Ⅰ.はじめに 免疫血清分野の検査は、腫瘍マーカーやホル モン、感染症関連検査など、生体内における微 量成分検出のため、抗原抗体反応を利用して測 定を行っている。抗原抗体反応を測定原理とし た方法は、生化学汎用自動分析装置に搭載可能 な試薬もあれば、専用機、専用試薬を必要とす るものなど様々であり、Homogeneous assayと Heterogeneous assayに大別される。Homogeneous assayは、免疫反応に伴う凝集の程度を計測す るものであり、終始溶液状態で行われる。多く は汎用自動分析装置に搭載可能で、分析時間も 比較的短い。しかし、種々の妨害要因により低 濃度の分析は困難とされており、免疫比濁法 (TIA)、ラテックス免疫比濁法(LA)、免疫比 ろう法(NIA)がこれに該当する。Heterogeneous assayは、固相化された抗体などを用いて反応、 洗浄(B/F分離)が行われる2抗体サンドイッチ 法を測定原理とする。現在では標識物質に発光 物質を用いることにより高感度な測定を可能と しており、RIA、EIA、蛍光法(FEIA)、発光 法(CLIA、CLEIA、ECLIA)がこれに該当する。 近年では、このように数多くの分析装置や測 定法が開発され、自動分析法も広く普及した。 そして、特異性や検出感度の向上、検体微量化、 測定時間の短縮など分析技術は飛躍的に向上 し、臨床に大きく貢献している(Fig. 1)1)。し かしながら、免疫反応は抗原抗体反応を利用す る反面、多種多様な物質の影響を受け、非特異 な反応を生ずる可能性がある。また、その影響 は様々であり、自動分析法における全ての非特
日常業務で遭遇しやすい非特異反応とその確認方法
齊藤 翠
Common nonspecific reaction in routine work and method for
confirming the reaction
Midori Saito
Summary Immunoassays are conducted to examine biological sample components present in
trace amounts in the blood based on antigen-antibody reactions. However, a nonspecific reaction
may occur because of interfering substances present in the measurement material and antibody in
the reagent. It is difficult to conduct quality control analysis and the alert of the analyzer.
Nonspecific reactions cannot be completely prevented. However, nonspecific reaction must be
precisely detected and the factors causing inconsistencies in the measurement result should be
identified.
Key words: immunoassay, nonspecific reaction, Homogeneous assay, Heterogeneous assay
〈特集:ワークショップ2・第26回年次学術集会〉藤田保健衛生大学病院 臨床検査部
〒470-1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98 TEL : (0562) 93-2305 FAX : (0562) 93-3711 E-mail : [email protected]
Department of Clinical Laboratory, Fujita Health University Hospital
1-98, Dengakugakubo, Kutsukake-cho, Toyoake-shi, Aichi, 〒470-1192, Japan
異反応を回避することは困難である。そのため、 関連検査との結果の矛盾、初回値と再検値の不 一致、前回値との乖離から気づく場合が多いが、 臨床からの指摘により発見されることも少なく ない。現在市販されている免疫測定装置のうち、 一部の基本性能をTable 1に示す。 Ⅱ.反応に干渉を及ぼす要因 免疫反応において、測定対象以外の何らかの 干渉物質と測定試薬成分が反応することによ り、病態とかけ離れた測定値を示す現象を非特 異反応という。非特異反応では、その反応形態 により測定結果は偽低値または偽高値を示す。 例えば、固相化抗体と標識抗体が、干渉物質に より、抗原を介さずに非特異的に結合すれば偽 高値となるが、干渉物質が標識抗体と結合して しまい、抗原と標識抗体の結合を阻害してしま うと偽低値となる(Fig. 2)。このような非特異 反応を起こす要因は、検体に起因する場合と試 薬反応系に起因する場合の2つに大別される。 1.検体に起因する場合 検体中に異好抗体や自己抗体が存在すると、 試薬に用いられている抗体、あるいは測定対象
Fig. 1 Sensitivity of assays
Fig. 2 Influence of the heterophil antibody
物質と反応し、本来の反応を阻害する。また、 異好抗体や自己抗体以外の生体成分として、M 蛋白やリウマトイド因子(RF)、クリオグロブ リンなど異常蛋白による異常データも報告され ている2),3)。 異好抗体、特にヒト抗マウス抗体(human anti mouse antibody:HAMA)による非特異反 応は、よく知られている。これは、抗原検出系 の試薬に用いられている抗体の多くがマウスモ ノクローナル抗体であり、このマウスモノクロ ーナル抗体と結合し非特異的な反応を起こすこ とによって起こる。HAMAに代表されるヒト のもつ抗動物抗体は、ヤギ(Goat:HAGA)、 ヒツジ(Sheep:HASA)、ウサギ(Rabbit:HARA) も確認されており、これらの動物由来の蛋白を 用いた試薬では、非特異反応が生ずる場合があ る。HAMAの産生要因は多岐にわたるが(Table 2)、近年、関節リウマチなどの治療に用いられ ている生物学的製剤にはキメラ抗体やヒト化抗 体があり、マウス由来の成分がヒトに投与され ている。このように生物学的製剤の普及は新た なHAMA産生の一因となる可能性がある2)。 異常蛋白であるM蛋白、クリオグロブリンや RFは、とくにHomogeneous assayで異常反応を 認めることが多い。異常蛋白の非特異反応は、 M蛋白やRFが試薬中のポリエチレングリコー ル(PEG)と反応し、混濁や不溶性の沈殿物を 生じることによる。生じた混濁や沈殿物は吸光 度上昇の原因となり、正しい反応過程が得られ ない(Fig. 3)。 検体に起因する要因として、生体成分のみな らず、検体前処理による影響も忘れてはならな い。マイクロフィブリンによる偽高値は、日常 最もよく遭遇する事例である。 2.試薬反応系に起因する場合 試薬に用いる抗体の選別によっては、hCGと hCG-β、LH、FSHやCペプチドとプロインス リン、ACTHとその前駆物質や分解産物のよう に生理活性の異なる構造類似物質が抗原抗体反 応物を形成したり、投与薬剤との交差反応を示 すことがある。 また、CA19-9やPSA、Ⅳ型コラーゲンなど 幅広い分子量で血中に存在する物質や、抗原性 の異なる分画が存在するCEAやSCCは、測定試 薬によって測定値のバラツキを生ずることがあ る。とくにCA19-9は、血中で複数の抗原糖鎖 が巨大なムチン様蛋白分子の表面に露出した形 で存在するが、その分子量は約400 kDaから約 2,000 kDaと幅広く不均一である。このなかで 癌由来のCA19-9は高分子量が多いが、逆に良
Fig. 3 Reaction process in the M-protein blood disease Table 2 Production factor of HAMA
性疾患の多くは低分子量である。このような CA19-9の血中での不均一な存在と測定試薬ご との反応特性の相違が、測定値乖離の一因とな っている1),4)。また、CEAには肺、脾臓より抽 出されたNCA、胎児便中のNCA-2、正常成人 糞便中のNFA-1、NFA-2などのCEA関連抗原が 存在し、各試薬で交差反応性が異なることが報 告されている5)。 PSAについては、血清中における分子多様性 が明らかとなった90年代の半ばから、キット間 差の問題は、Free PSAとの反応性によるもので あることが指摘されてきた6)。その後、血清 PSAの測定対象であるFree PSAとα1-アンチキ モトリプシン(ACT)との結合型であるPSA-ACTの両分子を同等にとらえる等モル反応への キット是正により、試薬間に生じていた測定値 のバラツキが大幅に改善された。 Ⅲ.非特異反応発見の糸口 日常の精度管理や分析装置が発する警告から 非特異反応を発見することは困難である。しか し、正確に結果報告を行うためには、一連の検 査から異常反応を見つけ出し、迅速にそれを回 避するよう努めなければならない。非特異反応 発見の糸口として、以下の内容があげられる。 ① 関連項目の結果と矛盾を生じる ② 前回値との大幅な乖離 ③ 検査結果が異常高値・異常低値 ④ 初回値と再検値にバラツキを認める ⑤ 異常蛋白や自己抗体を認める ⑥ 希釈直線性が得られない ⑦ 臨床からの指摘 測定結果を確認する際に、単項目の評価で病 態を推測することはできない。血算や生化学な ど他の血液検査の結果や患者情報を併せて評価 することにより、病態を推測し、さらに精査へ と繋げていくことができる。たとえば、LDは あらゆる臓器に含まれる逸脱酵素であるため、 LDの上昇を手掛かりに他の異常値を評価して いくと、いくつかの病態に絞れてくる場合もあ る。また、現在では電子カルテも広く普及して おり、患者の状態をいつでも確認できる環境下 にある。臨床症状と合わないということで臨床 から指摘を受けることも少なくないが、関連項 目との矛盾、患者情報の確認、反応過程など分 析装置から得られる情報により、結果報告前に 非特異反応を発見し、正しい結果を報告するこ とが検査する側の責務である(Fig. 4)。 Ⅳ.非特異反応の回避・解析 他項目との関連や時系列変化から矛盾したデ ータに遭遇した場合は、採血から分析装置投入 までの前処理において不備がないかを確認す る。そして、元検体にて再遠心を行ったうえで 再測定することが望ましい。 日常最もよく遭遇する非特異反応として、マ イクロフィブリンの影響があげられる。検体中 に微小なフィブリンが残存することにより、B/ F分離が阻害され、偽高値を呈する現象である (Fig. 5)。この現象は、採血後の採血管転倒混
和や放置時間、遠心時間に依存するとの報告も ある7)。検体前処理を適切に行うことにより回 避できる現象ではあるが、分析値がカットオフ 値付近で陽性となった場合は、再遠心したうえ で再測定すべきである。 再測定を行っても納得したデータが得られな い場合は、非特異反応の可能性を考慮し、解析 を進める必要がある。解析の手段としては多く の方法があるが、代表的な方法について以下に 示す2),4)。 1.反応過程の確認 測定結果に疑義が生じた場合、まず反応過程 を確認する。反応過程の異常を認識するために は、正常なパターンを知っておく必要がある。 日常より、反応過程を確認する習慣を身につけ るべきであるが、不明な場合は、コントロール など明らかに正常な反応を示している検体の反 応過程と比較する。 2.希釈直線性の確認 段階希釈系列を作成し、直線性が得られるか を確認する。検体中に干渉物質が存在する場合、 希釈することにより干渉物質の濃度も低下する ため、その影響も低減される。直線性が得られ る領域においては、干渉物質の影響は回避され ていると考えられる。 3.異なる測定法での確認 疑わしい結果が得られた場合は異なる測定法 で再測定する。異なる測定法での再測定が可能 な環境下にある場合は、両者による測定結果を 比較し、乖離が認められた場合は非特異反応が 疑われる。 4.免疫グロブリン吸収試験 非特異反応には免疫グロブリンが関与するケ ースが多いことから、その吸収により異常値が 解消されることを確認する。被検血清と抗血清 を混合し、一晩放置した後に遠心上清を測定す る。結果の解釈で、測定値の低下が20%以上認 められる場合を吸収効果有りとする報告もある2)。 5.PEG処理 PEGの脱水作用を利用した塩析法により免疫 グロブリンを非特異的に沈殿・除去することが できる。本法はT3やプロラクチン、SCCなどの 比較的分子量の小さい成分に対する自己抗体の 確認試験に効果的である。処理前の測定値と処 理後の測定値を比較し40%以上低下が認められ る場合には自己抗体含有の可能性ありとする報 告もある2)。 Ⅴ.まとめ 免疫血清検査項目の分析方法は年々進歩し、 近年では診察前検査として、短時間に多くの検 査結果が報告されている。そのような状況下で も、個々の検体に対して十分な結果解析を行う ことは疎かにしてはならない。免疫血清検査で は腫瘍マーカーやホルモンなど、診断や治療に 直結する項目の分析を行っており、誤った結果 報告から治療・投薬が開始されることがあって はならない。そのためには、非特異反応のリス クを十分に理解し、小さな矛盾点から発見でき る知識を身につける必要がある。免疫反応は、 抗原抗体反応を原理とすることから、測定対象 物質の多様性や試薬組成、測定原理によって 様々な反応性を示す。しかし、装置や試薬の特 性を十分に理解し、反応過程や結果値に対する 警告など、装置のもつ情報をうまく活用するこ
とが異常反応を発見する糸口となる。そして、 異常値解析は、繁忙な日常業務の中、多大な労 力を費やすこととなるが、解析技術を身につけ ることは臨床支援に繋がるものと考える。 文献 1) 柴田宏:知っておきたい!自動化時代の落とし 穴 2.自動免疫・血清検査装置. Medical Technology, 39 (2) : 121-125, 2011 2) 阿部正樹:免疫反応の異常事例の発見とその解 析 方 法. 日 本 臨 床 検 査 自 動 化 学 会 会 誌, 40 (Suppl.1) : 8-36, 2015 3) 山本慶和 他:異常反応検出による免疫比濁法 CRP測定値の信頼性保証. 日本臨床検査自動化学 会会誌. 26 (6) : 704-708. 2001 4) 石橋みどり:腫瘍マーカー測定における非特異 反応とその対応. Medical Technology, 38 (8) : 805-811, 2010 5) 吉田大輔 他:CEA,CA19-9測定値の4方法間で の比較について. 日本臨床検査自動化学会会誌. 39 (1) : 33-38. 2014 6) 加野象次郎:前立腺特異抗原(PSA)の標準化 に関する活動報告. 日本臨床検査標準協議会会誌, 21 (1) : 9-47, 2006 7) 石沢修二:採血管使用の問題点 1.HBs抗原測定 について. 医学検査. 53 (5) : 767-770. 2004