緒 言
近年,米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administration: FDA)によってガドリニウム造 影剤の高用量投与による腎性全身性線維症 (nephro-genic systemic fibrosis: NSF)の発症が警告され1),腎 機能が低下した患者に対して造影剤を使用しない非造 影 magnetic resonance angiography(MRA)は広く用 いられている.非造影 MRA 法には,gradient echo 法 を用いた time of flight(TOF)法2, 3)や phase contrast
(PC)法2, 3),steady state free-precession(SSFP)法4), そして心電図同期 three-dimensional fast spin echo (3D-FSE) 差 分 法 で あ る fresh blood imaging (FBI)
法4, 5)などが提案されている. その中で FBI 法は,拡張期では動静脈ともに流速が 低く高信号に,収縮期では動脈のみ流速が高く低信号 に描出される特性を利用して,拡張期像から収縮期像 を差分することにより静脈を消して動脈だけを高信号 に描出し,それらの差分画像を maximum intensity
膝下三分枝を対象とした非造影 MRA における
臨床に向けたエコートレイン数の最適化
藤本綾子
1, 2青羽南臣
2, 3町田好男
2 1国家公務員共済組合連合会舞鶴共済病院放射線技術科 2東北大学大学院医学系研究科保健学専攻画像情報学分野 3秋田県厚生農業協同組合連合会秋田厚生医療センター放射線科 論文受付 2019 年 8 月 13 日 論文受理 2020 年 3 月 5 日 Code No. 261Optimization of Echo Train Length in Non-contrast Enhanced MR Angiography
for Clinical Examination of the Calf Arteries
Ayako Fujimoto,1, 2*Minami Aoba,2, 3and Yoshio Machida2
1Department of Radiology, Maizuru Kyosai Hospital 2Tohoku University Graduate School of Medicine 3Department of Radiology, Akita Kousei Medical Center
Received August 13, 2019; Revision accepted March 5, 2020
Code No. 261
Summary
Purpose: Non-contrast magnetic resonanse angiography (MRA) using the three-dimensional
electrocardiogram-synchronized fast spin echo method uses systolic and diastolic arterial signal differences. The method relies on the flow void signal of the arterial flow because of dephasing during systole. However, depiction of slow flow such as that in a calf artery was degraded because of insufficient dephasing during systole. In this study, we optimized echo train length (ETL) using a flow phantom and normal volunteers for clinical examination of the calf arteries. Methods: Flow phantom and normal volunteer images were obtained with various ETLs (40, 50, 60, and 70). An averaged profile across the tube in the phantom was used for detailed investigation of flow dephasing. Visual evaluation was performed and signal intensity change along vessels was measured using normal volunteer images. Comparison with peak systolic velocity (PSV) measured using ultrasound equipment was also conducted.
Results: Results of the flow phantom and normal volunteer study indicated that the overall depictability was
improved with ETL 60 and 70, which was higher than the standard value. Additionally, the visualization of the peroneal artery with low PSV of ETL 70 had better depictability than ETL 60. Conclusion: This study suggested that ETL 70 might be better for clinical examination of the calf arteries.
Key words: non-contrast enhanced magnetic resonance angiography (MRA), fresh blood imaging, echo train length, dephasing effect
*Corresponding author
projection(MIP)処理することにより MRA 像を得 る5, 6).一度に広範囲の撮像が可能であるために非造 影躯幹部 MRA 法として用いられている.しかし,下 肢血管領域を対象とした場合,膝下三分枝などの末梢 血管では流速が低下するために良好な差分画像が得ら れにくい.それらの原因の一つとして,収縮期にて動 脈の信号値が十分に低下しないことが,血管描出能の 低下を引き起こすと報告されている7, 8).これに対し て Flow-Spoiled FBI は,動 脈 血 管 の 走 行 方 向 に Dephasing Gradient を印加することで動脈信号の低 下を促進させて描出能を向上させる方法である9).今 回使用した装置の心電図同期 3D-FSE 差分法は,non-contrast magnetic resonance angiography of arteries and veins using sampling perfection with application optimized contrasts using different flip angle evolution (NATIVE-SPACE)とよばれるシーケンスを用いてい る.スピンエコー系のマルチエコーをベースとしたこ の撮像シーケンスでは,最初の数エコーにてほぼ平衡 な状態(pseudo steady-state)を達成し,再収束パルス (refocus flip angle: RFA)の経時的な変化によってエ
コーの信号強度を変化させている10, 11).主な RFA の
設定としては,一定フリップ角(constant flip angle)と 可変フリップ角(variable flip angle)の 2 種類があ
る12, 13).RFA の最小角を低くすることで流速の低い 動脈に対する感度が上がり,差分画像における血管描 出能の向上が報告されている14). これまでにわれわれは,非造影下肢 MRA における 膝下三分枝の描出向上を目指して,k 空間充填方法の 違いによる血管描出能の違いについて比較を行ってき たが,良好な差分画像を安定的に得ることはできな かった.その理由として,膝下三分枝の各血管の流速 が異なり末梢ほど流速が低下していく傾向を示すこと などが挙げられると考えられた.そこでわれわれは, ユーザが設定可能なパラメータの一つであるエコート レイン数(echo train length: ETL)に注目し,ETL を変 化させたときの膝下三分枝の血管描出能について比較 を行ったところ,描出能の ETL 依存性が認められ, ETL の最適化による血管描出能の改善あるいは向上 が示唆された15).本研究では,超音波装置による健常 人ボランティアの各膝下三分枝の流速測定も検討に加 え,臨床に向けて更に詳細に検討した結果を報告する. 1.方 法 NATIVE-SPACE 法では,収縮期の動脈信号値を低 く描出することが,差分画像において動脈の良好な描 出能を保つための重要な要素であり,緒言でも述べた ように収縮期での動脈の信号低下が dephasing と密接 な関係があることが知られている14).本研究では,フ ローファントムと健常人ボランティアを撮像対象とし た検討を行うが,以下では,フロー部分または動脈の 信号低下の度合いを dephasing 効果と表現して記述す る.なお,健常人ボランティアを対象とした超音波装 置による血流速測定および magnetic resonance imag-ing(MRI)装置による膝下三分枝撮像は,当院の倫理 審査に基づいて承諾を得たうえで行った.
1-1 使用装置およびフローファントム
MR 装置はシーメンス社製 MAGNETOM Avanto 1.5 T(VD 13 A),コイルは Body matrix coil 6 channel を用いた.フローファントムはプラスチック容器内に 内径 4 mm のシリコンチューブを配置し周りをゼラ チンにて固めたもので,これを Fig. 1 に示すように MR 装置内へ設置した.模擬血液試料として,6%グ リセリン溶液(T1=1400 ms,T2=280 ms に調整)を用い た16, 17).実験では,MR 用造影剤注入装置(ソニック ショット GX:根本杏林堂)を用いて模擬血液試料を定 常流にてシリコンチューブに流した.超音波装置は Canon Medical Systems(TUS-A400)を用い,7.5 MHz リニアプローブを使用した. 1-2 超音波装置による流速測定 健常人ボランティア 5 名の左右膝下三分枝の各血管 を,それぞれ upper,middle,lower の 3 部位に分け て,超音波装置にて収縮期最大血流速度(peak sys-tolic velocity: PSV)の測定を行った. 1-3 フローファントム撮像 1-3-1 撮像条件 シーケンスは NATIVE-SPACE 法を使用した.撮 像パラメータは,repetition time(TR): R-R interval, echo time (TE): 67 ms, refocus flip angle (RFA): constant flip angle and variable flip angle, echo spacing: 2.58 ms, k-space trajectory: Radial, field of view (FOV): 365´380 mm (phase encode´readout), acquisition matrix size: 231´320, reconstruction matrix size: 308´320, slice thickness: 1.5 mm, slice per slab: 14, parallel acquisition (GRAPPA) with an acceleration factor of 3, k-space trajectory: Radial, BW: 920 Hz / pixel とした.この条件のもとで,ETL を 40,50,60, 70 と変化させて撮像を行った.撮像断面は冠状断で, 読み出しは静磁場方向,位相エンコードは左右方向と した.撮像時間は ETL 40–70 にてそれぞれ 32,27, 690
24,22 秒であった.拡張期を想定した撮像では一定フ リップ角,収縮期を想定した撮像では動脈をより低信 号に描出させる可変フリップ角を用いた.フローファ ントムの流速設定は,MR 用造影剤注入装置を用いて 流量を 0.2–1.8 ml/s の範囲で 0.2 ごとに設定し,それ らに対応する流速は 1.5,3.1,4.7,6.3,7.9,9.5,11.1, 12.7,14.3 cm/s とした.実験は期間を置いて同一条件 で 2 回実施して傾向が変化しないことを確認して平均 値を算出した. 1-3-2 フローファントム画像の dephasing 評価 各 ETL のファントム画像のシリコンチューブの中 央で 5 ライン分のプロファイルの平均のカーブを取 り,フロー部分の信号強度を計測した(Fig. 2).計測 には Image J18)を用いた.拡張期を想定した流速 0 cm/s の信号強度から収縮期を想定した流速ありの信 号強度を差分してフロー部分の信号値が高い程 de-phasing 効果は高いと評価した. 1-4 健常人ボランティア撮像 1-4-1 撮像条件 当院の倫理審査に基づいて承諾を得た健常人ボラン ティア 5 名(平均年齢 33.4±11.1 歳)に対して膝下三分 枝の撮像を行った.コイルは PA matrix coil 16chan-nel を用い,撮像シーケンスは NATIVE-SPACE 法 で,撮像条件はフローファントムと同一条件を用い
て,field of view (FOV): 365´380 and 404´420 mm (phase encode ´ readout), slice per slab: 56–60,にて ETL を 40,50,60,70 と変化させて撮像を行った. 撮像時間は健常人ボランティアの心電図同期による R-R 間隔とスラブ数に依存し,R-R 間隔が 800 ms 前 後における収縮期と拡張期を合わせた撮像時間は ETL 40 にて約 4 分 30 秒前後,ETL 50 にて約 4 分前 後,ETL 60 にて約 3 分 30 秒前後,ETL 70 にて約 3 分前後であった.拡張期の RFA は,動脈を高信号に 描出させるために一定フリップ角とし,収縮期の RFA は,動脈をより低信号に描出させるために可変 フリップ角として両者を差分して MIP 画像を作成した. 1-4-2 視覚評価 健常人ボランティア 5 名の MIP 画像に対して,左 右それぞれの膝下三分枝(前脛骨動脈:anterior tibial artery (ATA),後 脛 骨 動 脈:posterior tibial artery (PTA),腓骨動脈:peroneal artery(PA))の視覚評価 を,放射線技師 4 名(MRI 経験年数 4 年以上)にて行っ
た15).評価は,近位部から末梢にかけての血管信号
が,狭窄や閉塞などを疑われる信号損失がなく可視化 されているかに注目して,5 段階のスコア(0=non-diagnostic, 1=poor, 2=fair, 3=good, 4=excellent)19, 20)を
用いた.また,有意水準 5%以下で,EZR(Easy R)21)
を用いて Wilcoxon Signed-rank Test による統計学的 解析を行った.
Fig. 1 Flow phantom used for this study.
(a) A gelatin phantom with a 4 mm inner diameter silicone tube was placed in the gantry. (b) Blood-mimicking 6% glycerol solution (T1=1400 ms, T2=280 ms) flowed into the tube.
b
a
1-4-3 血管信号値の連続性の評価 MIP 画像に対して,ATA は近位部の屈曲部から血 管が直線に走行する 1–2 cm 下を起点とし,PTA や PA は膝窩動脈からの分岐部より,血管信号の最大点 を基点に末梢までの最大点をたどり,3 ピクセル分の 信 号 値 の 変 化 を Mathematica11.0 (Wolfram Research)にてピクセルごとに計測した22).また,計 測したピクセルを upper,middle,lower の 3 箇所に 等分に分けてそれぞれの領域の平均信号値を計算し た15). 2.結 果 2-1 健常人ボランティアの PSV 超音波における健常人ボランティアの膝下三分枝の PSV の範囲を Fig. 3 に示す.ATA や PTA では mid-dle において upper や lower と比較して流速が低下し 692
Fig. 2 Evaluation of flow dephasing.
(a) Averaged profile curves of the tube with constant flip angle (0 cm/s). (b) Averaged profile curves of the tube with variable flip angle (7.9 cm/s). (c) The profile curves by subtracting the profile (b) from (a).
Fig. 3 Range of peak systolic velocity (PSV) of the normal volunteers measured in three calf regions: upper, middle, and lower.
b
a
c
た.PA では upper,middle,lower の順に末梢へいく ほど流速が低下した. 2-2 ファントム画像でのフロー部分の信号強度 フローファントム実験でのフロー部分の 5 ライン分 のプロファイルの平均のカーブを Fig. 4 に示す.流 速が 12.7 cm/s と 14.3 cm/s のフロー部分の各 ETL の信号値には差がみられなかった.6.3 cm/s から 11.1 cm/s までの流速では ETL 40 に対して ETL 50,60, 70 のフロー部分の信号値は高くなった.流速が 4.7 cm/s 以下の更に低い流速では,ETL 60 と 70 が ETL 40 や 50 と比較して高い信号強度を示しており,高い dephasing 効果が得られた. 2-3 ボランティアに対する視覚評価 視覚評価のスコアの結果を Fig. 5 に示す.ETL を 40 から 50,50 から 60 へと増加させていくことで ATA,PTA,PA ともにスコアが高くなり(P<0.001), ETL 60 と 70 のスコアには大きな差はなかった15).
ATA は ETL 40 より,PTA は ETL 50 にて良好な描 出能を表す 3 に近いスコアを示したが,PA は ETL 60 から 3 に近いスコアを示した.また,PA の末梢での 描出能は ATA や PTA と比較して ETL 増加により 大きく向上した.
Fig. 4 ETL dependence of flow signal profile for various flow velocities of 1.5–14.3 cm/s.
Fig. 5 ETL dependence of visual evaluation score for three segments of the calf arteries: anterior tibial artery (ATA), posterior tibial artery (PTA), and peroneal artery (PA).
2-4 血管信号値の連続性 各膝下三分枝の近位部から末梢までの血管信号値の 変化を近位部から末梢までのピクセルを 3 等分した upper,middle,lower 各信号の平均値を Fig. 6 にて示 す.血管信号値は近位部から末梢部に行くに従って低 下し,ETL 40 の血管信号値は ETL 50,60,70 と比較 して低い信号値で変動した.また upper での平均信 号値が最も高く,次に middle,lower の順で高い値を 示した.ETL の増加により,各血管の平均信号値は 増加していく傾向にあった.upper,middle,lower と もに ETL 60 や 70 の信号値の差は小さく同程度の平 均信号値を示した. 3.考 察 3-1 膝下三分枝の PSV ATA では膝下三分枝の中では PSV は最も高い傾 向にあり,PTA では upper や lower よりも middle に て PSV が低下した.その理由として,PTA は mid-dle にて下Ḱの内側の三つの屈筋と下Ḱ筋膜の深層を 走行するため23)PSV が低下したと考えられた.PA は 腓骨に沿って母指屈筋に覆われながら末梢へかけて走 行するため,末梢へいくほど PSV は低下する傾向に あったと考えられた. 3-2 フローファントムによる dephasing 効果 ETL を増加させることでフロー部分の信号値が低 くなることが確認され,dephasing 効果が促進された ためと考えられた.本検討にて用いた 3D-SPACE 法 のシーケンスでは,対象組織(主に白質,灰白質)の信 号強度が保たれるように RFA の設計が行われてい る24).可変フリップ角より発生する各エコー信号は, T2減衰ではなく,T1緩和と T2緩和とが混合した減衰
を示す.Busse らは拡張位相グラフ(EPG: extended phase graph)を使用して,RFA から取得する各エ コー信号強度を計算する方法や,逆に各エコー信号の 信号強度から各再収束 RF パルスの FA を求める Prospective EPG と呼ばれる方法について報告してい る25).その中で,血流など動くものに対しては RF パ 694
Fig. 6 ETL dependence of regional average.
ルス間において位相の変化が生じること,その位相変 化量は拡張位相グラフを用いて勾配面積や血流などの 速度,エコー間隔等を用いて算出できることも報告さ れている.今回の検討では,ETL に依らずエコー間 隔は一定であった.ETL 増加時に対象組織の信号強 度を保つためには一般に RFA の最小角は低めに設定 されると考えられる.そのため流れに対する感度が高 くなり,フロー部分の dephasing 効果が高くなったこ とで信号値が低下した可能性があると考えられた. 3-3 健常人ボランティアに対する視覚評価 ATA において,血管が下Ḱと平行に走行する部分 は ETL の変化にかかわらず,比較的良好な描出を表 すスコアを示したが,近位部においては,血管が屈曲 しているために部分的な信号強度の低下が狭窄のよう にみられる場合があった.それらは,収縮期の原画像 においても,読み出し方向に対して垂直な方向に走行 する近位部の血管では信号低下が認められず,不十分 な dephasing によりスコアが低下したと考えられた. PTA や PA では,ETL 40 や 50 において低いスコア を示したが,ETL 60 や 70 においては収縮期にて動脈 の dephasing が促進されて描出能が向上したため,ス コアが高くなったと考えられた.また PA は,ETL 40 では末梢まで全く描出されずスコアが低下する場合も あった(Fig. 7).フローファントムの検討では,低い 流速のフロー部分の信号値では ETL 40 や 50 と比較 して ETL 60 と 70 がより信号値が低下して,高い de-phasing 効果が得られた.それら結果と,膝下三分枝 の中でも PSV が低い傾向にある PA において ETL 60 と 70 にてスコアが向上した結果は,おおよそ一致し ていた. 3-4 血管信号値の連続性 ETL 増加により upper,middle,lower における平 均信号値も ETL 60 と 70 が ETL 40 や 50 よりも高く なり,ボランティアに対する視覚評価の結果と同様の 傾向を示した.これらはフローファントムの考察と同 様に,ETL 増加に伴い RFA の最小角が低く設定され ることで収縮期での動脈に対する dephasing 効果が促 進されて,差分画像にて膝下三分枝の血管信号値が高 くなり描出能の向上につながったと考えられた.ま た,多くの健常人ボランティアは ETL が大きくなる ほど平均信号値は高くなり,upper,middle,lower の 部位によっても PSV は変化した.ETL 50 をピークに
Fig. 7 Example of ETL dependency of PA depictability for a normal volunteer. Arrows indicate the peroneal artery (PA).
(a) The distal part of PA was not depicted with ETL 40.
(b) Depictability became slightly better for images with ETL 50 compared with ETL 40. (c), (d) In ETL 60 and 70 images, the signal intensity in the distal part of PA was increased considerably. The depictability of PA improved.
平均信号値に変化がなく,あるいは下がる傾向を示す 健常人ボランティアの膝下三分枝の PSV は約 40 cm/s 前後を示し,部位による大きな差はみられな かった.流速によっては ETL 依存性の程度に違いが あることも推測されるが,今回の検討で用いた健常人 ボランティアの数と結果だけでは十分とはいえず更な る別の検討が必要であると考えられた.
健常人ボランティアの ATA や PTA では,upper や lower の部分よりも middle にて描出能が不十分で あった例が PTA にていくつかみられた.超音波での PSV の測定結果らは middle の PSV が lower よりも 低い流速を示す傾向が確認されたが,これが原因の一 つであるかもしれない.PA では近位部から末梢にい くほど,流速が低下していき描出能が低下する傾向を 示したが,ETL 増加により描出能が改善された.し かし,ETL を大きくすることで,収縮期において静脈 の信号値も低下して,Fig. 8 の矢印部分のように差分 画像において腓骨静脈が描出されてくる例や,ほかに も大伏在静脈が描出されてくる例があった.描出され てくる静脈は MIP 画像にて,ある程度は画像処理で きると考えるが,動静脈が近接して処理が困難なケー スもあるため差分画像と拡張期の原画像との対比が不 可欠であると考えられた.本検討では拡張期は一定フ リップ角,収縮期では可変フリップ角を用いて両者を 差分しているが,ETL 40–70 の膝下三分枝を覆う筋肉 の信号値は,一定フリップ角よりも可変フリップ角の 撮像にて高い値を示し,拡張期画像から収縮期画像を 差分すると筋肉信号はマイナスとなった.しかし使用 装置の設定上,マイナス部分は MIP 処理した際には 0 表示になるため背景信号が差分画像に与える影響はな かった. 今回用いた健常人ボランティアの各 ETL の画像で は,PA のスコアが ATA と PTA のスコアを上回る 例はほとんどみられず,ATA や PTA のスコアは高 くても PA だけが低く,膝下三分枝全体の描出能に影 響を及ぼしていた例がいくつかあった.ATA,PTA, PA の内,一つの血管でも描出能が低下してしまうと, パラメータ設定の変更や他の非造影 MRA 法での追加 撮像が必要となり,検査時間の延長を引き起こしてし まうと考えられ,全体的に高い描出能を得るためには 各膝下三分枝が,およそ 3 以上のスコアを示すことが 望ましい.このことから,膝下三分枝の中で最も流速 が低い PA の描出能に焦点を合わして ETL を設定す ることが,全体の視認性の向上と検査時間の短縮へと つながると考えられた.本検討では ETL 40–70 で撮 像した画像を比較したが,ETL を高くすることで血 管信号値は高くなるがブラーリングによるボケが視覚 的にも捉えられた.そのため ETL 70 以上の設定で 696
Fig. 8 Depiction of vein with various ETLs.
Arrows indicate peroneal artery (PA) and peroneal vein (PV). (a) In the image of ETL 40, PA and PV are not shown. With (b) ETL 50, (c) ETL 60, and (d) ETL 70, both PA and PV are shown. With larger ETL, it is visible even at the distal end.
は,血管信号値に大きな変化はみられずにボケだけが 視覚的に影響を与えると推測された.しかし,PA に おいては ETL 60 よりも 70 にて血管描出能が優れて いたケースもみられた.その理由として,ETL を高 くすることでブラーリングによるボケにより血管径が 若干広がって見えたことで視覚的に PA が捉えやすく なったと考えられた.一般的にブラーリングによるボ ケは画像に対して悪い影響を与えるが,今回検討した ETL の範囲内では,膝下三分枝の描出能の低下を引 き起こすことはなかった. 今回の実験結果では ETL 60 と 70 の upper,mid-dle,lower における平均信号値は,ETL 40 や 50 と比 較して高く両者の間に大きな差はなく,視覚評価にお いても ETL 40 と 50,ETL 50 と 60 の間に有意差が示 され,ETL 60 と 70 は高いスコアが得られた.しか し,PA においては ETL 60 よりも 70 にて血管描出能 が優れていたケースもみられ,膝下三分枝の描出にお いては,PA の描出能を向上させることが全体の描出 能の改善につながるため,今回の健常人ボランティア よりも平均年齢が高く流速の低い膝下三分枝が対象と なる臨床では,ETL 70 の設定が膝下三分枝の描出能 改善に有用であると考えられた. また,フローファントム実験では ETL を変化させ たときの非造影 MRA の心電図同期 3D-FSE 差分法に おける描出能に対する初期検討として狭窄なしのフ ローファントムを用いたが,今後の課題として狭窄 ファントムでの検討も必要であると考える.また, MR 用造影剤注入装置を用いて流量を調節しているた め撮像時間に制限があり,フローファントムと健常人 ボランティアのスラブ数の設定に違いがある.ファン トムの各 ETL の dephasing 効果の結果とボランテイ アでの各 ETL の血管信号値の結果はおおよそ一致し ていたことから,ETL を高く設定することで RFA の 最小角は両者ともに低めに設定されていることなどが 考えられた.今回は k 空間充填法を Radial にて検討 を行っているが,他の k 空間充填方法を用いた場合で も,3D-SPACE のシーケンスは対象組織の信号強度が 保たれるように RFA の調整を行うと考えられ,ETL の増加にともない dephasing 効果が促進される可能性 が高いと考えられる.しかし,膝下三分枝に対する良 好な描出を得る ETL の数値に関しては,機器によっ て違いがあると推測され,適切な ETL の設定は使用 する機器による検討が必要であると考えられる. 4.結 語 本研究では,非造影下肢 MRA における膝下三分枝 の描出能の依存性に基づいて臨床に向けた ETL の最 適化の検討を行った.その結果,ETL の増加により 収縮期での dephasing 効果が促進され,ETL 70 を用 いることで膝下三分枝に対する描出能向上の可能性が 示唆された. 謝 辞 本研究において,多大なご協力をいただきました国 家公務員共済組合連合会舞鶴共済病院の放射線技術科 の皆様に深く感謝申し上げます. なお,本研究の一部は第 25 回欧州放射線学会(2019 年,ウイーン)において発表した. 利益相反 筆頭著者および共著者全員に開示すべき利益相反は ない.
1) Thomsen HS. Nephrogenic systemic fibrosis: a serious late adverse reaction to gadodiamide. Eur Radiol 2006; 16 (12): 2619-2621.
2) Kanda T, Ishii K, Kawaguchi H, et al. High signal intensity in the dentate nucleus and globus pallidus on unenhanced T1-weighted MR images: relationship with increasing cumulative dose of a gadolinium-based contrast material. Radiology 2014; 270(3): 834-841.
3) Wedeen VJ, Meuli RA, Edelman RR, et al. Projective imaging of pulsatile flow with magnetic resonance. Science 1985; 230 (4728): 946-948.
4) Miyazaki M, Sugiura S, Tateishi F, et al. Non-contrast-enhanced MR angiography using 3D ECG-synchronized half-Fourier fast spin echo. J Magn Reson Imaging 2000; 12(5):
776-783.
5) Fan Z, Sheehan J, Bi X, et al. 3D noncontrast MR angiography of the distal lower extremities using flow-sensitive dephasing (FSD)-prepared balanced SSFP. Magn Reson Med 2009; 62(6): 1523-1532.
6) Wheaton AJ, Miyazaki M. Non-contrast enhanced MR angiography: physical principles. J Magn Reson Imaging 2012; 36(2): 286-304.
7) Miyazaki M, Takai H, Sugiura S, et al. Peripheral MR angiography: separation of arteries from veins with flow-spoiled gradient pulses in electrocardiography-triggered three-dimensional half-Fourier fast spin-echo imaging. Radiology 2003; 227(3): 890-896.
8) Nakamura K, Miyazaki M, Kuroki K, et al.
698
enhanced peripheral MRA: technical optimization of flow-spoiled fresh blood imaging for screening peripheral arterial diseases. Magn Reson Med 2011; 65(2): 595-602.
9) Miyazaki M, Akahane M. Non-contrast enhanced MR angiography: established techniques. J Magn Reson Imaging 2012; 35(1): 1-19.
10) Hennig J. Multiecho imaging sequences with low refocusing flip angles. J Magn Reson 1988; 78(3): 397-407.
11) Le Roux P, Hinks RS. Stabilization of echo amplitudes in FSE sequences. Magn Reson Med 1993; 30(2): 183-190.
12) Alsop DC. The sensitivity of low flip angle RARE imaging. Magn Reson Med 1997; 37(2): 176-184.
13) Hennig J, Scheffler K. Easy improvement of signal-to-noise in RARE-sequences with low refocusing flip angles. Rapid acquisition with relaxation enhancement. Magn Reson Med 2000; 44(6): 983-985.
14) Yoneyama M, Nakamura M, Tabuchi T, et al. Optimization of 3D-variable refocusing flip angle RARE imaging for high-resolution volumetric black-blood angiography. Radiol Phys Technol 2012; 5(2): 270-276.
15) Fujimoto A, Aoba M, Machida Y, et al. Optimization of echo train length in radial trajectory non-contrast enhanced MR angiography of the calf. ECR2019/C-1992 2019; DOI : 10.26044/ecr2019/C-1992.
16) Zhang X, Petersen ET, Ghariq E, et al. In vivo blood T1
measurements at 1.5 T, 3 T, and 7 T. Magn Reson Med 2013; 70(4): 1082-1086.
17) Hattori K, Ikemoto Y, Ohno S, et al. Development of MRI phantom equivalent to human tissues for 3.0-T MRI. Med Phys
2013; 40(3): 032303.
18) Abràmoff MD, Magalhães PJ, Ram SJ. Image processing with ImageJ. Biophotonics Int 2004; 11(7): 36-42.
19) Haneder S, Attenberger UI, Riffel P, et al. Magnetic resonance angiography (MRA) of the calf station at 3.0 T: intraindividual comparison of non-enhanced ECG-gated flow-dependent MRA, continuous table movement MRA and time-resolved MRA. Eur Radiol 2011; 21(7): 1452-1461.
20) Knobloch G, Lauff MT, Hirsch S, et al. Nonenhanced magnetic resonance angiography (MRA) of the calf arteries at 3 Tesla: intraindividual comparison of 3D flow-dependent subtractive MRA and 2D flow-independent non-subtractive MRA. Eur Radiol 2016; 26(12): 4585-4594.
21) Kanda Y. Investigation of the freely available easy-to-use software 'EZR' for medical statistics. Bone Marrow Transplant 2013; 48(3): 452-458.
22) Aoba M, Fujimoto A, Aita K, et al. Investigation of measurement of signal intensity change along vessels in peripheral MR angiography, The 74th Annual Meeting of JSRT. 2018; 199.
23) Rauber AA, Kopsch F,小川鼎三 訳,人体解剖学.東京: 医学書院,1958.
24) 山﨑 良,打越将人,日浦之和,他.可変フリップ角を用 いた 3D-T2強調像(3D-SPACE)における コントラスト特
性の検討.日放技学誌 2011; 67(12): 1515-1522.
25) Busse RF, Hariharan H, Vu A, et al. Fast spin echo sequences with very long echo trains: design of variable refocusing flip angle schedules and generation of clinical T2contrast. Magn
Reson Med 2006; 55(5): 1030-1037.
問合先
〒141-8644 品川区大崎 1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー