「総合的問題解決能力」とは?
(1)問題解決の主体としての態度
問題における自己の立場(意見)を明確にし、他者の意見から自己の考え
方に他者の価値観や見方を反映させつつ解決に向けて取り組む態度
(2)問題に対する多角的な分析・思考力
多様な価値観や視点から問題を分析し、それらの価値を勘案し,解決策を
提示する思考力・判断力
(3)問題解決行動における対人的技能
問題解決のアプローチの中で、協働的に、相手の価値観や意見、利害を
把握することのできる豊かなコミュニケーション能力
単元「シリア難民問題を考える」
第1時「なぜ難民が発生するのだろうか?」
難民問題を発生国側と受入国側の視点でとらえ,難民の発生する要因を理解する
第4時「日本での難民受け入れ政策を考えよう」
日本における難民の受け入れの現状を理解し,難民の受け入れに対する賛否を判断
し,多様な意見を考慮しつつ,解決策を考える
第3時「全員が納得できる移民法を提案しよう」
ドイツ国民の立場に立って,他の立場の意見を考慮しながら,留保条件を加えて提案
し,話し合いの中で,解決策としての移民法を考え,提案する
第2時「ドイツ国民として移民を受け入れるべきか?」
移民法(独・2005年)の成立過程における議論の中での難民受け入れに対する意見を
理解し,各立場に立って,難民受け入れの是非を判断する
仮説①
仮説②
仮説③
仮説の検証方法
【検証対象】
①プレテスト(第
1時終了時)
②ポストテスト(第
4時終了時)
➂音声記録(第
4時話し合い時)
プレ・ポストともに「シリア難民受け入れに
賛成か・反対か?」について
(1)賛否と根拠
(2)解決策と根拠 を記述
仮説の有効性①
【仮説①】
史実(実際の出来事)に基づくロールプレイを行うことによって,「総
合的問題解決能力」を育成することができる
【検証対象:ポストテストの記述】
ロールプレイの各立場に与えた視点や意見の内容が根拠として組み込ま
れているか
【検証結果】※カッコ外の数字は1組,カッコ内は2組
各クラス40人のうち,組み込まれている生徒は39(39)人であった
ロールプレイの中で多くの立場の意見を理解し、自分の意見に反映させ
ていることが明らかである
仮説の有効性②
【仮説②】
協同学習の一手法としてのアナロジカル・ジグソーメソッドを取り入れ
ることによって,「総合的問題解決能力」を育成することができる
【検証対象:プレテスト・ポストテストの記述】
アナロジカル・ジグソーメソッドを通して、シリア難民問題に対する多
様な視点から分析・思考できているか
【検証結果】
各クラス40人のうち,視点の数が増えていた生徒は20(24)人いた
問題の賛否を判断する際に、授業内で提示した4つの視点から、分析・思
考している。
一方で,具体性はあるが,意見の現実性や根拠の具体性に欠けている
仮説の有効性②
視点(0または
1) 視点(2) 視点(3) 視点(4)
プレテスト 26 14 2 0
ポストテスト 14 18 5 2
0
5
10
15
20
25
30
視点の数の分布(3-1)
プレテスト ポストテスト
視点(0または
1) 視点(2) 視点(3) 視点(4)
プレテスト 33 4 2 0
ポストテスト 16 16 9 1
0
5
10
15
20
25
30
35
視点の数の分布(3-2)
プレテスト ポストテスト
プレテストとポストテストの記述に含まれている視点の数
の分布が,多くの視点が増加しており,両クラスともに、
多角的に分析・思考し、判断していることがわかる
仮説の有効性③
【仮説➂】
意見や価値観をマトリックスなどに図化し,かつそのマトリックス上に
自己の意見を表明させ,他者との意見調整を実際に行わせることによっ
て,「総合的問題解決能力」を育成することができる
【検証対象:音声記録】
レーダーチャートに図化し,意見を表明させ,他者と意見調整をする話
し合いの中で,調整を狙いとした発言がなされているか
【検証結果】
意見調整を意図とした提示をしていると判断できる班は,記録した3
(2)班のうち,2(2)班あった
意見の調整を図る話し合いが行われている事実が確認できる
仮説の有効性③
【実際の音声データより(グループ①A, B, C, Dの場合)】
(難民の受け入れについて,A,Cは反対,B,Dは賛成を表明)
B:Cさんたちって,難民1人も受け入れん感じ?
C:ちょいちょい。
A:俺もちょいちょい。積極的に受け入れるとなると,審査基準が落ちるじゃん。
C:若くて雇用できるやつを受け入れて,おっさんはバイバイ。
おっさんがこれ以上増えたらやばいんで。
B:親がない子供?
C:うん,親がない子供は可哀想だから,ちょっと受け入れてあげようかなと。
Cは反対の立場だが,留保条件として,年齢制限を設けて受け入れること
を提案している。
仮説の有効性③
【実際の音声データより(グループ①A, B, C, Dの場合)】
(難民の受け入れについて,A,Cは反対,B,Dは賛成を表明)
B:じゃあちょいちょいってさ,(どれくらい?)
C:まあ,1000人か,5000人か,2500人ぐらい。
B:万人にはいかんってくらい?じゃあ。
C:万人にはいかんってくらい。
B:5000人くらいかなあ。じゃあ。
A:5000人多くない?
(その後,日本の人口などから考えて,5000人で話し合いを終えた。)
AやCは反対の立場だが,留保条件として,人数制限を設けて受け入れる
ことを提案している。
仮説の有効性③
【仮説➂】
意見や価値観をマトリックスなどに図化し,かつそのマトリックス上に
自己の意見を表明させ,他者との意見調整を実際に行わせることによっ
て,「総合的問題解決能力」を育成することができる
【検証対象:ポストテストの記述】
他者と意見調整をする話し合いの中で,多様な意見との調整を図り,多
様な意見や価値観を踏まえて,記述することができているか
【検証結果】
自己の立場(賛否)と反対の立場の意見を考慮して,意見調整を意図と
した提示をしていると判断できる生徒は,27(23)人いた
対立する価値観を内包している社会(状況)において,相互の主張を鑑
み,検討した解決策を提案されている
一方で,問題の争点がズレている解決策の提案も見られた
【参考文献】
[「総合的問題解決能力」]
・シャンタル・ムフ(石田雅樹 訳)「グローバル化と民主主義的シティズンシップ」『思想』
924
号
2001年
・シャンタル・ムフ著(山崎カヲル・石澤武 訳)『ポスト・マルクス主義と政治:根源的民主主義
のために』大村書店,
1992年
・シャンタル・ムフ(岡崎晴輝 訳)「民主政治の現在」『思想』
867号,1996年
[時事問題学習]
・藤原孝章編著『時事問題学習の理論と実践
―国際理解・シティズンシップを育む社会科教
育』福村出版,
2009年
・河原和之『
100万人が受けたい「中学公民」ウソ・ホント?授業』明治図書,2012年
[検証仮説]
・安斎勇樹 益川弘如 山内祐平「創発的コラボレーションを促すワークショップの活動構成
―アナロジカル・ジグソーメソッドの効果の検討」『日本教育工学会論文誌』第37号,2013年