と商企業のいずれ の場合にも圧倒的に高いスコア(商業で

2

.

.

7

3

点 (

3

点満点で):;第

1

位,製造 企業で 2“48点:第 1位)になっている。そのことは,日本企業の米国進出の主 たる目的は,商企業の場合にはほとんどの企業で米国市場の確保を目的にアメ リカ合衆国に進出していることが理解できる。 2番目に高い事項は,製造企業では貿易摩擦の解消のための進出であり,0.96 点と第2i立を占めている。 上記以外には,製造企業では,原材料・部品の調達目的が幾分高くなってい 表2-1 米国進出の目的 進出目的 商企業 製造企業 平均値 標 準 偏 差 平 均 値 標準偏差 1)市場の確保 2 73 79 2..48 ..93 2)研究開発拠点 38 71 21 ..60 3)原材料の調達 36 80 40 “88 4)人材(労働力)の確保 34 68 25 ..60 5)政治的な安定 33 70 .08 ..38 6)産業基盤(インフラ)の整備 30 74 32 71 7)貿易摩擦の解消 27 68 96 1..12 8)政府・地元のサポート体制 08 35 20 .51 9)そのf也 45 95 60 L05 ホ)商企業 (n=86),製造企業 (n=138)。 . .)なお調査表の中の調査項目のうちから,上位3位までの項目への回答 を依頼した。表中の数字は,回答のあった上位3位までの項目に,重要性 の高い順に1位→3点 2位→2点 3位→1点、として,回答企業の合計 点を集計し,それを回答企業数、で割って, 1社あたりの平均値を計算した。

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-170- 香川!大学経済論叢 620 るのが,目立つ程度である。 商企業では,市場の確保という事項以外には,ほ とんどの項目のスコアは横並びであり,特に目立つた特徴は窺えない。 2-2 経 営 規 模 在米日系企業の平均値による経営規模に関する指標を,資本金,日本の親企 業の出資比率,売上高,従業員数とそのうちの日本人比率について検討する。 そのことにより,在米日系企業の経営規模の概要を明らかにする。 1) 資 本 金 l社あたりの日系企業の資本金については,商企業では 4,887万ドルであり, 製造企業では 6,309万ドルと,製造企業の経営規模が商企業の 1..29倍の大きさ になっている。この理由は,製造企業は当然のことながら,工場などの製造基 地を持っており,それだげ経営規模が大きくなる傾向にあることが窺える。 2) 日本の親企業の出資比率 それでは次に,在米日系企業に対する日本の親企業(間接的な出資形態:日 本の親企業が米園地域本社(統括本部などに出資し,米国の地域本社が在米子 会社に出資している間接出資のケースも含む。)の出資比率の検討を通じて,日 本企業のコーポレート・ガパーナンスの一面を明らかにする。まず商企業では, 日本の親企業の出資比率は 9221%と9割を超えており,製造企業でもその比 率は印刷 76%と9割近い数字になっている。 このことは,在米日系企業の場合には,日本の親企業の出資比率が 100%近い 企業が大部分を占めており,とりわけそのことは商企業の場合により多く当て はまる。製造企業の場合には,技術レベル,進出の時期,地域的な事情などに よれ一部合弁形態による進出が見られることは,アメリカでの面接調査にお いても日系企業の経営者から指摘されたことである。そのことが,在米日系製 造企業の日本の親企業の出資比率を,日系商企業の場合よりも,幾分低くして いる原因であると思われる。

3

)

売 上 高 第3に,在米日系企業の 1社平均の売上高は,商企業では 66,448万ドルであ

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621 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴

-171

ー り,製造企業では32,016万ドルと,商企業の売上高が製造企業の2倍以上に なっていることが注目に値する。 4) 従 業 員 数 第4に,在米日系企業の

1

社平均の従業員数は,商企業では442人であるが, 製造企業では766人と,製造企業の従業員数は商企業の L7倍以上になってい る。これは,資本金の場合と同様に,製造企業では幾つかの工場を米国内に抱 えており,そこで働く現場のワーカーが多いことが大きな理由である。 5) 日本人比率(全体の従業員数に占める) 従業員総数に対する「日本人」の比率は,どの程度であろうか。商企業では

1

社平均20人であり,製造企業では

1

6

人である。これを,総従業員数に占め る日本人の比率で見てみると,商企業では4..53%で あ れ 製 造 企 業 で は2..09% になっている。商企業の場合の比率が2倍以上になっている。これは,商企業 の場合'はオフィスの従業員だけであるが,製造企業では工場の現場従業員が従 業員数の大部分を占めていることが大きく影響していると思われる。 表2-2 経営規模(一社平均) 経営規模 商企業 製造企業 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 1)資本金($万ドル) 4,887 10,503 6,309 14,634 2)日本企業の出資比率(%) 92.21 18 91 89..76 20..82 3)売上高($万ドル) 66,448 125,117 32,016 87,824 4)従業員数(人) 442 755 766 1,211 5)うち日本人(人) 20 35 16 26 . )商企業 (n=86),製造企業 (n=140)。日本企業の出資比率とは,日本の 親企業及び親企業が出資した在米日系企業を含む日本企業の出資比率をい つ。 2-3 経 営 人 事 ここでは,在米日系企業の特徴を,経営人事の面から考察してみる。まず最 初に取締役会の構成がどのようになっているか,表2-3により検討する。まず 取締役会の構成人数は,商企業では

1

社平均5..62人,製造企業では5守94人と,

(6)

-172ー 香川大学経済論叢 622 製造企業の場合が若干多くなっている。 それでは次に,取締役会に占める日本人比率はどのようになっているのであ ろうか。商企業の場合には,日本人の割合は1社平均4,29人であり,取締役全 体(総数)の76,,34%を占めている。製造企業の取締役会の日本人比率は4,,61 人であり,その比率は取締役全体の7761%を占めている。いずれの場合にも, 取締役会構成員の3/4以上は,日本人役員が占めており,在米日系企業の場合 も,産業・業種を問わず経営トップ(取締役会)は日本人が多く占めることは 明らかである。 表2-3 取締役会の構成 構 成 商企業 製造企業 平 均 値 標 準 偏 差 平 均 値 標 準 偏 差 1)取締役の構成(人) 2)うち日本人 (人) 5,62 4,,29 2 29 1 78 * )商企業 (n=84),製造企業 (n=139)。 5,,94 4,,61 2 14 L68 それでは次に,より具体的に社長,経理部長,人事部長という経営トップの ポストを,いずれの国籍の経営者が占めているか,表2-4-1,表2-4-2により検 討する。 まず最初に,社長ポストの場合,商業では日本人が7529%を占めており,ア メリカ人は24,,71%と,ほぽ3/4を日本人経営者が占めている。それに対して, 製造企業の場合には,日本人が社長ポストを占めているのは77..86%であり,ア メリカ人は20,,71%にすぎない。製造企業の場合に比べて商企業の場合は,日本 人以外の経営者が社長ポストを占めている比率が幾分高くなっている。 国 籍 日 本 人 アメリカ人 そ の { 也 N 表2-4-1 経営者の国籍ー1 : (商企業) 社 長 64 (75 29%) 21 (24,,71 )

o

(

0 ) 85 経理部長 48 (5517%) 39 (4483 )

o

(

0) 87 人事部長 14 (16 67%) 70 (8333 )

o

(

0 ) 84

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623 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -173ー 次に経理部長の国籍を検討する。経理部長は,商業では日本人経営者の占め ている比率は, 55 17%であり,製造企業では46.43%と,日本人が経理部長ポ ストを占めている比率は,商企業の場合が製造企業と比べて, 8..74%高くなっ ている。以上のように,いずれの場合にも,社長ポストに比べると,経理部長 ポストのローカル化は,社長ポストに比べてより進展している。同時に,製造 企業においては過半数の企業の経理部長ポストはアメリカ人が占めており,商 企業よりも製造企業の経理部長ポストのローカル化が,より進展しているとい える。 表2ート2経営者の国籍-2: (製造企業) 国 籍 社 長 経理部長 人事部長 日 本 人 109 (7786%) 65 (46 43%) 12 ( 8..76%) アメリカ人 29 (20 71 ) 73 (5214 ) 123 (89.78 ) そ の { 也 2 ( 1 43 ) 2 ( 1 43 ) 2 (146 ) N 140 140 137 最後に,人事ポストのローカノレ化の現状を検討してみる。在米日系企業の人 事部長ポストのローカノレ化は,商企業,製造企業の何れの場合も,人事のロー カル化は遥かに進展しており,大部分はアメリカ人を中心にローカノレの経営者 に権限,ポストが移譲されている。具体的には,人事部長のポストは,商企業 では日本人が占めているのは16..67%に過ぎず, 83..33%はアメリカ人が占めて いる。製造企業の場合には更にローカノレ化が進展しており,人事部長ポストを 日本人が占めているのはわずか8..76%に過ぎず,残りの9L24%は大部分アメ リカ人が占めている。 以上のように,在米日系企業の経営人事は,取締役会の構成が日本人中心で あり,また社長ポストも日本人経営者が占めている比率が3/4を超えている。 ただ経理部長ポストになると比較的ローカル化が進展しており,さらに人事部 長の場合には,大部分アメリカ人に移譲されている。また商企業と製造企業を 対比してみると,取締役会と社長ポストのローカノレ化は商企業が若干進んでい るが,経理部長と人事部長は製造企業の場合がより進展していることが窺える。

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-174 香川大学経済論叢 624 2-4 日本的経営の実践 在米日系企業において,広く普及している日本的な経営実践(1位から3位) は,平等主義,現場主義,集団的意思決定であり,商企業,製造企業の聞には ほとんど差異がみられない。また所謂「日本的経営実践」と呼ばれる経営実践 は,全般的には,商企業よりも製造企業においてより広く実践されているとい える。 商企業と製造企業の間で日本的経営実践のスコア・レベルに差異がみられる 経営活動(括弧の中の差異は製造企業マイナス商企業:差から判断)は,とり わけ制服の着用 (L67点差), 5 S運 動 (L14点差)であり,何れの場合も製 造企業でより広汎に実践されており, 1点以上の差異がみられる。また

QC

サー クノレと提案制度(0,,

8

2

点差),ノーレイオフ制度(057点差),多能工の養成 (053 点),大部屋主義(0“43点)などでその傾向が高いようである。いずれの場合も, 製造あるいは生産を重視する日本の製造企業で生み出された経営方式(経営実 践)であるが,それは在米日系製造企業,工場,ブノレーカラーの間でも,ある 表2-5 日本的経営実践 導入レベル 商企業 製造企業 両者の 平均値標準偏差

N

平均値標準偏差

N

差 1)平等主義 4..47 93 86 4.57 ..85 138 - 10 2)現場主義 3..54 1.05 84 3..65 1 07 140 - 11 3)集団的意思決定 3..01 93 83 3..03 L05 135 - ..02 4) 5 S運動 2 78 1 38 74 3..92 1.15 139 -1 14 5)大部屋主義 2..68 L41 82 3..11 L52 135 - 43 6)多能工の養成 2.66 1 23 65 3.19 1 15 137 - 53 7) QCサークノレと提案制度 2.45 1.34 82 3.27 L26 140 82 8) ジョブ・ローテーション 2..38 94 81 2..72 1 18 137 - ..34 9) ノー・レイオフ制度 2..37 L36 76 2..94 L64 137 - .57 10)年功賃金制度 2 13 1..03 82 2..02 L05 136 11 11)年功昇進制度 1.94 1.00 81 1.89 ..99 135 05 12)制服(標準服)の着用 L67 1..15 83 3..34 1 58 135 -L67 * )なお表中の得点は,会く実施していない→l点,...,ある程度実施→3点,... 積極的/全面的に実施→5点として,回答企業の合計得点、を集計し,それを回答企業数 で割って社あたりの平均値と標準偏差を計算した。なお「両者の差」は,商企業の スコアから製造企業のスコアを差し引いたものである。

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625 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 175-程度の共通性を示しているといえる。 最後に,商企業,製造企業の何れにおいても,余り実践されていない活動は (1点台 2点台の前半)は,年功賃金制度,年功昇進制度といわれる人事・ 労務管理に関わる経営実践であり,現在では日本企業、でも急速に見直しを迫ら れている経営実践である。 2-5 経営職能(経営活動)のインサイダー化 在米日系企業において販売,生産,財務,人事,製品企画などの経営職能の うち,どの程度ローカlレで行われているか,表 2-6により検討する。 まず商企業を中心に考察すると,最もスコアが高い(インサイダー化が進ん でいる)のは,ローカル(現地)の人事活動(現地での採用,訓練,給与など) であり, 4“94点と最も高くなっている。そのことは,製造企業においても同様 であり,その数字は 4..93点となっている。商企業では,販売活動のインサイダー 化は 4..81点 (2位),アフターサービス活動は 4..67点 (3位),マーケティン グ活動は 4..66点 (4位)と,ほぽローカlレで意思決定・実施されている。 それに対して,製造企業では,販売活動 (4.43点, 4位),アフターサービス 活動 (4.62点, 2位),マーケティング活動 (4.20点 6位)とも,そのスコ アは,商企業の場合と比べると,幾分低くなっている。その理由は,販売活動 は上述の日系の販売会社に依存する製造企業が多く,製造活動に比べるとその 重視度は低いように思われる。 第3に 4点台にある経営活動は,商企業では財務活動(運転資金)であり 4..27点 (5位),購買活動は 4..09点 (6位)である。それに対して,製造企業 では財務活動(運転資金)は 4..40点 (6位),購買活動は 4“59点 (3位)と, 購買活動と財務活動(運転資金)のローカノレ化は,製造活動の場合がより進展 している。 上述の6つの経営職能は,商企業,製造企業のいずれの場合のスコアも4点 以上であり,そのローカル化のレベルは非常に高く,大部分現地で意志決定・ 実践されているといえる。

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-176 香川大学経済論議‘ 626 それ以外にも,企業文化・価値観の形成は,商企業で389点、(7位),製造 企業で4..01点(7位)と,その数値から判断すると,在米日系企業を中心に日 本の親会社とも連携しながら実践されている経営職能である。 上記以外の経営職能については,商企業では,製品企画活動(3..48点, 8位), 財務活動(設備投資資金) (3..45点 8位)となっており,幾分在米日系企業が 中心に行っているといえる。また製造企業では,製品企画活動(3リ04点, 9位), 財務活動(設備投資資金) (3 62点 8位)となっており,財務活動(設備投資 資金)では,幾分ローカル(現地)寄りであり,製品企画活動は日本本社と米 国の子会社が相互に連携して実践している。 最後に,日本から派遣される経営者の人事活動(日本人)は,商企業では, そのスコアは2“43点 (9位)であり,製造企業でも 2..47点 (9位)と,商企 業と製造企業のスコアはほぼ同じレベルにあるといえる。ただいずれも

2

点台 の前半に留まっており,日本本社の人事部が中心に人事管理(活動)を行って いるといえる。これは,現地で採用する従業員の人事活動とは正反対の関係に 表2-6 経営活動のインサイダー化 経営職能 商企業 製造企業 両者の 平均値標準偏差 N 平均値標準偏差 N 差 1)人事活動(現地の人) 4 94

o

23 87 4 93 26 139 01 2)販売活動 4.81 54 86 4..43 .91 136 38 3)アフターサービス活動 4..67 ..65 84 4 62 73 132 05 4)マーケティング活動 4 66 61 85 4 20 L06 136 40 5)財務活動(運転資金) 4..27 LOO 86 4.40 91 139 -.13 6)購買活動 4..09 1.20 81 4..59 ..66 140 - 50 7)企業文化・価値観の形成 3.89 L21 83 4 01 1..01 136 - 12 8)製品企画活動 3..48 1 08 79 3..04 1 31 136 ..44 9)財務活動(設備投資資金) 3.45 1..13 77 3.62 1.26 138 -.17 10)人事活動(日本人) 2.43 1.07 87 2..47 1 14 139 -..03 * )なお表中の得点は,日本本社で全面的に決定・実施→l点,両者の中間→3点,米国 (海外子会社)で全面的に決定・実施→5点として,回答企業の合計点を集計し,それ を回答企業数で割って 1社あたりの平均値と標準偏差を計算した。 *ホ) r両者の差」とは,商企業のスコアから製造企業のスコアを差し号│いた差を示してい る(以下問様)。

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627 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -177ー あり,現地の人の人事職能はローカルに移譲出来ても,日本人(経営者)の人 事は,日本本社がグローパノレな観点から集権的に人事を行うことは,そのグロー パル戦略からして当然必要なことである。 2-6 製品ライフサイクル別売上高 ここでは,売上高の構成を,製品のライブサイクノレ別に,表2-7と表2-8に より, 1990年時点, 1995年時点,最後に時系列的な変化の3つの面から検討す る。 まず最初に, 1990年時点での,製品ライフサイクル別の売上高の構成を,表 2-7により,商企業と製造企業の場合を比較検討する。商企業では, 3年未満の 製品の売上高は,全体の4407%と最も高い割合を占めており, 6年以上の製品 が30,24%,そして3年以上 6年未満のものは2569%という比率になってい る。 製造企業では, 3年未満の製品は48,,97%と,売上高全体の半分近い数字に達 している。 6年以上経過している製品は29,,98%を占め, 3年以上6年未満の製 品は21ド04%という構成になっている。 以上のような商企業と製造企業の実態を比較すると, 1990年時点では,商企 業が取り扱っている製品と比べ,製造企業の場合がよりライフサイクJレの短い 製品を多く製造・販売していることが理解できる。 表2-7製品ライフサイクル別売上高の構成 (1990年) 製品のライフサイクル 商企業 製造企業 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 3年未満の製品(%) 44,,07 38,06 48,97 44 29 3年以上6年未満の製品(%) 25,,69 27,97 21 04 32,35 6年以上の製品(%) 30,24 37,,20 29,98 39,42 N 70 126 次に 1990年から 5年経過した, 1995年時点、での製品ライフサイクノレ別売上 高の構成を,表2-8により比較検討する。まず商企業の場合には, 3年未満の 製品は45ド22%と,1990年と比較して,ライフサイクルの短い製品の比率が1%

(12)

178- 香川大学経済論議ー 628 余り増加している。また6年以上の製品も 31“47%と同様に 1%余り増加して いる。逆に3年以上6年未満の製品の売上高は23..45%と, 2%余り減少してい る。この5年間に,それだけ取り扱い製品のライフサイクノレが多様化している ことが窺える。 製造企業においては, 3年未満の製品は43“94%と, 1990年時点と比較する と5%程度少なくなっている。同時に, 6年以上の製品も 28“85%と, 5年前と 比べて1%余り減少している。逆に 3年以上 6年未満の製品は26..35%と, 5%余り増加しており,製造企業のローカル化につれて,取り扱い製品のライ フサイクルが長く(3年以上に)なってきていることが推測される。 表2-8製品のライフサイクJレ別売上高の構成 (1995年) 製品のライフサイクル 商企業 製造企業 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 3年未満(%) 45..22 38..75 43.94 39 18 3年以上6年未満(%) 23..45 24..67 26..35 30 52 6年以上(%) 31 47 36.64 28..85 36..79 N 74 126 2-7 主要製品の多様性 前項では,売上高のライフサイクル別に製品を分類し,1990年と 1995年のそ れぞれの時点における取扱い製品の多様性を,産業別,時系列別に検討した。 ここでは,表2-9,表2-10により,取り扱い製品の多様性を,在米日系企業が 扱っている製品の種類(全製品数,機種別製品数,仕様数)から,その取り扱 い製品の多様性を分析する。 まず最初に,全製品レベノレでの製品の多様性を, 1990年時点、と 1995年時点を 比較して,その動向を検討する。なお全製品種類とは i貴社が販売している全 製品種類(例えば, VTR,テレビ,冷蔵庫,オーブンの場合には全製品種類は 4種類)というレベルでの製品種類」と調査票では定義し,経営者に回答を求 めた。 1990年時点での全製品レベルでの製品多様性は,商企業では1

1

.

.

65種類であ

i

l

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-寸

i t

(13)

-629 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 17 9-るのに対して,製造企業では5.33種類と,商企業の取り扱い商品は製造企業の 2倍以上になっている。これは,商企業の場合には,日本あるいはアメリカの 関連会社などからも製品を購入し,それをアメリカ市場で販売するので,取り 扱い製品種類の多様性が高くなることは当然のことと思われる。それに対して, 製造企業では,アメリカの工場で製造する製品は,どうしてもアメリカ大陸で需 要(ニーズ)があり,かつアメリカで生産せざるを得ない製品に限られており, そのことはとりわけ製造を開始した当初にはより妥当する。そのために,ことの 表2-9主要製品の多様性 (1990年) 商企業 製造企業 平均値 標 準 偏 差 平 均 値 標準偏差 1) 全製品数 1L65 32 60 5..33 9..21 2) 機種数 74.86 118 72 16 27 20..24 3) 仕様数 213 38 251..61 93 82 154..98 N 69 123 けなお調査票では,以下のような定義のもとに回答を依頼し た。全製品種類とは r貴社が販売している全製品種類(例 えば, VTR,テレビ,冷蔵庫,オーブンの場合には4種類)J とし,機種数とは r製品の基本的な特性(機種) (例えば, TVのサイズ (14,19, 21インチ)別,自動車の場合は排気 量別など)による製品種類数」をいう。仕様数とは r貿干土 が販売している仕様数の合計(オプションを考慮した品番別 の種類) (例えばTVでは,ステレオ,衛星放送,放送方式, 色彩,材質などの付加機能(オプション)の有無を考慮にい れて区分した製品種類数」をいう。 表2-10主要製品の多様性 (1995年) 商企業 製造企業 平均値 標 準 偏 差 平 均 値 標準偏差 1) 全製品数 15..07 38..18 6.75 1L82 2) 機種数 84.38 122.74 2304 22..05 3) 仕様数 211.33 227.68 115..32 157 16 N 71 123 事)なお表中の全製品数,機種数,仕様数の定義は,表2-9と同 様である。

(14)

~18o-ー 香川大学経済論叢ー 630 性質上またアメリカ合衆国での日系製造企業の操業年数が短いという理由など のため,商企業の取り扱っている製品種類数が多くなってきていると思われる。 1995年になると,全製品数は,商企業では 15..07種類と, 1990年の 1..29倍 になり,徐々に取り扱い製品種類数を増加させている。また製造企業では, 1995 年には6ゎ75種類と, 1990年時点の L27倍へと,商企業ほどの増加率ではない が,製造している製品種類(ライン)を徐々に増加さ‘せている。 次により詳細なレベルでの製品種類を, 1990年と 1995年の「機種数」の変化 で検討してみる。なおここで「機種数」とは,-製品の基本的な特性(機種) (例 えば, TVのサイズ(14,19, 21インチなど)別,自動車の場合は排気量 (CC) 別など)による製品種類数」と定義している。 1990年時点の機種数は,商企業では 1社平均で 74..86種類を取り扱ってお り,また製造企業では16..27種類を生産している。商企業の機種数は製造企業 の

4

“60イ音になっている。 1995年時点になると,機種数は,商企業では 84リ38種類と, 1990年のほぼ 1..13倍近くに増加している。製造企業では, 1995年には機種数は 1社 平 均 23..04種類と, 1990年の 1..09倍である。商企業と製造企業を比較すると,商企 業の取り扱い製品の増加率が,製造企業の生産している製品数を幾分上回って いることが理解できる。 最後に,製品の仕様数でみた,すなわち最も詳細なレベルでの主要製品の多 様化の実態を検討してみる。なおここで「仕様数」とは,-貴社が販売している 仕様数の合計(オプションを考慮した品番別の種類(例えばT Vでは,ステレ オ,衛星放送,放送方式,色彩,材質などの付加機能(オプション)の有無を 考慮にいれて区分した製品種類数」と調査票では定義している。 まず最初に, 1990年時点、での仕様数は,商企業では 1社平均 213..38種類であ る。それに対して,製造企業では 1社平均の仕様数は 93..82種類と,商企業 の仕様数は製造企業の2山27倍に達している。 1995年には,仕様数レベルでの多様性は,商企業では 21L33種類と, 1990年 の0“99倍と,ほぽ 1990年とほぼ同じレベル(2仕様減少)にあるといえる。

(15)

631 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -181-それに対して,製造企業では,

1

9

9

5

年には

1

1

5

.

.

3

2

種類とこの

5

年聞に

1

,,

2

3

倍 になっており,

1

9

9

0

年度と比べて

2

2

仕様近く増加している。このように仕様数 レベルでみると,商企業の取り扱い品目数(仕様数)は,この

5

年閣ほぽ同レ ベルにあるといえるが,製造企業では未だ多様化の途上にあり,この

5

年間に

23%

増加していることが理解できた。

3

.在米日系企業の管理会計実践

ここでは,在米日系商企業における管理会計実践の実態を解明するため,在 米日系製造企業と比較する形でその特徴を明らかにする。具体的には,国際振 替価格,海外子会社の業績評価,海外子会社の予算編成・統制における,意思 決定権限のあり方,日本の統括本社と海外子会社の聞における意思決定権限の あり方,海外子会社の資金調達の問題,そして海外子会社の会計情報システム のあり方について,その特徴を究明する。

3

-

1

国際振替価格 ここでは,1)日本の親企業から海外子会社へ,製品あるいは商品を企業内国 際振替する場合に使われる国際振替価格の方法について,また逆に, 2)海外子 会社から日本の本社あるいは関連会社(現地あるいはその他)に,製品あるい は商品を企業内国際振替をする場合の国際振替価格の方法について,商企業と 製造企業を比較する形で検討する。 1) 海外子会社が日本の親会社から製品/商品を購入(調達)する場合: まず、最初に,日本の親企業より海外子会社に商品あるいは製品を企業内国際 振替する場合の国際振替価格の方法を比較検討する。 国際振替価格の方法は,表

3

-

1

にあるとおり,大きくは市場価格をベースに した市価基準,それに近い,市場価格から販売会社などの取り扱い手数料等の販 売諸経費を差し引いた市価マイナス諸経費基準(両者を合わせて広義の市価基 準),国際振替元の商品,製品の売上(製造)原価による原価基準,そして国際振 替元の原価に適正な利益をプラスした原価+利益基準に大きくは分類される。

(16)

182 香川大学経済論叢 632 在米日系企業における国際振替価格の方法の利用状況は,表3-1のとおりで ある。商企業においては,最も広く利用されている基準は,原価+利益基準で あり,全体の37.84%を占めている。第 2番目は,ほぼそれに近い数字で 36.49% を市価基準が占めている。上述の

2

つは,在米日系商企業において最も中心的 な国際振替価格の基準であるといえる。上記以外には,市価マイナス諸経費基 準が13..51%を占め,原価基準は 10..81%にすぎない。このように,商企業の場 合,市価マイナス諸経費基準を広い意味の市価基準に加えると,広義の市価基 準は50..00%になり,丁度半数の商企業で市価基準を国際振替価格に用いてお り,商企業では市価基準の利用が中心的であるといえる。 次に製造企業においては,国際振替価格の基準として最も多いのは,原価+ 利益基準であり,その比率は48.74%と在米製造企業全体の半数近くを占めて いる。また市価基準は,原価+利益基準についで高く 26“89%と全体の1/4を 超えている。原価基準も 21.85%という数字になっている。商企業の場合と比較 すると,製造企業においては,原価プラス利益基準が中心的に利用されており, ほぽ半数近い企業になっている。逆に商企業では最も多く利用されていた市価 基準は全体の約1/4,2689%)の企業で用いられているにすぎない。また商企 業では約10%に過ぎなかった原価基準が 21.85%の企業で用いられており,製 造企業においては,広い意味での原価基準(狭義の原価基準,原価プラス利益 基準の両方を含む)が国際振替価格の際の中心的な国際振替価格の方法になっ ており,それだけ日本の親企業とのネゴシエーションにより国際振替価格を決 表3-1 国際振替価格(親会社から海外子会社が調達する場合) 国際振替価格の基準 高企業 製造企業 1)市価基準 2 )市価マイナス諸経費 3 )原価基準 4)原価+利益基準 5)その他 27 (3649%) 10 (1351 ) 8 (1081 ) 28 (3784 ) 1 ( 1 35 ) 32 (2689%) 26 (21.85 58 (4874 5 ( 4.20 N 7 4 121 川製造企業の問答の(ー)印は,調査票の中に,調査項目が無いことを 示している。

(17)

633 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -183-定しているといえる。 以上日本の親会社から海外子会社へ商品,製品を国際振替する際の国際掠替 価格の方法は,商企業では広義の市価基準が中心であれ製造企業では広義の 原価基準が中心であることが明らかになった。 2) 海外子会社から親会社が商品/製品を購入(調達)する場合: 今度は逆に,海外子会社から日本の親会社が商品/製品を購入(国際振替) する場合を,表 3-2により検討する。まず最初に商企業の場合,国際振替価格 は,市価基準が 50..00%と半数を占めており,最も多くなっている。第 2位は, 原価プラス利益基準であり, 37..93%という比率になっている。以上 2つで 87.93%を占め,商企業で主として利用されている国際振替価格の方法であり, 原価基準 (890%)や市価マイナス諸経費基準 (3.17%) は,一部の商企業で 用いられているに過ぎない。 製造企業の場合には,最も多いのは,市価マイナス諸経費という基準であり 33..87%を占め,次に原価プラス利益基準は 32..26%で,第 2位になっている。 また市価基準も 25ド81%と,かなりの企業で用いられていることが理解できる。 それ以外には,原価基準 (8“06%)が一部の企業で利用されている。製造企業 の場合も概括的に考察すると,広義の市価基準は,両者を合計すると, 64.68% になり,海外子会社から日本の親会社に商品(製品)の国際振替を行う際には, 最も多く利用されている国際振替価格の基準であるといえる。 以上のことより,海外子会社から日本の親会社への国際振替価格の方法は, 商企業でも製造企業でも広義の市価基準が中心的な指標であるが,強いていえ 表3-2 国際振替価格(海外子会社より親企業が調達の場合) 国際振替価格の基準 商企業 製造企業 1)市価基準 29 (5000%) 16 (2581%) 2 )市価マイナス諸経費 3 (3.17 ) 21 (3387 ) 3 )原価基準 4 ( 8.90 ) 5 (8..06 ) 4 )原価+利益基準 22 (37..93 ) 20 (3226 ) 5 )その他

o

(

0 2 (3..23 ) N 58 62

(18)

184- 香川大学経済論叢 634 ば製造企業では市価マイナス諸経費基準(2)が最も多く,商業では狭義の市価基 準(1)が半数を占めているという特徴がみられた。 3-2 海外子会社の業績評価 この項では,在米日系企業の海外子会社の業績評価を,日本の親会社がどの ように行っているか,業績評価の有無,海外子会社そのものの業績評価の方法, 及び海外子会社の経営者の業績評価の方法について,在米日系企業の経営者へ のアンケート調査により考察する。 1) 業績評価の有無 ここではまず最初に,日本の親企業はアメリカにある海外子会社の業績評価 を行っているかどうか,表3-3によりそれぞれのケースについて検討する。 海外子会社そのものの業績評価は,商企業では

8

3

,,

91%

の海外子会社で行わ れており,製造企業では

8

0

,,

58%

と,幾分商企業で実施している比率が高くなっ ている。商企業,製造企業のいずれでも8割以上の企業で業績評価は行れてお り,在米日系企業全体としてよく似た傾向にあるといえる。ただ製造企業の場 合には,業績評価が行われているかどうか,知らされていない企業も 20社

(1439%)

あることにも注目する必要がある。なお業績評価が行われていない 企業は,商企業で

8

,,

05%

,製造企業で

5

04%

と,ごく一部の日系企業に限定さ 表3-3 海外子会社の業績評価の有無 業績評価の有無 商企業 1) 海外子会社そのもの: a)あり b)なし c)知らされていない の そ の 他 73 (8391%) 7 ( 8 05 ) 7 (8,,05 )

0(0

2) 海外子会社のトップ・マネジメント: a)あり 64 (7356%) b)なし 12 (13 79 ) c)知らされていない の そ の 他 11(12 64 )

o

(

0 本)商企業 (n=87),製造企業 (n=139)。 製造企業 112 (8058%) 7 (5,,04 ) 20 (1439 )

0(0

88 (6331%) 23 (16,,55 ) 28 (2014 )

o

(

0

(19)

635 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -185ー れていることも理解できた。 在米日系企業において,社長などのトップ経営者の業績評価を行っている企 業は,商企業では73..56%と7割を超えている。製造企業においても 63.31%と 6割を超えているが,商企業の場合が 10%余り業績評価を行っている企業が多 くなっている。業績評価を行っている企業は,海外子会社そのもののケースと 比べると,海外子会社の経営者の場合には,商企業,製造企業の何れの場合に も,業績評価を行っている企業は10%以上低くなっており,在外日系企業,日 本企業における経営者の業績評価は,欧米企業に比べて相対的に行われていな い(あるいは知らされていなし~)ケースが多くなっていることが明らかになった。

2

)

海外子会社(そのもの)の業績評価基準 海外子会社(そのもの)の業績評価の具体的な基準は,表3-4に示すとおり である。商企業において,過半数の企業が導入している基準は,多い順(複数 回答可)に,利益額の予算・実績比較 (6575%),利益額 (64ゎ38%),そして 売上高の予算・実績比較 (5890%) と,利益額関連の指標が上位 2つを占めて いる。その次に高いのは売上高指標である。第4位は市場占有率で 35..62%と なっている。アメリカ企業の場合に最も重要な指標である投資利益率(ROI)は, 17..81% (13社)で用いられているにすぎない。それ以外には,地域社会への貢 献度 (6“85%),製品品質 (5..48%),従業員の定着率 (2.74%) という指標は, 一部の企業では用いられているが,海外子会社(そのもの)の業績評価の主要 な指標にはなっていない。 それに対して製造企業においては,最も多く用いられている指標は利益額の 予算・実績比較 (6789%) であり,最も多くの企業で用いられている指標であ る。第2位は利益額 (3578%),第 3位は売上高の予算・実績比較 (31..19%) であり,傾向としては商企業の場合と同様である。上記以外に2割程度の企業 で利用されている業績評価の指標は,生産性の予算・実績比較 (22“94%),投 資 利 益 率(ROI) (22“91%),製品品質(19.27%) と ROIの 予 算 ・ 実 績 比 較 (1743%) であり,ある程度の企業で業績評価の指標として用いられている。 なおそれ以外(市場占有率,地域社会への貢献,従業員の定着率など)の指標

(20)

186 香川大学経済論叢 636 は,商企業の場合と同様に,あまり業績評価の指標としては用いられていない。 表3-4海外子会社(そのもの)の業綴評価基準 業績評価の基準 高企業 製造企業 1) 投資利益率(ROI) 13 (1781%) 25 (22 91%) 2) 利益額 47 (6438 ) 39 (35..78 ) 3) ROIの予算・実績比較 12 (1644 ) 19 (1743 ) 4) 利益額の予算・実績比較 48 (6575 ) 74 (67 89 ) 5) 生産性の予算・実綴比較 5 ( 6 85 ) 25 (22 94 ) 6) 売上高の予算・実績比較 43 (5890 ) 34 (31 19 ) 7) 製品品質 4 ( 5 48 ) 21 (19 27 ) 8) 市場占有率 26 (3562 ) 12 (11 01 ) 9) 従業員の定着率 2 ( 2 74 ) 5 (4..59 ) 10) 地域社会への貢献度 5 ( 6..85 ) 8 ( 7 34 ) 11) その他

o

(

0 3 ( 2 75 ) 市)商企業(n==73),製造企業(n==109)。各企業が導入している主な指 標を複数回答可ということで,回答を依頼した。 3) 海外子会社の業績評価基準(トップ・マネジメントの場合) それでは,次に海外子会社の社長,取締役などトップ経営者の業績評価の指 標を,表3-5により検討する。経営者の業績評価基準の場合,商企業では,在 米日系企業がトップ・マネジメントの業績評価指標として使っているのは,多 い順(複数回答可)に,生産性の予算・実績比較(7L67%),製品品質(65..00%), ROIの予算・実績比較(4667%)が,上位3指標になっている。それ以外には, 従業員の定着率(36“67%)は,商企業ではある程度意識されている業績評価指 標 で あ れ 利 益 額 の 予 算 ・ 実 績 比 較 ( 1667%),利益額(15,00%),売上高の 予算・実績比較 (11,.67%),市場占有率(10,.00%)も一部の日系企業で利用さ れている。 製造企業では,業績評価の基準は,日系企業で多く利用されている順に,利 益額の予算・実績比較 (60.,76%)がずば抜けて高く,売上高の予算・実績比較 (36,,71%),利益額 (31,.65%),生産性の予算・実績比較 (31,,65%),製品品 質 (25,.32%)という指標である。また投資利益率(ROI)も20,25%と, 20%ラ インを超えている。

(21)

637 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -187-3-3 海外子会社の予算管理における役割分担(権限の所在) 表3-5 海外子会社の業績評価基準(トップ・マネジメントの場合) 業績評価の尺度 商企業 製造企業 1) 投資利益率 (ROI) 5 ( 8 33%) 16 (2025%) 2) 利益額 9 (1500 ) 25 (3165 ) 3) ROIの予算・実績比較 28 (4667 ) 11(13 92 ) 4) 利益額の予算・実績比較 10 (1667 ) 48 (6076 ) 5) 生産性の予算・実績比較 43 (71..67 ) 25 (3L65 ) 6) 売上高の予算・実績比較 7 (1L67 ) 29 (36..71 ) 7) 製品品質 39 (6500 ) 20 (2532 ) 8) 市場占有率 6 (10 00 ) 8 (10 13 ) 9) 従業員の定着率 22 (3667 ) 2 (2..53 ) 10) 地域社会への貢献度 3 (5.00 ) 5 (759 ) 11) その1

i

!

!

o

(

0 8 (10 13 ) . )商企業 (n=60),製造企業 (n=79)。 *ホ)なおこの数字(生産性,製品品質)は,主に製造企業の業績評価 の指標として使われる指標として理解していたが,商企業で多くの企 業が使用しているという調査結果は,些か解釈が難しい数字である。 これについては,調査票の作成上の問題もあるかもしれないが,具体 的には面接調査などにより,より詳細なフォローアップ調査などによ り究明すべき課題である。 ここでは,海外子会社の予算編成,統制において,日本の親会社と海外子会 社はそれぞれ予算管理(編成,承認,統制,評価など)において,どのような 内容は親会社で意志決定・執行され,またどのような権限・執行は海外子会社 に移譲されているかを検討する。そのことにより,海外子会社の予算管理が現 地子会社にどの程度ローカル化されているか,また同時に意志決定権限のロー カノレ化のレベルを明らかにすることも意図している。 それでは具体的に,表

3

-

6

により,海外子会社の予算編成と統制のローカル 化のレベルを検討する。最初に,表中の第1レベJレ,第2レベル,第

3

レベル の説明をする。 第lレベルとは r予算管理の権限は,現地に大部分委譲され ており,ほとんど現地子会社が単独で編成・実施・評価する体制である」場合 をいう。第

2

レベルとは r予算管理の基本方針は,日本の親会社が決定し,そ

(22)

-188- 香川大学経済論叢 638 の枠内で現地子会社が編成し,親会社が承認・評価する体制である」場合をい う。第3レベルとは I予算管理は,日本の親会社が中心に決定しており,基本 方針,具体的な予算編成とも日本の親会社が作成し,それに基づいて現地子会 社は予算執行を行い,その結果を親会社が評価する体制である」場合をいう。 「その他」は,上記3つのいずれにも該当しない場合を指す。従って以上の調 査項目は,予算管理権限のローカノレ化は,第

1

レベルで最も進んでおり,逆に 第3レベルは日本本社への予算管理の権限がより集中されていることを示して いる。 在米日系企業における予算管理権限の分散度(役割分担)のレベルは,表3-6 のとおりである。まず最初に第

1

レベル,すなわち在米日系企業へのローカノレ 化が最も進んでおり,予算管理権限の大部分が現地子会社に委譲されている日 系企業の比率は,商企業では

7

2

41%

,製造企業では

7

7

.

.

5

4

%

となっている。そ の数字は,製造企業の数値が

5%

余り高く,製造企業のローカノレ化のレベルが 商企業の場合よりも高いことを示している。ただ製造企業,商企業の何れの場 合にも,その比率は

3

/

4

前後の企業がそれに該当しており,何れの場合にも予 算管理のローカル化はかなり進展しているといえる。ただ日系企業の場合,取 締役会,社長,経理部長,とりわけ取締役会,社長を日本人経営者が占めてい る比率が圧倒的に高いことはすでに述べたことであるが,そのことが予算管理 の意志決定・執行にも影響を与えていると思われる。そのことが商企業,製造 企業を含めた日本企業のグローパル化とローカル化(グローカル化)の特徴を 示していることにも留意する必要がある。 第

2

レベルにある日系企業とは,予算管理の基本方針は日本の親会社で編成 し,その枠内で在米日系企業が予算編成し,親会社の承認のもとに予算を執行 し,業績(結果)については親会社の承認(評価)を得る仕組みになっている ケースを指している。そのような在米日系企業は,商企業では

2

6

.4

4%

を占め, 全体の

1

/

4

強である。それに対して,製造企業では,その比率は

1

8

.

.

8

4

%

にすぎ ない。 第3レベ/レにある企業,また「その他」に属する企業は,商企業,製造企業

(23)

639 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -189 のいずれにおいても,ごく一部にすぎない。 このように,在米日系企業(商企業,製造企業)のいずれの場合においても, 予算管理の権限は大部分ローカルに委譲されており,現地サイドが独自に行っ ているというのが調査票への回答から窺えることである。その数字は,日本の グローパル企業は海外子会社の予算管理において集権的な組織形態をとってい るといわれていることとは幾分異なっている。実際に日系企業の経営者に具体 的にそのことを尋ねてみると,アメリカ企業のように権限の委譲(分散化)と いう面も一部みられるが,同時に日本の親会社は,海外子会社の財務諸表を中 心にした月次の報告制度と共に,本社サイドの必要に応じて,月次報告書に関 係した種々の情報の要請や指示が在米日系企業へもなされており,-頻繁なコ ミュニケーション

(

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)

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が予算期間の間絶えず、行われて いるのが,日系企業の特徴(実態)のようでもある。ただ日系企業の経営者は, そのようなことがあっても,ビジネスプランをベースにして予算編成,承認, 執行,評価の権限の大部分を現地子会社に移譲していると理解しているケース が多くみられた。 表3-6 予算編成と統制の権限(役割分担) 役割分担 商企業 製造企業 1) 第1レベル 63 (72 41%) 107 (7754%) 2) 第2レベル 23 (2644 ) 26 (1884 ) 3) 第3レベル 0(0 1 ( ..72 ) 4) その他 1 ( 1 15 ) 4 ( 2..90 ) N 87 138 3-4 海外子会社の資金調達方法 在米日系企業におげる設備投資のための投資資金および日常の運転資金の調 達方法を,表

3

-

7

および表

3

-

8

により検討する。そのことにより,在米日系商 企業および製造企業において,在米日系企業はどの程度独自の資金調達を行っ ているかを明らかにする。 まず最初に設備投資資金の調達状況を,表3-7によりみてみる。商企業の場

(24)

19かー 香川大学経済論叢 640 合には,設備投資資金の調達先で最も多いのは,-日本の親企業から」と「米国 の銀行から」で,それぞれ 52.11%(複数回答可:以下同様)を占めている。上 記以外には,-日本の銀行から」の調達が 2251%を占めるにすぎない。以下で 述べるように製造企業の場合には最も多い「米国の日系銀行から」という数値 は 11..27%にすぎない。このように,商企業の場合には,設備投資資金の調達先 は大きくは日本の親企業と米国の銀行の

2

極に分かれている。 それに対して,製造企業の場合には,最も多い設備投資資金の調達先は「米 国の日系銀行から」であり, 49..29%を占め, 50%に近い数字になっている。次 に多い調達先は,日本の親企業からであり, 40..00%を占めている。それ以外に は,米国の銀行からが 1786%を占め,日本の銀行からは 12.14%にすぎない。 製造企業の場合には,在米日系銀行と日本の親企業を中心に「日本的な紙織間 関係」の中で設備投資資金の調達を行っているのが,在米日系製造企業の設備 投資資金調達の実態である。 調達先 表3-7 設備投資資金の調達先 商企業 製造企業 1)白本の親会社 37 (5211%) 56 (4000%) 2 )日本の銀行 16 (2251 ) 17 (1214 ) 3 )米国の銀行 37 (5211 ) 25(1786 ) 4 )米国の日系銀行 8 (11 27 ) 69 (4929 ) 5)その他 20 (28 17 ) 25 (17 86 ) . )商企業 (n=43),製造企業 (n=140)。何れも複数回答可である。 なお「その他」には在米日系企業の内部留保などが含まれている。 在米日系企業の運転資金の調達先は,表 3-8に示すとおりである。まず商企 業では,米国企業からの調達という企業がさらに多く,全体の 60..47%を占めて いる。その数字は飛び抜けて多く,大部分の日系商企業は,運転資金について は現地の銀行から調達運用しているようである。それ以外には,米国の日系企 業(1395%),日本の親企業 (11“63%),日本の銀行 (11..63%) という数字に なっている。 それに対して日系製造企業では,運転資金の調達先は米国にある日系銀行か

(25)

641 調達先 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 表3-8 運転資金の調達先 商企業 製造企業 1)日本の親会社 5 (lL63%) 1601 76%) 2 )日本の銀行 5 (1163 ) 11 ( 8 09 ) 3 )米国の銀行 26 (6047) 40 (29 41 ) 4 )米国の日系銀行 6 (13 95) 73 (53 68 ) 5)そのf迦 12 (27 91) 27 (1985 ) . )商企業 (n=71),製造企業 (n=136)。何れも複数回答可である。 なお「その他」には在米日系企業の内部留保などが含まれている。 -191ー らが53,68%を占め,最も多くなっている。それに次いで,米国の銀行からは

2

9

..4

1%

を占め,第

2

位である。以上

2

つのケースが大部分を占め,主に現地で 運転資金の調達をしているのが日系製造企業の実態である。それ以外には,日 本の親企業からが11,76%を占め,日本の銀行から運転資金を調達しているの はふ09%にすぎない。 3-5 意思決定権限の分散度 ここでは,日本の親会社と在米日系企業における意志決定権限の分散度(役 割分担)について,表3-9により検討する。具体的には,新製品の価格決定, 新規の設備投資,予算の編成と統制,および予算の承認と評価の

4

つの項目に ついて考察する。 まず商企業においては,最もローカル化が進んでいるのは,予算の編成と統 制であり,

4

2

9

点と,在米日系企業でほぼ意志決定がなされているといえる。 次にローカル化のレベルが高いのは,新製品の価格決定であり,

3

,,

9

8

点と

4

点 近いスコアになっている。第3には予算の承認と評価であり, 3..48点であり, ある程度日本本社とのネゴシエーション(交渉)による割合が高くなっている。 そして 4つのうちでは最もローカル化されていなし、すなわち日本本社に意志 決定権限が集中しているのは,新規の設備投資であり,スコアは3,,

2

2

点である。 日本本社と在米子会社の交渉によるというのが,現地の経営者の立場からの判 断である。

(26)

192- 香川大学経済論叢 642 表3-9意志決定権限の分散度(日本の親会社と海外子会社関) 経営職能 商企業 製造企業 平 均 値 標 準 偏 差 N 平均値 標準偏差 N 1) 新製品の価格決定 3 98 1.18 83 4..34 1 15 140 2) 新規の設備投資 3..22 1 06 80 3 30 1 15 140 3) 予算の編成と統制 4 29 0..83 87 4.48 81 140 4) 予算の承認と評価 3 48 1 21 85 3 39 1 31 140 . )なお表中のスコアは,主に親会社が決定→1点,親会社と現地子会社の交渉→3点,主 に現地子会社が決定→5点として,回答企業の合計点、を計算し,それを回答企業数で、割っ て 1社あたりの平均値と標準偏差を算出した。 他方製造企業においては r予算の承認と評価」を除いては,製造企業の数字 が幾分高くなっており,またその分散度のオーダーは同じである。具体的には, 予算編成と統制は 4..48点を占め,新製品の価格決定は 4..34点と,ほぽ現地(米 国)で行われているといえる。あとは予算の承認と評価が 3..90点であり,新規 の設備投資で 3..30点という順になっている。 3-6 会計清報システムの整備と国際移転 最後に,在米日系企業の会計情報システムの整備のレベルと国際移転のレベ ルについて検討する。 1) 会計情報システムの整備 最初に,在米日系企業の会計情報システムの整備のレベルを,表 3-10により 検討する。まず損益計算書,貸借対照表などの財務会計システムは,商企業で は 4ぃ41点と,ほぽ整備が行き届いているといえる。それに対して製造企業も, 4,,41点と同じスコアであり,同じ程度にほぼ整備が行き届いているといえる。 次に予算管理システムについては,商企業では 3..94点であり,製造企業では 3,.89点と,いずれの場合も,財務会計システムに比べてスコアが低く,幾分整 備が遅れている。財務会計システムの場合には,制度として法律,規則などに より規定されており,それだけ整備が進んでいるが,予算管理システムは内部 利用目的であり,その整備は個々の企業に任されているため,整備が行き届い

(27)

643 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -193 表3-10会計情報システムの整備 AISの整備 商企業 製造企業 平 均 値 標 準 偏 差 N 平 均 値 標 準 偏 差 N 1) 財務会計システム 4.41 0..73 85 4 41 0..82 140 2) 予算管理システム 3 94 L04 83 3“89 1 08 140 . )なお表中の得点は,ほとんど整備されていない→1点,ある程度整備されている→3点, ほぽ完全に整備されている→5点として,回答企業の合計得点を集計し,それを回答企業 数で割って社あたりの平均値と標準偏差を計算した。 ていないといえる。

2

)

会計情報システムの国際移転 1)で会計情報システムの整備のレベルをみてきたが,その会計情報システム は日本の親会社のものと,現地アメリカ企業のもののいずれのパターンをベー スに構築されたものであるかを尋ねた。その結果は,表

3

-

1

1

のとおりである。 表3-11 会計情報システムの国際移転 AISの整備 商企業 製造企業 平 均 値 標 準 偏 差 N 平 均 値 標 準 偏 差 N 1) 財務会計システム 4..46

o

97 82 4..53 91 138 2) 予算管理システム 4..24

o

96 80 4..09 L23 124 . )なお表中の得点は,親会社のシステムをそのまま移転→1点,親会社のシステムを半ば 修正・移転→3点,現地企業のシステムを導入→5点として,回答企業の合計点を集計し, それを回答企業数で割って 1社平均の平均値と標準偏差を計算した。 まず財務会計システムは,商企業では4..46点、であり,製造企業では4..53点 じいずれの場合にもほぽアメリカ企業のシステムをベースに財務会計システ ムを構築していることが窺える数字である。それに対して,予算管理システム では,商企業では4..24点,製造企業では4..09点と,幾分商企業の場合がスコ アが高くなっている。製造企業の場合が,日本本社を中心にしたグローパルな 予算管理の観点をも幾分考慮して海外子会社の予算管理システムを構築してい ると思われる数値であり,日本の本社サイドの影響が幾分みられる。ただそれ でも,現地で予算管理システムの大部分を構築しているという数字ではある。

(28)

194ー 香川大学経済論叢 644

4

.結びに代えて

以上アメリカに進出した日系企業における経営環境,経営活動と管理会計実 践の実態と課題を,商企業と製造企業を比較考察する形で明らかにしてきた。 第2節においては,アメリカに進出した日系の商企業と製造企業における経営 環境と経営活動について,詳しくはアメリカ進出の目的,経営規模,経営人事, 日本的経営の実践,経営職能のインサイダー化,製品ライフサイクノレ別の売上 高,主要製品の多様性について,商企業と製造企業の特徴を比較考察した。 第

3

節では,アメリカ進出日系企業の管理会計実践として,国際振替価格の 方法,海外子会社の業績評価,予算管理の権限,資金調達の方法,意志決定権 限の役割分担,会計情報システムの整備と国際移転について,商企業と製造企 業を比較することにより,在米日系企業全体並びにそれぞれの特徴を明らかに してきた。 以上の在米日系商企業と製造企業との比較考察により,在米企業の経営環境, 経営活動,管理会計活動の全般的な特徴と共に,商企業と製造企業のそれぞれ の特質をある程度明らかにすることができたと思われる。ただ個々の日系企業 の具体的な実態に則した在米日系企業のタイプ別の幾つかのモデル・タイプ(理 念型)を描き出す作業は,代表的な多国籍企業の親会社と海外子会社の両方へ の面接調査などにより構築される今後に残された課題である。 (本稿は,平成10年度 平成11年度文部省科学研究費補助金(基盤研究C) による研究成果の一部である。また在米日系企業への面接調査は,

1

9

9

7

年度の フノレブPライト基金によるものである。)

(29)

645 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 -195ー 付録- 1 調査の概要と回答企業 L 調査企業の概要 在米日系商企業の調査概要と回答企業の概要は,以下のとおりである。(なお 今回比較対象になっている在米日系製造企業の調査と回答企業の概要は,拙稿 「在米日系企業の経営環境と管理会計・原価管理に関する一考察一一現地適用 と現地適応の視点から - - JW研究年報~ (香川大学経済学部)第

3

8

号,

1

9

9

9

年, 付 録 ー し 付 録

-2

に詳しいので,それを参照頂きたい。) 1-1 調査対象企業 1) 調査対象企業のリストアップの基準:東洋経済新報社編(1

9

9

5

)

~海外進 出企業総覧

'

9

5

(国別編)~,東洋経済新報担,

1

9

9

5

年,により決定した。 なおそこでのリストアップの基準は r日本企業(日系海外現地法人を含む) の出資比率が合計で

10%

以上の海外現地法人について,進出先国・地域ごとに, 日本側出資企業の

5

0

音順に掲載した。」となっている。(なお詳細は,東洋経済 新報社編

(

1

9

9

5

)

の凡例を参照のこと。) 2) 調査対象企業は,米国に進出している日系企業に限った。商業の内容は, 事業内容が小売業,卸売業,サービス業等の商業(販売)であること。金融, 保険,証券,銀行などは調査対象外とした。 以上の基準に加えて,今回の母集団の選択に際しては,以下の

3

つの条件を 加味して,調査対象企業の絞り込みをおこなった。 a)上記東洋経済新報社編(1

9

9

5

)

掲載(総覧)の事業内容の説明欄にく販 売〉と書かれていること。

b

)

日本側出資比率(日本企業の出資比率の合計)が

50%

以上であること。 c)従業員数が

5

0

人以上か,あるいは売上高が

$1

0

0

0

万ドル以上(円建 では

1

0

億円以上,

$

LOO=100

円で換算)であること。 以上を基準に郵送可能な企業をリストアップする(例えば所在地が州名だけ しかわからないので,郵送できない企業を除外する)と,在米日系商企業の調

(30)

196- 香川大学経済論議‘ 査対象企業数は

2

3

8

社になった。

1

-

2

調査方法と回収率 1) 調 査 方 法

6

4

6

上記でリストアップした

2

3

8

社に,

1

9

9

5

8

2

4

日に調査票(英文と邦文の 調査票それぞれ

1

通を同封)を郵送し,その後

1

0

月と

1

1

月に回答の督促を行 い,最終的に

1

9

9

6

2

月末で回答を締切った。 第

1

回:

1

9

9

5

8

2

4

日に,郵送調査を実施(英文と邦文の調査票を同封)。 第

2

回:

1

9

9

5

1

0

5

日:第

2

回郵送(督促

1

回目)。 第

3

回::

1

9

9

5

1

1

1

0

日:第

3

回郵送(督促

2

回目)。 2) 回 収 率 郵送企業数は

2

3

8

社であり,そのうち回答企業数

8

7

社,住所不明で返却され たもの

1

8

社,該当せずで返却されたもの

1

社である。 従って回答率は,

39.73%

である(回答率

=87/ (238-18-1) =3973%)

。 2.. 回答企業の概要 回答企業の概要を,回答者の属性,回答者の国籍,および回答企業の規模(従 業員数,売上高),親企業の出資比率,経営人事(社長,経理部長,人事部長) のローカノレ化,回答企業の概要(会社操業開始年,勤続年数と年間採用比率, 労働組合,設備投資の経済性計算)などから,その特徴を検討する。 付 表

2

-

1

回答者の職位 職 位 商企業 製造企業 社 長

4

4

(

5

1

1

6

%

)

3

8

(

4

4

6

2

%

)

取締役以上(社長を除く)

8

(

9

3

0

) 4

(

3

0

8

)

経理部長

2

9

(

3

7

7

2

) 5

6

(

4

3

0

8

)

総務部長

3

(

3

.4

9 )

上記以外の部長

1

(

1

1

6

) 1

2

(

9

2

3

その他

1

(

1

1

6

) O

(

0

N

8

6

1

3

0

本) (ー)は,調査項目がない。

(31)

647 在米日系商企業の経営環境と管理会計の特徴 2-1 回答者の属性 ここでは,回答者の職位と国籍の概要を明らかにする。 1) 回答者の職位 197-まず回答者の職位は,付表 2-1にあるとおりになっている。まず商企業では, 最も多い回答者の職位は社長であり,その比率は 51..16%を占めている。次は, 経理部長であり, 37..72%になっている。以上の 2つで回答企業全体の 90%近く を占めている。 それに対して,製造企業でも商企業でも同様に,全土長からが 4462%,経理部 長からが 43ド08%と,両者で 80%近くになり,両者はほぼ同じ比率になってい る。 商企業,製造企業のいずれの場合にも,社長と経理部長からの回答が大部分 を占めていることが理解できた。

2

)

回答者の国籍 回答者の国籍は,付表 2-2に示すとおり,商企業でも製造企業でも 90%以上 が日本人経営者からの回答であることが理解できる。商企業,製造企業のいず れの場合にも,アメリカ人からの回答は 10%弱にすぎない。 付表2-2 回答者の国籍 国 籍 商企業 製造企業 日 本 人 79 (9080%) 123(91 11%) アメリカ人 8 (9..20 ) 12( 8..89 ) N 87 135 2-2 回答企業の経営規模 在米日系企業のうち,回答のあった企業の経営規模を,従業員数,売上高に より明らかにする。 1) 従業員規模 在米日系商企業と製造企業における従業員数は,付表 2-3のとおりである。 まず商企業では, 1社平均で最も多いのは, 100人以上 300人未満の企業で,全

参照

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