電力自由化22年の軌跡
パイオニア英国の試行錯誤
Toward
Power As A Commodity
海外電力調査会 調査部 奈良長寿私の任務は
私を不要にすることにある
Stephen Littlechild
Director General of Electricity supply (初代電力規制局長)
従来の供給体制と問題点
3 発送電公社(CEGB) 配電公社(12公社) 需要家 国有・独占下での非効率性の蓄積 国内産業保護の手段として利用 ・国内炭、重電メーカへの定期発注 ・産業用需要家に対する政策料金 強大な労働組合の存在 アカウンタビリティーの欠如 サッチャー保守党政権 老朽化した3,000万kWに及ぶ発電所の 建て替えを、このような体質のCEGBに 委ねることを疑問視ドラスティックな改革
電力公社をバラバラに解体して、一から体制を構築
4 発電会社 発電会社 発電会社 発電会社 需要家2500万軒(全面自由化) 小売会社 発電会社 小売会社 小売会社 小売会社 小売会社 卸電力市場
究極の目的は一般商品化
・
参入・退出規制なし
・
供給力の確保義務なし
・
供給義務なし
・
非対称規制なし(フェアな市場)
・
料金規制なし
需要家は競争で保護
5
フェアな市場
供給力の確保は? いずれの事業者にも義務を課していない。卸電力市場の価格メカニズ ムで建設を誘導 供給義務は? 家庭用に参入するすべての事業者に対して、「料金表の公表」と「選択 された場合の応諾」を義務化。商工業用はない。 送電線の使用は? すべての事業者に公平なアクセスを義務化(申し込み順を基本) 価格はゾーナル限界価格制(送電容量が1単位増加した場合の送電増 強費用を反映し、地域別に設定) 価格規制は? いずれの事業者にも料金規制は課していない(送配電事業は除く) 需給調整力の確保は すべての事業者(発電・供給)、および需要家から市場で調達 6英国の今の状況(一般商品化へ向けた進展状況)
日本のような垂直統合・地域独占ではない(自由参入・退出) 発電事業者100社 小売会社90社(主要会社は6社) 供給力の確保は市場の価格メカニズムで誘導 卸電力は相対取引(OTC)や卸電力市場(Exchange)で取引 需要家は好きな電力会社を選択できる 料金メニューは多様(ネット割引も)、ガスとのセット販売に人気 サービスも多様(マイレージ、ショッピングクレジットの加算等) 料金規制は撤廃 供給義務は,選択されたら拒めないという形式(家庭用のみ) 送電・配電会社はコモンキャリア会社として独立(発送電分離) 7卸電力市場の制度設計と問題点
機能する卸電力取引制度の構築へ向けて
特殊な財である電力の市場化は可能か? 1990年~2001年 : プール制 教科書通りの市場(なぜ失敗?) 2001年~ : 相対取引制(BETTA) 一般商品と同じ取引制度 (電力に適用可能か?)
2013年~ : EMR(Electricity Market Reform)
BETTA+低炭素電源の優遇策 (競争と低炭素化の両立は可能?) ~たちはだかる大きな壁~ ・市場には、需給調整電源 予備力 ベース・ピーク電源、 再生可能エネルギー電源が混在 (同じkWhでも価値が異なる) (特に揚水発電の費用構造は他の電源と根本的に異なる)
プール制(1990年~2001年)
10
時
プール価格(PIP)=SMP+CE
SMP(System Marginal Price)
すべての発電ユニットを価格の安い 順に積み上げ、需給均衡点(負荷曲 線との交点)で30分毎に決まる価格 CE(Capacity Element) 固定費回収項で30分毎に設定 CE=VOLL×LOLP VOLL:停電の社会的損失額 (500円/kWh) LOLP:需要が供給力を上回る確率 (0~1) VOLLは当時のレート(£1=250円)で表示 CE SMP
プール制の失敗
成果 ・IPPの育成 → マージナル価格制であり、交渉力ない事業者も安心 ・コスト削減 → 所期の目的は達成 失敗の原因 ・kWhの価値のみ評価 → 価値の低いプラントへ投資集中 初期コストの安い電源急増、ガスの供給遮断可能契約の締結 燃料貯蔵施設の撤去、負荷追従機能の撤廃など。 ・マージナル部分に老朽プラントが集中 → 効率が良い新型プラントが 市場参入しても価格が高止まり。 ・毎日、同じ入札の繰り返し → 相手の行動がわかり競争が形骸化。 ・CEが投資の指標にならない → 短期需給バランスに基づくシグナルは 長期投資の判断材料にはならない11
12 発電事業者(約100社) (大手8社で7割のシェア) 相対取引/先物取引 需給調整市場 小売事業者(約90社) (大手6社で95%のシェア) システム・オペレータ GBSO
インバランス 決済 需要家(2500万軒) 全面自由化
BETTA (2001年~)
13 9:00 10:00 10:30
受渡し時間帯
ゲートクローズ
需給調整市場(
BM市場)
計量とインバラン
ス決済
数年前相対契約(
OTC)
先物取引
スポット取引
電力受渡し
取引プロセス
BETTAの問題点
取引相手リスクの存在
エンロン破綻後の信用リスクの増大
取引所に支払う保証金・手数料
小売市場の全面自由化に伴う量的リスク
インバランスリスク
大規模化、垂直統合化
小規模事業者の消滅(市場の冷え込み)
14
Level of Vertical Integration
Market Liquidity(Churn Ratio)
16 英国 ドイツ 北欧 オランダ フランス Churn Ratio =総市場取引量÷総発電量卸電力市場の活性化に向けた検討
検討中項目
・
マーケットメーカ制の導入
・大手事業者に対する社内取引の制限
・競争オークションの実施
・インバランス決済制度の見直し
・市場参加プレミアム(担保)の見直し、など
17
小売市場の動向と問題点
自由化のプロセス
1990年 : 1,000kW以上の需要家を自由化
1994年 : 100kW以上の需要家を自由化
1999年 : 家庭用市場を自由化(全面自由化)
2002年 : 価格規制の撤廃
2011年 : 価格の再規制を検討(弱者対策)
19家庭用市場
供給事業者(ビッグ6)
RWE・npower
ドイツの大手電力系
EON・UK
ドイツの大手電力系
EDF Energy
フランスの旧国有電力系
Iberdorola
スペインの大手電力系
SSE
英国の旧国有電力会社
Centrica
英国の旧ブリティッシュガス系
ビッグ6は市場全体で9割、家庭用では
99.5%のシェアを持つ
21供給義務
すべての事業者(全国区)に対して:
料金表の公表義務(料金規制はない)
地域別料金、支払種別別料金、標準料金と夜間割引型料金
選択された場合の拒否の禁止
メリットは
家庭用需要家は、個々では交渉力を持たないが、料金表
の提示義務により、最も交渉力がある需要家群となる。
取り残される需要家が発生しない
22ビッグ6の価格戦略(家庭用)
価格面
Dual Fuel(ガスと電力のセット供給)割引 価格弾力性を駆使した価格設定(ラムゼープライシング) 離脱料金の設定(今は禁止) 他社の値上げ後、需要家を獲得してから値上げ 獲得したくない需要家群の料金を高めに設定 基本料金を高く、従量料金を低く設定 e-契約・e-請求割引/ダイレクトメールサービス
マイレージ・ショッピングポイントの提供 使用量を減らした需要家に対する割引 社会的弱者に対する割引・各種サービスの提供等 23 裕福な需要 家の獲得 Social obligation CSR 市場占有 率の拡大供給事業者の変更率の推移(家庭用)
一度でも変更経験を持つ需要家の割合
24
%
生き残れなかった小規模事業者
家庭用市場に約
30社の小規模事業者が参入したが、細々と経営
する数社以外はすべて破綻・吸収合併
需要家の処理能力 検針対応力 卸市場での信用力 バーゲニングパワー トランザクションコスト 情報収集力 ブランド力 規制対応力 インバランス対応力 資本調達力 需要家数ゼロからの開始 ガス市場への参入力 25 電力自由化は、発電と小売には自然独 占性はないとの理論で始まったが、蓋を 開けてみれば、小売については大規模 事業者との間に歴然とした力の差
商工業用市場
供給条件
供給義務 なし
料金表
なし (小規模は任意で提示)
見積依頼に対して、任意で供給条件を提示
供給事業者の変更率はほぼ
100%
2728
競
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英国事例に見る自由化のリスク
価格変動リスクの増加
家庭用電気料金の推移(1991年~2010年) 30 出典:欧州統計局 価格はユーロセント/kWh表示(税・再エネ賦課金等を込み) ドイツ フランス 英国価格変動リスク増加の要因
ガス火力(
CCGT)の比率が急速に高まり(理由は次ページ)変動
が激しいガス価格の影響を受けやすくなっている。
ベース市場への参入が相次ぎ、ピーク設備が不足
可変費の割合が非常に大きい
CCGTが、短期限界価格で決まる
卸電力価格の形成に大きな影響を与えている。
長期的な市場動向が不透明であり、長期ガス契約や長期電力契
約(
PPA)の比率が少ない。
独占体制下では、発電コストは全電源の平均発電コストとなるが、
競争下では限界発電プラントが価格を決定する。
31市場化(一物一価)がもたらすリスク
発電投資がガス火力(
CCGT,CHP)へ集中
原子力や石炭火力の新設は皆無(政策で誘導中)
初期コストが安い
(KW単価10万円以下、原子力は30~40万円) 建設リードタイム短い
(2~3年、原子力は10年) 環境規制クリアしやすい
(反対が少ない) ガス価格と卸電力価格がリンク
(Natural Hedgeが可能)~小売自由化で長期契約(PPA)の締結先がない~
ガス保有者への発電サービス(トーリング)も可能
価格変動リスクの増大
供給保障リスクの増大
32発電と送電の一体的運営の崩れに伴うリスク
発電所が最も必要とされる地点に建設されないが故に、
送電投資や系統の容量制約が増大する
建設計画/閉鎖計画の実行性が不透明化する(送電線を建
設しても、発電プロジェクトがキャンセルされる場合もある)
発電プラントの運転や点検停止等に係る情報が戦略的に提
出される(規制で最低限は義務付け)
各事業者の価格想定の相違から、よりコスト高い発電所が
運転される
33国際的な資源争奪戦での弱体化リスク
発電事業者の小規模化に伴う交渉力の低下
取引ロットの小規模化 取引における信用力の低下小売市場の全面自由化に伴う不確実性の増加
長期売電契約の締結が困難化となり燃料の購入契約期間が短期化 34 燃料購入費の上昇 エネルギー供給保障の弱体化ゲーム化のリスク
卸電力市場
送電線の容量制約を利用した戦略的入札
需給ひっ迫化を狙った発電プラントの停止
価格のボラティリティ
―拡大戦略(揚水事業者)
情報操作(不確実な建設計画の発表等)
小売電力市場
他社の料金値上げを待ち、需要家を獲得してから値上げ
35結局、英国の自由化は成功したのか
1990年代は大成功
非効率性の急速な排除 堅調な需要の伸び2000年代の社会情勢の変化で困難化
地球環境対策 北海ガス(国産)の枯渇 国際的な燃料価格の高騰 エンロンの破たん リーマンショック・欧州危機 36 料金の急上昇 新規参入者の撤退 資源争奪戦での弱体化 不確実性に伴う供給力の不足 料金低下 新規参入者の急増22年間の動き ~政策動向と事業者動向~
Energy /Environmental Policy(電力供給サイド関連)
社会現象・事業者動向 Electricity 1989 ・国有企業の分割・民営化 ・発送電分離 ・発電自由化(プール制) ・1MW市場自由化 ・RPI-X規制導入 ・再エネ支援策(NFFO) 100kW市場自由化(94) 家庭用電力市場自由化(99) 家庭用ガス市場自由化(98) Utilities Act 2000 ・配電線事業の法的分離 ・ガスと電力規制の一体化 ・卸市場の全面改革(相対取引) ・再エネ支援策(RPS)
Climate Change Act 2008 ・GHG 80%削減(2050) ・Law Carbon Transit Plan ・Renewable Energy Strategy
EU Renewable Directive 2009 ・加盟国の再エネ義務量設定
Electricity Market Reform着手(11) ・卸市場での低炭素電源優遇策 ・競争と低炭素化の両立に配慮 LCPD(NOx SOx) 強化(08) IED(新LCPD)の施行(10) CCS 政策(09~) ・新設石炭火力は義務 ・新設ガス火力は準備 エンロン倒産(01) ガス火力の建設ラッシュ/IPP参入開始(91~) 小規模事業者の撤退・Big6体制へ(01~03) 卸電力市場の流動性低下 シナジー効果狙いのM&A激化 コスト削減競争(90~) 北海ガス枯渇でガス輸入国へ(04~) 原子力促進策(08) 福島事故(11) ・原子力続行声明 Dual Fuel人気 エネルギー価格急騰(03~) ・電気・ガス料金2倍 ・エネルギー貧困急増 石炭火力計画全滅 北海ガスの発電利用解禁(91) 国内炭保護政策廃止(92) 事業者乗り換え急増 洋上風力の建設ラッシュ開始 リーマンショック(08) ・企業の格付け低下 1990 1995 2000 2005 2010 京都議定書(97) 企業買収解禁(95) 小売料金規制撤廃(02)
日本へのインプリケーション
日本の競争政策(?)
政府発言
新規参入者の比率を
3割程度にすべき
~根拠不明~ 39
限定的な競争(非対象規制)のリスク
新規参入者はおいしい需要家のみ獲得
供給義務がある電力会社は残った需要家へ供給
需要家を奪われるため電力会社に無駄な発電設備が発生
電力会社は参入者の撤退に備えてこの設備を保有
競争導入で電力会社の格付けが低下(資本コスト上昇)
残った需要家の料金上昇
40競争を入れる便益とリスク
競争を導入した場合の価格上昇要因をコスト削減で相殺できるだけの非効 率性が蓄積されているか。英国の事例
競争を導入した場合の価格上昇要因
資本コストの上昇(国有公社:約5%、競争下での民間会社:10%以上) 発送電の一体的運営の崩れ(送電投資、系統運用費用の増加) トランザクションコスト(取引費用)の発生 競争下でのゲーム・利益最大化戦略等コスト削減の余地
国有独占体制下で蓄積された非効率性 国内炭・重電メーカの保護政策 産業需要家向け政策料金 41 当時の電気料金は、本来の 水準を20%以上、上回って いたと分析 日本で相殺は可能?インセンティブ規制の効果
英国でも、独占のまま民営化して、インセンティブ規制を入れた方が結果的に 良かったのではないかという主張も多い。