オブザーバ
状態フィードバックにはすべての状態変数の値が必要であった.しかしながら,システ ムの外部から観測できるのは出力だけであり,すべての状態変数が観測できるとは限らな い.そこで,制御対象システムの状態変数を,システムのモデルに基づいてその入出力信 号から推定する方法を考える.1. オブザーバとは
n 次元m 入力r 出力線形時不変システム x Ax Bu y Cx (1) の状態変数ベクトルx の推定値を ˆx として,状態方程式 ˆ ˆ x Ax Bu (2) を考える.状態変数x とその推定値 ˆx の推定誤差を ˆ e x x (3) と定義すれば, ˆ ˆ ( ) e x x A x x Ae (4) ( )t eAt (0) e e (5) に従って,初期推定誤差e(0)から推定誤差は遷移する.ゆえに,lim ( ) tet 0 になるために は,制御対象システムが安定である場合であり,不安定な場合はe( )t は発散する.また, lim ( ) tet 0 であってもその収束の速さは行列Aの極に依存する. そこで,式(2)を ˆ ˆ ( ˆ) ˆ ˆ x Ax Bu G y y y Cx (6)( ) e A GC e (7) ( ) ( )t eA GC t (0) e e (8) となる. ゆえに,行列A GC の極のすべての実部が負になるように行列G を選ぶことができれ ば,lim ( ) te t 0となる.このような式(6)のシステムをオブザーバ(状態オブザーバ,状態 観測器)という.また,行列G をオブザーバゲインとよぶ. 定理 式(1)で与えられるシステムに対して,式(6)のオブザーバが構成できるための必要十 分条件は,このシステムが可観測であることである. これらは,状態フィードバック制御則における極配置と似た考え方である. B ( )t u C ( )t x
A ( )t x B
xˆ( )t C A ˆ( )t x ( )t y ˆ( )t y G ( )t e オブザーバ 図 1 オブザーバの構成2. オブザーバの設計法
システムを可観測正準形に変換し,極配置によってオブザーバゲインを求める. n 次元m 入力 1 出力線形時不変システム y x Ax Bu cx (9) が可観測なシステムであれば,変換行列TO(xT xO )1 2 1 2 3 1 1 1 0 1 0 1 0 0 n n a a a a a a L , 2 1 O n n c cA M cA cA (11) によって, O O O y x A x B u c x (12) 0 1 1 2 1 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 O O O n a a a a A T AT ,BO T B O (13) 1 0 0 0 1 O O c cT (14) と可観測正準形に変換される.このとき, 0 a , a ,…, 1 an1は,もとの制御対象システムの特 性方程式 1 1 1 0 0 n n n s s a s a s a I A (15) の係数である. この可観測正準形にオブザーバゲインgO gO1 gO2 gOnTとするオブザーバ ˆ ˆ ( ˆ) ˆ ˆ O O O y y y x A x B u g c x (16) を構成すると,推定誤差e x x ˆの微分方程式は ( O O O) e A g c e (17) となり,この微分方程式の特性方程式は
0 1 1 2 2 3 1 1 2 1 2 3 1 2 0 1 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 ( ) ( ) ( ) 0 O O O O O O n On n n n On O O O a g a g a g s a g s a g s a g s a g s a g I A g c (18) となる. 一方,望ましいと考える極を 1 , ,…, 2 と与えるなら,上の特性方程式は n 1 2 (s)(s ) ( sn)0 (19) とならなければならない.したがって,式(19)を展開し,式(18)と係数の比較を行えば,可 観測正準形のオブザーバゲイン T 1 2 O gO gO gOn g を求めることができる. 最後に,可観測正準形のオブザーバゲインg から,もとの制御対象システムのオブザーO バゲインg は,以下のように計算できる. 1 O O g T g (20) 実際のオブザーバゲインの計算には,制御対象システムをいちいち可観測正準形に変換 する必要はないことに注意する.ただし,変換行列 O T の計算は必要である.
3. 最小次元オブザーバ
前節までで述べたオブザーバは同一次元オブザーバといい,状態全体を推定している. しかし,実際は出力によって状態の一部は直接観測できるので,これまで推定する必要は ない.このことから,次元を下げたオブザーバ,最小次元オブザーバが定義される. n 次元m 入力r 出力線形時不変システムを考える. x Ax Bu y Cx (21) r R y は観測できるので,rankC rであるならば,n 次元状態変数ベクトルx Rnのうn n R C T D (22) とする相似変換 x Tx (23) を考える.この相似変換によって, x Ax Bu y Cx (24) 1 A TAT ,B TB,C CT1 (25) のように式(21)のシステムは変換されるが, 1 r C CT I 0 (Irはr r の単位行列) (26) であることに注目して,式(24)のシステムを 1 11 12 1 1 2 21 22 2 2 1 1 2 r x A A x B u x A A x B x y I x x 0 (27) のように分解する.ここで,A11 Rr r , ( ) 12 r n r R A , ( ) 21 n r r R A , ( ) ( ) 22 n r n r R A , 1 r m R B , ( ) 1 n r m R B である.状態変数xのうち, 1 x は観測可能であるが, 2 x が観測不 可能である.そこで,状態変数 2 x を求めるオブザーバを 1 11 1 12 2 1 2 21 1 22 2 2 1 1 ˆ ˆ ˆ ˆ ( ˆ) x A x A x B u x A x A x B u G x x (28) と構成する.ここで,オブザーバゲインG Rr r である. 推定誤差 2 ˆ2 e x x (29)
22 12 ( ) e A GA e (30) となる.よって,オブザーバゲインG を調整してオブザーバの極を指定できる. なお,このオブザーバは状態の微分 1 x が含まれているので,実際にこれを計算すること はできない.そこで, 2 1 2 ˆ ˆ z x Gx x Gy (31) の変換を行えば, 22 12 22 21 12 11 2 1 [ ] [ ( )] [ ] z A GA z A G A G A G A y B GB u (32) となる.また,xˆ2 z Gyと表されるから,状態変数x の推定値 ˆx は 1 1 1 2 ˆ ˆ : G x y x T T Wz Vy z y x (33) によって与えられる.ただし, 1 n r W T I 0 , 1 r I V T G (34) である.
4. オブザーバと状態フィードバック制御の併合
可制御な線形時不変システムは状態フィードバックによって任意の応答性で制御ができ たが,そのためにはすべての状態変数の利用が必要であった.よって,出力によって一部 の状態変数しか観測できないときには,状態フィードバックは適用できない.そこで,オ ブザーバを併用し,ここから得られる状態の推定値を用いて状態フィードバック制御を行 うことを考える. 可制御かつ可観測なn次元m入力r出力線形時不変システムを考える. x Ax Buˆ ˆ ( ˆ) ˆ ˆ x Ax Bu G y y y Cx (36) とし,状態変数の推定値x に対する状態フィードバック制御則を適用する. ˆ ˆ u Fx v (37) この閉ループ系の安定性を調べる.閉ループ系の状態方程式は以下のようになる. ˆ ˆ x A BF x B v GC A BF GC x B x (38) 推定誤差e x x を用いて,上式の状態変数をˆ T ˆTT x x から T T T x e に変換する座標変 換を考える. ˆ ˆ x x x T e x x x , : I T I I 0 (39) すると, 1 x A BF x B T T T v e GC A BF GC e B A BF BF x B v A GC e 0 0 (40) このシステムの安定性を調べるために,特性多項式を求めると, s s s s I A BF BF I A BF I A GC I A GC 0 (41) となる.すなわち,同一次元オブザーバを用いた状態フィードバック制御による閉ループ 系の極は,状態フィードバック制御系の閉ループ極と同一次元オブザーバの極からなる. したがって,この2種類の系が安定であれば,両者を合わせたシステムも安定である.ま た,式(41)は状態フィードバック制御系の極と同一次元オブザーバの極を独立に任意に設 定することができる. 分離定理 同一次元オブザーバを用いたフィードバック制御系において,フィードバック
一般に,オブザーバゲインを設計する際,フィードバックの設計で設定する閉ループ極 よりオブザーバの極がより左半平面に存在するようにする.なぜなら,オブザーバによる 状態の推定が,フィードバックによる状態の収束より速いほうが好ましいからである.