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行動経済学 第5巻 (2012)

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国民年金保険料納付行動と年金額通知効果*

四方 理人

a

,駒村 康平

b

,稲垣 誠一

c

,小林 哲郎

d 要 旨 本研究は,Web アンケート調査により,国民年金の給付額に対する知識が保険料の納付行動へ与える影響につ いての分析,および,国民年金給付額の通知が,潜在的な年金保険料の支払い可能額にどのような影響を与えるか についての分析を行う.分析の結果,国民年金の満額の年金額を誤って理解している場合,未納確率が高くなるこ とがわかった.そして,サンプルを 2 グループに分け,一方には満額の年金給付額を通知し,他方には通知しな いという操作を行い,それぞれについて最高でいくらの保険料の支払いが可能かを調べる通知実験を行った.その 分析結果から,1) もともと給付額を高く予想していた場合において年金額の通知により保険料支払い可能額が低 くなるが,2) 通知そのものは,保険料支払い可能額を高める効果があることがわかった. (受付 2012 年 1 月 30 日,採択 2012 年 6 月 11 日) キーワード:国民年金,年金保険料未納問題,通知実験

JEL Classification Numbers: H55, D89

1. はじめに

本研究は,国民年金の給付額に対する知識が保険料の納 付行動へ与える影響についての分析,および,国民年金給 付額の通知が,潜在的な年金保険料の支払い可能額にどの ような影響を与えるかについての分析を行う. 現在,日本では国民年金保険料の未納者の増加が社会問 題になっている.その上,国民年金保険料は,平成 23 年 度現在の月 15,020 円から,段階的に引きあげられ平成 29 年度(2017 年)には 16,900 円となる1.このように,保 険料が上昇することで,今後より未納者が増加することが 危惧される.ただし,国民年金の制度設計として,税によ る国庫負担分があるため,平均寿命まで生存した場合の給 付の総額は,加入期間の保険料の支払額の総額を大幅に上 回る2.それでも国民年金の未納率が 40% 近くとなってい るのは3,年金の給付額等の情報が十分に知られていない ことが理由となっている可能性がある.そこで,本研究で は,国民年金の満額の受給額の通知実験を行うことで,受 給額の知識が国民年金保険料の支払いにどのような影響を 与えるかについての考察を行う.

2. 先行研究および分析課題

国民年金の未加入および保険料未納についての先行研究 では,主に保険料の納付行動を合理的選択と捉え,国民年 金の加入もしくは保険料の納付が分析の対象とされてき た.そこでの主な仮説として,第 1 に予想寿命が短い場 合に未加入が発生する「逆選択」,第 2 に現在の国民年金 は賦課方式がとられているため,若い世代ほど支払い保険 料に対する相対的な年金給付が低くなる「世代間不公平」, 第 3 に予算制約のため最適な加入期間を選ぶことのでき ない「流動性制約」が検討されてきた. 第 1 の「逆選択」についての先行研究として,鈴木・ 周 (2001) では病気がちの場合に未加入確率が高くなるこ とから「逆選択」と整合的な結果となっている.また,塚 原 (2005) および駒村・山田 (2007) では本人の主観的な予 想寿命は,実際の国民年金の納付行動には影響を与えてい ないものの,任意加入であった場合において国民年金の保 険料を支払うかどうかについての仮想的な質問に対して, 予想寿命が短くなるほど任意の場合でも保険料を支払うと 答える確率が低下することを明らかにしている. * 本研究は,「文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業(学 術フロンティア推進事業)」,「文部科学省人文学及び社会科学 における共同研究拠点の整備の推進事業」による助成を受けて 行った研究成果である.記して感謝する. a 関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構 e-mail: [email protected] b 慶應義塾大学経済学部 e-mail: [email protected] c 一橋大学経済研究所 e-mail: [email protected] d 国立情報学研究所情報社会相関研究系 e-mail: [email protected] 1 2004(平成 16)年 6 月 11 日公布の「国民年金法等の一部を改 正する法律」より. 2 厚生労働省『厚生年金・国民年金 平成 16 年財政再計算結果 (報告書)』によると,各世代が支払う年金保険料負担額に対す る受け取る年金給付の総額は,2005 年で 50 歳場合 3.4 倍,20 歳の世代で 1.7 倍となっている.どの世代でも,支払う額に対 して少なくとも 1.7 倍の給付額を受け取ることができる. 3 国民年金保険料の 2009(平成 21)年度末の納付率は 62.1% と なっている.

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次に,世代間不公平の問題は,現行の賦課方式の年金制 度において少子高齢化が進むと若い世代ほど「損をする」 という考えから,相対的に不利となる若い世代の未納・未 加入につながるとされる.鈴木・周 (2001) では,この要 因の影響が観察されるとしている.しかしながら,年齢と コホートを分解した阿部 (2003) および鈴木・周 (2006) で は,統計的にコホート要因の存在が確認されておらず,世 代間不公平仮説は支持されていない. 最後に,「流動性制約」要因では,多くの研究において, 低所得・低収入で未納・未加入となりやすいことが示され ており(阿部 2001,鈴木・周 2001,阿部 2003,鈴木・ 周 2006),「流動性制約」仮説は妥当していると言えよう. しかしながら,このような仮説においては,自身の支払 う保険料と給付される年金額が十分に理解されていること が前提とされていると考えられるが,前節で述べたよう に,国民年金においては税による国庫負担分があり,平均 寿命まで生存した場合の給付の総額は,加入期間の保険料 の支払額の総額を大幅に上回るため,保険料を納めること が合理的となると考えられる4 そこで未納・未加入が生じる理由の一つとして,年金の 給付額などの情報が十分に理解されていない可能性が考え られよう.この場合,未加入・未納は,国民年金の給付額 を低く見積もっていることにより生じると考えられる. また,年金給付額等を誤って理解しているだけではな く,給付額の情報そのものを知らないという情報のアクセ スの問題がある.この場合,年金保険料を納付することが 「得になるのか」どうかがわからず,知識が不足している ために未納・未加入が生じる可能性がある. このような年金制度についての知識や情報についての先 行研究として,臼杵・中嶋・北村 (2008) は,Web アン ケート調査により,厚生年金の制度の仕組みとその目的や 必要性を説明した通知を行うことで,厚生年金加入者の制 度への納得度が向上する傾向を確認している.また,臼 杵・中嶋・北村 (2005) は,面接調査による経済実験とし て,被験者に対して個別に年金の保険料と給付額を様々な パターンで通知を行い,通知の方法により仮に任意加入で あった場合の加入の意思が異なるのかについての実験を 行った.その結果,説明の文言による統計的な差はないが, 支払保険料より平均寿命での老齢年金支給額を上回ること を明確に通知することで,加入・納付意欲が高まることを 実験により示している.これらの先行研究は,経済実験を 通じて年金制度についての情報により,加入者の年金に対 する意識や支払い意思が変わるということを明らかにした ものである. しかしながら,年金制度についての正確な理解を促すこ とには,コストの面や何が正確な情報であるかについてさ まざまな考え方が生じうる点など,現実の政策として実現 が困難な面が多い.現在,年金特別便による加入記録につ いてはすべての国民に対して通知を行っており,55 歳以 上の年金加入者に対して請求があれば,社会保険庁から年 金見込み額の知らせが届く.そのような政策的努力にもか かわらず,後述する本研究の Web 調査において第 1 号被 保険者に対して満額の国民年金給付額を尋ねたところ,約 24% が「まったくわからない」と回答しており,また正 確な金額である 6 万 6 千円付近の 6 万円以上 7 万円以下 の金額を回答している者は約 29% と 3 分の 1 に満たない. 国民年金に対する正確な情報が第 1 号被保険者に十分に いきわたっているとは言えないであろう.このような,国 民年金に対する知識や情報の不足が保険料の未納行動につ ながっている可能性がある. そこで本研究では,Web アンケートによる簡単な国民 年金給付額の通知実験により,その通知が潜在的に支払い 可能な年金の保険料に与える影響について定量的な分析を 行い,正確な満額の給付額の情報を被保険者に与える政策 についての検証を行うことを目的とする.

3. 調査およびデータの説明

3.1. サンプリングフレームおよび調査方法 本研究の使用データである関西大学ソシオネットワーク 戦略研究機構「国民年金納付者行動調査」は,2009 年 2 月に実施された Web 調査である5.今回の Web 調査では, あらかじめ登録されたモニターを対象として調査を実施す る方法であったことから,枠母集団(標本抽出枠)の対象 者の属性分布(性・年齢構成,地域分布,学歴など)は, 本調査の対象母集団である第 1 号被保険者とは異なって いる.そのため,調査結果について何らかの補正をする必 要がある.労働政策研究・研修機構 (2005) によると,望 ましい方法として事後層化法が示されているが,本調査の 設計に当たっては,事前割付の手法を用いた. 事後層化法とは,たとえば,調査結果を性別・年齢階級 別・地域ブロック別に集計したものを,国民年金第 1 号 4 国民年金保険料を支払うことが「得」であるという見解につい ては,盛山 (2007) および堀 (2005) に詳しい.ただし,たとえ 保険料を支払っても,将来年金が支給されないリスクがあると いう考えも多くの人々に信じられているだろう.しかしながら, 他の金融商品についても同様のリスクは存在するため,将来の リスクの分散という意味でも国民年金の保険料を支払うことは 合理的と考えることもできる. 5 調査の概要は以下のとおりである.なお,調査票は『RISS 経 済 心 理 学 デ ー タ ア ー カ イ ブ (http://www.kansai-u.ac.jp/riss/ shareduse/database.html)』で公開されており,データの使用 は同サイトから申請することで入手可能である. 調査期日:2009 年 2 月 10 日∼2009 年 2 月 29 日 調査対象:学生を除く第 1 号被保険者 調査対象者の年齢:20∼59 歳 標本の大きさ:9050 調査項目数:30 調査会社:ネットマイルリサーチ

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被保険者の実際の構成割合でウエイトバックするというも のである.本調査では,このウエイトバックを行う手法で はなく,あらかじめ性別・年齢階級別・地域ブロック別の サンプル数を定め,そのサンプル数に到達するまで登録モ ニターの回答を受け付けるという方法を採用した.これに より,今回のサンプルは,対象母集団からの抽出率が一定 となることから,このウエイトバックが不要となり,さま ざまな集計,プロビット分析やその他の統計解析手法が容 易に適用できることとなる. もちろん,インターネット調査には,上記のようなサン プルの割り当てに対する柔軟性のほか,廉価・迅速といっ たメリットがある反面,その代表性に問題があり,このよ うな事前割付による補正を行ったとしても,その結果の解 釈には回答バイアスに留意が必要であるとされている.ど の程度の回答バイアスが生じるかについては,調査項目に よってさまざまであり,その評価は困難であるが,分析結 果についてはこのような特性を持つ調査によるものである ことに留意が必要である.なお,労働政策研究・研修機構 (2005) では,インターネット調査(調査回答モニターを 公募して登録するタイプ)の特性等について,以下のよう に 4 点を指摘している. ①インターネット調査の登録者集団の属性には(インター ネット利用者の増加にもかかわらず)依然として偏りが あり,また,登録者集団の作り方(登録者の募集方法等) によって登録者集団間にも差異がある. ②従来型調査の回答者とインターネット調査の回答者では 回答内容が異なる部分とあまり変わらない部分がある. インターネット利用の有無の影響,インターネット・ ユーザーの先進的な性格,インターネットの普及による 同質化,調査方法そのものの影響などがあるものと考え られる. ③従来型調査の中のインターネット・ユーザーである回答 者とインターネット調査における回答者との回答行動に も差異がみられることから,インターネット調査回答者 は,インターネット・ユーザーを代表しているともいえ ない. ④インターネット調査の回答者は,複数の調査会社の回答 モニターとして登録している「プロ化した回答者」を含 む偏りをもったグループである. 具体的なサンプルの割り当ては,社会保険庁(現日本年 金機構)の業務統計(事業年報)による国民年金第 1 号 被保険者の性別・年齢階級別・地域ブロック別構成割合に 一致するよう,登録されたモニターを二つのグループ(基 礎年金の年金額を通知するグループと通知しないグルー プ)に分け,表 1 の層化区分に従って,標本数を 4525 ず つ割り当てた6.なお,これらの標本については,目標数 だけ回収されたが,未記入等の無効回答があったため,実 際に集計した客体数は,5325 である7 表 1 第 1 号被保険者割付表 20∼24 25∼29 30∼34 35∼39 40∼44 45∼49 50∼54 55∼59 合計 男性 北海道 12 12 11 10 9 10 13 19 96 東北 21 23 20 18 17 19 27 37 182 関東・信越 74 81 78 74 63 59 77 114 620 東京 34 40 36 34 29 25 29 42 269 東海・北陸 34 38 37 34 29 28 36 54 290 近畿 47 48 46 43 37 35 44 70 370 中国・四国 21 23 22 19 17 18 26 39 185 九州 35 36 32 28 25 29 41 55 281 女性 北海道 9 12 11 10 9 10 15 28 104 東北 14 19 17 15 15 17 26 44 167 関東・信越 53 70 69 64 56 53 77 147 589 東京 24 34 32 29 25 22 28 52 246 東海・北陸 26 34 34 31 27 27 38 73 290 近畿 36 46 45 42 36 34 47 96 382 中国・四国 16 21 21 18 16 18 26 50 186 九州 25 32 29 25 24 26 39 68 268 合計 481 569 540 494 434 430 589 988 4525

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3.2. 調査の特徴 本調査の特徴として,サンプルを 2 つにランダムに振 り分け,国民年金について未納がない場合の満額の給付額 を通知した情報通知型サンプルと,その情報の通知を行わ ない情報非通知型サンプルとした.そして,その両方のグ ループに国民年金の保険料について支払い可能額を尋ねて いる. 手順としてはまず,両方のサンプルに「20 歳から 59 歳 まで国民年金の保険料をきちんと納めた場合,月あたりい くらの年金が給付されるとお考えですか.だいたいでお答 えください.ただし,まったくわからない場合は,0 円と 回答してください.」という設問に解答してもらう.この 設問から,それぞれの被保険者が現在の給付額を知ってい るかどうかを把握することができる.次に,情報通知型サ ンプルに対しては「20 歳から 59 歳まで国民年金の保険料 をきちんと納めた場合,現在給付される国民年金の年金額 は月 6 万 6 千円です.今後もこの金額をもらえるとする と最高でいくらまでの保険料をお支払いになりますか.」 と国民年金の満額の給付額の情報を通知した上で,保険料 の支払い可能額を尋ねている(この設問を見てから前の給 付額についての設問に戻ることはできない).そして,他 方の情報非通知型サンプルには,「現在と同じ年金の額 (20∼59 歳まできちんと納めた場合の額)をもらえるとす ると,月あたり最高でいくらまでの保険料をお支払いにな りますか.現在の年金のもらえる額がわからない場合でも お答えください.」と,年金の給付額を教えずに保険料の 支払い可能額を尋ねている.このように,年金の給付額を 通知するグループと通知しないグループに分け,それぞれ で支払い可能となる保険料が異なるかどうかについての実 験を行う. 3.3. データの特徴 本調査の平均的な未納率は,22% となっており,社会 保険庁が発表している平成 19 年度の未納率である 36.1% より低い数字となっている8 図 1 は,年齢別の未納率を表している.図 1 をみれば 明らかなとおり,年齢階級が 20∼24 歳において,約 42% と高い未納率を示している.25∼39 歳までの未納率は, 25% 前後を推移し,40∼49 歳の未納率は約 20%,50∼59 歳の未納率は約 15% となっている.このことから,未納 率は 20∼24 歳という年齢階級において高い値を示し,ま た年齢階級が上昇するにつれ,未納率は低下するという特 徴を持っている. 次に,本調査の特徴である,国民年金の予想給付額と国 民年金保険料の支払い可能額についてみていく.まず,国 民年金の予想給付額とは,実際の年金給付額を通知する前 に回答者が考えていた国民年金の給付額である.その予想 給付額が高くなるほど,保険料の支払い可能額も高くなる 6 予備調査として,以下の 3 つの問ですべて「いいえ」と答えた 場合について,第 1 号被保険者と考え,本調査の対象とした. 問 1  あなたは,厚生年金もしくは共済年金に加入しておら れますか. 1. ( )はい  2. ( )いいえ 問 2  あなたは,専業主婦もしくは専業主夫であり,かつ, 配偶者は厚生年金もしくは共済年金に加入しておられ ますか. 1. ( )はい  2. ( )いいえ 問 3  あなたは,大学生もしくは大学院生ですか. 1. ( )はい  2. ( )いいえ 7 予備調査で選抜されているにもかかわらず,第 1 号被保険者で はない者が本調査に入ってきている.そこで,本調査において 国民年金保険料を払っておらずかつ免除制度を利用していない 人に対して以下の問について「(3) その他」と回答しているサ ンプルについて,自由記述を求めている.結果,ほとんどが第 1 号被保険者以外もしくは無回答であったため,「(3) その他」 と回答したサンプルはすべて落とした.そのほか,雇用形態が 正規雇用のサンプルも落としている. 問 保険料を支払わない理由は何ですか (1) 経済的な余裕が無いから支払わない (2) 経済的な余裕は有るが支払わない (3) その他 図 1 年齢別国民年金未納率 (出所)関西大学 RISS「国民年金納付行動についての調 査」より筆者作成 8 未納率の率は下の設問から作成した. Q1: あなたは国民年金の保険料を過去に 1 度でも支払ったご 経験がおありですか.あてはまるものをお選びください. Q2: Q1で「ある」とお答えいただいた方におうかがいします. 現在も国民年金の保険料をお支払い中ですか. Q3: あなたは免除制度を利用していますか. という設問から,すべてに「いいえ」と答えている場合「未納」 とした.すなわち,過去に 1 度も保険料を支払ったことがない, または,支払ったことがあったとしても,現在保険料を払って いない者でかつ免除制度を利用していない者を未納としてい る.なお,未納率については免除制度を利用しているものをサ ンプルに含んでいない. なお,厚生労働省が定期的に発表している国民年金の納付率 は,一定期間内に納付された月数から算出されて,納付者の割 合ではない.そのため,本調査のデータにおける未納率と直接 比較することはできない.

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だろう.予想給付額について,「まったくわからない」と 回答している割合は,全体の約 24% である.そして,予 想給付額の平均値は,約 7.66 万円と実際の年金給付額の 6.6 万円より 1 万円程度高くなっている.だが,予想年給 付額の中位値は 6.7 万円と実際の給付額とほぼ一致してい る.そして,図 2 がその分布であるが,正確な給付額あ たりの 6∼7 万円で山になっているが(最頻値は 6 万円), 「全くわからない」と回答している者を含めると 6 万円以 上 7 万円以下の金額を回答している割合は,約 29% と 3 分の 1 に満たない.また,10 万円や 15 万円といった過大 に予想しているものも多く見受けられ,30% 近くが 8 万 円以上の年金給付を予想し,15% 近くが 10 万円以上の年 金給付額を予想しており,現実の給付額より高く予想して しまっている者も少なからず存在するといえる. 次に,潜在的な国民年金保険料の支払額の分布をみてい く.前述したように,2011 年の国民年金保険料は,月  15,020 円であるが,今後段階的に保険料は引きあげられ 2017 年には 16,900 円となる.経済的理由により,未納者 となっているとすると保険料の引き上げにより,より未納 者が増加するおそれがある.未納行動だけではなく,支払 い可能な年金保険料の水準についての分析を行うことで, 今後の保険料が上昇した場合の影響などが考察できるであ ろう.図 3 は,その保険料支払い可能額のヒストグラム である9.1 万円,1 万 5 千円あたりの金額を答えている 人々が突出して多くなっている.5 千円単位でおおまかに 答えている人が多いことがわかる.そして,2 万円を超え る金額で答えている人は,全体の 10% 未満と少なくなっ ている.

4. 年金保険料納未納の分析

ここではまず,年金保険料未納の分析を行う.分析手法 としては,保険料を納めていない場合は「1」,納めてい る場合は「0」とした未納についての 2 値のプロビット分 析を行う. まず,給付される年金額を低く予想しているもしくは, 理解していないために未納が起こっている可能性を検証す るための変数として,将来の予想した年金額である「予想 給付額」とその給付額を「わからない」と回答した「予想 給付額不明ダミー」を説明変数とした分析結果が分析①で ある.そして,その予想給付額の代わりに「年金保険料支 払い可能額」を投入した分析結果が分析②である.なお, 「年金保険料支払い可能額」については,年金給付額(6 万 6 千円)を通知しているサンプルと通知していないサ ンプルがあるが,分析②では,通知していないサンプルの みを分析対象としている. そして,分析①と②に共通した説明変数として,以下の 変数を用いている.まず,危険回避度を測る変数として 「傘を持参する降水確率」でありこの確率が高くなるほど 危険回避的でないと考えられ10,危険回避的でないほど未 納になりやすいと考えると,正の係数が予想される.そし て同じく危険回避度をはかる変数として,資産運用方法に ついて「A. 利回りが期待できなくても安全性が高い預貯 金の方法」より「B. 安全性がそれほど高くなくても,利 回りが期待できる運用の方法」に考え方が近いと答えた 「危険資産選好」のダミー変数,そして,他人や社会につ 図 2 事前に予想している年金給付額 (出所)関西大学 RISS「国民年金納付行動についての調 査」より筆者作成. 9 保険料支払い可能額が 10 万円を超えるサンプル(約 1.5%)は 除いた. 図 3 国民年金支払い可能額のヒストグラム (出所)関西大学 RISS「国民年金納付行動についての調 査」より筆者作成. 10 このような傘を持参する降水確率は,危険回避度を測る指標と して多く用いられている.富岡・大竹 (2007) は,この指標の メリットとして,「設問が多くの日本人にとって理解しやすい リスク環境を設定していること,また回答が降水確率という単 純な変数で得られることである.降水確率は新聞・テレビで毎 日報道されているため,ほとんどの回答者にとってはもっとも 身近な確率概念であると考えられる.」としている.

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いての信頼度を測る「一般的信頼度指標11」,年金制度そ のものについての「年金制度信頼度12」を用いている.前 述したように,年金の予想される給付額の問題ではなく, 年金制度そのものの信頼度が未納を生んでいる可能性があ る. そのほか,社会経済変数として,世帯収入,世帯貯蓄額, 職種,学歴についての説明変数および人口学的変数として 性別,年齢,配偶関係,子どもとの同居の有無についての 変数を用いた. 表 2 は,その分析結果である.プロビット分析の係数 それ自体では解釈が困難であるため,連続変数については 平均値で評価した限界効果 (dF/dx),およびダミー変数の 場合は 0 から 1 に変化した場合の限界効果を掲載してい る. まず,モデル①の予想給付額については,2 乗項を含む ため限界効果をそのまま解釈することはできないが,推計 された係数(表には記載していない)から予想金額が 8 万 円付近で最も未納確率が低くなる 2 次関数であることが わかる.したがって,年金の予想給付額が高くなればなる ほど未納確率は低下する.ただし,実際の給付金額である 66,000 円より高い 8 万円を超えると未納確率は再び上昇 する. 以上の結果は,年金額を低く予想しているもしくは,理 解していないために,未納が生じている可能性を指摘した 仮説と整合的である. 次に,危険回避度を測ると考えられる傘持参降水確率が 高くなるほど未納確率が上昇することがわかる.すなわ ち,危険回避的なほど納付を行っていることがわかる.同 様に,安全だがリターンを望めない資産よりリスクも高い が高いリターンが期待できる資産を選ぶ場合(危険資産選 好)は,有意に未納確率が高まり,限界効果でモデル①で 5%,モデル②で 7% 程度未納確率が高くなっている. そして,一般的信頼度は未納確率を低下させ,やはり年 金制度に対する信頼度が上昇すると未納確率も強く低下す ることがわかる. 経済変数について,世帯収入が高くなると未納確率は低 下するが,2 乗項から徐々にその影響が小さくなっている と考えられる.そして,世帯貯蓄については,世帯貯蓄が 100 万円以上 500 万円未満の場合と比較し,100 万円未満 となる場合において,15% 程度未納確率が高くなってい ることがわかる.低所得・低貯蓄で未納者が多くなってお り,このような人々が高齢者になったときには,低年金, 無年金でかつ貯蓄も少ないという状況に陥る可能性が高く なると考えられる.また,教育水準が高くなるほど未納確 率が低くなっており,年金制度に対する理解度の差が,納 付行動に影響を与えている可能性がある13 次に,モデル②の分析結果からは,保険料支払い可能額 が 1 万円増えるごとに未納確率が約 4% 低下することがわ かる.その他の分析結果は,モデル①の分析結果とほぼ同 様である.ただし,サンプルサイズが大きいモデル①にお いて,非正規雇用および無業の影響が観察されていたが, サンプルサイズが半分となるモデル②ではその影響が観察 されなくなった.この点については,自営業や非正規雇用 に多様な働き方が含まれていることから,観察されない異 質性が強く存在し,自営業や非正規雇用といった大きなく くり方では就業の特徴を十分捉えられていない可能性があ る. 以上,年金の満額の給付額は,正確には認識されておら ず,自身が予想する給付額が低くなるほど未納確率が高く なっている.したがって,予想給付額を低く見積もるもし くは十分に理解していないため,年金保険料を納めない者 がいるおそれがある.

5. 国民年金保険料支払い可能額についての分析

次に,国民年金支払い可能額に対して,実際の年金給付 額の通知が与える影響についての分析を行う.分析の特徴 として,サンプルを 2 グループに分け,設問として国民 11 一般的信頼度指標は,山岸 (1998) による.具体的な設問は, 以下のものである. 以下の中で,あなたのお気持ちに当てはまるものをお選び ください. 1 ほとんどの人は基本的に正直である 2 私は人を信頼する方である 3 ほとんどの人は基本的に善良で親切である 4 ほとんどの人は他人を信頼している 5 ほとんどの人は信用できる という項目について,「全くそう思わない」を 1,「あまりそう 思わない」を 2,「どちらでもない」を 3,「ある程度そう思う」 を 4,「完全にそう思う」を 5 とおいて,それらを足し合わせ た合成指標を作成している.なお,この指標そのものの信頼度 を測るクロンバックの α 係数は 0.875 と高い値であり,合成指 標としての信頼度は高いと言える. 12 ここで,「年金制度信頼度」とは,「日本の公的年金制度に対す るあなたの信頼度についておうかがいします.あてはまるもの を 1 つだけお選びください」という問に対して,「1 全く信 頼できない」,「2 あまり信頼できない」,「3 どちらでもな い」,「4 ある程度信頼できる」,「5 完全に信頼できる」と いう 5 段階で評価した変数である. 13 以下の表は,未納の期間がなく国民年金保険料を納めた場合の 満額の年金給付額についての設問において「まったく知らな い」と答えた割合の教育水準別割合である.実際に,教育水準 が高くなるほど国民年金の給付額を理解していることがみてと れる. 教育別年金給付額「知らない」と回答した割合 中学 高校 専門等 短大・ 高専 大学 大学院 その他 Total 36.5% 26.4% 26.7% 23.0% 19.7% 17.5% 31.9% 23.9%

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年金の満額の年金額はいくらになると考えているか(予想 給付額)について尋ねた直後に,半分のサンプルには,満 額の年金給付金額(月額 6 万 6 千円)を通知した後に, 国民年金の保険料の支払い可能額を尋ねている(通知サン プル).そして,もう半分のサンプルには年金の給付額に ついての情報を通知せずに,国民年金の保険料として支払 い可能額を尋ねている(非通知サンプル).このような実 験から実際の満額の給付水準の情報を得た場合に,潜在的 な国民年金の保険料の支払額がどのような影響を受けるか についての情報を得ることができるであろう. 計量モデルとしては,国民年金の保険料の支払い可能額 を被説明変数として,前章の納付行動についての分析と同 様の説明変数を用いて最小 2 乗法により分析を行った. 表 3 は,分析結果である.モデル①は,年金給付額非 通知サンプルについての分析結果である.予想給付額が高 くなるほど保険料の支払い可能額も有意に高くなってい る.一方,モデル②は,給付額を通知したサンプルである が,非通知のサンプルとは逆に,予想給付額が高くなるほ ど支払い可能額が低くなっている.これは,給付額を高く 予想していた人は,自身が予想していた額より実際の給付 額が低いことがわかると,もともと給付額を低く予想して いた人より保険料の支払い可能額が低くなってしまうと解 表 2 年金保険料未納についてのプロビット分析(未納確率) ① 未納確率への予想給付額の影響 (全サンプル) ② 未納確率への保険料支払い可能額の影響 (非通知サンプル) dF/dx(4) 標準誤差 dF/dx 標準誤差 予想給付額(万円) −0.014 (0.005)** 予想給付額の 2 乗 0.001 (0.000)*** 予想給付額不明ダミー 0.042 (0.027) 保険料支払い可能額 −0.044 (0.007)*** 傘持参降水確率 0.050 (0.025)* 0.071 (0.035)* 危険資産選好 0.050 (0.015)** 0.072 (0.022)** 一般的信頼度 −0.022 (0.008)** −0.020 (0.010)† 年金制度信頼度 −0.061 (0.006)*** −0.050 (0.009)*** 世帯収入(万円) −0.014 (0.008)† −0.023 (0.011)* 世帯収入の 2 乗 0.001 (0.001)* 0.003 (0.001)** 世帯貯蓄(1) ∼100 万円 0.133 (0.015)*** 0.150 (0.022)*** 500∼1,000 万円 −0.041 (0.016)* −0.023 (0.024) 1,000 万円∼ −0.061 (0.016)*** −0.059 (0.022)** 職種(2) 非正社員 0.031 (0.015)* 0.005 (0.021) 無業 0.036 (0.016)* 0.016 (0.021) その他 0.023 (0.030) 0.034 (0.042) 年齢 −0.002 (0.001)** −0.002 (0.001)* 女性ダミー −0.034 (0.012)** −0.033 (0.017)† 有配偶 −0.029 (0.015)† 0.000 (0.021) 子どもと同居 −0.034 (0.015)* −0.080 (0.019)*** 教育(3) 中学校 0.095 (0.032)** 0.098 (0.047)* 専門学校 −0.036 (0.015)* −0.026 (0.022) 短大・高専 −0.065 (0.015)*** −0.045 (0.022)* 大学 −0.080 (0.012)*** −0.091 (0.017)*** 大学院 −0.076 (0.025)** −0.089 (0.031)** N 5325 2683 Log likelihood −2342.059 −1170.348 Pseudo R2 0.1412 0.1443 注:(1) 世帯貯蓄のレファレンスカテゴリーは,「100 万円以上 500 万円未満」とした. (2) 職種のレファレンスカテゴリーは,「自営業主」とした. (3) 教育についてのレファレンスカテゴリーは「高校」とした. (4) ダミー変数およびカテゴリー変数は,それぞれが 0 から 1 となる時の変化である. ***p 値<0.001,**p 値<0.01,*p 値<0.05, p 値<0.10 である.

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釈できる. そして,モデル③は両サンプルをあわせて,通知の有無 をダミー変数としたモデルである.結果,年金給付額を通 知した場合,有意に支払い可能額が下がっている.した がって,正確な年金額をすべての被保険者に伝えることが できた場合,平均的には年金支払い可能額が下がり,未納 行動につながってしまうおそれがある. 最後のモデル④は,モデル③に年金額の通知ダミー変数 と事前の予想給付額との交差項を加えたモデルである.こ のモデル④では,モデル③とは異なり,予想給付額が有意 に保険料支払い可能額を上げている.そして,予想給付額 と通知ダミーとの交差項からは,通知した場合に予想額が 高い者ほど支払い可能額が低くなることがわかる.この結 果は,モデル①およびモデル②からの結果と同様にもとも と給付額を高く予想しすぎた場合,通知の効果は保険料支 払い可能額を下げてしまうと解釈できる.なお,通知ダ ミーそれ自体は有意に支払い可能額を上昇させている.こ れは,予想と現実の給付額の差による効果をコントロール した場合,正確な給付額を通知すること自体は支払い可能 額を上げる効果をもつ可能性を示唆している. ただし,このような保険料を高く予想しすぎた場合に対 する通知の効果については,行動経済学における「アンカ 表 3 国民年金保険料支払い可能額についての OLS 推計 ① ② ③ ④ 給付額非通知サンプル 給付額通知サンプル サンプル計 サンプル計 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 予想給付額(万円) 0.018 (0.007)** −0.015 (0.006)* 0.000 (0.005) 0.018 (0.007)** 予想給付額不明ダミー −0.032 (0.073) −0.173 (0.072)* −0.107 (0.051)* −0.031 (0.072) 給付額通知ダミー −0.054 (0.031)† 0.165 (0.076)* 予想給付額×通知 −0.033 (0.009)*** 予想給付額不明×通知 −0.141 (0.100) 傘持参降水確率 0.001 (0.001) −0.001 (0.001) 0.000 (0.001) 0.000 (0.001) 危険資産選好 0.048 (0.057) −0.093 (0.056)† −0.023 (0.040) −0.024 (0.040) 一般的信頼度 0.038 (0.031) 0.019 (0.032) 0.028 (0.022) 0.027 (0.022) 年金制度信頼度 0.131 (0.025)*** 0.156 (0.025)*** 0.144 (0.018)*** 0.144 (0.018)*** 世帯収入 0.019 (0.032) 0.036 (0.032) 0.029 (0.023) 0.028 (0.023) 世帯収入の 2 乗 −0.001 (0.003) −0.002 (0.003) −0.001 (0.002) −0.001 (0.002) 世帯貯蓄(1) ∼100 万円 −0.116 (0.057)* −0.132 (0.057)* −0.127 (0.041)** −0.126 (0.041)** 500∼1,000 万円 0.031 (0.069) 0.032 (0.069) 0.027 (0.048) 0.026 (0.048) 1,000 万円∼ 0.016 (0.067) 0.142 (0.068)* 0.079 (0.047)† 0.077 (0.047) 職種(2) 非正社員 −0.028 (0.060) −0.087 (0.060) −0.062 (0.042) −0.060 (0.042) 無業 −0.129 (0.060)* −0.022 (0.061) −0.076 (0.043)† −0.078 (0.043)† その他 0.066 (0.107) −0.076 (0.115) 0.005 (0.078) 0.003 (0.078) 女性ダミー 0.020 (0.050) −0.030 (0.050) −0.008 (0.035) −0.008 (0.035) 年齢 −0.015 (0.017) −0.020 (0.017) −0.017 (0.012) −0.018 (0.012) 年齢 0.000 (0.000) 0.000 (0.000) 0.000 (0.000) 0.000 (0.000) 有配偶 −0.002 (0.060) −0.032 (0.059) −0.027 (0.042) −0.023 (0.042) 子どもと同居 −0.028 (0.061) 0.002 (0.059) −0.005 (0.042) −0.007 (0.042) 教育(3) 中学校 −0.013 (0.124) −0.047 (0.116) −0.041 (0.084) −0.036 (0.084) 専門学校 0.077 (0.071) 0.142 (0.070)* 0.109 (0.050)* 0.111 (0.050)* 短大・高専 0.125 (0.072)† 0.106 (0.076) 0.118 (0.052)* 0.119 (0.052)* 大学 0.084 (0.055) 0.093 (0.055)† 0.088 (0.039)* 0.090 (0.039)* 大学院 0.028 (0.136) 0.276 (0.147)† 0.129 (0.100) 0.130 (0.100) 定数項 0.958 (0.373)* 1.300 (0.372)*** 1.152 (0.263)*** 1.054 (0.265)*** N 2683 2642 5325 5325 修正 R2 0.028 0.036 0.031 0.034 注:(1) 世帯貯蓄のレファレンスカテゴリーは,「100 万円以上 500 万円未満」とした. (2) 職種のレファレンスカテゴリーは,「自営業主」とした. (3) 教育についてのレファレンスカテゴリーは「高校」とした. ***p 値<0.001,**p 値<0.01,*p 値<0.05, p 値<0.10 である.

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リング」の効果と考えることもできる.アンカリングとは, 最初に注目した値が最終的な回答に影響を与えてしまうバ イアスを指す (Tversky and Kahneman 1974).ここでは, 最初に年金給付額を予想させており,正確な年金給付額を 通知した場合の保険料支払い可能額については,事前に予 想された年金給付額が基準とされるため,その予想が高す ぎた場合に,保険料支払い可能額をより低く回答させるバ イアスが生じる可能性がある.そこで,表は載せていない が,アンカリングを行っていない「予想給付額不明」サン プルのみについて分析を行ったところ,「給付額通知ダ ミー」の影響は有意なものとならなかった14.通知の効果 がアンカリングによるものだとすると実際の政策では,ア ンカリングを行わずに通知されることから,政策として年 金給付額の通知を十分に行った場合において,納付率が低 下するもしくは上昇するといった影響が出るとは言えない だろう.

6. 結論と政策インプリケーション

本研究では,国民年金第 1 号被保険者の保険料納付行 動として,誤った年金給付額の知識が未納につながってい る可能性についての分析,および,年金給付額の通知が潜 在的な保険料の支払い可能額に与える影響についての分析 を行い,年金情報の通知が年金保険料納付行動に与える影 響についての考察を行ってきた. まず,国民年金保険料の未納・未加入についての先行研 究では,人々が正確な給付額を認知していることが前提と なっているが,本研究では予想する満額の年金の受給金額 を尋ね,その予想給付額が納付行動に与える影響について の分析を行った.そこでは,年金の予想給付額が高くなれ ばなるほど未納確率は低下するが,実際の給付金額である 66,000 円より高い 8 万円を超えると未納確率は再び上昇 することがわかった.したがって,不正確な年金額の知識 により未納が発生している可能性を指摘することができる だろう.また,同じく未納確率の分析から,年金保険料の 支払い可能額が高くなるほど未納確率が低下することも明 らかにした. そして,その保険料の支払い可能額が,年金額の通知に よりどのような影響を受けるかどうかを検証するため,事 前に予想される年金給付額を尋ねた上で,調査対象者の半 数については実際の給付額を通知し,もう半数には通知せ ずに支払い可能な年金額を尋ねる実験により分析を行っ た. 分析結果からは,年金額を通知していない非通知サンプ ルでは,予想している年金給付額が高いほど保険料の支払 い可能額は高くなったが,年金額を通知したサンプルで は,逆に予想していた年金給付額が高いほど保険料の支払 い可能額は低くなることがわかった.これは,年金額を通 知され,予想していたより低い年金額しかもらえないとわ かると,保険料の支払い可能額が低下するものと考えられ る.さらに,通知サンプルおよび非通知サンプルの両方を 含んだサンプルについて,その給付額の通知の有無をダ ミー変数として分析を行うと,通知した場合において有意 に保険料の支払い可能額が低下することがわかった.よっ て,正確な年金額のアナウンスにより年金保険料の未納率 が上昇する可能性があるといえる. ただし,通知の有無ダミーと予想給付額の交差項を入れ たモデルによる分析結果からは,その交差項は有意に保険 料の支払い可能額を低下させるが,通知の有無ダミーその ものは保険料の支払い可能額を上昇させることがわかっ た.すなわち,過大に年金の給付金を予想していることを 修正することで保険料の支払い可能額が低下してしまう が,通知そのものは保険料の支払い可能額を高める可能性 がある.また,通知による保険料の支払い可能額の低下は, 事前に年金給付額を予想させたことによるアンカリングの 効果とも考えられ,通知による未納の上昇は実際には生じ ないかもしれない. 以上の分析の政策インプリケーションとして,年金に関 する正確な情報を与えることについての効果についての考 察を行う.まず,第 1 号被保険者のうち実際の給付額よ り過大に予想している者に対して正確な給付額の通知を行 うことで未納者を増やしてしまう可能性を指摘することが できる.しかし,正確に国民年金給付額を把握している者 は 3 分の 1 に満たず,知らせない場合においても,結局 年金を受け取る段階で年金に対する不信感を生む可能性が ある上,年金額の見通しにより,家計に適切な消費・貯蓄 計画の機会をなるべく早く与えることの必要性を考える と,年金額の通知により過大な予想を修正することは有益 であると考えられる.このような理由から,正確な年金受 給額の通知を行う政策を行う必要があろう. 最後に,年金財政の仕組みを説明し,過大な給付額期待 を是正させたり,臼杵・中嶋・北村 (2005) が指摘するよ うに,単純な給付額だけではなく,平均寿命まで生きた場 合の総給付額が支払う保険料の総額よりかなり大きくなる といった情報も通知することで,通知により保険料の納付 を促す効果をより高める可能性があることを指摘しておき たい.この点についての定量的な分析は今後の課題とな る. 14 また,予想給付額が実際の給付額の 6.6 万円より小さいサンプ ルと 6.6 万円以上のサンプルに分けて分析したところ,「通知 ダ ミ ー」は 6.6 万 円 未 満 サ ン プ ル で は 正 の 影 響 で 係 数 が 「0.0308」であり(ただし有意ではない),6.6 万円以上では負 の影響で係数が「−.1934」(有意水準 0.1% で有意)となって いた.この結果は,通知により予想を下回っていたサンプルの 支払い可能額を上げ,上回っていたサンプルの支払い可能額を 下げるという意味で表 3 からの結果と同様であるが,上回って いた場合に支払い可能額を引き下げる効果が大きいことを示し ており,アンカリングの効果が発生している可能性がある.

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引用文献

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A Web-based Survey on the National Pension Premium

Payment: Notice of the Full Amount of Benefits

Masato Shikata

a

, Kohei Komamura

b

, Seiichi Inagaki

c

and Tetsuro Kobayashi

d

Abstract

This study is designed to analyze the national pension premiums for contributors subscribing to the nation-al pension program. It has been found that the non-payment rate is high in people who do not know much about the full pensions they may be entitled to receive. In a Web-based questionnaire survey, the respondents were divided into two groups. One group received a notice as to their pension benefits, and the other group did not. The purpose of this experiment is to investigate the difference in payments between the two groups, and the highest possible amount of payments allowable for national pension premiums were also examined in both groups. The results indicate that (1) the notice of pension benefits decreased the potential limit of pension payment for those who expected higher pension benefits, and (2) the notice had a positive effect on raising the potential limit of pension premiums.

(Received: January 30, 2012, Accepted: June 11, 2012) Keywords: The national pension, non-payment, an experimental test

JEL Classification Numbers: H55, D89

a The Research Institute for Socionetwork Strategies, Kansai

University

e-mail: [email protected]

b Faculty of Economics, Keio University

e-mail: [email protected]

c Institute of Economic Research, Hitotsubashi University

e-mail: [email protected]

d Information and Society Research Division, National

Insti-tute of Informatics e-mail: [email protected]

参照

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