第2号 平 成12年
ポリエチレンテレフタレート基板上に作製されたパナジルフタロシアニン薄膜
の非線形光学特性
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1.はじめに 非線形光学材料は、レーザ光の強霞界下で2次 以上の非線形光学応答を示す材料であり、周波数 変換、発振、スイッチング等、数多くの機能を有 する。応用面では、光デバイスの基幹材料として 期待され、注目を集めている。有機系非線形光学 材料としては有機結晶、結晶性高分子、液晶、高 分子結晶などが知られており、有機材料は無機材 料に比べ、その多様性から非線形光学材料として 有望であるが無機材料に比べると結晶の成長、高 品質(平滑性、均一性、配向性)薄膜の作製法が 十分に確立されていない1)。これらは分子設計に よる有機材料の多様性に基づく優れた非線形光学 材料を作製するために解決されなければならない + 愛知工業大学 電気工学科 (豊田市) ++ 愛知工業大学大学院 電気電子工学専攻(豊田市) +++ 愛知工業大学 情報通信工学科(豊田市) ++++ 愛知工業大学 総合技術研究所(豊田市) 重要課題である。 本 研 究 に お い て は 、 バ ナ ジ ル フ タ ロ シ ア ニ ン
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薄膜が 光 スイッ チ、増幅、 記憶な どの 光素子としで応用の可能性を有することから、分 子線エピタキシー(
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法によりPET
基板上にVOPc
薄膜を作製する。PET
基板を用いた理由につ いては、ガラスに比し柔軟性に優れていること、 融点が2500Cと耐熱性に優れていること、 C軸配向 したPET
であれば、繊維周期と分子問距離を考慮 すると、VOPc
分 子 の 長 径 に 近 い こ と な ど を 上 げ ることができる。PET
基板上に作製されたVOPc
薄 膜を非線形光学材料や光デバイスなどに応用すべ く、薄膜の形態、非線形光学特性について、紫外 e 可 視 吸 収 (UV/VIS)スペクトル、メーカープ リンジ法を用いて測定された第3次高調波により 検討した。 2.実験方法試 料 の 作 製 に つ い て は 、 分 子 線 エ ピ タ キ シ ー (MBE)法を用い、真空度 10-7Pa台で製膜を行な った。蒸着材料として、パナジルフタロシアニン (VOPc)を用いた。分子構造はFig. 1のような分 子の長径 l.4nm、高さ 0.2nmの傘型の構造を有する。 基板材料にはPET filmを用いた。
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一ーーーーーーーー' ー←一一一一一 1. 4 [nmJ ー 一一争 Fig. 1 Molecular structure of VOPc molecule 薄膜作製条件を Table 1に示す。各記号はTp:予備 加熱温度、 t" 基板予備加熱時間、T
,蒸着温度、 T,基板温度、 t: :蒸着時間、 d'膜厚とする。た だし、 Tpは150'C、t" 60分、 T,・ 300"Cとした。 Tabl巴 1 Preparing conditions of VOPc thin films Sampl 日("C) t(min) d (nm) S-l 60 30 30 S司2 80 30 30 S-3 100 30 30 S-4 120 30 30 S-5 80 120 100 S-6 120 120 100 PET基板上に作製された VOPc薄膜を紫外・可視吸 収 (UV!VIS)ス ペ ク ト ル 、 メ ー カ ー フ リ ン ジ に より測定された TH強 度 の レ ー ザ 光 入 射 の 角 度 依 存性から、 VOPc薄 膜 の 形 態 評 価 と 非 線 形 光 学 特 性を検討した。 TH強 度 の 測 定 に つ い て は 、 回 転 式メーカーフリンジ法を用いた。レーザ源としてNd :
YAG
レーザ(出力:455mJ、波長 1064nm、 パルス幅 5ns,繰り返し周波数:10Hz) 、第3次 高調波の検出に光電子増倍管を用いた。3
.
結果および検討 Fig. 2にPET単独の TH強度のレーザ、光入射角特 性を示す。 PET単独でtはTH強度が観測されるが最 大O.Ola.U.程度である。 U.I4 1 r;U.U3 ロ 旬 。 ] 両 日 的 0.02 回 ω-
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2 0 3 A U 4 0 5 0-Fig. 6 TH intensities vs incident angleofS-3 and Fig. 4 TH intensities vs incident angleofS-l and S-4 S-2 ω 屋 倒 官。o.z 明 君 0 300 350-4110450 500 ~50 6006!iD7閃 150 800m ~OD Wav巴lenglh[n.J Fig. 5 UV/V1S spectraofS-3 and S-4 これは基板温度 100"(;,120"(;では相I
から相E
へ の転移が起こっており,相Eの状態が支配的であ ることを示す。このことからV
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は基板温 度 60"(;から 120"(;にかけて相I
から相亘への相構 造変化が起こる温度領域であり,基板温度80"(;付 近に相構造変化のしきい値が存在すると考えられ る。この温度はPET
のガラス転移温度(
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)に 近く、PET
のガラス転移が相転移と密接な関係に あることを示唆する。 Fig. 6はS-3、S-4のP偏光の レーザ光入射により、 TH強度を測定した結果を 示す。VOPc
薄膜が相I
から相E
へ転移すること でTH強度が相 Iに比し約 4倍程大きくなる。基 板温度 120"(;で作製された薄膜の TH強度から、 3 次非線形光学感受率χ{引が 3.2xl0-9 esu程度にな ることが見積もられた。この値は現在までに得ら れた値に比し最大の値である。 χ ( 3)の計算式を 次に示す3)。r
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:溶融石英のコヒーレンス長、 λω:基本波の波 長を示す。 A、Bの計算式を次に示す。 1n
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n
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基本波と高調波の試料の胆折率、 ロω
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基本波と高調波の溶融石英の屈折率、n
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の実数部と虚数部、ム'l!:第 3次 高 調 波 の 位 相 不 整 合 量 を 示 す 。 た だ し 、A
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である。 膜厚を厚くしたときの非線形光学特性について、 以下に検討する。理論的根拠を示すため、第3次 高調波(J).強度13を次式に示す。 in2 (Ilkd) /2 13= "":1:W .J..t {χ(3)) 2 (n c) 4 ε 02 ,~ , --. -U (Ilkd/2)2 ここで、ω:
角周波数(ω=c/
入p,c
は光強度、 λpは入射波の波長)、 1l 試料への基本波の強0.08
~
:
1: 1叶
20mi 0.08.
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守 0.06.
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~ 0.06 = コ も . . = 国 ] c司 -暑 曙事事睡も 争 20 ⑧ .1sae @ 〉、 〉、。
日目目0.04 事 . . . 骨 骨。
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@@GB a 回 E ←~ 0.02 E 骨gumaら@@時 ロロ 1:50.02 ロ ロ ロ国 度、 n 試料の屈折率、 χ ( 3 ) 3次 非 線 形 光 学 感 受率、 T1、T3 入射波、高調波の透過率、 d'試 料の厚さ、ム K:位相不整合量を示す。ただし、L
lK =
π/L=6π(n3-nl
)
/λp
で ある。したがって、位栢整合条件が成立すれば、 13cx:d,で示すことができる。 Fig. 7はS-2、S-5の UV/VISスペクトルを示す。 1.5 n' . -ι~. 問 削 4叩 仰 印O印 刷 o50 7叩 751削O剛 剛 h川 叩 区 仙 川 巨日 国 国 司 ︻ 七 c m D ︿ 0.5 Fig. 7 UV/VIS spectra of S-2 and Sδ Qバンド帯領域において吸収ピークが蒸着時間30 分、 120分共に 760nm付近にピークを持ち、相 Eへ の転移状態にある相I
が支配的なVOPc薄膜であ ると考えられる。 Fig. 8のふ2、S-5のTH強度にお いても、膜厚の 2乗に比例した TH強度の増大が見 られない。 O -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Angle[deg.] Fig. 8 TH int巴nsitiesvs incident angle of S-2 and S悶5 これはS-5が相E
への転移状態にある相I
の支配 的な薄膜であることを支持する。 Fig. 9の5-4、 S-6のUV/VISスペクトルにおいては、蒸着時間 30 分の試料が相E
の状態にあるのに対し,蒸着時間 120分の試料においては 680nm、750nmに吸収ピー クが転移し相I
が支配的であると考えられる。こ れは膜厚を厚くすると、 PET基板とVOPc分子との 相互作用が小さくなり、相I
の状態で堆積するこ とを示唆する。 1.5 1 5 0 ω υ = 伺且﹄ C 凶且︿ 0 300 350,1凹 ~50 500 550 600 650 7山 750 BOQIS!i()9flC Wavelenglh[叩] 両日 Fig.9 UV/VIS spectra of S-4 and S-6 Fig. 10のふ4、S-6のTH強度においては、ふ6の膜 が相I
の支配的な膜であることから、膜厚を考慮 に入れると、 S-4とS-6が同程度の TH強度を示すこ とは妥当であると考えられる。さらにS-6をFig. 8 のふ5と比較すると、 S-5に比し S-6のTH強度は低 下し、上述の考えを支持している。 0 5 0 4 0 3 0 2 0 ] 'lub c d O [ c o E tlnH 一 A O 2 0 3 0 4 0 5 0 一 Fig. 10 TH intensiti巴svs incident angle of S-4 and S-6 以上よりUV/VISス ペ ク ト ル か ら 、 吸 収 ピ ー ク が750nm付 近 で 相
I
から相E
へ の 転 移 の 過 渡 状 態 に 入 る も の と 考 え ら れ 、 第3次 高 調 波 は 膜 の 相 状 態 に依存する。4
.
まとめ ( 1) UV/VISスペクトル、 TH強 度 か ら 蒸 着 時 間 30分 で 作 製 さ れ た 薄 膜 は 基 板 温 度 600Cから 1200C にかけて相I
から相E
へ の 構 造 変 化 が 起 こ る 温 度 領 域 で あ り 、 基 板 温 度800C付近に構造変化のしき い値が存在することを示唆した。 ( 2) VOPc薄 膜 が 相I
か ら 相E
へ 相 転 移 す る こ と に よ りTH強 度 が 大 き く な る こ と を 示 し た 。 ( 3 ) 基 板 温 度1200C、蒸着時間 120分 の 条 件 で 作 製 さ れ た 薄 膜 に つ い て は 、 膜 厚 が 厚 い た め 、 基 板 との相互作用が小さくなり、相Iが支配的な膜に な り こ と を 示 し た 。 ま た 吸 収 ピ ー ク が750nm付 近 から相変化の過渡状態に入ることを示した。 参考文献l)Y. Tanabe, A. Kaito, K. Yase, K. Ueno,
H. Okumoto, N. Minami, H. Nozoe, H. Kondoo,
M. Yumura and H. Yanagishita: National Institute of Materials and Ch巴micalResearch, Vo1.2, no.2,
pp. 235-317, (1994) .
2)M.Hosoda, T.Wada, A.Yamada, A.F.Garitoand and H.Sasabe: Jpn.J.appl.phy., 30, L1486, (1991) . 3)S. Fang, H. Tada and S. Mashiko: Appl. Phys. Lett., Vo1.69, NO.6 pp. 767-769, (1996) .