• 検索結果がありません。

ヨーロッパにおける家族法の調和の試み : ドイツとフランスの夫婦財産制に関する条約の紹介-香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ヨーロッパにおける家族法の調和の試み : ドイツとフランスの夫婦財産制に関する条約の紹介-香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
41
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ヨーロッパにおける家族法の調和の試み

―― ドイツとフランスの夫婦財産制に関する条約の紹介 ――

は じ め に

欧州連合(以下,「EU」)加盟国内でのサービスや物の流通の自由化は, 労働市場を拡大するとともに,人の往来も自由活発なものとなる。経済活 動に限らず,自国以外の加盟国へ移住し,異なる国籍の者が共同生活する 数も増加し,このようなカップルの離婚や死別の数も増加する。グローバ ル化の進展とそれによる市民生活の変化に対して,EU では,国際私法に 関する規定,すなわち,国際裁判管轄や準拠法決定に関するルールを統一 する試みが始まっている。例えば,財産法分野では 年に「契約外債務 の準拠法に関する 年 月 日の欧州議会及び理事会規則!」(ローマ Ⅱ規則)が, 年には「契約債務の準拠法に関する 年 月 日の 欧州議会及び理事会規則"」(ローマⅠ規則)が制定されている。また,家

! Regulation(EC)No. / of the European Parliament and of the Council of July on the law applicable to non-contractual obligations(Rome Ⅱ), Official Journal of the European Union, L / .( . . )

" Regulation(EC)No. / of the European Parliament and of the Council of June on the law applicable to contractual obligations(RomeⅠ), Official Journal of the European Union, L / .( .. )

(2)

族法の領域でも抵触法の整備が進められている。 年 月には,「離婚 及び法定別居の準拠法の分野における緊密な協力を実施するための 年 月 日の理事会規則!」(ローマⅢ規則)が制定されている。さらに, 年 月には,欧州委員会が,「夫婦財産制の領域における管轄,準拠 法,裁判の承認・執行に関する規則提案"」を提出している#。 ヨーロッパでは,法制度の相違によって生ずる不利益・問題を解決する 動きがみられているが,このような対応では必ずしも十分ではないとの批 判もある。批判の背景には,EU 加盟国の実体法の内容が各国によって大 きく異なることから,たとえ裁判管轄や準拠法のルールが規定されたとし ても,人の移動の自由を完全に保障することには限界があるとの認識があ る$。異なる国籍を持つ当事者が,それぞれが全く内容の異なる実体法と国 際私法の規定を持つ国内法のために,複雑な問題に直面し,結果を予想す ることができず,当事者にとっては大きな負担となりかねないからであ る。 このような背景の下で,実体法の統一・調和に向けた動きがみられる。

! Council Regulation(EU)No. / of December implementing enhanced cooperation in the area of the law applicable to divorce and legal separation(Rome Ⅲ), Official Journal of the European Union, L / .( . . )

" Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition and enforcement of decisions in matters of matrimonial property regimes, COM( ) . # その他にも,欧州委員会は,「登録パートナーシップの財産上の結果に関する管轄,

準拠法,裁判の承認・執行に関する規則提案」(Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition and enforcement of decisions regarding the property consequences of registered partnerships, COM( ) )を提出している。 また,相続については, 年に「相続問題に関する裁判管轄,準拠法,判決の承 認及び執行並びに公証文書の承認及び執行及び欧州相続証明書の創設に関する 年 月 日の欧州議会及び理事会規則」(Regulation(EU)No. / of the European Parliament and of the Council of July on jurisdiction, applicable law, recognition and enforcement of decisions and acceptance and enforcement of authentic instruments in matters of succession and on the creation of a European Certificate of Succession, Official Journal of the European Union, L / .( . . ))が成立している。

$ 林貴美「欧州における家族法及び国際家族法の欧州化」戸籍時報 号( 年) 頁。

(3)

財産法分野においては,すでに共通参照枠草案(Draft Common Frame of Reference,以下「DCFR」)!が存在する。他方,家族法の領域においても, EU諸国の家族法を統一・調和する試みが行われている。 つは,ヨーロッ パ家族法委員会(Commission on European Family Law,以下「CEFL」)の 活動が挙げられる"。CEFL は, 年に発足した国際的な研究グループで あり,オランダを本拠として設立された。比較法研究を通じて,ヨーロッ パ家族法としてふさわしい「ヨーロッパ家族法原則(Principles of European Family Law)」を提案することを目的としている。CEFL は,民間主導で 設立され,あらゆる組織や機関から独立しているが,ヨーロッパ理事会な どの公的機関からの財政的な支援を受けている#。現在では, の国や地 域の研究者,裁判官,弁護士が CEFL の活動に参加しており,専門家によ る会合が組織されている。さらに,CEFL では,特定のテーマについて, 原則を構築する上で基礎となる広範な質問項目のリストを作成し,これに 対する国別の報告を求めている。国別報告書から各テーマに関する共通項 (common core)を見出し$,ヨーロッパに共通の基本原則を提示する方法 が採用されている。共通項を見いだすことができない場合は,いずれの解 決が適切かを判断することになる(better law approach)。ここでは,多数 決によって特定の解決を決定する方法は採用しておらず,特定の国内法を 優先して解決することも行われていない%。提案される原則は,EU 加盟国 ! クリスティアン・フォン・バール他編・窪田充見他監訳『ヨーロッパ私法の原則・ 定義・モデル準則−共通参照枠草案(DCFR)』(法律文化社, 年)。 " CEFL の活動については,拙稿「ヨーロッパにおける夫婦財産制の動向について∼ ヨーロッパ家族法委員会(CEFL)の活動の紹介∼」田井義信編『民法学の現在と近 未来』(法律文化社, 年) 頁以下参照。

# K. Boele-Woelki, The Pronciples of European Family Law : Its Aims and Prospects, Utrecht Law Review , pp. − .

$ K. Boele-Woelki, The Working Method of the Commission on European Family Law, in ; Boele-Woelki(eds), Common Core and Better Law in European Family Law (Antwerpen ), pp. .

% Dieter Martiny, Europäisches Güterrecht ? Die Arbeit der CEFL, in ; V. Lipp/E. Schumann / B. Veit( Hrsg.), Die Zugewinngemeinschaft-ein europäisches Modell ? , Göttingen, , S. .

(4)

や CEFL に参加する国・地域(法域)に対して立法化を強制するものでは ない。各国の議会が,国内法の法改正に際して,CEFL の提案する原則を 採用するか否かを判断する。

CEFLは, 年に「離婚及び離婚後扶養に関するヨーロッパ家族法原 則(Principles of European Family Law regarding Divorce and Maintenance between Former Spouses)!」を, 年には「親責任に関するヨーロッパ 家 族 法 原 則(Principles of European Family Law regarding Parental Responsibilities)」を公表している"。これらの成果は,各国の国内法の改正 に活かされている。例えば,ポルトガルは, 年に離婚法を改正して おり,その際に,CEFL が提案した原則を参照し立法しており,ポルトガ ル法の規定の多くは CEFL の原則と一致するものとなっている#。 つ目は,本稿の対象であるドイツとフランスが締結した「選択的剰余 共同制に関するドイツ連邦共和国とフランス共和国との間の 年 月 日の条約$」(以下,「本条約」)である。本条約により,両国間で約定夫 婦財産制として新たに国内法に設けられ,両国の国内法が適用される全て の夫婦が選択できる新たな夫婦財産制として導入された。本条約は,他の EU加盟国も加盟できることを明示しており(本条約 条),二国間の条 約から,多国間への協定へと展開することも考えられる。このようなドイ ツ・フランスの試みは,「ヨーロッパ統一家族法へのパイロット・プロ ! 詳細については,ミヒャエル・ケスター・渡辺惺之(訳)「ヨーロッパ統一家族法 への第 歩:ヨーロッパ家族法原則(PEFL)−離婚法を中心に−」立命館法学 号 ( 年) 頁以下参照。 " 年 月には,夫婦財産制に関するヨーロッパ家族法原則が公表されている。 拙稿「比較夫婦財産法∼ヨーロッパを中心に∼」『家族法改正研究会第 回シンポジ ウム夫婦財産関係法の検討 Part −夫婦財産制( 条∼ 条, 条)の見直し を中心に』戸籍時報 号( 年) 頁以下参照。

# G. De Oliveira, Changes Going on in Portuguese Family Law, FamRZ , S. . $ Abkommen zwischen der Bundesrepublik Deutschland und der Französischen Republik

über den Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinscahft vom . . . 「Zugewinn-gemeinschaft」については,「Zugewinn」を「剰余」とするか「付加利得」とするか, また「Gemeinschaft」を「共同制」とするか「共通制」とするかで複数の訳語がある が,本稿では剰余共同制とする。

(5)

ジェクト!」として注目されている。 他方,日本における夫婦財産制の議論にも展開がみられる。日本の法定 夫婦財産制は別産制と解されている(民 条)"。しかし,日本では,妻 は家事・育児に従事する専業主婦であることが多く,実際に専業主婦に財 産が帰属することは少ないことから,婚姻を解消する際に,夫婦間に実質 的な不平等が生ずることが問題となった。このような不平等を解決するも のとして,離婚の際には財産分与制度(民 条),死亡解消の際には配 偶者相続権(民 条)が位置付けられてきた。財産分与制度の解釈・運 用においては,婚姻中に夫婦が協力して取得した財産を離婚に際にして清 算するという「夫婦財産の清算」を中核に置き,これを補充するものとし て「離婚後扶養」を認め#,さらに「離婚慰謝料」を巡る議論が展開されて きた。「夫婦財産の清算」については,夫婦財産制の終了を説明するに他 ならず,夫婦財産制の枠内で処理すべきことが主張され,夫婦財産制に関 する立法論も提案されている$。とりわけ,大村論文,犬伏論文では,婚姻 中別産制を維持し,婚姻解消の際に財産の清算・分配を実現する制度, 具体的には,ドイツの剰余共同制(Zugewinngemeischaft),フランスの後 得財産参与制(régime de aqrticipation aux acquêt),スイスの所得参与制

! Thomas Meyer, Der neue deutsche-französische Wahlgüterstand, FamRZ , S. . . " 最大判昭和 年 月 日民集 巻 号 頁。 # 「離婚後扶養」をめぐっては,婚姻または婚姻中の役割分担の結果,離婚後の生活 について生じる夫婦間の所得能力等の不平等を,衡平の観点から調整するものとして とらえ,「補償」という概念に置き換えることが主張されてきた(水野紀子「離婚給 付の系譜的考察(一)・(二・完)」法協 巻( 年) 号 頁以下, 号 頁 以下。緒方直人「財産分与請求権の本質」有地亨編『現代家族法の諸問題』(弘文堂, 年) 頁,鈴木眞次『離婚給付の決定基準』(弘文堂, 年),本沢巳代子 『離婚給付の研究』(一粒社, 年))。 $ 犬伏由子「法定財産制」石川稔ほか編『家族法改正への課題』(日本加除出版, 年) 頁以下,伊藤昌司「法制審身分小委の一九七五年(昭和五〇)中間報告と夫 婦財産『共有』制」中川淳先生古希祝賀論集『新世紀へ向かう家族法』(日本加除出 版, 年) 頁,大村敦志「婚姻法・離婚法」ジュリ 号( 年) 頁以 下,犬伏由子「夫婦の財産関係に関する法規制の課題と展望」法時 巻( 年) 号 頁以下。

(6)

(Errungenschaftsbeteiligung)に近い夫婦財産制を導入するべきではないか と主張されている!。本条約では,剰余共同制を基にドイツとフランス両国 で共通する夫婦財産制を導入している。新たに導入された夫婦財産制の規 定内容や各規定の配置,これらに関する議論等は,改正の必要性が指摘さ れていながら一向に実現しない日本の夫婦の財産関係に関する法改正に立 法上の示唆を与えるものになるのではないかと考える。 本稿では,まず本条約が締結されるに至った経緯について確認し,ドイ ツでの審議状況について触れる。次に,剰余共同制と後得財産参与制の内 容を簡潔に触れ,両制度の異同についてまとめた上で,新たに導入される 夫婦財産制の内容を検討したい。これらを通じて,EU における法の統一・ 調和へ向けた試みの つである本条約の概要を紹介し,ヨーロッパでの議 論の動向を確認したい。

.本条約の背景と審議経過

" 各国において様々な夫婦財産制が採用されている状況の中で,ヨーロッ パにおける夫婦財産制の統一・調和は,これまでも度々議論されてきた。 その契機となったのは,すでに述べたように EU 域内市場の流動性と自国 以外での財産形成,グローバル化の進展による国籍の異なる者同士の婚 姻・共同生活の増加である#。議論の中では,例えば,現在の様々な夫婦財 ! 日本家族〈社会と法〉学会では,学会内に「家族法改正研究会」を設け,家族法改 正に向けた具体的な提案を検討している。同研究会の第 回シンポジウム( 年 月 日)では,法定夫婦財産制として別産制を基に婚姻解消時に清算を実現する 制度を導入することを提案し,所得参与制への改正に向けた議論を提示している。詳 細については,家族法改正研究会第 回シンポジウム「夫婦財産関係法の検討 Part −夫婦財産制( 条∼ 条, 条)の見直しを中心に」戸籍時報 号( 年) 頁以下参照。 " 本条約の意義や審議経過等について,本条約に関する専門委員会のドイツ側メンバ ーであった Thomas Meyer による論文(Meyer, a. a. O.(Fn. ))が詳しい。

# いわゆる国際結婚が婚姻に占める割合は,ドイツでは約 %( 年),約 % ( 年),フランスでは約 %( 年)である(BT-Drucks. / S. . )。

(7)

産制の類型を,合意可能ないくつかの夫婦財産制の類型に減らすこと!や EU加盟国の夫婦が選択することができる「ヨーロッパ夫婦財産制」を各 国の実体法である家族法に追加すること"が提唱されていたが,具体的な夫 婦財産制の規定を提示するまでには至らなかった。こういった背景から, 上述の CEFL の活動がみられるが,CEFL の学術的成果は評価されるもの の,提示される「ヨーロッパ家族法原則」がどの程度受け入れられ,それ により家族法の調和がどこまで進展するのか,現段階では不明である。そ こで,より早期の解決を実現するために,CEFL のような多くの国(法域) が参加する包括的なプロジェクトに代わり, か国(法域)間での家族法 の調和を可能な限り進めることが指摘されてきた。 さらに,ドイツ・フランス間の政治的背景もある。両国は 年に 「 年のドイツ及びフランスの協力に関する条約」(エリゼ条約) 周 年を記念し,両国の家族法の統一・調和を進める内容の共同声明を発表し た。その第一歩として,多くの法領域から,両国の実体法にすでに類似す る制度が規定されている夫婦財産制が選ばれ,両国に共通の夫婦財産制を 設けることとした。規定内容は,主にドイツ・フランスの法律専門家から 構成された専門家委員会によって検討され,ドイツの剰余共同制を基に修 正することで作業を進めてきた。 本条約は, 年 月 日に締結されたが,両国の批准によってその 効力が生ずる。ドイツでは, 年 月 日に批准案#が政府から提出さ

! Dieter Henrich, Zur Zukunfts des Güterrechts in Europa, in ; Peter Gottwald, Dieter Henrich, Dieter Schwab(Hrsg.), Deutsches, ausländisches und internationales Familien und Erbrecht-Ausgewählte Beiträge-, , S. ff. ; ders, Die Zukunft des Güterrechts in Europa, FamRZ , ff.

" Dieter Martiny, Ein zusätzlicher Güterstand für Europa ?, in ; Perspektiven des Familienrechts, FS für Dieter Schwab, , S. ff.

# Entwurf eines Gesetz zu dem Abkommen vom . Februer zwischen der Bundesrepublik Deutschland und der Französischen Republik über den Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinscahft, BT-Drucks. / .

(8)

れた。 年 月 日に連邦参議院(Bundesrat)!第 回本会議におい て承認された後, 年 月 日に第 回連邦議会(Bundestag)"第 回本会議で付託された法務委員会(Rechtsausschuss)及び家族・高齢者・ 女性・青少年委員会(Ausschuss für Familie, Senioren, Frauen und Jugend) での審議を経て, 年 月 日に連邦議会第 回本会議は批准案を 可決,改めて 年 月 日に連邦参議院第 回本会議で承認され, 成立した。 年 月 日に「選択的剰余共同制に関するドイツ連邦共 和国とフランス共和国との間の 年 月 日の条約に関する法律」#と して公布され, 年 月 日より施行されている$。これにより,ドイツ 民法典(以下,「BGB」)も改正され, 条が新設されている%。

.剰余共同制と後得財産参与制との異同

本条約によって新たに導入される夫婦財産制は,「選択的剰余共同制」 (Wahl-Zugewinngemeinschaft)と呼ばれており,その名称が示す通り,ド イツの法定夫婦財産制である剰余共同制が基となっている。他方フランス では,後得財産参与制は約定夫婦財産制として規定されており,夫婦財産

! 連邦参議院での審議については,Bundesrat, BR-Pleinarprotokoll , S. (A), BR-Drucks. / , / (B); BR-Pleinarprotokoll , S. (B)− (C), BR-Drucks. / ,

/ (B).

" 連邦議会での審議については,Bundestag, BT-Pleinarprotokoll / , S. (B)− ( D ), BT-Drucks. / , / , BT-Pleinarprotokoll / , S. ( C )− (B), BT-Pleinarprotokoll / , S. (C).

# Gesetz zu dem Abkommen vom .Februer zwischen der Bundesrepublik Deutschland und der Französischen Republik über den Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinscahft vom . März , BGBl, , Ⅱ, Nr. , S. .

$ Bekanntmachung über das Inkrafttreten des deutsch-französischen Abkommens über den Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinschaft vom . April , BGBl, , Ⅱ, Nr. , S. .

% (仮訳)BGB 条〔夫婦財産契約による合意〕

「夫婦が,夫婦財産制により,選択的剰余共同制の合意をしたときは,選択的剰余共 同制に関するドイツ連邦共和国とフランス共和国との間の 年 月 日の条約の 規定を適用する。 条を準用する。 条は適用しない。」

(9)

契約によって選択する。 剰余共同制の本質は別産制であり,婚姻によっても各自の財産の所有関 係は変わらず,婚姻中に取得した財産は,それを取得した者に帰属する (BGB 条 項)。夫婦は,それぞれが財産を自由に独立して管理する (BGB 条)。婚姻中に生じた債務については,原則として,夫婦の一 方が債務超過の状態になったとしても夫婦間で分割されず,例外としてそ の債務が婚姻共同生活の枠内で生じたものである場合に限り,離婚後も夫 婦で 分の ずつ負担することとなる!。また所有者ではない夫婦の利益を 保護するために,清算の対象となる財産の所有者である夫婦の一方の処分 権を一定範囲で制限されている(BGB ・ 条)"。 剰余共同制における夫婦財産の清算は,「相続法上の解決(erbrechtliche Lösung)」と「夫婦財産法上の解決(güterrechtliche Lösung)」と呼ばれる つの形式を定めている。夫婦の一方の死亡によって剰余共同制が終了す る場合以外は,「夫婦財産法上の解決」として,剰余清算(Zugewinnausgleich) が行われる。 剰余(Zugewinn)は,夫婦それぞれの剰余共同制終了時(多くの場合 離婚時)の財産(Endvermögen。以下,「終局財産」)が,剰余共同制開始 時(多くの場合婚姻時)の財産(Anfangsvermögen。以下,「当初財産」) を超える価額であると定義されている(BGB 条)。剰余については 簡潔に規定するだけであるから,剰余を算定するためには当初財産と終局 財産の概念とその評価を明確にする必要がある。これについて,ドイツで は詳細な規定を設けている。 当初財産は,剰余共同制開始時に有する積極財産から債務を控除した後 に夫婦それぞれに帰属する財産と定義されており(BGB 条 項), 原則として,婚姻時有する財産が当初財産となる。なお,当初財産の額の ! 本沢・前注( ) 頁。 " 財産処分制限については,常岡史子「ドイツの附加利得共通制における処分制限規 定⑴∼⑶」民商法雑誌 巻 ・ ・ 号( 年)において詳細に検討されている。

(10)

基準となる評価時点は,剰余共同制開始時である。婚姻中に取得した財産 であっても,死因処分,将来の相続権を考慮しての財産取得,贈与,独立 資金(Ausstattung)として取得した財産は,債務を控除した後に当初財産 に加算される(BGB 条 項)。これらの財産は,夫婦の寄与・協力 によって取得したものではないことから,当初財産に加算することで,清 算の対象から除外する。これらの財産は,取得した時点での価額を基準と して算定する。また,債務は積極財産の額を超えて控除することができ (BGB 条 項),計算上当初財産はマイナスとなる。「マイナスの当初 財産(negative Anfangsvermögen)」と呼ばれ,ドイツでは, 年の改正 により導入されている。改正前の規定によれば,当初財産の算定に際して, 婚姻時に有している債務は,婚姻時にある積極財産の価額を限度に控除さ れることとなり,債務が超過している場合には,当初財産はゼロとして評 価されるにとどまっていた。当初財産の価額はマイナスにならないことか ら,婚姻中に取得した財産から婚姻時に有している債務の弁済に充てた場 合,弁済に充てた部分は剰余清算の算定では考慮されなかった。この問題 は,従来から,学説・実務では批判されており,連邦通常裁判所(BGH) も,立法的解決の必要性を指摘していた!。 終局財産は,剰余共同制終了時に有する積極財産から債務を控除した後 に,夫婦それぞれに帰属する財産と定義されている(BGB 条 項 文)。債務は,積極財産の額を超えて控除することができる(BGB 条 項 文)。夫婦の一方が,婚姻中に,不用意な無償の出捐や浪費,あ るいは他方配偶者に不利益になるように財産を減少させた場合には,その 減少額が終局財産に加算される(BGB 条 項)。また,夫婦の一方 の終局財産が,別居時点での報告の際に提示した財産よりも減少している ときは,夫婦の一方は,その財産減少が上述の事由に該当しないことを主 張し立証しなければならない(BGB 条 項 文)。 ! 改正の概要については,拙稿「ドイツにおける夫婦財産制改正の背景と概要」立命 館法学 ・ 号( 年) 頁以下参照。

(11)

終局財産の額の基準となる評価時点は,原則として剰余共同制終了時で ある。また剰余共同制は離婚判決の確定によって終了するが,離婚の場合 には,離婚申立て(Scheidungsantrag)が係属した時点が評価時点となる (BGB 条)。また,インフレなどによる貨幣価値の変動によって,当初 財産や終局財産の価額が変動し,清算請求権の価額に影響を与えることか ら,これを除外することが議論されてきた。これは,婚姻時に有しており, かつ離婚時にも有する財産が,インフレにより算定上価値が増加したこと となり,その増加分が終局財産に含まれることから,問題とされてきた。 しかし,現在のところ,法改正や判例による対応はなされていない!。 これらによって,夫婦それぞれの剰余が算定された後に,夫婦の一方の 剰余が他方のそれを超える場合に,その差額の 分の が,夫婦の一方か ら他方へ清算請求権(Ausgleichforderung)の形で与えられる(BGB 条 項)。この清算請求権は,剰余共同制終了とともに,したがって離婚 の場合には離婚判決が確定したときに発生する。この時点で,相続可能で ありまた譲渡可能となる(BGB 条 項 文)。 夫婦の一方の死亡による夫婦財産制の終了の際には,「相続法上の解決」 が行われる。ここでは,剰余に関する画一的な清算が行われ,生存配偶者 の法定相続分が 分の 増加する(BGB 条)。 フランスにおける後得財産参与制は,ドイツの剰余共同制と極めて類似 しているが,財産の処分制限と財産評価方法が異なる。後得財産参与制で は,清算の対象となる財産の処分を制限する規定は設けられていない。し かし,家族が実質的に共同生活を営んでいる住居(「家族の住居(logement de la famille)」)や家財道具(meuble meublant)については,夫婦の一方 ! この議論は,ロベルト・バッテス(Robert Battes)教授を中心に展開されてきた。 年に開催された第 回ドイツ法曹大会(Deutscher Juritstentag)においても議論 されたが,決議には至っていない。さらに, 年には,「剰余清算及び後見法の改 正に関する法律(Gesetz zur Änderung des Zugewinnausgleich und Vormundschaftsrechts vom . . , BGBl, , Ⅰ, Nr. , S. )」によって,剰余共同制が改正され たが,この議論は改正には反映されていない。

(12)

による処分が制限されている(フランス民法(以下,「CC」) 条)。 ドイツ・フランス両国共に,夫婦各自が婚姻中に取得した利得(ドイツ 法では「剰余」,フランス法では「後得財産」)を算出し,その各自の剰余 (後得財産)を比較し,剰余(後得財産)が少ない方にその差額の 分の について,清算(参与)債権を認める形で夫婦財産の清算を実現する。 一見すると同様に見える清算(参与)債権の算出プロセスであるが,厳密 には両国の利得の捉え方に違いがある。この考え方の違いは,財産評価の 算定期日に表れる。ドイツ法では,「剰余」として示される婚姻中の利得 は,終局財産である剰余共同制終了(離婚)時の財産額から当初財産であ る剰余共同制開始(婚姻)時の財産額を控除したものである。「剰余」は, 剰余共同制期間中(婚姻中)に清算の対象となる財産が計算上どれだけ増 加したかを示すものであり,夫婦の寄与・協力に依らない価値増加分がこ れに含まれることになる。ドイツ法の「剰余」の算出は,簡潔さをより強 調したものといえよう。 他方,フランス法において「後得財産」は,後得財産参与制開始時(婚 姻時)の当初資産(patrimoine originaire)と後得財産参与制終了時(離婚 時)の最終資産(patrimoine final)の差で表されるが,その財産評価時は, ともに後得財産参与制終了(離婚)時が基準となる(当初資産:CC 条,最終資産:CC 条)。ドイツ法で議論されているインフレ等の貨 幣価値の変動による清算額への影響は,ドイツ法が,当初財産の評価時点 を「夫婦財産制の開始時」とし,終局財産の評価時点を「夫婦財産制の終 了時」としていることから生ずる問題である。他方,フランスでは,当初 資産及び最終資産の評価時点は,夫婦財産制終了時としていることから, フランスではこのような問題は生じない。 また,当初財産・当初資産及び終局財産・最終資産の構成も異なる。両 国共に,当初財産・当初資産及び終局財産・最終資産は,夫婦各自の積極 財産から債務を控除して算出する。ドイツ法では,婚姻前に有していた 財産の他に婚姻中に無償で取得した等特定の取得経過によって得た財産が

(13)

これに含まれ,清算の対象外となるが,フランス法では,これらに加え て,慰謝料などの一身専属的な権利も含めている。他方,フランス法で は,当初資産の果実や当初資産に含まれる財産を婚姻中に贈与した場合 には,これらの財産は当初資産に含めない(CC 条 項)。ドイツ法 では,終局財産には財産減少行為(BGB 条 項)が加算されるが, フランス法では,当初資産に含まれない財産であり,かつ他方の同意を得 ることなく行われた贈与や詐害的な譲渡である場合に加算される(CC 条)。 婚姻時に債務超過となっている場合,当初財産・当初資産は計算上マイ ナスとなる。ドイツ法では,当初財産をマイナスとなることを認めている が(「マイナスの当初財産」,BGB 条),フランス法では,概念上「マ イナスの当初財産」を認めておらず,マイナスの価格分を終局財産に加算 する方法を採用している(CC 条 項)。

.選択的剰余共同制(Wahl-Zugewinngemeinschaft)

本条約の「選択的剰余共同制」は,ドイツの剰余共同制とフランスの後 得財産参与制を基にしているものの,両者には相違点もあることを確認す ることができる。ここでは,「選択的剰余共同制」と,ドイツ及びフラン スの国内法である剰余共同制及び後得財産参与制と異なる点を検討するこ とで,この夫婦財産制に接近するとともに,適用に際して生じうる問題点 について指摘したい!。

! 問題点の整理については,Eva Becker, Ein europäsicher Güterstand ? -Der deutsch-französische Wahlgüterstand, ERA Forum , , S. ff., Dieter Martiny, Der neue deutsche-französische Wahlgüterstand-Ein Beispiel optionaler Familienrechts-vereinheitlichung, ZEuP , S. ff., Michael Stürner, Der deutsche-französische Wahlgüterstand als Modell für die europäische Rechtsvereinheitlichung, JZ , S. ff. を参照した。

(14)

)適用範囲 ⑴ 人的要件 選択的剰余共同制は,どのようなカップルに適用されるのだろうか。選 択的剰余共同制は固有の抵触法規定を有していないことから,国際私法の 規定によって,ドイツ法もしくはフランス法が準拠法と指定されたカップ ルが,選択的剰余共同制を選択することができる。本条約は,①フランス に住むドイツ人夫婦,②ドイツに住むフランス人夫婦,③ドイツまたはフ ランスに住むドイツ人とフランス人の夫婦を念頭において規定しているよ うである!。しかし,規定上は,ドイツ国籍またはフランス国籍を有する者 に限られず,また国際結婚夫婦にも限られていないことから,ドイツもし くはフランスに常居所を有するドイツ人夫婦もしくはフランス人夫婦も選 択的剰余共同制を選択することができる。 本条約の文言によれば,「夫婦」のみが対象となる。したがって,生活 パートナーシップ(Lebenspartnerschaft)や連帯市民協約(PACS)は,こ れに含まれないと解されている"。しかし,国内法に基づいて,適用範囲を 拡大することが認められている。ドイツでは,生活パートナーシップの当 事者は,法定夫婦財産制である剰余共同制だけでなく他の夫婦財産制を選 択することもできるとされていることから(生活パートナーシップ法 条),選択的剰余共同制を選択することができると解されている#。 ⑵ 夫婦の財産関係に関する規定と婚姻の効力 夫婦の財産関係に関する法制度を構築する上での問題は,財産の帰属・ 管理等を定める夫婦財産制とその他の婚姻の効力及び離婚効果の区別にあ ! Stürner, a. a. O.(Fn. ), S. .

" Thomas Klippstein, Der deutsche-französische Wahlgüterstand der Wahl-Zugewinn-gemeinschaft, FPR , S. .

# Torsten Jäger, Der deutsche-französische Wahlgüterstand der Wahl-Zugewinn-gemeinschaft-Inhalt und seine ersten folgen für die Gesetzgebung und Beratungspraxis-, DNotZ , S. .

(15)

る。これらの区別は,一義的なものではなく,国や法域によって流動的 なものとなっている。同じ大陸法系の夫婦財産制であっても,法典編纂の 方法として,どのような形で婚姻によって生ずる権利や義務を規定する か,すなわち婚姻の効力と夫婦財産制のどちらに規定を設けるかによっ て,夫婦財産制の体系は異なるものとなる。たとえば,フランスでは,夫 婦財産制にかかわらず適用される,強行性を持つ「基礎的財産制(régime primaire)」と「二次的財産制(régime secondaire)」とに区別され,前者に は,夫婦間の貞操・救護・扶助義務(CC 条)や婚姻費用分担義務(CC 条)などが含まれる。後者では,夫婦が婚姻中に取得した財産の帰属・ 管理について規定している。また,ドイツでは,このような区別はなく, 夫婦間の扶養義務(BGB 条)も,婚姻の効力に含まれるものとして 規定されている。 この点,本条約は,これらの夫婦の財産関係に関する全ての規定を対象 としておらず,他の夫婦財産制とならんで適用される夫婦財産の清算であ る剰余への関与・参与を規定することを目的とするものである!。したがっ て,ドイツでの年金等の清算(Versorgungsausgleich)の対象となる老齢年 金財産(Altervorsorgevermögen)やフランスでの扶養法に含まれる清算給 付(prestation compensatoire)は,選択的剰余共同制の対象とはならない としている"。 ⑶ 夫婦財産制の選択 選択的剰余共同制は,婚姻締結時または婚姻中の夫婦財産契約によって 生ずる(本条約 条 項)。本条約は,夫婦財産契約(及び公示)の形式 に関する規定を定めておらず,各国の実体法が定める形式に従うことにな

! Entwurf eines Gesetz zu dem Abkommen vom . Februer zwischen der Bundesrepublik Deutschland und der Französischen Republik über den Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinscahft, BT-Drucks. / .

(16)

る。夫婦財産契約は,ドイツ法及びフランス法においても公正証書によっ て締結する(BGB 条,CC 条)。また,選択的剰余共同制は,夫 婦財産契約の締結によって効力を生じ,その時点まで適用していた夫婦財 産制の変更に関する規定が,そのまま適用される(本条約 条 項)。し たがって,フランスでは,夫婦財産制変更の裁判所による許可が必要とな る(CC 条)。選択的剰余共同制の選択は,本条約の施行後可能であ り,それ以前に締結した夫婦財産契約は治 されない!。 )選択的剰余共同制の内容 選択的剰余共同制は, 年のドイツの剰余共同制の改正に際し,政 府から提案された改正草案を基に修正を加えている。選択的剰余共同制の 規定は,ドイツの剰余共同制とは異なる内容を規定しており,また夫婦の 財産関係に関する形成の自由は,ドイツ法よりも制限されている。すなわ ち,剰余清算債権の確定に関する規定(本条約 ∼ 条)は任意規定で あるが(本条約 条 項),その他の規定は,強行規定となる。 ⑴ 婚姻住居の保護 剰余共同制(BGB 条 項)及び後得財産参与制(CC 条 項) は,財産の帰属・管理については,別産制の原則を採用している。選択 的剰余共同制においても,この原則は維持されていることから,夫婦そ れぞれが自己の財産を所有・管理し,自由に処分することができる(本条 約 条 項)。しかし,一定の財産については,財産処分の自由が制限さ れる。 本条約 条によれば,家財道具及び婚姻住居を確保するための権利に関 する夫婦の一方の法律行為は,他方の同意のないときは,効力を生じない (同条 項)。住居の所有者であり,その住居を婚姻住居として提供してい ! Jäger, a. a. O.(Fn. ), S. .

(17)

る夫婦の一方は,他方の同意なしに,住居を有効に処分することができな いことになる。また,婚姻住居の維持に関する全ての法律行為が対象とな ることから,家族が生活する住居の賃借人である夫婦の一方は,単独で賃 貸借契約を有効に解約することはできないこととなる。この規定は,上述 のフランス法における婚姻住居の保護に関する規定(CC 条)と同様 であり,ドイツ法におけるそれよりもより包括的に保証することを目的と している!。他方,家財道具については,フランス法の「住居に備え付けら れた家具」(CC 条 項)だけでなく,ドイツ法同様,家族が共同で利 用する動産も含まれるとしている"。この点はフランス法よりも強く保護し ているといえよう。

ドイツ法では,BGB 条が財産全部(das Vermögen im ganzen)に対 する処分制限を設け,BGB 条が家財道具に関する法律行為について 一定の制限を規定している。前者は主に夫婦の一方の単独所有の土地が, 夫婦の一方の財産の重要な要素である場合にのみ,処分を禁止することが できるとしているだけである。婚姻住居の処分を制限する点では,BGB 条も機能的には類似しているが,他の国(法域)の夫婦財産制と比 較すると,ドイツ法には,夫婦財産制にかかわらず婚姻住居について規律 する一般規定を欠いていることが指摘されている#。本条約 条の保護は, ドイツ法が剰余共同制において予定する保護を大きく超えるものである。 このような財産管理,財産利用,財産処分の制限に関する規定は,選択的 剰余共同制の重要なポイントとして挙げられている。フランス法の立場か らは,特に婚姻住居の保護は,基礎的財産制の中で規定されており,夫婦 ! Meyer, a. a. O.(Fn. ), S. .

" Erläuternder Bericht zu Art. WZGA, BT-Drs. / , S. .

# Martiny, a. a. O.(Fn. ), S. . 夫婦財産制に関係なく,婚姻住居及び家財道具 の保護を対象とする規定として,別居及び離婚の際の家財道具及び婚姻住居の分配に ついての規定がある(BGB 条 a,b, 条 a,b)。これに対して,BGB 条は法政策上議論があるものの,多くの場合,婚姻住居が財産の主要な部分を占める ことから,さらなる保護規定は不要であるとの批判もある(Jäger, a. a. O.(Fn. ), S. .)。

(18)

の合意によって変更することができないとされていることから,このよう な保護については,もはや議論の対象とはならない!。他方で,ドイツ法に はこのような規定はなく,また実務では,婚姻住居は重要な意味を持つも のであり,より特別な保護が必要とされていることから,このような婚姻 住居の保護は,有益であると評価されている"。 これらの規定は,強行規定と解されていることから(本条約 条 項), 夫婦間の合意によって,これらを排除することは認められない。仮にこれ を認めた場合には,ドイツとフランスにおいて,選択的剰余共同制の法的 効力が異なるおそれもでてくる。ドイツにおいてもフランスと同様の効果 が生ずることとし,両国における選択的剰余共同制を一致することを保障 している。 このような処分制限に関する規定に違反した場合について,本条約では 法的効果を規定していない。法的効果については,各国の国内法によって 判断することになる#。ドイツ法では,法律に基づいて(BGB 条 項, 条 項),効力は生じないことになる。これに対して,フランス法で は,処分の失効の主張のためには,無効の訴えが必要となる(CC 条 項)。 夫婦の一方は,他方が同意することができない,または家族の利益から 正当化することなく同意を拒絶している場合,具体的には,疾病や不在の 場合に,裁判所から,他方の同意を要する法律行為を単独で行う権限を得 ! 選択的剰余共同制を適用することで,CC 条・ 条の適用が排除されるのか 否かは議論の余地があるとの指摘がある(Jäger, a. a. O.(Fn. ), S. .)。 " 賃貸住居を含む婚姻住居をより保護することは歓迎するが,実際には,現行の剰余 共同制が設ける保護(BGB 条, 条, 条 a,b, 条 a,b)で十分に 保護することができるのではないかとの指摘もある(Peter Gottwald, Die Versteckte Perle oder“Much Ado about Nothing”? -Gedanken zum neuen Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinschaft, in ; Alain-Laurent Verbeke, Jens M. Scherpe, Charlotte Declerck, Tobias Helms, Patrick Senaeve(ed.), Confronting the Frontiers of Family and Succession Law, Liber Amicorum Walter Pintens, , S. .)。

# Jäger, a. a. O.(Fn. ), S. ff., Klippstein, a. a. O.(Fn. ), S. ., Meyer, a. a. O. (Fn. ), S. .

(19)

ることができる(本条約 条 項)。 ⑵ 日常家事についての権限 夫婦の一方が単独で家政執行または子どもの必要のために契約を締結し た場合,ドイツ(BGB 条)やフランス(CC 条)においても,他 方は連帯責任を負う。選択的剰余共同制においても同様である(本条約 条)。本条約 条の文言は,「子どもの必要」も対象としていることから, BGB 条が対象とする範囲を超えており,CC 条を参照したものと されている!。本規定の文言は,「契約」のみを対象としているが,合意全 般に適用され,食費,衣料,住居やそれに類するものといった,あらゆる 典型的な家政執行行為がこれに含まれ,投資行為は含まれないと解されて いる"。また,夫婦の合意によって排除することはできない強行規定とされ ている(本条約 条 項)。 フランス法を基にした規定ではあるが,異なる点もある。例えば,フラ ンスでは,クレジット契約の際には,継続的な家政の保護に必要であるこ とが明らかな範囲・金額についてのみ連帯責任を負うと規定しているが (CC 条 項),これに該当する文言はない。本条約はクレジット契約 に関する規定がないことから,ドイツ法同様,家族の必要に適うときには, クレジットカードで購入した場合でも原則として連帯責任の対象となる。 これに対して,投資行為や不動産の取得に関する投資行為は,本条約 条 の適用外である。夫婦の一方が,支払義務を引き受ける場合,とりわけ夫

! Jäger, a. a. O.(Fn. ), S. ., Martiny, a. a. O.(Fn. ), S. . しかし,実際には, BGB 条の「家族の生活に必要なものを充足するため(zur angemmessenen Deckung des Lebensbedarfs der Familie)」の行為には,「子どもに必要なもののために(für den Bedarf der Kinder)」も含まれることから,両者に大きな違いはないのではないかとす るものもある(Gottwald, a. a. O.(Fn. ), S. )。

" Nina Dethloff, Güterrecht in Europa-Prespektiven für eine Angleichung auf kollisions-und materiellrechtlicher Ebene, in ; Herbert Kronke/Kareten Thorn(Hg.), Grenzen überwinden- Prinzipien bewahren, FS für Bernd von Hoffmann zum . Geburtstag( ), S. .

(20)

婦の生活態度からは明らかに不相応であり,かつ,契約相手方がこれにつ いて悪意もしくは知ることができた場合に,連帯責任が除外されている (本条約 条 項)。 ドイツ法では,「家族の生活に必要なものを充足するため」に該当する 法律行為については,当該行為を行った夫婦の一方の負担・権利となるだ けでなく,他方にとっての負担・権利ともなる。このことから,BGB 条の効力は,夫婦の一方による他方の代理の場合と類似する!。契約相手方 は,夫婦のどちらにでも,あるいは,双方に給付をして債務を免れること ができる。一方で,本条約 条は,フランス法(CC 条)と同様に, 代理(もしくは代理に類似する)構成を採らず,連帯責任のみを生じさせ るものである。また,ドイツ法と異なり,本条約 条は,当該行為に基づ く夫婦双方の共同の権利が生ずることはないことから,本条約 条の法的 性質は,債権者保護を目的とした規定であるといえる。また,ドイツ法で は,別居中には BGB 条は適用されないが(BGB 条),本規定は 別居中にも適用可能であり,より債権者を保護している。さらに,一定の 要件の下で,第三者への責任を制限することができるが(BGB 条 項),本条約 条には同様の規定が設けられていない。本条約 条 項は, 「支払義務」を負い,「夫婦の生活態度から明らかに不相応であり,かつ, 契約相手方がこれについて悪意もしくは知ることができたときは」,他方 は連帯責任を負わないと規定しているが,これらが認められるケースは少 なく,他方が責任を負う範囲は,ドイツ法が予定するものよりも広くなる。 このことから,適用範囲を狭く解する必要があるのではないかとの指摘が なされている"。 日常家事に関する法律行為について,当該行為を行っていない他方に連 ! しかし,法律行為を行った夫婦の一方も自ら権利を得,義務を負うこと,法律行為 を行う者が,他方のために行為をすることを表示する必要がないことから,「代理」と は異なる構成による理解も主張されており,BGB 条の法的性質について議論が ある。詳細については,Sprau, in ; Palandt, Bürgerliches Gesetzbuch, . Aufl., , § , Rn. .参照。

(21)

帯責任を生じさせ,夫婦間の合意によってこれを排除することができない とする点で,ヨーロッパの多くの国々の法制度と一致する"。しかし,夫婦 財産制に関連しない一般的・包括的な連帯責任を法定し,強行規定とする ことは,債権者に単に 人目の債務者を用意するだけであり,夫婦の自律 がますます要求される現代において必要なのか,その意義の再検討の必要 性を指摘するものもある#。 ⑶ 当初財産 剰余は,夫婦の一方の終局財産が,その者の当初財産を超えた価額であ る(本条約 条 項)。しかし,ドイツの剰余共同制とフランスの後得財 産参与制では,当初財産に含まれる対象財産や価額の算定期日が異なるこ とから,どのように調整するのかが問題となった。ドイツ法では,夫婦財 産制の開始時と夫婦財産制の終了時の財産状況を単純に比較し,当初財産 及び終局財産それぞれにおいて,例外的な扱いを極力排除し,簡便に剰余 を算定しようとすることから,このドイツ法の算定モデルを基本として, どの程度修正するのかが議論となった。 選択的剰余共同制の当初財産を規定するにあたり,本条約は,まずドイ ツ法とフランス法とが一致できる文言を採用し,当初財産は,夫婦財産制 開始の日に夫婦のそれぞれが有していた積極財産であるとしている(本条

! Christoph-Eric Mecke, Güterrechtliche Grundsatzfragen-Zur Legitimation und Dogmatik güterrechtlicher Teilhabe im Zeichen gesellschaftlichen Wandels und europäischer Harmonisierungsbestrebungen, AcP ( ), S. . " フランス以外にも,ベルギー(ベルギー民法 条),ポーランド(ポーランド家 族法典 条 項),オランダ(オランダ民法典 条 項)が連帯責任のみを生じさ せている。スペイン(スペイン民法 条 項)では,他方配偶者の財産のみが責 任対象となり,オーストリア(オーストリア一般民法典 条 項)は,他方配偶者 のみが責任を負う。他方,ドイツ法同様に夫婦双方に権利が帰属するとするものに, デンマーク(デンマーク婚姻効果法 条 項),ノルウェー(ノルウェー婚姻法 条)がある。 # ド イ ツ 法 に お い て 同 様 の 議 論 を 展 開 す る も の に,Gernhuber/Coester-Waltjen, Familienrecht . Aufl., , § Rn. , S. .

(22)

約 条 項)。夫婦の一方が夫婦財産制の開始時に債務を有する場合は, ドイツ法同様に,債務が積極財産を超過する場合であっても,当初財産に おいて考慮し,「マイナスの当初財産」を認める(本条約 条 項 文)。 清算対象とはならない財産のカテゴリーを設けるのではなく,特定の取得 経過による財産を当初財産に加算することで,剰余清算の対象外としてい るのである。特に,夫婦の一方が,婚姻中に相続もしくは贈与によって取 得した財産がこれに該当する(本条約 条 項 文)。この点,ドイツ法 (BGB 条 項)及びフランス法(CC 条)と一致している。また, 例えば,婚姻中に相続債務を取得した場合,この債務が積極財産を超過す る場合であっても,当初財産で考慮する(本条約 条 項 文)。夫婦は, 夫婦財産契約締結時に自己の当初財産に関する目録を提示する(本条約 条 項)。提示がないときは,当初財産はなかったものと推定される(本 条約 条 項)。これらの規定は,ドイツ法(BGB 条)を基にして いる。 ① 当初財産からの贈与 当初財産に含まれる財産のうち,夫婦の一方が,婚姻期間中に直系血族 へ贈与した財産は,当初財産に加算しない(本条約 条 項 号)。また, 終局財産に加算されることもない(本条約 条 項 号b)。このような 規定は,フランス法(CC 条)を参照している。しかし,この当初財 産に含まれていた財産の価値が増加し,その増加が当初財産とは無関係に 生じた場合には,その増加分は終局財産に加算される。このような複雑な 算定方法は,ドイツとフランスの算定方法の妥協であり,特にドイツには 重大な問題を提示している。ドイツの算定方法は,婚姻時(夫婦財産制開 始時)の財産状態と離婚時(夫婦財産制終了時)の財産状態を対照するも のであり,清算方法の簡明さを優先させたものである。極力簡便に剰余を 算定しようとするドイツの算定方法からは,かなり複雑なものになってい る。

(23)

② 慰謝料 本条約では,慰謝料を当初財産に含めることを明らかにしている。これ によって,夫婦の一方の一身専属な請求権である慰謝料について,清算の 対象となることを防いでいる(本条約 条 項)。これは,フランス法と 同様の方法を採用している。他方,ドイツでは,BGB 条 項の例外 事由に含まれないことから,慰謝料は終局財産に含まれ,清算の対象とな る!。慰謝料を当初財産に加算することを巡る議論は,これまでも議論され ており, 年の改正においても議題として取り上げられていたが,こ の提案は否定されている"。 ⑷ 当初財産の評価方法 当初財産の価格の評価期日については,フランス法は,原則として,夫 婦財産制終了の時の価額に基づいて(CC 条),当初財産の価格を算 定する。これに対して,ドイツ法では,夫婦財産制開始時を基準としてい る(BGB 条 項)。そこで本条約では,両国の合意を得るために, つの異なる規定を設けている。 第 に,夫婦財産制開始(婚姻)時に存在する対象財産(例えば,絵画 や有価証券)は,その当時の価額に基づいて算定する(本条約 条 項 号)。したがって,これらの財産に夫婦財産制終了までに価値増加が生じ た場合には,この価値増加分は清算の対象となる。 第 に,夫婦財産制開始(婚姻)後に相続,贈与または慰謝料として取 得した,したがって,例外的な取得として当初財産に加算される財産は, ! ドイツの判例・学説等については,拙稿「ドイツにおける夫婦財産制の検討⑴」立 命館法学 号( 年) 頁以下。 " このような傾向は,ヨーロッパの多くの国々で採用されている。例えば,法定夫婦 財産制として所得共有制を採用するフランス(CC , 条),スペイン(スペ イン民法典 条 号),イタリア(イタリア民法典 条)では,清算の対象とな らない「固有財産」に含まれることが明記されている。また,約定夫婦財産制として 剰余共同制を挙げているポーランド(ポーランド家族法典 条 号)でも,慰謝料 請求権を清算の対象から除外している。

(24)

取得した日の価額に基づいて算定する(本条約 条 項 号)。 第 に,当初財産に含まれる不動産及び不動産同等の権利である(用益 権及び居住権の例外がある)は,原則として,夫婦財産制終了(離婚)時 の価額に基づいて算定する(本条約 条 項)。当初財産に含まれる不動 産及び不動産同等の権利を婚姻中に売却もしくは交換(代償)したときは, 売却もしくは交換(代償)した日の価額に基づいて算定する(本条約 条 項 文)。婚姻中に生じた財産状態の変化は,当初財産の評価の際には 考慮しない(本条約 条 項 文)。 上述の通り,後得財産参与制では,当初財産に含まれる対象財産は,原 則として,夫婦財産制終了(離婚)の日の価額に基づいて算出する(CC 条)。他方,ドイツ法では,夫婦財産制が開始した時(婚姻時)の価 額に基づいて算出する(BGB 条 項)。また,ドイツ法では,貨幣 価値の変動によって財産価値が増加した場合には,判例によれば,この増 加分は剰余とはならず,清算の対象から除外される。当初財産の算定時期 の違いは,以下のような結果をもたらすことになる。 例:夫が夫婦財産制開始(婚姻)時に , ユーロの株式を有し ていた。夫婦財産制終了(離婚)時にはその価値は , ユーロと なっていた。夫婦財産制終了時の夫の財産の総額(当該株式を含め) は , ユーロであった。 このような場合,ドイツ法では,当初財産は , ユーロとなり,終 局財産は , ユーロとなることから,剰余はゼロとなる。フランス法 では,当初財産の算定時期は夫婦財産制終了の時点となることから,夫の 当初財産は , ユーロとなり,終局財産は , ユーロとなる。し たがって,フランス法に従えば,夫は , ユーロの剰余を取得したこ とになり,妻(仮に,剰余を取得していないとすると)は, , ユー ロの剰余清算請求権を取得することになる。

(25)

このように当初財産の価値が減少した場合には,フランス法によれば, 財産の減少分が清算の対象に含まれることになり,減少のリスクを清算義 務者が負うことになる。 他方,当初財産の価値が増加した場合には,ドイツ法によれば,問題が 生ずる。 例:夫は,夫婦財産制開始(婚姻)時に , ユーロの不動産を 有していた。夫婦財産制終了(離婚)時には,当該土地の周辺が開発 されたことから,不動産の価値は , ユーロとなった。 ドイツ法では,当初財産 , ユーロ,終局財産(他に財産がない場 合には)は, , ユーロとなり,剰余は , ユーロとなる。妻 (仮に,剰余を取得していないとすると)は, , ユーロの剰余清算請 求権を取得することになる。他方,フランス法によれば,当初財産も , ユーロとなることから,剰余は存在しないことになる。このよう に当初財産の価値が増加した時には,ドイツ法の算定方法に従えば,夫婦 の寄与とは無関係に生じた当初財産の価値の増加に関与することなる。 本条約では,ドイツ法・フランス法双方の規定を考慮し,折衷的な規定 となっている。すなわち,本条約 条 項は,ドイツ法のモデルを採用し, 原則として,当初財産は,夫婦財産制開始(婚姻)の日を期日として,そ の時点での価値に基づいて評価すると規定する。他方,同条 項は,フラ ンス法を参照しており,不動産及びその他の物権は,用益権及び居住権を 除いて,夫婦財産制終了(離婚)の日を期日として評価するとしている。 したがって,不動産をはじめとするこれらの財産について,夫婦財産制終 了(離婚)までに価値増加が生じても,この価値増加分は清算の対象とは ならず,また価値減少についても,その減少分が清算の対象となることは ない。また,不動産以外の財産であっても,例えば,株式等のように,婚 姻中に価値が大幅に増加することが予想される財産も存在する。夫婦財産

(26)

制開始(婚姻)時の価値を基にすることから,消費者物価指数による修正 (本条約 条 項)がなされるものの,これを越えた分については清算の 対象となる!。 ⑸ 物価上昇の調整 婚姻が長期間に渡ることもあり,夫婦財産制開始時の価値で当初財産を 算定すると,現在の価値よりも少なく評価されることになり,計算上は価 値が上昇することになる。そこで,当初財産の算定の際に,インフレー ションによる物価上昇の調整が問題となる。ドイツの裁判例"では,当イン フレーションによる物価上昇を清算からは排除することで,この問題を解 決している。本条約では,インフレーションの解決のために固有の規定を 設けている。夫婦財産制終了前の時点で対象財産を評価するときは,本条 約 条 項及び 項によって算定された価額を,締約国の一般消費者物価 の価額変更率によって算出された価額に適合させることになる(本条約 条 項)。これらの規定は,債務の評価についても適用する(本条約 条 項)。 ⑹ 終局財産 本条約の終局財産は,ドイツ法(BGB 条)の構造に類似している。 夫婦財産制終了時に夫婦それぞれが所有する積極財産から債務を控除した 価額が終局財産となる(本条約 条 項)。債務が積極財産の価額を超過 している場合でも,終局財産において考慮する(本条約 条 項 文)。 当初財産同様,計算上マイナスとなる「マイナスの終局財産」が生ずるこ

! 不動産のみを例外として扱うことを批判するものに,Rembert Süß, Der Deutsch-Französische Güterstand der Wahl-Zugewinngemeinschaft als erbrechtliches Gestaltungs-mittel, ZErb , S. . なお,このような財産は,清算の対象から除外することを 予め夫婦で合意しておくべきであるとするものもある(Gottwald, a. a. O.(Fn. ), S.

.)。

(27)

ともありうる。この点,ドイツ法と同様である。債務の清算は生じない。 財産の不当な処分・隠ぺいを防ぐために,特定の財産については,もは や存在していない財産であってもその価値を終局財産に加算する(本条約 条 項)。その際,夫婦の一方が贈与した財産が問題となるが,夫婦の 暮らし向きから適切である場合は終局財産に含まれず,また当初財産に含 まれていた財産を直系血族に贈与した場合も,終局財産に含まれない(本 条約 条 項 号)。ただし,当初財産に含まれていた財産を直系血族に 贈与した際に,当該財産の改良により価値が増加し,この増加が夫婦財産 制の期間中に当初財産とは無関係の手段によって生じた場合は,この増加 分は他方の協力によると評価され,終局財産に加算することになる。 夫婦の一方の贈与,詐害的な意図の下で売却した場合,または,浪費し た場合にも,これらの財産も終局財産に加算される(本条約 条 項 号・ 号)。ただし,贈与,不利にする意図を持った売却及び浪費が,夫 婦財産制の終了より 年以上前に生じた場合,または他方がこれらにつ いて承認している場合は,終局財産に加算しない(本条約 条 項後 文)。 ドイツ法では,夫婦間の贈与については,事前に財産を受領したものと して,剰余算定の際に,これを考慮して剰余清算請求権を算定することが できる(BGB 条)。本条約では,このような規定がないことから, 夫婦間の贈与を終局財産に加算した上で,剰余清算債権を算定することに なる。 ⑺ 終局財産の評価方法 終局財産の評価の際には,積極財産も債務も,夫婦財産制終了時に有し ていた価値を基礎において算定する(本条約 条 項)。ドイツ法(BGB 条)と類似しているが,離婚については,離婚申立ての送達日(本 条約 条)が基準となる。この点,ドイツ法は離婚申立ての法的係属日 (BGB 条)としている。詐害的な意図の下で売却した,または,浪費

(28)

した対象財産は,贈与,不利にする意図をもった売却もしくは浪費の時点 での価値に基づいて評価する(本条約 条 項)。本条約 条 項 号 b)の価値上昇は,対象財産の贈与の時点での価値に基づいて評価する。 本条約 条 項の価値は,当初財産と同様に,締約国の消費者物価によっ て算出された価格変動率に基づく価額に適合する(本条約 条 項)。 離婚または他の理由による夫婦財産制の解消については,固有の算定期 日を規定している。ここでは,申立てが裁判所に到達した時点での夫婦の 財産の構成及び価値に基づいて剰余清算債権を算定する(本条約 条)。 当初財産及び終局財産の定義・評価方法からは,本条約の財産評価は, 原則として,ドイツ法のモデルに近くなり,フランス法の評価方法,すな わち,当初財産に属する財産の価額を夫婦財産制の終了時の価額に基づい て算定することは,例外的に,不動産に関して認められることとなる。ま た,本条約 条 項及び 条 項は,締約国の消費者物価指数の平均値 に基づいて,貨幣価値の変動による価額の上昇を清算から排除することを 明記している。この規定の背景には,不動産は,通常夫婦の財産の要素も しくは大部分を占めるものであり,このような財産の価値増加に対して, 他方が関与していない以上,清算の対象に含めるべきではないという考え がある!。夫婦の寄与・協力に基づかない財産の価値増加分を清算の対象か ら除外することは,剰余共同制の基本理念に合致しており,これまで簡便 な清算方法を優先してきたドイツ法のあり方を改めて検討する必要性が指 摘されている"。 本条約の財産評価は,婚姻中の夫婦の寄与とは無関係にある財産価値の 増加を清算対象から除外することにある。例えば,不動産について婚姻中 の夫婦の寄与によって財産価値が増加した場合には,この増加分は清算の

! Erläuternder Bericht zu Art. WZGA, S. ., Meyer, a. a. O.(Fn. ), S. . " Dethloff, a. a. O.(Fn. ), S. .

同様の問題点を指摘するものに,Gernhuber/Coester-Waltjen, a. a. O.(Fn. ), § Ⅴ Rn. , S. . Dieter Schwab, Der Zugewinnausgleich in der Krise, in ; Europas universale rechtsordnungspolitische Aufgabe im Recht des dritten Jahrtausends, FS für Alfred Söller, , S. f.

(29)

対象となり,本条約においてもフランス法同様,次のような方法で剰余清 算請求権を算出する。 例:夫は,夫婦財産制開始時に , ユーロの土地を所有し,婚 姻中に家屋を建築した。夫婦財産制終了時には,家屋なしの土地は , ユーロであり,家屋付きの土地の価格は , ユーロの価 値があった。 この場合,当初財産の評価は,家屋のない土地のみの価格( , ユー ロ)を基に行われ,終局財産の評価は,家屋を含めた土地の価格( , ユーロ)を基にする。婚姻時から夫婦財産制終了時までに生じた寄与とは 無関係の財産増加分( , ユーロ)を清算対象から除外する。したがっ て,夫の剰余は , ユーロとなり,妻(仮に,剰余を取得していない とすると)は, , ユーロの剰余清算請求権を取得することになる。 ⑻ 清算債権 剰余清算の請求権は,夫婦の一方の剰余が,他方の剰余を超過した場合 に成立する。剰余の超過分の半額を清算請求債権として,金銭債権として 請求することができる(本条約 条 項)。裁判所は,公平に適う場合に は,夫婦の一方の申立てに基づいて,清算のために清算義務者が所有する 財産を清算請求権者に譲渡するよう命ずることができる(本条約 条 項)。同様の規定はドイツ法・フランス法双方に設けられているが,申立 権者は,ドイツでは清算請求権者(BGB 条)のみであり,またフラ ンスでは清算義務者(CC 条)とされている。公正性の判断において は,夫婦双方の利益を考慮しなければならないとされている!。 本条約は,清算請求権の上限額を設けており,夫婦の一方が剰余清算の ! BT-Drucks. / S. .

(30)

実行の後に,原則として,剰余清算債権は,その金額を算定する基準とな る時点において債務を控除した後に現存する清算義務者の財産の価値の半 分を上限としている(本条約 条)。剰余清算債権の上限は,浪費された 場合において( 条 項の場合において,同条同項 号 b)の例外によっ て),終局財産に加算されるべき価額の半分を増加する。 この規定は,ドイツにおける 年の剰余共同制改正の議論におい て,当初改正草案の中で提案されていたものと同様の規定である。 年の改正前の規定では,「夫婦財産制の終了時に債務を控除して存在する 財産」(BGB 旧 条 項)となっていた。しかし,当初財産や終局財 産はマイナスになることはなかったことから,算定上,剰余が債務を控除 した後に現存する終局財産を超えることはなく,清算義務者の終局財産の 半分以上の金額になることは想定されていなかった。しかし, 年の 改正に際し,算定上当初財産や終局財産がマイナスとなる可能性があるこ とから,上限額についての議論があった!。当初改正草案では,本条約 条と同様のものであった。剰余共同制の理念からは,婚姻期間中に債務の 返済に充てた金額も剰余に含まれるべきであり,たとえ当初財産や終局財 産がマイナスと評価することが可能となったとしても,上限は設けるべき ではないとする批判があり",最終的には立法化することはなかった。今後 のドイツでの議論に影響を与えることが予想される。 剰余清算の請求は,夫婦の一方が夫婦財産制の終了を知ったときから 年間これを行わないときは,時効により消滅し,夫婦財産制終了の時から 年を経過したときも,同様である(本条約 条)。 夫婦財産制の終了後,夫婦の一方が婚姻の解消または剰余の事前清算を 申し立てたときには,夫婦は,他方に対して,自己の当初財産及び終局財 産の状態に関する報告を提出する義務を負う。証拠資料及び財産目録を請 ! 立法説明書においても,同様の説明がなされている(BT-Drucks. / S. .)。 " Nina Dethloff, Gutachten A für den . Deutsche Juristentag, , S. A. f.

(31)

求することができる(本条約 条 項)。婚姻が危機的な状況において, 清算の対象になる財産を隠ぺいしようとするものを防ぐためのものであ り, 年のドイツ法に改正でも,報告義務の適用範囲を拡張している!。 本条約もドイツ法(BGB 条)と同様の規定となっているが,ドイツ 法と異なり別居開始時点での財産についての報告や個々の財産の価値の算 定を求める価値算出請求権が設けられていないことから,実効性に疑問が ある。 裁判所は,債務者の申立てにより,即時の支払いが債務者にとって不公 平に苛酷であるとき,とりわけ,債務者が,自己の経済的な生活基盤を構 成する対象財産の引き渡しを強制されているときは,剰余清算債権の支払 いを猶予することができる(本条約 条 項)。猶予された債権には,利 息を付さなければならない(本条約 条 項)。 夫婦の一方が自己の財産を管理することにより,剰余清算債権の算定の 際に他方の権利を侵害するときは,他方は,事前の剰余の清算を請求する ことができる(本条約 条 項)。これは,とりわけ,本条約 条 項 による仮定的な加算をもたらす場合に適用される。ここでは当然ながらこ のような処分の懸念が引き合いに出される。申立てを認容する裁判の確定 により,ドイツ法においてもフランス法においても別産制が開始する(本 条約 条 項)。 選択的剰余共同制は,ドイツ法・フランス法とも異なり(BGB 条, CC 条),清算債権の減額・消滅させる衡平条項を設けておらず,ど のような場合であっても,算定手続によって算出された金額の清算が行わ れることになる。 ! ドイツ法の概要については,拙稿「夫婦財産の清算と財産開示制度∼ドイツ法を参 考に∼」日本家族〈社会と法〉学会編『家族〈社会と法〉』 号( 年) 頁。

参照

関連したドキュメント

This is a consequence of a more general result on interacting particle systems that shows that a stationary measure is ergodic if and only if the sigma algebra of sets invariant

Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05

We solve by the continuity method the corresponding complex elliptic kth Hessian equation, more difficult to solve than the Calabi-Yau equation k m, under the assumption that

In [9], it was shown that under diffusive scaling, the random set of coalescing random walk paths with one walker starting from every point on the space-time lattice Z × Z converges

In Section 3, we show that the clique- width is unbounded in any superfactorial class of graphs, and in Section 4, we prove that the clique-width is bounded in any hereditary

Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and

We describe a generalisation of the Fontaine- Wintenberger theory of the “field of norms” functor to local fields with imperfect residue field, generalising work of Abrashkin for

Shen, “A note on the existence and uniqueness of mild solutions to neutral stochastic partial functional differential equations with non-Lipschitz coefficients,” Computers